人狼ゲームとループ系SFミステリーの魅力を併せ持つアドベンチャーゲーム、『グノーシア』。2019年に発売され、国内外のゲームファンから熱い支持を集めた同作を原作とするテレビアニメが、2025年10月に放送スタート。視聴者の予想を裏切る展開で、原作未プレイの人はもちろん、原作プレイ済みの人も楽しませてくれる内容になっている。
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本記事では、アニメ『グノーシア』のプロデューサーを務めるプチデポット川勝徹氏と、アニプレックス木村吉隆氏のインタビューをお届け。「『グノーシア』のもうひとつの完成形を目指している」というアニメプロジェクトは、どのように生まれ、作り込まれていったのか? 人狼×SFループアドベンチャーという独自のジャンルをアニメ化する際に苦労したことは? キャスティングのこだわりは? などなど、たっぷりとお話をうかがった。
※本インタビューは、テレビアニメ放送開始前に実施されたものです。 なお先日(2025年12月28日)、Abemaにてアニメ『グノーシア』第1話~第12話の一挙配信が行われたが、そのアーカイブは無料(放送終了後7日間限定)で観られる。まだ『グノーシア』のアニメを観たことがない! という人は、この年末年始に一気に視聴してみては?
プチデポット 川勝 徹氏(かわかつ とおる)
名古屋を拠点とするゲーム開発集団プチデポットのリーダー。ゲーム『グノーシア』のプロデューサーで、テレビアニメにおいてもプロデュースを担当。また名古屋市立大学大学院経済学研究科研究員としても活動中。
アニプレックス 木村吉隆氏(きむら よしたか)
テレビアニメ『グノーシア』のもうひとりのプロデューサー。アニメ『鬼滅の刃』竈門炭治郎 立志編~刀鍛冶の里編や、劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』の制作を担当。
テレビアニメが世に出るまでの4年の航海
ゲームと同じ年月をかけて生み出したテレビアニメ
――そもそも今回のアニメプロジェクトはいつごろから動き始めていたのですか?
木村
初めて問い合わせをさせていただいたのが2021年の8月末だったので、ちょうど4年前ですね。自分からプチデポットさんに、アニメ化を相談するメールをお送りさせていただきました。
川勝
4年間と考えると、ゲームの『グノーシア』の開発にかけた期間と同じなんですよね。
――木村さんからアプローチをしたのがきっかけということですね。
木村
そうですね。プチデポットさんの公式ブログに問い合わせ用のメールアドレスが書かれているんですけど、これがテキストじゃなくて画像なんですよ(笑)。コピペができないので、画像を見ながら手打ちで入力して、「アドレスは間違ってないかな」なんて確認しながら送ったのを覚えています。
川勝
連絡を拒絶するような作りですね(笑)。
木村
一見さんお断りのお店みたいな作りをされていますよね(笑)。
――最初にお声がけをされたとき、木村さんはゲームはすでにプレイされていましたか?
木村
はい。ゲームはプレイしていましたし、SQが描かれているパッケージのビジュアルはプレイする前から印象に残っていました。『グノーシア』はキャラクターがすごく魅力的ですし、人狼やループミステリーなど、掛け算できる要素が多い作品だなと思っていたんです。そのころの僕は、自分が初めてプロデューサーを担当するアニメ企画を立ち上げようとしていたタイミングで。「『グノーシア』のアニメプロジェクトなら、これまでに自分がやってきたこと、自分が好きなことを全部活かせるんじゃないかな」と思いました。
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SQの表情が印象的なパッケージビジュアル。
――これまで、木村さんはどのようなアニメに関わってこられたのですか?
木村
それまで僕が関わってきた作品は、キャラクターひとりひとりの魅力や、幅広いコラボレーションで話題やおもしろさを作っているものが多かったんです。たとえば『鬼滅の刃』や『Fate/stay night』、『はたらく細胞』など。そういう作品に関わらせていただいていたので、企画段階で「こういうプロモーションをしたら、おもしろいかもしれない」といった、作品展開のイメージを考えるクセが身についていたのかもしれません。
――『グノーシア』もキャラクターが印象的で、プロモーション展開まで想像ができたということですね。川勝さんは、最初にアニメ化のお話が来たとき、どう思われましたか?
