『風来のシレン6』とぐろ島の神髄をクリアーした日の思い出。全99階、凶悪なダンジョン。挑んでは倒される毎日。嗚呼、風来のシレン、風来のシレン【夏のおすすめゲームレビュー】

by堅田ヒカル

『風来のシレン6』とぐろ島の神髄をクリアーした日の思い出。全99階、凶悪なダンジョン。挑んでは倒される毎日。嗚呼、風来のシレン、風来のシレン【夏のおすすめゲームレビュー】
 ファミ通の編集者が2024年夏のおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介するゲームは、不思議のダンジョンシリーズ最新作『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』です。

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※本稿は、週刊ファミ通2024年6月20日号(No.1852/2024年6月6日発売)の特集“編集者38人それぞれが選ぶいまオススメしたい38のゲーム”をWeb用に調整し、大幅に加筆を加えたものです。
【こんなところがおすすめ】
  • 『シレン』の楽しさを思い出す、唯一無二の中毒性
  • 初心者でも楽しめるように考えられたレベルデザイン
  • 仕事より『シレン』! 仕事より『シレン』なんだよ!!

堅田ヒカルのおすすめゲーム

『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』

颯爽登場! 仕事せん隊・シレンジャー!!

 かつて週刊ファミ通に存在したというヒーロー部隊“仕事せん隊・シレンジャー”。

 ヒーローでありながら謎の組織であり、秘密結社であり、しかしてその実態は、仕事をサボって
『風来のシレン』をプレイしまくっている編集者の群れだったという。

 「攻略記事のためのプレイだから……」とかうそぶきながら、単に楽しくて遊んでいるその様子は、わりといつものファミ通編集者の姿じゃないかという身も蓋もない感想が浮かぶ気もするが、なんといってもそれはひとりやふたりではなく、編集部のみんながごっそりシレンジャーに変身してしまうようなありさまで、とにかくそういう部隊が存在したのだ、と、編集部の古老より語り継がれている。

 そんな、編集者を虜にする中毒性の高いゲーム
『風来のシレン』シリーズの最新作が2024年1月に発売された。ナンバリングの新作としてはじつに約14年ぶりになるという。迷わず購入した。

 さて、本作。じつにデキがいい。

 めっぽうおもしろい。

 やられてもすぐにくり返し遊びたくなる。“1000回遊べるRPG”という
『不思議のダンジョン』シリーズ初代作のキャッチコピーをカラダで思い出した。実際そのくらい遊んでいる。

 いや、言い過ぎた。1000回はまだだけど数100回はダンジョンに潜っている。うれしかったのは、ゲームの基本が変わっていなくて過去シリーズをプレイしたときに身につけた知識や経験が本作でも活かせたことだ。道具の名前や使いかた、未識別の道具を見分ける方法、強力な敵への対処法……それらの多くを僕は覚えていた。10年以上前の知識だというのに!

 スムーズにゲームを進められるのは、かつて遊んでいた経験が僕の血肉となっているからだ。中学生や高校生のときに学んだ不思議のダンジョンにまつわる知識があるからだ。昔取った杵柄というやつだ。それを思う存分振るった。

 “昔取った杵柄”をぶんぶん振り回す爽快感!

 これは、それなりに歳を取っている僕のようなプレイヤーにはたまらない気持ちよさだ。「昔、ワシはのう、歴戦の勇士だったんじゃ……」というじいさんの気持ちになる。編集部へ出社する地下鉄でプレイしていたら、夢中になったあげく、降りるべき駅を5駅くらい乗り過ごしていた。
どこだここ。

 おいおい、ハマりすぎだろと自分でも笑って逆方向の電車に乗り直してプレイを続けたらまた熱中してしまって、今度は3駅乗り過ごした。一向に編集部へ着かない。

 そんなわけでその日の出社は遅れまくったわけだけど、僕は不思議な満足感に包まれていた。仕事の時間なんかを気にするよりも、断然、熱中できるゲームに出会えたことを幸福に思っていた。

 僕はシレンジャーになった。

“とぐろ島の神髄”

[IMAGE]
 さて、本作。

 やり込み要素として“とぐろ島の神髄”なるダンジョンが用意されている。

 メインストーリーのクリアー後にあるお楽しみ要素なので、絶対クリアーしなければならないわけではない。

 なにしろ99階ある。ゴールまでたどり着くには6時間かかるとも、10時間かかるとも。アイテムは未識別、モンスターはあらゆる手段でシレンに嫌がらせをしてくる(メチャクチャ画面外から炎吐いてくるドラゴンあいつなんなん)。

 98階でやられてしまったら、当然、進捗はゼロに戻る。

 とぐろ島の神髄に挑む。クリアーするまで
『風来のシレン6』を遊び続ける。その決断はおそらく今後の生活から数十時間の余暇をつぎ込むことを意味する。

 僕はチャレンジをけっこうな覚悟で決意した。

 その決意の結果がこれだ。
[IMAGE]
シレンが倒れた結果発表画像。ごく一部。たぶんこの10倍くらい倒れた。
 やられまくった。とにかくこのころ、僕は毎日とぐろ島の神髄に挑んでは、倒れて、跳ね返されていた。

