本番組は、これまでにNHKでゲーム教養番組『ゲームゲノム』を手掛けてきたスタッフによる新たな番組だ。今回、放送に先駆け、同番組を手掛ける総合演出兼ディレクターの平元慎一郎氏にインタビューを実施。制作の経緯や番組内で使われているキーワードの意味、紹介されているタイトルの選定理由などを伺った。
平元慎一郎(ひらもと しんいちろう)
NHK所属のディレクター。NHKスペシャル『ゲーム×人類』の総合演出を担当。『あさイチ』や『みんなで筋肉体操』などの番組制作に携わり、『ゲームゲノム』では企画の立ち上げを行う。番組のレギュラー化に伴い、総合演出も務めた。文中は平元。
ビジネス面と文化人類学の側面から、ゲームという文化を深掘り
ゲーム×人類ということで、ゲームと人類の関係性を紐解く番組なんですけど、過去の出来事を歴史的な文脈として取り上げるのではなく、ゲームと人類の現在地だったり、その先にある未来を中心に描きたくて。国内外で起きているさまざまなエポックメイキングな出来事、事象、現象、そしてもちろんゲーム作品やクリエイター、プレイヤーの皆さんも取材対象として捉えて。世界中をめぐってロケをしてきた番組になっています。
パート2は“変貌する人間と社会”というタイトルで、こちらは文化人類学的な側面からゲームを紐解いていく構成になります。ゲームのプレイ体験とは、人間の社会だったり、個人の生き方、人生に対して、どういった影響をおよぼす事象なのか? こちらの問いに概念ではなく、実際にあった出来事を例として挙げつつ解説していく番組になっています。
まずひとつは、自身の実体験でもあるんですけど、“数あるエンターテインメントのひとつとして、ゲームはつねに身近な存在であった”ということ。僕は平成以降生まれのことを、勝手に“ゲームネイティブ世代”と呼んでいるんですけど、この世代は子どものころ、野球をしたり、ピアノを習ったり、勉強をがんばるのと同じ位置にゲームがあって。もちろん、暇つぶしに遊ぶ人も多かったと思いますが、僕個人としては、ゲームからすごくたくさんのことを教わったと思っているんです。
このように、僕らの世代にとっては身近なエンターテインメントであったゲームですが、その裏には、ものすごい速さの“技術的な進歩”もあって。この半世紀でさまざまな方面に向けて、すさまじい速さで進化・発展してきたという歴史を鑑みても、ゲームはひとつのれっきとした文化だと言えるんじゃないか……ということで、そうした思いが番組制作の原動力にもなっているんです。
そして、もうひとつの側面は、ゲームに対していいイメージを持たれていない方々にも、「たしかにゲームはひとつの文化だと言えるかも」と思っていただきたいという欲求ですね。実際にプレイするかどうかは別にして、ゲームとは本当に素敵なコンテンツであることをひとりでも多くの方にわかっていただきたくて。そのための情報をどんどん発信していきたいという思いを込めて、こちらのキャッチコピーを使っている次第です。
紹介タイトルはゲームプレイの先にある“おもしろい事象”に注目して選定
その際、パート1はビジネスシーンや市場規模といった経済の面からゲームを掘り下げていく構成になっていますが、単純に売り上げが上位のタイトルだけをピックアップするやり方はやめようという話をしたんです。そうした情報なら誰でもすぐに調べられますからね。
そうではなく、僕たちが作るのはあくまでもテレビ番組なので。まずは丁寧に取材をして、その先にどういった魅力的な現場があるのかを紹介することに意義がある。そして、それを語れる人だったり、そこで起こる事象を伝えることが重要なんだという認識で、取材先を探すところから始めました。その過程で、ゲームプレイの先におもしろい人や事象があるタイトルを見つけ出し、ピックアップさせていただいたというわけです。
そして『マインクラフト』では、国境なき記者団がゲーム内に建設した無検閲図書館に注目するなど、僕たちの想像を超える“ゲームと人類の関係性”を示してくれる方たちを探し出して、見せ方についてもしっかり考えたうえで取材をさせていただきました。
これはもう、ゲームのなかだけの出来事ではなく、モニターの前でコントローラを握っているプレイヤーも込みでのインタラクティブ体験となるので、仮想世界(ゲームのなかの世界)と現実世界は地続き=切り離せない関係にある……という認識です。
こうした考えをベースにしつつ、「現実とゲームの垣根・境目はファジーなものになりつつある」だったり、「そもそもゲームと現実のあいだに境界線などなかった」など、さまざまなご意見も取り入れて、番組としてまとめました。
海外の事象にも目を光らし、ゲームに関するネガティブな問題にも言及
とはいえ、ゲーム=悪かというと、そういうわけではなくて。あくまでも問題があるのは、それを使う人間の側なんですね。“ゲーム×人類”というタイトルで番組を制作する以上、そうした出来事もきちんと伝える責任があるので、海外で起きた犯罪の経緯もしっかりと取材し、そこへのゲームの関わりかたも紹介しています。
ほかにもWHO(世界保健機関)が定義しているゲーム障害だったり、昨今話題になっているスマートフォンゲームの高額課金問題だったり。これらはまさにリテラシーの問題だと思うのですが、そこにも番組として「どう向き合うべきか」という見解を示しています。
そして、こうしたふたつの側面では捉えきれないほど、ゲームおよびそれに関連したコンテンツは規模が拡大し、いまやゲームという言葉だけでは説明できないくらい、多種多様なものへと成長しています。いろいろお話ししましたが、けっきょくのところ、「こうした現象を知らずにいるなんてもったいないですよ!」という思いが強くて。とにかく情報を発信したいという衝動から番組制作に踏み切ったというのが正直なところです。
今回のNHKスペシャルは、そうしたゲーム文化の一端に触れられる、驚きや発見、気づきがてんこ盛りの番組になっています。網羅的でありつつ、ひとつひとつのトピックは非常に刺激的で、驚きにあふれた事象であったり、魅力的なクリエイター、プレイヤーの方々をご紹介しているので、見て損はないはずです。
ゲームが好きな方はもちろん、あまりゲームに触れてこなかった方にも楽しんでいただける番組になっていますので、ぜひ、パート1、パート2と続けてご覧いただけますと嬉しいです。NHKプラスで見逃し配信もしますので、リアルタイムでのご視聴が難しい場合はこちらをご利用ください。
NHKスペシャル 「ゲーム×人類」
放送予定:2025年1月25日(土) [総合]22:00~22:49
PART II 変貌する人間と社会
放送予定:2025年1月26日(日) [総合]21:00~21:49