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神谷英樹×ヨコオタロウ、個性派ディレクターが語るゲーム作り。ヨコオ「どう締切を破るか」。神谷「アクセル踏みっぱなしでいたい」。

神谷英樹×ヨコオタロウ、個性派ディレクターが語るゲーム作り。ヨコオ「どう締切を破るか」。神谷「アクセル踏みっぱなしでいたい」。
 2025年11月14日、韓国・釜山のゲームショウ“G-STAR”にて、ゲームクリエイターが多数登壇するカンファレンス“G-CON2025”が開催された。

 そのオープニングセッションとして『
ベヨネッタ』など多数のアクションゲームを手掛けてきた神谷英樹氏と、『ニーア』シリーズをはじめとするゲームや舞台などさまざまなコンテンツに携わるヨコオタロウ氏の対談が行われた。

 モデレーターをファミ通グループ代表の林克彦が務め、ふたりがゲーム制作に掛ける想いやこだわり、ゲーム制作のヒントとなる部分も多数語られた。ゲームファン、ゲーム開発者にとって貴重な内容となっているので、ぜひ最後まで読んでほしい。
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神谷英樹 氏かみや ひでき

『バイオハザード』、『デビル メイ クライ』、『ベヨネッタ』シリーズなど、多くのアクションゲームを手掛ける。カプコン、クローバースタジオ、プラチナゲームズを経て、2024年よりクローバーズにて『大神』の新作タイトルを開発中。(文中は神谷)

ヨコオタロウ 氏

2015年に立ち上げたブッコロの代表取締役を務める。代表作に『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズ、『ニーア』シリーズなど。ゲームだけでなく『爆剣』シリーズなどの舞台の原作・脚本も手掛ける。(文中はヨコオ)

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ゲーム開発はじつは夢がない!?

――本日は、日本でも独創的なゲームを数多く手掛けてきた神谷さんとヨコオさんがどのようにゲームを作られているのか。そのこだわりやマインドをお聞きしたいと思っています。最初に、おふたりがお互いにどういった印象をお持ちかお聞きできますか。

神谷
そうですね。古今東西、いろいろなゲームがリリースされていますけど、「誰が作ったのかわからないけどすごくおもしろいゲーム」っていうものがある一方、「誰が作ったかはっきりと際立っているゲーム」っていう作品もあります。

 ヨコオさんが作っているのはまさに後者の、本当に個性的で“ザ・ヨコオタロウ”っていう唯一無二の個性があるゲームが作れるクリエイターだなという印象です。

――おふたりはけっこう近しいこだわりを持っていそうな印象があります。ライバルであるけど、同志でもあるような。

神谷
そうですね。だから今回のイベントのお誘いがあったときも、「ぜひヨコオさんといっしょに出させてください」ってお願いしたんです。僕はゲーム業界に友だちが少ないので、数少ない友だちのヨコオさんに。

 ヨコオさんはすごくユニークなゲームを作っていて、どうやって作っているのかというのは自分も気になるのでぜひ聞いてみたいです。

――ありがとうございます。そんなヨコオさんから見て、神谷さんはどういった印象をお持ちで?

ヨコオ
やっぱり神谷さんといえば『ベヨネッタ』など、アクションというか“手触り感”にものすごくこだわってゲームを作られているクリエイターだなと思っています。

 僕はシナリオにフォーカスした作りかたをするのですが、ゲームの作りかたはぜんぜん違うんだろうなと。神谷さんがすごくおもしろいアクションゲームを作られているので、これだけおもしろいアクションがあるなら、自分はべつにアクションでがんばらなくていいなって思うくらい。おもしろいアクションをやるなら、『
デビル メイ クライ』や『ベヨネッタ』をやればいいので。

