2024年12月5日にスクウェア・エニックスよりNintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、Xbox Series X|S、PC(Steam)向けに発売された『FANTASIAN Neo Dimension』(ファンタジアン ネオディメンジョン)。
本作は、ミストウォーカーの坂口博信氏がプロデューサーを、数々のゲーム音楽を手掛ける作曲家・植松伸夫氏が音楽を担当するという、黄金のタッグが生み出した王道のファンタジーRPGです。物語の冒頭をプレイできる体験版も配信が始まり、話題となっています。
話は変わります。『ドラゴンクエスト』(以下、『DQ』)シリーズ生みの親である堀井雄二氏と、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズの生みの親である坂口博信氏。おふたりが、日本においてRPGの礎を築き上げたレジェンドクリエイターであることに、異論がある人はいないでしょう。
2024年11月14日にスクウェア・エニックスより発売されたHD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、『DQIII』)の特別企画では、『DQIII』をクリアーした坂口氏が堀井氏に気になるポイントを直撃する、スペシャルな対談をお届けしました。
※『DQIII』対談はファミ通.com関連記事をチェック! そして今回……『FANTASIAN Neo Dimension』をクリアーした堀井氏が、気になったところを坂口氏にお聞きするという、『DQIII』対談とは逆の立場での対談が実現!
しかも、『DQIII』対談はハワイにいる坂口氏と東京の堀井氏をオンラインでつないだ形になりましたが、今回は直接のご対面となりました。
『FANTASIAN Neo Dimension』に関する話題はもちろん、おふたりがRPGで大事にされていることにまで展開した本対談。『FANTASIAN Neo Dimension』プレイヤーに『DQIII』プレイヤーだけでなく、『FF』ファンや『DQ』ファン、全RPGファン必読です!
坂口博信 氏(さかぐち ひろのぶ)
ミストウォーカーCEO。『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親であり、『ブルードラゴン』、『ロストオデッセイ』、『ラストストーリー』、『テラバトル』など多数の作品を手掛ける。2024年12月5日にプロデューサーを務める『FANTASIAN Neo Dimension』が発売。
堀井雄二 氏(ほりい ゆうじ)
ゲームデザイナー。1986年、シリーズ第1作目となる『ドラゴンクエスト』を発表。その3作目となる『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、さまざまな社会現象を引き起こすほどの大ヒットとなり、以後、つねにゲーム業界の第一線で活躍を続ける。
――HD-2D版『DQIII』の特別企画では、堀井さんとハワイにいる坂口さんをオンラインでつないで対談を実施させていただきました。その際、坂口さんは『DQIII』をメモを取りながらクリアーされて……。
坂口
まだまだお聞きしたいことはたくさんあったのですが、時間が来てしまって(笑)。
堀井
『FANTASIAN Neo Dimension』、クリアーしましたよ。Nintendo Switch版を60時間以上は遊びました。
坂口
おお、ありがとうございます! 『DQIII』より長いですよね。
堀井
ええ、なかなかたいへんでした(笑)。少し先を急いでクリアーしたのですが、すごく盛りだくさんで。サイドクエストなどを含めたら、100時間はかかりますよね。
坂口
堀井さんがプレイされているところの写真を撮りたかったですね(笑)。
――『FANTASIAN Neo Dimension』にはいろいろなトピックスがあるのですが、まずはジオラマのフィールドからお聞きしたいな、と。
堀井
ジオラマ、すごかったですね。全部作られたんですよね。
坂口
はい、全部で150点以上は作りました。保管場所を確保するのもたいへんでした(笑)。
堀井
どれくらいの大きさなんですか?
坂口
大小さまざまですが、レオアの部屋などは小さめですね。
堀井
部屋もジオラマなのですか?
坂口
はい。細かい家具までひとつひとつ作っています。いちばん大きなジオラマは街ですね。縦横で2メートルくらいはありました。
堀井
街のジオラマはよかったですね。とくに“水の都 ベンス”が好きです。あれはベニス(イタリアの都市)ですよね。
坂口
はい、そこはもう『DQIII』のマップが現実世界をモチーフにしているのと同じ形で(笑)。
――以前にファミ通で、ゲームで使用されたジオラマをプレゼントさせていただいたことがあるのですが、その際に拝見したジオラマがとにかく繊細に作り込まれていて、驚いたんですよね。
堀井
そんなことをやっていたんですか? 応募すればよかった(笑)。
――パーツも椅子や机、本、植木鉢などにも分かれていて、相当な数でした。
堀井
細かいパーツを組み合わせて大きな舞台を作るのも、ジオラマの醍醐味ですよね。しかし、これをゲームに取り込んだんですか?
