舞台『かまいたちの夜』インタビュー。舞台としては異例の「分岐あり」の物語。ブレーンとしてガッツリ関わる原作者の我孫子氏「これは間違いなく『かまいたちの夜』です」

byジャイアント黒田

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舞台『かまいたちの夜』インタビュー。舞台としては異例の「分岐あり」の物語。ブレーンとしてガッツリ関わる原作者の我孫子氏「これは間違いなく『かまいたちの夜』です」
 1994年に発売されたスーパーファミコン用ソフトのサウンドノベル『かまいたちの夜』。今年、30周年を迎える名作が舞台『かまいたちの夜 〜THE LIVE〜』として蘇る。

 2024年6月20日(木)〜23日(日)に東京シアター1010、6月28日(金)〜30日(日)に大阪COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演される予定で、5月29日(水)にはチケットの一般販売が開始する。

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 原作・我孫子武丸氏監修のもと、
『アガサ・クリスティ作品』『神津恭介シリーズ』などのミステリーを専門に舞台を手掛ける野坂実氏が演出を担当。主役の伊月役はWBB vol.20『バンクパック』や『紅さすライフ』に出演したヴァサイェガ渉さんが務め、ミュージカル・ショー『SEVEN⻄遊記7つの戦い』やモボ朗読劇“『二十面相』〜遠藤平吉って誰︖〜”に出演した豊田陸人(比企文哉役)さんらが脇を固める。

 今回は、我孫子武丸氏と野坂実氏へのインタビューを公開。30年の時を経て、
『かまいたちの夜』が舞台化された経緯や、舞台版の見どころなどを伺った。『かまいたちの夜 〜THE LIVE〜』には、大胆な試みが満載とのことなので、原作ファンはもちろん、舞台が好きな方もぜひチェックしてほしい。
※本インタビューはオンラインで行った。

我孫子武丸アビコ タケマル

新本格派ミステリー作家。1989年に『8の殺人』で小説家デビュー。作風が広く、『殺戮にいたる病』などシリアスな作品から、『速水三兄妹』シリーズなどコミカルなものまで幅広く手掛ける。そのほか『監禁探偵』などのマンガ原作や、『かまいたちの夜』を始めとするゲームシナリオなど、ジャンルを越えて活躍。

野坂 実ノサカ ミノル

ミステリーを専門に舞台を制作しているノサカラボの代表。演出家として、これまでに『アガサ・クリスティ作品』や『神津恭介シリーズ』など、重厚な作品を担当。緻密な伏線を敷いたシチュエーションコメディにも巧みな手腕を発揮する。『かまいたちの夜』のファンであり、スーパーファミコン版でやり込んだ。

『かまいたちの夜』ファンである野坂氏のラブコールで舞台化が実現


――『かまいたちの夜』が舞台化された経緯を教えてください。

野坂
 僕はふだん、いろいろなミステリー作品を舞台化しています。新たに舞台化する作品を相談する中で、僕が大好きな『かまいたちの夜』はどうだろうかと提案したのがきっかけです。会社が実現に向けて動いてくれて、スパイク・チュンソフトさんや我孫子先生に許可をいただき、舞台化の話が進みました。

――野坂さんから舞台化の提案を受けたとき、我孫子先生はどのような感想を抱きましたか?

我孫子
 2年以上前になるかと思いますが、「じつはもうすぐ30周年なんですよ」とお話したのを覚えています。とても光栄でしたが、原作のシナリオはもともとゲームのために書いたもの。シナリオのどこかピックアップして芝居にするのだとしたら、それはおもしろくないなという思いもあって。

 その考えをお伝えしたうえで、野坂さんたちがやりたいことをお聞きして納得できたので、「それなら僕もやりたいことがいろいろあります。ごいっしょさせてもらっていいですか」と、僕のほうからもお願いして快諾してもらいました。

 それから何度も野坂さんたちと打ち合わせを重ねて、
『かまいたちの夜』の名前で舞台化をするなら、こういうものにしてほしいとお伝えし、オリジナルのストーリーが完成しました。

野坂
 小説を舞台化する場合、1本のストーリーから一部をピックアップして、お客さんがわかりやすい展開にすることが多いのです。でも、『かまいたちの夜』は分岐が非常に多い作品ですし、分岐によってストーリーの雰囲気がガラリと変わります。

 それが魅力のひとつではあるものの、自分たちで分岐に手を加えるのは抵抗がありました。皆さんそれぞれ、好きなルートがあると思いますしね。僕自身、
『かまいたちの夜』のシナリオをそのまま舞台化するのは難しいと感じていたので、我孫子先生から同じような意見を聞くことができてホッとしました。

――おふたりは、舞台版『かまいたちの夜』にどのような形で携わっているのですか?

