データイーストIPは死なず! 権利を保持するジー・モードの担当者にライセンス事業戦略を訊く。「唯一無二の魅力を持つデコIPの魅力を今後もアピールしていきたい」。デコカセに対する想いも

by古屋陽一

データイーストIPは死なず! 権利を保持するジー・モードの担当者にライセンス事業戦略を訊く。「唯一無二の魅力を持つデコIPの魅力を今後もアピールしていきたい」。デコカセに対する想いも
 1976年に設立され、『マジカルドロップ』シリーズや『戦え原始人』シリーズ、『ファイターズヒストリー』シリーズ、『探偵 神宮寺三郎』シリーズ、『カルノフ』など、数々の人気作を輩出してきたデータイースト。“デコ”の愛称で多くのファンに親しまれた同社は2003年に自己破産を申請。そのIPの版権は複数のゲームメーカーに引き継がれることになった。

 ジー・モードも継承会社のひとつで、2004年に一部の版権を取得。以降、移植作やリメイク作をリリースしている。そんなデータイーストIPだが、じつは近年注目度が高まっているのだという。データイーストIP運営にまつわる方針や苦労話などを聞いた。
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松岡玄祐氏まつおかとうすけ

ジー・モード IP事業部マネージャー(プロデューサー) (文中は松岡)

データイースト愛がなければIP使用の許諾はしない

――ジー・モードがデータイーストの版権を取得したのは2004年とのことですね。

松岡
 はい。データイーストが2003年に倒産したのに合わせて、同社の版権を100タイトル以上取得しました。データイーストの版権は、そのほか3、4社が取得していますね。

――それだけ、データイーストのIPが魅力的だったということでしょうか。

松岡
 そうですね。当時の詳細な事情を知る者がいないので、明確には何ともお答えしづらいところですが……。私自身に関してお話しさせていただきますと、ジー・モード在籍は20年以上を数えまして、2017年からデータイーストの版権を管理する仕事をしています。

――データイースト版権を管理するにあたっての方針を教えてください。

松岡
 オリジナルはファンの方がたくさんいらっしゃるIPなので、操作性なども含めて、当時のままをなるべく再現したものをリリースしたいという考えが軸としてあります。一方で、新しいファンを広げていくというところで、リメイクも含めて新しいことに挑戦してほしいという思いもあります。その二方向ですね。

――オリジナルを大切にしつつ、IPの新しい展開にも積極的に取り組みたいということですね。

松岡
 そうですね。リメイクなどに関しては、どんどん新しいことにトライしてくださっていいですとはお伝えしています。そもそもデータイースト自体が、新しいことに積極的に取り組む会社だったんですよ。たとえば、ほかのゲームのキャラクターをつぎのゲームに登場させるとか、ある意味遊び心がとてもある会社だったので、そういう“伝統”は引き継いだほうがユーザーさんにも喜んでいただけるのかなと。

――“伝統”ですか。

松岡
 当時のスタッフさんとお話する機会もあるのですが、皆さん新要素などに対して喜んでくださっています(笑)。

――“データイーストの文化も受け継ぐ”といったところでしょうか。

松岡
 ただ、お仕事をごいっしょさせていただくにあたっては、「データイーストを愛しているからリメイクを作りたい」という前提がないと、僕はお受けしないようにしています。逆に言うと、“データイースト愛”があれば、おかしなことにはならないと思っています。そこは大前提ですね。

――愛がないとダメということですね。

松岡
 はい。「このゲームが好きだからやりたい」とおっしゃってくださる会社さんとしかお付き合いしないです。

――データイーストIPに対する世界での反応はどうなのですか?

松岡
 わかりやすく数字でご回答しますと、IPへのお問い合わせを基準にすると、アメリカ40%、日本が30%、ヨーロッパが20%で、残りの10%がそのほかの国で占められている注目度のイメージです。

――データイーストブランドは、アメリカでとくに人気が高いのですね。

松岡
 僕も当時の状況は把握し切れていないのですが、1980年代にはアメリカにも現地スタッフを採用して支社を設立するなど、当時の社長はアメリカ市場での展開にも熱心だったようですね。パッケージやチラシなども、日本向けとは別にアメリカ向けも作っていたようです。それでおもしろいのが、日本のデータイーストのゲームというと、ギャグというか、どこかクスッと笑える要素が目立つと思うのですが、アメリカだと“カッコイイ! COOL!”というイメージが根付いているようです。

――20年というと長いですが、データイーストのIPは変わらず人気だったのですか?

