『ミメシス』AI強化の大型アプデや新コンテンツを準備中。AIをより人間らしく動かすための工夫や誕生秘話も語られたトークイベントリポート

『ミメシス』AI強化の大型アプデや新コンテンツを準備中。AIをより人間らしく動かすための工夫や誕生秘話も語られたトークイベントリポート
 2026年8月5日、KRAFTONと同社傘下のクリエイティブスタジオ“ReLU Games”による日本初のトークイベントが開催された。
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 ReLU GamesはAI技術を活用したゲーム開発を専門とする韓国のスタジオ。プレイヤーの姿や行動、声までをも模倣するNPC“Mimesis”が不安と恐怖を煽るサバイバルホラー『MIMESIS』(ミメシス)が代表作に挙げられる。

 トークイベントは3部構成。AI技術チームのイ・ギムン氏と
『ミメシス』ディレクターのアン・ジェホン氏が登壇し、AI技術を活かした独特な開発環境、『ミメシス』開発秘話、今後の展望などが語られた。本稿では、その内容をお届けしよう。
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左:イ・ギムン氏 右:アン・ジェホン氏
※本記事はKRAFTONの提供でお送りします。

ReLU Games独自の開発環境。AIを“ゲームのおもしろさ”に

 第1部に登壇したのは、AI技術チームを率いるイ・ギムン氏。“週に3〜4本のプロトタイプが生まれるスタジオ”と題し、AI技術の知見や業界への影響、開発への応用などが語られた。

 イ氏はまず「AIはゲーム業界に強い影響を与える新技術であるが、あくまでもツールである」とAIの役割を語る。同じカメラ、同じレンズを使っても、何をどういう角度で撮るかで映画の中身が大きく変わるように、AIというツールも、使いかたによって出力されるものが異なるということだ。また、AIを使ったゲーム開発は未知の領域が多く、まだまだ試行錯誤が必要だと告げた。

 こうした未知の領域を探索するため、ReLU Gamesは3つの開発原則を掲げている。

  • 誰もが自分で作り、配布し、修正できる数多くの成果物を生み出すこと。
  • 簡潔に形にした実験的プロトタイプを開発の出発点とすること。
  • 固定的な職務の境界を越えて問題の解決に集中することだ。
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 この考えを支えているのが、ReLU Gamesが開発した社内ツール “Nolan”と、 独自の開発フロー“Seed”だ。

 Nolanはローカル環境で作られたゲームの生データを、共有サーバーへアップロードするだけで、ほかのスタッフがすぐにプレイできるような環境を整えるツール。ただゲームを公開するだけでなく、他者が修正を加えた別バージョンを作ったり、アイデアをコメントしたりもできる。社内向けのゲームプラットフォームサービスのようなものと考えていいだろう。
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 実例として出されたのが、アート職スタッフが登録した2D版『ミメシス』。“オリジナル版をやってみたいけど3D酔いで遊べない人のためのゲーム”として提案され、これには社内から586件ものコメントが寄せられたとのこと。
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画像右下のものが2D版『ミメシス』。
 Seedは、AIとゲームの組み合わせの可能性を模索し、仮説を実証確認していくフロー。開発提案をするにあたって、まずプロトタイプを共有し、そのおもしろさの根拠を分析していくというのがおもな取り組みになる。
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 一般的なゲーム開発会社で新作を開発するには、まずアイデアを企画書にまとめ、それをもとに開発を検討することになる。しかしこうしたフローでは、立案者のイメージやアイデアがうまく伝わらず、実際に触ってみればおもしろいものも埋もれてしまう可能性がある。

 企画書ではなくプロトタイプを共有すれば、立案者のイメージやコアとしているおもしろさをわかりやすく伝えられるようになり、アイデアが埋もれるのを防げる。

 Seedはスタッフなら誰でも投稿でき、これまでに作られたSeedは114件にもなる。また投稿されるものは実験的なプロトタイプが多いため、チーム全体で知見や経験を蓄積できるシステムとしても機能しているという。
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ゲーム内だけじゃない。AIシステムで業務効率化

