2023年11月9日にSteamとSwitchで登場した本作は、ワイヤーフックアクションが最大の特徴だと思っていた。たしかにアクションも気持ちいいが、それだけではなかった。ストーリーが深い、泣けると話題になり、世界中の多くのゲーマーを虜にしてしまったのだ。
たしかに、すごかった。一度引き込まれたらズブズブと深いところまでハマっていくような、“一気にプレイ”したくなるタイプの作品だった。8~15時間ほどのボリュームのなかに、濃密な体験が詰まっていた。
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プラットフォームアクションとは、ざっくりと説明するなら“さまざまな仕掛けを乗り越えつつ、ジャンプで足場から足場へと飛び移ってゴールを目指す”ジャンルだ。操作の腕が求められる分、“爽快感”や“達成感”などが訴求されることが多い印象だが、本作はそれ以上にストーリーを推す声がとても多い。
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「前置きは結構だ。結論を出してくれ。」と言いたくなった。つまり、
……ストーリーがとてもよかった。
そのひと言に尽きるのだが、もっと語りたいので、そう思うまでの過程も書き記しておく。そういうことも大事だと、このゲームから受け取ったから。
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SANABIクリアしました。
— 岸大河/ Taiga Kishi (@StanSmith_jp) December 13, 2023
1年分泣きました。
個人的に今年遊んでよかったゲームTop3に入る。
神ゲーを作ってくれてありがとう。#SANABI pic.twitter.com/cZJU02FkYn
強烈な動機とチェーンフック
これを受けてマゴ特別市に侵入する任務を請け負った主人公は、伝説的な退役軍人(准将)。チェーンフック付きの義手を携えた男は、一度前線を退いた身でありながら、混沌とした状況にひるむことなく、危険を顧みず突き進んでいく。
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この主人公、表情を帽子の奥に隠した寡黙な男なのだが、プレイヤーがまず理解することになるのが“愛娘を失った復讐心”だ。
不器用そうな父親が愛する娘と過ごす、あまりにも短い幸せな時間が描かれると同時に、その喪失から始まる物語。切ない部分を担っているのが基本操作を覚えるチュートリアルというのが憎い。通常、チュートリアルの時間は短い方がうれしいのだが、主人公の娘の一挙手一投足がかわいすぎて「これならずっとチュートリアルでいいや!」と思ったくらいだ。
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もちろんアクションゲームとしての手触りも高水準だ。チェーンフックを使ったグラップリングは攻撃と移動を兼ねており、スイングを駆使した高速移動と、敵を拘束して“処刑”する動きが組み合わさり、縦横無尽に駆けまわれる爽快なもの。ゲームを進めていくごとに、できるアクションは段階的に増えていく。
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ここで特筆すべきなのは、本作が2Dのドット絵だからこそできる表現に溢れていること。あるときはケレン味の効いたチェーンアクション、あるときにはコミカルな演出、またあるときには息を飲むような引きのアートワーク。3Dを活かしたリアルな表現じゃないからこそ、想像力を働かせていることに気づく。
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世界観もキャラクターも、脳内イメージの中では驚くほどに表情豊かだった。プレイヤーの想像力にゆだねるのがうまく(とくに主人公の所作)、ドット絵のよさをこれでもかというほど引き出している。主人公の怒りも、娘の愛らしさも、都市の退廃的な空気感も、すべて緻密なドット絵から伝わってくる。
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彼の復讐心はチェーンフックを通して筆者に流れ込んでくる。セリフで感情を伝えるゲームは数あれど、アクションが主人公とプレイヤーの感情の橋渡しをするゲームは珍しいのではないかと思う。『SANABI』は喜怒哀楽をアクションに乗せる作品だった。
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“サンナビ”の謎に没頭する
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とはいえ、ストーリーが読みたい人にとっては、足場を乗り移るアクションというのはプレイ体験の分断になりうるもの。バトルの難易度はプレイヤーの選択によって変更できるが、落下するとミスになってしまう場面については共通の壁として立ちふさがってくる塩梅。
