『コープスパーティーBR』発売15周年記念トークイベントリポート。今井麻美さんと祁答院慎氏がいろいろな意味で背筋が凍るトークで軌跡をふり返る!

『コープスパーティーBR』発売15周年記念トークイベントリポート。今井麻美さんと祁答院慎氏がいろいろな意味で背筋が凍るトークで軌跡をふり返る!
 “幸せのサチコさん”という儀式に手を出したばかりに呪われた天神小学校へと迷い込んでしまった学生たちの凄絶な体験を描いたホラーアドベンチャーゲーム『コープスパーティー』。ドラマCDや実写映画など多数のメディア展開でもファンの背筋を凍てつかせてきた同シリーズだが、ブームの火付け役となったのがPSP(プレイステーション・ポータブル)向けタイトルとして2010年に発売された『コープスパーティー ブラッドカバー リピーティッドフィアー』(以下:『コープスパーティーBR』)だ。

 その発売15周年を記念して、“コープスパーティーBR 発売15周年記念イベント 天神小学校納涼祭2025年”を東京・秋葉原にあるヨドバシカメラマルチメディアAkibaにて8月8日より開催。

 8月23日(土)には、『コープスパーティー』シリーズの生みの親である原作者・祁答院慎(けどういん まこと)氏と、同シリーズで篠崎あゆみ役を演じる声優・今井麻美さんによるスペシャルトークイベントが開催された。ここではその模様をお届けしよう。
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一度はPSPを放り投げた、今井さんのコープス挑戦秘話

 『コープスパーティー』といえば(基本的には)おどろおどろしい雰囲気のタイトルだが、この日のトークショーは終始和やかな雰囲気。MCの今井さんも登壇してすぐに「みなさんといっしょにこの15年の歩みを……あっ、あゆみとかけたわけではないんですけど……」とひと笑いを取ると、呼び込まれて入ってきた祁答院氏も満面の笑顔。作風とは裏腹にメディアに出るときはいつも爽やかかつ穏やかな物腰で評判の祁答院氏だが、付き合いの長い今井さんとのトークショーということもあってか、この日もかなりリラックスしたたたずまいだった。
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 まずは作品のこれまでの歩みを振り返るコーナー。15年という歳月について祁答院氏は“あっという間”と感想を述べていたが、同作から関わることになった今井さんは“遥か彼方の昔に感じる”としみじみ語る。なお、この日の来場者にMCのおふたりが即席でアンケートを取ると、やはりPSP版の『コープスパーティーBR』から同作を知ったというユーザーが多く、また3DS版から入ったというユーザーもチラホラ。

 もともと『コープスパーティー』はRPGツクールDante98で作られたタイトルで、PSPでのコンシューマー化が決まったときは感動したとふり返る祁答院氏。ただ、同タイトルでは“保健室のシーン”に代表されるように、アクションゲームに近い操作を要求される場面があるため、かなり難しいと感じたとのこと。祁答院氏によるとホラーがあまり得意ではない今井さんは保健室のシーンどころか、もっと手前のシーンで音にビックリしてリビングのソファからPSPを放り投げたのだとか……。

 運よく投げた先にベッドがあって事なきを得たそうだが、それほどまでにホラーが苦手な今井さんは当時祁答院氏に“ホラーゲームに出演させた責任を持ってクリアーのコツを教えて!”と懇願。祁答院氏はそんな今井さんに対して「(より恐怖感が増すので)ヘッドホンで聞くといいですよ」と邪悪なアドバイスをしたそうだが、今井さんは逆にそのひと言で「ヘッドホンを外せば恐怖感が減る!」と気づき、ラストまでプレイすることができたそう。

 とはいえ、プレイに際する恐怖感は拭いきれなかったようで「世以子を探しに行くシーンで、トイレの個室の扉をどうしようか1時間迷いました。シナリオを読んでいて扉を開けなければいけないのはわかっているんですけど……それでも開けたくないんです!」と当時のやるせない心情を語り、会場の笑いを誘う。

エンディング後にあゆみをもっと不幸にする予定があった!?

