そのオープニングセッションとして『ベヨネッタ』など多数のアクションゲームを手掛けてきた神谷英樹氏と、『ニーア』シリーズをはじめとするゲームや舞台などさまざまなコンテンツに携わるヨコオタロウ氏の対談が行われた。
モデレーターをファミ通グループ代表の林克彦が務め、ふたりがゲーム制作に掛ける想いやこだわり、ゲーム制作のヒントとなる部分も多数語られた。ゲームファン、ゲーム開発者にとって貴重な内容となっているので、ぜひ最後まで読んでほしい。
神谷英樹 氏(かみや ひでき)
『バイオハザード』、『デビル メイ クライ』、『ベヨネッタ』シリーズなど、多くのアクションゲームを手掛ける。カプコン、クローバースタジオ、プラチナゲームズを経て、2024年よりクローバーズにて『大神』の新作タイトルを開発中。(文中は神谷)
ヨコオタロウ 氏
2015年に立ち上げたブッコロの代表取締役を務める。代表作に『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズ、『ニーア』シリーズなど。ゲームだけでなく『爆剣』シリーズなどの舞台の原作・脚本も手掛ける。(文中はヨコオ)
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ゲーム開発はじつは夢がない!?
ヨコオさんが作っているのはまさに後者の、本当に個性的で“ザ・ヨコオタロウ”っていう唯一無二の個性があるゲームが作れるクリエイターだなという印象です。
――おふたりはけっこう近しいこだわりを持っていそうな印象があります。ライバルであるけど、同志でもあるような。
ヨコオさんはすごくユニークなゲームを作っていて、どうやって作っているのかというのは自分も気になるのでぜひ聞いてみたいです。
――ありがとうございます。そんなヨコオさんから見て、神谷さんはどういった印象をお持ちで?
僕はシナリオにフォーカスした作りかたをするのですが、ゲームの作りかたはぜんぜん違うんだろうなと。神谷さんがすごくおもしろいアクションゲームを作られているので、これだけおもしろいアクションがあるなら、自分はべつにアクションでがんばらなくていいなって思うくらい。おもしろいアクションをやるなら、『デビル メイ クライ』や『ベヨネッタ』をやればいいので。
――なるほど。いまヨコオさんから「遊んだときの手触りのよさ」というお話がありましたが、実際に神谷さんはどういったこだわりを持って開発をされているのでしょうか。
僕もゲームを作りながらシナリオを書くこともありますが、もともと物語を書くことが得意な人間ではないので、作りかたとしてはアクションの比重を重くして、ゲームの進行に合わせてあとからシナリオを当て込むといったことのほうが多いです。ヨコオさんはゲーム以外にも舞台などでシナリオを手掛けるようなことをすごく積極的にされていますが、そういう物書きの能力が自分にはまったくないので、すごく羨ましいなって思っています。
――おふたりとも自分の強みを活かしたゲーム作りをされているんですね。そもそもの話になるのですが、ゲームの企画を立ち上げるとき、どういった部分からスタートするのでしょうか。
お金が最初に決まっていて、そこから生み出せる時間や人といったリソースを見ると、作れるものって自動的に決まってくると思っています。なかでも、人はけっこう重要だと思っていて、アクションゲームが得意なスタッフに「アクションゲームじゃないものを作ってください」と言ってもうまくはできないですよね。
スタッフにも適材適所があるので、スタート地点にいるスタッフのスキルを見て、今回はこういうゲームを作るのがいいんだろうな、ということを考えます。あと、お金を出してくれる人、たとえばパブリッシャーさんが「こういうゲームがほしいんだろうな」とわかれば、「じゃあこういうのを作りましょう」と提案することもありますね。
――自分が作りたいゲームを作るというのがスタートじゃないんですね。
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――それはどのくらいの時期に?