松岡
 さすがに波がありますね。2004年にデータイーストのIPを取得して以降、一時期レトロブームの波があって盛り上がったのですが、2015年くらいまでは引き合いがなくなってきて、少し眠っていた状態でした。それが2015年に映画『ピクセル』が公開されて、『バーガータイム』のキャラクターが登場してから注目を集めまして。そこからはとても盛り上がっていますね。卓上に置くアーケードゲーム機タイプのおもちゃなどは海外でとくに人気ですね。レトロブームはさらに大きな波が来ているという実感でいます。

――松岡さんはデータイーストのIPに対してどのような印象を抱いていますか?

松岡
 やはり唯一無二というか、何もかも独特という感じがします。数多くの会社があって、いろいろなゲームが作られていますが、グラフィックにしても、音楽にしてもプロモーションにしても、何か独特のものがある。何か突出しているのかと言ったら、他社さんもすばらしいものを作られているのでお答えしづらいのですが、アイデアやオリジナル性に関しては、突出していると思います。

――版権管理にはご苦労も多そうですね。

松岡
 そうですね。対ユーザーさんということで言うと、必ず「自分の思い出の内容とは違う」というご意見をいただきますね。とくにリメイクに関しては、喜んでくださる方もたくさんいらっしゃるのですが、「なんでこんなものを出したんだ」と、ときにきびしいご意見をいただくこともあります。

――思い出補正もあるのかもしれませんね。

松岡
 はい。一方で、当時のデータイーストのスタッフの方に「おもしろかったですよ」とおっしゃっていただけるとホッとします。「また、皆さんに喜んでいただけるようなものを作ろう!」と、気合が入るんです。

 一方で、一部の海外ではメガドライブが現役の国もあるようで、「メガドラでデータイーストのタイトルをリリースしたい!」というご要望などもあり、びっくりさせられますね。

――メガドライブで、ですか?

松岡
 データイーストのタイトルも本当に幅広くて、日本ではそこそこ人気だけど、アメリカではあまり知られておらず、でも韓国では誰もが知っているというタイトルもあります。たとえば『スタジアムヒーロー』という野球ゲームですね。当時は、中古のアーケードゲーム機が韓国に渡っていたらしいんですね。そのため、日本でリリースされて少し経ってから、韓国の子どもたちのあいだで日本のアーケードゲームが人気を博したといったこともあったようです。

 また、中国のChinaJoyに行ったときに、ミーティングでデータイーストのことは知らないとのことだったのですが、資料の画面をご覧になった瞬間に「ああ、知っています!」とおっしゃたんですね。データイースト作品とは認識されずに遊ばれていたようなんです。データイーストIPの広がりを感じました。

――今後、データイーストのIPを自社で展開することは考えているのですか?

松岡
 Tシャツなどのアパレル商品や、フィーチャーフォンのゲームアプリを現行の家庭用ゲーム機に配信する復刻プロジェクト『G-MODEアーカイブス』ではいくつかのタイトルを自社から展開中です。リメイク作としては、2019年にNintendo Switch向けに『バーガータイムパーティー』を自社開発でリリースしていますね。今後もチャンスがあれば、自社からもリリースしたいとおもっています。ご期待ください。

 リメイク作がリリースされることで、いまのゲームユーザーにもデータイーストIPに対する認知が広まって、新たなデータイーストファンが生まれるのではないかと期待しています。ですので、新しいファンを獲得するということも、僕らは重要視しています。

 で、直近のおもしろい事例としてお伝えしたいと思っているのが、アメリカにチリーズという、日本で言うところのファミリーレストランのチェーンがあるんですね。そのチリーズとコラボキャンペーンとして彼らのオリジナルキャラクターで遊べる『バーガータイム』を公式サイトやいくつかの実店舗にアーケード実機で公開したんです。

 そこから新しいユーザー層に『バーガータイム』のことを知っていただくことができました。リメイクはもちろんですが、こういった異業種とのコラボも積極的に展開して、データイーストIPを知っていただく機会を広げていきたいと考えています。
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2019年にジー・モードで開発・配信されたリメイク作『バーガータイムパーティー』。迫ってくるウィンナーやピクルスたちを避けながら具材を踏み落としてハンバーガーを作る。ローカルマルチプレイでは、4人同時プレイや対戦が可能に。

「ぜひやりたい!」とのことで『ナイトスラッシャーズ』をリメイク

――今年になって、データイーストIPタイトルのリメイク作として『ナイトスラッシャーズ:リメイク』のパッケージ版がリリースされましたが、同作はどのような経緯で実現したのですか?