坂口
組み立てたジオラマの写真を、1点につき300枚から400枚ほど撮影しました。画像のデータを取り込むと、合成して3DCGを作成する“フォトメトリックステレオ”という技術があるんです。もともとは街などを空撮して3Dマップを作るためのものらしいのですが、それを活用しました。
堀井
どうやってあのゲーム画面を作っているのか、不思議に思っていました。
坂口
3Dスキャンではうまく行かなかったんです。簡単に言ってしまえば、プロジェクションマッピングのような形で、写真を3Dモデルに投影している形ですね。
だから、見た目はジオラマの写真なのですが、3Dモデルの上をキャラクターが歩いているように見えるわけです。
堀井
それはすごいですね。視点が自動で切り替わって、グルっとジオラマが回ったところに宝箱があったりして。ジオラマの細かいところまで見ることができるのは、ユニークでした。
坂口
宝箱は大事なので、ジオラマを隅々まで見てくれた人へのプレゼントのような意味もあって、宝箱を置いたりしました。『FF』でもそうだったのですが、宝箱を置くことは『DQ』シリーズからの影響が強いんです。
堀井
そうなんですか?
坂口
たとえばお店のカウンターがあって、向こうには行けないようになっている。でも、カウンターの中に宝箱がある。そこでお店の裏に回って入ると宝箱を開けることができたりします。
あのアイテムの置きかたは『DQ』シリーズの影響がありますね。『FANTASIAN』でも最初の街に置いていますから。
堀井
その宝箱、見つけましたよ。しかも、お店で 「こっちに入るな」と追い出される(笑)。
坂口
あれはもう『DQ』です(笑)。“辺境の街 エン”の旧市街にある井戸もチェックするとアイテムが手に入るのですが、これも『DQ』です。
堀井
それは気づきませんでした。中にも入れるのですか?
坂口
最初は井戸をチェックする仕様にはなっていなくて、「いや、井戸は調べるでしょう!」と。そこで、井戸の中にも入れるようにしたいと話していたのですが、プログラマーが井戸の中に3Dダンジョンを作りまして(笑)。
さすがに、最初の街で井戸に入ったら3Dダンジョンが広がっているというのはやりすぎじゃないか? ということで、井戸の中には入れないのですが、チェックするとアイテムが入手できるようにしました。
――井戸もそうですが、やはり部屋に入って家具を調べるのは『DQ』流ですよね。『FANTASIAN』でも、いろいろな所にアイテムが隠されていますから。ちなみに、堀井さんは模型がお好きなんですよね?
堀井
ジオラマは大好きですね。鉄道模型や帆船模型も好きなので、すごく楽しめました。だからこそわかるのですが、あのジオラマを作るのは相当たいへんですよね。
坂口
そうですね。部屋くらいのサイズだと1ヵ月、大きなものだとひとつにつき3ヵ月くらいは必要でしたね。とくに“ウズラ号”は完成するまで半年近くかかりました。
堀井
ウズラ号も作っているんですね。内部はジオラマだろうとは思っていましたが。
坂口
全部作っています。しかも、船としての構造も再現しています。
実際の船には浸水を防ぐ隔壁があるのですが、そこまで作っているんです。ゲームでは見えないのに、ですよ(笑)。作成してくれたジオラマ職人さんが「ちゃんとした船を作るならこうしないとダメ」と言って。
堀井
それはすごいこだわりですね。外側を開けて中をのぞけたらおもしろそう。
坂口
最終的にはがっつりとパーツを組んで完成させたので、開けられないんですよね。でも、断面図が本当に美しくて。
堀井
中身まできっちり作られていましたよね。デッキに出られたり、診療室やスイートの個室も作り込まれていて。
――坂口さんはそんなウズラ号を爆破しようと思ったこともあったそうですが。
坂口
爆発って、なんか楽しいじゃないですか(笑)。さすがに半年もかけて制作した美しいジオラマだから……と止められました。でも、とあるシーンではジオラマをリアルに爆発させて撮影しています。
堀井
みんなで逃げるシーンがありましたね。本当に爆発しているのですか?
