『グノーシア』アニメ化の軌跡が語られたトークショーが立命館大学で開催。プロフェッショナルが集結してのこだわりの数々に迫る【中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編】

『グノーシア』アニメ化の軌跡が語られたトークショーが立命館大学で開催。プロフェッショナルが集結してのこだわりの数々に迫る【中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編】
 立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、海外ゲーム情報を中心とした連載ブログ。今回は、立命館大学で行われた『グノーシア』をテーマにした開発会社プチデポット代表の川勝徹氏と、アニメの制作を担当したアニプレックスの木村吉隆氏によるトークショーの模様をお届けする。

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 インディー発のアドベンチャーゲームからTVアニメ化され、現在、MXテレビで毎週土曜日に放送中の『グノーシア』(そのほか、ローカル局、動画配信サイトでも放映、配信)のプロデューサー陣によるトークショーが、2025年11月3日、立命館大学衣笠キャンパスの末川記念会館1階講義室にて開催された。

 登壇者は、原作となったゲームを生み出したゲーム開発集団プチデポット代表の川勝徹氏と、制作にあたった株式会社アニプレックスの木村吉隆氏。両氏は、ともに本アニメのプロデューサーを務めている。

 立命館大学映像学部では、これまでもアニメ作品とのコラボイベントを実践科目の一環として継続的に行ってきたが、その最初期の取り組みは2009年9月に行われた、宇木敦哉監督によるアニメ映画
『センコロール』関係者によるティーチインにまでさかのぼる。宇木監督に加え、同作エグゼクティブプロデューサーであった株式会社シンク(当時)の竹内宏彰氏、そして同作においてアニプレックス側のエグゼクティブプロデューサーであった岩上敦宏氏(当時)の3人が登壇しての企画であったが、当初から学生が主体的に携わり、以降もさまざまなアニメスタジオとの連携によって脈々と現在まで継続する伝統的な企画となった。

 学生たちは、このイベント企画の経験を生かし、ゲームやアニメ業界の現場で活躍しているOB・OGも多数いる。それからおよそ16年の年月を経て、再びその原点となったアニプレックスとのコラボレーションをするにいたったことには感慨深いものがある。

 今回のイベントも、立命館大学映像学部の受講生みずからが企画し、司会進行などすべての役割を学生たちが担い、催された。内容もアニメ版『グノーシア』制作秘話のみならず、ふたりのキャリア観など大学生にとって関心のあるテーマなども盛り込まれ、多岐にわたるトークがくり広げられた。

■プロデューサーの熱量から動き出したアニメ化への道筋

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川勝徹プロデューサー(左)と木村吉隆プロデューサー(右)。
 『グノーシア』アニメ化までのいきさつについては、原作側のプチデポットの川勝プロデューサーから語られた。2020年にゲームの『グノーシア』がNintendo Switch版の発売後、複数の企業からアニメ化のオファーが寄せられたが、アニプレックスもそのひとつであった。

 当時、打診してきた木村プロデューサーは、それまで劇場版『
Fate/stay night [Heaven’s Feel]』、TVアニメ『鬼滅の刃』などのアシスタントプロデューサーとして、さまざまな作品に携わってきたものの、プロデューサーとしてみずからが企画を立ち上げるのは初めてだったという。木村プロデューサーのアニメ化に対する熱量がすごかったことが決め手となり、企画が本格的にスタートすることになった。

 一方、それを受けたゲーム原作サイドの川勝氏も、最初のリリースとなった2019年の『グノーシア』プレイステーション Vita版を皮切りに、Nintendo Switch(2020年)、Steam(2022年)、PS5、PS4(2023年)へと展開を広げるなどファン層の拡大を進めてきたところで、さらなる新たなプラットフォームの可能性を模索、検討していたところだった。こうした背景から、単にアニメ化を許諾するだけでなく、原作者としても制作に深く関与することを決めたという。

