『プラグマタ』のテーマはヒューとディアナの“協力”。「銃だけでいいや」「ハッキングだけでいいや」とはならないバランスを目指す。開発体制についても訊いた【TGS2025】
 2025年9月25日~28日に千葉県・幕張メッセにて開催の東京ゲームショウ2025(TGS2025)。

 カプコンブースでは、2026年発売予定のプレイステーション5(PS5)、Xbox Series X|S、Steam向けソフト『
プラグマタ』を、国内初のプレイアブル出展。拠点となるシェルターを含む試遊で湧いた疑問を¥はじめ、開発コンセプトなど、開発スタッフ陣にさまざまな質問をぶつけてみた。

 なお、メディア向け特別バージョンのプレイリポートに関しては、以下をチェックしてほしい。
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趙 容煕氏(ちょう よんひ)

『プラグマタ』ディレクター。(文中は趙)

大山直人氏(おおやま なおと)

『プラグマタ』プロデューサー。(文中は大山)

エドソ・エドウィン氏

『プラグマタ』プロデューサー。(文中はエドソ)

川田将央氏(かわた まさちか)

『プラグマタ』プロデューサー。(文中は川田)

企画当初から変わらない、ヒューとディアナの“協力”を描いたゲームコンセプト

――2020年に最初のトレーラーが公開された『プラグマタ』ですが、本作の開発はどのようなコンセプトからスタートしたのでしょうか。

趙 
最初は月を舞台にするという一点から始まりました。その月を舞台に、どういったコンセプトのゲームにしていくかをチーム内で決めていく際、まず最初にゲームでいちばん大事な要素である敵の存在を考えたのです。

 そのときに多くのアイデアが出ました。クリーチャーのような敵から、ゴーストみたいな敵の案も出てきて……。いろいろ検討した結果、AIという存在を敵にすることになりました。そこからAIの敵はどういうものなのかを考えつつ、ディアナやヒューといった存在も生まれてきて、形になった感じですね。
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――最初のタイトル発表からけっこう経ちましたが、開発中にコンセプト自体に変化はありましたか?

趙 
それは最初期から現在にいたるまで変わっておりません。もちろんディアナのハッキング要素など、細かい部分に関しては試行錯誤をくり返しながら現状の形になっていますが。

 相棒どうしであるヒューとディアナを操作してゲームをプレイをするという基本コンセプトは、もう初期からずっと同じです。

大山 
ディアナがハッキングをしてヒューがアクションをするという元のコンセプトは初期から変わらず、それをどうゲームプレイに落とし込んでいくかの試行錯誤をこの数年ずっとくり返してきました。今回ようやく皆さんにお届けできるくらい、ゲームシステムがおもしろくまとまってきたというところです。

――本作は、若い世代のスタッフ制作であることがアピールされているそうですね。この開発アプローチでのプラスの成果、および苦労した部分をお聞かせください。

大山 
本作は若手も多く参加しているタイトルであり、若い人たちのフレッシュなアイデアをもとにゲームを膨らませている部分は確かにあります。

 一方で、決して若手だけで構成されているわけではなく、実績のあるベテラン開発者のフォローも含まれています。ですから、“若手による作品”というと少し語弊がありますね。

 我々プロデューサー陣としても見た目が若いように見えるかもしれませんが、『
バイオハザード』シリーズの川田も参加しておりますし、まさしく若手も参加しつつのベテランがサポートしているという構図でイメージいただければなと思います。

趙 
自分自身もゲーム制作に携わって20年目ですし、若手ではないですね(苦笑)。

川田 
カプコン30年目の人間から申しますと、ほかのタイトルの主要メンバーは、やはり私と同じぐらいの人間が多く、特に第1開発に関してはそうですね。そうなると、この趙も、大山も、エドソも、相対的に若い部類に入るのかなと。

 彼らに足りていないのは基本的に経験だけで、能力自体は非常に高いスタッフで構成されていると思っております。

 大きな失敗もせずにここまで来ていると思います。ここにいる彼らもそうですし、もっと若いスタッフがどんどん上に上がってもらわないと、会社の存続に関して問題も出てきてしまいますので、会社としてもそこをずっと後押ししていきたい体制になっているところです。