我孫子
 プレスリリースでは監修者のように紹介されていますが、実際は監修というよりも、こういうふうにしてほしいと要望をたくさん出しています。僕の要望を野坂さんと脚本家の望月さん(※望月清一郎氏。舞台版『かまいたちの夜』の脚本を担当)に投げて、みんなのオーケーをもらったうえで脚本にしてもらっています。

野坂
 我孫子先生に「すべてお任せします」と言われたらさみしいなと思ったのですが(笑)、実際はまさかここまで協力していただけるとは思いませんでした。純粋にうれしかったですし、望月さんも『かまいたちの夜』のファンなので喜んでいましたね。

 もちろん協力的な原作者の方は多いのですが、我孫子先生のようにガッツリ関わってくれて、いろいろなアイデアを出してくれる方はなかなかいません。我孫子先生はブレーンのような存在でたくさん意見を出してくださって、それに対して提案してくれたアイデアを実現できるかどうかを演出家の僕が判断し、脚本として仕上げました。

――我孫子先生のアイデアややり取りで、印象に残っているエピソードはありますか?

野坂
 最初に提案していただいた段階で、奇想天外なアイデアを用意してくださっていたんです。それはストーリー後半に登場する“とある仕掛け”なのですが、我孫子先生のアイデアを活かすべく、それに合わせて前半部分を作り上げていきました。ですので脚本の作りとしては、後半から考えていった形になります。

 あと印象に残っているのは、最後の打ち合わせのときに我孫子先生から言われた言葉です。僕が
『かまいたちの夜』のファンだったことあり、当初は原作の『かまいたちの夜』にとらわれているところがありました。でも我孫子先生の考えをいろいろお聞きして、僕も腑に落ちたので、意識せずに演出できるようになりました。そして我孫子先生が、「(ゲームと舞台で)形こそ違いますが、舞台の根底にあるものは間違いなく『かまいたちの夜』です」とおっしゃってくれて感動しましたね。

――それは感無量ですね。先ほどストーリー後半のアイデアは我孫子先生が考えられたとお聞きしましたが、そのアイデアは舞台化の依頼を受けて考えたのですか?

我孫子
 そうですね。以前、舞台のシナリオを手掛けたときから、舞台なら何かおもしろいことができそうだなという思いはあって。今回、せっかく舞台化のお話をいただいたので、「『かまいたちの夜』を舞台化するならこういうネタはどうでしょうか」と最初の打ち合わせで提案しました。野坂さんたちが気に入ってくれたので、実現するために脚本を考えていった感じです。

――野暮なのは重々承知していますが、どのような仕掛けが用意されているのか気になります……。ネタバレにならない範囲で、もう少し詳しく教えてください!

野坂
 我孫子先生は、つねにお客さんを驚かせたいという思いが強くて。ゲームでも驚いた方はたくさんいると思いますが、舞台版でもビックリしますよ。舞台ならではという言葉にしてしまうとものすごくシンプルなんですが、舞台でもあまりやらないような大きな仕掛けが用意されています。私もアイデアを聞いたときは驚きましたね。

観客のジャッジによってルートが分岐する仕掛けを用意


――おふたりそれぞれの視点から、ストーリーの見どころを教えてください。

野坂
 どんでん返しがたくさん用意されているのと、『かまいたちの夜』のファンがクスッとできるようなネタも入れています。そういった要素がありつつ、オリジナルのストーリーが展開していきます。うまく説明するのが難しいのですが、構造がいろいろ異なるものがまとまってひとつの作品になっているので、出演者たちにはシーンごとに異なる演技が求められます。

 賑やかな演技が求められたかと思ったら、映像演劇のような静かに淡々とした演技が求められたりして……。出演者たちは、多重的な感じで演技の質を求められるので、舞台に長年携わっている僕から見ても、なかなかお目にかかれない公演になると思います。

我孫子
 ゲームの『かまいたちの夜』には分岐がありますが、舞台で分岐をどのように表現しているのか注目してほしいですし、意外な展開に驚いてもらいたいです。

――分岐に関して公式X(Twitter)では、下記のように告知されています。


――マルチエンディングも見どころだと思いますが、そもそもこのような仕掛けを舞台の脚本に取り入れるのは、珍しいことなのでしょうか?

野坂
 珍しいと思います。その理由はシンプルで、舞台はセリフを覚えないといけないので、セリフの量が増えれば増えるほど、出演者がたいへんになります。しかも、ルートが決まった瞬間に、すぐつぎの芝居が始まってしまう。さらに、ルートに合わせて音楽や照明を変える必要があります。だから舞台でルート分岐を再現しようとすると、ものすごくたいへんなんですよ。

――ハードルが高いのですね。そのルート分岐をやろうと提案したのはなぜでしょう?