 映像化のオファーから企画が形になるまでには4年の歳月を要することとなった。お披露目となったのは、原作ゲーム『グノーシア』の発売5周年にあたる記念のポップアップショップ“渋谷 PARCO Presents GNOSIA STORE 5th Anniversary”(2024年11月29日〜12月15日/東京・渋谷PARCO)開催に合わせてのことだった。このタイミングで、ティザーPVを公開すると、SNSや各メディアが一斉に取り上げ、たいへんな反響となった。

■監督、脚本家、声優、スタジオ…プロフェッショナルの集結

 トークショーでは、木村氏の作品への熱い思い、川勝氏の原作リリースから約4年間にわたるアニメ化までの思いが語られたが、双方にとって想いの募るプロジェクトであることは、そこで明かされた制作体制にも表れている。

 原作ゲームは、人間またはその敵であるグノーシアのいずれかになったプレイヤーが、宇宙船を舞台に敵対者をコールドスリープすべく登場キャラクターたちに議論を投げかけていくゲームで、雌雄が決すると、キャラクターがシャッフルされるというループ構造(キャラクターのセツは時間のループをくり返しており、プレイヤーを支えながらその原因と脱出方法を探っている)はおなじみだろう。

 制作体制の確立段階で、まず最初に直面した大きな課題が、そのゲームのループ構造をどうアニメのリニアな物語に落とし込むかという挑戦だった。それを実現するため、木村氏と川勝氏は検討の末、TVアニメ
『STEINS;GATE』などで知られる花田十輝氏に脚本を依頼することにした。これまで花田氏はアニプレックスと仕事をしたことがなかったが、ゲーム原作をアニメ化するにあたって、キャラクター、そしてタイムリープの魅力を最大限に生かせる脚本家を想定した際、花田氏しか考えられなかったことから、オファーしたのだという。

 実際に仕事をしてみると花田氏は、木村・川勝両氏の期待通り、原作ものとオリジナルアニメ、それぞれをゼロから作れる経験を持っていることがわかり、その双方の要素を含む『グノーシア』のシリーズ構成・脚本担当としては最適だと、改めて実感したという。

 ストーリー設定の設計にあたっては、ナラティブデザインを意識し、アニメ版では「(原作ゲームにおいて)ありえたかもしれない別の世界」とすることが初期の段階で決定された。これは、プレイヤー主役の体験として完成している原作の世界観を尊重するためだと川勝氏。

 その一方、脚本作りにおいては「ゲーム版での説明テキストをそのままアニメ用にいかに短くして伝えやすくするか」といった、アニメとして表現方法に制作チームが注力したと川勝氏は言う。そして脚本家としてはベテランの花田氏、監督である市川量也氏との仕事を通して、同じ作品を作るパートナーとして認知してもらえることに、木村氏はやりがいを感じたという。

 声優選定では、ユーリ、セツ、SQ、ラキオ、ジナの5人はオーディションで、ほかの乗員たちはオファーで決定された。これは、アフレコに際して乗員たちが一箇所に集まって同じ掛け合いがおこなわれるという『グノーシア』らしさを実現するため、実務的な調整を優先した木村氏の判断だったという。

 アニメスタジオはドメリカ(domerica)を選定したが、これは同社がもともとアトラスのゲーム版『
ペルソナ』シリーズや、『メタファー:リファンタジオ』など、ゲーム作品のアニメパートの経験が豊富で、CGとアニメを接続させる技術に定評のあるアニメスタジオだったことが大きいという。実際にスタジオを訪れて現場の技術力やクリエイティブ、スタッフの人柄に触れる中で、本作のアニメ化には同スタジオがベストマッチすると、木村プロデューサーは確信を持ったという。

■ゲームの“促成学習”を表現−−設定や演出に”魂”を宿すこだわり

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アニメオリジナルキャラクターのユーリ。
 イベントでは、川勝・木村両プロデューサーが観客とともに『グノーシア』第1話の“始点”を視聴しながら、リアルタイムで両氏がコメントするオーディオコメンタリーコーナー設けられたが、早くも第1話から、アニメ化に際して取り組んだアニメで表現できる演出へのこだわりがしっかりと反映されていたことが明らかとなった。