 プロジェクト運営にもさまざまな独自AIシステムが導入されている。

 まず紹介されたのは、メッセージアプリやエラーログなど、プロジェクトに関する情報を集約するシステム“GPM”。不具合レポートが送られると、AIエージェントが最適な担当者を推定し割り当てる仕組みとなっている。部署や職種をまたいで情報をつなぎ、担当者が作業へ入るまでの待ち時間の削減に貢献しているという。

 続けて紹介されたのはAIシステム“MAGI”。3種の独立したAIエージェントが、それぞれの視点からゲームを検証しレビューするシステムだ。現時点で実装されているAIエージェントは、コアファン、ゲームディレクター、Steam専門家の3パターンで、プレイヤー視点のおもしろさ、ゲームの方向性、セールスポイントを客観的に測っているという。
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 なお、その名前はやはり
『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するスーパーコンピューターに由来を持つとのこと。

 ReLU Gamesでは、スタッフが必要に応じてこうしたAIツールを作り活用する文化、職種の垣根を超えてやり取りする文化が根づいているという。

開発中断したプロトタイプから『ミメシス』が生まれるまで

 第2部では、『ミメシス』ディレクターのアン・ジェホン氏が登壇した。

 『ミメシス』は2026年8月時点で累計210万本も販売されたヒット作。プレイヤーを模倣するAIは疑心暗鬼を生み、お互いがお互いを牽制し合いながらプレイする様は配信ネタとしても強く、話題にもなった。こうしたゲーム性を持つ本作だが、アン氏によるとプロトタイプは異なるもので、一度はお蔵入りにもなったという。
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 『ミメシス』の出発点は、“ドッペルゲンガー”と呼ばれるプロジェクト。もともとは3人のプレイヤーがダンジョンに潜り込み、戦利品を稼いでいく、エクストラクション(脱出)アクションとして構成されていた。
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 そこでは、プレイヤーの戦いかたを学習し襲いかかるモンスター“ドッペルゲンガー”が出現。プレイヤーを真似するというAIらしい新規性を活かした内容となっていたものの、テストプレイで得られた評価は厳しいものだったようだ。

 不評の要因として、とくに強かった意見は「このおもしろさは、AIがなくても成り立ちそう」というもの。つまり、AIによる戦闘スタイルの模倣が、おもしろさとして成り立っているのかという疑念だ。
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 その後、戦闘を複雑化させたり、新要素を追加したりと試行錯誤は続いたものの、おもしろさに繋げることができず断念。一度スタート地点に立ち返り、“何を模倣すればおもしろくなるのか”を考え始めたという。

 プロジェクトを見つめ直すにあたり、注目したのはSteam市場で人気の協力ゲームの根幹にあるもの。協力ゲームは信頼できる仲間とのコミュニケーションが、ゲームのコアとなっている。では、その仲間がもし敵だったら、疑わざるを得ない存在だったら、また別のおもしろさが生まれるのではないか。こうした考えから、開発チームはプレイヤー間のコミュニケーションを模倣するAIの開発をスタート。お互いを信じられなくなる恐怖、そしてそこから生まれるおもしろいリアクションを想定し、“ホラー×Co-op×コメディ”という、現在の『ミメシス』につながる骨子が作り出されたという。
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AIが生み出す長い不信感

 アン氏によれば『ミメシス』初期プロトタイプのAIは、プレイヤーを2秒ほど騙せる程度の完成度だったという。しかし、この2秒がプレイヤーの不信感を生み出す現象を起こしており、ゲームとしてのおもしろさに確信が持てたと話した。
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 続けてデモ版を展開し、ユーザーの反応を見てみたところ、社内テストでも見られた疑心暗鬼や混乱というリアクションを確認でき、その様子を収めた動画は一気に拡散され、大きな注目を集めるにいたった。
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 そこから早期アクセス版の開発もスタート。AIを強化し、疑われる状況の多彩化、より人間らしい立ち振る舞いの実現を目標に開発が進められたという。

 人間らしい動きには苦労したようで、ほかプレイヤーとの距離感、立ち振る舞いなどを分析し、データを蓄積させて違和感をひとつずつ削っていったとのこと。最終的にはより長い時間プレイヤーを騙すことにも成功し、ゲームとしてのおもしろさに磨きがかかったと語られた。