――なるほど。いまヨコオさんから「遊んだときの手触りのよさ」というお話がありましたが、実際に神谷さんはどういったこだわりを持って開発をされているのでしょうか。

神谷
“コントローラと脳みそを直結する”みたいな、直感的に遊べるような手触りを心掛けていますね。

 僕もゲームを作りながらシナリオを書くこともありますが、もともと物語を書くことが得意な人間ではないので、作りかたとしてはアクションの比重を重くして、ゲームの進行に合わせてあとからシナリオを当て込むといったことのほうが多いです。ヨコオさんはゲーム以外にも舞台などでシナリオを手掛けるようなことをすごく積極的にされていますが、そういう物書きの能力が自分にはまったくないので、すごく羨ましいなって思っています。

――おふたりとも自分の強みを活かしたゲーム作りをされているんですね。そもそもの話になるのですが、ゲームの企画を立ち上げるとき、どういった部分からスタートするのでしょうか。

ヨコオ
こういう質問があるとよく答えていることがあります。ちょっと夢がないんですけど、お金(開発予算)ですね。

 お金が最初に決まっていて、そこから生み出せる時間や人といったリソースを見ると、作れるものって自動的に決まってくると思っています。なかでも、人はけっこう重要だと思っていて、アクションゲームが得意なスタッフに「アクションゲームじゃないものを作ってください」と言ってもうまくはできないですよね。

 スタッフにも適材適所があるので、スタート地点にいるスタッフのスキルを見て、今回はこういうゲームを作るのがいいんだろうな、ということを考えます。あと、お金を出してくれる人、たとえばパブリッシャーさんが「こういうゲームがほしいんだろうな」とわかれば、「じゃあこういうのを作りましょう」と提案することもありますね。

――自分が作りたいゲームを作るというのがスタートじゃないんですね。

ヨコオ
僕の場合は、ゼロから「こういうゲームを作りたいんです」って自分から言ったことはないですね。
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――いまお金という話がありましたが、お金も含めて、自由にゲームを作れるわけではなく、いろいろな制限があります。そのなかでゲームの企画を考える際のアイデアの素とは、どうやって生み出すのでしょうか。アイデアのストックから出すのか、そのときになって自分がやりたいことや興味があることから考えるのかなどはいかがでしょう。

ヨコオ
いまはアイデアのストックみたいなものは持っていなくて、つねに新しく考え直していますね。若いころはアイデアをたくさん持っていて、「こういうゲームを作りたい」と思っていたんですけど、やっぱりなかなか、そのまま好きなものを作れるということはないので、考えるのは止めてしまったんです。

――それはどのくらいの時期に?

ヨコオ
30歳くらいのときに。そのあたりから、もう自分が作りたいものを考えるのはやめて、「いま作れるものを作ろう」という考えに切り換わりました。絵が得意なスタッフがいたら、その絵を使って何を作ろうとか、さっき言ったリソースが並んでいる前で考えて、そのなかでお客さんがいちばん喜ぶものを作ろうと。そういう考えかた、作りかたになっていますね。

――現実的な範囲というか、自分のなかでゴールが見えていて、これは完成できると思えた内容で考えているということですね。

ヨコオ
そうです。作りきれるぞって毎回思っているんですけど、毎回締め切りを越えてしまって作りきれないっていうことになっているので、スケジューリングはうまくできていない気がします。

『The Wonderful 101』はボツ企画から発展したゲームだった

――神谷さんはどういう地点から企画をスタートされるのでしょうか。

神谷
“夢がない”っていうところでは、ヨコオさんに近いかもしれないですね(笑)。

 ヨコオさんはクライアントからの依頼があって仕事を引き受けていますよね。僕の場合は会社という組織に所属していて、会社から「こういうゲームを考えてほしい」というオーダーがあって、そこからゲームの企画を考えていました。

 なので、立場こそ違えど、僕もヨコオさんも、ゼロからゲームの企画を考えるっていうことはやらないし、できないんだと思っています。『デビル メイ クライ』(2001年発売)なんかは有名な話なんですけど、まず『
バイオハザード』が海外で非常に人気が出たので、「『バイオ』の続編を作ってほしい」というオーダーがありました。

