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『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】

『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】
 古今東西の魅力的なインディーゲームを紹介する“とっておきインディー”
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 今回は、Z世代の確かな実感が込められたクィアでインモラルなビジュアルノベルゲーム『メディテラネア・インフェルノ』。
※Web転載に合わせて、本誌掲載時から一部を追記・改訂しております。

華やかでインモラル Z世代の地獄[Inferno]

『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】
ココが推し
  • コロナ禍、Z世代など世の中の“イマ”を捉えたテーマ性
  • 特徴的なアートスタイルと、インモラルなストーリー
  • なんだかんだ言っても未来は若者がつくるという希望

 かつて若者だった僕から言わせてもらえば、若者にとって世の中なんてのは、いつだって苦労や苦悩ばかりを押し付けてくるロクデモナイ代物なわけだが、それにしたって、いわゆるZ世代(※)と呼ばれる人々が置かれた状況には同情せざるを得ないところがある。
※Z世代…… 一般的に1990年代半ばから2000年代のあいだに生まれた世代を指す。ただし、アメリカ発祥の言葉なので、日本においては流行りのマーケティング用語でしかない印象も強い。
 生まれたときからインターネットがあったデジタルネイティブの彼らは、思春期を迎えたころからSNSを通じてつねに他者からの評価に心を砕かれ、サブスクで配信される新旧の膨大なコンテンツを競うように消費させられ、そしていざ人生を謳歌しようとしたところにコロナ禍ときたもんだ。かつて若者だった僕から言わせてもらえば、彼らの歩んできた道は“地獄”としか思えない。また実際のところ、彼ら自身の中にもそう考えている人は少なからずいるようなのだ。

 イタリアのミラノで活動するアーティスト“EYEGUYS”ことロレンツォ・レダエリ氏が手掛けた『メディテラネア・インフェルノ』は、3人のクィアな若者――クラウディオ、アンドレア、ミダが体験する“
地獄”を描いたビジュアルノベルだ。

 コロナ禍による数年のロックダウン生活を終えて、地中海沿岸の街へバカンスに訪れた彼らは、そこで出会ったマダマと名乗る人物から“ミラージュ”という光り輝く果実を与えられ、強烈なトリップを体験する。そしてマダマは3日後の“聖母被昇天祭(フェッラゴースト)”までにミラージュを4つ食べたものだけが天国に行けると告げ、その後も行く先々で姿を見せミラージュを差し出してくるのだ。
『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】
 ミラージュが見せる幻覚パートは本作の最大の見どころだ。その内容はポップでサイケデリックで宗教的なイメージが散りばめられていて悪夢めいたものだが、ラリった頭が見せるただのデタラメってわけではない。3人が人知れず抱いている(あるいは自分でもその存在に気づいていない)欲望や不安を赤裸々に映し出しているのだ。

 クラウディオは自身にのしかかる歴史の重みに圧倒され続け、アンドレアはコロナ禍によって失われたあらゆる機会を取り戻すことに執心し、ミダはSNSに集まる大量の“いいね!”では埋められない愛の渇望と向き合う。華やかでインモラルな暮らしをするクィアでセレブな存在の彼らだが、内に抱えている葛藤は先に挙げた“Z世代の
地獄”とも少なからず重なっていて、意外なほど“いまどきの若者”っぽい。

 それもそのはずで、EYEGUYSは
Real Soundに掲載されたインタビューで、本作の主人公たちについて、自身もZ世代であるEYEGUYSが考える“Z世代を苦しめているもの”を体現した存在と語っている。であれば、『メディテラネア・インフェルノ』はZ世代自身が“Z世代の地獄”を嘆く自虐的な作品なのだろうか? いや、そうではない。

 ミラージュを誰に食べさせて、誰に食べさせないかで分岐する本作の物語は、愚かな若者たちのグロテスクなサバイバルゲームであり、同時に若者が搾取され続ける不愉快な構図の話でもある。3人のうちふたりは天国へ行けないなんて勝手な話だし、実際のところそのふたりは“ 天国に行けない”どころではない目に遭う。でも、散々な
地獄巡りの後にEYEGUYSが用意しているいわゆるトゥルーエンドには、得意げに“Z世代の地獄”とか口にするヤツらをサッといなして退場させるような軽やかさがある。

