シリーズ25周年を迎え、いまなお非常に高い人気を誇る『風のクロノア』シリーズ。横スクロールアクションとして革新的な2.5次元表現や、印象に残るストーリー展開などがプレイヤーに衝撃を与え、発売当時から話題を集めていた。そんなシリーズ2作が『風のクロノア 1&2アンコール』(以下、『1&2アンコール』)として現代に復活! 

 高い人気を誇る第1作『風のクロノア door to phantomile』(以下、『クロノア1』)とその続編『風のクロノア2 〜世界が望んだ忘れもの〜』(以下、『クロノア2』)の2作を収録し、2022年7月7日(Steam版は8日)にリマスター版として発売される。対応ハードはNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、Steam。また、本日より体験版も配信開始されている。

 そこで今回は、オリジナル版の開発に関わった小林毅氏と荒井佳彦氏にインタビューを実施し、当時の開発の状況や裏話などを伺った。なお、インタビュー内容には本編のネタバレを含むため、閲覧する際は注意してほしい。

小林 毅氏(こばやし つよし)

現バンダイナムコスタジオ取締役。『クロノア1』ではゲームデザイナー、『クロノア2』ではディレクター&ゲームデザイナーとして携わる。アクションや操作感などの仕様検討をはじめ、プロモーションなども担当していた。

荒井 佳彦氏(あらい よしひこ)

現バンダイナムコスタジオリードアーティスト。『クロノア1』ではグラフィック&シナリオ、『クロノア2』ではアートディレクター、キャラクターデザイン、シナリオなどを担当。そのほか、声優、言語作成、作詞・仮歌など、さまざまな形でシリーズに携わる。

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予想以上の反応に驚き。トレンドにも上がった『1&2アンコール』発表

――まずは、『風のクロノア 1&2アンコール』の発表に関して、率直な感想をお聞かせください。

小林『1&2アンコール』が制作されるという話は、社内の流れでなんとなく認識していたのですが、公式に知ったのはもう少し後です。開発途中で「意見がほしい」というスタンスで呼ばれて、作品に関わるようになった形ですね。無事に発表できて、うれしい限りです。

荒井自分も同じような流れで、当時の資料提供などで少しだけ携わらせていただいています。なにせ25年前の作品ですから、今回のような形で復活させていただけるのは、すごくありがたいと思っています。

――公式に情報公開されたのは“Nintendo Direct 2022.2.10”の番組内(2022年2月10日午前7時より放送)で、朝早くから“クロノア”のワードがTwitterトレンドに上がっていました。その様子は見ていらっしゃいましたか?

荒井早朝から起きて皆さんの反応を見ていましたよ。外国の方の派手なリアクションなどもうれしかったです。

小林私はリアルタイムではその様子を追えなかったのですが、大きな反応があるという話は聞いていました。当時から熱心なファンの方が多い作品だったので、現在でも応援していただけているのはとてもうれしいですね。

――『クロノア』シリーズに熱心なファンがいることは実感されていたのですか?

小林“東京ゲームショウ”に出展すると熱心に見てくれたり、ホームページで作品のことを書いていただいたりなど、当時からそういう方がいるのは認知していました。より大きく実感したのは、小さいころに『クロノア』を遊んでいた子が会社に入ってきたときですね。「学校に行くのが嫌だったんですけど、『クロノア』をプレイしてなんとか生きられました」というような話を聞いたり、そういう子にグッズをプレゼントするとすごく喜んでくれたり。

荒井当時だと、ゲーム雑誌を始めとしたゲーム業界の方から言及していただくことが多かった印象です。今回のようにインタビューを載せていただいたり、ファミ通さんで当時の編集長だった浜村弘一さんからも直接お褒めいただきました。

小林業界のいたるところで、よい評価をもらいましたね。『クロノア1』の発売直後の反応は詳しくわからなかったのですが、じわじわと長く応援してくださっている方がいたのは印象に残っています。

――徐々に作品の人気を実感していったのですね。予想以上の反響でしたか?

