トークイベントは3部構成。AI技術チームのイ・ギムン氏と『ミメシス』ディレクターのアン・ジェホン氏が登壇し、AI技術を活かした独特な開発環境、『ミメシス』開発秘話、今後の展望などが語られた。本稿では、その内容をお届けしよう。


ReLU Games独自の開発環境。AIを“ゲームのおもしろさ”に
イ氏はまず「AIはゲーム業界に強い影響を与える新技術であるが、あくまでもツールである」とAIの役割を語る。同じカメラ、同じレンズを使っても、何をどういう角度で撮るかで映画の中身が大きく変わるように、AIというツールも、使いかたによって出力されるものが異なるということだ。また、AIを使ったゲーム開発は未知の領域が多く、まだまだ試行錯誤が必要だと告げた。
こうした未知の領域を探索するため、ReLU Gamesは3つの開発原則を掲げている。
- 誰もが自分で作り、配布し、修正できる数多くの成果物を生み出すこと。
- 簡潔に形にした実験的プロトタイプを開発の出発点とすること。
- 固定的な職務の境界を越えて問題の解決に集中することだ。

この考えを支えているのが、ReLU Gamesが開発した社内ツール “Nolan”と、 独自の開発フロー“Seed”だ。
Nolanはローカル環境で作られたゲームの生データを、共有サーバーへアップロードするだけで、ほかのスタッフがすぐにプレイできるような環境を整えるツール。ただゲームを公開するだけでなく、他者が修正を加えた別バージョンを作ったり、アイデアをコメントしたりもできる。社内向けのゲームプラットフォームサービスのようなものと考えていいだろう。

実例として出されたのが、アート職スタッフが登録した2D版『ミメシス』。“オリジナル版をやってみたいけど3D酔いで遊べない人のためのゲーム”として提案され、これには社内から586件ものコメントが寄せられたとのこと。


一般的なゲーム開発会社で新作を開発するには、まずアイデアを企画書にまとめ、それをもとに開発を検討することになる。しかしこうしたフローでは、立案者のイメージやアイデアがうまく伝わらず、実際に触ってみればおもしろいものも埋もれてしまう可能性がある。
企画書ではなくプロトタイプを共有すれば、立案者のイメージやコアとしているおもしろさをわかりやすく伝えられるようになり、アイデアが埋もれるのを防げる。
Seedはスタッフなら誰でも投稿でき、これまでに作られたSeedは114件にもなる。また投稿されるものは実験的なプロトタイプが多いため、チーム全体で知見や経験を蓄積できるシステムとしても機能しているという。

ゲーム内だけじゃない。AIシステムで業務効率化
まず紹介されたのは、メッセージアプリやエラーログなど、プロジェクトに関する情報を集約するシステム“GPM”。不具合レポートが送られると、AIエージェントが最適な担当者を推定し割り当てる仕組みとなっている。部署や職種をまたいで情報をつなぎ、担当者が作業へ入るまでの待ち時間の削減に貢献しているという。
続けて紹介されたのはAIシステム“MAGI”。3種の独立したAIエージェントが、それぞれの視点からゲームを検証しレビューするシステムだ。現時点で実装されているAIエージェントは、コアファン、ゲームディレクター、Steam専門家の3パターンで、プレイヤー視点のおもしろさ、ゲームの方向性、セールスポイントを客観的に測っているという。

なお、その名前はやはり『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するスーパーコンピューターに由来を持つとのこと。
ReLU Gamesでは、スタッフが必要に応じてこうしたAIツールを作り活用する文化、職種の垣根を超えてやり取りする文化が根づいているという。
開発中断したプロトタイプから『ミメシス』が生まれるまで
『ミメシス』は2026年8月時点で累計210万本も販売されたヒット作。プレイヤーを模倣するAIは疑心暗鬼を生み、お互いがお互いを牽制し合いながらプレイする様は配信ネタとしても強く、話題にもなった。こうしたゲーム性を持つ本作だが、アン氏によるとプロトタイプは異なるもので、一度はお蔵入りにもなったという。


『ミメシス』の出発点は、“ドッペルゲンガー”と呼ばれるプロジェクト。もともとは3人のプレイヤーがダンジョンに潜り込み、戦利品を稼いでいく、エクストラクション(脱出)アクションとして構成されていた。

そこでは、プレイヤーの戦いかたを学習し襲いかかるモンスター“ドッペルゲンガー”が出現。プレイヤーを真似するというAIらしい新規性を活かした内容となっていたものの、テストプレイで得られた評価は厳しいものだったようだ。
不評の要因として、とくに強かった意見は「このおもしろさは、AIがなくても成り立ちそう」というもの。つまり、AIによる戦闘スタイルの模倣が、おもしろさとして成り立っているのかという疑念だ。