 『バイオハザード』はプレイステーションのゲームでしたが、つぎに作るのはプレイステーション2になるので、じゃあこういうふうに新しい表現を取り入れていこう、発展させていこうということでスタートしたものが『デビル メイ クライ』になったんですね。
――最初にスタート地点は決まっていて、そこから膨らませていく作りかたなんですね。

神谷
そうですね。クローバースタジオというスタジオを作るときにオーダーがあって、会社の看板になるような独創的なゲームを作ろうとして生まれたのが『大神』(2006年発売)でした。

 ゲームの企画を考えるときには何かしらの土台になるものを会社から与えられているので、考えやすいといえば考えやすいですね。逆に「なんでもいいよ」って言われると、もしかしたら難しいかもしれないです。

――神谷さんとしては何かきっかけがあったほうが作りやすいんですね。

神谷
そうですね。何かしらのきっかけは欲しいと思っています。『The Wonderful 101』(2013年発売)の場合は、「有名な作品どうしがコラボレーションするようなゲームのシステムを考えてほしい」と言われて考えた企画です。

 たとえば、『
大乱闘スマッシュブラザーズ』は、コラボも含めていろいろな作品のキャラクターがどんどん登場してファンを楽しませるというものですが、それとはまた違ったアプローチでゲームを作ることはできないかと考えました。

 そして、「それならもう全員を画面に出しちゃえばいいじゃん」と閃いて、総勢100人が全員登場して、それらが一体となって敵を攻撃するようなゲームデザインとなりました。けっきょくそのコラボレーション企画は実現しなかったのですが、ゲームデザインは非常におもしろいものだと思ったので、世界観とかキャラクターを置き換えて作ったのが『The Wonderful 101』なんです。

――独特で秀逸なゲームシステムなのでどこかで活かしたいと思われたんですね。

神谷
ビューティフル ジョー』(2003年発売)だったら“VFXパワー”で画面をスローにしたり早送りしたり、『大神』だったら“筆しらべ”でステージに変化を与えたり、『ベヨネッタ』だったらウィッチタイムで回避から反撃に転じたり。自分はゲームを作る際には、何か独特なメカニズムというかシステムを入れたいなとつねに考えています。
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――ほかのゲームにはない独自性、オリジナリティをゲームに盛り込むことを心掛けているんですね。

神谷
そうですね。子どものころからゲームデザイナーになりたいというのが夢だったんですけど、ゲームデザイナーの役割って“ゲームの仕組みをデザインする”ということだと思うので、そこに対しては自分なりにプライドを持って、しっかりと務めを果たそうといつもやっています。

――オリジナリティについて、ヨコオさんが意識していることはあるでしょうか。

ヨコオ
オリジナリティというものをしっかりと考えてはいないんですけど、「製品として買う意味があるものを作りたい」とはつねに考えています。

 たとえば、アクションゲームでおもしろいものを作りましたって言っても『ベヨネッタ』よりもおもしろくないならべつに買わなくてもいいじゃないですか。おもしろいアクションがやりたいなら、『ベヨネッタ』を遊べばいいんですから。そういったように、いろいろなジャンルにすでにおもしろいゲームがたくさんあるので、僕は必ずしもおもしろいゲームを作らなくてもいいなって思っているんです。

 でも、「おもしろくなくてもいいから、買う意味のあるものを作ろう」という考えをもってゲーム作りをしています。

――“買う意味”というのは、といういったものなのでしょうか。

ヨコオ
フックというか、キャッチというか。僕はゲームってすごくたくさんの可能性のあるものだと思っていて、おもしろいだけがゲームを手に取りたくなる“引力”ではないと思っているんです。

 たとえば、大好きなアイドルが登場するっていうだけでそれはすごい引力になります。「このゲームを応援したいから買う」というのも引力ですし。ゲームっていろいろなことができる可能性を秘めていて、やりかた次第では映画とか小説といったコンテンツよりも幅広い展開ができる可能性があると思っています。

神谷
“引力”っていう言葉は僕もすごく共感することがありますね。いまは情報が世の中にあふれていて、ゲームも本当にたくさんあって、その中から自分のゲームを選んでもらわなければいけない。それをするためにはプロモーションで使用するスクリーンショットだったりのグラフィックが必要になりますが、そこに引力を生み出せるような絵作りをしようというところも非常に大切にしています。

