
そして雅史が意外といい体をしていることに気づく。そういえば雅史はサッカー部だった。3Dグラフィックになったことで見える一面もある。




脳内にあった光景がそのまま出てきた
1997年に発売されたPC版を原作とし、1999年にはプレイステーション(PS)に移植され、PSPやPS2にも広がり、ラジオにテレビアニメ、コミックとその活躍は縦横無尽。言わば時代を作った恋愛アドベンチャーのひとつである。
時代が巡り、グラフィックは2Dイラストから3Dに刷新。日常の空気が直接描かれていると言えばいいだろうか。とにかく、画面から伝わる雰囲気が柔らかくなったように思う。

イベントシーンが1枚のイラストで描かれていた当時、僕らは女の子を見るだけじゃなくて、情景そのものを頭の中に描いていた。きっと細やかであろう彼女たちの仕草から、それこそ環境音や端々の空気にいたるまで。見えない部分は想像で補完すればいい。
新生『ToHeart』では、脳内にあった光景がそのまま出てきてしまった。
気まずいときは視線をそらす。照れたときは頬を赤らめる。悲しいときは肩を落とす。ふとしたときに視界に飛び込んでくる佇まい。以前は想像の中で微笑んでいたマルチたちがイメージ通りの姿でそこにいる。ものすごく高精細なグラフィックというわけではないのだけど、2Dよりも距離が近く感じる。次元の壁を越えるとはこのことか。
よかった。僕の想像は合っていた。答え合わせをしている気分だ。


会話の内容もふつうだ。朝ごはんの話に子どもの頃の思い出、貧乏性あるある、好きな映画などなど。当人たちからしたら代わり映えのない毎日なのかもしれないけど、それがとても心地いい。
僕は衝撃的な事件よりも心の機微にふれたかったんだなと改めて思う。

あかりとレミィを越えてマルチを目指す
ゲーム本編で描かれるのは3月上旬~4月下旬。1年生組(マルチ、松原葵、姫川琴音)が出てくるのは4月に入ってからなので、前半は放課後になったら“家に帰る”を選んでイベント類をすっ飛ばしてもいいのだけど、それでは味気ない。3月中はふつうに学園生活を満喫することに。


しばらく理由がわからなかったのだが、あるとき気づいた。きっかけは3D化によってみんな表情豊かになったことだと思う。役者が表情の演技をしているようで、そこから気持ちがより強く伝わってくる。
そういえば、ゲーム起動時のロゴ群の中にタムソフトの名前があった。かわいい3Dキャラクターを多数手がける開発会社で、その手腕は『ToHeart』でもいかんなく発揮されている模様。



あかりはいっしょに過ごす時間が長い。何気ない会話の中でいろいろな表情を見せてくれて、いつしか身近に感じるように。そんな女の子から、明らかに自分(主人公の藤田浩之)への好意が見え隠れしていたら。そんなことになったら!
ほのめかすような発言はいろいろあるものの、このとき決定的になった。

あかりはおとなしい女の子なので浩之に気づいてほしいわけではないだろうけど、ごめんな、僕は気づいてしまったんだ。「あー!」と声が出る。意識するなというほうが無理な話である。

陽気な日系ハーフの彼女は、序盤からぐいぐい距離を詰めてきて発言も意味深。そしてバイト先(ファミレス)の制服のサイズが合わない発育のよさ。そんな三冠王みたいな同級生がいたら好きになるに決まってるだろ!


それでもマルチへの気持ちに比べたらそんな葛藤はなきに等しい。メイドロボというキャラ属性や白のオーバーニーソックスを定着させた功績に敬意を表し、出会ってからはマルチのもとに通い詰める。

ロボット=労働力という考えが一般的な社会において、カラッと気持ちのいい性格の浩之は、マルチをあくまで後輩の女の子として扱う。ストーリーを全部覚えていてもちゃんと泣いた。『ToHeart』を名作と思う気持ちに思い出補正はなかったみたいだ。
オリジナル版の『ToHeart』が発売された1990年代後半と現代ではロボットに対する考え方も変わっている。いまはファミレスの猫ちゃんロボットを大事にする人も多いわけだし、もしシナリオが現代風に調整されていたら、マルチの笑顔をもっと見られたかもしれないなと思う。

当時の空気を遺す意義
声優は新キャストを採用しているものの、セリフは一言一句同じなのか、新旧のボイスをどちらも収録。個別に切り替えることもできて、違和感なくするする耳に入ってくる。それにしても、この時代に堀江由衣さん演じるマルチの「はわわわわっ!」が聞けるだなんて。羊宮妃那さんの「はい!」もかわいい。みんな違ってみんないい。

『ToHeart』はいわゆる日常パートが長い。前半にあたる3月はほぼ助走の期間。ジェットコースターのような展開でプレイヤーを飽きさせないゲームとは違う。それでもきっと、胸を締め付けるような出会いが待っている。そう思った。

だけど無理だった。あかりとレミィの破壊力をいなすには、いまの僕は実力不足だった。それでも、『ToHeart』というゲームの記事を書けて満足である。
『ToHeart』に出会ったことで僕の人生は変わったから。
マルチのシナリオで号泣してマルチのコスプレをするようになり、コスプレイヤーであることに興味を持たれて会社(当時はアスキー)に入社し、女装をしていたからペンネームが“ミス・ユースケ”になり、コスプレイベントで出会った人と結婚。『ToHeart』が新たに出ることを知ったとき、奥さんに伝えたら「よかったね」と笑ってくれた。概ねいい方向に進んでいる。
『ToHeart』商品概要
発売日:2025年6月26日発売予定
価格
パッケージ 通常版(Nintendo Switch版のみ):4378円[税込]
プレミアムエディション:各10780円[税込]
ダウンロード版:各3080円[税込]






















