【ゲームゲノム】『信長の野望』回の特番は“つぎに進むための挑戦”。総合演出・平元氏が明かす大幅リニューアルの経緯と意図。TGSへの出展や新たな取り組みに関する話題も

【ゲームゲノム】『信長の野望』回の特番は“つぎに進むための挑戦”。総合演出・平元氏が明かす大幅リニューアルの経緯と意図。TGSへの出展や新たな取り組みに関する話題も
 テレビゲームを“文化”として捉え、古今東西の名作の魅力を深掘りするNHK初のゲーム教養番組『ゲームゲノム』。2021年にパイロット版として産声を上げたこの番組は、2022年に全10回の“シーズン1”、2024年にも全10回の “シーズン2”が放送され、ゲームファンを中心に着実に認知を広めてファンを増やしてきた。

 だが、総合演出を担当する平元慎一郎氏たち制作チームは、挑戦の手を緩めない。平元氏は、2024年8月13日に放送されたスペシャル回を“ゲームゲノムVer.2.0”と位置づけて、大幅なリニューアルを実施した。

 これまでの白を貴重としていたセットを一新し、黒で統一された高級感のあるスタジオに。さらにスタジオでのトークもMCの三浦大知さんとクリエイターに加えて、取り上げる作品のファンであるゲストの鼎談形式で行われていたが、今回からゲストには別途収録で作品の魅力を語ってもらい、スタジオでは三浦さんとクリエイターが1対1の対談形式でトークをくり広げたのだ。
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 この思い切った“決断”の裏には、どのようなドラマがあったのか。平元氏にインタビューを行った。本インタビューは番組だけではなく、平元氏自身に迫る内容や、
『ゲームゲノム』特番のネタバレも含んでいる。ネタバレが気になる方は、NHKプラス(総合テレビやEテレの番組を放送と同時に、また放送後の番組を7日間いつでも視聴できるサービス)の見逃し配信で番組をチェックしてからインタビューを読み進めてほしい。
※配信期間: 2024年8月13日22時45分~2024年8月20日23時14分

平元 慎一郎ヒラモト シンイチロウ

NHK所属のディレクター。『ゲームゲノム』総合演出、企画の立ち上げも行う。新たに小島秀夫監督と『ヒデラジ∞』を制作するなど、挑戦を続けている。文中は平元。

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シーズン2はNHKプラスでの視聴が増えた一方で新たな課題も浮き彫りに

――まずは2024年1月~3月に放送されたシーズン2のお話からうかがいます。改めて、シーズン2を振り返ってみていかがでしたか?

平元 
シーズン2は新作を10本放送しました。番組のコンセプトはこれまでと変わっていませんが、そのうえで新しいことにいろいろ挑戦しています。MMORPGの『ファイナルファンタジーXIV』や、アーケードゲームの『甲虫王者ムシキング』/『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』を取り上げたのも初めての試みでしたし、番組のイメージイラストを天野喜孝さん、副音声を2BRO.さんにお願いしたのも挑戦でした。イラストや副音声をきっかけに番組を観ていただき、いろいろな角度から楽しんでもらうことができたと手応えを感じていて、シーズン2もおもしろくできたのではないかと思います。

――天野さんや2BRO.さんを起用することで、より多くの人が番組を視聴するきっかけを作っていたように感じましたが、新たな視聴者が増えたという実感はあったと?

平元 
そうですね。天野喜孝さんのイメージイラストは相当なインパクトがあったと思いますし、番組のオープニングタイトルCGとしても使わせていただき、重厚感のようなものも増したと感じています。また、番組の公式X(旧Twitter)の投稿に対する反応を見ると、2BRO.さんのファンの方たちも番組を観てくださっているようでした。「ゲーム実況を見てゲームを楽しむ」というカルチャーが根付いて久しいので、ご覧いただいた皆さん全員が自分でゲームをプレイするわけではないと思いますが、番組を通してゲームの奥深さや幅の広さを感じてもらえたのかなという実感はあります。

――2BRO.さんの副音声は期待以上でしたか。

平元 
はい。番組を観ながら実況するのは、2BRO.さんたちにとっても初めての挑戦だったと思いますが、ふだんゲーム実況を行っているときと同じように、やさしい雰囲気で楽しそうに実況してくれました。3人に個性があって、詳しいゲームがそれぞれ違うところもバランスが取れていましたし、取り上げるゲームによって2BRO.さんたちと番組に化学反応が起こるのもおもしろかったですね。収録はいつも一発録りでしたが、僕たちスタッフも楽しみながら2BRO.さんたちの実況を聞いていました。

 副音声というテレビがこれまで持っていたひとつのチャンネルといいますか、機能を番組の実況という形で使えたのはすごくよかったと思います。いまはNHKプラスで番組を見返すこともできるので、テレビ放送はふつうに観て、NHKプラスで副音声を楽しむといったことも可能です。番組を違う角度で何度でも楽しんでいただけたという手応えを感じていますし、そういう意味では成功したと考えています。

――数字的にも、NHKプラスでの視聴数は伸びていたのですか?