坂口
スタジオを借りて、プロの方にお願いしてジオラマに爆薬を仕込んで、爆発させました。それを高速カメラで撮って、スローモーションで再生しているんです。
堀井
爆発にすごくこだわっていますね(笑)。
坂口
1回しかできないし、破片が変な形で散らばるとすごく変な映像になりかねないので、かなり慎重に進めました。みんなで見守りながら爆発したら、ちょうどいいサイズの大きな欠片が目の前に飛んできて「やったぞ!」となりました(笑)。
堀井
ジオラマだけでも、相当な予算がかかってそうですね。
坂口
予算面の話ですか(笑)。いや、大きな声では言えませんが、たいへんではありました。
ただ、そこまで無茶苦茶なものではありません。CGで制作するのと単純に比較できない面もあり、自動生成などCGは使いかたで変わるものなので。ジオラマの制作には時間はかかりますが、CGと比べてジオラマのほうが予算が高いということはないと思います。
――ジオラマの爆破などは、CGよりもたいへんだったのでは?
坂口
CGのほうがスムーズかもしれません。実際の爆破でたいへんなのは許可取りです。まずは消防署の許可を取り、スプリンクラーなどの防火設備が完備されている専用の場所を用意して、火薬を取り扱う免許を持っている人にお願いして……と。
しかも爆破のプロは、きれいに爆散するようにジオラマのあちこちに刻みを入れるんです。そこが腕の見せ所だそうで。穴を開けて爆薬を仕込み、導火線をつないで点火するという。この流れがいちばんたいへんでした。
堀井
ジオラマはひとつひとつが手作りですし、ポリゴンみたいな嘘はつけないから、気はつかいますよね。
坂口
CGなら、ここの裏は見えないから作らなくていいよ、ということがジオラマではできませんから。
――その熱意が独特の世界観につながっているのでしょうね。坂口さんがジオラマの中で好きなものをひとつ選ぶとしたら、どこになりますか?
坂口
場所と言うよりは“死械球”が好きなんです。あの白い球がいっぱい並んでいるのがいいんですよね。
――中には、ジオラマならではの工夫も施されていると伺いました。
坂口
トイボックスに向かう道中の迷路が青いライトで照らされているんですけど、あれはCGではなく、青色の豆電球をジオラマに入れているんです。
堀井
あれはCGじゃない?
坂口
そうなんですよ。そうしてほしいとジオラマ職人さんに頼んだわけではありません。そうしたほうがいいから、という理由で制作してくれました。
ほかにも、最初の工場でタワーみたいな部分にガラスが付いているのですが、あれもジオラマ職人さんがガラス工房へ行って、専用のガラスパーツを吹きガラス職人といっしょにひとつひとつ作っています。それこそ『ウルトラマン』や『ゴジラ』のような特撮作品に参加されていたり、Nゲージの制作に特化されていたりと、いろいろなプロが参加してくれました。
堀井
ジオラマは凝りだすときりがありませんし、そのプロの想いは確かに伝わってきますね。
坂口
ジオラマでゲームのフィールドを作ること自体が初めてで、いろいろ見えていなかったということも、逆によかったのかもしれません。最初から、あれほどの数のジオラマを作ることが物理的にどれだけたいへんなのかをわかっていたら、挑戦していなかったと思います(笑)。
堀井
そもそもジオラマにしようと思ったきっかけは何ですか?
坂口
レゴとかガンプラが好きなこともあるのですが、自分の部屋にあるジオラマを見ていて、「この中を歩けたらおもしろそうだな」と思ったことですね。
『FFVII』のときと手法は似ているんですよ。CGで作ってはいますが、当時の技術ではCGの中をグリグリと歩けなかったので、プリレンダリングしていちおう階層をつけて、止め絵にしたところを歩かせたんです。だから、手法としては『FFVII』に戻るような意味合いもありました。
――ウズラ号で多次元世界を移動できるようになるのですが、あの解放感は『DQIII』で船を入手したときと同じ感覚でした。
堀井
確かに同じかもしれません。
坂口
そこは『DQIII』に似ていますね。
堀井
いろいろ回っているうちに「こんなところにこんなものがあったんだ」とか「こんなエピソードが隠されていたんだ」と気づくような。
坂口
ありますね。やっぱりRPGは探索する楽しさは大事なので。
堀井
移動で言えば、かなり細かい場所までワープできるのはよかったですね。すごく便利でした。
坂口
『DQ』シリーズの“ルーラ”と同じで、一度行ったことがある場所にしか行けないのですが、いろいろと行き来することが多いので、かなり細かい場所にも移動できるようにしました。
じつは『FF』を作っていたとき、やっぱりルーラ的なものは禁じ手と思っていたんですよ。あれがあると『DQ』になってしまうし、やはり『FF』では『DQ』とは違うRPGを作ろうと意識していたんです。でも、もう30年以上は経っているし、『FANTASIAN』にはルーラ的なものを入れようと(笑)。
「おじいちゃんの家にクエストがあるなら、そこまで飛べるようにしちゃえ」というくらい、詳細な場所までポイントを設定しました。
堀井
いわば“詳細ルーラ”だ。
坂口
そう言っていいかもしれません(笑)。
――前半でゲームシステムを把握していって、後半でその知識を応用するという流れはいかがでしたか?
