死んでもなお終わらない、永遠の冬の物語
そしてローグライク、ローグライトの中には“なぜ敗北しても再挑戦できるのか?”を示してくれる作品がある。
『トルネコの大冒険』では、ももんじゃが(身ぐるみを剥いだうえで)蹴り出してくれるから地上に戻ってこられる。『Dead Cells』では、主人公は死体に寄生する謎の生命体であり、排水管を通れるので敗北したら管を通って最下層に戻ってくる。『FTL: Faster Than Light』ではそもそも毎回別の船なので、負けたらそこで終わり。つぎの船の物語が始まる。
迫力のあるムービーでも長大なテキストでもない、ほんの瑣末な設定が物語に説得力を生じさせる。本作『Wildfrost』も、そうした“過酷な旅路への再挑戦がなぜ行えるのか?”を描き、再挑戦のお約束を物語の構造へと昇華させている傑作のひとつである。

受け継がれる日誌、受け継がれる冒険譚
リーダー(プレイヤーが操作する人物)もワイルドフロストの解決手段を探して雪原を旅する数多の冒険者たちのひとり。だが主人公はほかの冒険者と違って何ら特殊な能力は持たない。仲間になる冒険者たちと比較するとむしろ地味なくらいで、能力だけを見ればモブキャラと言ってもいい。

謎の日誌には現在の世界の状況やそれに対抗する冒険者たちの存在、そしてこの日誌のかつての持ち主もワイルドフロストに挑んだひとりであったことが綴られている。

先に書いたように、リーダーは何も特殊な能力のない凡庸な冒険者に過ぎない。耐えられない。甦れない。死んだら終わりだ。

リーダーが死んでも日誌だけは拠点の町へと戻り、別の者に拾われるのだ。そして以前のリーダーがそうであったように、拾った者がワイルドフロストに足を踏み入れる新たな挑戦者となる。つまり、プレイヤーは受け継がれる日誌であると言い換えてもいい。リーダーが死んだとしてもプレイヤーの冒険は終わらないのである。
この点こそが『Wildfrost』というゲームにおいてもっともユニークな点……というとシンプルにゲームシステムそのものを好んでいる層には反対されるかもしれないが、筆者がもっとも推したい点である。
昨今では周回すればするほど基礎的なステータスアップによる永続強化手段があるローグライク、ローグライトも多いが、本作においてプレイヤーはゲーム内の冒険者ではない。だから永続的な強化手段も存在しない。
プレイヤーはあくまで日誌だ。これまで得た経験と培った思考によってリーダーを導かなくてはならないのだ。
拠点を発展させ、個性豊かな部族とともに進め

ケモっぽいお姉さんが出迎えてくれるペット屋、セクシー褐色お姉さんの温泉、開口一番に「俺んちなんかによく来たな!」とか言い出すセイウチの店といった種々様々な店がある。なんだコイツ。
拠点となる町には最初こそ何もないが、旅の中で条件を満たすことで新たな要素が解放されていく。発展をくり返していけば、仲間になる冒険者が増えたり、旅路で利用できる施設が新たに登場したり、連れて行けるペットの種類が増えたりとさまざまな恩恵を受けられる。

先述した通り、旅に出る際には3人の中からひとりをリーダーとして選ぶことになる。最初はスノードウェラーと呼ばれる部族しか存在しないのだが、ゲームを進めていくと部族が増えていくのだ。ちなみにスノードウェラーは説明からして、拠点であるスノードウェルの町を築いた部族であるようだ。
スノードウェラーはいかにも雪国っぽい厚着の格好の人々がいる一方で、温泉に入る気マンマンの半裸の人々やキノコっぽい種族、やたらドングリっぽい生命体もいる。
ちなみに彼らの能力は敵を雪で固めたり毒にしたり、自身をスパイスで強化したりと、最初から選べる部族のわりに戦いかたがやたらいやらしい。ドングリマンたちは「あ、自分らドングリしか食べないんで〜」みたいに飲み会の誘いを断りそうな顔をしているが、一部は異常に殺意の高い能力を持っていたりもする。