平元 
具体的な数字はお話しできませんが、シーズン1と比べると、NHKプラスでの番組の視聴回数はかなり伸びました。2BRO.さんたちに副音声をお願いして、NHKプラスで見返す楽しみが増えたことはもちろん、公式Xを始めたことによる宣伝効果が大きかったと思います。デジタルのPRに強い後輩の池田大輝ディレクターが、『ゲームゲノム』専門のPR担当としてかなり計算して宣伝を行ってくれたので。

 NHKプラスでの視聴回数が増えた一方で、視聴率はシーズン1よりもちょっと苦戦しました。大前提として、シーズン2が本当におもしろかったのか。次回も観ようと思ってもらえるような番組になっていたのか。PRを含めて視聴者に届く形になっていたのか。こういったことをきちんと検証したうえで、結果を真摯に受け止めなければいけません。

 番組をおもしろくするための議論は今後も続けていきますが、テレビ離れが話題になっている中で、リアルタイムで視聴してもらうことの難しさも感じていて。とくに
『ゲームゲノム』を放送している平日(番組は毎週水曜日に放送)の23時台は、可処分時間の奪い合いが激しい時間帯になります。

――たしかに、SNSやYouTubeはもちろん、可処分時間としてはゲームのプレイもライバルになりますよね。

平元 
そうなんです。だからこそ、自分たちができることを精一杯やる。やれることは全部やってみるというところで、挑戦したシーズン2ではあったかなと思います。

――そんなシーズン2が終わって、スペシャル回の特番が放送されます。シーズン3ではなく、特番を放送することになった経緯を教えてください。

平元 
特番を制作することになった経緯は、シーズン2ではできなかった新しい挑戦をする。これに尽きます。その理由はふたつあって、“新しい挑戦をしなくてはいけなかった”ということと、僕たち自身“新しい挑戦をしたかった”からです。

 まず、“新しい挑戦をしなくてはいけなかった”という理由に関してですが、先ほどお伝えしたように、NHKプラスの視聴は好調だったうえに、Xのトレンドにも毎週入っていたので手応えは感じていたものの、残念ながら視聴率ではシーズン1を上回る結果にはなりませんでした。

 テレビ番組としてはやはり視聴率が大事な指標になるため、この結果を真摯に受け止めて、どうやったらもっと多くの人に番組を届けられるのか、どうやったらよりおもしろいと感じてもらえるのか、制作部署や編成部署のスタッフと話し合いを行いました。そして僕たちの目標を実現するためには、新しい挑戦をする必要がある。番組のコンセプトはそのままに、新しい
『ゲームゲノム』を作らなければいけないと考えました。

――なるほど。

平元 
もうひとつの“新しい挑戦をしたかった”からについては、前々から思っていたことでもあって、番組のコンセプトは大事にしつつも、演出方法や取り扱うタイトルを変えるなどして、新しいことに挑戦してきました。ただ、“新しい挑戦をしなくてはいけなくなった”のであれば、これまでできなかった“新しい挑戦をしよう”ということで、1本の特番に懸けて作ってみようと考えて企画提案をしました。言わば、今回の特番で“ゲームゲノムVer.2.0”を目指したわけです。

 そのために、番組を観ていただいているときの情報のわかりやすさや視聴者の気持ちの揺れ動き、あとは番組を観終わったときの読後感を意識しました。新しい挑戦をするからには、これらに変化を起こさなければいけません。番組内容を変えたことによって違和感を覚える可能性はありますが、違和感よりも好印象を与えられるように、いろいろなアイデアを出し合ってありとあらゆる検討を行いました。

――具体的には、どのように検討を進めたのですか?

平元 
新しい挑戦をするにあたって、最初に “何を変えないか”を丁寧に話し合って決めました。まず、変えないと決めたのは“番組のコンセプト”です。『ゲームゲノム』は、ゲームを“文化”として捉え、古今東西の名作の魅力を深掘りするNHK初のゲーム教養番組である。このコンセプトは絶対に変えない。

 そのうえで今後も「ゲームにはこんな魅力があるんだ、可能性があるんだ」ということを伝える、と。そのために番組でゲストの想いやクリエイターの開発秘話を披露していただく。あとは、プレイヤーである視聴者の皆さんが感じていることの一端を言語化したり、体系化したりしたゲーム体験を共感できる、もしくは反感できる読後感を大切にしていきたいと考えました。

 もうひとつ絶対に変えたくなかったのが、取り上げる“ゲームの説明をちゃんとする”ことです。そのゲームを知っている人にだけ届ける番組ではないので、いきなりマニアックな話をするのではなく、そもそもこのゲームは何がおもしろいのか、どういった理由で売れているのかを特番でも丁寧に説明しています。

 あとは、番組のレギュラー陣ですね。パイロット版から始まり、シーズン1、シーズン2と放送してきた中で、視聴者の皆さんにレギュラー陣のイメージがついていると思いますし、出演者の皆さんと
『ゲームゲノム』を作り上げてきたという自負もあるので、特番でもMCは三浦大知さん、ナレーションは神谷浩史さん、副音声は2BRO.さんに引き続き出演をお願いしています。ほかにも下村陽子さんのテーマ曲など、これまで積み上げてきた『ゲームゲノム』の大事な要素は変えていません。
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特番の『ゲームゲノム』で制作チームが挑戦したこと

――では、今回の特番で新しく挑戦したところは?