川勝
アニメ化のお話は他社様からもいくつかいただいていたんですけど、その中で熱量と丁寧さが圧倒的でした。その後、木村さんと上司の方とでオンラインミーティングしていく中で「めったにない大きな挑戦だな」と思いましたし、なにより動くキャラクターたちを見てみたかった。ただゲームとして完成された物語ですし、そのままアニメにすることは難しいので、「ありえたかもしれない、もうひとつの世界線」として、新しく『グノーシア』のアニメを作ろうと覚悟を決めました。
――あのゲーム内容をそのまま映像化することはできませんからね。
川勝
そうですね。木村さんと話す中で、本当にゼロから作ろうとしているということが伝わってきたんです。ゲームの『グノーシア』も開発中は「ひとり用の人狼ゲームは実現できるのか」といった疑問の声もあったのですが、完成させることができましたし、多くの評価もいただきました。今回も「『グノーシア』のアニメ化なんてできるのか」というご意見に対して、2度目だなと。『グノーシア』というコンテンツ自体が、“無理だと思われている新しいものを、アイデアで作っていく”という挑戦だったので、アニメもアニプレックスの木村さんたちと共にゼロから挑戦してみようと。
――ゲームのプロデューサーを務めた川勝さんが、アニメにおいてもプロデューサーを務める、というのは珍しい事例のように思います。
川勝
単にIPを預けるのではなくて、高いハードルを突破するには木村さんたちといっしょに考え抜いてやり切る必要がありましたし、私も責任を持ってやるべきだと。アニメチームと新たな『グノーシア』を作るにあたり、まずプチデポットメンバーとゲームについての設定や思想、イメージなどの確認を行いました。そして、その内容をもとに代表である私がアニメプロジェクトに参画し、プロジェクトの立ち上げからアニメの完成に至るまで監修、承認、併せてプロデュース業務も木村さんとともに行ってきました。
木村
川勝さんは原作者としての立場はもちろんありつつ、そこをかなり超えて、アニメのプロデューサーとして参加してくださっているんですよね。この作品をどう打ち出していくか、こんなプロモーションが喜ばれるんじゃないか、などのアイデアも出していただいています。
たとえば、アニメの情報を解禁する前日に、公式SNSアカウントで「2024年12月1日(日)18:00 準備はいい?」という投稿をしたんですけど、これも川勝さんのアイデアでした。SNSをご覧になったファンの皆様が「なにが起きるんだ!?」となって、それを見た僕たちも「めっちゃドキドキしてきたぞ!?」となって(笑)。そういう「ファンの皆様と一体になって作品を盛り上げていく」というアプローチは、川勝さんとの話の中で生まれてきたものですね。
――原作の方がプロモーションにもしっかり踏み込むというのは、珍しいことのように思います。
木村
そうですね。こういったケースがまったくない、というわけではありませんが、僕の感覚で言えばだいぶ珍しいと思います。
川勝
感覚としてはもう、アニプレックスの一員くらいの気持ちで食い込んだ仕事をしたつもりです(笑)。
木村
コミュニケーションの量も圧倒的に多くて、基本的に毎日テキストベースのやり取りはしているんですけど、週3で4時間電話するようなことも珍しくないくらい、かなり密な連携を取っています。シナリオやコンテのチェック、個別の相談ごとなど、即断即決で行っていたので。そういう意味では本当に、原作者の方というよりは仲間のような感覚に近いですね。
川勝
インディーゲームのいいところって、プレイヤーと原作者の距離が近いことなんです。同様に今回のアニメ化についても、原作者とアニプレックスさんと直接やりとりをして決めていくので、情報の解像度が高いんですよね。少しでも疑問があればすぐにお互い連絡をして、できるだけ早く回答するように努めました。作業の遅延を極力減らせましたし、細かなトライ&エラーの回数も増やせるので品質向上につながったと思います。
木村
オブラートに包むようなこともしないので、コミュニケーションの純度が高いんですよね。いいものはいい、ダメなものはダメ、こうすればもっとよくなるという議論なら何時間でもオーケー。誰が判断して進めるのかが明確な座組だったので、とてもテンポよく制作を進めることができたと感じています。
川勝
今回のプロジェクトはキャストさんや制作チーム、プロモーションチームなどの多くの方々が関わっているので、プチデポットの4人でゲームを作っていたときとは真逆の経験でした。キャスト・スタッフそれぞれが創造する『グノーシア』の宇宙をしっかりと一つに結集した、とてもおもしろい仕上がりになりましたし、アニメの主人公・ユーリの“もうひとつの宇宙”を視聴者として楽しんでもらいたいです。
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ユーリは“見ている人が応援できる”主人公
――『グノーシア』は基本的にみんな宇宙船の中にいて、会話を中心に進行するゲームです。絵的な変化がそこまで大きくはないゲームを、アニメにする際に悩むことはありましたか?
