ご存じの通り、インディーゲームデベロッパーにとって、自作を世に問うにあたって大切な判断のひとつとなるのが、いかにしてパブリッシャーを探すか。
昨今はセルフパブリッシングをするケースも増えているが、作ればそれで終わり……というわけではなく、リリースするにあたってはもろもろの手続きは必要だし、ゲームのPRも大切になる。ゲーム開発に一心不乱に取り組んでいると、ときには俯瞰した立場から冷静に見たうえでのアドバイスもほしい。そんな役割を担ってくれるのがパブリッシャーだ。
先日行われた日本最大規模のインディーゲームのイベントであるBitSummitのようなイベントも、インディーゲームデベロッパーとゲームパブリッシャーの“出会いの場”といった趣きもあるわけだが、5月に実施されたBitSummit PUNCHの開催前夜に、まさにその“出会いの場”を濃縮したかのような催しが行われた。“BitSummit Game Pitch”だ。
言うまでもなく、“Pitch”というのは、短い時間で自分のアイデアや商品などをアピールするプレゼンのことで、海外ではけっこう盛んに実施されている模様。インディーゲームデベロッパーが自作の魅力をアピールして、それに対してパブリッシャーが気になるデベロッパーに対してアプローチする場が“BitSummit Game Pitch”となる。
BitSummitにおけるピッチイベントは、2024年、2025年とゲームクリエイターズCAMP(集英社)主催により“GPB: Connect@BitSummit”として催されてきたのだが、2026年からはBitSummitのオフィシャルイベントとして実施されることになった。“BitSummit Game Pitch”では、参加デベロッパーは、BitSummit PUNCHに出展している開発者や企業のみとなり、BitSummitの前夜祭的な位置づけとなった。ちなみに、開催スペースも前年と比較して1.5倍となっている。

“BitSummit Game Pitch”の前夜に開催された“BitSummit Game Pitch”。開催スペースも拡大。
今回の“BitSummit Game Pitch”の参加デベロッパーは18組で、参加パブリッシャーは23社。デベロッパーに用意されたのは5分間で、イベントが開始されるや各デベロッパーはパワーポイントなどを駆使して思い思いに自分のタイトルの魅力をアピール。見ていると、真面目に自作の特徴をプレゼンする方から、ギャグを交えて紹介する方までそれぞれ個性豊か。それに対して興味を抱いたパブリッシャーが、自分の席に戻ったデベロッパーに話しかけにいくことになる。

デベロッパーの“ピッチ”はそれぞれ個性豊か。ちなみに今回は海外からの参加者が多かった。
前述の通り、“BitSummit Game Pitch”はまさにデベロッパーとパブリッシャーの出会いの場といった趣き。登壇者のピッチとデベロッパーとパブリッシャーの挨拶が同時進行で進められるためなかなかに慌ただしい。デベロッパーによって、随時パブリッシャーが挨拶に訪れる方と、少し手持ち無沙汰にしている方がいるのも、社会の縮図とは言え、なかなかにシビアだったりする。
そんな“BitSummit Game Pitch”だが、今回ファミ通.comではひとりのデベロッパーに密着取材を敢行した。Nao Gamesの柴田直氏だ。
柴田氏は、ゲーム会社で15年以上にわたってグラフィックデザイナーやディレクターを務めた後で、2022年に個人の開発スタジオNao Gamesを設立。2023年にはMarvelous Europeから『Ninja or Die: Shadow of the Sun』を、2024年にはponcleより『Berserk or Die』を、それぞれリリースしている。poncleは『Vampire Survivors』の開発を手掛けたスタジオとしてもおなじみで、同社初のパブリッシングタイトルということで、『Berserk or Die』も大きな注目を集めた。こうしてみると、まさに“順風満帆”といった印象だ。

Nao Gamesの柴田直氏。
柴田氏が今回ピッチしたのは『Ninja or Die 2 Die』。2023年にリリースされた『Ninja or Die: Shadow of the Sun』の続編にあたるタイトルで、怨念で正気を失った主人公が飛び回って復讐するというハイスピードアクション。
当初最初のほうに予定されていた柴田氏のピッチは、機材トラブルで最後になるというハプニングに見舞われることに。それでも柴田氏は冒頭で動画を公開しつつ、『Ninja or Die 2 Die』のゲームコンセプトや特徴などのゲーム概要を紹介して同作をアピール。その後セールスポイントや“パブリッシャーにお願いすること”などを具体的に挙げていった。5分間をフルに使って、的確にゲームの魅力やパブリッシャーに対する要望を伝えていった。