平元 
“ゲームゲノムVer.2.0”を目指して新たな挑戦を考える前に、視聴者の方たちから寄せられた意見に改めて目を通すことにしました。僕らの肌感覚でも感じていましたが、圧倒的に多かった意見は「クリエイターの話をもっと聞きたい」というものです。できることなら僕だってもっと聞きたいですし、番組でお伝えしたい。視聴者の期待に応えて、よりおもしろい番組にするには、クリエイターの話をさらに濃く、厚くすることが大事だと考えました。

 でも、僕たちが挑戦したいことと番組の構成には大きな矛盾がありまして……。そのゲームのことを理解したうえでクリエイターの話を聞くとおもしろいですし、こんなメッセージが込められていたんだと気づくこともできますが、番組には29分という決まった尺があります。これまでもゲームの説明はできるだけ短く、かつわかりやすくまとめてきたので、これ以上減らすのは難しい。そこで29分という限られた尺の中でゲームを説明する時間を担保しながら、より深くクリエイターの思考や真髄に迫るために、スタジオに文化人のゲストをお呼びするのをいったんやめることにしました。

――ゲストが減ったぶん、単純に三浦さんとクリエイターの話す時間が増えるというわけですね。それで出演者がMCの三浦さんとシブサワ・コウ氏のおふたりになったと。

平元 
これまではゲストを交えてクロストークを行い、ゲストの方の独自の視座を語ってもらいながらゲームの魅力を深掘っていましたが、特番ではあえて三浦さんとクリエイターの対談形式にしています。三浦さんにはMCというよりも、インタビュアーとして出演していただくイメージですね。VTRを受けて、視聴者の代わりに気になった点を三浦さんにどんどん質問してもらう。ゲストを減らしてでも対談形式にすることで、あまりステップを踏まずにクリエイターの深い話を聞いたり、人柄に迫ることができたりするのではないかと考えました。これがいちばん大きな変化であり、新たに挑戦したことになります。

――これまでの構成では、取り上げるゲームに詳しい役回りとしてスタジオのゲストがいたと思うんですが、ゲストの方を外してしまうと、これまでよりも三浦さんの負担が大きくなったとのではないかと思うのですが……。

平元 
三浦さんには、「『ゲームゲノム』は新たな挑戦を求められているし、僕らも挑戦したいと思っています」と考えをお話したうえで、「特番は(三浦さんとクリエイターの)一対一になります」と、理由とあわせてお伝えしました。

――三浦さんの反応はいかがでしたか?

平元 
まずは僕らの新たな挑戦に笑顔で話を聞いてくださって。改めて『ゲームゲノム』という番組を“いっしょに作っている”という共通認識というか、信頼関係も含めてこちらも安心させてもらった感じですね。ただ、三浦さんがもっとも気にしていたのは、番組での役割や立ち振る舞いの変化についてでした。三浦さんの問いに関しては丁寧に説明をしたうえで、僕らからお伝えしたのは、「三浦さんがインタビュアーとなって、とにかく深いところまで遠慮なく質問してください」ということです。

 このときセットの具体的なところまでは決まりきっていなかったのですが、クリエイターと一対一の対談形式になるのは決まっていました。三浦さんには「真正面で対談をしますし、ゲストに話題を振ることもできません。いわば三浦さんとクリエイターのサシの勝負です。僕たちはサシの勝負が生み出す緊張感を作りたいし、三浦さんにも緊張感を持って臨んでほしい」ともお願いしました。

――めちゃくちゃプレッシャーをかけますね(笑)。

平元 
はい(笑)。めちゃくちゃ緊張感のあるセットにすることも伝えたのですが、三浦さんは僕たちがやりたいこと、自分に求められていることをすぐに理解してくださり、「緊張感があるからこそ、クリエイターの方が話せるエピソードを引き出さなければいけない」という確認を取ることができました。

――そんな、いわば勝負とも言える特番で取り上げたのは『信長の野望』でした。いくつも候補があったと思うのですが、その中で『信長の野望』に決まった理由をお聞かせください。

平元 
これまでと同じように、番組で取り上げるゲームはいくつか候補を出してから選ぶようにしました。候補の中から『ゲームゲノム』として表現できるのか、新しい挑戦ができるのか、そしてクリエイターの話をこれまでよりも深く聞くことができるのか。これらの点を考慮して、今回は『信長の野望』を選ばせていただきました。

 核となるクリエイターのトークは、いろいろな掘り下げかたが考えられます。たとえば、ゲームをどのように捉えているのかお聞きしてもいいですし、これからのゲーム業界がどのように進化するのか展望を伺ってもいい。そんな中で、いまも現役のクリエイターとして第一線で活躍されているシブサワさんには、40年以上の歴史を持つ
『信長の野望』を絡めながら、紆余曲折あったクリエイターとしての半生や今後の野望を語っていただきたいと考えました。そうすることで、新しい挑戦がいい形で番組になるのではないかという確信を持ったんです。

――実際に収録を終えての手応えはいかがでしたか?

平元 
シブサワさんを筆頭に、『信長の野望』シリーズに携わるクリエイターの方たちに事前にたくさん取材を行っています。そのうえで、スタジオにご出演していただくシブサワさんには、VTRを見てから台本に沿う形でお話をいただきつつ、何か思い出したことや思いついたことがあれば、何でも自由にお話してくださいと伝えていました。そういった部分では、やはり番組の大きなスタンスは変わっていません。一方で、三浦さんとシブサワさんの一対一のやり取りになることで、話題がどんどん広がっていったという意味では、新しい挑戦がうまく機能したと思います。

 それに三浦さんの覚悟も感じましたね。三浦さんはセットを初めて見たとき、「緊張しますね」と言っていましたが、どんな現場でもワクワクして楽しむことを大事にされていると伺っていたので、僕たちは「今回も楽しんでください」という気持ちでスタジオに送り出しました。僕たちが期待していた以上に、三浦さんはシブサワさんと楽しくトークをくり広げてくれたので、これまでMCをしていた三浦さんとは違う新たな一面を見せてくれましたし、シブサワさんのお話を深く聞き出してくれたと手応えを感じています。

――黒を基調としたスタジオは、平元さんたちの狙い通り緊張感がありますが、スタジオのデザインはどのように考えたのですか?