荒井当時はプレイステーション(PS)のゲームというだけでも注目度が高かった時代ですから、ひっそりと期待していました。

小林たしかにそうですね。あのときのナムコが出していたタイトルが『リッジレーサー』シリーズや『テイルズ オブ デスティニー』だったので、それらに比べると爆発的な売上とまではいきませんでしたが、続編が出せるくらいの売上にはなっていました。……我々が担当するタイトルは、なぜか『テイルズ オブ』 シリーズと被るんですよね(笑)。

当初は『クロノア』ではなかった? 企画立ち上げ時に起きていたこと

――おふたりの『クロノア1』および『クロノア2』で携わった部分をお聞かせください。

小林『クロノア1』の開発ディレクターを担当していたのが吉沢さん(※) なのですが、私はその下でメインのゲームデザイナーとして参加しました。私が入社してから間もないときだったのですが、じつは『クロノア』の前身となるゲームがあり、そのころから携わっています。『クロノア2』に関しては、ディレクターとプロデューサー、どちらも担当するような形になっていましたね。

※吉沢秀雄氏。ゲームクリエイター、現東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授。テクモにて『忍者龍剣伝』、ナムコでは『風のクロノア』シリーズなどのタイトルに携わる。

荒井自分も入社から2、3年目くらいの新人だったのですが、先ほど小林が言っていた、前身となる企画から携わっていました。そのゲームの開発が頓挫してしまい、一度キャラクターから作り直すとなったときに実施されたコンペに参加したのが始まりです。ビジュアル系を全般的にひと通りと、ディレクターのような仕事も担当していましたね。『クロノア2』でも、その流れで声をかけていただきました。

――『クロノア』シリーズには前身となる作品があったのですね。

小林そうです。その企画を一度フラットにした際、コンペを実施していろいろなアイデアを募っていました。そのころは社内で「最近、ナムコオリジナルのキャラクターを作っていないな」という雰囲気があり、そこで荒井がデザインしたクロノアが生まれたんです。

荒井キャラクターは自分のデザインしたものが選ばれたのですが、企画の方が考えた「夢を膨らませる」というテーマも、そのコンペで生まれました。

特有のアクションやステージが出来上がるまで。『クロノア1』の製作秘話

――『クロノア1』は、前身となった作品のどのあたりを引き継いでいるのでしょうか?

荒井3Dの背景で2Dのキャラを動かすというコンセプトは、その時点で決まっていました。私も当初は2Dのドットを打っていた記憶があります。

小林ステージの奥に見えるカーブや、奥から敵が迫っているというような“2Dで遊んでいるのに3Dの中にいる感覚”を出したいというテーマでした。いままで2Dゲームを遊んでいた人たちでも問題なく遊べるように、という意識を念頭に持っていましたね。

荒井当時のPSのスペックだと、キャラクターをフル3Dで動かすのが難しかったという理由もあります。一度レンダリングしたものを2Dに落として、全体の容量を見ながら調整していく形で進めましたが、開発当初はキャラクターも3Dに出来ないかという案もありました。

――2.5次元というような奥行きがあるステージにも、さまざまな工夫を感じるのですが、開発時の思い出、苦労話などがありましたらお教えください。

小林当時は3Dのゲームがいきなり現れたので、開発側はみんなカメラを動かしたがっていました。急な移行によって、遊びにくいタイトルも多かったんですよ。なので、3Dならではの表現を気にしつつ、いかに遊びやすいように落とし込むか。その塩梅は苦労しましたね。

――ステージ内に隠されている宝石の場所などにも、強いこだわりを感じました。

小林ステージ作りは、私自身も非常に楽しんでやっていましたね。

荒井“Softimage”というソフトで企画側がすでにステージを作っていて、それを見ながらテーブルをどんどん作り、構築していく作業を行っていました。

――当時の開発ではツールが充実しておらずに苦労したという話をよく聞きますが、そのなかでもよい環境だったように感じますね。

荒井当時のナムコは『リッジレーサー』に『鉄拳』など、「3Dでドンドン進めて行くぞ!」という雰囲気が出来上がっていましたね。私自身も“LightWave”というツールでクロノアのベースモデルを作っていました。

――『クロノア』シリーズの特徴として、敵を利用した2段ジャンプのアクションがありますが、このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

