堀井雄二 氏(ほりい ゆうじ)
1954年生まれ。アーマープロジェクト代表取締役。1983年にPC用アドベンチャーゲーム『ポートピア連続殺人事件』、1986年に『ドラゴンクエスト』をリリース。以降40年以上にわたりゲーム開発を続けている。近作はHD-2D版『ドラゴンクエスト I&II』。2025年に旭日小綬章受章。
- 韓国で語られた「DQ」秘話
- 『ドラゴンクエスト』誕生物語
- 堀井雄二のRPG観
- HD-2D版『DQ I&II』、『DQIII』について
- 堀井雄二の原動力
- シナリオとユーモア
- これからの展望
- 「DQ」40周年
- 座右の銘“人生はRPG”
- 開発者へのエール
韓国で語られた「DQ」秘話
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――とても貴重な機会かと思います。ご来場の皆さんもとても楽しみにしていらっしゃると思うんですけれども、ちなみに、皆さん「DQ」好きな方、手を挙げていただいてよろしいですか。
(観客から多くの手が挙がる)
――韓国でもこれだけ人気があるということで、とてもうれしいですね。最初に、先日、堀井さんが“旭日章”を受賞されました。これは産業ですとか文化、政治、経済、さまざまな分野において類いまれなる功績をあげた方に贈られる、ゲームデザイナーとしては初めての受賞ということなんです。その感想というか、お気持ちをお聞きしてよろしいですか。
『ドラゴンクエスト』誕生物語
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それから日本でファミコンが流行ったとき、「アクションゲームしかないファミコンにRPGを出したら絶対にウケる」と思ったんですね。
だから、本当に小さな容量の64キロバイトのROMに、いまスマホの写真の何万分の1ぐらいのメモリに、プログラム、グラフィック、ストーリーを入れて作り上げたんですね。
――発売当時のファミコンって、アクションゲームやスポーツゲームとかしかない時代でしたよね。
――堀井さんはもともとアドベンチャーゲームも作られてましたけれど、やっぱり当時から、物語というか、文章・シナリオとセットで楽しませるということがお好きだったのしょうか。
――なるほど。マンガ自体はどうしても一方通行で、それがゲームだったらインタラクティブに楽しませられるんじゃないか、という発想があったんですね。
――1980年代のRPG、たとえば『ウィザードリィ』とか『ウルティマ』とかがありましたが、硬派で難しいゲームでしたよね。それを「DQ」はとてもわかりやすく、とっつきやすくしたというか。そこにはマンガの発想みたいなものもあったんですね。
ただ、「そのストーリー、そのレールから外れてもいいよ」っていうのが、小説や映画と異なる、コンピューターのよさだと思うんですよね。
――『ドラゴンクエスト』は、“勇者が世界を救うために冒険をする。最後の竜王を倒すために成長していく”という目的がありますが、その物語は当時どうやって考えられたのでしょうか。
経験値が貯まって強くなって、お金も儲かって強くなっていくと。そして、最終的に強くなった自分はどうすればいいかというと“魔王を倒す”というのが、すごく直接的でわかりやすい設定だと思います。
マップもけっこう工夫していて、最初の町ラダトーム城から竜王の城が見えますよね。
――見えますね。
――プレイヤーのモチベーションになりますよね。最初からそういったことを考えられてたんですね。堀井さんは基本におひとりでその企画を作られて、考えられいたんですよね。
――プレイヤーはここでこうおもしろがるんじゃないか、と想像しながら。
そして、子どもたちにとって当時テレビって見るだけのものだったと思うんですよ。それが「テレビで自分の名前を呼んでくれた!」って、いきなりそういう驚きと喜ぶシーンにできるかなと思ったりしながら、作っていきましたね。
――そうか、『ドラゴンクエスト』が初めてやったことですね。プレイヤーが主人公の名前を自分で好きに決められる、それがちゃんと画面に表示されて、呼んでくれるという。
――まさにロールプレイングで、感覚が深くなるとより体験が楽しくなるっていうことですよね。そういった形で、インタラクティブ性をともなってプレイヤーを喜ばせたいとか、ワクワクさせたいという当時の思いは、いまも変わらないですか。
やっぱり人にとっていちばんの遊びというのが、“いまの自分たちがほかの人生を体験すること”だと思うんですよね。いろいろなゲームとか、小説とか、映画もそうですけれど、“違う自分を体験する”ということ。ゲームだとそれをより表現しやすいと思うんですね。自分がなりきるというか。
堀井雄二のRPG観
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逆に言うと、自分で作ったものって自分でわかっているので、あまり遊べかったりするんです。人が作ったものはほんとにいちプレイヤーとして遊べたので。『ゼルダの伝説』も相当はまって遊びましたね。
――いろいろなRPGが出てくる中で、堀井さんが刺激を受けたタイトルというのは?