堀井
前半はチュートリアルで、ストーリーに沿って進めれば、後半は自由にどこでも行けるというのは、やはりおもしろかったですね。
ちょっとゲームを進めると、クエストのリストが確認できるようになりますよね。あれはすごく便利でした。クリアーしているのか進行中なのかもわかりますし、場所によってはすぐにワープで移動できるので。
坂口
メニューの“ストーリー”から“クエスト”をチェックすると、クエストのある場所までワープできるので、遊びやすいと思います。
坂口
もうひとつ、マップを開くと移動ポイントに赤いピンが立っています。そこを選択して“移動”を押すと、キャラクターがその場所まで自動で移動するんですよ。
堀井
それは気づかなかった。実際に歩いているような感覚になるんですね。
坂口
操作まわりはコントローラーでのプレイに合わせて調整しているのですが、PCでキーボードとマウスを使って遊んでも楽しめるように作り直しています。そこも本作のポイントです。
――ストーリーはいかがでしたか? HD-2D版『DQIII』の対談でもおっしゃっていましたが、おふたりが大事にされている、あたたかみのある物語となっていると思いましたが。
堀井
そうですね。けっこう哲学的な要素もありましたね。混沌と秩序であったり、エントロピーであったり。少し『ゼルダ』っぽさも感じました。
坂口
エントロピー増大の法則ですね。その法則によれば世界は混沌に向かうのに、生命は秩序そのものであるという。
しかし、混沌の世界をゲームで表現するのは苦労しました。「デザインはどうするんだ」みたいな。でも、最後は雪景色に赤い異物があるような、本作ならではのものにできたのではないでしょうか。
堀井
驚いたのは、後半ではわりと早めにボス戦が入るんだな、というところでしたね。それでレベルが足りなくてボコボコにされたりして(笑)。
坂口
とくに後半は、すべてのボスと戦わなくとも先に進めるのですが、レベル帯が合っていれば戦えると思います。でも、 それなりにアイテムを揃えたりして、戦略を立てないと難しい場合もありますね。
堀井
いろいろなボスも出てきますし、ボスに限らずさまざまな敵が出てきますが、歯応えのある相手が多くて。1回全滅して、対策を考えてもう1回挑戦するというのは、よくありました。
いちばん印象に残っているのは“カオス・ボア”でしたね。最初に倒されたときに毒対策が必須なことがわかって、毒無効装備の“ローズクオーツ”を手に入れるために、壺みたいなやつ(“フウニー”。特定のアイテムを提供し、一定のダメージを与えることで、別のアイテムを生成してくれる敵)にアイテムを渡して、3人ぶんを用意して……。
――確かにカオス・ボア戦は、初見はキツいですよね。
坂口
ローズクオーツは宝箱から入手して、ひとりに装備させれば何とか立て直しできるのですが、3人に装備させられたら楽勝ですね。ずいぶんやり込んでいただけて、うれしいです(笑)。
――あのフウニーには悩まされることも多かったですね。ある程度アイテムを渡すと、上位アイテムの生成に挑戦するか聞かれて、さらにアイテムやダメージを与えるのですが……。
堀井
フウニーは時間がかかり過ぎると怒るので、超強くなって全滅させられると(笑)。
堀井
本当に戦闘は歯応えのあるものが多くて、戦闘が好きなプレイヤーにはたまらないと思います。ちゃんとアイテムを活用しなければならないので、宝箱も全部調べてアイテムや宝石を集めて、いろいろと対策を練って……。1回倒されても、またすぐにチャレンジできるので。
坂口
堀井さんが最後まで楽しんでプレイしていただけたのだから、皆さんにも楽しんでいただけるでしょう。大丈夫ですよね、堀井さん?
堀井
大丈夫です(笑)。がっちりゲームを楽しみたい人には、本当にいいゲームだと思います。
――スキルの軌道を操作して敵を巻き込むバトルシステムも、戦略性を高める要素となっています。
堀井
軌道を動かして、「このラインならいちばん多く敵を倒せるな」と考えたりするのがおもしろいですよね。
100体の魚と戦うときなどは、範囲攻撃でまとめて倒せる方法を考えていくうちに、急に敵が減る瞬間があって、そこが気持ちよかったです。
坂口
適当にやっていても攻撃は当たるんですけど、なんかくやしくなりますよね。1匹でも多く攻撃を当てたくなる。“ディメンジョンシステム”はどうでしたか?