 まず、冒頭シーン、アニメのオリジナルキャラクターである主人公のユーリが起きる前に描き出された無数のテキストと、脳神経が青いデジタル空間を駆け抜けているようなシーンに対し、「これ、ゲームをプレイした人が観たら本当に驚いたんじゃないでしょうか?」と川勝氏が話題を振ると、木村氏はこれこそ(ゲームにも登場する)“促成学習”のビジュアリゼーションであると明かした。

 さらに川勝氏が、ユーリがベッドから起き上がるシーンにおいて、セツがコールドスリープ用凍結ポッドを開けようとした際に氷結している部分が置かれた手によって砕かれるシーンについて、描写の細かさに驚かされたと指摘すると、「このシーンは CGが効果的に使用されているのですが、原作における最初のシーンであると同時に、アニメの幕開けでもあるので、重厚なSFの物語が始まったことを視覚的に伝えたかったんです」と木村氏はそのいきさつを明かした。

 第1話では、開始1分でセツが記憶喪失のユーリに対して乗員のうちひとりがグノーシアであることを明かして“人狼ゲーム”を引き合いに議論していく中で、誰がグノーシアかを選別していくというこの世界での状況を解くが、これについて木村氏は、「本アニメの内容を視聴者に少しでもわかっていただけるようアニメ制作スタッフ内で何度も検討を重ねた結果」とした。
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 このほか、ゲームファンにとって見応えがあるのは、緻密に描かれた“星間航行船D.Q.O.(D.Q.Q.)”だろう。D.Q.Q.の外観が映されたところで「D.Q.O.ってこんなに大きいのか! とゲームファンは思ったのでは」と木村氏。川勝氏は「背景とかキャラクターなど、よく動きます。キャラクターと3DCG背景を、いかに違和感なくなじんで見せるかという点で、木村さんとドメリカさんには、すごくこだわっていただきました」と感謝の意を述べ、この3DCGとアニメ表現を自然につなげられるのが、ドメリカの手腕であったことを改めて強調した。

 また、劇中で主要キャラクターのひとりであるSQがさまざまなアングルから動きまわる様子が描かれている点については、原作ゲームのキャラクターデザインを担当しているプチデポットのことり氏が主要キャラクターの3面図を描き起こしたのだと川勝氏は明かした。これを受ける形で「ラキオの服は(アニメ化の時)本当にたいへんだったっていう……」と木村氏がコメントすると、会場から笑いが巻き起こった。ジナの髪の毛のグラデーションも、処理がたいへんだったとのことだが、ゲームに登場するキャラクターひとりひとりを、アニメ用にしっかりデザインしようという意気込みが随所に見られた。
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 SQについては、「声優を担当されている鬼頭明里さんのプロフェッショナルな演技で、キャラクターの魅力を引き出していただいた」と川勝氏は語り、頻繁に入れたアドリブなどが、キャラクターに生命を吹き込み、形成されていったことが明かされた。

 木村氏も、「ユーリの演技も本当にすばらしい」と声優たちの演技を絶賛。もともと原作ゲームにはボイスがないが、アニメではカタ仮名、平仮名、英語など、すべてを用いてユーザーが頭の中で声を想像できるよう表現したとのこと。「会話の行間で発せられるなにげない言葉をどう実際のボイスで表現するかはたいへんだったと思います。それぞれの声優さんは、本当によく考えてくれた」(同氏)。
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鬼頭明里さんによる演技によりSQの魅力が最大限に引き出された。
 サウンドエフェクトについては、音響監督の納谷僚介氏、音響効果の川田清貴氏と話し合い、原作のサウンドエフェクトを使えるところは積極的に使っていく、という方針で落ち着いたのだという。音楽についても、アニメの劇伴を手掛ける深澤秀行氏のアレンジにより、原作の音楽が生かされている。

