NHK『ゲーム×人類』ゲーム文化の光と闇の先にある、想像を超えた事象。『マイクラ』内に建設された無検閲図書館、『FF14』や『スト6』で人生が変わった瞬間

byソムタム田井

NHK『ゲーム×人類』ゲーム文化の光と闇の先にある、想像を超えた事象。『マイクラ』内に建設された無検閲図書館、『FF14』や『スト6』で人生が変わった瞬間
 ビデオゲームが誕生して半世紀。いまや娯楽の域を大きく超え、市場規模は29兆円、ゲーム人口は30億人にも達する。ゲームは私たちに何をもたらすのか? ゲームと人類の現在地を解き明かすテレビ番組・NHKスペシャル『ゲーム×人類』が2025年1月25日(土)~26日(日)の2夜連続で放送される。

 本番組は、これまでにNHKでゲーム教養番組
『ゲームゲノム』を手掛けてきたスタッフによる新たな番組だ。今回、放送に先駆け、同番組を手掛ける総合演出兼ディレクターの平元慎一郎氏にインタビューを実施。制作の経緯や番組内で使われているキーワードの意味、紹介されているタイトルの選定理由などを伺った。
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平元慎一郎ひらもと しんいちろう

NHK所属のディレクター。NHKスペシャル『ゲーム×人類』の総合演出を担当。『あさイチ』や『みんなで筋肉体操』などの番組制作に携わり、『ゲームゲノム』では企画の立ち上げを行う。番組のレギュラー化に伴い、総合演出も務めた。文中は平元。

ビジネス面と文化人類学の側面から、ゲームという文化を深掘り

――“NHKスペシャル ゲーム×人類”制作の経緯を教えてください。

平元 
僕たちのチームはこれまでに“ゲームゲノム”という、テレビゲームを文化として捉え、掘り下げて、その奥深さをお伝えする番組を作ってきました。その一方でゲーム業界だったり、今回のタイトルにもなっている、ゲームと人類の関係性を俯瞰して網羅的にお伝えするという、そういった着眼点の番組があってもいいんじゃないか? という思いもあって、こちらの番組を企画。NHKスペシャルという大きい枠組みのなかでそれを実現した……という流れになります。

 ゲーム×人類ということで、ゲームと人類の関係性を紐解く番組なんですけど、過去の出来事を歴史的な文脈として取り上げるのではなく、ゲームと人類の現在地だったり、その先にある未来を中心に描きたくて。国内外で起きているさまざまなエポックメイキングな出来事、事象、現象、そしてもちろんゲーム作品やクリエイター、プレイヤーの皆さんも取材対象として捉えて。世界中をめぐってロケをしてきた番組になっています。
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――パート1、パート2の2部構成ですが、それぞれどのような内容になっているのでしょう?
平元 
パート1は“30億人の熱狂と未来”というタイトルで、市場規模は29兆円を超え、プレイヤーの人口は30億人を超えていると言われているゲームというコンテンツについて、ビジネスの面から解き明かしていく構成になります。ゲーム業界やゲーム市場を調査して、いまゲームはどういった領域までパワーがおよんでいるのか……ということに迫っていきます。

 パート2は“変貌する人間と社会”というタイトルで、こちらは文化人類学的な側面からゲームを紐解いていく構成になります。ゲームのプレイ体験とは、人間の社会だったり、個人の生き方、人生に対して、どういった影響をおよぼす事象なのか? こちらの問いに概念ではなく、実際にあった出来事を例として挙げつつ解説していく番組になっています。
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――番組内で使われていた「ゲームは文化」という言葉が印象的でした。30代以上のゲーマーのなかには、幼少期に親や学校から“ゲームで遊ぶのは悪いこと”と言われていた人が多いと思うのですが、いまや大人もゲームをプレイするのは当たり前という時勢になりました。そうした世の中の流れについて、どのように思われますか?
平元 
世の中全体の流れについては、僕個人では何とも言えないところですが、うちのチームが標榜している「ゲームは文化だ」というキャッチフレーズには、ふたつの意味がありまして。