 話題の中心軸は“今だから語れる制作の裏話”にシフトしていく。シリーズのなかでも異色のタイトルである『コープスパーティー -THE ANTHOLOGY- サチコの恋愛遊戯・Hysteric Birthday 2U』(2012年8月2日発売)については、さまざまな作家がアンソロジー形式でシナリオを手がけた意欲作ということもあり、祁答院氏も開口一番「いろいろなところで物議をかもしました」とコメント。

 たとえば、多彩なシナリオが魅力の作品のなかにはマルチメディアに活躍するライター・マフィア梶田氏が手掛けたシナリオなどは大きな注目を集めた。同シナリオでは中村悠一さん演じる岸沼良樹と杉田智和さん演じる刻命裕也がくんずほぐれつする濃厚なシーンがあるため、「あとでマフィアと祁答院は殴る!」と中村さんがぼやいていたというタレコミも飛び出し、会場は爆笑の渦に。

 2016年に公開された実写映画『
コープスパーティー Book of Shadows』については、アイドルグループ“乃木坂46”元メンバーの生駒里奈さんが主役を務めたことも話題に。今井さんは舞台挨拶やイベントなどでいっしょになったときに「本物のアイドルが横で前髪を直している! 私みたいなアイドルを演じているだけの人間じゃなくて本物のアイドルが!」と興奮を抑えきれなくなったことを吐露。
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 祁答院氏がシリーズのなかでもとくに思い入れが強いタイトルとして挙げたのが、PS Vita(プレイステーション ヴィータ)向けに発売されたシリーズ最終章『コープスパーティーBLOOD DRIVE』。本作では主人公が持田哲志から今井さん演じる篠崎あゆみにシフトするという展開があったのも記憶に新しい。祁答院氏によると、もともと男性キャラクターでは哲志、女性キャラクターでは中嶋直美を主人公に置いていたが、“勝手にキャラクターが主張を始めるケース”があるそうであゆみはそのひとつ。ほかの超人的な動きをしているキャラクターとは違ってあゆみは意図的に等身大で自分を重ねやすいこともあり、そういった配置転換を行なうに至ったという。

 今井さんは、主役級のキャラクターが主役に昇格することは声優としても喜ばしいことだと前置きをしつつも「祁答院さんの作品でセリフ量が増えると、イコール喉が枯れるんです!」と訴える。とくに選択肢で分岐するバッドエンドをまとめて録るタイミングになると、数日間にわたって延々と殺されて悲鳴を上げ続けなければならないのだとか。ここぞとばかりに恨み節を吐く今井さんだったが、主人公になったことで台本から物語を見渡せるようになった点についてはよかったとも振り返っていた。

 続いて飛び出したのが刻命裕也にまつわる裏話。名前が出た瞬間に今井さんから「刻命くんは本当に、もうっ!」という声が上がるほどに散々物語をかき回したキャラクターだ。同時に端正なビジュアルでも人気を集めているが、祁答院氏が脳内で描いていた段階ではイケメンにする予定はなく、どちらかといえば『コープスパーティー』の世界観にマッチするようなねっとり&しっとりしたビジュアルにしようと考えていたとのこと……。

 転機となったのはコンシューマー化のタイミング。イラストレーターからの提案を受けて現在のデザインになったそうで、今井さんはすかさずこのファインプレーを絶賛。たしかにイラストレーターのアイディアがなければ、刻命はここまでの人気キャラクターにはなっていなかったかもしれない(ちなみに刻命役の杉田さんはイケメンじゃないデザインのほうも好みと語っていたそう)。

 そして、さらなる裏話が『コープスパーティーBLOOD DRIVE』のエンディング後について。壮絶な運命を背負うあゆみを恋愛感情に紐づけてもう一段階落とす内容だったようで、あゆみはもちろん良樹もかわいそうな目に遭う内容だったとか。無情すぎるプランに「これ以上落とす気だったんですか?」と絶句する今井さんだったが、現実の色恋沙汰の難しさについて話すうちに徐々に肯定的になっていき、最後に「誰も幸せにならないのも嫌いじゃない……」とポツリ漏らす姿も印象的だった。

ホラークリエイター・祁答院慎のスタンスに迫る

 トークイベントも後半に差し掛かり、ここからは祁答院氏のシナリオ制作術に迫るコーナー。まず祁答院氏が重要視しているものとして挙げたのが派手さ――これはグロテスクな部分なども含めての派手さだという。そのうえでホラー映画などではカットされがちな“犠牲者の苦しみ”をしつこく描くことを重視し、ひどい目に遭った人はどんな苦しみになるのかを追体験してもらおうとしているのだとか……。

 「でも、内臓がぐちゃぐちゃする音とかいらなくないですか?」と今井さんも聞き返すが、「いやいや、そのあとに闇堕ちした良樹(キャラクター)の呻き声とか聴こえたら最高じゃないですか」と穏やかな表情で血も涙もないコメントをする祁答院氏。
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 そんな苛烈なアイディアを祁答院氏はどんなシチュエーションで執筆しているのか、気になった今井さんはすかさず質問(なお、今井さん自身は落ち着けそうな喫茶店を探してから作詞をしているそう)。すると、祁答院氏から返ってきたのは「明るいカフェで作業します」という衝撃の答え……。これには今井さんも「えっ、明るいカフェで!? 怖っ!」と反射的に漏らしてしまう。