木村
アニメ化すること自体は「体感的にいける」と思っていました。むしろ、特定の主人公がいないゲームをアニメとしてどう描くのか、ゲームをプレイしたファンの方々が持つ個々人のプレイ体験や思い出をさん奪するようなものにしてはいけない、といったことを意識していましたね。
――プレイヤーの数だけ、体験が変わるゲームですからね。
木村
アニメとしておもしろい『グノーシア』とは何だろうか、プレイステーション Vita(PS Vita)版のころから原作ゲームを買ってくれていた人が応援してくれるものにするにはどうしたらいいか、といったことをずっと考えていました。
――先ほど川勝さんも触れていましたが、今回のアニメでは新キャラクターのユーリが主人公として登場します。アニメオリジナルの主人公を入れる、というのは最初から決めていたのでしょうか。
木村
ここもいろいろと議論はありました。それこそ、全部一人称視点のアニメにしようという案も、市川(量也)監督と花田(十輝)さん(シリーズ構成・脚本)との検討の中ではあったんですよ。ただ今回はテレビアニメの企画なので、まずはそこに最適化された内容を目指そうと。基本的にアニメは受け身で楽しんでいただけるもので、どんなシチュエーションで見ていても、自然と情報が入ってくるものを意図しています。であればやはり、主人公をひとり置くべきだろう、という話になったんです。
川勝
そうなるとキャラクターデザインを新規で考えなければいけません。もともといる14人のキャラクターが強い個性を持っているので、そこに新しく加わるキャラクターも絵として強くなければ埋もれてしまいます。そうなると唯一無二のデザイナーであることり(※)が担当する以外ないだろうと。で、ことりに自由にデザインしてもらったところ、本当に違和感ないキャラクターの原案ができ上がってきて、改めてことりはすごいなと感じましたね。
※プチデポットの画像担当。ゲーム『グノーシア』のキャラクターデザインを手掛ける。――ことりさんが原案としてユーリをデザインした後、アニメで動かすにあたって調整をしたのでしょうか。
木村
主人公が必要だということを、ことりさんにお伝えしてから、ほどなくしてキャラクターデザインの原案が上がってきて、それと並行してシナリオ開発も進めていったんです。やっぱりシナリオが進むと主人公の輪郭も見えてくるので、ことりさんにいただいた原案と花田さんのシナリオとを照らし合わせて、「こういう子なら、原案のここをもっとこうしたほうがいいかも」といったやり取りをさせていただきました。そういうチューニングを経て生まれたのが、いまのユーリですね。
――ユーリはおとなしめな印象のキャラクターで、言動にもあどけなさがあります。
木村
ユーリに関して明確にあった指針は、“見ている人が応援できる主人公にすること”でした。いわゆる完璧なキャラクターではないというか。第1話を見ていただいた方はわかると思いますが、原作における選択肢のひとつで、最初は負けてしまうんですよね。
――原作をプレイしている人は「あああ~!」となるシーンですね。
木村
ユーリを完璧なキャラクターとして描いていたら、完璧性が崩れたときにがっかりしてしまう部分があると思うんです。でも未成熟な主人公であれば、失敗しても、また立ち上がってがんばる姿を応援してもらえるんじゃないか。そう思ってもらえる子にしたいという願いを、スタッフ全員で込めました。
川勝
ゲームでも最初は能力値が低くて、負けてしまいがちです。なので、いきなり夕里子みたいな強い人がいると冷めちゃうと思うんですよね。
これは余談ですけど、この前アニプレックスの皆さんとの食事会で人狼をやったんです。人狼が初めての人もいたんですけど、じつはそれがよくて。うまい人ばかりだとおもしろくないんです。ある程度不慣れな人がいたほうがバランスが取れるし、意外な展開も出てきて、それによって個々人の魅力が引き立つんですよね。それってまさに『グノーシア』でやりたかった、人狼ゲームを通してキャラクターを引き立てることと同じで。ただ人狼ゲームが強いだけの話ではもったいないなと。
――確かに、「ちょっと求めていたものとは違うな」となりそうです。