 まずひとつは、自身の実体験でもあるんですけど、“数あるエンターテインメントのひとつとして、ゲームはつねに身近な存在であった”ということ。僕は平成以降生まれのことを、勝手に“ゲームネイティブ世代”と呼んでいるんですけど、この世代は子どものころ、野球をしたり、ピアノを習ったり、勉強をがんばるのと同じ位置にゲームがあって。もちろん、暇つぶしに遊ぶ人も多かったと思いますが、僕個人としては、ゲームからすごくたくさんのことを教わったと思っているんです。
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――ゲームは勉強や習いごと、スポーツと同列にあったと。
平元 
僕は映画も音楽も小説も大好きで、そこから多くの感動をもらったり、いろんなことを学ばせてもらいました。そういったものと変わらない存在なんじゃないか……というのが、個人的ではありますが、僕のゲームに対する見解になります。

 このように、僕らの世代にとっては身近なエンターテインメントであったゲームですが、その裏には、ものすごい速さの“技術的な進歩”もあって。この半世紀でさまざまな方面に向けて、すさまじい速さで進化・発展してきたという歴史を鑑みても、ゲームはひとつのれっきとした文化だと言えるんじゃないか……ということで、そうした思いが番組制作の原動力にもなっているんです。

 そして、もうひとつの側面は、ゲームに対していいイメージを持たれていない方々にも、「たしかにゲームはひとつの文化だと言えるかも」と思っていただきたいという欲求ですね。実際にプレイするかどうかは別にして、ゲームとは本当に素敵なコンテンツであることをひとりでも多くの方にわかっていただきたくて。そのための情報をどんどん発信していきたいという思いを込めて、こちらのキャッチコピーを使っている次第です。
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紹介タイトルはゲームプレイの先にある“おもしろい事象”に注目して選定

――番組内では『ファイナルファンタジーXIV』、『ストリートファイター6』、『マインクラフト』などが題材として取り扱われていました。それらのタイトルを選ばれた理由を教えてください。

平元 
先ほど、ゲームと人類の関係について、俯瞰的かつ網羅的に紹介したいとお話ししましたが、そうはいっても現時点で話題になっているすべてのゲームを扱ったり、注目されている現象をすべてピックアップすることはできないので。どのようにして取材を進めるかは、企画を立ち上げたときからチーム内で何度も話し合った部分でした。

 その際、パート1はビジネスシーンや市場規模といった経済の面からゲームを掘り下げていく構成になっていますが、単純に売り上げが上位のタイトルだけをピックアップするやり方はやめようという話をしたんです。そうした情報なら誰でもすぐに調べられますからね。

 そうではなく、僕たちが作るのはあくまでもテレビ番組なので。まずは丁寧に取材をして、その先にどういった魅力的な現場があるのかを紹介することに意義がある。そして、それを語れる人だったり、そこで起こる事象を伝えることが重要なんだという認識で、取材先を探すところから始めました。その過程で、ゲームプレイの先におもしろい人や事象があるタイトルを見つけ出し、ピックアップさせていただいたというわけです。
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平元 
ファイナルファンタジーXIV』の場合は、ゲームのなかで知り合って交際にいたったカップルだったり、亡くなった友人の葬儀をゲームのなかで行った方などに取材をさせていただきました。『ストリートファイター6』では、eスポーツ大会が盛り上がっていて賞金がすごいといった話は、もう皆知っている出来事なので、そこには注力せず。そうした大会に参加することで人生が変わった方たちにクローズアップしています。

 そして『マインクラフト』では、国境なき記者団がゲーム内に建設した無検閲図書館に注目するなど、僕たちの想像を超える“ゲームと人類の関係性”を示してくれる方たちを探し出して、見せ方についてもしっかり考えたうえで取材をさせていただきました。
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――番組内ではもうひとつ、「ゲームは現実と地続き」という言葉も印象に残りました。こちらはどういう意味なのか、具体的に教えていただけますか?
平元 
ゲームはコントローラーを手にもって操作して、そこにダイレクトに反応が返ってくるエンターテインメントです。インタラクティブ性とも言われますが、アクションとリアクションを絶え間なく体験できるというのは没入感にもつながっていて。それがあるからこそ、RPGなら作品の世界観に浸ってものすごく感動したり、対戦格闘ゲームならなかなか勝てずに悔しい思いをしたり。さらに練習を重ねてライバルに勝利することで、ものすごい達成感が得られるなど、さまざまな感動を味わえるわけです。

