2026年8月5日、リアル脱出ゲームを数多く手掛けるSCRAPより、Steam向け新作『ゆるゆる生配信する推しは100万回死ぬ』がリリースされた。 配信中になぜか命を落としてしまうVTuber“新井アラーニャ”を救う謎解きアドベンチャー。プレイヤーはシークバーを操って時間をさかのぼる不思議な力を手にし、推しのアラーニャを救うため、コメントなどで配信に干渉していく。
本作のリリースに伴い、開発チームにお話を聞く機会を得られたので、インタビューの内容をお届けしていく。

香月 聖崇 氏(かつき きよたか)
株式会社ヴェルクス・スタジオ 開発ディレクターエンジニア
藤掛 麻依 氏(ふじかけ まい)
株式会社ヴェルクス・スタジオ 開発マネージャーリードゲームデザイナー リードQA
いそにん 氏
『ゆるゆる生配信する推しは100万回死ぬ』アートディレクター
企画の発端は、別会社との“あぶれた案”だった
――ようやくリリースとなりますが、現在の率直な感想をお聞かせください。
黛
長い時間をかけ、本当に多くの人に力を貸していただいて作り上げた作品なので、まず湧き上がってくるのは「うれしい」の一言です。
――企画自体はどれくらい前から動いていたのでしょうか?
黛
3年ぐらい前から動いていました。ただ、正式に開発がスタートしたのは2025年の1月ですね。
――企画の立ち上げから開発スタートまで、かなり時間が空いているようですが、何があったのでしょうか。
黛
なかなか言いにくいこともあるのですが……。もともと本作は、べつの会社さんとデジタルゲームを作れないかという議論があった際にコンペに出した企画だったんです。かなり手応えのある企画だったのですが、そのときのコンペでは「想定しているものと、ちょっと合わない」と返されてしまいまして。
言ってしまえば本作は“あぶれた案”だったんです。ただ僕らが感じていた手応えは確かなものだったので、絶対にゲーム化したかったんです。
そんな折、ヴェルクス・スタジオさんとの御縁が生まれ、打ち合わせをさせてもらったんです。
香月
打ち合わせには私が参加させていただいて、その後すぐに社長に「こういう企画相談を受けました」と伝えたら、「すぐ飲み会を設置しよう」ということになりまして。そこからはもうトントン拍子で開発決定まで進んでいきましたね。

――では、そこからすぐに開発スタートといった感じですか?
香月
いえ、話が決まってから動き出すまでもしばらく時間は空きましたね。というのも、最初にもらった企画だとコストが読めなくて、仕様の選定や協議に時間がかかったんです。
――コストですか?
香月
最初にプレゼンいただいた企画は、実写動画をベースにしたものだったんです。アナログゲームとしてリアルタイム進行するのであれば、それでいいのですが、何度もやり直せるデジタルゲームの仕様に落とし込もうとなると、映像に入るものすべてをミリ単位で揃えて何パターンも撮り直すという作業が発生しますし、何かしらの理由で仕様変更が起きたら、最悪全編全パターンの撮り直しが発生します。
これがデジタルゲームであれば、ちょっとコードを書き換えるだけで済む場合もありますが、実写映像だとそうもいかない。最終的なコストがどこまで膨らむかも想像ができなかったんです。
――謎解きである以上、矛盾があるまま進めるわけにもいきませんものね。
香月
つぎに出てきた案が、すべてを3Dで作って実写風動画を作っていく形式です。これなら、あとからオブジェクトを追加するのも簡単になりますし、仕様変更が起きても対応できる範囲におさまります。しかしこの案を採用するとなったら3Dのモデルを作らなければならないし、モーションアクターを用意したり、手でモーションを付ける必要があり、これはこれでそれなりのコストになります。
そうして検討を進めていく中で出てきたのが、VTuberというアイデアでした。VTuberの手元配信のスタイルであれば、ゴリゴリの3Dを作るのは手元映像だけでよくなりますし、コストも抑えられます。
黛
ただ、いいアイデアをもらいつつも、すぐに「それで開発していこう」とはならなかったんです。というのも、VTuberの配信をテーマにした謎がどれくらい作れるのか、どういった謎が作れるのかをSCRAPとして検討しなければならなかったので。そこから謎に関する検討を進め、大枠が固まったタイミングで仕切り直して、2025年の1月から正式に動き出したという流れです。
――3Dモデルのクオリティはかなり高いですよね。手元配信のリアルさには驚きました。
香月
VTuberの手元配信という体なので、映っている配信画面がリアルでないとVTuberとの差を感じられず、リアリティが薄れてしまいます。だから今回はかなり力を入れたフォトリアルなモデルにしました。
黛
ただデジタルとデジタルが並んでいるのに「こっちはリアルでこっちはデジタルです」という状況を表現するのは意外と難しくて。そこはいそにんさんがうまく調整してくれました。
いそにん
VTuberとしてのアラーニャも手元映像も3Dモデルなので、ただ出力するだけでは、なじんでしまうんですよね。そこで配信画面の色味をちょっとオレンジがかった現実味ある感じにしつつ、VTuberのアラーニャのほうはトゥーン調のはっきりした色合いで浮かせる、という調整をしています。でも、浮かせすぎると今度は別種の違和感が生まれてしまうので、微妙な調整はずっと続きましたね。