 ただ、本作でいうと若手中心による開発ではあったものの、みんな長くタイトルを作ってる中で……もう5年以上経ちますから、その中でみんなも経験を積みつつしっかり年を取っていっているのかな、というのが現状ですね。

――本作ではフィールド上に落ちているアイテムを入手し、それらを拠点であるシェルターで消費して強化していくシステムになっています。そういったスタイルのゲームにした狙いをお聞かせください。
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趙 
初期段階では、拠点(シェルター)ですべてを強化できて、全部の装備をつけてステージへ……みたいなアイデアもあったんです。しかし、基本的にそういうゲームサイクリングにすると、ユーザー側も決まったものしかプレイしなくなってしまう。

 戦略なども含め、(強化要素を)最後まで使わなくなっちゃうこともあるので、いろんな武器やハッキング要素を使って遊べるように、毎回違う体験が得られるように今の形になりました。

大山 
本作では宇宙服姿のヒューとアンドロイド少女のディアナ、この2名の協力が鍵になってきます。ステージの中と違い、シェルターはディアナとのコミュニケーション要素などもあって、プレイヤーにとっての安らぎの場にもなっています。

 各ステージは敵のAIに支配されており、厳しい戦闘もありますが、シェルターではディアナと一緒に過ごせる安心できる空間。それぞれが分かれたゲームサイクルになるように制作していたというのもあって、こういった形に落ち着いています。

――シェルターでのディアナとのコミュニケーションは、どのくらいのバリエーションが用意されているのでしょうか。
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大山 
具体的な数としては申し上げられないのですが、皆さんに十分楽しんでいただけるくらいにはいろいろなものをご用意しています。

――続いてシェルターのデザインについてお聞きします。周囲の壁に地球の風景っぽいものが映っていたのですが、やはり月面にいるからこそ地球の雰囲気を味わいたいというような、そういった目的なのでしょうか。また、シェルター内の風景はカスタマイズできたりするのでしょうか。

趙 
やはり月自体が白黒メインの世界なため、これをどうすれば綺麗にカッコよくできるのかというのがひとつの課題でした。決してカラフルな世界ではないので、CGで表現するとなるとどうしても地味になってしまう。

 そこから月に地球要素を加えたらどうかというアイデアが出て。シェルター自体も、ただのメカニカルな白い空間ではなく、地球要素を取り入れて、ちょっとカラフルかつ安心感が得られる場所にしようと。

 ディアナとの関係や、やり取りの中で、地球要素がどんどん増えていく要素を導入しました。また、カスタマイズとまではいかないかもしれないですが、ゲーム進行に応じて背景が変化していく要素も存在します。

――なるほど。その辺は、実際の月面基地なども研究されてデザインした感じなのでしょうか。

趙 
当初は月面基地の設計だったり、NASAでやっていることなどを調べてみたのですが、ゲームに落とし込む際、リアルにある要素を持ち込むのがすごく難しかったんです。

 そこで、3Dプリンターを月面でどこまで利用しているのかを調べてみたところ、3Dプリンターによって建物を作る、みたいなプロジェクトが今かなり進んでいるらしくて。これを参考に形を整えていった感じですね。

――武器を強化してシェルターから持ち出そうとしたところ、武器が収められているロッカーがもの凄い数で並んでいたのですが、それだけ多くの武器が用意されているのでしょうか。
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大山 
各ステージでいろいろな新しい遊びを、最初からエンディングまで楽しめるような物量感をイメージして作っております。

趙 
まだあまり詳しいお話はできないのですが、撃って攻撃するものだけではなく、いわゆる“銃ではない武器”も結構用意しています。そこもぜひ楽しみにしていてください。

――楽しみにしています! 本作の戦闘は、ハッキングを始めとして敵の攻撃を回避してから射撃など、いろいろな要素が噛み合った形になっていますが、戦闘の設計やバランス調整で意識しているポイントはどこでしょうか。

趙 
いちばん意識しているのは、やはりディアナのハッキング能力とヒューの銃撃アクション……このふたつのバランス取りですね。そこが少しでも崩れると、もう銃だけでいいや、ハッキングだけでいいやとなってしまうので。