平元 
これまでのスタジオは、白をベースに小道具などにもこだわっていて、全方位から楽しめるようにしていました。教養番組を謳っていますが、視聴者には肩肘を張らずに楽しんでもらいたかったので、小道具を見つけてゲームファンがニヤッとできるような、アットホームな雰囲気を目指していました。

 ですが今回の特番は、視聴者にちょっと前のめりになってほしいと考えて、ふたりの表情や感情の輪郭にグッと注目してもらえるように、黒を基調にして小道具もできるだけ減らしています。
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――スタジオを見学したときに、枯山水の考えを取り入れているとも伺いました。

平元 
じつはそれにも理由がありまして……。『ゲームゲノム』は、クリエイターの頭の中をどれだけのぞけるかがひとつのキモになる番組です。デザインチームと話し合う中で、ゲームクリエイターの頭の中はまるで宇宙のような広さと神秘性があるんじゃないか、という話になって。この宇宙というキーワードに加え、スタジオ制作のデザイナーが「今回の特番は“離れ”みたいな場所にしたい」とアイデアを出してくれて。これまでの『ゲームゲノム』が母屋だとすると、特番は“離れ”である。日本の庭園には配置にそれぞれ意味があって、ある種それは完成された世界というか、宇宙なんだと。そういった考えから、枯山水もスタジオのデザインに取り入れています。最終的には、造語も考えて「脳園を、離宮から眺める。」というコンセプトのもと新たなスタジオセットを考えていきました。

――そんな壮大な考えがあったとは……。今回、収録にも立ち会いましたが、収録時間はVTRを確認する時間も含めて2時間弱と、29分の番組にしては長く感じました。これまでの収録と比べていかがしたか?

平元 
今回の特番はいろいろな意味で“勝負の回”になるので、ふだんよりも収録時間を長めに取りました。クリエイターの話をより深く聞くために、一対一の対談形式にしていますが、本当に深く粘れるかどうかは、時間があってこそだとも思うので。これは結果論ですが、三浦さんとシブサワさんが楽しくトークを展開してくれたので、収録時間を長めに取っておいてよかったですね。

――収録時間が増えても、29分という尺は変わらないので、編集作業はたいへんだったと思いますが……。

平元 
もちろん、尺に収めるために泣く泣くカットしたおもしろいエピソードはたくさんありましたし、担当ディレクターのふたりも、ものすごく悩んだと思います。今回も綿密な取材をしていて、事前にシブサワさんのインタビューや著書を熟読したうえで取材に臨み、お話していただきたいことをお伝えしました。

 僕たちが語ってほしい情報に加えて、スタジオ収録で飛び出す情報やここだけの話といった、インプロビゼーション(即興)にも期待していて、そういった情報もできるだけ入れ込みたいと考えてはいますが、今回は新しい挑戦としてクリエイターの話をいままで以上に、一歩でも、たとえ半歩でも近づいて深く聞こうとしています。トーク部分は、番組のコンセプトをちゃんと伝えられているかどうかと、クリエイターの話をより深く聞けているかどうかで、取捨選択して構成するようにしてもらいました。

――収録では、平元さんがカンペを持ってスタジオを動き回る姿が印象的でした。カンペにはどのような指示を書いているのですか?

平元 
『ゲームゲノム』は、取材のときに出てきたキーワードに触れる流れで番組の構成を考えています。収録前にも、齟齬がないかも含めて構成やキーワードも打ち合わせで確認します。ですから出演者の皆さんもそのことがわかっているのですが、話の流れでキーワードが出ないままトークが進行することがあって。たとえば、「アレですね」と言われて出演者たちは理解していても、視聴者には伝わりませんよね。そんなときに、カンペに言葉にしてほしいワードだけ書いて伝えるようにしています。なので、まったくゼロというわけではありませんが、「こういう話をしてください!」といった“指示”のようなカンペを出すことは基本的にありませんね。

 今回の特番でいうと、
『信長の野望』のコマンドは、織田信長が実際に行ったと考えられるものをリストアップして、その中からコマンドにできそうなもの、ゲーム体験として実装すると楽しそうなものを選んだと、事前の取材でシブサワさんから伺っていました。番組内でもその話題に近くなっていったのですが、ほかのエピソードが広がってしまい、コマンドのトークが薄くなりそうだったので、シブサワさんに「信長がやったことをリストアップしたお話」とカンペを出して、改めて言葉にしていただきました。
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――テロップなどでフォローするのではなく、そのキーワードを出演者の方の口で出すほうがわかりやすくなる、ということですね。ゲームを紹介するVTRでは、戦国最弱の大名と言われる小田氏治を選んでプレイしていたのが印象的でした。小田氏治を選んでゲームの特徴を伝えようと思ったのは、どういった発想だったのでしょうか?