――仕様の話に戻りますが、本作は英語にも対応していますよね。海外展開を最初から視野に入れて仕様設計が行われたのでしょうか?
黛
海外展開、Steamでの展開は最初期から構想にありました。弊社はこれまでにもブラウザで遊べるコンテンツは作ってきたのですが、社内からは「このままブラウザゲームを続けていくだけで大丈夫なのか」、「Steamプラットフォームでも挑戦をしたい」という話が出ていたんです。ただSteamで出すとなったら、最低でも英語には対応しないと「じゃあブラウザのままでいいじゃん」という話になってしまうので、海外も視野に入れる運びとなりました。
――しかし、謎解きは言語に紐づくものが多い印象です。英語版を作る上での苦労もあったのではないでしょうか?
黛
ありましたね。設計当初は、時間を戻して事象を変えていく体験が謎のメインになると考えていたので、そこまで気にしてはいませんでした。ただ実際にやってみたら、どうしても言葉や文字を使いたくなるシーンが多くて苦労しました(笑)。それに映像に映り込む文字も少なくしたほうがいいということで、細かい調整も必要になってたいへんでしたね。
――そういえば文字を使った謎もありましたよね。

ネタバレになるため詳細は伏せるが、画面にある文字を使った謎が登場する。
香月
ネタバレになるのですべては言えませんが、ありますね。日本語版でも英語版でも、似たような意味になり、謎の質も変えないようにするのは本当に難しかったです。ただ文字や内容を調整するだけでなく、オブジェクトの位置を日本語版と英語版でズラすことで実現できたので、開発チームにも労力をかけてしまいました。
それに言葉や語順を入れ換えて真理に到達するパートも苦労しましたね。日本語と英語では言語構造が違うので、一筋縄では解決もできず、本当に頭を抱えました。
――そこはどのように解決したのでしょう? 日本語版と英語版とでまったく異なるプログラムを用意するとか、そういうパワープレイでしょうか?
香月
日本語の柔軟性に救われた感じでしたね。英語は語順がかなりしっかり定まっている言語なのですが、日本語って語順が多少入れ換わっても意味が通じるんですよ。
たとえば「私は勉強をしに図書館に行く」でも「私は図書館に勉強をしに行く」でも「勉強をしに、私は図書館に行く」でも意味としては同じじゃないですか? 強調される箇所が変わるだけで。そうした言語としての柔軟性で解決しています。
「こんな複雑な仕様書は見たことがない」――複数タイムラインの悪夢
――ゲームを遊んでいると、ほかの配信者の配信にも渡り歩いていくという仕掛けがあって驚きました。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
黛
ゲームを作るにあたって「進行度に合わせてやれることが増えていかないと飽きてしまう」という考えは最初からあったんです。そこで生まれたのが、ほかの配信に行くというアイデアでした。これにより、コメント、スーパーコメント(YouTubeにおけるスーパーチャットのようなもの)、ほか配信を視聴という道具が揃い、進行度によってできことが増えていく仕組みが作れました。

