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【FFT】「源氏は盗めません」『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』インタビュー。詠唱フルボイス化など"決定版"ならではのこだわりを訊く

by卵を守る雨宮

byおしょう

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【FFT】「源氏は盗めません」『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』インタビュー。詠唱フルボイス化など"決定版"ならではのこだわりを訊く
 『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズ初のシミュレーションRPGとして、1997年6月20日にプレイステーションで発売され、歴史に埋もれた真の英雄ラムザの戦いを描いた重厚な物語と、多彩なジョブとアビリティによる戦術性に富んだバトルが多くの人を魅了し、シミュレーションRPGとして初のミリオンセラーを記録した『ファイナルファンタジータクティクス』(以下、『FFT』)。この『FFT』が2025年9月30日(Steam版のみ10月1日)、オリジナル版のスタッフの手により、『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』として蘇る。

 オリジナル版を忠実に表現した“クラシック”と、現行のプラットフォームに合わせて各種要素が最適化された“エンハンスド”の2バージョンを収録。エンハンスドはフルボイス化とそれに伴うシナリオ調整を施しており、『FFT』の物語と戦いを異なるふたつのスタイルで楽しめるのが大きな特徴だ。

 そこで今回は、本作及びオリジナル版の開発メンバーでもある松野泰己氏、皆川裕史氏、前廣和豊氏、そしてプロデューサーの松澤祥一氏にインタビューを実施。『
FFT - イヴァリース クロニクルズ』の開発経緯とともに、ふたつのバージョンの特徴や魅力、新要素などを訊いた。いまだから話せる『FFT』開発秘話も語られているので、ファンの方はぜひ一読いただきたい。
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松野泰己まつのやすみ

オリジナル版『FFT』のディレクターと脚本を担当。ほかの『FFT』関連作品としては、『FFTアドバンス』のプロデュースや、『FFXIV』における“リターン・トゥ・イヴァリース”(『FFT』の舞台であるイヴァリースをモチーフとしたクロスオーバーコンテンツ)などの脚本を担当。本作ではフルボイス化などに合わせて、シナリオのリライトを行う。その他の代表作は『伝説のオウガバトル』、『タクティクスオウガ』など(文中は松野)。

前廣和豊まえひろかずとよ

オリジナル版『FFT』にゲームデザイナーとして参加。その他の代表作としては『FFTアドバンス』のプランナー、『FFXII』のコンバットディレクター、『FFXIV』のシナリオ、『FFXVI』のクリエイティブディレクター&原作・脚本などを担当。本作ではディレクターとしてゲーム全体の統括を行いつつ、作中のテキスト執筆やプランナー的役割なども担う(文中は前廣)。

皆川裕史みながわひろし

オリジナル版『FFT』のアートディレクター。『FF』シリーズでは『FFXII』のディレクターや、『FFXIV』、『FFXVI』のアートディレクターなどを担当。本作ではアートディレクターを担当しつつ、キャラクタードッターとして現場でのデータ作成も手がけている(文中は皆川)。

松澤祥一まつざわしょういち

本作のプロデューサー。対外交渉、部門間の調整、予算の獲得・管理など、ゲーム開発を実務の面で支える。一部データ入力など開発現場のヘルプも。『FFXIV』のプロダクションマネージャーも務めており、“リターン・トゥ・イヴァリース”当時も『FFXIV』に携わっていた(文中は松澤)。

“『FFT』の決定版”を制作することになった経緯

――まずはオリジナル版の『FFT』から28年、『FFT獅子戦争』(以下、『獅子戦争』)から18年経った2025年のこのタイミングに、『FFT』の決定版が制作されることになった経緯を教えてください。

前廣
 厳密に言うと企画自体はかなり以前から進んでおり、ことの発端は忘れもしない2018年5月。ニコニコ生放送の番組企画(※)でオリジナル版『FFT』の実況プレイを2週にわたって配信したことがきっかけです。
※:“ファイナルファンタジーXIV プレゼンツ「ファイナルファンタジータクティクス」実況プレイ”のこと。『FFXIV』の大型アップデートであるパッチ4.3にて、『FFT』や『FFXII』の舞台となるイヴァリースをモチーフにしたクロスオーバーコンテンツ“リターン・トゥ・イヴァリース”の第2弾、“封じられた聖塔 リドルアナ”が実装されるのを記念して配信された。
――7年前の番組がどういう形できっかけになったのでしょうか?

前廣
 番組は1週目で皆川と僕が、2週目は松野さんと僕、吉田直樹(『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター)が出演して、ゲストの声優さんといっしょに実況プレイをするという内容でした。

 そこでひさしぶりにオリジナル版をプレイして、「『FFT』は本当におもしろいな」と思ったのですが……昔のゲームだからこそ、プレイしながらUIなどのいろいろな部分にモヤモヤしたのです。そこで「原作がおもしろいからこそ、いまのプレイヤーが楽しめる状態にしてリリースしたい」という思いが芽生え、実際に動き始めることになりました。ですが、当時はちょうど
『FFXVI』の仕事がムチャクチャ忙しくなってきたタイミングでして……。

――時期的には丸かぶりですね……。

前廣
 ですので、僕も皆川も『FFXVI』を開発しながら、その裏でじっくりと時間をかけて『FFT』の解析を進めていました。そして、『FFXVI』の開発が終わったタイミングで本格的に本作を作り出して、ようやくいま発表できるタイミングになったわけです。

――となると、松野さんが“リターン・トゥ・イヴァリース”のシナリオを手掛けていたころから、本作の制作の相談を受けていた形でしょうか。

松野
 はい。ただ、私も当時は『タクティクスオウガ リボーン』の相談も受けていましたし、『FFXIV』では“リターン・トゥ・イヴァリース”も進行しているなど、いろいろありまして……。