――現実的な範囲というか、自分のなかでゴールが見えていて、これは完成できると思えた内容で考えているということですね。
『The Wonderful 101』はボツ企画から発展したゲームだった
ヨコオさんはクライアントからの依頼があって仕事を引き受けていますよね。僕の場合は会社という組織に所属していて、会社から「こういうゲームを考えてほしい」というオーダーがあって、そこからゲームの企画を考えていました。
なので、立場こそ違えど、僕もヨコオさんも、ゼロからゲームの企画を考えるっていうことはやらないし、できないんだと思っています。『デビル メイ クライ』(2001年発売)なんかは有名な話なんですけど、まず『バイオハザード』が海外で非常に人気が出たので、「『バイオ』の続編を作ってほしい」というオーダーがありました。
『バイオハザード』はプレイステーションのゲームでしたが、つぎに作るのはプレイステーション2になるので、じゃあこういうふうに新しい表現を取り入れていこう、発展させていこうということでスタートしたものが『デビル メイ クライ』になったんですね。
ゲームの企画を考えるときには何かしらの土台になるものを会社から与えられているので、考えやすいといえば考えやすいですね。逆に「なんでもいいよ」って言われると、もしかしたら難しいかもしれないです。
――神谷さんとしては何かきっかけがあったほうが作りやすいんですね。
たとえば、『大乱闘スマッシュブラザーズ』は、コラボも含めていろいろな作品のキャラクターがどんどん登場してファンを楽しませるというものですが、それとはまた違ったアプローチでゲームを作ることはできないかと考えました。
そして、「それならもう全員を画面に出しちゃえばいいじゃん」と閃いて、総勢100人が全員登場して、それらが一体となって敵を攻撃するようなゲームデザインとなりました。けっきょくそのコラボレーション企画は実現しなかったのですが、ゲームデザインは非常におもしろいものだと思ったので、世界観とかキャラクターを置き換えて作ったのが『The Wonderful 101』なんです。
――独特で秀逸なゲームシステムなのでどこかで活かしたいと思われたんですね。
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――オリジナリティについて、ヨコオさんが意識していることはあるでしょうか。
たとえば、アクションゲームでおもしろいものを作りましたって言っても『ベヨネッタ』よりもおもしろくないならべつに買わなくてもいいじゃないですか。おもしろいアクションがやりたいなら、『ベヨネッタ』を遊べばいいんですから。そういったように、いろいろなジャンルにすでにおもしろいゲームがたくさんあるので、僕は必ずしもおもしろいゲームを作らなくてもいいなって思っているんです。
でも、「おもしろくなくてもいいから、買う意味のあるものを作ろう」という考えをもってゲーム作りをしています。
――“買う意味”というのは、といういったものなのでしょうか。
たとえば、大好きなアイドルが登場するっていうだけでそれはすごい引力になります。「このゲームを応援したいから買う」というのも引力ですし。ゲームっていろいろなことができる可能性を秘めていて、やりかた次第では映画とか小説といったコンテンツよりも幅広い展開ができる可能性があると思っています。
――ユーザーを惹きつける、引力のあるゲームでなくてはならないと。
特別なシーンをさらに盛り上げるテクニック
やっぱり、ただ「デカい敵を置いたので、倒してください」だと、みんな倒したいと思わないですよね。
なので、ちゃんと倒したい理由を用意しないといけない。たとえば、その敵が自分の家族を殺したから復讐するんだとか、そういう理由を積み上げていく。ひとつだけだと弱いので、あの敵は自分の家の土地を奪っていったとか、自分の妹を食べて殺しちゃったみたいな、イヤなことを何度も何度も積み重ねることでストレスをプレイヤーに与えてあげれば、その敵との戦いも非常に印象深いものにできます。大きなストレスを与えて、発散させてあげるわけです。
――ストレスを溜めたぶんだけ発散のときに得られる快感はすごい。
――どれだけプレイヤーの感情を揺さぶっていけるかが重要なんですね。
――シナリオライターの人ならぜひ聴きたくなるようなテクニックですよね。つぎは神谷さんからお答えいただけますか?
ヨコオさんのシナリオですと敵は家族の仇だったりするので、戦いの中で相手を組み伏せて、マウントを取ってボタン連打で何度も殴りつけるようなシーンを入れたりするのもいいですね。もうひとつ言うと、たとえば自分の家族のひとりがその敵に捕まっていて、苦しむ要素を見せられながらバトルするとか。
プレイヤーとしては、「その人を一刻も早く助けてあげなきゃ、早く敵を倒さなきゃ」、という気分になります。そういうシーンを入れて、それまで戦ってきた雑魚とは違う特別なバトルに仕上げるのも、プレイヤーの感情を揺さぶる方法のひとつなのかなと思います。
――そういった少しの味付けでも、もっともっとバトルを盛り上げることができるんですね。
あと、月並みな話になるんですけど、やっぱりゲームって自分が物語に干渉できる娯楽で、敵を攻撃したり、攻撃を回避したり、思いっきりボタンを押して敵を殴りつけたりができるものなので、そこを効果的に楽しんでもらえるような工夫がおもしろさを演出するうえで大切だと考えています。さっき言った“手触り感”にもつながることなのですが。
――なるほど、ありがとうございます。いまの話題とは表裏一体のシチュエーションかなと思うのですが、逆に、感動のシーンを作りたい場合はどういった演出を取り入れますか?