筆者は移動を強制されるシチュエーションなどにはストレスを感じてしまうタイプだ。正直な話、“真相を解明する重要なパートで消える足場を乗り継いで先に進まなければいけない”なんて状況は、いささか苦痛だ。だが、それでもプレイを続けさせる魔力が本作にはあった。先を先を見たくなる。
困難な道中におけるモチベーションとして強く引っ張ってくれるのが、事件の謎に深く関わっている存在、“サンナビ”だ。それは主人公が復讐の対象として追っているもの。愛娘を奪ったもの。しかし、その正体がなかなかつかめない。
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そしてもうひとつ大切なのは、物語のカギとなる天才ハッカー・マリの存在だ。愛らしくて頼もしい、おしゃべりな少女。泣きわめいたり、怒ったり、ドヤ顔をしたり、思わせぶりなことを言ってプレイヤーの気持ちを振り回したり。
見ていて飽きない清涼剤でありながら、彼女も喪失感を隠せない人物として、主人公とのやり取りが徐々に気になってくる。
“サンナビ”の謎について、追及は進んでいるのか進んでいないのか。その真相が気になりだしたら、もはやプレイの止めどきを見失っていることだろう。なにせタイトルを冠しているのだ。深淵を感じさせるキーワードとして、ゲームを始めたころからずっと胸の奥でうずいていた。
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気が付けば、
「“サンナビ”ってどんなやつ?」
「“サンナビ”って何だよ」
「また“サンナビ”だ!」
「“サンナビ”って……?」
「“サンナビ”&%$#”!」
と、無我夢中だった。本作のストーリーは優れているが、テキスト量が膨大というわけではない。吹き出しベースのためコミックに近く、読み疲れしない工夫が施されている。文章での説明は不要。キャラの仕草ひとつとっても膨大な感情が秘められているようだった。
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ステージはリニア(一本道)な仕組みになっているため、攻略で迷うことはほぼない。育成要素のないシンプルな2Dアクションであることによって、(手こずる場面もあれど)テンポよく場面が進んでいくことは、熱量高くプレイし続けられた要因のひとつだ。
物語の背景に関しても、明確に語られるところと語られないところがある。作り込まれた世界観に対して、情報が開示される範囲がきっちりしている。サウンドのよさや画のきれいさも相まって、遊べるビジュアルブックといった趣だ。
そして何より、“言い回しのよさ”が推せる。発売当初はローカライズに難があった(らしい)のだが、アップデートによって改善されて久しい。記事冒頭で引用した主人公のセリフも、なにかと結果・結論を急ぐ准将の性格を端的に現しつつ、作品がまとうハードボイルド感を表現。クールで、ハードボイルドで、おしゃれな演出である。
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『SANABI』をひとたびプレイすれば、謎が謎を呼ぶサスペンスのような展開にのめり込む。本作の副題は“The Revenant”(亡霊)。それはプレイヤーのことかもしれない。なにかにとりつかれたように突き進み、ふたりの行く先を見届けることになるだろうから。
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何を思い、プレイするのか
というのも、ふだんまったく物語に触れていない人でもなければ、ある程度導きだせるように伏線が丁寧に張り巡らされているから。もちろん、予想がつかなかった場合もそれはそれで楽しい体験になるはずだ。寄り道要素がない作りにも関わらず、答え合わせのように2週目をプレイしたくなるほど、その描写は細かい。
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「最後までやり遂げることが大事ってわけじゃないの!」とは、物語序盤から繰り返し登場する印象的なフレーズ。
ゲームをプレイするとき、全面クリアーすることだけが重要だろうか。最初に抱いた気持ちを貫徹すべきだろうか。本作のラストは「ああ、もう終着なのか」と、もしかしたら誰かにとっては肩透かしかもしれなくて。
筆者にとっては、しっかりと受け止めるべき物語だった。提示されるテーマと、自分が歩んできた約10時間の経験が合致する。当初は復讐に燃えていたはずだ。“サンナビ”が何を指すのか、追い求めたくて仕方がなかった。そして最終局面を迎えたとき、抱いた感情はどんなものだったか。
チェーンフックのスイングアクションにすっかり慣れたことを実感しながらステージを駆け抜けていくとき、エンディングを迎えることに対して、少し躊躇の気持ちも芽生えた。この道程を辿るために、本作がプラットフォームアクションであることに意義があると感じた。
それはまさにゲームでしか得られないプレイ体験。エンドロールとともに記憶を噛み締め、この結論を出した。それはとても当たり前のひと言で説明がつく。
……ストーリーがとてもよかった。
『SANABI』は筆者にとって最高のゲームだった。みなさんも心が揺さぶられる体験を味わってほしい。
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