拠点の発展により最初に解放される部族がシェイドマンサー。ユニットを召喚する“サモン”を唯一行える部族だ。
見た目はかなりステキなのだが、自分のユニットを犠牲にするようなテクニカルな戦いが求められるのでなかなかに扱いが難しい。ビジュアルも、血まみれのナイフ持った獣、仮面を着けた道化師、メカクレ、同じ部族に獣がいるのに獣の被り物をしているイケメン、体高の3分の2が口になっていて仲間を食うために同行していると思しき紫、あとなんかよくわからないベリーの化身みたいな……何? となかなかに複雑。

本作には仲間“ユニット”と使い切りの“アイテム”のほか、“クランカー”というユニットとアイテムの中間のような設置式のカードがある。名前からして、クランクマスターたちが作ったものなのだろうが、彼らがとくにクランクと相性がいい……というわけではない。爆弾を扱ったり、機械を持っていたり、ロボに乗っていたりと見た目からして楽しく、やたらいい笑顔のキャラが多い。

部族は3種類というと少ないように聞こえるかもしれないが、ここまで書いたようにキャラの幅は非常に広く、そして変だ。新たな仲間に出会うと、それだけで楽しくなる。ちなみに仲間にしたことのあるキャラや手に入れたアイテムのデータなどは図録で確認できる。

仲間となるユニットは道中で氷漬けにされており、これを溶かしてやることで仲間に加わるという形。このあたりもストーリーとの整合性がある部分で、前回の道中で仲間になったキャラは死亡せずに氷漬けになってしまった、ということなのだろう。
マップ上には仲間ユニットの氷漬け以外に、なぜか6本足のリャマのようでいてカタツムリように建物を背負った店、なぜか金が拾えるカタツムリの巣穴、なぜかカードを食ってくれる謎の生き物など、風邪を引いたときに見る悪夢のようなものがゴロゴロと出てくる。この世界はワイルドフロストによって雪と氷に包まれているが、こうした通行人の存在のおかげで白一色の単調な道程にはなっていない。

プレイするほどに味が出るゲームシステム
本作は『Slay the Sprite』を皮切りに流行したデッキ構築型ローグライトをベースとした戦闘システムを採用している。『Wildfrost』にはユニット、アイテム、クランカーの3種類のカードが存在する。これらはおもに即時性と持続性の点で差別化される。

アイテムは直接場に作用する使い切りのカード。味方の攻撃力を上げたり、敵を凍結させて行動を停止させたり、直接ダメージを与えたりとさまざまな効果がある。ほとんどのアイテムは使用して即効果を発揮してくれる。

いずれのカードもプレイすると1ターン消費するが、ユニットやクランカーはターンを消費せずに移動できる。
なお、敵はユニットと同じ性質を持ち、ターン経過でカウントが減少して0になると正面に攻撃を仕掛けてくる。そのため、いつ・どこに攻撃してくるかは(基本的に)予測が可能だ。うまいこと体力の高いユニットで攻撃を受けて自軍の被害を減らしていくことが勝敗の鍵を握る。

たとえばスノードウェラーの初期デッキにある《雪の棒》はユニット1体に2雪玉マーク=〈2スノー〉を与える効果だ。スノーなので、2ターン凍結してしばらくのあいだ行動できなくなる、と名前から効果が想像しやすい。
攻撃手段そのものを追加する能力も存在する。〈カミツキ〉は攻撃されたときに反撃する能力だ。「攻撃されたら噛み付いて返すのだな」となんとなくわかる……わかるのではないか? 不安になってきたな。わかるよな? ちなみに〈オカエシ〉というまた別の反撃能力も存在する。
また〈ヌームリン〉はぬーむる能力である。何? ちなみに〈ヌームリン〉はターン消費しないという強力な効果だが、カードの効果そのものが弱いものについている。