 これらに加え、アニメーションの表現に関し、第1話についてはつねにどこかが何かが動いている点や、インパクトのある角度からのレイアウトでありながら、しっかりと動きがある点、顔の超クロースアップで瞳孔まで動いているシーンを入れている点を示し、その表現の豊かさに川勝氏は驚きを表していた。また木村氏も「これまでの映像制作のアプローチにはなかった発見があり、ずっとアニメの仕事をしてきた自分も改めて学ばせていただきました」と語った。

 このようなさまざまな絵作り、動画作りが、“議論”を主体とした原作ゲームを、アニメとして昇華し、おもしろいものにしたのだという。また投票シーンのUIなどもダイナミックなCGが使われていたが、これについて木村氏は「毎回出てくるシーンなので、まずは視聴に耐えうるもの、さらにこのシーンがひとつの見せ場になるようなアイデアを監督に考えていただいた。結果的にそれが忠実にアニメ化されている」と市川監督の手腕を改めて評価した。

■話題の第1話全編通し放送は、製作陣の緻密な調整で実現

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投票シーンは頻繁に登場するため飽きがこないようダイナミックなCGが使われた。
 このようにオーディオコメンタリーにおいて、1話全体を通しての作品全体に対するこだわりについて解説されたが、アニメそのもののだけではない仕掛けとして“(CMを挟まないノンストップの)全編通し27分放送”の施策も話題になった。これについては、『鬼滅の刃』シリーズでの前例にも触れつつ、「SFミステリーの導入としての第1話だったので、最初から最後まで没入感をもって視聴できるようにしたかった」ことから、この方法を採用したと木村氏は言う。ただ、その裏側では、アニメ制作の各セクション、そして社外の広告代理店などとの綿密な実務調整がなされたという。

 本作をできるだけたくさんのユーザーに最高のクオリティーで届けるための施策は、作り手のみならず、プロデュース側でも行われていた。トークイベントについては、立命館大学での開催前日には早稲田大学でも実施していたとのこと。ターゲットユーザーの一部である大学生を対象にしたトークショーをすることで、作品の名前を一層広げようとしていたのだ。

■長時間を要した新たな挑戦ーーロジックと確信をもって作品を突き動かす

 本トークイベントで明かされたのは、成功が約束されないプロジェクトながら“最善を尽くして天命を待つ”というクリエイターたちの確固たるビジョンと熱い想いだった。本講演をまとめるにあたり、川勝氏は、この業界のものづくりは「確実に“こうしたらうまくいく”ということはひとつもない。どれだけ緻密な体制を敷き、長期間を費やしても、新たな挑戦である以上さまざまな反響はあって当然」と断言した。だが、成功の保証がなくても「そこに4年という年月をかけて制作し、楽しんでもらえたらと夢見るわけです」と、その挑戦の重さを改めて強調した。

 続いて木村氏は、「だからこそ曖昧な感情ではなく、作品へのロジックと確信を武器に、“いま作っているものをその満点以上にする”という姿勢が不可欠だ」と訴える。同時に「会社から億単位の資金を預かり、形にできるような仕事ではある。そこにプレッシャーよりもやりがいをより見出せるからこの仕事を続けているのだと思う」(同氏)。

 ちなみに、本講演は応募開始からほどなくして想定以上の応募があったために会場を変更するほどの注目ぶりだった。そのことからもうかがえる通り、『グノーシア』アニメ化は、その強い情熱と覚悟が、ファンの期待と合致し反響を呼んでいるのではないだろうか。そして、本講演で語られた情熱はファン層に大いに響いたのではないだろうか。そんなアニメ『グノーシア』は、年明け以降2クール目も放送される。現在も地上波や各配信プラットフォームで見放題配信が実施されているので、一度視聴してみてはいかがだろうか?

中村彰憲なかむらあきのり

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。立命館大学ゲーム研究センター長、日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 、東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザーなどを歴任。 おもな著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』がある。

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