 これはもう、ゲームのなかだけの出来事ではなく、モニターの前でコントローラを握っているプレイヤーも込みでのインタラクティブ体験となるので、仮想世界(ゲームのなかの世界)と現実世界は地続き=切り離せない関係にある……という認識です。

 こうした考えをベースにしつつ、「現実とゲームの垣根・境目はファジーなものになりつつある」だったり、「そもそもゲームと現実のあいだに境界線などなかった」など、さまざまなご意見も取り入れて、番組としてまとめました。
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海外の事象にも目を光らし、ゲームに関するネガティブな問題にも言及

――番組ではゲームの光と闇といいますか、いい面だけでなくネガティブな部分も紹介されていますね。そうした構成にされた意図をお聞きしたいです。

平元 
前提として、ゲームはここまで大きな市場になり、すごく身近な存在となった。いまやゲームを遊んだことがない人はいないんじゃないかという世の中になりましたが、だからこそより明確にゲームリテラシーが問われるようになったとも思うんです。もともとこちらの番組では、単純にゲームを礼賛するつもりはなくて。たとえばオンラインゲームのシステムが悪用されて、犯罪のツールとして使われているなど、そうしたネガティブな事象もきちんと紹介してこそ番組を作る意味はあるという認識です。

 とはいえ、ゲーム=悪かというと、そういうわけではなくて。あくまでも問題があるのは、それを使う人間の側なんですね。“ゲーム×人類”というタイトルで番組を制作する以上、そうした出来事もきちんと伝える責任があるので、海外で起きた犯罪の経緯もしっかりと取材し、そこへのゲームの関わりかたも紹介しています。

 ほかにもWHO(世界保健機関)が定義しているゲーム障害だったり、昨今話題になっているスマートフォンゲームの高額課金問題だったり。これらはまさにリテラシーの問題だと思うのですが、そこにも番組として「どう向き合うべきか」という見解を示しています。
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――貴重なお話、ありがとうございます。最後に読者の皆さんに向けてひと言お願いします。
平元 
くり返しになりますが、経済面において、いまやゲーム市場は目が離せない存在になっていますし、リテラシーの面でも、ゲームを悪用されないように、人とコンテンツの付き合い方にはいままで以上に目を光らせる必要があります。

 そして、こうしたふたつの側面では捉えきれないほど、ゲームおよびそれに関連したコンテンツは規模が拡大し、いまやゲームという言葉だけでは説明できないくらい、多種多様なものへと成長しています。いろいろお話ししましたが、けっきょくのところ、「こうした現象を知らずにいるなんてもったいないですよ!」という思いが強くて。とにかく情報を発信したいという衝動から番組制作に踏み切ったというのが正直なところです。

 今回のNHKスペシャルは、そうしたゲーム文化の一端に触れられる、驚きや発見、気づきがてんこ盛りの番組になっています。網羅的でありつつ、ひとつひとつのトピックは非常に刺激的で、驚きにあふれた事象であったり、魅力的なクリエイター、プレイヤーの方々をご紹介しているので、見て損はないはずです。

 ゲームが好きな方はもちろん、あまりゲームに触れてこなかった方にも楽しんでいただける番組になっていますので、ぜひ、パート1、パート2と続けてご覧いただけますと嬉しいです。NHKプラスで見逃し配信もしますので、リアルタイムでのご視聴が難しい場合はこちらをご利用ください。
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NHKスペシャル 「ゲーム×人類」

PART I 30億人の熱狂と未来
放送予定:2025年1月25日(土) [総合]22:00~22:49
PART II 変貌する人間と社会
放送予定:2025年1月26日(日) [総合]21:00~21:49

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