効果は単純だが考えることは多い。同一ターンに敵を倒すともらえる金銭報酬が増えるコンボ要素もあるため、難度が上がってくると単純に敵を倒す以上の工夫が求められる。ゲームを通して資金管理はかなり重要でシビアである。
カード効果は1枚1枚がシンプルめな一方で、制限が少ないため意外な使いかたができるものもある。
たとえばスノードウェラーの初期アイテムである攻撃用の《ぼろぼろの剣》というアイテムは敵にダメージを与えるのがおもな用途だが、効果には“敵に”と書かれていないため、味方にも使うことができる。状況によってはこれでダメージを受けたときの効果や死んだときの効果を安全に誘発することも可能だ。
またカードに直接効果を付与できる”クラウン”という拡張要素も本作の奥深さを演出するひとつ。クラウンをつけたカードは戦闘開始時にターン消費することなく使えるため、基本的に早めに出したいユニットにつけることが多い。
しかしじつはクラウンはアイテムやクランカーにもセットでき、戦術の幅を広げることができる。アイテムやクランカーにセットした場合でも、クラウン付きのカードは戦闘開始時にターン消費なく使用できるようになる。そのため、あらかじめ特定のユニットだけを場に出しておけば、本来は対象がランダムな効果でも、そのユニットに確実に当てられるわけだ。
難易度と誰なんだ
序盤こそ鼻歌フンフンでプレイしていたのに、途中からなんか急に「えっ……おっ、おかしいな」という難しさになってくる。初見では最後まで辿り着くことすら難しく、そのまま日誌が拠点に戻ることになるだろう。
ラスボスまで行くと「ズルいだろそれは……」と言いたくなるような攻撃も飛び出してきて驚かされることも。とはいえ、実際にズルいのは外部から干渉するプレイヤーなので、舌打ちするくらいしかできない。慣れてくればけっして理不尽な難度ではないので、挑戦する気概がある方におすすめしたい。
最後に一点、ゲームの本筋とは関係ないのだが、『Wildfrost』に関して最大の問題点がある。公式ページや各ストア、そして本記事のサムネイルに設定されているイラストだ。

しかし。しかしである。中央にもっとも目立つように描かれた、赤みがかった茶髪に毛先が明るいブルーという現代的な色合いの女の子、この子はゲーム中に登場しないのである。このWildfrostちゃん(仮称)はいないのである。
存在しないのである。
余談だが、筆者はSteam向けにインディーゲームを作っており、Steamストアでも販売している。ストアを作る際にはレビューがあり、そこでは意外と細かな点を指摘してくる。たとえば「スクリーンショットがちゃんとゲームのものになっていない」というようなことも言われたことがある。スクリーンショットが古く、タイトル画面でDLCなどを表示するアイコンがなかったからなのだが、「よく見とんな!」と深夜に声を出したものである。
スクリーンショットというものは意外と重要なのだ。公式ページやストアのイラストはゲーム中では使われていない(タイトル画面はもっとシンプルな画像である)ので正確にはこれはスクリーンショットではないのだが、トップページにも載っているイラストなので、いわばこれはゲームの顔であると言えよう。それなのにゲーム中に出さなくていいのか?
そういえば映画『パラドクス』(※1)でパッケージに写っている女性は作中で出てこなかった。『機動武闘伝Gガンダム』でネオロシアのボルトガンダムを駆るアルゴ・ガルスキーが(サイ・サイシーといっしょに)歌うキャラソンがあるのに、作中で歌うシーンなんてなかった。
そういうことなのか? いいのか、そういうことして。『チャイナシャッフル』(※2)なのか? ちくしょう、出してくれよ、Wildfrostちゃん(仮称)を!
それにしても、日誌はワイルドフロストを止めるための手段があることを示唆してくれているようだが、本当に旅の果てでワイルドフロストは止められるのだろうか? そして止めたとき、リーダーと日誌は果たしてどうなるのだろうか?