大山 
難度の面でも、コアゲーマーの方々にしっかりと歯ごたえを感じていただきつつも、カジュアルな方々にも楽しんでいただきたいという思いはあるので、この両軸で楽しんでもらえるような調整を進めております。

 gamescom(※)の出展タイミングではカジュアル寄りのライトなプレイフィールになっていたかなと思うんですが、今回体験いただいたバージョンはどちらかというと少し歯ごたえ寄りの難易度調整になっています。
※2025年8月20日~24日にドイツ・ケルンで開催されたヨーロッパ最大級のゲームイベント。
趙 
製品版では、ゲーム後半になるとキャラクターカスタマイズの選択肢がどんどん増えていって、それこそハッキング1発だけで敵が倒せる、みたいな尖った設定も可能なゲームになっています。

――ハッキングによるパズル要素とかもありますから、戦闘面のバランス取りは相当苦労されたのかなと感じました。

趙 
苦労はめちゃくちゃしました(笑)。難度の調整では相当な紆余曲折がありましたね。やっぱりチームの人間は毎日プレイしながらゲームを作っているので、みんなプレイがうまいんですよ。

 ですから、我々にとってはちょっと簡単過ぎるなと難易度を上げると、ほかの人たちには難しいゲームになって、そこでまた難易度を下げると簡単過ぎると言われて。難易度調整にはものすごい時間を使ってようやく今の形になりましたね。
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 ただ、『プラグマタ』は簡単過ぎるとおもしろくないという結論が、我々の中にはあるんですよ。ちょっとピリ辛の難易度設定のほうが、もう少し挑戦してみたくなるゲームになっていていいのかなと。もちろん、難しく感じる人もいるかもしれないですが、むしろ本作はそれでちょうどいいバランスだろうと思っています。

大山 
結構新しい形のゲーム性だと思うので、プレイヤー自身が成長していく感覚がすごく得られるゲームかなと。

 シェルターでのキャラクター強化要素も大事なんですけど、プレイヤー自身がゲームにどんどん慣れて、パズルが速くなって、回避もうまくなって、という成長を実感してもらえるところ。それこそがゲーム本編を通してずっと楽しんでもらえる要素のひとつですし、開発側としても時間と工夫を詰め込んでいる部分です。

川田 
我々が最初に出したサンプルロムが、開発からしたらこんなに難易度を下げたら駄目だろうぐらいのものだったんです。

 それが社内で大絶賛されて、開発スタッフはだいぶ自信をなくしていましたね(笑)。カプコンには優秀な品質管理部と、そのレビューをする部隊がいるんですが、今はそことも密にやり取りをさせてもらっていまして。かなり客観的な視点での難易度設定ができているのではないかなと思っています。

 開発内部だと、どうしても触っているうちにゲームがうまくなっていって、この程度では納得できないとどんどん難易度が上がってしまうんですよ。そんなことはないだろうと自分でも最初は思っていたのですが、触るうちにうまくなって、こんなに簡単で大丈夫か? と不安に感じたこともありましたし。

 現状のプレイアブルロムは、お客様に出せるものとしてだいぶいいものに仕上がってきているのではと思います。

趙 
おもしろい事例がひとつありまして。開発側でスタッフの増員があったときに『プラグマタ』を理解させるため、1回ゲームをプレイしてもらうんですが、「こんなに難しくて大丈夫ですか?」みたいに聞かれるんですよ。で、1ヶ月ぐらい経つと今度は「こんなに簡単でいいんですか?」と。

 ですから、恐らく“慣れ”がとても重要なゲームなのかなと。経験値さえ積めば、誰でも遊べるゲームになっていると思います。

大山 
チェックプレイの際は初見の方のリアクションや反応も収集しているのですが、その“初見の人”を探し集めてくるのもなかなかたいへんでして。

 開発チーム(経験者)と初見の人とでは、どうしても感覚のズレが生じてしまうので、そこをしっかり穴埋めできるように、初見の方のフィードバックもかなり重要視しながら作っています。