平元 
これは担当ディレクターたちが提案してくれた演出案ですね。特番を担当したディレクターはふたりいまして、ひとりは『ゲームゲノム』『甲虫王者ムシキング』/『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』と『It Takes Two』の回を担当した植木翔吾ディレクター。もうひとりは『パワフルプロ野球』の回を担当した島田嶺央ディレクターです。シミュレーションゲームは、ゲームの魅力や体験を通して得られる爽快感、達成感を伝えるのがほかのゲームと比べて難しいので、ふたりとも『信長の野望』をプレイしたことはなかったものの、これまでの経験と実績があったので、ふたりの実力を見込んでお願いすることにしました。

――え! 『信長の野望』を遊んだことがない方々が担当されたんですか。

平元 
はい。案のひとつとして企画を出してもらうときは、いわゆる“初見プレイ”状態でしたね。ただ、じつは企画や担当ディレクターを決めるとき、僕は総合演出として“ゲーム愛”よりも“テレビマンとしての実力”を重視しています。もちろんどちらも高いレベルであることに越したことはありませんが、大事なのは“おもしい番組を作れるかどうか”ですから。それはシーズン1も2も同様でした。もちろんふたりともゲームが大好きですし、これまでの『ゲームゲノム』でも取材を進めるにあたって常軌を逸するくらいゲームをやり込んでくれていたので、不安はありませんでした。ふたりには、『信長の野望』の魅力をどのように取捨選択して、どのような流れで伝えるのか。まずは要素を抽出するところから始めてもらいましたが、限られた取材期間の中でふたりが参考になったと言っていたのが、ゲーム実況者の方の配信や動画だったようです。

 ゲーム実況者の方たちはふつうにプレイするんではなく、やり込みだったり、おもしろい企画を考えたりしていますよね。ふたりが
『信長の野望』シリーズを配信している実況者をチェックする中で、多くの実況者が選んでいた大名が小田氏治だったんです。その理由を調べたところ、小田氏治は居城を9回も落城させたほど苦難の人生を歩んだ大名であると。ステータスなどで史実を反映している『信長の野望』でも、小田氏治で天下統一するのは相当たいへんですが、そのぶんやりごたえはあるので、多くのファンがチャレンジしているみたいです。

 ゲームのタイトルが
『信長の野望』なので、織田信長を選んで本能寺を生き延びた信長が天下統一を目指すところを紹介する形でもよかったのですが……。周囲を強い大名に囲まれた小田氏治のほうが、コマンドを駆使して過酷な戦国時代を生き抜くという本作ならではゲーム体験の神髄を伝えられると考えて、小田氏治を選ぶことにしました。それに、居城を落城させるたびに城を取り戻して城主に返り咲いたことから、“常陸の不死鳥(フェニックス)”という異名で呼ばれて愛されているのも、味があっていいですよね。

――小田氏治を選んでゲームの魅力を解説するVTRはとてもわかりやすかったです。それを『信長の野望』をやったことのない方が作ったというのは驚きました。

平元 
ふたりともゲームが得意なうえに『信長の野望』を何百時間もプレイしてくれていますし、『パワフルプロ野球』の担当ディレクターがいたことも助けになりました。『実況パワフルプロ野球』の栄光ナインはシミュレーション要素が強いのですが、この回で“シミュレーションゲームをドキュメンタリーとして見せる”ということを一度経験できていたので試写段階から手応えを感じていました。

 単純にゲームのシステムや魅力を説明するのではなく、ひとりの大名をちゃんと立て、それを仮想的・疑似的にプレイヤーと視聴者の目線に誘導するという感じですね。そのうえでゲームプレイと絡めながら大名の状況やシステムを紹介して、視聴者がどのように感じるのか。視聴者の心情をちゃんと考えながらドキュメンタリーとして作ってほしいと伝えました。そういう意味でも、小田氏治はうってつけの大名だったと思います。
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――番組のラストに向かって、小田氏治の野望が徐々に現実味を帯びていく構成もドラマチックでしたね。

平元 
じつは、番組の最後に流れるVTRの映像と文言は、試写のたびに変わっていったんです。「えっ、戦の場所が前と違うじゃん! ちょうど東西の真ん中……天下分かれ目っぽい!」とか(笑)。いちばん燃える展開になるように、ふたりのディレクターがゲームを進めたり、ときにはやり直したりしてデータを用意してくれて、最終的に小田氏治がどのような局面を迎えているのかは、ぜひ番組をチェックしてお楽しみいただければと思いますが、僕は『信長の野望』と小田氏治に対するふたりの愛と狂気を感じました(笑)。

――(笑)。今回の特番は、シブサワ氏のクリエイターとしての半生がしっかり紹介されていたこともあって、これまで以上にドキュメンタリーらしいおもしろさを感じました。これも狙い通りだったのでしょうか?

平元 
そのご感想はすごくうれしいですね。VTRを見てトークをくり広げる『ゲームゲノム』は、建前上はスタジオトーク番組ではありますが、僕はドキュメンタリーだと思って制作しています。VTRもドキュメントだと考えていて、先ほどわかりやすく『パワフルプロ野球』の栄光ナインや『信長の野望』の小田氏治を例に挙げましたが、ほかの回のVTRもプレイヤーが遊んでいるときの感情や頭の中で思い描いているイメージなどを、できるだけナレーションに入れるようにしています。

 そういう意味でもドキュメンタリーといいますか、ドキュメントタッチの番組として観てほしいという思いがあって。今回は思惑通り、ドキュメンタリーとして際立ったと感じていて、シブサワさんの半生を振り返ったうえで
『信長の野望』を見つめ直したことで、シブサワさんや『信長の野望』のすごさを再認識できました。特番での“新しい挑戦”として掲げた“クリエイターの考えや発想の源をより深く探る”という意味でも、あのドキュメンタリーパートが重要だったと考えています。それにプロデューサーの劉さん(劉迪氏)にもご登場いただくことで、『信長の野望』で受け継がれている部分、シブサワさんたちは“野望と野望のぶつかり合い”と表現していましたが、そういったところも紹介できたので、僕らが形にしたかった挑戦が十二分にできた回になったと思います。
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平元氏の挑戦は終わらない!? 東京ゲームショウの出展や新たな特番を制作中!