小林風だまを使ったアクション自体の構想は初期からあったのですが、当初は風だまで敵を捕まえた状態で△ボタンを押すと、クロノアの前に膨らんだ敵を置く仕様でした。置いた敵を階段のように利用して、さらに上方に行けるようになるという流れだったのですが、テンポが非常に悪くて(笑)。2段ジャンプの仕様につながるアイデアが出るまでは、抜け出すのに苦労しました。仕様が決まってからは、隠し要素であるエクストラビジョン・バルーの塔のような要素を盛り込んだ実験ステージを作って、開発陣のメンバーでテストプレイしましたね。

――エクストラビジョンからですか! あのステージは非常に高難度で、開発スタッフからの挑戦状的なイメージだと思っていました。

小林そういう意図はなかったのですが、私はあのステージのような高難易度の連続アクションが最終的にはいちばんおもしろい要素だと思っていたので、なんとかして入れたかったんです(笑)。登場するのがストーリーを全部見終えた後なら大丈夫だろうということで、クリアー後の要素として採用しました。

荒井企画やビジュアルの部署でも、ゲームのうまいメンバーが集まってタイムアタックを遊んでいました。自分たちで絵を作りながらプレイするという、すごくおもしろい状況でしたね。

小林プレイするごとに、どんどんタイムがよくなっていくんですよ。最終的にどうなるんだろうと思っていました。

荒井私は、途中からついていけなかったですけどね(笑)。

クロノアのデザインと、あの感動のエンディングが生まれるまでにたどった経緯とは

――キャラクターデザインとしては、かわいらしさがありながらも、敵などは少し不気味な雰囲気を感じられるものになっています。どういったテーマがあったのでしょうか?

荒井最初にテーマを決めたというよりも、自分やほかのメンバーとアイデアを出しつつ、詰めていったという感じです。自分としては、かわいいだけじゃなく、少し怖い部分や毒を混ぜたほうが引っ掛かりになっていいんじゃないかと言及していました。クロノアの猫目もその名残だったりします。

――そのクロノアは、コンペによってデザインが決まったというお話がありましたが、やはり試行錯誤されたのでしょうか?

荒井若干の調整は行いましたが、まずまず変わることなく、最初のデザインからそのまま採用していただきました。クロノアの帽子にパックマンがいるのも最初からなのですが、世界観などがまったく決まっていないフリーな状態でのコンペだったので、「ナムコらしいでしょう?」くらいの気持ちで入れたものです(笑)。後で外すように言われると思っていましたが、結果的にクロノアがプレイヤーの分身であることを象徴する、現実の名残みたいなものになりましたね。

――帽子のパックマンはずっと気になっていましたが、そのような決まりかただったのですね。ほかのキャラクターデザインに関しての思い出などはありますか?

荒井ヒューポーは、会議中のラクガキをそのまま使っていますね。最初は火の玉のようなまったく違うデザインだったのですが、シナリオの内容を見ながら調整していき、最終的に現在のようなかわいらしい外見になりました。

――そんなかわいらしいキャラクターが活躍する本編ですが、進むにつれてどんどん重くなっていき、ラストの展開は涙なしには語れないものになっています。当初からそこを目指して作られていたのでしょうか?

荒井そうですね。吉沢さんが最初から最後までの流れを作っていて、枝葉を私が足していったのですが、あまり話が重くなりすぎないように考えていたこともあり、コンテの際に適当なセリフを付け加えては吉沢さんにカットされるという戦いを続けていました(笑)。作中にも当時のノリのギャグが残っていたりするので、いま見るとちょっと恥ずかしいですね……。

――個人的には、ギャグを挟んで子ども向けのような雰囲気を出しながら、話が進むにつれて大人向けになっていくというイメージでした。とくにエンディングは印象的で……。

小林エンディングのムービーは、私も衝撃でしたよ。社内でテストプレイしているときにエンディングが流れ始めて、社内の皆さんが驚いていたのは覚えています。後で会社に入ってきた子たちからの話でもよく聞きますし、すごく印象に残ったんだなと思いますね。

荒井自分は最初から最後までひっくるめて話を聞いていたので、これを見てプレイヤーが泣けるのかどうかというのは、完全にわかりませんでした。完成した当時も「ようやく出来上がった……!」という感想がすべてだったので(苦笑)。ただ、プレイヤーの熱量が一気に消費されずにじわじわと広がっているのは、後から感じました。少しずつ伝わっていくことによって、深く心に刻まれたのかもしれませんね。