 それでもなお、『ミメシス』のAIの進化は止まらない。より人間らしい振る舞いを目指し、AIの開発は現在も日々進展を見せているという。10月には、この成果となる “AI NPC Mimesis バージョン3.0”がリリースされ、これまで以上に人間らしく、より疑心暗鬼を生む刺激的なAIが実装される予定だそう。
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 なおこのバージョンアップにあわせ、新たなプレイモードや新マップも実装予定であることが語られた。

 またプラットフォームの拡張も検討されており、製品版リリースに向けた今後の展開もますます見逃せないものになりそうだ。

日本でのブレイクは想定外? スタジオの未来を語る

 第3部ではファミ通グループ代表・林克彦が登壇。イ・ギムン氏とアン・ジェホン氏との対談形式でAIの仕組み、これまでのプロトタイプ、日本での反応などについて語られた。
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ファミ通グループ代表・林克彦
――『ミメシス』は日本でも大きな人気を集めています。日本でのブレイクをどのように受け止めていますか?

アン
 『ミメシス』は特定の地域ではなく世界に向けてリリースされたものですが、とくに日本からの人気を集めていて、うれしいです。

 最初に大きな反響を感じたのは、ある配信者の切り抜きショート動画が話題になったタイミングでした。日本でのヒットも、このショート動画がきっかけにあったと思います。そうして日本の配信者たちにもゲームをプレイしてもらえるようになり、そこから日本でヒットしていったと感じています。ゲーム内の出来事を描いたファンアートもヒットの要因になっていますし、そうした派生作品が出てくるのは、開発者としてとてもうれしく思っています。

――これまでに114件のSeedが作られたとのことですが、印象に残っているSeedはありますか? また、Seedから得た知見を教えてください。

 印象に残っているのは、マイクで呪文を唱えて魔術を発動させるゲームです。プレイヤーが自分だけの呪文を設定できればおもしろいのではないか、という発想から生まれた作品で、思い思いの詠唱ができるプロトタイプが開発されました。

 しかし、ゲームをおもしろくするためにテンポをよくすれば、長い呪文を唱えている暇がなくなるという発見があり、商品化にはいたっていません。このように、アイデアはおもしろそうでも、実際に遊べる形にして、初めて課題が見えてくるものも多いです。これは大きな知見ですし、Seedの有用性が見えるケースだと思います。

――企画書より先にプロトタイプを作るという方法は珍しいですよね?

 企画書が必要ないという意味ではありません。チームで本格的にゲームを作るには、最終的に企画書も必要です。ただ、アイデアを共有するのは簡単ではありません。そこである程度プロトタイプとして形があれば共有しやすいのではと考え、こうしたシステムを採用しています。

 簡単な形でも実際に動くものがあれば、ほかの人に共有もしやすいですし、同じものを見ながら意見も交わせます。小規模な開発チームで発想を共有しやすくするためのひとつの答えです。

――『ミメシス』の模倣AIには、言語モデルではなく小型のニューラルネットワークを採用しているようですが、その理由を教えてください。

 まず、Mimesisの行動と音声は、分けて処理しています。行動については、その場の状況を分析し、ニューラルネットワークへ入力して、つぎの目的や行動を決めています。『ミメシス』が必要とするリアルタイムの状況判断では、大規模な言語モデルを使うよりも、小さなネットワークをゲームに合わせて調整するほうが適しているんです。

 音声については、生成AIによる合成音声と勘違いされる方もいらっしゃいますが、実際には録音したものを再生しているだけです。プレイヤーが話した音声と、そのときの状況を記録して、Mimesisが似た状況に置かれたときに適切な音声を選んで再生しているだけなので、言語モデルは必要としていないんです。

――Mimesisに“人間らしい行動”を取らせるには、なにが必要と考えているのでしょうか?

アン
 その文脈や背景(コンテクスト)の中、多様な行動ができることでしょうか。“その文脈に合っている多彩な行動を取ること”が人間らしさにつながると考え、そのようにAIを調整しています。人間らしさについては3~4ヵ月ほど考えたこともありましたね。

――AIってなんでもできそうですけど、逆にAIでの再現が難しいことはありますか?

