このアプリ最大の特徴は“ホークアイ”のトラッキングデータがリアルタイムで配信されていること。テニスのイン・アウトを判定する ELC(Electronic Line Calling) にも使われている技術だ。何がすごいのか、まず画面写真を見てもらおう。

さらに、ストライクゾーン(目安)も表示され、ホークアイのトラッキングデータ による極めて正確な位置情報が表示される(※厳密には現状の日本プロ野球のストライクゾーンとは定義が異なる。下図参照)。
それを見られるのは非常にエキサイティングであり、また、回転数や“変化量”はこのアプリでしか見られない情報でもある。だから野球ファンからの注目度は非常に高い。

ゲーム会社がなぜ本格的な、そして革新的な野球アプリを開発・運営しているのだろうか?
詳しく調べると、ホークアイをグループ会社に有するソニー、アプリを開発するKONAMI、そして球団が持つ権利やデータの提供をNPBエンタープライズが担うことで実現したのだという。
新時代の野球速報アプリ、その開発と運営について、野球ファンでもある記者がじっくり訊いた。あのう、いつにも増して、野球ファン以外の方はけっこう置いてけぼりです。すみません。へでで。
田村哉太 氏(たむら かなた)
KONAMI『NPB+』プロデューサー。(文中は田村)
平井純貴 氏(ひらい じゅんき)
KONAMI『NPB+』にておもにディレクションを担当。(文中は平井)
- NPBE&KONAMI&ソニーの3社協業
- 先行アプリとの差別化
- 2026年春の本格運営にいたるまで
- 複雑なプレイはどう登録している? アプリ運用の実態
- ゲーム開発とのシナジー効果
- “横変化●●cm”は何基準?
- 【記者の目】野球ファンなら必携アプリに
NPBE&KONAMI&ソニーの3社協業
ソニーのグループ会社であるホークアイさんのトラッキングシステムがプロ野球12球団の本拠地球場に入ったことで、これまでなかなか見られなかった非常に詳細なデータを、ファンの方にもおもしろい形で届けられるのではないかと考えたのが企画のスタートです。そこで3社で集まって、ディスカッションが始まりました。
――企画の発端はどういった流れで?
球団の方やNPBさんと個別にやり取りをしているなかで、「デジタルアプリみたいなプラットフォームにファンを集めて、プロ野球のおもしろさを改めて伝えていく場所を作れるのではないか」という話が出ていました。
そして一方で、ソニーさんのグループ会社であるホークアイさんのトラッキング技術が出てきました。ソニーさんはソニーさんで、球界をどうやったら盛り上げられるか、どうすればデータが普及していくかといったことは考えられていたと思います。
――野球の普及を考えるNPBEとKONAMI、そしてホークアイのデータを活用したいソニーの3社の思惑が合致して。
ホークアイさんのトラッキングがそもそもどういう技術で、どういうデータが吐き出されていて、そのデータをもとにKONAMIとしてはどういう協力ができるのか、というコミュニケーションからスタートしました。実際にアプリの制作が始まったのは数年前です。

ホークアイのデータを野球ファンにどう見せるか
そして『NPB+』は、そのホークアイさんのデータを視覚的にわかりやすくお伝えすることで、野球がよりおもしろく見られるアプリです。
ホークアイさんのトラッキングシステムは基本的にはデータを集めるために各球団が自チームのために設置されていったシステムですが、それをもう一段階活用してみようというのが本アプリの出発点です。
――いや本当に、見ていると楽しくて、いままでになかった体験だなと感じます。投球の精密な軌道を始め、打球速度や走者速度、これまで野球中継でも野球アプリでも見られなかったようなデータが、試合進行と同期して見られて。わかりやすくたとえると、『プロ野球スピリッツ』で打球速度や打球角度が出るあの感じの、よりすごい版という感じですよね。