川勝
私も人狼が全く得意ではないんですけど、主人公のユーリと同じ目線でいっしょに強くなっていくというか、「すこしずつ理解して自分も強くなった気がする……」みたいな視聴体験になれば嬉しいです。だからとても見ごたえがありますよ。
木村
あとは、ユーリとの関わりの中で、ほかの14人をどう見せるかも大事なんですよね。やっぱりもともと原作にいるキャラクターですから。そういう意味で、ユーリはリアクションの大きさも大事にしています。そうすることでほかのキャラクターの魅力を引き出しやすくなるんですよね。ユーリ自身が魅力的に見えるようにもしつつ、ユーリがいろいろなことに反応することで、ほかのキャラクターたちもより魅力的に見えればいいな、というのがキャラクターとしてのコンセプトになっています。
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――ちなみに、ユーリという名前の由来は何かあるのでしょうか。
川勝
PS Vita版を開発中のころから、いろいろな名前を付けてテストプレイやプロモーション用のプレイをしていたんですね。最初期に公開した映像に出ていた主人公の名前のひとつがユーリだったので、あとはいろいろと妄想いただければ。
ことり氏の色合いをアニメでも表現
――ことりさんのキャラクターデザインは『グノーシア』の大きな魅力のひとつですよね。この独特なタッチをアニメに落とし込むのには、相当苦労されたのではないでしょうか。
木村
そうですね。できるだけことりさんの絵を再現しよう、という話は現場のスタッフともしていました。ただ、アニメの場合は全体的な情報量のコントロールが必要なので、“ことりさんの絵でありながらアニメの絵にしていく”という変換作業が必要でした。ことりさんの絵はタッチとか、服装などのデザインも含めて非常に魅力的なので、色使いや線の強弱、それぞれのニュアンスをひとつひとつ拾っていくことをまず意識しています。たとえば髪の毛の色合いは撮影処理で入れているんですけど、原作の塗りかたを参考にしているのをわかってもらえるかなと思います。
――独特の色合いの魅力が、アニメでも感じられますね。
木村
ユーリに関して言えば、初めにいただいたことりさんの原案に沿って、アニメのキャラクターデザインを作っていたんですけど、途中でことりさんからアニメ化記念のイラストをいただいたんですよね。その絵のユーリの目に1ヵ所だけピンクが入っているのを見て、スタッフが「これ、アニメにも入れましょう」と。ですので、じつはアニメでもユーリの目にはワンポイントでピンクが入っています。
――プチデポットの皆さんから、アニメの絵に対してリクエストされたことはありますか?
川勝
いえ、そこはとくになかったです。やっぱり、餅は餅屋ですから。どうしても押さえてほしいところは基本的に話し合いのなかでお伝えしています。今回キャラクターデザインを務めてくださっている松浦(有紗)さんとことりの相性がすごくよかったみたいで、安心してお任せすることができましたね。ふたりで細かなデザインについて話していたみたいですから。
木村
松浦さんはものすごく作品愛が強い方なんですよ。最初に上がってきたのがセツとSQのラフだったんですけど、それを見て「これはいける」と思いました。じつは、いま公式サイトのキャラクター紹介などで使っている立ち絵が、そのイラストなんです。
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――それはすごいですね。最初から完成度が高かったと。
木村
本当に、最初の段階でカンペキでした。アニメーション制作をしていただいているアニメスタジオのドメリカさんも作品愛がすばらしくて。原作『グノーシア』におけるひとつひとつの要素を丁寧に描いていただいています。
――衣装の細かいパーツなどは作画コストがかかりますが、原作ファンとしてはしっかり再現してもらいたい部分ですからね。
木村