我孫子
 当初から課題として頭の中にあったと思いますが、いちばんやりたいことは別にあったので、そちらをメインに進めていく中で、分岐も入れられそうだねということになりました。

 ですから、分岐に期待されすぎるのもちょっと困るので、「お楽しみのひとつとして分岐もあるよ」ぐらいの気持ちで考えてもらえたら。ひとつのお話の中で、あっちにいこうか、こっちにいこうかといった感じです。

野坂
 分岐はしますし、分岐によってお話も変わりますが、ゲームの “スパイ編”や“悪霊編”のように、ガラッと変わるわけでありません。それでも、いろいろなものを盛り込めるだけ盛り込んでいて、脚本が複雑化しています。

 本来、舞台は簡略化していくものなのですが、今回は簡略化しないまま無謀とも言えるチャレンジもしていますので、舞台に詳しい人ほど驚いてもらえると思います。

――なるほど。ルートが分岐するということは、公演によって展開が変わる可能性があるということですよね?

我孫子
 そうですね。若干変わります。

――それこそゲームの周回プレイのように、舞台を何度か観て、複数のルートを楽しむこともできそうですね。

我孫子
 複数回行かれる方は会場で異なる展開を楽しんでもらえたらと思いますが、1回しか行けない方のほうが多いはずです。ほかのルートも観たいという方のために、後日、自分が観られなかったルートも確認できるようにする予定です。

野坂
 詳細はまだ決まっていませんが、何かの形でフォローをしていくと思います。

――それはうれしい施策ですね。実際に舞台を観た方は、SNSで感想を発信したいと思いますが、ネタバレはダメなど何らかのルールは考えていますか?

我孫子
 感想に関しては何も言えないと思います(笑)。

野坂
 どこまでがネタバレになるのかどうか、観た方も線引をするのが難しいですからね。というのも、お客様を楽しませるために、脚本の構造上、早いタイミングからネタバレになりそうなネタを仕掛けているんですよ。

我孫子
 アナウンスをするとしたら、「開始から何分以降のことは言わないで」とお願いするしかないですかね。

野坂
 そうですねえ。

我孫子
 それを何分以降に設定するのかが問題ですけど(苦笑)。

――観た方は感想を話し合いたいと思いますが、少なくとも公演が終わるまでは自重してくださいねということで。続いてキャスティングについていろいろお聞きしたいのですが、そもそも舞台の出演者はどのように決めることが多いのですか?

野坂
 通常の舞台は脚本を読み込んで、キャラクターとマッチする方をキャスティングするのですが、今回はキャスティングも破天荒でしたね。分岐したルートのシナリオに合わせた演技力が必要ですし、ルートを決めるときにお客様とのやり取りが発生するので、臨機応変な対応力も求められます。

――一般的な舞台と比べて、キャスティングは難航しましたか?

野坂
 そうですね。決まるまで時間がかかりました。キャストと脚本に仕込んだ仕掛けがリンクするネタもあったので、ネタが成立するかどうかもキャストを決めるときの判断基準になりました。

我孫子
 今回の舞台が要求している演技はかなり特殊なので、誰が演じることになっても難しいんじゃないかなと思います。

野坂
 我孫子先生がやりたかった大きなネタの場所は、演技ができる人であればあるほど、演じるのが難しくなるんですよ。だからといって、演技力が求められるシーンもたくさんあるので、素人にお願いするわけにもいかなくて。両極端の性質を持ったうえで演じないといけないので、たいへんですけどやりがいがありますね。稽古はこれからなのですが、出演者は大混乱すると思います。演出家としてはすごく楽しみですね(笑)。

――最後にファンや読者に向けてメッセージをお願いします!

野坂
 今回、30周年の節目に舞台をやらせてもらえるのはものすごく光栄ですし、ファンだった私が舞台に携わることができてものすごく興奮しています。

 我孫子先生と何度も打ち合わせをして、おもしろい舞台にできたと手応えを感じていますし、ゲームを遊んでいた方にも舞台版
『かまいたちの夜』でときめいてもらえると思うので、ぜひご期待ください。

我孫子
 どこが『かまいたちの夜』なんだと思われる方がいるかもしれませんが、今回の舞台はまちがいなく『かまいたちの夜』です。ゲームは好きだけど、お芝居は観ないという方も、きっと楽しんでもらえる仕掛けが満載なので、ぜひ劇場で観ていただけるとうれしいです。

『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』公演概要

  • 原作:我孫子武丸
  • 構成・演出:野坂実
  • 脚本:望月清一郎
  • 出演:ヴァサイェガ渉、豊田陸人ほか
  • 東京:2024年6月20日(木)~6月23日(日)
  • 場所:シアター1010(〒120-0034 東京都足立区千住3-92千住 ミルディスI番館11F)
  • チケット料金(全席指定・税込):S席9900円/A席9000円
  • 大阪:2024年6月28日(金)〜6月30日(日)
  • 場所:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール(〒540-0001大阪市中央区大阪城3番6号)
  • チケット料金(全席指定・税込):一般9500円
  • 一般発売:5月29日(水)10:00~
  • 協力:スーパーエキセントリックシアター、スパイク・チュンソフト
  • 主催・製作:NoSty(ノサカラボ/style office)
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