――堀井さんは現役のゲームデザイナーでもある一方で、現役のゲームファン、ゲームプレイヤーでもあるんですね。
――基本的にはRPGとかアドベンチャーとか物語性のあるゲームを作られることが多いと思いますが、アクションを作りたいとか、ほかのジャンルを開発してみたいという気持ちはありませんでしたか?
――日常的に韓国ドラマも観てらっしゃるんですね。
――「DQ」って、“「DQ」らしさ”というものを大切にしながら、毎回毎回新しいチャレンジをつねにしていると思います。物語はどういうふうにヒントや着想を得て作られているんですか?
その途中で「どんなイベントが起きたらおもしろいかな?」と考えるんですね。朝起きたら誰もいないとか、他人に間違えられて困っちゃうとか。僕はいたずら好きなので、そういうのをどんどん仕掛けて、それを積み重ねて大きなストーリーにしていく……ということを考えます。
――すこし突っ込んだことをお伺いしますと、作りかたとして、最初にゴールを設定してそこに向かって逆算して作っていくのか、それとも出発から積み上げて行くのかなどは、どのように考えて作られているでしょう。
さっき言ったようにイベントがつく場合もあるし。たとえば、“親子3代かけて魔王を倒す”っことを考えて、そこから発想したりとか。あとは、ゲームでも真剣にやってほしくて“結婚イベント”を作ったりとか。毎回「どういう遊びを提供するか」ということを考えますね。
ほかには、ゲーム終盤で新しいマップが出てくるゲームってけっこうあるけど、逆手に取って「最初からふたつのマップを行き来するのはどうだろう?」って、『VI』(『ドラゴンクエストVI 幻の大地』)の夢と現実の世界を思いついたり。発想はいろいろですね。
――そうやっていろいろと考えている時間が楽しいのですね。
――実際に開発を進めていくのとどちらが楽しいですか?
――山を登りきったような達成感が。さまざま行ってきたチャレンジのなかで、とりわけ「あれはたいへんだったな」と覚えているようなことはありますか?
それでつぎの『IV』をどうしようかととても悩みました。そのときに思いついたのが、「キャラクターを立てて、いろいろな章立てにして、仲間たちの人生を描いてみよう」と。
主人公、勇者は自分なので、それを立てる意味でも、それ以外の個性的ないろいろなキャラクターが登場する。イベントも、キャラクターの魅力を引き出すために個別のストーリーを考える……という発想でできています。
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――「DQ」シリーズって、“らしさ”を大切にしながら、一方で『ドラゴンクエストX』ではMMORPGにしたり、チャレンジをしているじゃないですか。それはすごく勇気が必要だと思うのですが、とくに『DQX』ではどのような判断をされて、ゴーサインを出されたのでしょう。
開発から「ナンバリングにしてほしい」と言われて、どうしようかと。確かにナンバリング作品として出したほうがより多くの皆さんに遊んでもらえるんですよね。最初に発売された2012年当時、オンラインゲームで遊ぶことはまだまだ敷居が高かったですよね。本当にナンバリングにしていいのか? というのは悩みどころでした。
だけど、それにより多くの人がプレイして、よりオンラインゲームの楽しさがわかってくれればと。
――せっかくならひとりでも多くの方に遊んでもらいたい、そのためにはナンバリングとして作ったほうがいいんじゃないかという判断が。
――いまは時代が変わっていますけど、かつて堀井さんが「DQはいちばん普及しているゲーム機で出したい」とおっしゃっていたのも、それもやっぱりひとりでも多くの方にあそんでほしいからということでしょうか?
HD-2D版『DQ I&II』、『DQIII』について
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で、『I』は最初ファミコンで作っていて、すごくシンプルなゲームなんですよ。イベントも少ないし、セリフも、モンスターも少ないし。だから『III』を遊んだ後に『I』のリメイクを遊ぶときっと物足りないだろうなと思ったんです。
プレイヤーの皆さんが当時遊んだ記憶、思い出って、美しくなっていると思うので、逆に「それを再現してみよう」と。みんな、こんな事を考えながら最初の『I』を遊んでくれたんじゃないかなというのを形にしました。
――『I』はパーティじゃなくて勇者ひとり旅なので、久しぶりに遊ぶと逆にすごく新鮮でしたね。
――堀井さんもゲームを見ながら、「こここうしよう、ああしよう」というようなことをしながら開発を?