ラキオの服なんかもそうですけど、アニメとして描くには複雑なデザインが多いですよね。それをいかにコンスタントに再現するか、そもそもできるのか、みたいな技術論のところから構想を練っていただきました。ドメリカさんは『メタファー:リファンタジオ』や『ペルソナ』シリーズのアニメパートも制作されていて、ゲームのキャラクターデザインをアニメに翻案するアプローチに強みがあるように感じています。松浦さんが描くキャラクターはスタイリッシュで、色気があって。そういった部分が『グノーシア』にうまくマッチしているように思います。
川勝
艶っぽさとか、美意識がキャラクターに乗っていますよね。立ち絵も大事なんですけど、動きやポーズのひとつもアニメでいかに魅力的に映るか、というところもすごく意識されているんだろうなと思います。実際に見て私もビックリしました。要所要所のカットをしっかりと作ってくれていて、ゾクゾクします。
木村
そういったこだわりについては、話そうと思えば永遠に話せると思います(笑)。だから本当に、スタッフに恵まれたアニメだなというのは、僕自身強く思っています。
会話劇をより魅力的にする豪華キャスト陣
――キャラクターのキャスト陣についてもお話を聞かせてください。非常に豪華なメンバーですが、配役はオーディションで決まっていったのでしょうか。
木村
ユーリ、セツ、SQ、ラキオ、ジナの5人はオーディションです。より具体的に言うと、まずユーリ以外の4人のオーディションを最初にやりました。そこが決まった後に、残りの乗員を指名で決めて、最後にユーリのオーディション、という順番ですね。
――ゲームに登場した14人のキャストが決まってから、ユーリのオーディションだったんですね。
木村
まず初期メンバーのキャストを決めないと、作品全体としての温度感をつかみにくかったんです。主人公を入れて15人――そのうちのひとり(ククルシカ)はしゃべらないので14人が話すわけじゃないですか。14人の乗員の声質の差別化であったり、どのように会話劇を魅せていくのかも、キャスティングによって大きく変わってきます。ですので、まずはオーディションで初期メンバーを決めていきました。
――そこでキャスティングの方向性をつかんで、以降は指名で決めていったと。
木村
そうですね。宇宙船の中での会話劇で、起伏を作っておもしろくしていくためには、キャラクターの個性に負けない声と説得力がいるな、というのがセツたちのオーディションを終えた段階でわかったんです。そこからはスタッフや川勝さんと話し合いながら、個別でオファーさせていただきました。
ユーリに関しては、そこまでに決まった声に対してどう向き合うか、という基準でオーディションをしました。結果的に豪華なキャストの皆様にご参加いただいているのですが、声優さんの知名度やキャリアを重視していたわけではなく、あくまでキャラクターに対して、誠実に向き合うことを大事にしています。
――結果としてユーリ役を安済知佳さんが務めていますが、決め手は何だったのでしょうか。
木村
安済さんの声が、いちばん生の声に聞こえたんですよね。ユーリ役を演じているというより、本当にユーリという子がいま呼吸をしている、と感じられたのが安済さんだったんです。
川勝
オーディションに参加された全員の声を聞かせていただいて、そのうえで話し合って決めていきました。キャストを発表したときにとても反響をいただけて、本当によかったなと思います。
木村
ゲームをプレイされた方にも、当然自分の中で鳴っている声みたいなものはあると思うんですよ。僕自身、マンガを読むときとかに「このキャラクターの声はこんな感じかなあ」と考えたりしますから。『グノーシア』のキャラクターたちの声を決めるにあたって、皆さんの中で鳴っていた声をなかったことにするつもりはなくて、「アニメとして描くにあたっては、この方々にお願いしたい」と思って、すごく考えて選ばせていただきました。
川勝
ファンの皆さんの中で聞こえる声も、それはそれで大事にしてほしいんです。ですが今回は、アニメを制作するにあたって声を選定しないわけにはいかないので、我々で慎重に選ばせていただきました。
――ちなみに、オーディションには何名ほどが参加されたのでしょうか。
木村
たぶん1000人分ぐらいは声を聞いたと思います。
――1000人はすごいですね!