できることは何でもやる!『クロノア1』開発チーム

――当時の開発チームの雰囲気や、開発中の思い出などをお教えください。

小林昼に各職種とのミーティングをしてチームを動かし、夜にひとりで黙々とステージ作成という流れを永遠にやっていましたね。いろいろな先輩方に享受していただきつつ、仲が悪かったというわけではないですが、時には戦いつつ(笑)。初めて携わったゲーム開発でここまで形にできたのは、当時の私にとっては本当にありがたい経験でした。

荒井まわりが新人ばかりだったので、垣根もそれほどなかったんですよ。ふつうだったら「まず担当に専念せよ」と言われそうなのですが、当時はできることは何にでも自分から手を上げるし、逆にいろいろな人からも仕事を振られますから。

小林当時は“できる人がとりあえずやる“みたいな文化がそれなりにありましたよね。いま振り返るとたいへんなこともあったけれど、よい経験だったと思います。

――それこそ、荒井さんはジョーカーの声優も担当されていたとお聞きしました。

荒井メインでサウンドを担当していた井村絵里子さんが、できそうな人に声をかけていて、なんとなく呼ばれてやりました。作中の言語がファントマイル語という架空のものだったので、そこまでがっつりとした演技は必要なかったんですよ。当時のゲーム会社では、こういうことも多かったですよね?

小林昔は「ちょっと声くれない?」みたいなノリで声優を担当するケースが珍しくなかったですね(笑)。当日に呼び出されて録ることもありました。

ハードの進化による作品の成長。『クロノア2』制作秘話

――続いて、『クロノア2』のお話もうかがいます。『クロノア2』の開発はどのように進んでいたのでしょうか?

小林当時は一介の開発者だったので詳しい開発経緯はわからなかったのですが、ワンダースワンで発売された『風のクロノア ムーンライトミュージアム』と並行しての進行でした。どのように世界観・キャラクターを広げていくかを荒井と相談しつつ、プレイステーション2(PS2)にプラットフォームが移るので、『クロノア1』のデータを使用しながら何ができるのかを研究していましたね。

荒井PS2への移行で、できることが大幅に増えたんですね。そこで、キャラクターをすべて3Dモデルにして、他作品との差別化を図るためにトゥーンシェーディング(輪郭線にはっきりした陰影をつけ、アニメやイラストのようなモデルをレンダリングする技術)のような技術を採用しようという話が出てきました。それが“クロノアフィルター”です。

小林トゥーンシェーディングがあまり世の中にない時代だったのですが、とあるテレビ番組の映像をみて「これを使いたい!」と決めた記憶があります。ただ当時はいまのように綺麗に陰影をつける技術が存在しなかったので、輪郭を抽出してレンダリングをすることにしました。結果的には見栄えも新しく、また遊びやすくもなったと思います。

――クロノアフィルターには、そのようなきっかけがあったのですね。PS2への移行は、ほかにどのような影響があったのでしょうか?

小林研究するにあたって試しに大きなマップを作ってみたんですが、ゴールの位置すら見えるほど遠くまで映ってしまって、びっくりしたのはよく覚えています。

荒井見え過ぎてしまうので、逆に見えないようにするのもたいへんでしたね……。

小林後は、画面全体をよく動かせるうえに、頭上からのアングルも映せるようになったので、高さを感じるダイナミックさや落ちる感覚を積極的に入れました。ただし、操作はこれまでと同じ感覚で遊べるように意識して作っていましたね。

――たしかに『クロノア2』は、高低差やカメラのアングルがとても印象的でした。

小林2Pがポプカを操作して、移動をサポートできる機能を入れたのも新しい試みですね。いまのゲームではそれほど珍しくはありませんが、当時はそのようなシステムは存在しませんでしたから。ただ、ポプカの仕様は開発初期でなく後期に実装したので、クロノアがとんでもないところまで飛んでいってしまって……。

荒井よく見えてはいけないところまで飛んでましたね(笑)。

小林とくに、ポプカの仕様を想定していなかった最初のころに作ったステージがひどい目にあって……デバッグがとてもたいへんだったのを覚えています(苦笑)。

――それはたいへんでしたね……。その分、サポートプレイができるゲームの先駆けのようなタイトルになっていますが、家族などといっしょに遊ぶ構想があったのでしょうか?