――ユーザーを惹きつける、引力のあるゲームでなくてはならないと。

特別なシーンをさらに盛り上げるテクニック

――つぎのテーマなのですが、おふたりが“ひとつのシチュエーションを与えられて、どんなシーンに作り上げるのか”、という質問にお答えいただきたいと思います。まずは、“プレイヤーの眼の前に巨大な敵がいて、その敵を倒すようなシチュエーション”という場合、どんな味付けをして白熱のバトルを演出されますか?

ヨコオ
「バトルシーンをどうやって盛り上げるのか」っていうことだと思うんですけど、正直、僕はアクションのデザインってそんなに得意じゃないので、やっぱりシナリオでどう盛り上げるのかといったことから考えると思います。

 やっぱり、ただ「デカい敵を置いたので、倒してください」だと、みんな倒したいと思わないですよね。

 なので、ちゃんと倒したい理由を用意しないといけない。たとえば、その敵が自分の家族を殺したから復讐するんだとか、そういう理由を積み上げていく。ひとつだけだと弱いので、あの敵は自分の家の土地を奪っていったとか、自分の妹を食べて殺しちゃったみたいな、イヤなことを何度も何度も積み重ねることでストレスをプレイヤーに与えてあげれば、その敵との戦いも非常に印象深いものにできます。大きなストレスを与えて、発散させてあげるわけです。

――ストレスを溜めたぶんだけ発散のときに得られる快感はすごい。

ヨコオ
ただ、それだけだとシンプルなので、だいたいは1回倒すとパワーアップして復活するとか、変身するとか、そういうことをして盛り上がりを演出したりしますね。

――どれだけプレイヤーの感情を揺さぶっていけるかが重要なんですね。

ヨコオ
そうです。なんかプレイヤーに対する嫌がらせみたいなものを盛り込むのは得意ですね、僕は。

神谷
こういう講義をぜひ僕の会社にきてやっていただきたいです。

――シナリオライターの人ならぜひ聴きたくなるようなテクニックですよね。つぎは神谷さんからお答えいただけますか?

神谷
シナリオ作りっていうところはヨコオさんには叶わないんですが、いまのヨコオさんの話に乗っかるとすれば、その憎き敵と戦う前に雑魚戦を用意して、しばらく雑魚と戦ってもらいます。その後で憎き敵が出てくるんですが、プレイヤーの感情が乗っているのであれば、これまでの雑魚と戦ってきたフィールドじゃなくて、特殊なシチュエーションだったり特殊なアクションを差し込んで特別感を演出するのが、ユーザーの感情を盛り上げるひとつのやりかたなのかなと思います。

 ヨコオさんのシナリオですと敵は家族の仇だったりするので、戦いの中で相手を組み伏せて、マウントを取ってボタン連打で何度も殴りつけるようなシーンを入れたりするのもいいですね。もうひとつ言うと、たとえば自分の家族のひとりがその敵に捕まっていて、苦しむ要素を見せられながらバトルするとか。

 プレイヤーとしては、「その人を一刻も早く助けてあげなきゃ、早く敵を倒さなきゃ」、という気分になります。そういうシーンを入れて、それまで戦ってきた雑魚とは違う特別なバトルに仕上げるのも、プレイヤーの感情を揺さぶる方法のひとつなのかなと思います。

――そういった少しの味付けでも、もっともっとバトルを盛り上げることができるんですね。

神谷
『ベヨネッタ』でやったのは、ふつうの地面で戦っていると思っていたら、じつはそこは崖から崩れていってる瓦礫の上だったっていうアイデアでした。そういったとんでもないシチュエーションを用意することもゲームの引力になるのかなと。スクリーンショットの見た目もすごく映えますし。

 あと、月並みな話になるんですけど、やっぱりゲームって自分が物語に干渉できる娯楽で、敵を攻撃したり、攻撃を回避したり、思いっきりボタンを押して敵を殴りつけたりができるものなので、そこを効果的に楽しんでもらえるような工夫がおもしろさを演出するうえで大切だと考えています。さっき言った“手触り感”にもつながることなのですが。

――なるほど、ありがとうございます。いまの話題とは表裏一体のシチュエーションかなと思うのですが、逆に、感動のシーンを作りたい場合はどういった演出を取り入れますか?