 始めたころ、低層階でバタバタ倒された。1階から無慈悲に現れる高攻撃力のモンスター。

 慣れてきて、中層階でバタバタ倒された。一瞬のミス、ひとつの判断ミスで注ぎ込んだ数時間が無に帰す。

 新たな階に足を踏み入れると、新たな敵が新たな攻撃をくり出してくる。

 クリアーするまで何時間、何日間掛かったかもはや定かではないけど、2024年のある月、僕はシレンジャーと化して
『風来のシレン6』にどっぷりハマっていたということを、記録しておこうと思った。

 ついにとぐろ島の神髄をクリアーしたその日、誰に送るでもないけど、スマートフォンからメールアプリを開いて、クリアー直後の昂る感情を書き殴った。その瞬間どういう気持ちになったか忘れる前に記録しておきたかった。

 以下はそのときの文面だ。

 日記のような、単にメモ書きのような、いっそなにか一編の詩のような。散文的に過ぎる。だけど、ひとりの
『シレン』プレイヤーの叫びであることだけは確かだ、と思う。

 自分にしかわからない部分や、いまとなっては自分にもよくわからない部分もあるけど。この際そのあたりには目をつぶっていただきたいのです。

 とにかく
『シレン6』はいいゲームだ。遊んだ人にこういう文章を書かせてしまう力がある、ということをわかってもらえるとうれしい。

未送信フォルダから

 長い旅だった。
 長い戦いだった。

 とぐろ島の神髄をクリアーした。
 何度やられたかわからない。
 何度挑んだかわからない。

 それでもクリアーした。
 99階の階段を降りきった。

 ひたすら駆けた。
 ひたすら殴った。
 杖を降った。
 巻物を読んだ。
 おにぎりを飲み込んだ。
 保存の壺からアイテムを取り出そうとして間違えて壺ごと投げた。

 保存の壺は敵に直撃。中に入ったアイテムはすべて消え失せる。

 ああ……ああ!

 何度叫んだかわからない。
 何度頭を抱えたかわからない。
 なぜこんな凡ミスを、こんな。

 いまはその杖よりこの草だろ。
 その巻物よりこの杖だったろ。
 「こっちの方がいい手だったのではないか」。
 後悔しても遅い。
 もうシレンは動いてしまっている。より一歩追い詰められている。

 最後の最後の最後のアイテムまで使い切って、HPゲージが真っ赤になっても何かが起きることを祈って攻撃をくり出して何も起きなくてやられて、「もう一度このダンジョンに挑みますか」の質問に、もうこれ以外に特にやることもないから「はい」一択のはずなのに「いいえ」を選びたくなって、武器を拾って合成してマゼルンの扱いに失敗してやられて、また潜って拾って投げて飲み込ませて合成してうまくいくこともあればいかないこともあってその「うまくいくとき」をつなぎ合わせていけばきっとクリアーできるはずだと信じて、
 信じて、
 信じて、

 また挑んで、
 でもやっぱりやられてしまって。
 「いったん99階のゴールじゃなくて自己記録を伸ばすことを目標にしよう」と考えかたを変えて、そうすると10階にもたどり着けなかったのにだんだん記録が伸び始めて、10階が20階になり、20階が30階になって、50階に到達したときには、

 「この調子で行けば99階もすぐだな」。

 なんて甘いことを思って、

 「ハハーンこれはもうクリアーまでの道筋が見えたな」。

 と、片方だけくちびるを上げてハハーンと笑って、そうしたらなぜか全然記録が伸びなくなって、10階か20階あたりでやられまくるようになって、電車でプレイしたら乗り過ごして、折り返しの電車に乗ったらまた乗り過ごしてぜんぜん目的地に辿り着かなくて、乗車時間が12分なら12分、23分なら23分、時刻表通りの時間ずつプレイ時間が伸びていって、つまりそれだけ電車内ではまったくシレンだけやっているというような日々が続いて、ようやっと50階を越えて自己記録が更新されたと思ったら、なんだかよくわからない敵によくわからないうちに最大満腹度が50%くらい下げられていて、よくわからない攻撃でちからの最大値が7くらい下げられていて、テメエらなんてことしやがるんだコンチクショーめと思って「スパイク・チュンソフト!」と思わず叫んでしまって、それでも何度目かわからない挑戦。

 いい武器が拾えた。
 いい盾も拾えた。
 気配察知の腕輪と道具感知の腕輪を識別できた。
 フロア全体のモンスターとアイテムの位置がわかる。
 これはかなり様子がいい、いい流れなんじゃないか……。
 そんな回が訪れる。

 10階を越えた、20階を越えた……。

 「今日は○○階まで行けたよ」。

 妻に報告する日が続いた。

 「それはよかったね」。

 と言ってくれるが彼女はシレン未経験なのでそのひと言にいたるまでにどれだけの思考と試行と失敗と悔恨と成功と快感が積みあげられているか本当のところはわかるまい。だけど僕はそれをまるで一日の仕事のように報告したし妻も進捗を喜んでくれた。