堀井
いいシステムですよね。30体の敵をまとめて倒せるのは便利なのですが、けっこうたいへんな目に遭うこともありました。
坂口
あれ、クエストをクリアーすると50体まで溜められるんですよ。
堀井
クエストは見つけたのですが、今回は挑戦できませんでした。しかし、50体となるとすごそうですね。
坂口
再行動や攻撃力アップなどをうまく活かせば、すんなりとは行きませんが、レベルアップなどにつなげられます。
堀井
ディメンジョンシステムは便利なのですが、あまりにも慣れてしまって、最後のほうの中央神殿でディメンジョンシステムが使えなくなったときは、「こんなにたいへんだったっけ?」と思っちゃいましたね(笑)。
――そもそも坂口さんがディメンジョンシステムを導入した狙いは何でしょうか?
坂口
テストプレイでジオラマのフィールドをチェックしていたんですね。そのとき当然、敵とエンカウントするじゃないですか。それでもフィールドを歩いて進んでいく必要がある。そこで「エンカウントするのはもう嫌だ。なくしちゃおう」となりまして(笑)。
さすがにそれは無理だけど、ちょっと考えてみましょうか、という話になりまして。そこが始まりですね。せっかくジオラマを歩くのが楽しいゲームなので、長い時間をストレスなく歩ける方法を考えて、ディメンジョンシステムという形に落ち着きました。
――エンカウントがなかったらウォーキングシミュレーターになってしまいますからね。堀井さんは印象に残った敵はいますか?
堀井
先ほど話したカオス・ボアもそうなのですが、シャングリラの聖域に出てくる“鹿”はとにかく強かったですね。
坂口
“ガーディアン”ですね。天候で属性を変えてくるので、“天候変化装置”を切り換える必要があるのですが、攻撃しすぎると壊れちゃう。アイテムを使うといいのですが、攻略法に気づかないとなかなか難しいかもしれません。
堀井
あと、自爆する子分を引き連れたボスも苦労しました。少しでも攻撃が当たると自爆する敵が、ボスの周りにいつもいるという……。
坂口
“メカ・ガルラマッシュ”ですね。自爆が一発でも当たるとヤバくなるので。
――ラスボスはどうでした? ちょっとネタバレになるかもしれませんが、形態が変わって進化していくので、倒すまでに時間がかかったのでは。
堀井
あれは……1時間くらいかかりました。
坂口
「すみません」というのも変ですね(笑)。防御も組み込まないと苦しくなって、アタックをメインに立ち回るとなかなか勝てない。
堀井
僕はけっこう攻撃したい人なので、やっぱり何回か全滅しましたね。回復をしながら、「ここだ!」というタイミングで一気に攻めて、なんとか倒せました。
――キャラクターごとの性能の個性がはっきりしているので、そのうちに自然と役割が決まっていく印象があります。
堀井
“チェンジ”で入れ換えられるのもおもしろいですね。しかもターンを消費しないし、ウェイトターン制なので、「このスキルならいいのか、あのアイテムを使えばいいか」と、ゆっくり考えられる。これで戦闘の戦略性が高まっていると思います。
坂口
HPが減ったら、まだ戦闘に出していない仲間と入れ換えて1回耐えて……。活用法はさまざまですから。もしリアルタイム制だったら、さすがにボス戦は無理です(笑)。
堀井
真剣に戦わないと勝てないから、考える余地があるのはいいですね。
坂口
戦闘している堀井さんの後ろ姿を見守りたかったです(笑)。
堀井
楽にレベルアップできて、ボス戦は手応えがあるというゲームは好きです。フィールドを歩き回りながら、ディメンジョンシステムは28体くらいが溜まったら挑戦して……30体が溜まって急にディメンジョンバトルが始まるのは嫌なんですよ。
坂口
そうなんですね。なんかそれを聞けてうれしい(笑)。
堀井
強敵の前にはセーブポイントがあるので、覚悟もできるので安心しました。
坂口
『FFIII』でご意見をいただいた記憶があるので、今回は用意しました。安心して立ち向かい、失敗したらいったん戻って、戦略を練って……と遊べるようにしたかったので。
――後半になると成長マップが開放されて、カスタマイズの幅も広がるので、そこも戦略に組み込まれます。
堀井
僕はとにかく火力を上げるほうに成長させちゃうんですよ。どこかでまんべんなく成長させたほうがいいとはわかっているのですが(笑)。
でも、スキルパネルを使った成長方法は好きですね。最後にあのスキルが欲しい場合はどのルートで開放していけばいいのか、自分が目指すべき指標がパッとわかるところが楽しいと思います。
――何度もプレイされている坂口さんにとって、お気に入りのボスは?