ホークアイのデータはある、これをうまく使えば新しい楽しみがファンに提供できそうだ……という状況があったんですけど、それをどう世に送り出すかというところがなかなか固まりませんでした。本アプリにおいては、NPBEさんとも協議のうえで現状の形になっています。ですので、KONAMIだけでは現在のアプリの形にはならなかった、実現できなかったと思います。
ーーストライクゾーン表示などもかなり踏み込んだアプリになっているなと感じます。3社がいてこその『NPB+』なんですね。3社協業というなかで、KONAMIが担っているのはアプリの設計と開発・運用という部分で?
ホークアイさん関連のもろもろはソニーさんの分野です。我々は“CMSの動画”と呼んでいるんですけど、こういう動画の出力もソニーさん側でやっています。
そしてKONAMIとしては、NPBEさんとソニーさんからいただいたデータをアプリに落とし込んだり、アプリの運用を行ったりしているという分担ですね。

先行アプリとの差別化
もうひとつ開発時に掲げていたのは“個人にフォーカスできるようにすること”です。
――と言いますと。

ひとりだけでそれだけファンを熱狂させる可能性があることがわかったので、球団ではなく気になっている選手だけ見たいという人もいるのだろうと。そういう方にとって選手個人の情報を簡単に見られるように設計しました。
そして、選手から入ってチームのファンになるケースもあると思いますので、そういう導線も用意したいと設計段階から考えていました。
2026年春の本格運営にいたるまで
KONAMIとしても球界としても、「これを出してどういう反応が来るだろう?」と、早めに試してみたい気持ちと、少しおっかなびっくりなところもあったので、まずはポストシーズンで反応を見てみようと考えました。
そこで速報部分などに焦点を絞りつつ、感度の高いユーザーさんにまずは見ていただいたという流れです。
――昨年のテスト版の際はあまり宣伝もしていませんでしたよね?
――かくいう僕もそのひとりです。じつはというかあまり知られていないかもしれないところでは、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)2026の試合もこのアプリで速報が見られましたよね? 今回、テレビ放送がなくて、独占配信(とラジオ)だったので、助かった方もいたのではないかなと思います。

――3社協業のいい作用が出たわけですね。2025年のポストシーズン、2026年春のWBCと運用してみて、どういうフィードバックがあったのか、本格運用に活かされた部分があれば教えてください。
最初に集まってきたユーザーさんはコアな野球ファンだろうと思いますので、指標に関してはそういった方の意見の多いものから順番に入れていった感じではあります。
――OPSとか。
――データの民主化。
各指標がどのくらい認知されているか、民主化されているか、どんなデータを表示するかといったバランスを、ユーザーさんの意見の量から計っていました。こういった部分は調査しにくいところですので。
――打球速度などの細かなデータはフィードバックを受けて入れたわけですか?
パーセンタイル表示(全選手の成績を下から順に並べた際、どの位置にいるかを示す相対評価指数)についても要望が多く、製作委員会で話しているところです。
複雑なプレイはどう登録している? アプリ運用の実態

たとえばゲーム中の実際の判定がボールかストライクか、アウトかエラーかなど、その場にいないとわからないものを入力したら、それがトリガーになってワンプレイと判断しています。
――ああ、なるほど。ホークアイは選手やボールなどの動きを追いかけるけど、どういうプレイなのかを判断しているわけではないんですよね。野球はインフィールドフライやエラー、ランナーの追い越しなど、かなり特殊なプレイが起こるケースもありますよね。
――ホークアイのトラッキングシステムが設置されていない地方球場での試合はどうなるんでしょうか?
ゆくゆくは地方球場開催の試合にもホークアイさんのシステムを入れられないかという議論はあるようです。
――へええ、なるほど。ホークアイ部分は自動なんだけど、それ以外は人力でがんばっている……となると、けっこうマンパワーが必要ですね。
――各試合にデータ入力のオペレーターが必須となると、人件費も掛かりますよね。
――(笑)。『NPB+』のマネタイズというのは現在どのような形で?
KONAMIとして「プロ野球ファンの人なら必ず持っているアプリにしたい」という野望はあります。『NPB+』にはそのポテンシャルはあると自負しています。実際にそれぐらい多くのお客さんに普及してくると、いろいろと見えてくるかなと思っています。
――UZR(守備範囲の指標)なんかも、ホークアイの仕組み的にかなり正確に出せそうな気がしますし。野手の送球速度ランキングとか守備で走った距離ランキングみたいな、ちょっと変わったデータなんかもこの仕組みなら取れそうですよね。イチ利用者としてすごくおもしろいアプリだと感じているので、ぜひいろいろな形で利益が上がり、リクープできて長続きしてほしいと思っています。
ゲーム開発とのシナジー効果