――アラーニャ以外の配信もしっかり作り込まれてますよね。謎解きに関係するシーン以外でも、しっかりエピソードが用意されてて驚きました。ただ感心しつつも、開発はたいへんだったんだろうなとも思います(笑)。
黛
お察しの通りです(笑)。ただ何も考えずにアラーニャ以外の配信を作ってしまうと、アクセスできるところがムダに増えてユーザビリティが下がりますし、フラグ管理も難しくなるので、制限を設けつつ調整しています。
香月
僕はエンジニアをそこそこ長くやっていますが、本作ほど複雑な仕様書は見たことがないです(笑)。本作の仕様書はタイムラインの形式になっているのですが、ほかの配信という要素が増えたことで複数人のタイムラインを管理する複雑な仕様書になってしまいましたね。フラグによってタイムラインが増えたりもするので、プランナーから渡される仕様書としては前代未聞の形式でした。
黛
でも、あれがなかったら絶対に管理できなかったと思います(笑)。藤掛さんには感謝ですね。

仕様書のイメージ。実際に見せてもらったものも、こうしてタイムラインが管理される形になっていた。
――タイムラインを作る上で特にたいへんだったことは何ですか。
黛
1ヵ所でも時間にズレが生じると全部ズレるので、その管理がたいへんでした。あと「このキャラクターがこういう配信をしているとき、もうひとりは何をしているんだろう」というリアリティの辻褄合わせも必要だったので、そこの理由付けも苦労しました。
藤掛
時間を巻き戻した際に話がおかしくならないような分岐を考えたり、プレイヤーがイヤな気持ちにならないためにはどのような設計にすればいいかを考えたり、考えることはけっこう多くてたいへんでした。

――タイムラインと同じように、スーパーコメントで消費する仮想通貨“V$(ビュードル)”の管理も難しそうですよね。
香月
ここが最大の難所だったかもしれませんね。「ここでリドルを使ってしまうと、本来この未来には行けなくなる」というケースが多数あって。ただ、すべての条件を満たさないと進めないという設計にすると、今度は進行が極めて難しくなってしまう。だから、ある程度進んだ段階で辻褄を合わせ、最適な未来にするという機能を入れました。
藤掛
でもその機能によってまた別の問題が生まれて。「ここでリドルを使ったはずなのに、使っていないことになっているように見える」という、プレイヤーに伝わらない矛盾が生じてしまうんです。
ただあまりにもリアリティを求めると、ユーザーを混乱させ、プレイフィールを損なう可能性もあるので、気付かれにくいように裏で帳尻合わせをしている箇所もあります。
香月
過去改変ものを、デジタルゲームとして成り立たせるのがここまで難しいとは、当初は思いもしませんでした。正しさが重要なのか、わかりやすさ・やりやすさが重要なのか、そこでのせめぎ合いは多かったです。
せっかくデバッグツールまで作ってノウハウも得たので、同じフォーマットでもう1本作りたいですね(笑)。
「死ぬという設定は、選んだわけではなかったかもしれない」
――タイムラインの中でキャラクターが何度も死にますが、なぜ“死ぬ”という設定にしたのでしょうか。またSCRAPの『100万回死ぬ』シリーズとの関連も気になります。
黛
本作のストーリーの原案が、『100万回死ぬ』シリーズを作っていたパズル作家、堺谷さんなんですよね。弊社では企画出しをするための合宿があるのですが、そこで堺谷さんが「配信がタイムマシンだったらおもしろいですよね」という案を出してくれて、そこから話が膨らんで生まれたのが『ゆるゆる生配信する推しは100万回死ぬ』なんです。
そういったきっかけから生まれているので、“死ぬ”というテーマは最初からあったものですね。時間を戻すことで人を救うというのは、わかりやすいダイナミズムがあって魅力的ですし、そこを変えるつもりもありませんでした。ちょっとしたハプニングよりも、“死ななくする”ということが未来改変として、もっともワクワクすると思うので。
――死にかたのバリエーションも多彩ですが、死にかたを選ぶ上で、何か基準はあったのでしょうか。
黛
「この死に方はやめよう」という基準はなかったですね。ただ、まず最初のバナナで死ぬというのは、『100万回死ぬ』シリーズへのリスペクトとして入れています。そこから「配信という状況で死ぬとしたら、どんな死にかたがありえるだろうか?」とみんなで考え続け、その中から謎を作りやすいものを選んだ結果が、いまの形になります。
――最後になってしまいましたが、本作はどのようなコンセプトで開発されたのでしょうか?
黛
本作で得られる体験は「VTuberの配信がゲームになっちゃった」という日常っぽいけど非日常な感覚だと思います。「日常的に触れているYouTubeがもしゲームになって、しかもタイムマシンになってしまったら」というワクワク、そして謎解きの楽しさを届けるために作った作品です。
VTuberが好きな方にはもちろん遊んでほしいのですが、それに限らず多くの方に遊んでもらいたいですね。「日常に少し不思議なことがあったらいいな」、「毎日ちょっと退屈だな」と思っている人に、「こんなに没入できるゲームがあるんだ」という発見を届けられたら幸いです。