坂口
やっぱり、いちばん時間をかけたラスボスです。
――“ケロロン”も忘れられないボスでした。
坂口
ケロロンをデザインしたのは僕なので、好きというよりは「これは坂口がデザインしたんですよ」ということを強調していきたいですね(笑)。
――ボスもデザインはもちろん、攻撃のギミックも多彩で、これだけの数をよく作ったな、と思います。
坂口
バトルディレクターの井上(井上雅仁氏)と、ディレクターの中村(中村拓人氏)がメインで作りました。
ふつうはデザイナーが企画を出してプログラマーが仕様書を書いて……と段階を踏むのですが、そこはもう僕も含めてダイレクトにやり取りをして、すぐにプログラムを組んで、という昔のゲーム作りのようなスタイルでした。
坂口
かなりプログラマーの思考寄りなこともあって、戦略性のあるバトルになったのかもしれません。最初に上がってくる戦闘にはだいたい「勝てない!」と返して(笑)。「これは弱点がわからない」とか「ここを変えるべきだ」と意見を伝えて、また上がってきたものを僕がテストプレイヤーとして遊ぶ。
そこで彼らの意図を聞き、それが僕に伝わらなかった場合はどうすればいいのかを、わかりやすく紐解く。その結果、ルールは複雑ではありませんが、歯応えのある戦闘になっていったのだと思います。
堀井
昔はそういう作りかたでしたね。最初にパラメータを全部書き出して、戦ってみてちょっと調整を加えて……みたいな感じでした。
坂口
敵のモードが変わっても、それがうまく伝わってこないこともある。ゲームの作りかたは変わっても、実際に遊んで戦ってみないとわかりづらいものですから。
――キャラクターで言えば、堀井さんは誰がお気に入りですか?
堀井
シャルルですね。
坂口
シャルル派なんですね! 堀井さんはキーナかと思っていました。
――それはビアンカとフローラ的な目線で、ということですか?(笑)。
堀井
あとはバウリカですね。けっこう変わったキャラクターですから。しかも、最後に●●するじゃないですか。●●まで作って。
坂口
そこはさすがにネタバレですね(笑)。バウリカは最初、子どもの設定でした。でも、アートディレクターが「このゲームには欠点があります。それはグラマーな女性がいないことです」と言い始めて。彼の強い希望に押されるかたちで、結果として大人の女性になったんですよね。
――シャルルと言えば、妙にチカラの入った写真集なども登場します。
坂口
あれもアートディレクターの仕事です。簡単な絵でいいと伝えたのですが、3日くらいかけて写真集を作っていました(笑)。
堀井
本と言えば、絵と文章とボイスが組み合わさったサウンドノベルみたいなカットが入っていましたが、「これはすごいな」と思いました。キャラクターどうしの掛け合いとは違って、じっくりと読ませるものになっていて。
坂口
小説とは異なるものですが、「たまに本を読むといいな」という感じで、いいんですよね。『ロストオデッセイ』(※)のときに、作家の重松清先生による短編小説『千年の夢』をゲームに採用したのですが、これがすごくよくて、本作にも入れ込みました。
※『ロストオデッセイ』……2008年にマイクロソフトから発売されたXbox 360用のRPG。坂口氏が製作総指揮を務め、音楽を植松伸夫氏、キャラクターデザインを井上雄彦氏が担当した。堀井
けっこうありますよね。ジオラマもあるし、本当に盛りだくさんだな、と。
坂口
挿絵もかなりの枚数を描いてもらいました。ボイスがついて朗読劇っぽくなったので、また印象が変わりました。
――堀井さんはこういった演出にはどのような印象をお持ちになりましたか?