松岡
 ご存じの通り、ポーランドのForever Entertainmentさんは、往年のタイトルのリメイクに積極的に取り組んでいて、データイーストのIPにもとても興味をお持ちになってくださったんですね。それで2023年に『マジカルドロップ』シリーズの最新作として『マジカルドロップVI』をリリースしたのですが、社長のデビツキさんと、「さらなるデータイーストタイトルを」とのことになったんです。

 そこで、候補に挙がったのが『
ナイトスラッシャーズ』でした。開発会社のStorm Tridentがベルトスクロールアクションに強みがあるとのことで、「ぜひやりたい!」とのことになったんですね。『ナイトスラッシャーズ』は1991年にアーケード向けに稼動したタイトルで、当時は家庭用ゲーム機向けに移植されたことがなかったんです。「シブい選択だなあ……」と正直思いながらも(笑)、当時さんざんアーケードで遊んだファンの方から「また遊びたい」というご要望が多かったことも確かなので、「やりましょう!」となりました。
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2月20日にレイニーフロッグよりNintendo Switch向けにパッケージ版が発売された『ナイトスラッシャーズ:リメイク』。往年のベルトスクロールアクションのリメイク作。
――『ナイトスラッシャーズ:リメイク』の開発にあたってのやり取りはいかがでしたか?

松岡
 IPホルダーとして、基本開発は自由にお任せしているのですが、Forever Entertainmentさんからは、とにかくIPに対するリスペクトを強く感じました。『ナイトスラッシャーズ:リメイク』に関しては、最初に拝見させていただいたバージョンは、とてもまとまった正統派的なベルトスクロールアクションでした。

 それはリスペクトがあるからこそなのですが、ただ、データイーストタイトルというのは、日本ではちょっと笑ってしまうような要素とか、個性的なところが受け入れられるところもあるので、「もう少し砕けた感じで、ぶっ飛んだ要素も入れてみてもいいかもしれませんね」とはリクエストさせていただきました。

――真面目に愛しているのですね。真面目に愛しているという言いかたもなんですが……。

松岡
 そうですね。あと、当時『ナイトスラッシャーズ』は3人プレイができるゲームとして画期的だったのですが、リメイク版も当初はオリジナル版と同じく3人プレイで作っていたんです。ただ、いまだとそれくらいは当たり前なので、「4人プレイにして追加キャラクターを入れましょう」というアイデアは出させていただきました。

――プレイ人数もオリジナル準拠だったのですね。

松岡
 どのキャラクターにするかでは、最初オリジナルキャラクターで……ということになっていたのですが、最終的にはデビツキさんたちの強いご要望で、『ファイターズヒストリー』の劉飛鈴になりました。

――ダウンロード版は2024年9月にリリースされていますが、反響はいかがですか?

松岡
 当時を知っているユーザーさんには、「待っていました!」と喜んでいただいていますね。パッケージ版もリリースされることで、さらに新しいユーザーさんに訴求していければと思っています。

――Forever Entertainmentとの今後の取り組みはどうなりますか?

松岡
 もちろん、継続させていただくつもりでいます。今後の発表をお待ちください。
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デコカセットシステム(デコカセ)はなんとかしたい

――ちなみに、先ほどIPへの問い合わせを基準にすると、アメリカが40%とおっしゃっていましたが、今後注力していきたい市場とかはあるのですか?

松岡
 個人的にはヨーロッパには注目しています。人口という意味ではフランスやイギリスが多いのですが、ヨーロッパの文化は陸続きで広がっていますので、需要があるのではないかと期待しています。熱狂的なコレクターも多くいる印象です。ただ、さきほどの苦労の話につながるのですが、ライセンスの扱いにおいて、ヨーロッパでもけっこうアバウトな国が多いんです。

――ああ、そうなのですね。

松岡
 そのへんのところが法律的に整備されないと、なかなか難しいかなと思っています。とはいえ、ヨーロッパ全域は、今後探っていきたいですね。

――そんななか、Forever Entertainmentとの提携があったのですね。

松岡
 Forever Entertainmentさんは上場されているような会社なので、しっかりされていますが、そうではない規模の小さい会社だと、IPに対する取り扱いがけっこういい加減だったりするので悩ましいところです。

――ライセンス管理というのは、いろいろと苦労が多そうですね。

松岡
 そうですね。さらに言えば、国ごとに法律も違えば著作権に対する考えかたも違うので、そのへんはけっこう難しいですね。契約書の段階でかなり苦労したり……ということはあります。常識が違うので。そのへんは、同業の方は同じ苦労をしているのではないかと。

――現在も「現行機であのゲームが遊びたい」といったリクエストが来ているとのことですが、とくに要望の多いタイトルは何になりますか?