小林家族ももちろんですが、恋人とプレイすることも想定していました。後ろから見ているだけだと、やはり歯がゆいですから。

荒井“実際にクロノアを動かして遊ぶ”というゲームの根幹となる部分以外、システムや工夫した遊びかたなどに関しては、小林の意識が高かったと思います。『クロノア2』の後に作った『クロノアビーチバレー 最強チーム決定戦!』でも、ひとつのコントローラをふたりで使うようなアイデアを出していましたから。

『1&2アンコール』では、『クロノア1』でヒューポーを操作し、1Pをサポートできるシステムが新登場!

当時の貴重な資料もお披露目! 『クロノア2』で成長したキャラクター

――『クロノア2』のキャラクターは、全体的に大人っぽくなり、かわいさとともにカッコよさもあるように感じました。当時、どういったイメージでデザインをされたのでしょうか?

荒井『クロノア1』から『クロノア2』が発売されるまでに数年空き、当時のユーザーがPS2にスライドした分だけ、年齢層も高くなっているのではと予想しました。それに加えて、当時のPS2は全体的にクールというイメージがあったので、そう感じているユーザーへの訴求も合わせ、クロノアをもう少しカッコよくしようという意識でした。

小林作中でも“プレイヤー自身がクロノアである”と明確に表していたので、プレイヤーも冒険を経て成長しているというイメージですね。

荒井それともうひとつ、キャラクターデザインの方向性を整頓したかったんです。『クロノア1』のデザインとしての完成度には納得していたのですが、『クロノア2』ではキャラクターが3Dモデルになるので、パーツが多いとポリゴン数が多くなりすぎたり、モデルが作りづらかったりと、いろいろな問題があり……。そこで、シュッとしたカッコよさの方向にまとめ直すことになりました。

小林『クロノア1』のクロノアは赤いリングを首に付けていますが、「アクションがしづらそう」という話をしていましたね。

荒井現在であれば解決できるのですが、当時はリングがクロノアの身体に露骨にめり込んでしまって……顔の下半分がすべて隠れてしまうこともありました。『クロノア1』のころは、レンダリングから2Dにしたあと、すべて手付で修正できていたというのもあります。

――『クロノア1』の時は、手付で直していたのですね!

荒井そうなんですよ。それも『クロノア2』では難しくなってしまったので、全体的なスタイルをスマートにして、差別化のために色も赤から青に変え、ブラッシュアップしました。デザイン面で苦労したのは、どちらかというと『クロノア2』のほうかもしれません。

――以前、アートブック用にご提供いただいた画像の中に『クロノア2』におけるクロノア変遷というものがあったようです。

荒井すごく懐かしいです。「決定稿だと嬉しい」と書いてありますし、帽子や前髪も若干違いますから、まだ完成ではないんでしょうね(笑)。3Dキャラクターのデザインディレクターなどを担当していた岡野学さんが、モデル作成の段階で等身をはじめいろいろと整えてくれました。

――色や帽子のバリエーションも、かなりあったようですね。

荒井とにかく用意できるだけ書きましたね。この配色や3Dモデルの全体のバランス、細かい調整を含めたものが、クロノアのベースデザインになっています。けっきょく、いちばんベーシックなものに落ち着きました。

――『クロノア2』のストーリーは、敵となる相手側の視点も描かれる描写がありました。これは、どのような経緯で決まったのでしょうか?

荒井これもベースを作成したのが吉沢さんなのですが、彼が以前関わっていたゲームからインスパイアされた部分が多かったようです。私は『クロノア2』では全体の構成も担当していたのですが、その情報を一切仕入れずにコンテとシナリオに手を加えていたので、オリジナリティは出ていたと思います。

――『クロノア1』とのストーリーの差別化は意図されていたのですか?