――特番の内容もいろいろとお伺いしましたが、今回のインタビューはそれだけでなく、平元さんにも迫る内容にしたいと考えています。改めてにはなりますが、これまで平元さんがNHKで担当された番組を教えてください。

平元 
僕は平成24年(2012年)入局です。ご存知の方もいるかと思いますが、NHKは職場が全国に点在していて、僕は名古屋局に配属されました。最初にディレクターとして担当したのは、地域の課題やがんばっている方たちなどを取材し、朝や夕方のニュースで放送する“5分リポート”でした。

 それを何本か担当した後、
『中学生日記』の終了後に立ち上がった『ティーンズプロジェクト フレ☆フレ』(夢に向かって挑戦する10代を主人公にしたドキュメンタリー番組)を担当することになり、2年ほど制作に携わっていました。それと『超絶凄ワザ!』(ある道を極めた職人や技術者に密着し、与えられたお題に対して完成度の高さを競い合うドキュメンタリー番組)の立ち上げから参加していて、番組のリニューアルにも関わっています。

 ほかにも、
『あさイチ』(朝の生活情報番組)で地方局参加の企画を担当したり、『新日本風土』(日本各地の美しい風土や暮らしを紹介する紀行番組)で知多半島を紹介したりしていました。

――名古屋局時代にいろいろな番組を担当されていたのですね。

平元 
それから2018年に東京へ異動になりましたが、着任初日に異動先の部長へ挨拶するときに、その流れでヒューマンドキュメンタリーのゲーム番組の企画書を提出するくらい、ゲーム番組を作りたいという思いが強かったです(笑)。

――いきなりですね(笑)。その企画は実現したのですか?

平元 
『ノーナレ 「ゲーマー夫婦 1/60秒の夫婦げんか」』という番組で放送されました。それは、プロゲーマーのももち・チョコブランカ夫妻に密着したドキュメンタリーで、取材期間は3ヵ月くらいだったと思いますが、密着という言葉では言い表せないほど、おふたりにずっと張りついていましたね。それからはまたゲームから離れて、『あさイチ』の企画や、武田真治さんたちが黙々と体操をする『みんなで筋肉体操』を手伝っていました。『みんなで筋肉体操』は、シーズン3から総合ディレクターとして、2年くらい番組のディレクションとブランディングを行ったり、リアルイベントや生放送特番など、さまざま展開をしていったという感じですね。

――『みんなで筋肉体操』も担当されていたのですね。では、初めて手掛けたゲームの番組は、『ノーナレ』だったんですか?

平元 
大きな番組としてはそうなのですが、異動が決まった後にちょっと時間ができたので、“5分リポート”で名古屋発のプロスポーツクラブ“名古屋OJA”さんを取材したことがあって。日本eスポーツリーグに“名古屋OJA”さんが参戦するということで、代表の方に密着してメンバー集めを行う姿や、スポンサーと契約を締結するところをカメラに撮らせてもらいました。こういった形で、ゲームを扱ったことは何回かありましたが、『ゲームゲノム』のようなレギュラー番組をやることは、上京してからしばらく経ってからも考えもしなかったですね。

――ゲームの番組を制作するということは、平元さんもゲームがお好きなんですよね?

平元 
ゲームは自分の人生において、ものすごく大切な存在です。

――平元さんのゲームの原体験として、最初にプレイしたゲームは覚えていますか?

平元 
おそらくですけど、スーパーファミコンの『スーパーマリオワールド』だったと思います。幼稚園、小学校に入ったころに、『スーパーマリオカート』を兄弟で遊んでいた記憶があって、父親は『三國志』シリーズをプレイしていましたね。それからハードがどんどん進化していったときに学生時代を過ごしていたので、本当にいろいろなゲームを遊んできました。

――なかなかひとつにしぼるのは難しいと思いますが、とくに心に残っているゲームは?

平元 
この質問が、今回の取材の中で答えるのがいちばん難しいと思いました(苦笑)。インタビューを受けると、とくに心に残っているゲームをよく聞かれるのですが、ふだんは『ファイナルファンタジーVII』や『ファイナルファンタジーVIII』の名前を挙げています。これらのゲームは僕の中でものすごく大きな存在で、おもしろさの次元を超えて、「ゲームはヤバい」ということを体感させてくれたタイトルでした。

 もちろん、それ以降もいろいろなタイトルに感動しているのですが、これまでお話ししていないタイトルだと、Xbox 360で発売された『
Halo:Reach』(『ヘイロー:リーチ』)が好きですね。僕はゲームがあまりうまくないので、オンラインでの対戦や協力プレイがメインの最近のFPS(一人称視点のシューティング)は気後れして遊んでいないのですが、『Halo』シリーズは大好きで全タイトルプレイしています。人類と宇宙生物の戦いが生々しいですし、当時のXboxのグラフィックが、いい意味で冷たい感じで淡々としていて、世界観にマッチしていました。シリーズの中でも、とくにお気に入りなのが『ヘイロー:リーチ』で、エンディングの演出は絶対にゲームでしかできない体験で感動しました。いまでもときどきプレイし直すタイトルですね。

 あとは、父親の影響で『
エイジ オブ エンパイア』シリーズもよく遊んでいました。いちばん好きなのは、『エイジ オブ エンパイア2』でしたね。これはいまでも父親に感謝しているのですが、うちにパソコンがあるにも関わらず、新しいパソコンとソフトを買ってくれたので、親子や兄弟で対戦が楽しめたんですよ。このシリーズを通して、シミュレーションやストラテジーの楽しさを知ることができました。父親には、一度も勝てませんでしたが(笑)。

――勝負のきびしさも教わったと(笑)。平元さんの家は、ゲームに寛容だったのですね。

平元 
そうですね。節度を守ってプレイしていれば、叱られることはなかったです。あっ、でも受験シーズンのときは電源コードを隠されたりもしました。まぁ、あるあるですよね(笑)。一方、父親が工学系の人間で、とくにテクノロジー分野の新しいモノ好きということもあって、新しいゲーム機やパソコンは買ってもらいやすかったです。ただ、プレイステーションといっしょに購入したゲームがなぜか『がんばれ森川君2号』で、僕はこのゲームでプログラミングの概念を叩き込まれましたが、難しくて挫折しました(苦笑)。

――(笑)。そうなると、ゲームから受けた影響はやはり大きいですか?