その後、戦闘を複雑化させたり、新要素を追加したりと試行錯誤は続いたものの、おもしろさに繋げることができず断念。一度スタート地点に立ち返り、“何を模倣すればおもしろくなるのか”を考え始めたという。
プロジェクトを見つめ直すにあたり、注目したのはSteam市場で人気の協力ゲームの根幹にあるもの。協力ゲームは信頼できる仲間とのコミュニケーションが、ゲームのコアとなっている。では、その仲間がもし敵だったら、疑わざるを得ない存在だったら、また別のおもしろさが生まれるのではないか。こうした考えから、開発チームはプレイヤー間のコミュニケーションを模倣するAIの開発をスタート。お互いを信じられなくなる恐怖、そしてそこから生まれるおもしろいリアクションを想定し、“ホラー×Co-op×コメディ”という、現在の『ミメシス』につながる骨子が作り出されたという。

AIが生み出す長い不信感

続けてデモ版を展開し、ユーザーの反応を見てみたところ、社内テストでも見られた疑心暗鬼や混乱というリアクションを確認でき、その様子を収めた動画は一気に拡散され、大きな注目を集めるにいたった。

そこから早期アクセス版の開発もスタート。AIを強化し、疑われる状況の多彩化、より人間らしい立ち振る舞いの実現を目標に開発が進められたという。
人間らしい動きには苦労したようで、ほかプレイヤーとの距離感、立ち振る舞いなどを分析し、データを蓄積させて違和感をひとつずつ削っていったとのこと。最終的にはより長い時間プレイヤーを騙すことにも成功し、ゲームとしてのおもしろさに磨きがかかったと語られた。
それでもなお、『ミメシス』のAIの進化は止まらない。より人間らしい振る舞いを目指し、AIの開発は現在も日々進展を見せているという。10月には、この成果となる “AI NPC Mimesis バージョン3.0”がリリースされ、これまで以上に人間らしく、より疑心暗鬼を生む刺激的なAIが実装される予定だそう。

なおこのバージョンアップにあわせ、新たなプレイモードや新マップも実装予定であることが語られた。
またプラットフォームの拡張も検討されており、製品版リリースに向けた今後の展開もますます見逃せないものになりそうだ。
日本でのブレイクは想定外? スタジオの未来を語る

最初に大きな反響を感じたのは、ある配信者の切り抜きショート動画が話題になったタイミングでした。日本でのヒットも、このショート動画がきっかけにあったと思います。そうして日本の配信者たちにもゲームをプレイしてもらえるようになり、そこから日本でヒットしていったと感じています。ゲーム内の出来事を描いたファンアートもヒットの要因になっていますし、そうした派生作品が出てくるのは、開発者としてとてもうれしく思っています。
――これまでに114件のSeedが作られたとのことですが、印象に残っているSeedはありますか? また、Seedから得た知見を教えてください。
しかし、ゲームをおもしろくするためにテンポをよくすれば、長い呪文を唱えている暇がなくなるという発見があり、商品化にはいたっていません。このように、アイデアはおもしろそうでも、実際に遊べる形にして、初めて課題が見えてくるものも多いです。これは大きな知見ですし、Seedの有用性が見えるケースだと思います。
――企画書より先にプロトタイプを作るという方法は珍しいですよね?
簡単な形でも実際に動くものがあれば、ほかの人に共有もしやすいですし、同じものを見ながら意見も交わせます。小規模な開発チームで発想を共有しやすくするためのひとつの答えです。
――『ミメシス』の模倣AIには、言語モデルではなく小型のニューラルネットワークを採用しているようですが、その理由を教えてください。
音声については、生成AIによる合成音声と勘違いされる方もいらっしゃいますが、実際には録音したものを再生しているだけです。プレイヤーが話した音声と、そのときの状況を記録して、Mimesisが似た状況に置かれたときに適切な音声を選んで再生しているだけなので、言語モデルは必要としていないんです。
――Mimesisに“人間らしい行動”を取らせるには、なにが必要と考えているのでしょうか?
――AIってなんでもできそうですけど、逆にAIでの再現が難しいことはありますか?
ドアを通らせる場合にも、それがドアであることや、通れる幅などを教えなければなりません。AIは与えられた情報の中で最善の行動を選びますが、なぜその行動を取ったのかを言葉で説明してはくれません。開発側が、どのような情報を受け取り、どのような過程で判断したのかを考えながら原因を探る必要がある、と教訓を得た事例です。
――将来的には、すべてを理解して人間のように行動するAIも作れるのでしょうか?
――Seedは遊びの検証に向いていると思いますが、おもしろさのコアに行き着くまでが遠い、ストーリードリブンなゲーム開発にも活用できるのでしょうか?

――『ミメシス』の今後の展開を詳しく教えてください。
コンソール展開の話も出てはいますが、現時点では『ミメシス』の完成度を引き上げることが優先事項です。“頼れる仲間が疑念を生む存在”である特徴をさらに強め、ゲームを発展させたいです。現在は10月を目標にアップデート開発を進めています。
――今後のコンテンツは、すでにロードマップが決まっているのでしょうか?
――『ミメシス』以外の新作にも期待してよろしいのでしょうか?
つねにプレイヤーの情報を集めてプレイヤーの行動に応じて反応を返す存在を想定しています。それは監督のようなものなのか、協力者のようなものなのか。まだわかりません。誰かがいっしょにいると感じられるようなゲーム体験になりそうです。
――将来、ReLU Gamesをどのようなスタジオにしたいですか?
――最後に、日本のユーザーへメッセージをお願いします。