荒井吉沢さんは、「『クロノア1』と同じように感動させたいけれども、今回は前向きに泣かせたい」とおっしゃっていました。唐突な悲しい別れではなく、さわやかな感動で泣いていただきたいという意図です。“ゲームは自分で進めるもの”という主観から外れず、クロノア=プレイヤー自身の手で終わらせるんだという意味ですね。

――たしかに、『クロノア2』では、前作とはややベクトルの異なる感動を味わいました。

荒井クロノアよりもロロ自身が成長したことで、クロノアはそれを見届けるというような流れに持っていけたらと思い、全体の流れを構成していました。

――ヒューポーの再登場や、前作の世界観・ストーリーを引き継ぐという予定もあったのでしょうか?

荒井吉沢さんが書いた初稿の段階でヒューポーはいなかったので、世界観は独立させたいという意図だったと思います。『クロノア2』から遊んでも問題なく楽しめるし、『クロノア1』を遊んでいる人は、もっとおもしろく感じられるのが理想かなという感じですね。ちなみに、『クロノア1』のヒューポーとの別れのシーンで、「もう少し女性らしいキャラクターがクロノアの近くにいてもよかったのでは」 という話が上がり、ヒロインとしてロロが生まれたという記憶があります(笑)。

『クロノア2』と言えばこれ! 名曲『Stepping Wind』が生まれたきっかけが判明

――『2』で個人的にもっとも印象的だったのは、ステージ“ミラ・ミラ大雪山”で流れるボーカル曲『Stepping Wind』です。ボーカル曲を入れることになった経緯や、歌詞の秘話などがあればお教えください。

小林楽曲を担当していた柿埜嘉奈子さんに聞いてみたのですが、雪山を滑るステージだったので、テンポがいい曲にして滑り抜けたいというオーダーの中、皆で打ち合わせをして検討したときに「クロノアに歌わせたらおもしろいんじゃないかな?」という話になったと言っていましたね。荒井さん、覚えています?

荒井たしか、背景担当だったスタッフが「スキー場と言ったら歌だよね」と言ったのがきっかけだったような……。なので、メロコアでノリのいい曲を作ったんだと思います。「歌詞も書いて」と言われたので、まず日本語で作詞してからファントマイル語に訳して歌ってもらいました。

――そんなきっかけがあったのですね。ちなみに、仮歌は荒井さんが入れたという話もお聞きしました。

荒井なんでそんなことまで知れ渡っているんですか(笑)。たしかに、このままじゃ歌えないと言われたので私が仮歌を入れました。当時はできることは本当になんでもやっていましたね。たいへんだったけど、よい経験でしたよ。

――開発チームの雰囲気は、前作から変化したのでしょうか?

小林コアメンバーは『クロノア1』と同じ人が多かったですが、人数の増加により規模が拡大した印象はありますね。やれることが多くなると人が増えて、開発進行もたいへんになったなと思っていました。

荒井人数増加に合わせ、作業の細分化が行われて担当が決められました。私はアートディレクターとは名ばかりで、背景はほとんど当時のスタッフに任せていましたね。

――開発中に印象に残った思い出などはありますか?

小林ハードの性能が飛躍的に上がった時代で、エフェクトがとてもきれいに表現できるようになったので、エフェクトを付けていく作業はとても楽しんでやっていました。ただしその分、たいへんなことも増えましたね。キャラクターが3Dになったので、“パペットDISP.”という会話劇のようなイベントシーンは、前作とは比べ物にならないほど工数がかかりました。そこを作り切れるかが、最後の大きな山場だったのをよく覚えています。

ファントマイル語はこうして生まれた? シリーズを通した裏話

――シリーズ特有の言語で、かなり印象的である“ファントマイル語”は、なぜ作られたのでしょうか?

荒井理由としてはふたつです。ひとつ目は、『クロノア1』の時代にフルボイスを実現するのがとても難しかったので、容量削減のため。ふたつ目は、世界観を大事にするために、現実世界のイメージをあまり入れたくなかったという理由です。もちろん字幕・脚本は日本語なのですが、世界観を作るためにオリジナルの言語になったんだと思います。

――先ほど、『Stepping Wind』の歌詞は日本語から翻訳したとおっしゃっていましたが、特有の法則性が決まっていたのでしょうか?