堀井
いまのゲームにはふつうにボイスがついていますし、『DQ』でもボイスが付くようになったので、「いいな」と思いました。実際にボイスが付くと、そのキャラクターの性格がより伝わるようになりますから。
坂口
やっぱり声だけで演技する声優さんって、すごいですよね。
堀井
僕もそう思います。
――もうひとつ、本作の重要な要素に植松伸夫さんの音楽があります。
堀井
そうですね。ときどき歌が入る曲があって、すごく雰囲気がありました。
坂口
ゲームの音楽を1本まるっと作曲するのは『FANTASIAN』が最後ということで、ご自宅のスタジオにひとりでこもって、全曲を作曲してくれました。
たいへんだったと思うのですが、さらに追加の楽曲もお願いして、最終的には60曲近くを作っていただいて。
堀井
すごい植松さんらしさが出ていると思います。中には『FF』を思い出すような曲もあって、なつかしさも感じました。
坂口
コラボで『FF』の曲も入れちゃいました。
堀井
それもあって、なつかしく思ったのかな(笑)。
――植松さんの音楽は、電子音楽がベースにありながら、いろいろな音楽性を取り入れていて耳に残るんですよね。
堀井
長い時間、ずっと聴いているものなので、飽きさせないように作曲されていると思います。
――堀井さんにとって、ゲーム音楽で大事なのは“プレイヤーに飽きさせない”ことなのでしょうか?
堀井
聴きづらくなく耳に残るもので、聴いていて気持ちいいとか、ずっとこの世界にいたいと思わせるような音楽がいいですね。シーンの盛り上がりに、音楽の効果は大きいんです。それこそ感動的なシーンも、音楽によってより感動させられるので。
――ボスのシーンでロック調になると、やはり盛り上がりますし。
坂口
植松さんはプログレッシブ・ロックがいちばん好きなんです。制作終盤で追加楽曲をお願いしたときに「追加は嫌がるだろうな」と思ったので「好きにやってください」と言ったら、案の定ロックな曲が上がってきました(笑)。
それでも「今回は出し尽くしたよ」と言ってくれて、魂を込めてくれたんだと伝わって、すごくうれしかったですね。
――坂口さんは、すぎやまこういちさんによる『DQ』の楽曲にはどのような印象をお持ちですか?
坂口
もう、すぎやまさんの楽曲と『DQ』は、切っても切り離せないものですよね。効果音も含めて、みんなの頭の中にあの旋律がこびりついていて、あの音を聴けば「あ、『ドラゴンクエスト』だ」とわかることはすごいと思います。
HD-2D版の『DQIII』はオーケストラ音源になって、ファミコンの3音では出せなかった壮大さが生まれていて、やっぱりこの音楽はすごいな、と。
――どうしてもここは堀井さんにお聞きしたかったのですが、『FANTASIAN Neo Dimension』がスクウェア・エニックスから発売されると知ったとき、どのように思われましたか?
堀井
「帰ってきたんか!」って思いました(笑)。
坂口
それ、ゲームのキャッチコピーに使えますね(笑)。「帰ってきた」のではなく、「おじゃましました」というほうが正確ですが。
堀井
それだけ衝撃はあったということですね。
――HD-2D版『DQIII』の対談では、堀井さんも『FF』はプレイされてきたと伺いましたが、『FANTASIAN Neo Dimension』をプレイしてみて、「これはやっぱり坂口さんの作品だな」と思うような要素はありましたか?
堀井
それはありました。初期の『FF』の“におい”はけっこうしていると思います。新しい面もあれば、なつかしい面もあるという点もそうですし、手触りであったり、探索要素であったり、キャラクターのセリフであったり。
――本作のシナリオは、坂口さんがメインで書かれていて……。
坂口
そうですね。もちろんシナリオライターに手伝ってもらいましたが、開発で最後の1年くらいは、セリフを全部書きました。それこそ街にいるNPCのセリフもほとんど書いています。だから、ちょっと詰まったときはネタっぽいものを入れちゃっています。
――ゲームで入手できるメモなどによくご飯の話が出てきますが、あれはリアルなレシピが入っているそうですね。
堀井
そうなんですか?
