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『ToHeart』レビューと感想。マルチ派なのにあかりやレミィに心ときめく。一緒にいるだけで好きになってしまったという話

byミス・ユースケ

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『ToHeart』レビューと感想。マルチ派なのにあかりやレミィに心ときめく。一緒にいるだけで好きになってしまったという話
 『ToHeart』が新生されると知って、いても立ってもいられなくなった。ありがたいことに先行プレイの機会をいただいたので、あわあわ言いながらSteamを起動する。

 画面の中ではあかりが歩いていた。それだけのことなのに切ないストーリーが鮮明に甦り、涙がこぼれた。さっきオープニングテーマ
『Feeling Heart』を聴いたばかりだというのに、もう頭の中ではエンディングテーマ『それぞれの未来へ』が流れている。気が早い。
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神岸あかり:主人公・藤田浩之の幼馴染。
 あの頃想像していた彼女たちの姿が現実になったようだ。いや正しくは現実ではないのだけど、それだけの実感を伴っている。レミィは相変わらずの元気ハツラツパツキンガールで、来栖川先輩はきれいで、志保は騒がしい。何だかホッとする。

 そして雅史が意外といい体をしていることに気づく。そういえば雅史はサッカー部だった。3Dグラフィックになったことで見える一面もある。
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宮内レミィ:明るい性格の日系ハーフ。大きい。(左)/来栖川芹香:オカルト好きなお嬢様。いつもポーっとしている。(右)
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長岡志保:浩之の悪友的な存在。校内のゴシップに詳しい。(左)/佐藤雅史:浩之やあかりの幼馴染。ハムスター好き。(右

脳内にあった光景がそのまま出てきた

 『ToHeart』が現代に生まれ変わり、SwitchとSteamで遊べる。その発表はある種の事件だった。大げさかもしれないが、近しい衝撃を受けた同志は少なくないはず。みんなで祝杯を上げよう。

 1997年に発売されたPC版を原作とし、1999年にはプレイステーション(PS)に移植され、PSPやPS2にも広がり、ラジオにテレビアニメ、コミックとその活躍は縦横無尽。言わば時代を作った恋愛アドベンチャーのひとつである。

 時代が巡り、グラフィックは2Dイラストから3Dに刷新。日常の空気が直接描かれていると言えばいいだろうか。とにかく、画面から伝わる雰囲気が柔らかくなったように思う。
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メイドロボというキャラ属性を定着させた存在・マルチ。筆者はマルチがとても好きです。
 3D表現が導入される際、よく使われる誉め言葉は「リアル(現実味がある)」だ。だが、それだけだと言葉足らずな気がする。

 イベントシーンが1枚のイラストで描かれていた当時、僕らは女の子を見るだけじゃなくて、情景そのものを頭の中に描いていた。きっと細やかであろう彼女たちの仕草から、それこそ環境音や端々の空気にいたるまで。見えない部分は想像で補完すればいい。

 新生『ToHeart』では、脳内にあった光景がそのまま出てきてしまった。

 気まずいときは視線をそらす。照れたときは頬を赤らめる。悲しいときは肩を落とす。ふとしたときに視界に飛び込んでくる佇まい。以前は想像の中で微笑んでいたマルチたちがイメージ通りの姿でそこにいる。ものすごく高精細なグラフィックというわけではないのだけど、2Dよりも距離が近く感じる。次元の壁を越えるとはこのことか。

 よかった。僕の想像は合っていた。答え合わせをしている気分だ。
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しょげているときは若干うつむき気味に。
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なでてもらうとこの表情。
 毎朝のように幼馴染のあかりと待ち合わせをして、おしゃべりをしながら学校までの道を歩く。登校したら授業を受けて、休み時間にはクラスメイトとおしゃべりをして、放課後になったら誰かを見つけてまたおしゃべり。日々は当たり前に過ぎていく。

 会話の内容もふつうだ。朝ごはんの話に子どもの頃の思い出、貧乏性あるある、好きな映画などなど。当人たちからしたら代わり映えのない毎日なのかもしれないけど、それがとても心地いい。

 僕は衝撃的な事件よりも心の機微にふれたかったんだなと改めて思う。
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あかりとレミィを越えてマルチを目指す

 僕はかつてマルチのシナリオで号泣した男だ。家訓は“初手はマルチルート”。そういう業を背負っている。

 ゲーム本編で描かれるのは3月上旬~4月下旬。1年生組(マルチ、松原葵、姫川琴音)が出てくるのは4月に入ってからなので、前半は放課後になったら“家に帰る”を選んでイベント類をすっ飛ばしてもいいのだけど、それでは味気ない。3月中はふつうに学園生活を満喫することに。
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会話中に選択肢が発生することもある。好感度が上昇するものにアイコンを表示する“選択肢ガイド”機能に沿っていれば大きなミスをすることはない。
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対象の女の子を攻略するための行き先や選択肢をすべて表示する“ルートガイド”機能。これを使えば物語に集中できる。
 ところが、困ったことが起きた。あかりがすごくかわいいのだ。いや、あかりがかわいいのは知っている。圧倒的にマルチ派のはずなのに、あかりを意識してしまうのである。

 しばらく理由がわからなかったのだが、あるとき気づいた。きっかけは3D化によってみんな表情豊かになったことだと思う。役者が表情の演技をしているようで、そこから気持ちがより強く伝わってくる。

 そういえば、ゲーム起動時のロゴ群の中にタムソフトの名前があった。かわいい3Dキャラクターを多数手がける開発会社で、その手腕は『ToHeart』でもいかんなく発揮されている模様。
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 あかりはいっしょに過ごす時間が長い。何気ない会話の中でいろいろな表情を見せてくれて、いつしか身近に感じるように。そんな女の子から、明らかに自分(主人公の藤田浩之)への好意が見え隠れしていたら。そんなことになったら!