――ディレクターの趙さんは、元はアーティスト出身とのことですが、今回ディレクターになった経緯をお聞かせください。また、アーティスト出身であることがどのようにゲームに活かされたのか、自身がこだわったゲーム内容や魅力などがあれば教えてください。
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趙 
ゲーム業界ではそんなに珍しいことではないんですが、僕はモデルアーティスト、コンセプトアーティスト、最終的にアートディレクターを経由して最終的にディレクターになりました。

 とはいえ、アーティスト業は、あくまでも自分がそのゲームを作る手段としか考えていないんですよ。実際、イラストを描くこと自体にはそこまで興味がなくて、絵を描いてゲームを想像するほうが好きなんです。

 ゲームを作ることが自分の中での最終目的になっているので、今ディレクターをしていることもひとつの手段にしかならないのかなとも思っています。

 また、本作のディレクターになった経緯ですが、過去アートディレクターとして『
バイオハザードRE:3』を担当したときに絵だけではなく、ゲームの遊びや演出など、いろんなところにうるさいぐらい口を出す立場だったんですよ。

 そのときにプロデューサーの川田から「だったらお前ちょっとディレクターもやってみろよ」みたいに言われまして(笑)。その流れで『プラグマタ』のディレクターを担当させていただくことになりました。

大山 
開発初期のころ、趙がイメージするゲーム像を漫画で大量に書いて、それを元にゲームを作っていく時期もありました。これに関してはアートディレクター出身ならではのユニークなやりかただったなと思いますね。

趙 
はい。漫画も大好きです(笑)。

――デザインやストーリーの演出などで、とくに注目してもらいたいポイントはありますか?

趙 
自分自身もSF作品のファンなんです。世にはいろいろなSF作品が溢れていますが、自分が好きなSF作品がジャパニメーションに関連するものに多くあって。それってゲームの世界ではあまりないのではと思ったんですよね。

 ですから、『プラグマタ』ではそういったジャパニメーションの要素や演出だったり、デザインなどを参考にしたものを積極的に起用しています。

大山 
2020年に発表させていただいたトレーラーからは、メカニックなデザインのディティールもかなり細かくなっています。
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 ゲームシステム部分はもちろん、そういったビジュアル面での進化も、約5年ほど時間をかけた分だけ良くなってきている部分のひとつかなと思っております。

――今回の試遊では、アイテムが取れそうで取れない場所にあったりで、探索が楽しく感じました。探索要素やマップデザインについてのこだわりがあれば教えてください。

大山 
ヒューとディアナの協力がコンセプトというお話をしましたが、これは戦闘面だけじゃなくて、探索面でのテーマにもなっています。

 施設に対してディアナがハッキングをして道を切り開いていくのもそうですし、ヒューのスラスター性能を生かして、取れそうで取れない位置まで頑張って登っていくのも、協力表現のひとつになっています。

趙 
ハッキングと射撃アクションをメインにしているゲームではありますが、それだけをずっとやらされても、やっぱり飽きてしまいますよね。その他の要素……隠し部屋を見つけたり、いろいろと探索をして世界の謎に迫るダイアログを入手したり、さらに便利なアイテムを手に入れたり。そういった部分の導入やテストも十分に行っています。

――探索面でもバディものであることが強調されているのですね。

趙 
そうですね。シェルター内でのヒューとディアナの掛け合いもそうですし、ステージ内でもふたりの思い出というか、繋がりみたいなものを描きたかったんです。

 戦闘だけだとそこが足りなかったので、戦闘以外の部分でふたりの繋がりを感じられる要素をたくさん用意しています。
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大山 
ストーリーを含め、ゲーム全編を通して『プラグマタ』の中心にいるのはヒューとディアナです。そういった意味で、今回のキービジュアルもヒューとディアナをフィーチャーしたものにしています。

――探索後にシェルターへ戻ると、ディアナが道中で出会った敵に対して感想などを言ってくれるのが凄くいいと思いました。

趙 
ありがとうございます。あとマップデザインに関しては、ヒューのスラスターを使ったアクションが立体的な移動力が高いので、それに合わせてマップのレベルラインも調整しています。徒歩以外に、スラスターを使って高所のあちこちに行ける設計ですね。

大山 
そのぶん、立体的な形状で道が分かりづらくなるときもあるので、その場合はディアナがサポートしてスキャンで道を示してくれたりなど、システム面で協力を表現しています。