 祁答院氏によると日常会話のある環境がむしろ大事なようで、たとえば学生たちが「このあと遊べるかな?」と話しているのを耳にしたときは「はたして遊べるかな?」などと内心思いつつも他愛のない会話のなかからヒントをもらっているという。

 ここまでユニークな創作活動をする祁答院氏の源流はどこなのか? 祁答院氏によると、ホラーに興味を持つようになったきっかけは、1981年にスプラッター・ホラーブームを巻き起こした映画
『死霊のはらわた』だという。6歳のころにこの映画に興味を示した祁答院少年だったが、年齢的にも観ることができないため、売店に行ってパンフレットを購入して親の目を盗んで愛読していたそう。まさに筋金入りのホラーファンだ。

 なお、パンフレットはベッドの下に隠していたそうで「思春期だとよくそういうことするじゃないですか」と笑う祁答院氏だったが、「6歳は思春期じゃないよ!」と切れ味鋭いツッコミを入れられる。
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 あまりに強烈なエピソードの連続に「作品のようなリアルな体験をしたくなったりはしなかったんですか?」と勇気を出して踏み込んだ質問をする今井さんだったが、これに対して祁答院氏は「安心してください。まったくないです!」と胸を張る。フィクションという形でほかでは見られないものを覗けるのが至上であり、中にリアルに入りたいという気持ちはないそうだ。この回答には今井さんも「15年間ずっと聞けなかったことが聞けてよかった」と安堵のため息を漏らしていた。

 作風とふだんの立ち居振る舞いとのギャップがものすごい祁答院氏だが、二重人格を疑われることもよくあるそう。祁答院氏もある意味ではそれを肯定し、「おそらく物語を書く作家は、生み出したキャラクターの数だけ人格が中に入っていると思います」と説明。

 創作時の脳内だけ別のキャラクターがその口調でしゃべりだすそうで、祁答院氏自身の人格は本人いわく“色がついていないボウフラ”のようなイメージなのだとか。「もしかしたらあゆみは僕に近いのかも……?」と語る祁答院氏だったが、「あゆみは絶対にないと思います!」と今井さんにバッサリ斬られていた。
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 ここで会場に集まったファンとの写真撮影を実施。撮影を終え、改めて祁答院氏は「ホラーなので惨たらしい描写をよくピックアップしていただくんですけど、“キャラクターが絶望に抗って希望に向かって突き進んでいく姿にエールをもらえました”というメッセージもたくさんいただいています。僕らはそのメッセージをエールにここまで来ることができました」と頭を下げる。

 コンテンツのアップデートも視野に15周年の先を進んでいけたらというメッセージも打ち出し、美しくあいさつを締めくくる祁答院氏。……しかし、それに待ったをかけたのが今井さん。「壁に貼っているの(キャラクタービジュアル)は新作ですよね? ふつう、なんか言うんじゃないですか!?」とすかさず詰め寄る。
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 もちろん、ラストの流れはひとつのお約束だが、祁答院氏からはしっかり『コープスパーティーII Darkness Distortion』の主題歌をFRAMさん、亜咲花さん、今井麻美さんの3名のアーティストが担当することが発表された。
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 オープニングテーマ『孤独のNirvana』はFRAMさん、エンディングテーマ『儚い連鎖』は亜咲花さん、グランドエンディングテーマ『光の両手』は今井麻美さんが歌唱。なお、オープニングテーマ『孤独のNirvana』では、今井麻美さんが作詞、FRAMさんが作曲を行っていることも明らかになった。最後に今井さんから『コープスパーティーII Darkness Distortion』にあゆみの出番はあるのかという質問もあったが、祁答院氏は「もちろん……言えません!」と沈黙。答えがわかるのは作品の発売後になりそうだ。
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 15年間積み重ねてきた歴史を振り返るというテーマはもちろん、話の内容も濃密。なにより今井さんと祁答院氏の軽妙な掛け合いがあまりに小気味よく、ファンにとっては至福のひと時となったであろう今回のトークイベント。今後もさまざまな展開が用意されている『コープスパーティー』から目が離せそうもない。
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 なお、“コープスパーティー BR 発売15周年記念イベント 天神小学校納涼祭 2025”は好評につき会期が延長されており、ヨドバシカメラマルチメディアAkibaにて2025年9月15日まで開催中。ぜひ足を運んでみてほしい。
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イベント後に行われた祁答院氏のサイン会の様子。
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