ただ、ゲーム内のBGMにはすごくこだわりがあります。同じシチュエーションでも、使用するBGMによってプレイヤーが受ける感覚は異なってくると思うんです。
僕は作曲はできないし絵を描くこともできないので、いっしょに仕事をする仲間たちに助けてもらっているんですけど、その仲間たちと綿密に打ち合わせを重ねて、「こういった曲が欲しいんだ」ということをていねいに伝えます。
その結果、自分がしっくりくるものをそのシチュエーションに当て込めたとき、感情がしっかりとプレイヤーに伝わるんじゃないかなと思っています。
――シーンを盛り上げるために音楽を使うのはかなり効果的だと。
僕も音楽は作れないのですが、岡部さん(岡部啓一氏。MONACA代表取締役で、『ニーア』シリーズなど、ヨコオ氏が手掛けるゲームのサウンドにも多数携わる)と仕事をするとき、作っていただいた楽曲を聴きながらシナリオを考えたり膨らませたりすることがあります。話から曲を作ったり、曲から話を作ったりと、けっこう自由ですよ。
――『ニーア』シリーズは、岡部さんのBGMともベストマッチした感動のシーンが多く語られていますよね。ヨコオさんが考える、感動の演出方法などがあれば教えていただけますでしょうか。
自分の家族を殺した敵がいたとして、じつはその敵も過去に殺されていたりとか。そういった演出があると、シーンも敵にも印象が深まりますよね。あと、仲間が最後の最後で助けに来てくれるみたいなのも、スタンダードだけど「おおっ」って思える演出です。
――シナリオでいうと、ヨコオさんの作品は絶望的なのにどこか希望があるような、絶妙なバランスのものを得意とする印象があります。
たとえば、子どもが死んでしまうような演出の場合、ふたりの姉妹がいて、妹のほうがすごく飢えている。お姉ちゃんは妹のために食べ物を分け与えるんですけど、甲斐なく妹は飢えて死んでしまう。お姉ちゃんのほうも妹に食べ物を与えてしまったので、結果飢えて死んでしまう……みたいな、畳み掛けるようにストレスを与えていくようなことはけっこうやりますね。
あと、仲間が助けに来るにしても、その仲間はすごく貧乏でこんなところに来る旅費も武器も力もないんだけど、プレイヤーのためにがんばって出張ってくれたみたいな。シナリオのベースは同じなんだけど、トッピングをいっぱいしてあげることで、さらに物語を盛り上げていけるので、そういう演出はけっこう好きですね。
――おふたりともアプローチの手段がそれぞれ違っていて、おもしろいですね。
――音楽を聴いて集中すると効率も変わりますか?
――アートから新しいアイデアが生まれることも。
クリエイティブとスケジュールはどっちが大切?
――どう締め切りを“守るのか”ではなく(笑)。
こういう邪悪なテクニックを皆さんにはお伝えしたいです。
――よりいいものを作るためには仕方ないんだと。
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「もっとここをこうしたい、ああしたい」と思いつつ途中で終わりになってしまうので、仕事が完了したときに、「完璧なものを作れた!」と思ったことは一度もないんです。
でも、5年後くらいに振り返ってみると、「意外とがんばっていたな」と思ったりするので、自分の開発中の判断はあまり当てにならないなって思っています。
――100点満点で送り出せるなんて、なかなかないですよね。
――スケジュールを考えなければ、もっともっとおもしろくしたいと考えて続けているんですね。神谷さんもクリエイティブには並々ならぬこだわりがあると思いますが、どういった折り合いをつけてお仕事されているのでしょうか。
だから、自分としてはアクセルは踏みっぱなしで、本当にやりたいこと、作りたいことをとにかく優先して開発しています。ただ、ヨコオさんがおっしゃったようにどこかで諦めないといけないというのは当然あるので、本当にギリギリになって、「これは入れられるけど、これは無理」みたいな状況が必ずあって。毎回断腸の思いで取捨選択しています。
――作っていくと「これも追加で入れたい」と思うことがあるのは、クリエイターのサガなんでしょうね。
――ブレーキを踏む人ももちろん必要ですけど、神谷さんとしてはアクセル踏みっぱなしでいたいんですね。
――ありがとうございます。もっとお話をお聞きしたいところですが、セッションも残り時間がわずかとなっています。ここで新情報が出ることはないんですけど、おふたりが現在どんなお仕事をされているのかもお聞かせいただけますか?
――自分の関わったものが世に出せないのは、もどかしいですよね。
――たしかに。中途半端なものをファンに提供してしまうかもしれないですしね。ヨコオさんが手掛けるつぎの作品も心待ちにさせていただきます。最後に、韓国でゲームを作られている会場の方々に向けて、おふたりからメッセージをお願いできますでしょうか。
そのうえで、自分から何かアドバイスできることがあるとすれば、皆さん、SNSとかネットニュースとか見て、ふだんイライラすることってあると思うんですが、そのイライラってシナリオを作るうえですごくヒントになります。
イライラしているっていうのは心が動いているっていうことなので、それをどんどん拡張していけば、じつはシナリオの種になるかもしれません。そう考えると、イライラする場というのは宝探しができる場になるので、ぜひ、そういった視点も持っていただけるとよいんじゃないかなと。
なので、僕らも負けずにゲーム作りをしないといけないと、すごく気持ちを引き締めているところです。すごくユニークな、この楽しさを味わうにはこれしかないといったゲームを作れるクリエイターが韓国から出てくると、もっと世界のゲームシーンが盛り上がるんじゃないかなと思っています。そういう同志が韓国からたくさん生まれてくれることを、すごく楽しみにしています。
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