 ほのめかすような発言はいろいろあるものの、このとき決定的になった。
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得意げに話す志保をクラスのみんなで囲んでる。右側のあかりの視線に注目してほしい。
 噂好きの志保が“志保ちゃんニュース”でクラス内を騒がしているシーンだ。みんな志保に注目してゴシップネタをいまかいまかと待っているのに、あかりだけは「浩之ちゃんはどう思ってるかな」とこちらを見ているのである。こういう静かな演出に弱い。

 あかりはおとなしい女の子なので浩之に気づいてほしいわけではないだろうけど、ごめんな、僕は気づいてしまったんだ。「あー!」と声が出る。意識するなというほうが無理な話である。
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鈍感同士のラブストーリー。この世で一番むずむずすると言われている。
 男というのはばかな生きものなので、何度も接したりボディタッチの多い女の子を好きになってしまう。そういう意味ではレミィにも心をかき乱された。

 陽気な日系ハーフの彼女は、序盤からぐいぐい距離を詰めてきて発言も意味深。そしてバイト先(ファミレス)の制服のサイズが合わない発育のよさ。そんな三冠王みたいな同級生がいたら好きになるに決まってるだろ!
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昔は積極的な女の子は苦手だったのに。結局は大きさか。大きさなのか?
 マルチと結ばれるには、あかりとレミィの鉄壁の二遊間を突破しないといけない。『ドラゴンクエストV』と似ている。最初はビアンカと結婚し、2周目はフローラを選ぶつもりが、ビアンカとの思い出があふれ出て2周目もビアンカを選んだ僕にとって、あかりたちの気持ちから目をそらすのはあまりにもハードルが高かった。

 それでもマルチへの気持ちに比べたらそんな葛藤はなきに等しい。メイドロボというキャラ属性や白のオーバーニーソックスを定着させた功績に敬意を表し、出会ってからはマルチのもとに通い詰める。
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校内を歩く場面もある。自分の意思で女の子を探して声をかけるのがいいのだ。ゲームに深く入り込んでいるような気がして。
 マルチの物語は切ない。テーマをひと言で表すなら“心を持ったロボットと人間の共生”だろうか。

 ロボット=労働力という考えが一般的な社会において、カラッと気持ちのいい性格の浩之は、マルチをあくまで後輩の女の子として扱う。ストーリーを全部覚えていてもちゃんと泣いた。『ToHeart』を名作と思う気持ちに思い出補正はなかったみたいだ。

 オリジナル版の『ToHeart』が発売された1990年代後半と現代ではロボットに対する考え方も変わっている。いまはファミレスの猫ちゃんロボットを大事にする人も多いわけだし、もしシナリオが現代風に調整されていたら、マルチの笑顔をもっと見られたかもしれないなと思う。
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姉妹のような関係のセリオを紹介するとき、マルチは笑顔になる。こういう表情の見せ方がいい。

当時の空気を遺す意義

 本作のシナリオは以前のものをそのまま活かしているらしい。「ビデオでレンタルされている」のように時代を感じるセリフもある。

 声優は新キャストを採用しているものの、セリフは一言一句同じなのか、新旧のボイスをどちらも収録。個別に切り替えることもできて、違和感なくするする耳に入ってくる。それにしても、この時代に堀江由衣さん演じるマルチの「はわわわわっ!」が聞けるだなんて。羊宮妃那さんの「はい!」もかわいい。みんな違ってみんないい。
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このシーンを何度もループしたことをここに記しておく。
 いまの少年少女がこのゲームを遊んだら何を感じるのだろう。時代に合わせてシナリオを変えるやり方もあったと思うが、長く続くゲームにはその時代の空気を遺すという意義もある。過去の名曲をその時代の人気アーティストが歌い継ぐ、みたいな。

 『ToHeart』はいわゆる日常パートが長い。前半にあたる3月はほぼ助走の期間。ジェットコースターのような展開でプレイヤーを飽きさせないゲームとは違う。それでもきっと、胸を締め付けるような出会いが待っている。そう思った。
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なんてことのない日常シーンにこそ価値があるのかもしれない。
 詳細レビューをするほどやり込んではいないけど、どうにも筆が止まらなくて、ひとまず感想だけ書いた次第である。じつを言うと、当初は“ふつうのレビュー記事に見せかけて画像が全部マルチ”というネタを仕込もうと思っていた。

 だけど無理だった。あかりとレミィの破壊力をいなすには、いまの僕は実力不足だった。それでも、『ToHeart』というゲームの記事を書けて満足である。

 『ToHeart』に出会ったことで僕の人生は変わったから。

 マルチのシナリオで号泣してマルチのコスプレをするようになり、コスプレイヤーであることに興味を持たれて会社(当時はアスキー)に入社し、女装をしていたからペンネームが“ミス・ユースケ”になり、コスプレイベントで出会った人と結婚。『ToHeart』が新たに出ることを知ったとき、奥さんに伝えたら「よかったね」と笑ってくれた。概ねいい方向に進んでいる。

『ToHeart』商品概要

メーカー:アクアプラス
発売日:2025年6月26日発売予定
価格
パッケージ 通常版(Nintendo Switch版のみ):4378円[税込]
プレミアムエディション:各10780円[税込]
ダウンロード版:各3080円[税込]

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