――『II』に関しては、今回どういったコンセプトで開発を行われたのでしょう。
――私はまだ最後まで行っていないので、楽しみにこの後もプレイしたいと思います。やっぱりご自分で書くと楽しいものですか?
――それは堀井さんご自身で「やりたい」と。
――『DQVII』といえば、2026年2月5日には『ドラゴンクエストVII Reimagined(リイマジンド)』が発売予定です。
それで欲張ってですね、ちょっと作りすぎちゃった(笑)。話がいっぱいあるし、3Dの街も作れましたし、ぐるぐる回したりして。懐かしいねえ。
『DQVII』にはいろいろな楽しみがあったんですけど、この作品では“マップを集めたら楽しいんじゃないか”という発想で作り始めたんですよ。石版を集めて、石版を集めたら新しいマップに行けると。だから石版をいろいろなところに隠したんですけど、マップがぐるぐる回せちゃうし、石版が見つからなくて挫折してしまった人も多かったんです。
だからそのあたりを改良して、今回はかなり見つけやすくしています。
――リメイク版では削ぎ落とすというか、よりゲームに集中しやすく、遊びやすくなっているのでしょうか?
キャラクターもドールルック、お人形さんを作ってそれを3Dデータ化していて、これがけっこういい感じなんですよ。それに合わせて町のマップもジオラマチックに作っていて、本当に歩いているだけで楽しい街に仕上がったなと思います。
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――いま開発中だと思いますが、こちらも堀井さんがしっかりと見ていらっしゃると思いますが、いまから「とてもいいものになりそうだな」という予感がありますか?
――そうなんですね!?
――(笑)。それでは皆さん来年2月を楽しみにして問題ないですね。
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堀井雄二の原動力
――「もうゲーム作りをやめようかな」と考えたことは基本的にはなかったということですよね。
――ああ、それはとてもうれしいですね。堀井さんにとってのゲーム作りの楽しさというのは、ご自身ひとりの楽しさなのか、仲間と作ることも含めての楽しさなのかとか、ファンの皆さんに喜んでもらえることであるとか……。
――昔はアンケートはがきがメインだったと思うんですけど、いまはどのようにプレイヤーの声を見ていらっしゃるんですか?
――堀井さんもけっこう実況見てらっしゃるんですか。
いまはゲームを遊ぶのもそうだし、ゲームをする人を見るのも一種の娯楽になってきましたよね。
――実際にゲームを作っている堀井さんからすると、気持ちとしては、実況を見るだけではなくて実際に遊んでほしいという気持ちもお持ちになられるのでは?
――実況者の方も、堀井さんが見ていると思ったらびっくりしますよね(笑)。
――会場の方で「ゲーム実況見てるよ」という人は……?
(会場の手が挙がる)
シナリオとユーモア
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――(笑)。
――シナリオというかセリフを考えている中で、やっぱりここでちょっとおもしろいものを入れとこうみたいなことを、全体のバランス見ながら織り込んでいるということでしょうか。
たとえば『II』だとサマルトリアの王子を一生懸命自分が探すんですよ。それでやっとみつかったら、向こうが「いやー さがしましたよ!」って言うんです。俺だよ! って(笑)。
――探したのはこっちだよ! って(笑)。
――そういう、プレイヤーが驚くんじゃないかとか喜ぶんじゃないかということを。
――それはやっぱり、最初の話に戻りますけど、堀井さんがマンガ家志望だったりライターをやられていたという経験が生きているんですか。
――シリアスな重たいシーンと、ユーモアのあるシーンの気持ちの切り替えはどのようにされるんですか?
――起承転結は大きい流れであって。
――さらに細かく、細かい喜びと悲しみみたいなことを織り交ぜながらシナリオを考えていくのでしょうか?
――堀井さんがシナリオを書かれるときは、たとえば夜に集中して書くのか、何か決まったやりかたはあるんですか。
――スケジュールに余裕を持って書くか、ギリギリかでいうとどちらですか?
ただね、集中するために何もしない時間って必要なんですね。何もしない時間があって、ちょっとずつアイドリングをかけていって、やっとエンジンがかかる、みたいな。
――筆が乗ると速いんですか?