川勝
どの方もすばらしくて、耳から血が出るくらい何度も何度も聞きました(笑)。
木村
1キャラクターにつき200人ほど参加していただいたので、それが5人ぶんで約1000人ですね。強烈でしたよね。
川勝
でしたね。熱量の高い方々ばかりでとてもうれしかったです。
木村
ラキオを演じていただいている七海ひろきさんは、僕はこれまでお仕事をしたことがなかったのですが、声を聴いた瞬間に「なんてカッコいい人なんだ……」と震えたんです。企画の初期段階から「キャスティングがいちばん難しいのはラキオだろう」と思っていたんですけど、本当に、このタイミングでオーディションを行ったからこそ七海さんと出会えたというか……めぐり逢いみたいなものを感じましたね。
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――ラキオもですが、セツの声もなかなかキャスティングが難しそうなイメージです。
木村
セツもそうですね。やっぱり、性別が汎のキャラクターは難しかったです。でも長谷川さんの声も、聞いたときに「ああ、この凛とした感じ。セツだ」と、キャラクターに出会ったような感覚があったことは覚えています。
川勝
ゲームの『グノーシア』を作っているときも、会議や議論っていうのは、決して楽しいものではないと思っていたんですよ。仕事でやることですからね。それをエンターテインメントにするとして、ただ人がベラベラとしゃべるだけだったら、見ていられないじゃないですか。やっぱりキャラクターの強さや、キャストの皆さんの声の演技でどこまで楽しめるかを追求しないと、間がもたないんですよね。
――メインキャラクターが15人もいるわけですが、収録はどのように行われたのでしょうか。
木村
収録についてはひとつ意識したところがありまして。基本的には、登場するキャラクターのキャストはほぼ揃えて収録をしました。スケジュールの都合や、セリフ量のバランスで、タイミングを調整したところもありましたが、キャスト全員が集結した回もあります。やっぱり会話劇なので、なるべく全員揃えてアフレコをしようというのが、裏テーマとしてありました。ですので、キャストが全員揃ったラジオ回もあるんですよ。
オーディションも行いつつも多くは指名でキャストを決めたのは、物理的なスケジュールを整理するため、という側面もあったんです。できるだけ早く決めて動くことで、それこそみんなが同じ宇宙船に集まれて、生の掛け合いをしやすくなるだろうな、と。その考えは企画を立ち上げた段階からありました。
――公式サイトではキャストの皆さんやスタッフの方々のコメントが見られますが、中村悠一さんは「ゲームを遊んだときから」と、原作に言及していますよね。キャストの皆さんの中には、ゲームをプレイされた方も何人かいらっしゃるのでしょうか。
木村
以前にプレイしてくださっていた方もいれば、アフレコ中にプレイを始めた方もいますね。現場に来るたびに、キャストの皆さんが「いま何ループ目ですか?」と話をされていて、それもすごくよかったです。
作り込まれた星間航行船D.Q.O.の船内や投票シーンに注目
※ここから、アニメ第1話に関する若干のネタバレが含まれます。未視聴の方はご注意ください――続いて、アニメ第1話についてうかがいます。ユーリやセツたちが乗っている星間航行船D.Q.O.の外観がちゃんと描かれたのは、今回が初めてですよね。アニメのために、いちから作られたのでしょうか。
木村
そうですね。ゲーム内にD.Q.O.のマップがあるので、いったんそのマップを起こしてから、船の3Dモデルの骨組みみたいなものを作ったんです。誰の部屋がどこにあるか、この部屋に行くにはどこを通るか、みたいなものはある程度決めています。
たとえば第1話でSQがユーリの部屋に来た後、SQは扉を出て左に出ていくんですけど、あれはSQの部屋が左側にあるからなんです。右に行ったらジナの部屋がありますが「あくまでSQ(グノーシア)は空間転移時にジナを襲うので、いまジナの部屋に向かうのはおかしく、とりあえず自室に1回戻ってもらって、そのあと静止した時間の中でジナのところに向かうのが正しいよね」といった細かい確認もしています。
――ロビーの水槽が、演出に使われていたのもアニメならではだと感じました。
木村
水槽は、市川(量也)監督のアイデアがすごく詰まっているポイントですね。原作にも水槽はありますが、アニメになるといっそう美しく見えるものですし、揺れている背景のエフェクトとか、いろんなところに水のニュアンスが入っているんです。
『グノーシア』って、船に閉じ込められたキャラクターたちの話じゃないですか。地上から隔離された閉鎖空間、その閉塞感や宇宙の寂しさを表現するときに、“水の中にいる”というニュアンスがけっこう使われています。投票のときもパシャンっていう音がしますけど、あれも水の演出ですね。あとは、水槽の魚についてもスタッフがこだわっているので、注目してもらえるとおもしろいかもしれません。
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川勝
いろいろな部分の作りが細かいんですよね。ゲームを何度も遊びたくなるのと同じように、何度でも見たくなるアニメだと思います。
――投票シーンもアニメならではの演出が入っていますが、あの演出はどのように生まれたのでしょうか。
川勝
投票演出については、ドメリカさんやアニプレックスの方々から演出の提案があって、それが凄くよかったのでそのまま進めていただきました。
木村
投票は、ゲームではウィンドウが出てきて選択するだけですが、アニメにおいてはしっかりとシーンを立たせる必要があるんですよね。花田さんの中にも「投票シーンは立たせるべきだろう」という考えがあって、別の空間にシチュエーションを移すという設計図は、シナリオの段階で入っていました。頻繁に出てくる可能性がある演出なので、記号的にもわかりやすいものにすることはみんな意識していて、ドメリカさんがすばらしいルックを作ってくれました。
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――あとは、コールドスリープされる際にラキオが上着を脱ぐシーンも、アニメで追加された部分ですよね。
木村
ゲームでもセツが上着を脱ぐシーンは描かれていたので、当然セツ以外も、コールドスリープ時は脱ぐのだろう、という前提がありました。そうなると、全員の薄着デザインが要るという話になって、ことりさんに各キャラクターの服について、「これは下に何か着ているのか、この服は1枚なのか2枚なのか?」ということを聞いて、細かい設定を出していただきました。ラキオについても、各パーツを取り外していくとどうなるのかという設定をいただいて、それを参考に作っています。
ゲームの仕組みは、アニメでどう表現されるのか?