神谷
僕の場合ですが、プレイヤーを特別に感動させたいと意図した作りかたは、あまり意識していないですね。

 ただ、ゲーム内のBGMにはすごくこだわりがあります。同じシチュエーションでも、使用するBGMによってプレイヤーが受ける感覚は異なってくると思うんです。

 僕は作曲はできないし絵を描くこともできないので、いっしょに仕事をする仲間たちに助けてもらっているんですけど、その仲間たちと綿密に打ち合わせを重ねて、「こういった曲が欲しいんだ」ということをていねいに伝えます。

 その結果、自分がしっくりくるものをそのシチュエーションに当て込めたとき、感情がしっかりとプレイヤーに伝わるんじゃないかなと思っています。

――シーンを盛り上げるために音楽を使うのはかなり効果的だと。

神谷
感動の場面に限った話ではないですが、気分を高揚させるようなシーンでも曲がマッチしていなかったら台無しになってしまうので、音楽が与える影響はかなり大きいですよね。

ヨコオ
神谷さんの音楽に対するお話はまったくそのとおりだなと考えています。

 僕も音楽は作れないのですが、岡部さん(岡部啓一氏。MONACA代表取締役で、『ニーア』シリーズなど、ヨコオ氏が手掛けるゲームのサウンドにも多数携わる)と仕事をするとき、作っていただいた楽曲を聴きながらシナリオを考えたり膨らませたりすることがあります。話から曲を作ったり、曲から話を作ったりと、けっこう自由ですよ。

――『ニーア』シリーズは、岡部さんのBGMともベストマッチした感動のシーンが多く語られていますよね。ヨコオさんが考える、感動の演出方法などがあれば教えていただけますでしょうか。

ヨコオ
自分は“敵側にもフォーカスする”というのをやりますね。

 自分の家族を殺した敵がいたとして、じつはその敵も過去に殺されていたりとか。そういった演出があると、シーンも敵にも印象が深まりますよね。あと、仲間が最後の最後で助けに来てくれるみたいなのも、スタンダードだけど「おおっ」って思える演出です。

――シナリオでいうと、ヨコオさんの作品は絶望的なのにどこか希望があるような、絶妙なバランスのものを得意とする印象があります。

ヨコオ
あまり意識してはいないのですが……。

 たとえば、子どもが死んでしまうような演出の場合、ふたりの姉妹がいて、妹のほうがすごく飢えている。お姉ちゃんは妹のために食べ物を分け与えるんですけど、甲斐なく妹は飢えて死んでしまう。お姉ちゃんのほうも妹に食べ物を与えてしまったので、結果飢えて死んでしまう……みたいな、畳み掛けるようにストレスを与えていくようなことはけっこうやりますね。

 あと、仲間が助けに来るにしても、その仲間はすごく貧乏でこんなところに来る旅費も武器も力もないんだけど、プレイヤーのためにがんばって出張ってくれたみたいな。シナリオのベースは同じなんだけど、トッピングをいっぱいしてあげることで、さらに物語を盛り上げていけるので、そういう演出はけっこう好きですね。

――おふたりともアプローチの手段がそれぞれ違っていて、おもしろいですね。

神谷
自分の場合、シナリオを書くときは、自分の好きなジャンルの音楽だったり、そのシーンに合わせたテイストの音楽を聴いたりして気分を盛り上げることはけっこうやりますね。

――音楽を聴いて集中すると効率も変わりますか?