平元 
大きいですが、ゲームがいちばんというつもりはなくて。僕はゲームのほかに映画や音楽も好きなので、比べることはできません。それぞれ魅力がある中で、ゲームを通して勇気をもらったり、ビックリしたり、感動したりした経験は数え切れないほどあります。でも、やはりゲームにしかないエンターテインメント体験があるのも間違いないと思っています。
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――ゲームが大好きだからこそ、『ゲームゲノム』が誕生につながったと思いますが、NHK初のゲーム教養番組は、どのような考えから生まれたのか教えてください。

平元 
音楽や映画、本の魅力や作者を掘り下げる番組はあるのに、ゲームにはほとんどありませんよね。「なんでゲームにはないんだろう?」と思ったのが、『ゲームゲノム』の最初の発想だったと思います。僕は番組を通して、「単純にゲームはおもしろいよね。このゲームを作った人はこんなことを考えているから、こんなおもしろい作品が生まれてくるんだな」ということを伝えたいと考えました。

――こうして『ゲームゲノム』が誕生するわけですが、NHK局内での反応はいかがでしょうか?

平元 
どうなんですかね……。自局のことなので僕からはなかなか答えにくいのですが(苦笑)、SNSなどの反響を客観的に見ても、NHKは「お堅い番組が多い」と言われている中で、比較的若い世代の方たちにも視聴していただいているという自負はあります。ただ、僕としては『ゲームゲノム』はいい意味でお堅い番組として作っているつもりです。

――テレビ業界に詳しくない視聴者としての所感になりますが、パイロット版からスタートしてシーズン2まで放送するくらいはNHK内でも一定の評価はあって。一方、毎回のようにXのトレンドに入ったりと、新しい形式の番組ということもあり、NHK内でも評価が分かれる未知のものに思われているのではないかと思ったのですか……? それもあって、シーズン3ではなく特番なのかと考えていました。

平元 
自分でもそういった分析がちゃんとできているといいんですが……(苦笑)。ただ、特番後の展開はわかりませんが、レギュラーではなく、シーズン制で制作するというスタイルは個人的にいいなと考えていて。というのも、『ゲームゲノム』のスタイルで年中毎週放送になると、正直時間的に制作が追いつかなくなる可能性が高いですし、それに伴って我々が求める高いクオリティーを担保できなくなるかもしれません。また、多忙を極める三浦さんのスケジュールを押さえることも難しくなってしまいます。それにレギュラーではなく、視聴者に忘れられないタイミングでクオリティーの高い番組を放送したほうが、映像コンテンツとしてIP(知的財産)を育てるうえでは、いい形なのではないかと思います。

――なるほど。あとはNHKプラスのアーカイブの期限がもうちょっと長かったり、いつでも観られるとうれしいなと思いました……。

平元 
そうですよね。そこはもちろん僕の職務の範疇ではないのですが、完全に同意します(笑)。貴重なご意見として担当部署にお伝えさせていただきます。

――ゲームに関する番組という意味では、3月から小島秀夫監督の『ヒデラジ∞』も始められました。こちらはどういう経緯で実現したのでしょうか?

平元 
小島監督はトーク……つまり音声だけでも多種多様な文化の魅力を語れる方だと思います。ゲームだけではなく、さまざまなカルチャーにも精通しているので、オールカルチャーについて小島監督とリスナーが共有できれば、おもしろい番組ができると考えていました。きっかけは小島監督がXで「ラジオをまたやりたい」とつぶやかれていたので、「応援してます。できればお手伝いしたいくらいです」と返したところ、すぐに「じゃあ、やりましょう!」って(笑)。

――世界中の人がやり取りを見ていますし、小島監督本人に言われたら実現させるしかないですね(笑)。

平元 
とても光栄でしたし、先ほどお話ししたように、小島監督とならおもしろいラジオ番組が作れると考えていたので、Xでのやり取りの翌日には企画書をまとめてプロデューサーに相談しました。当時は『ゲームゲノム』を作りながら、『ヒデラジ∞』の制作も進めていましたね。ただ、僕の個人的なテレビマンとしての考えかたなんですが、“有名な方とタッグを組める”という前提だけで番組を作りたくなくて。企画は練りに練って、改めて編成や小島監督に「新しくておもしろいことをやります」と具体的な案を持っていって実現した感じですね。

――『ヒデラジ∞』の手応えは?

平元 
手前味噌ですが、とてもおもしろいものになったと思っています。今後も続けていきたいですが、『ヒデラジ∞』『ゲームゲノム』と同じく、本邦初公開の情報はなくていいと考えていて。クロストークをしている中で自然に生まれる会話が番組の持ち味になると思いますし、小島監督がいまオススメしたい映画や音楽、小説などをシェアしたり、ゲストの方たちの個性が出たりすることで、紹介する作品がもっと輝いて見える時間を作っていきたいです。

――平元さんたち映像側のスタッフが、NHKラジオの番組を担当するというのはよくあることなのでしょうか?