 意外かもしれませんが、人間にとって簡単なことができないことがあります。たとえば、Mimesisが壁を見たまま動かなくなったことがあります。調べてみると、AIに必要な情報を与えていなかったことが原因でした。

 ドアを通らせる場合にも、それがドアであることや、通れる幅などを教えなければなりません。AIは与えられた情報の中で最善の行動を選びますが、なぜその行動を取ったのかを言葉で説明してはくれません。開発側が、どのような情報を受け取り、どのような過程で判断したのかを考えながら原因を探る必要がある、と教訓を得た事例です。

――将来的には、すべてを理解して人間のように行動するAIも作れるのでしょうか?

 必要なことをすべて教えられれば、理論上は可能かもしれません。ただ、実際にすべてを教えるのは非常に難しいでしょう。

――Seedは遊びの検証に向いていると思いますが、おもしろさのコアに行き着くまでが遠い、ストーリードリブンなゲーム開発にも活用できるのでしょうか?

 AIから何が出力されるかは、それを使う人と目的によって変わります。ReLU Gamesでは「誰でも魔法少女になれる」というメッセージをこめたゲームを開発しました。使いかた次第で活用法があると考えています。
『ミメシス』AI強化の大型アプデや新コンテンツを準備中。AIをより人間らしく動かすための工夫や誕生秘話も語られたトークイベントリポート
※『魔法少女☆可愛いラブリー★ずきゅんどきゅんばきゅんぶきゅん☆ルルピン』Steamストアページより引用。
――『ミメシス』の開発期間は約2年と非常に短期間ですよね。なにが効果的に働いてこの短期間で制作できたのでしょうか?

アン
 『ミメシス』は開発を中断したプロトタイプからの着想を含め、約2年で早期アクセス版をリリースできました。背景には柔軟に対応できるReLU Gamesの開発カルチャーがあったからだと思います。早い段階でおもしろさの確認をして、ユーザーからのフィードバックもいただけました。

――『ミメシス』の今後の展開を詳しく教えてください。

アン
 装備、アイテムなどコンテンツ量がまだまだ十分ではありません。まずは、ゲームのおもしろさとリプレイ性を引き上げて、そのうえで正式リリースすることが私たちの責任だと考えています。

 コンソール展開の話も出てはいますが、現時点では『ミメシス』の完成度を引き上げることが優先事項です。“頼れる仲間が疑念を生む存在”である特徴をさらに強め、ゲームを発展させたいです。現在は10月を目標にアップデート開発を進めています。

――今後のコンテンツは、すでにロードマップが決まっているのでしょうか?

アン
 今後1年ほどの計画はありますが、プレイヤーの反応を見ながら柔軟に対応するつもりです。コメントやレビューを確認し、必要であればロードマップの変更もありえます。前例の少ないジャンルなので、多くの意見が重要です。

――『ミメシス』以外の新作にも期待してよろしいのでしょうか?

 『MIMESIS』とは別に、もう1作品リリースしたいと考えています。そこで実装を検討しているのが、“Overhearing AI”、聞き耳を立てるAIです。

 つねにプレイヤーの情報を集めてプレイヤーの行動に応じて反応を返す存在を想定しています。それは監督のようなものなのか、協力者のようなものなのか。まだわかりません。誰かがいっしょにいると感じられるようなゲーム体験になりそうです。

――将来、ReLU Gamesをどのようなスタジオにしたいですか?

 AIを使ったゲーム開発はまだまだ未開のジャンルであり、データが十分ではありません。私たちは数多くのプロトタイプとフィードバックを蓄積した、データが豊富なバイブル的スタジオになれればと思っています。

アン
 それにはアイデアを共有しやすい場を作ることも大切です。誰もが動きやすいこの開発プロセスを今後も強化していきたいですね。

――最後に、日本のユーザーへメッセージをお願いします。

アン
 日本市場からいただいた反響は、現実離れした夢のようにも感じています。私たち自身、まだ学んでいる段階で、わからないことも多くあります。それでも『ミメシス』に興味を持ち、遊んでいただいた皆さんに、この場を借りて感謝をお伝えしたいです。

 “CEDEC AWARD 2026”ゲームデザイン部門優秀賞がとてもうれしいです。ゲーム開発者としてCEDECからは多くを学びました。自分たちの取り組みを評価していただけたことを、本当にうれしく思っています。
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