神谷
気持ちが乗ってくると、アウトプットの質もよくなります。音楽だけじゃなくて、アートからインスピレーションを受けることも。たとえば、『ベヨネッタ』の場合、彼女は魔女で、こういうキャラクターなのでっていう説明をして発注したデザインがすごくいいものだったので、このキャラクターにはこういうアクションをさせてみたいといったインスピレーションを受けました。

――アートから新しいアイデアが生まれることも。

神谷
多いですね。

クリエイティブとスケジュールはどっちが大切?

――おふたりはディレクターとして仕事をしていく中で、ある程度できあがったものを見てさらにインスピレーションを受けて、「もっとゲームを作り込みたい」となることも多いと思います。ですが、ゲーム開発には必ず納期があって、どうしてもスケジュールとのせめぎ合いが発生すると思うのですが、納期とクリエイティブの折り合いの付けかたがあればお聞かせください。

ヨコオ
僕は放っておくとダラダラ作り続けてしまうタイプなので、納期はきちんと設定されていたほうがいいというのが、まず前提としてあります。そのうえで、僕がよく考えるのは、「どう締切を破るのか」ということです。

――どう締め切りを“守るのか”ではなく(笑)。

ヨコオ
たとえば、50%くらいできあがった段階で、ちょっと制作が伸びそうだから予算を倍くださいといっても、たぶんオーケーは出ないんですよ。それよりも90%くらいできたときに、あと10%を作るために追加で30%くらいの予算をください、みたいなことを言います。相手はもう90%分を払っているから、いまさら引くに引けない状況になっているので、そうなってから初めて「遅れます」と言います。

 こういう邪悪なテクニックを皆さんにはお伝えしたいです。

――よりいいものを作るためには仕方ないんだと。

ヨコオ
いいものになるぞというよりは、「このままだと完成しないぞ」って(笑)。とは言いつつも、僕個人としては際限なく作品をよくしたいとは考えているので、どっかで誰かが止めてくれないと終わらせられないなって感じです。
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――そういったこだわりをもってゲーム制作をされているんですね。

ヨコオ
だから、ゲームが完成したときには、毎回「ここで終わっちゃったな。残念だな」って思うんですよ。

 「もっとここをこうしたい、ああしたい」と思いつつ途中で終わりになってしまうので、仕事が完了したときに、「完璧なものを作れた!」と思ったことは一度もないんです。

 でも、5年後くらいに振り返ってみると、「意外とがんばっていたな」と思ったりするので、自分の開発中の判断はあまり当てにならないなって思っています。

――100点満点で送り出せるなんて、なかなかないですよね。

ヨコオ
自分ではシナリオがおもしろいと感じたとしても、プレイヤーが100人いて、100人が同じ感想を持つことってないと思うんです。国や性別や好みとかの違いはありますから。だから、全員にお金を払う意味のあるものだったと感じてもらうためには、僕がおもしろいと思う以上のものを盛り込まないといけないんだろうなとつねに考えています。だから、僕は自分自身の感性をあまり信用していないんですよ。

――スケジュールを考えなければ、もっともっとおもしろくしたいと考えて続けているんですね。神谷さんもクリエイティブには並々ならぬこだわりがあると思いますが、どういった折り合いをつけてお仕事されているのでしょうか。

神谷
けっこうこういった質問はくるんですけど、スケジュールに関しては本当によくわかっていないんです。まわりに優秀な人がいることが多くて、その人が管理してくれています。

 だから、自分としてはアクセルは踏みっぱなしで、本当にやりたいこと、作りたいことをとにかく優先して開発しています。ただ、ヨコオさんがおっしゃったようにどこかで諦めないといけないというのは当然あるので、本当にギリギリになって、「これは入れられるけど、これは無理」みたいな状況が必ずあって。毎回断腸の思いで取捨選択しています。

――作っていくと「これも追加で入れたい」と思うことがあるのは、クリエイターのサガなんでしょうね。

神谷
本当に優秀な人だと最初から入れられるものを決めて、スケジュールどおりにきっちり仕上げられるんでしょうけど、残念ながら僕はそういうタイプではないので。というか、最初からスケジュール前提で考えていたら、アクセルをずっと踏み込んだ開発はできないと思います。アクセルが踏み込めないと、ここだけは絶対にほかのゲームに負けていないといったようなユニークな作品は作れないですから。