荒井じつは『クロノア1』のときは、明確に意味を決めきっていたわけでなく、多少整理したものがあるくらいでした。たとえば「ルプルドゥ」だったら、「ルプル 」は「Let’s」で、「ドゥ」は「Do」のような感じです。それを『クロノア2』の制作に際して自分のほうでまとめ、簡単なファントマイル語の表を作成したんです。それを使用して脚本を翻訳し、カタカナだらけの台本を作っていました。じつは語感優先の意訳が多いので、真面目に研究されると困ってしまいますね(笑)。

小林ファントマイル語を作ったことで、世界共通でボイスを使える利点もありました。

荒井それで思い出しましたが、海外の方から「日本語っぽく聞こえる」と言われてショックを受けましたね。ただ、レオリナ役の声優さんが流暢に海外風の喋りかたをしてくれたのは高いテクニックを感じましたし、クロノア役の渡辺久美子さんには、ファントマイル語を成立させるのにとても尽力していただきました。

――なるほど。ちなみに、おふたりはボイスの収録に立ち会いましたか?

小林もちろんです。『クロノア1』のエンディングムービーの収録を見ていたとき、非常に感動しました……。ほぼアドリブだったと思うのですが、半泣きで見ていた覚えがあります。

荒井私はその収録に立ち会えなかったことが心残りですね……。渡辺さん自身にもクロノアをすごく気に入っていただいて、ことあるごとに声をかけていただいています。以前、渡辺さんがとあるイベントのゲストとして出演した際、『クロノアヒーローズ 伝説のスターメダル』(以下、『クロノアヒーローズ』)の曲を歌っていただいたこともありました。もう音源も残っていないんですが、とてもありがたいことですね。

――それはすばらしいですね! ちなみに、渡辺久美子さんが演じるクロノアの「わっふー」はかなり印象に残る掛け声でしたが、どのように生まれたのでしょうか?

荒井ジャンプ時に音声がほしいという意見があり、何人かで候補を出していました。「わっふー」のほかに、「わっはー」、「ひゃっほー」などがありましたが、いちばん語感がよかったということで決まりましたね。

――『風のクロノア』シリーズはサウンドも人気がありますが、サウンドにまつわる思い出などがありましたら、お教えください。

小林当時のナムコのサウンドにいたほとんどの皆さんに曲を書いてもらいましたね。現在のゲーム開発では信じられないような作りかたをしていると思います。

荒井メインでまとめていたのが同期の井村さんなのですが、彼女が中心となっていろいろな人に声を掛けさせていただきました。新人から重鎮の方まで、本当にオールスターのようなメンバーが参加してくれましたね。

小林その中のひとりが柿埜さんで、『クロノア2』では彼女がサウンドをまとめることになるのですが、個性あるナムコのサウンドの皆さんをまとめるのがたいへんそうでした。でも、その結果、皆さん気合を入れて一曲一曲書いていただいているので、クオリティはとても高いですよ。

荒井今回の『1&2アンコール』でも、楽曲に関してはすべてそのまま使われています。25年前の曲が当時のまま使えるというのは、かなりの完成度でないとできないことなので、とてもすばらしいと思います。

――『クロノア2』の発売後、シリーズに関してどのような変化がありましたか?

小林『クロノア2』の後に出した『クロノアヒーローズ』あたりでは、コロコロコミックでのマンガの連載に合わせてデザインを大きく調整したので、ギャップを感じられた方も多かったと思います。大人・子ども向けのどちらに舵をとるか、悩んでいた時期もありました。

荒井『クロノア2』のあと、子ども向けに作る流れにシフトしていったと記憶しています。いまとなっては当たり前なのですが、ゲームはただ作っていればいいというわけではないことを意識し始めました。クロノアと同じく、我々も少し大人になっているんですね(笑)。

シリーズに込められた思いと、応援してくれるファンへのメッセージ

――『クロノア2』以降、携帯機シリーズが出たあとに新作は途絶えてしまいましたね。

荒井コロコロコミックで取り組ませていただいていたころは、低年齢層を意識してシリーズを展開していましたが、子どもたちには必ずローテーションがあるんです。いまの世代で盛り上がっても、つぎの世代に受け継ぐことができなければ、2、3年ほどでブームは終わってしまいます。そこをうまく繋げられなかったのかもしれません。

小林新たなキャラクターを登場させたりなど、さまざまな施策を行いましたが、昔からの『クロノア』シリーズファンには抵抗があったのかなとも感じました。路線変更によって得られたものもあれば、よくないこともあったというのが、現在でも残っているイメージですね。

荒井シリーズにはいったん区切りがつきましたが、コアに支持してくれる方々が、25年間変わらずWebやSNSなどで話題にしてくれており、長く支えられていることを実感しています。

――『1&2アンコール』をきっかけにシリーズが復活してくれるとうれしいです。『1&2アンコール』は、どのようなユーザーにプレイしてほしいですか?