一方で、『NPB+』から取得できるデータをゲーム側に向けてはどのように使えるのかというのは、議論が続いています。これまでなかったデータを、どう活用するか。
――ボールの回転数や変化量もダイレクトに見られますもんね。
本当に多くの皆さんに連携していただいたので、今後どんな体験を届けるのかを議論しています。ゲームを通じて『NPB+』にも何かが起こるという、プロ野球全体を楽しんでもらえるような仕掛けづくりをできればと思っています。
――将来的に『NPB+』が野球ファンにとってなくてはならない必須アプリになって、ゲームとシナジー効果があると楽しそうです。
そして、その選手が実際にどんな選手なのか気になったときに、横に『NPB+』があると、一連の体験としてプロ野球ファンになってもらえる設計にできたらと考えています。
“横変化●●cm”は何基準?

それに対して、ボールのスピンによって少し変化するわけです。上に行くとこの差がまず高さのプラス変化量になります。そして、右ピッチャーのシュート回転だと右方向に少し変化しますが、これが横のプラス変化量です。数学のx軸とy軸と考えてもらえればわかりやすいかもしれません。


――「浮き上がる」と言われた昔の藤川球児投手や江川卓投手のストレートは、もしもわかったらすごい数値が出そうです。昔に『NPB+』があったらなあ。
解説の人が「球がノビてますね」と言ったときに、昔はわからなかったことがホークアイさんのトラッキングデータ数値を見れば、実際にホップ回転していることがわかると思います。
社内の目標として“業界視聴率を上げる”というのもあります。たとえば、解説者の方はもちろん、スポーツ紙やメディアの方が『NPB+』の数値を使って記事やニュースで発信してほしいと思っています。
――そこまで数値や指標に詳しくない初心者の方は、『NPB+』のどこを見るのがオススメというのはありますか?
――たしかにランキングとデータを見ているだけでも楽しいですよね。

――なるほど。ただ、テレビを観ながらアプリを見ていると、つぎの球を投げたときにデータが取得されているので、直前の投球データがなるべく早く見たいと感じることもあります。
――テレビを観ながらだと状況はわかりますが、アプリだけで見ている人は更新が止まると、球場で何か起こっているのかわからないですよね。
――では最後に、『NPB+』について、読者に伝えたいことがあればぜひ。
我々も日々ブラッシュアップしていますので、たまに戻ってきていただければと思います。NPBE、ソニー、KONAMIという3社だからできることが、この後もたくさんありますので、日々進化する『NPB+』を使い続けてほしいですね。

【記者の目】野球ファンなら必携アプリに
プロ野球ファンとしてもともと注目して使っていたところに、ゲームファンとしてはおなじみのKONAMIが開発・運営しているというのだから、これはもう詳しい話を訊きに行くしかない……という使命感(?)を持って行った取材。アプリ開発の発端や開発者の熱意をしっかりと訊くことができた。
投球時のストライクゾーン表示も含め、「ホークアイのトラッキングデータを使って野球の新しいおもしろさを提供したい」と考える3社の姿勢はじつに積極的なもので、とても好印象だ。マネタイズに課題を残すというけれど、ぜひできる限りがんばってほしい。
MLBの“ABS”が将来NPBにも導入されるかは不明だけど、ホークアイのすごさが手もとで体感できる本アプリ。NPBEとKONAMIとソニーの3社がそれぞれの得意分野を持ち寄って初めて実現できている、じつはすごいことだ。プロ野球ファンの方はぜひ試してみてはいかがだろうか。