 理不尽なことが数多く起こる。
 けれどその理不尽を愛していた。
 いっそ、「理不尽なことが起きろ」と思う(起きて欲しくはないのだが)。
 起こった理不尽に知恵と知識と経験で対処する。
 ときに運にも縋る。

 これから先、どんな理不尽が起こるのかを想像して、予測して、対処できるように準備をして一歩ずつ進んでいく。

 まるで人生みたいじゃないか。

 と言うとストレート過ぎて陳腐ではあるけど。
 僕は僕の人生を歩む以上の慎重さと周到さをもって低層階を歩んで、アイテム運も味方して最深部到達記録を更新できた。

 空いた時間はもっぱらシレンをやっていて、新刊本も読めていないし映画館で何が新しく掛かっているのかも知らない(
気付けば『ルックバック』が始まっていた)。

 長く遊んでうまく60階を超えたあたりの回「これでやられたら一度、シレンを置こう」と思っていた。空き時間をフルベットする遊びかたはやめて、本も読むし映画も観るしすこしはニュースも見よう。

 もちろん、ずっと集中して遊ぶのは楽しいし寝る前に目をつむるとシレンの画面が目に浮かぶ状態も、過集中になること自体も楽しんでいたけど、もう少し腰を引いて距離をおいて、どっぷり浸かりこむんじゃなくて、社会人として適切な遊びかたを心掛けよう……そうしたほうがいい結果につながることだってある……と思う……。

 視覚外から砲撃してくるオヤジ戦車。
 殴っては分裂して増えるチドロ。
 育て上げた武器を弾き飛ばして消し去るケンゴウ。
 アイテムをすべて雑草に変える変人。
 フロアを降りた途端ハエのようにたかってきて水路も壁もお構いなしに8方向から2回攻撃してきやがる冥王。
 どこからでも炎を遠隔で吐いて30ダメージを与えてきやがるドラゴン(凶悪!)。
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なにこれぇ。
 けれど、どんな強力なモンスターでも、ぶつけるだけで必ず絶滅させられるアイテムがある。
 「ねだやしの巻物だ、ねだやしの巻物さえ使えば、大丈夫だ……」。
 僕はこのアイテムに全幅の信頼を置いている。

 投げた。
 ポロリ。
 外れた。

 部屋にはドラゴン以外のモンスターも満ち満ちている……。

 終わったか。
 アイテムを見る。
 保存の壺に入れたものひとつひとつ見返していく。
 バクスイもない、混乱もない、役に立つ巻物がない、無敵草もない。

 ううう、わわわああわあわあああわあああああ。わわわ、あうあうあう……。

 そのとき具体的には僕がどう難を逃れたのか記憶が定かではない。
 土塊の杖で部屋の出口を塞いだのかやり過ごしの壺があったのか。
 偶然にもバネ床を踏んで逃げられたのか、
 倒されて復活の草でゴリ押したのか、
 ふつうにそのままやられてしまったのか、
 どのパターンもあった気がする。どの記憶もある。
 つまりそのくらいのピンチは、とぐろ島の神髄においては日常茶飯事なのだ……。

 先に進むよりも、なるべく死なずに長く生きるようにしよう。
 「この場合はこうすればいいはずだ」という最適解を増やして、倒されるリスクパーセンテージを1ずつでも下げていこう。
 死亡率が低くなる選択肢をひとつずつ身に着けていく。
 そこに運が、追い風が吹けば一気にクリアーできることもあるだろうし、最適解を選び続けても逆風に跳ね返されることもあるかもしれない。
 とにかく少しずつ生き延びる確率を上げて、あとはいい風が吹くのを待つ。
 人事を尽くして天命を待つのみだ。

 いよいよ80階くらいまで到達できるようになった。
 深層部まで進むと逆にサクサク進めるようになった。
 しかしそれはそれで逆にあやしい。
 「いけるかも」と、何度期待して、何度苦汁を舐めさせられてきたことか。
 おっかなびっくり丁寧に進んでいく。
 なおさらことさら慎重に。
 一歩ずつそっとつま先を出すようにして歩く。

 そうして、ついにクリアーした。
[IMAGE]
 いままで味わった緊張感と絶望感を考えると最後は割合あっさりしていたけど、それでも感慨はひとしおだった。

 うれしさと安堵感。
 ああ、これでようやく、
『シレン6』を終えられる。

 それは卒業の喜びにも似ていた。

 学校という装置の最終目標は卒業してそこを出ていくことだ。それは少し皮肉というか不思議な感じがする。

 旅の最終目標は無事に旅を終えることだ。いつまでも旅路を歩んでいたかったような気もするけど。

 僕は旅を終えた。
 いい旅だった。
 楽しい冒険だった。
 手にびっしょりと汗をかいていた。
 いい旅だった。
 楽しい冒険だった。
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