小林私自身も含めた当時のプレイヤーに、もう一度遊んでいただいて、よい思い出を蘇らせてもらいたいです。これからどのような展開になるのかはわかりませんが、マルチハードでの発売となりますので、少しでも新しく触ってもらえる人が増え、反応が出てくるとうれしいですね。

荒井新しいユーザーを巻き込んでほしいという気持ちは、私にもありますね。今はネットで結末もすべて知れてしまう時代ですが、当時の体験をそのままくり返してもらうのが理想的なので、興味のない人にもどんどんオススメしていただければ幸いです。

――最後に、『1&2アンコール』を楽しみにしているクロノアファンにメッセージをお願いします。

小林クロノアはファンの方に熱心に支えてもらっているタイトルで、今回も発表された際にとても大きな反応があり、驚くとともに非常にうれしい気持ちになりました。私ももう一度ファントマイルとルーナティアに行けるのを楽しみにしているので、皆さんもいっしょに遊んでいただければと思います。よろしくお願いいたします。

荒井25年間にも渡ってご愛顧いただけているというのはひたすら驚きで、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。こうして皆さんの前に再びお披露目できる機会をいただけたこともうれしいですし、さらに新しい人に知っていただけたらこれに勝る喜びはない、クリエイター冥利に尽きることだと思っています。ぜひ、応援のほうよろしくお願いいたします。

『風のクロノア 1&2アンコール』ソフトとPS5/Switch本体のセットを、それぞれ抽選で1名様にプレゼント!

 家庭用ゲーム機本体とソフトのセットを、それぞれ抽選で1名様(計2名)にプレゼント! 希望者は、ファミ通.comのTwitterアカウント(@famitsu)および『アンコール』シリーズTwitterアカウント(@encore_series)をフォローのうえ(すでにフォローいただいている場合はそのままでOK)、該当のツイートをRT(リツイート)すれば応募完了です。RTの応募締め切りは2022年6月29日23時59分まで。

※必ず、下記の注意事項を確認してからご応募ください。
※偽アカウントにご注意ください。ファミ通.comのTwitter公式アカウント(@famitsu)になりすまし、不審なURLを含むDMを送る偽アカウントが確認されています。フィッシング詐欺など不正行為が目的の可能性があるため、ご注意ください(公式アカウントには、アカウント名の横に認証バッジがあります)

プレイステーション5本体+『風のクロノア 1&2アンコール』(1名)

Nintendo Switch(有機ELモデル) ホワイト本体+『風のクロノア 1&2アンコール』(1名)

当選発表

 当選者にのみ、2022年7月6日(水)以降に、Twitterのファミ通.com公式アカウント(@famitsu)から、DM(ダイレクトメッセージ)を使って通知します。

※DMを送るため、発表まではファミ通.com公式アカウント(@famitsu)のフォローを解除しないでください。

※当選者にお送りするDM内に、賞品発送先の登録フォームのURLを記載しますので、2022年7月11日(月)23時59分までに必ずご登録ください。期限までに登録が確認できなかった場合は、当選権利が取り消されます。

※【偽アカウントにご注意ください!】ファミ通.comのTwitter公式アカウント(@famitsu)になりすまし、不審なURLを含むDMを送る偽アカウントが確認されています。フィッシング詐欺など不正行為が目的の可能性があるため、ご注意ください(公式アカウントには、アカウント名の横に認証バッジがあります)

賞品発送

2022年7月中旬予定

※新型コロナウイルス感染症の影響により、賞品発送が遅れる場合があります。

注意事項

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  • 応募に際し発生する通信料・通話料などは、お客様のご負担となります。
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