坂口
僕が行きつけにしているお店で最高だった料理のレシピです。街の中で聞けるキノコ鍋のレシピも本物ですよ。広尾にあるので、ごいっしょにいかがでしょうか?(笑)。白キクラゲの食感が最高で、ちょっと細切りの豚肉を入れて、そこに豆乳とラー油を入れると担々麺になるんですよ。
堀井
本当に?(笑)
坂口
本当ですよ。
堀井
集めていて「これは何だ?」とは思いました(笑)。
――坂口さんが『DQ』作品に“堀井節”を感じるように、堀井さんは『FANTASIAN Neo Dimension』に“坂口節”を感じ取っていたということですよね。
堀井
それが、『FANTASIAN Neo Dimension』が坂口さんのゲームだと感じた大きな理由かもしれません。
坂口
僕も最初のころは、セリフも自分で書いていましたから。よく「おまえのメッセージはおセンチだ」と言われましたが(笑)。
――でも、そこに人と人とのあたたかさを感じるのは確かです。
堀井
ラスボスに勝って、スタッフロールが流れるまでのエンディングで、キャラクターそれぞれのストーリーを、けっこうしっかりと見せてくれるじゃないですか。あれは好きですね。
坂口
じいやはどうですか? 「まさか●●●だったとは!」って、僕は好きなんですよ。
堀井
驚きました。
坂口
最初はあの形にしていなかったのですが、じいやとのバトルがいまいち盛り上がらなかったという理由で、ディレクターの中村が設定を変えちゃったんです。おかげで、残りのシナリオを書き直すことになりました(笑)。でも、おもしろいから「これでいこう」と。
――都度都度で出会う“シンデレラ三連星”も印象に残ります。
坂口
あれは『タイムボカン』シリーズですから(笑)。シャルルとやり合うところも好きなんですよ。彼女たちも最後にはちょっとホロっとさせる展開になっていますので。
堀井
確かにあのままじゃかわいそう。でも、きちんと登場人物全員をフォローするエンディングになっていてよかったです。
――堀井さんが『FANTASIAN Neo Dimension』を知らない読者から「どこがすごいんですか?」と訊かれたら、何と答えますか?
堀井
坂口さんがすべてを出し切っているゲームだと答えますね。いろいろな意味で、これまでの坂口さんの歴史をすべて凝縮したものであると感じたので。
――坂口さんも当時は「これが最後の作品になるかもしれない」とおっしゃっていましたから。でも、いまは新しい作品を作られているとのことですが、やっぱりゲームを作っているうちに、つぎのアイデアが浮かんでくるということなのでしょうか?
坂口
そうですね。やったらやったで、つぎを作りたくなっちゃうんでしょうね。
堀井
すごくわかります。作っているうちにまた楽しくなってくるものですから。
――それこそ、いまやRPGとひと言でまとめても、そのゲーム性は多彩です。オープンワールドであったり、違うゲーム性を組み込んだものであったり。日本においてRPGを築き上げてきたおふたりにお聞きしたいのですが、RPGで大事なポイントはどこにあるとお考えでしょうか?
堀井
成長しながら物語を楽しむというゲーム性ですかね。ある意味、それがあればゲームの世界に没入できる。ここはいちばん大きいと思います。
――まさに“ロールプレイ”を楽しむものでであると。坂口さんはいかがですか?
坂口
成長はやっぱり大きいですよね。たとえば、成長してから最初の場所に戻ると、こんなにサクサク倒せちゃうのか、これだけ自分が強くなったのか、そこを実感できることは大事だと思います。
それに、最初から物語があるゲームを作りたかった人間なので、やはり物語はいちばん大事にしています。物語を進めていく中で、プレイヤーがゲームの中の人間として積み重ねた時間が、ゲームプレイに反映されることは重要だと思います。
坂口
シナリオの視点で言ってしまうと、成長というシステムはある意味で縛りといえば縛りなんです。物語が成長に適合していないとおもしろくならないので。でも、そういった縛りがあるからこそ、システムなりシナリオに工夫を施すことで、作品ごとの違いが生まれるのだと思います。
『DQ』シリーズ、『FF』シリーズにも、いろいろなパターンがある。そこから、成長物語の作りかたも多種多様になってきて、ありきたりの物語ではない作品もたくさん出ていますから。
――最後に、いまもゲームを作り続けているおふたりから、ファンにメッセージをお願いします。
堀井
坂口さんと同じように、ずっとゲームを作り続けると思います。僕は引退を考えたこともありませんので(笑)。やっぱり、ゲームデザイナーであり続けるでしょうね。
――坂口さんはいかがでしょうか?
坂口
なかなかお話できないことは多いのですが、新作を作っています! 何を作っているのかは言えないのですが、シナリオを書いてから1年くらいになるので、もう2年くらいでいい感じまで進むかな、という状況ですね。
――シナリオと言うことはセリフも……。
坂口
NPCはまだ配置も決まっていないのでまだ書いていませんが、そのときまでにはレシピを用意するために、新しいレストランを開拓しておきます(笑)。
――そちらも楽しみにしています!
おふたりが手掛ける作品が近しい時期に発売されたことで実現した本対談。HD-2D版『DQIII』が表紙を飾った本誌2024年11月14日発売号と、『FANTASIAN Neo Dimension』が表紙を飾った本誌2024年11月28日発売号を持っていただいた記念写真も!