松岡
 『ザ・グレイト・ラグタイムショー』、『B-WINGS』、『ファイターズヒストリー』がTOP3ですね。

――それらのタイトルが今後リリースされる可能性はありますか?

松岡
 はい。計画していますのでご期待ください。ちなみに、『ザ・グレイト・ラグタイムショー』と『B-WINGS』はエムツーさんからリリース予定であることが2020年に発表されています。鋭意開発中かと思いますので、リリース時期などは続報をお待ちください。あと個人的にはデコカセットシステム(デコカセ)はなんとかしたいと思っています。

――おお。

松岡
 データイーストは自分たちでハードを手掛けているんです。1980年にアーケードゲーム基板を作っていて、データの入れ替えにカセットテープを採用しています。カセットテープというメディアゆえに、いまどんどん失われつつあるのですが、残そうとがんばってくださっているファンの方も多くて、僕もなんとかしたいと思っています。

 『バーガータイム』もデコカセ発のタイトルだったりします。オリジナルタイトルもたくさんあります。デコカセが遊べるおもちゃとか、家庭用ゲーム機向けにデコカセシリーズを展開するとか、そんなことができたらいいなと思っています。ハードルは相当高いと思いますが。
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デコカセットシステムは1980年9月にデータイーストが開発したアーケードゲーム基板。アーケードゲームの汎用的なシステム基板としては日本初とのこと。(写真提供:ゲーム文化保存研究所)
――最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

松岡
 当時のゲームは、コンピューターの先駆け時代ということもあり、かなり表現やゲームルールなどに制限がありました。そんななかクリエイターの皆さんの個性や独創性などにより、すばらしい作品が生み出されていたと思います。データイーストの作品に接していても、いまでも日々発見があります。リリースから半世紀近く経っているいまでも、大きな存在感を放っています。我々ジー・モードとしては、今後もデータイーストIPの魅力を、世界中のファンに向けてアピールしていきたいと思っています。
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【Forever Entertainment】『マジカルドロップVI』と『ナイトスラッシャーズ:リメイク』をリリースした理由

 データイーストIPの『マジカルドロップVI』と『ナイトスラッシャーズ:リメイク』を手掛けたForever Entertainment プレジデントCEO ズビグニェフ・デビツキ氏からコメントをもらった。
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Forever Entertainment プレジデントCEO ズビグニェフ・デビツキ氏

 『マジカルドロップ』と『ナイトスラッシャーズ』は、どちらも長年にわたって愛され続けている名作です。『マジカルドロップ』はスピード感溢れるパズルゲームとして熱狂的なファンに支持されています。その魅力をさらに広げるために、新しい機能やキャラクターを追加して、そしてオンラインマルチプレイヤーやトーナメントにもっと力を入れることで、より現代のニーズに応えられると思いました。

 一方、『ナイトスラッシャーズ』はホラー要素を持った独特なベルトスクロールアクションゲームです。個性的なキャラクターや引き込まれるストーリーが魅力で、このシリーズを初めて知る人にもぴったりな作品。だからこそ、現代風にリメイクする価値があると判断しました。

 『マジカルドロップ』は新作として、『ナイトスラッシャーズ』はリメイクとしてリリースした理由ですが、『マジカルドロップ』に関しては、リメイクではなく、新しい作品としてシリーズを進化させたかったんです。オリジナルのよさを大事にしつつ、新たなコンテンツや対戦モード、そして現代のプレイヤーが求めるオンライン要素を取り入れることで、より一層魅力的なゲームにしたいと考えました。

 『ナイトスラッシャーズ』の場合、フルリメイクを選んだ理由は、昔のスリリングなアクションとホラーの雰囲気を綺麗なビジュアルで現代のプラットフォームで蘇らせたかったからです。シリーズに初めて触れるプレイヤーにも、世界観やキャラクター、ストーリーをフレッシュな形で楽しんでもらえるようにしています。とはいえ、オリジナルの魅力はしっかり残しているので、昔からのファンの方にも満足してもらえると思います。
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『マジカルドロップVI』は落ちてくるドロップを“すって”、“はいて”連鎖を起こすパズルアクション。ひとり用プレイでは、マジカルランドの謎を解き明かす“ストーリーモード”やできるだけ少ない手数でクリアーを目指す“ひらめきモード”など6種類のモードを用意。15人のキャラクターが登場し、それぞれ独自のストーリーが楽しめるのも楽しみどころのひとつ。マルチプレイにも対応。
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