香月
YouTubeを見たことがないという方は、いまやほとんどいないでしょう。そんな見慣れた画面で、いつもとぜんぜん違うことができるというのは、すごくおもしろい体験だと思います。とくに、ほかの配信を乗り継ぎながら過去に戻っていくという体験は、めちゃくちゃ楽しめると思うので、楽しんでください。
ほかでは体験できない謎解きもたくさんあります。いつもとはちょっと違う謎解きを体験したい方にはぜひ遊んでみてほしいです。私自身、いち謎解きファンとして、記憶を消してプレイしたいくらいです(笑)。
藤掛
謎解きを楽しんでくれる方に遊んでもらいたいですし、アラーニャをめちゃくちゃかわいく作ったので、みなさんにはアラーニャのファンにもなっていただけるとうれしいですね。
いそにん
プレイをしていると、ついつい“配信を見ている”感覚になり、「そういえば謎解きをしているんだった」と、ふと思い出す感じになる不思議なゲームです(笑)。ゲームなのか配信画面なのかわからないけれど、なんか起きてしまった、という少し非現実的な体験ができるので、ぜひみなさんに味わってほしいと思います。
――そういえばアラーニャはゲーム内だけでなく、現実のSNS(X)でも発信をしていますよね。アラーニャは今後もSNSでの活動をしていくのでしょうか?
黛
もともと「アラーニャを好きになってもらわないと、このゲームは始まらない」という想いからSNS運用を始めたのですが、ファンも付いてくれてうれしい限りです。
今後も何かしらのアクションをしたい気持ちはあるのですが、会社にとって利益が生まれない限りは動けないというのが正直なところです。
香月
愛されているキャラクターだから大事にしたい気持ちはありますが、本作の売れ行きや反響次第ではありますよね。
――ぜひつぎの展開も見たいですね。たとえばYouTubeで生配信をしながらリアルタイム謎解きイベントみたいなことがあったら楽しそう(笑)。
黛
やってみたいですね! そのためにも、ぜひみなさん応援をしてください(笑)。
香月
来年のリアル脱出ゲームの日に、アラーニャが謎を届けるイベントが実現できたらうれしいですね。
※「リアル脱出ゲーム」は株式会社SCRAPの登録商標です。