――遊ばれているゲームとか、ふだん観られているドラマや本などが、シナリオのヒントになったり、ほかのものから受ける影響というのはあるんですか。
――直接的ではないんだけど、いろいろなインプットをしていらっしゃる。
――ゲームを作っている皆さんと話をすると、インプットが大事だと。ゲームだけじゃなくて、ほかのエンターテインメントを含めていろいろなインプットをつねにした方がいいって話をよく聞くんです。
――そしてそれをさらに自分のもの作りに変換していくと。
これからの展望
――堀井さんも使っていらっしゃる?
部下と会話をしながら犯人を見つけていくとか。AIが聞き込みをやって、聞くと「こういうこと答えている」って教えてくれるとか。実際に会話でやり取りしながら、雑談しながら事件を解決する……なんてことが本当にできると、楽しいんじゃないかな。
――おもしろそうですね。でもこれ、いま話しちゃって大丈夫なんですか。
――いまAIは調べ物とかに便利ですけど、そういうものもゲームに組み込みたいと考えていらっしゃるんですね。
――新しいテクノロジーとか、いま世の中に出たというような遊びとか、そういったものはすごく気にしているんですね。
「DQ」40周年
――思い返すとどのように感じますか。
――40年愛され続ける理由というのは、堀井さんとしては何が秘訣だったと思われますか。
レベルアップをしたり、謎を解いたりしたときに友だちに自慢したりだとか。お兄ちゃんに頼まれて延々とレベル上げをさせられるとか(笑)、何かを最初に見つけてクラスで英雄になったとか、そういう思い出といっしょに「ドラゴンクエスト」があるからだと思うんですよ。
――そうですね、たしかにそうです。おそらくここにいるみなさんもそうだと思うんですけど、あのときのあのシーンとか、あの自分の選択だったりとか、何回も倒されて悔しい思いをしながらも立ち向かった記憶って、やっぱり忘れないんですよね。
――当時の堀井さんや作ってらっしゃった皆さんが、そういう風になるように、シナリオだったりとかシステムとか、いろんな工夫をされた結果でもあるんですよね。
座右の銘“人生はRPG”
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――いっとき辛い局面があったとしても。
――考えかた、そうですよね、「いまめちゃめちゃ辛いけど、これがんばったら経験値が溜まってレベルアップするんじゃないか」って思えば乗り越えやすくなるかもしれないですよね。
開発者へのエール
形にするときの辛さとか困難とか、いろいろなものがあるんですけど、とにかく頭のある傑作を形にすることを、心掛けてください。とにかく作ることで、いろいろな失敗があったりとか、傷つくことがあったりとか、すると思うんですけど、それはぜんぶ勉強になるので。失敗しても。
だから、とにかく頭の中だけじゃなくて、外に出すということをやってみてください!ということですかね。
――頭の中にあるものを形にする、というのは、たとえば堀井さんは、どういう風にして最初やられていたんでしょう。プログラムにするとか、書き物にしてみるとか……。
やってみることで、いろいろなできないことが出てきたりして、そうしたら「つぎはこれを覚えよう」とかって、なるんですよね。
――実際、頭の中にあることがすべて実現できるわけではないと。でも、それを工夫して、どうすればいいんだろうみたいなことは、やっぱアクションしないとわからないですものね。
で、それで作ってるうちに、「こういうことやりたいな」っていうことで、これをやるにはどういう言葉と命令を覚えばいいかなと考えながら、1個ずつ覚えていったんです。
――最初の基礎的なプログラムからゲーム作りを始めて、もっとやっぱり盛り込みたいからということで、プログラムの知識も増やしていったと。
――そうですよね。いきなりすべてを、100を当然覚えられないので、それを少しずつ少しずつ覚えることで、自分のスキルというか、レベルも上がっていく。
最初にあんまりたくさんのことを教えちゃうと、逆にめんどくさいと思われちゃうんで。だから、なんとなくちょっとだけ覚えて、で、ほんとにわかんなくていいと。わかっている気持ちにさせればいいと思っていますね。
わかったような気持ちになって、「じゃあ今度はこうしたらいい、こんなこと思いついた」ってやって、どんどんこう、技術を上げていくみたいな。
――ちょっとずつ、プレイヤーも知らないうちに。そういう作りかたですね。最初から全てを詰め込む必要もない。
――そうですね。お話を聞いていて、堀井さんがつねに遊び手の気持ちになっていろんなことを考えてる気がとてもしました。こういうゲーム作りの話をしていただくことはとても貴重でしたし、おそらく聞いてらっしゃる皆さん、とても楽しい時間だったんじゃないかなという風に思います。ありがとうございました。
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