平元 
珍しいことではありますが、前例がないわけではなく、今回のように担当することもありますね。僕はラジオ番組を作ったことはありませんでしたが、番組の媒体に関係なく、新しいことを思いついたら、すぐに企画書をまとめて……いい意味でプロデューサーを困らせるのが僕の仕事だと思っています。「平元がまた新しいことやろうと言い出してる」って(笑)。

――なるほど(笑)。私たちから見る限り、平元さんはNHKの中でもかなりの異端児に見えるのですが、ご自身ではどのようにお考えですか?

平元 
NHKに限らず民放さんやネットメディアなど、尖った企画を実現しているプロデューサーやディレクターはたくさんいますし、彼らと比較すると自分はまだまだなので……。自分を異端児であるとは思いませんが、“異端児でありたい”とはつねづね考えています。そう考えて行動することが僕のようなそこらへんのどこの馬の骨ともわからないテレビマンが番組を作っていい条件、という感じでしょうか。もう強迫観念ですね(笑)。僕はふつうの人間なので、そのままふつうに番組を作ったらふつうの番組になってしまうという怖さや自信のなさがずっとあるんです。だったら、せめて出来得る限りアウトサイドに自分を持っていく。それでおもしろい番組が作れるかというとそんな簡単な世界ではないですが、精一杯やりたいなとは思っています。

 視聴者におもしろい番組を届けるために新しい挑戦をしたり、それをきちんと届けるためにこうして取材を受けたり、
『ヒデラジ∞』のようにものすごく早く動いたりすることにはこだわっていますが、それ以外に関してはほかのディレクターとは変わらないんじゃないかな……と。テレビマンは、魂を懸けておもしろい番組を作るのが最低限の存在意義だと考えているので。それは理想論で言えば、全員そうなんだと思います。

 ただ、僕のことを知らない人からすると、派手なかっこうをしていますし、「総合演出」というほかの番組にはない肩書を名乗っていて、なぜかラジオ番組を作っているので、何者なんだろうと思われているかもしれません(苦笑)。だからといって反発があったり、揶揄されたりすることはないので、NHKは寛容な組織なんだと思います。

――平元さんとしては、今後も新しいことに挑戦していきたいとお考えですか?

平元 
もちろんです。僕は『ゲームゲノム』を作り続けていきたいですが、番組を続けること自体も新しい挑戦だと考えています。『ゲームゲノム』は、テレビ業界全体で見ても新しいコンテンツなので、しばらく続けないと視聴者にとって本当によかったのか判断できないと思いますし、僕自身、新しい番組を作ってみたものの、それがいい挑戦だったのかどうか、わからないままになってしまうので。

 ただし、
『ゲームゲノム』を続けるにしても、同じ番組を作り続けるだけではダメだと思います。今回の特番のように、コンセプトなどの『ゲームゲノム』のコアとなる部分は残しつつも、新しいことに挑戦し続けていきたいですね。

――『ゲームゲノム』以外についてはいかがでしょうか?

平元 
すでに発表させていただいていますが、“NHK×ゲーム”として、『ゲームゲノム』のチームで東京ゲームショウ2024にブースを出展します。『ゲームゲノム』セットの一部だったり、番組にまつわる設定資料の展示がメインですが、さらにはそこでしか体験できない仕掛けも考えています。あとは、ゲームをテーマにしたほかの番組のPRもしますので、NHKがゲームに向き合ういろいろなスタンスを見てもらえるような内容になります。僕もブースに立つ予定ですし、それ以外にもまだ発表していないこともあるので、ぜひ続報をチェックしてもらって、ご来場いただけるとうれしいですね。

――どんなブースになるのか楽しみです。

平元 
それともうひとつ。まだ詳細は発表できないのですが、『ゲームゲノム』のスタッフを中心としたチームで、『ゲームゲノム』とは異なる番組を制作中です。伏字になって大変恐縮なのですが、NHKがずっと力を入れて続けている『●●●●●●●●』です。

――おお!

平元 
テーマはざっくりいうと“ゲーム×人類”といったところでしょうか。僕が総合演出を務めてプロデュースやブランディングをします。そして担当ディレクターたちはこれから取材とロケで海外を飛び回ることになると思います(笑)。放送日時なども調整中ですが、今年度(2025年3月まで)に放送予定ですので、こちらもご期待いただければ。

――最後に読者に向けて一言お願いします。

平元 
すでに今回の『ゲームゲノム』の特番「決断で拓く新時代~信長の野望~」をご覧いただいた方々に感謝を伝えたいです。そして、まだご覧いただけていない方は、ぜひともNHKプラスでチェックしてほしいですね。間違いなくおもしろい番組になったと自信を持って言える内容になっています。この記事が出るころには、おそらく配信期間が6日か5日を切っていると思うので早めにご確認ください(笑)。

 あとは今回のインタビューでお話ししたように、
『ゲームゲノム』チームの新たな挑戦はまだまだ続けていきますし、毎回必ずワクワク・ドキドキするコンテンツを提供することをお約束します。そのもっと先……たとえば『ゲームゲノム』の“次”の展開については、やはり視聴者の皆さんの反応がすべてだと思っていますので、さまざまな形で応援をいただければとてもありがたいです。テレビはともすると一方通行なメディアですが、その分僕らは皆さんに全力投球します。ぜひ、これからも受け取っていただけたらうれしいです。
※配信期間: 2024年8月13日22時45分~2024年8月20日23時14分
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集計期間: 2025年04月30日21時〜2025年04月30日22時