『Ninja or Die 2 Die』の特徴をしっかりと紹介。
ビッチ後、柴田氏の席には何組かのパブリッシャーがミーティングのために訪れており、プレゼンに対する反応も上々だった模様。柴田さんのピッチからほどなくして、“BitSummit Game Pitch”は終了となった。

後日、柴田氏に“BitSummit Game Pitch”に参加した理由やその後の反響などを聞いてみた。
自分がアピールしたいポイントを見定めてプレゼンした
――今回“BitSummit Game Pitch”に参加した理由を教えてください。
柴田
『Ninja or Die 2 Die』を作り始めて半年くらいなので、ちょうどいいタイミングだというのはありました。パブリッシャーさんとは本格的にお話は進めていなかったので、応募しました。
いろいろなパブリッシャーさんのお話を聞いてみたいというのはありましたね。
――ピッチで与えられたのは5分間ですが、心掛けたことを教えてください。
柴田
5分間というのは、実際のところかなり短いです。言いたいことは語り切れないので、ゲーム内容はさっと終わらせて、自分がアピールしたいポイントを見定めてプレゼンするという感じです。“パブリッシャーに求めること”も必要になるので、そういったことも盛り込んでいきます。
ちなみに、ゲームクリエイターズCAMPさんがゲームの企画書の書きかたを動画でアップしているのですが、こういったものも参考にするといいかもしれません。
――ピッチに参加しようと考えているゲームクリエイターに対してアドバイスとかありますか?
柴田
企画書の書きかたはけっこう重要だと思います。意外と、自分のゲームに対して語り過ぎないことが重要だと思います。デベロッパーさんも、そのタイトルのことが気になったら「デモを送ってください」と言ってきますので。
――(笑)。
柴田
ピッチの時間が5分だったら、ゲームの特徴だけを1~2分でお話しして、あとはパブリッシャーさんに求めることを伝える感じですね。
――皆さんのピッチを見ていると、それぞれパブリッシャーに求めるものは違いますよね。必ずしも資金面の援助だけを求めているわけでもないようですし。
柴田
私はけっこうふつうですね。ふつうというか、ローカライズやデバッグ、あとBGM制作の資金など。いまBGMはフリー素材を使っているんです。できればそれは変えたいと思っています。そしてできれば開発費も。
――ゲーム内容についてのアドバイスも“パブリッシャーにお願いすること”の項目に入っていましたね。インディーゲームデベロッパーさんによっては、開発には口を出さないでほしいという方もいますよね。
柴田
私はひとりで開発しているので、不安になるときはありますね。チーム制作だと、ほかの人がどう思っているか、適宜意見は聞けると思うのですが。