――アニメ第1話はゲームの第1ループと同じ流れでしたが、あえて流れを変えるような内容にはしなかったのですね。
木村
人狼もの&タイムリープものを表現するにあたっては、あれが最適解だと思うんですよ。だから変える必要がないと思っていました。議論の途中で食堂に移動して、自己紹介をするパートはゲームになかった部分ですが、あれはキャラクターを覚えてもらう、人狼とは何かを説明するといったチュートリアルを絵として見せるために追加したところです。
――なるほど。
木村
でも基本的には、原作通りにやりたいともともと考えていました。ユーリがいる時点でゲームから変わってはいるんですけど、それはあくまでアニメの宇宙としての最適解を考えたからであって、“原作から変えるためのアニメ”ではないんですよ。アニメの宇宙がおもしろくなることが大事なので、結果として原作と同じであるべきところは同じにしています。
川勝
ゲームの場合、セツを凍らせる選択をする人はあまり多くなくて、「SQがコールドスリープしてよかったね」で終わる方も多いんですよ。でもアニメの場合はあえてセツに投票して、SQを立たせるようにしています。今回のアニメは、もちろんどの話も気合は入っているんですけど、やっぱり第1話は作品のお披露目となる回ですし、アニメの方向性を示す回という意味でも、脚本にも細かなところまで何度も調整、修正いただきました。
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木村
花田さんのシナリオって、初稿の時点でほぼ完成しているんですよ。ですので、調整と言っても大幅に変更を加えるのではなくて、細かな調整ですね。「キャラクターとしてここはこうしたほうがいい」とか、「後半の話数でこういう風にしたから、第1話も手を入れよう」とか、ものすごく丁寧に作っていただきました。シナリオがおもしろくてコンテもおもしろかったら、そりゃ本編もおもしろいものになるよな、と。いちファンとしても、最高の第1話になったんじゃないかと思います。
――最初にラキオがコールドスリープされる場面も、ゲームのファンにとっては見どころですよね。
川勝
お客さんがラキオに期待することってあるじゃないですか。それは僕らとしてもわかっているつもりです。コールドスリープ前にラキオの長ゼリフがあるんですけど(笑)。当初は違う形だったんですが、途中で木村さんが変更したんですよね。「えっ、いまから変えちゃって大丈夫?」って。
木村
変更したというよりは、シナリオやコンテのときに書いてあったセリフだけだと、映像になったときに足りなくなったんですよね。ラキオが文句を言いつづけた結果。ですのでアフレコのときに「アドリブでセリフを足そう」となりまして。ただラキオの長台詞はアドリブではなく、原作のセリフを使ったほうがいいだろうと思って、原作の資料を印刷してアフレコに持ちこみました。
ファンの皆さんがラキオの長台詞を見たいと思ったというのはもちろんあるんですけど、「ラキオはこういうキャラクターなんですよ」というのを見せるうえで、あのやりとりは必要だったんですよね。頭がいい人の役回りをしつつも、なんというか鼻につくせいで追いやられてしまう。あれがラキオのかわいさ、ある種の魅力じゃないですか。それを伝えるのにあのシーンは必要だと思ったんです。
――あの流れは本当にラキオらしいというか、納得感がありました。
木村
ゲームを遊んだ皆さんの中には、「あのキャラクターはこういう人物だ」という認識、理解があると思うんですけど、アニメではそれをゼロから作っていかないといけないので。ゲームで印象的だったエピソードを出すことで、アニメの視聴者の方にも同じ認識を抱いていただけるかなと。
川勝
ちなみに、キャラクターの見せかたという意味では、ゲームにあったイベントだけではなくて、「主人公ユーリの行動によって物語の視点が変わるイベント」も入っています。それも今回のアニメ化における見どころですね。すでに原作があるなら同じことをそのままトレースすることだけがおもしろいとは思っていないんです。アニメに関わるいろいろな方々の考えを取り込んだほうが、おもしろさが拡張されるだろうと。そこは私がお願いした部分でもあるので、皆さんにも楽しんでもらいたいですね。
