このふたりがタッグを組んだ『FANTASIAN Neo Dimension』は王道のファンタジーRPGとなっており、さまざまな魅力に満ち溢れている。個性的な登場人物たちが織り成す、多次元世界を舞台にしたストーリー。“エイミング”や“チェンジ”、“ディメンジョン・システム”といったシステムが実現した、戦略性の高いバトル。そして、実際に作成されたジオラマを取り込んだフィールドが生み出す、唯一無二のあたたかな冒険……。
坂口博信(さかぐち・ひろのぶ)
ミストウォーカーCEO。『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親であり、『ブルードラゴン』、『ロストオデッセイ』、『ラストストーリー』、『テラバトル』など多数の作品を手掛ける。2021年4月(前編)から8月(後編)にかけてオリジナル版となる『FANTASIAN』をApple Arcadeにて配信。『FANTASIAN Neo Dimension』ではプロデューサーを務める。
そこで、「もし自分の引退作を作るとしたら、カッコつけずに素直な気持ちで自分なりのゲームを作ったほうがいいんだろうな」と思ったことが『FANTASIAN』につながりました。ですから、ゼロから「こういった作品を作ろうと思った」のではなく、『FFVI』の延長線上に『FANTASIAN』があるということになります。
――それが理由なのか、当時に『FFVI』で感じたあたたかさが、『FANTASIAN』にはあると思いました。
そう考えながらゲームを作り続けた結果、いまの時代になっても、その感覚は残ったままだったのかな……と。どのような道筋を描いても、最後はあたたかいものがプレイヤーの心に残ること、これは僕にとって外せないのかもしれません。
――こちらもいろいろなところでお話しされていると思いますが、『FANTASIAN Neo Dimension』がスクウェア・エニックスから発売されることになった経緯を教えてください。
――それが初対面だった、と。
そこから、先ほどお話しした東京ゲームショウでの対談企画が立ったとき、「『FFXIV』を遊ばないのは失礼だろう」と、ハマることを覚悟してプレイを始めたのですが、ご存じの通り、もうズブズブになりまして(笑)。
そこから吉Pとは、ある意味でひとりの『FFXIV』ファンというか、『FFXIV』を作った人とご飯を食べられるのが楽しくて、ちょくちょく会っていました。その中であるとき、吉Pに「『FANTASIAN』の家庭用ハード版が発売できないだろうか」と相談したのが『Neo Dimension』の発端です。
その独占期間が終わったタイミングで、たまたま吉Pに相談できたのは大きかったですね。相談するタイミングを狙っていたわけではなく、ファンとしてただ『FFXIV』を遊びまくっていただけなのに、自分のゲームが吉Pにつながったのは不思議ではあります(笑)。
とはいえ、吉Pもスクウェア・エニックスの一員ですから、個人の考えだけではプロジェクトは始動できません。しっかりと社内でプレイや市場調査なども重ね、そこからスクウェア・エニックス内部の許可を得て、きちんと企画として成り立つことになりました。
吉Pをはじめとするスクウェア・エニックスの方々が判断し、「ぜひやりましょう」となったときは、とてもうれしかったです。
ただ、やはり吉Pとのつながりのおかげで、そういった不安も消えていったと思います。ひとりの『FFXIV』ファンとして「やった、吉Pに自分のタイトルを売ってもらえる!」ともなりました(笑)。
これがもしスクウェア・エニックスのほかの部署から出るのだったら、踏みとどまっていたかもしれません。それだけ吉Pとクリエイティブスタジオ3に対する信頼は大きかったですね。
――『Neo Dimension』の注目ポイントのひとつに、多岐に渡るマルチプラットフォーム展開がありますが、これはスクウェア・エニックス側が決めたのでしょうか?
――スクウェア・エニックスから発売されること、複数のプラットフォームに対応することについて、ミストウォーカーのスタッフはどのような反応がありましたか?
――Nintendo Switchはもちろん、Xboxでも発売されるのを知ったときは「ああ、世界を狙っているんだ」と思いました。
任天堂さんのハードであるNintendo Switchでも発売できることが、とてもうれしくて。やはり任天堂は自分をクリエイターにしてくれた存在ですから。それにもちろんプレイステーションも本当にひさしぶりで、やはり『FFVII』のころを思い出して感慨深いです。
いろいろな想いを振り返りつつ、iOSに対応する作品が引退作と考えていたのに、結果としてあらゆるプラットフォームで発売することが『FANTASIAN』の終着点になった。僕としては『Neo Dimension』でよりフィナーレを迎える感覚が強まりましたが、以前もお話ししたように、これで最後ではなく新作を作っています(笑)。
また、オリジナル版はデバイスによっては画面比率が大きく違い、ほぼ正方形に近かったり、はたまた横に長くなったりしていたので、それぞれに対応する必要がありましたが、本作は基本16:9の画角で統一できました。
その美学を壊したくないので、あえてオリジナル版を残しました。フィールドに関しては、オリジナル版はゲームデータを最適な容量にするために解像度を下げる必要があったのですが、今回はPS5版とXbox Series X版、Steam版で4K解像度に対応しています。ジオラマで作られた風景を、より高精細な画質で楽しめるようになりました。
――高解像度になることによって、見えなかったジオラマの粗なども目立ってしまうのでは? と思うのですが……。
だからこそウズラ号の中身を見せたくて「実際に爆破しよう」と考えましたが、すごい勢いで止められてしまいました。でも、そのおかげで東京ゲームショウ2024のブースにウズラ号のジオラマを飾ることができたので、やらなくてよかったですね(笑)。
ウズラ号の中身#たまには大切なFANTASIANをつぶやこう https://t.co/RgBOT1Tyb3 pic.twitter.com/o80w8BtIXJ
— 坂口博信 (@auuo) July 5, 2024
『テラウォーズ』のような、クレイモデルをゲームに取り入れるアイデアも実現していますから、ジオラマに角度をつけて撮影してゲーム内に取り込み、その上に3DCGのキャラクターを歩かせるという企画を作り込んでいったのが始まりですね。
そんなときにミストウォーカーのスタッフが、とある撮影手法を探してきてくれました。実際に試したところ、その方法がうまくハマったんです。そこからスキャンしたデータと撮影した写真を組み合わせる、『FANTASIAN』のスタイルが生まれました。これが成功していなかったら、いまの状況はあり得なかったでしょう。
企画をスタッフに見せたときは「これが本当におもしろくなるのか?」と不安がっていた印象がありますし、かなり実験的なスタートとなったので「うまくいかないかも」といった声もありましたが、結果的にはうまくいきました。
そもそも、視点が回り込むようにしてカメラが切り替わるのも、中村が作った“発明”でした。『FANTASIAN』の制作の中で、たくさんの新たな手法が生まれているんです。
――ちなみに、ジオラマ職人の方々は『Neo Dimension』の発表に対してどういった感想を語られていましたか?