――ブレーキを踏む人ももちろん必要ですけど、神谷さんとしてはアクセル踏みっぱなしでいたいんですね。

神谷
スケジュールをしっかり管理してくれて逐一アドバイスしてくれるようなパートナーは必要ですけどね。ディレクターとしてその作品をユニークなものにするというポジションであれば、やっぱり自分としてはアクセルは踏みっぱなしでいたいし、クリエイターとはそうあってほしいなと思っています。

――ありがとうございます。もっとお話をお聞きしたいところですが、セッションも残り時間がわずかとなっています。ここで新情報が出ることはないんですけど、おふたりが現在どんなお仕事をされているのかもお聞かせいただけますか?

神谷
さきほどお話したように、僕は『大神』の新作タイトルを制作しています。いまはクローバーズというスタジオを立ち上げて、スタッフを集めつつ開発している最中です。いま、スタッフは50名くらいになりましたが、もう少し増やしていきたいですね。自分はディレクターとしてゲームデザインをしていて、舵取りをするのが役割です。優秀なスタッフたちの力を借りながら、すごくいい環境でゲーム開発ができていると思っています。優秀なスタッフの紹介で新しい方にも参加してもらっていて、すごくいい仲間に恵まれて、本当に幸せ者です。運もよかったですね。
――『大神』のつぎの情報に期待しています。ヨコオさんは現在、どんなお仕事をされているのでしょうか。

ヨコオ
自分はゲーム以外にも舞台やアニメなど、いろいろなコンテンツに関わらせていただいているのですが、ここ3年くらいは参加しているプロジェクトが中止してしまうようなことがけっこう多いんです。プロジェクトが中止になると当然世には出回らないので何もしていないように見えるのですが、けっこういろいろなことをしていますよ。

――自分の関わったものが世に出せないのは、もどかしいですよね。

ヨコオ
プロジェクトが中止になってもお金はいただいているので、その点で不満はないんですよ。でも、自分がアウトプットしたものを皆さんにお見せできないのは、やっぱり寂しいです。

神谷
自分は、変なものを出してしまうくらいなら出ないほうがいいや、と考えるタイプなので、途中でプロジェクトが中止になってしまうことには、あまりネガティブには考えないですね。

――たしかに。中途半端なものをファンに提供してしまうかもしれないですしね。ヨコオさんが手掛けるつぎの作品も心待ちにさせていただきます。最後に、韓国でゲームを作られている会場の方々に向けて、おふたりからメッセージをお願いできますでしょうか。

ヨコオ
正直言うと、韓国のメーカーは日本よりも技術力が上だなと感じることが多いので、そういう意味では我々から何か学ぶことはもうないんじゃないかなと思っています。

 そのうえで、自分から何かアドバイスできることがあるとすれば、皆さん、SNSとかネットニュースとか見て、ふだんイライラすることってあると思うんですが、そのイライラってシナリオを作るうえですごくヒントになります。

 イライラしているっていうのは心が動いているっていうことなので、それをどんどん拡張していけば、じつはシナリオの種になるかもしれません。そう考えると、イライラする場というのは宝探しができる場になるので、ぜひ、そういった視点も持っていただけるとよいんじゃないかなと。

神谷
ヨコオさんがおっしゃるとおり、韓国は技術力がめちゃくちゃ高いです。ゲームシーンはこれまでは日本が引っ張っていた印象があるんですけど、いまは欧州、北欧、韓国、中国、いろいろな国から信じられないようなクオリティーのゲームが出てきています。

 なので、僕らも負けずにゲーム作りをしないといけないと、すごく気持ちを引き締めているところです。すごくユニークな、この楽しさを味わうにはこれしかないといったゲームを作れるクリエイターが韓国から出てくると、もっと世界のゲームシーンが盛り上がるんじゃないかなと思っています。そういう同志が韓国からたくさん生まれてくれることを、すごく楽しみにしています。
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