――第1話で1ループが終わりましたが、そうすると、単純計算で1クール12ループ。最後まで描くには圧倒的に話数が足りないのでは……と思うのですが、ここについてはいかがでしょうか。
川勝
木村さんと話をしたときにも、絶対に出てくる4つの課題がありました。ひとつ目はキャストの選定、ふたつ目は話数、みっつ目は主役とゲームの仕組みをどうアニメに落とし込むか、そして最後に、そのうえでオチはどうするのか。この4つは最初からわかっていて、ここはずっと話し続けてきました。ゲームと同じように、「これってどうなっているの?」、「ちゃんと終われるの?」っていうスリリングな中、最後まで見届けてほしいと思います。
木村
ゲームでも、先が見えない中で、ひとつひとつ謎が解き明かされていくのがおもしろかったですよね。アニメでも同じ体験ができるので、そこを楽しんでほしいです。
川勝
もっと言えば、アニメを見終わった後に、ゲームをまた遊んでほしいですね。自分がプレイの主役になるゲームと、観測者あるいは傍観者として見守るアニメ、両方を味わってほしいです。
木村
第2話以降のシナリオもすごくいいので、いずれまた、どこかのタイミングでお話しできる機会があればいいなと考えています。花田さんはひとつのお話の中でどう引きを作るかなど、すべてしっかり考えてくれるので、コンテから映像になる過程でも、ぜんぜんブレないんですよね。それは本当にすばらしいことで、ファンとしても理想のアニメ作品になっているんじゃないかと思います。ただ、僕らの意見はあくまで作り手としてのものなので、皆さんにこのアニメが届いて、どう思っていただけるのか。そこが大事だと思います。
川勝
そもそものところで言えば、このアニメのプロジェクトは、どんな人たちといっしょにお仕事をするか、というところからワクワクが始まっています。キャストの方々もそうですし、制作スタジオや脚本家、劇伴を作ってくださる方など、全員がそうです。アニメって、放送されるまではわからないことばかりだからこそ、放送前に「こういう人たちとアニメを作るんですよ!」というプロモーションをしてきたつもりですし、その期待に応えられるよう精一杯頑張りました。
――では最後に、改めてアニメ『グノーシア』のアピールをお願いします。
木村
『グノーシア』をおもしろいアニメとしてお届けしたいというのが、スタッフ全員の願いです。そのために原作の魅力を最大限に生かせるよう頑張りながら、アニメとして「こういう演出を入れたらおもしろいかな?」というアイデアも、ふんだんに詰め込んでいます。
原作をご存じの方は、あのシーンはどうなるんだろう、どうやってアニメにするんだろうと、気になるところはいっぱいあると思います。僕も最初、どうするんだと思いました。そしてスタッフと話し合って、考え抜いて、アニメの中に落としこんでいきました。是非、楽しんでいただけると嬉しいです。
川勝
「アニメで『グノーシア』のもうひとつの完成形を目指す」と宣言した以上、私も責任を持って取り組みましたし、信頼できる方々といっしょに作っているという自負もあります。ゲームを遊んでくださった皆さんが持っている『グノーシア』の宇宙だけでなく、アニメの宇宙にも触れていただいて、あのゲームシステムとシナリオをアニメ化すべく挑戦した、異質で唯一無二の作品をぜひ最後まで見届けてほしいと思います。続きはアニメのグノーシア宇宙で。よい旅を。
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週刊ファミ通2025年10月30日号(No.1919/2025年10月16日発売)では、ゲーム/アニメ『グノーシア』を徹底特集。プチデポット・ことり氏の描き下ろしイラストや、ゲーム&アニメの見どころ紹介、プレイヤーアンケート企画などをお届けしています。まだお読みになっていない方は、ぜひご覧ください!
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