 いつの時代も若者にとって世の中ってやつはロクデモナイ代物だが、若者が世の中に打ち負かされて消えたことは歴史上一度もないし、歩んできた道が
地獄だろうがなんだろうが未来を歩むのは若者たちだ。かつて若者だった僕は『メディテラネア・インフェルノ』をプレイして、そんな青臭いことを思ったりした。
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ルーツに縛られたクラウディオの地獄

『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】
 名門ヴィスコンティ家の出身で、立ち振る舞いにもルックスにも秀でたクラウディオは、誰もがうらやむパーフェクトな存在だ。しかし物語の冒頭で彼が口にする言葉は暗い。「自分にはもう未来はないって感じで、過去にこだわってしまうことってないかい?」と正体を現す前のマダマに対して語り、「ぼくは25歳だけど、すでにして疲れきってる」と表情を曇らせる。

 著名なデザイナーの祖父に対する強い憧れと、“自分もそうならなければいけない”という重圧。加えて、古代ローマ帝国の時代からの歴史を日々目の当たりにする生活のなかで、自分たちの世代にはもう新しいものが残されていない、という絶望も感じているのだ。新旧のすぐれたコンテンツが容易に得られる時代ゆえに、自分が何かの“ルーツ”にはなれないという諦めの
地獄に、クラウディオは陥っている。

孤独にむしばまれ空回りするアンドレアの地獄

『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】
 3人の中でもっとも“陽キャ”なアンドレア。連日連夜のパーティーと奔放な性生活こそが人生のすべてであった彼にとって、コロナ禍におけるロックダウン生活のダメージは大きかった。いつ終わるともしれない孤独な生活は、自身の“陽キャ”な性格への疑いも深めていくことになる。久々に仲間と再会した彼は以前と変わらず陽気で破廉恥に振る舞うが、一方で「オレってマジで社交性あんのか?」という不安にもさいなまれる。

 実際のところ、そんな彼の弱さにクラウディオとミダはとっくに気づいているのだ。久しぶりに訪れたディスコで「ダンスはオレの社交生活を何度も救ってくれた」と感情を高ぶらせて踊るアンドレアと、それを見て「1人ではいられない、真性のかまってちゃん」と呆れるふたり。彼らのあいだにある溝は、
地獄の底に通じるほど深い……。

叶わぬ愛を求め続けているミダの地獄

『メディテラネア・インフェルノ』華やかでインモラル、サイケデリックで宗教的。Z世代の“地獄”と“救済”を描くビジュアルノベル【とっておきインディー】
 コロナ禍はミダの人生を変えた。ロックダウン中にSNSへ投稿した自撮り写真がバズり、あっという間にファッション界のトップインフルエンサーになった彼は、やがてモデルとしても活躍するようになる。人々がステイホームを強いられるなか、ミダは世界中のファッションイベントを飛び回りモデルとしての名声をさらに高めていく。

 かつてはクラウディオ、アンドレアの影に隠れている感もあったミダだが、いまやその名は世界中に知られるようになった。その一方で、いくらSNSで“いいね!” を集めようと、いくらランウェイを歩こうと、いくら道行く人から憧れの目を向けられようと、ミダの心が満たされることはない。世界中から注目を集める自分、愛する人から決して愛されない惨めな自分……天国と
地獄のような人生の落差に、ミダは苦しめられているのだ。

メディテラネア・インフェルノ

  • プラットフォーム:PC、Xbox Series X|S、Xbox One
  • 発売元:Santa Ragione
  • 発売日:備考欄参照
  • 価格:備考欄参照
  • ジャンル:アドベンチャー
  • 対象年齢:IARC 16歳以上対象
  • 備考:ダウンロード専売、PC版は2023年12月19日発売で1700円[税込]、Xbox Series X|S版とXbox One版は3月6日発売で各1150円[税込] 開発:Eyeguys、Lorenzo Redaelli

担当者プロフィール

  • ヨージロ

    ヨージロ

    アクション、対戦格闘ゲームが好きなはずだったが、最近はインディーズのアドベンチャーゲームばかり遊んでいるライター。いちばん好きなゲームはファミコンの『ヒットラーの復活』。006年から2012年までファミ通編集部のニュース班に所属し、ファミ通.comでの取材記事をおもに担当。現在はゲームからだいぶ遠いジャンルのWEBメディアで編集職に就いている。

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