『#FANTASIAN Neo Dimension』のジオラマの制作現場をご紹介!
— FANTASIAN Neo Dimension(ファンタジアン ネオディメンジョン) (@Fantasian_JP) November 30, 2024
2020年、隠し宝箱の位置も丁寧に調整され、最終形に近づいていた【辺境の街エン】新市街のようすです。
💎予約受付中💎https://t.co/auaCcDOaas#FANTASIAN_ND #ファンタジアン pic.twitter.com/vIXdqDR1X8
昔からそういった主義でゲームを作ってきたのですが、実際にボイスに対応したシーンを観て、「これはとてもいいぞ」となりました。『Neo Dimension』を自分でプレイして、話の内容はすべて把握しているのに、新鮮な気持ちで『FANTASIAN』をもう一度遊ぶことができたんです。声優さんたちの演技もすばらしくて、ボイスを採用してよかったと思っています。
もちろん、エンタメ作品としてプレイヤーたちが楽しめるゲームにすることはプロとして大前提にあるのですが、最後くらいは骨太なゲームに寄ってもいいんじゃないか、と。主要な開発スタッフも攻略できたので、そのままリリースしてみたところ、プレイヤーから「後半はエグい」という声が寄せられて、「これはエンタメ作品としてよくなかったな」と反省しました。
今回は多くのプレイヤーに楽しんでほしいという目標がありましたから、元来の“エンタメ作品のプロ”としての気持ちに徹しました(笑)。
ミストウォーカーのスタッフにこのアイデアを話したら「何を言っているんですか!?」と驚かれましたが、植松さんに相談したら「おもしろいじゃん」と言ってくれて。さっそく裏では北瀬(スクウェア・エニックスの北瀬佳範氏。『FFVII』リメイクプロジェクトプロデューサーなどを担当)に「『FFVII』の曲もなんとかできないかな?」ってこっそり聞いたりしました(笑)。
そこから正式に吉Pに相談した結果、『FFXIV』の曲を流す許諾をいただきました。そうしたら欲が出たのか、次第に欲しい楽曲が増えていって(笑)。『FF ピクセルリマスター』や『FFXVI』の曲も採用できるように、スクウェア・エニックスさんが動いてくれました。
『 #FANTASIAN Neo Dimension』では、バトルのBGMを #ファイナルファンタジー シリーズとのコラボレーションBGMに変更することが可能です✨
— FANTASIAN Neo Dimension(ファンタジアン ネオディメンジョン) (@Fantasian_JP) October 26, 2024
『 #FFピクセルリマスター 』のコラボレーションBGMをご紹介!
💎予約受付中💎https://t.co/auaCcDOaas #ファンタジアン pic.twitter.com/urfqIdI1hV
また、これは小さなネタですが、ゲーム内で見られるキノコ鍋のレシピは、行きつけのお店を採用しています。本作は実在するジオラマの世界ですが、じつはレシピも実在するものなんです。
――先ほどもおっしゃっていましたが、いまは新作も制作されているんですよね。
『FANTASIAN』の開発を通して、すばらしいチームとゲームを作っていたいという気持ちが湧き上がりましたし、何より「このチームから離れたくないな」という思いが、新作に結び付きました。ゲームの制作には苦しさもありますが、それよりも楽しさのほうが上回っています。ゲーム制作そのものが、余生の楽しみにつながったと言いますか(笑)。気持ちのいいスタッフたちと、新しいゲームをいつかお届けできればと思います。
――最後にお聞きしてもいいですか? 東京ゲームショウ2024のステージでもお祝いされていましたが、坂口さんにお孫さんが生まれました。お子さんやお孫さんが生まれたことは、ゲームクリエイターとしての坂口さんに何かしらの影響を与えたのでしょうか?
――ということは、新作のプロットはできているのですか?
ちなみに、植松さんが「初孫誕生の記念にプレゼントを贈りたい」と言ってくれたので、『FF』の楽曲の譜面サインを書いてほしいとお願いしたら、「いや、お孫さんのために新曲を作る。歌詞も付ける」と言ってくれて。ですから、植松さんは現在、僕の孫のために新曲を制作してくれています。もしかしたら新作に孫の歌が収録されるかもしれませんね。プレイヤーは聴いてもわからないとは思いますが(笑)。
――新曲も楽しみにしています(笑)。ありがとうございました!