柴田氏のプレゼンの資料より。“パブリッシャーにお願いすること”では、開発費として、「私ひとりですので多くは必要としておりませんのでご相談させてください」との率直なメッセージも。
――ちなみにピッチ用の企画書の作成には、どれくらい時間がかかっているのですか?
柴田
1日くらいです。私、ゲーム業界は長くて企画書は慣れているんです。ディレクター職をずっとやってきていて、企画書はけっこう書かされました(笑)。
――企画書を書くのは得意なのですね。トークのほうはいかがですか?
柴田
トークはそこまでではないです。そういう機会は意外と少なくて。客先に行ってプレゼンするという機会は、あっても年に2、3回でしたね。
――ピッチのときにはどのようなことを心掛けているのですか?
柴田
できるだけゆっくり話すようにするとか、本当に基本的なことですね。企画書をそのまま読み上げないということには気を使っています。
――ああ、たまに企画書をそのまま読んでいる方もいますね。
柴田
ある程度は仕方ないと思うのですが、完全に読み上げてしまうと頭に入ってこなくなりますからね。
――今回、“BitSummit Game Pitch”に参加してみての手応えはいかがですか?
柴田
どうでしょうか……。ゲーム自体に私が少し迷っているということもあって、まだまだなのかなと思いました。いまの段階でのピッチとしては「こんなものかな」とは思うのですが……。
――ゲームの方向性がしっかりと明確に定まっていたほうが、ピッチもよりアピールできるものになるということですか?
柴田
そうですね。『Ninja or Die 2 Die』に関しては、本当の売りになる部分というか、尖った部分がまだ定まっていないので、「このゲームはこういう特徴があります」ということがうまく言えなかったというのはあるかもしれません。
――ピッチが終わった後のパブリッシャーさんの反応はいかがでしたか?
柴田
会場でも数社様とはお話をさせていただきました。会場でも、これは以前から知っている方ではあるのですが、「ゲームを見せてほしい」とはおっしゃっていただけましたね。
――感触は良好ということですね。
柴田
サンプルを送ってそのまま反応がないということもけっこうあります(笑)。
――“BitSummit Game Pitch”のようなピッチイベントは、インディーゲームデベロッパーにとって意義深いことだと言えそうですね。
柴田
そうですね。プレゼンの鍛錬という意味でも有意義だと言えると思います。実際のところ、インディーゲームの開発は企画書なしで進めることがほとんどだと思うのですが、そういう意味でも貴重な機会かと思います。
ゲームの見直しにもつながりますよね。
――見直しですか?
柴田
はい。プレゼンすることを前提に自分の作品を見つめ直すと、わりと客観的に見られたりするんです。さっき、『Ninja or Die 2 Die』に対して尖った部分が定まってないとお話しましたが、それは企画書を書いていて、「このタイトルの特徴は本当のところなんだろう?」と改めて考えたときに、客観的に見られたから気づけたということはあります。
――なるほど。自作を客観的に判断するひとつの契機になるということですね。
柴田
そうですね。意義深いということで言うと、海外だとピッチイベントはけっこうあるのですが、日本ではほとんどないんですね。マーベラスさんが主催する“iGi”(※)では、卒業式にパブリッシャーさんを前にピッチイベントをするのですが、そちらはプログラムの参加者が対象となります。国内のピッチイベントはそれくらいではないでしょうか。
※日本国内のインディーゲーム開発者を対象とした育成・インキュベーションプログラム そういう意味でも、出展社であれば誰でも参加できる“BitSummit Game Pitch”は貴重な機会だと思います。

グラフィック、プログラミング、SEなどはすべて柴田氏が担当。
――要望があるとしたら、どんなところですか?
柴田
強いて言えば……プレゼンと交渉が同時進行というのは、少し慌ただしいかもしれないですね。プレゼンを3人くらいで区切って、その都度交渉タイムを設けたりするほうがいいのかもしれません。そのぶんイベントが少し長引くのですが……。
――“BitSummit Game Pitch”のような機会には積極的に参加したいですか?
柴田
そうですね、ただ、少なくとも来年は、『Ninja or Die 2 Die』のパブリッシャーが決まっていて参加しないで済むようになっているといいなあと思います。
――(笑)。

柴田直氏。Nao Games代表。約20年前にゲーム会社に入社。グラフィックデザイナーに始まり、ディレクター、企画を兼任してのプロジェクト進行。ときにはプログラマーも兼任。2021年に独立して、インディーゲームを開発。作品に『Ninja or Die』、『Berserk or Die』など。
一期一会の場で新たな発想が生まれる可能性も
デベロッパーとパブリッシャーの“出会いの場”となる“BitSummit Game Pitch”。“ピッチ”をするデベロッパーからは、自身のクリエイティブをちゃんと知ってもらおう”という熱意が溢れていた。柴田氏がお話ししている通り、自作のことを冷静に見つめるいい機会ともなるようだ。思わぬ出会いにより、お互いが刺激を受けての新たな発想もありそうで、まさに“一期一会の場”とも言える。
こういった場からどのような新しいゲームが出てくるのか楽しみだ。
『Ninja or Die 2 Die』
Steam向けに開発中のアクションゲーム。移動手段はジャンプのみで、ジャンプ中に敵に当たると攻撃となる。時間が経過することでも体力は減り、体力がなくなった時点での倒した敵の数を競う。攻撃すると怨念が溜まり、その数値が最大になるとコントロール不能となる。
「画面を埋め尽くす大量の弾幕をジャンプで回避し、敵へジャンプで近づき一瞬で撃破。これをくり返しつぎつぎと連続でジャンプしていくことで、圧倒的なスピード感と撃破の爽快感を味わえるゲームです」(柴田氏)とのこと。
『Ninja or Die 2 Die』は2027年発売予定だ。

(撮影/集英社ゲームズPR担当・西島卓氏)