皆川
 それぞれが忙しかったので、“細く長くプロジェクトが続いていた”というイメージですね。

――なるほど、少数精鋭でコツコツと作り上げて、ようやく今回の発表に至ったのですね。なお、本作はあくまで“オリジナル版『FFT』の決定版”であり、2007年にPSPで発売された『獅子戦争』をベースにはしていないとのことですが、その意図をお聞かせください。

前廣
 あの当時に、付加価値を追加したリメイク作として『獅子戦争』をリリースしたのは正しい判断だったと思いますが、今回は、「改めて令和の時代に『FFT』をもう1回作ってみる」というコンセプトからプロジェクトが始まっています。そこで“エンハンスド”バージョンにさまざまな要素を入れて、新しいプレイヤーに向けて『FFT』をリリースするとなったとき、やはりベースにするのは、リメイク作の『獅子戦争』ではなく、我々がそもそもオリジナルとして制作した『FFT』がいいのではないかと考えました。

――ということは、『獅子戦争』で追加されたジョブやキャラクターなどは、今回は登場しない形でしょうか。

前廣
 はい。あくまでオリジナル版準拠となります。
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いま改めて訊く、オリジナル版『FFT』の魅力

――『FFT - イヴァリース クロニクルズ』の詳細を訊く前に、まずはベースとなったオリジナル版『FFT』について、改めてお話をうかがえればと思います。松野さん、皆川さん、前廣さんそれぞれ、オリジナル版を手がけた開発者の視点から、『FFT』がどのような作品だったかをお聞かせください。

松野
 そうですね……『FFT』はまず、“『ファイナルファンタジー』のシミュレーションRPG”であることを大前提に作った作品です。私も『ファイナルファンタジー』シリーズのファンであり、当時とくに好きだったのが『FFIII』と『FFV』でした。ジョブシステムとアビリティシステムが大好きだったのです。そして、それらの要素はシミュレーションRPGやウォーゲームと非常に親和性が高いと感じていたので、ジョブシステムとアビリティシステムそのものズバリ持ってきてシミュレーションRPGとして作り上げたのが『FFT』になります。

 開発は『FFVII』が発売される前から行っており、すでに発売されていた『FFVI』が比較的キャラクターベースのゲームだったので、それとは異なる方向性として、「『FFIII』や『FFV』のファンの方たちが楽しく遊べること」を念頭に置いて作っていました。結果的にそういった部分が好評だったことが、販売本数にもよい影響を与えたのかなと思っています。

――たしかに、ジョブとアビリティを自由に組み合わせたバトル&キャラクター育成は、プレイヤーとして当時ワクワクしました。いっぽうで重厚なストーリーにも惹き込まれましたが、こちらはどのようなコンセプトで作られたのでしょうか?

松野
 当時はバブル経済が崩壊したことで日本経済が不景気になりかけていて、就職氷河期を迎えた時期でもありました。世界に目を向けると、少し前には湾岸戦争もあり「なかなか厳しい時代を迎えたな……」という感覚があったのを記憶しています。

 『FFT』の物語にもそんな世相が影響しており、主人公ラムザは貴族ながら、身分制度が存在する階層社会に対して「こんな世の中は違うんじゃないか?」と、階級闘争に挑んでいくわけです。そんな彼の物語に、“強者と弱者”、“支配する者とされる者”といった二階層の社会構造や、大人になったときに気づいた不条理などをベースとして入れ込んでいきました。

 ただ、そのいっぽうで『ファイナルファンタジー』である以上、あまり政治色を強くしたり、群像劇にクローズアップしたりするよりは、主人公を中心に物語が動いていった結果、ある意味で“ファンタジーとしての大団円”を迎えることを念頭において作りました。
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――ルカヴィという異形者=モンスターを敵として明確に設定されたのも、ファンタジーであることを意識したからでしょうか。

松野
 はい、そうです。そこは『タクティクスオウガ』とは異なる点でもあります。

――皆川さんにとって、オリジナルの『FFT』とはどのような作品でしょうか?

皆川
 当時、僕はちょうどスクウェア(当時)に入社したタイミングで、『スーパーマリオRPG』や『聖剣伝説』シリーズ、『バハムートラグーン』など、それぞれカラーのある作品を手掛けたアーティストの方々と初めていっしょに組んだ仕事が、この『FFT』でした。

 いまふり返っても、プレイステーションという初めてのプラットフォーム、そして初めての3Dと、なかなか難度が高いプロジェクトでした。当時のハードウェアの制約も大きく、そういった状況下で、みんなと必死になってバタバタしながら、なんとか作り上げることができたという印象です。
 
 正直、何年も経ってから振り返ってみると、作品としてデコボコしているところが当然あります。ただ結果オーライと言いますか、それが作品としての味……このゲーム特有のビジュアルイメージとして、プレイヤーの皆さんの印象に残るものになったのかなと思います。

――完成に至るまでには、かなり試行錯誤を重ねた形でしょうか?

皆川
 いえ、試行錯誤をする時間もなく決め打ちで作っていった、という感じです。たとえば当時、「60fpsでキャラクターを動かす」と決めたのも、隣で『トバルNo.1』のチームがキャラクターを動かしているのを見て、「やっぱり60fpsがいいな」と、その場で思ったからでした。でもいざ実装したらポリゴンを大幅に削る必要があり、どんどんマップがカクカクに……。すると今度はBG(背景グラフィック)のチームが「そのポリゴン数の制限で作るなら、こんなスタイルはどうですか」と提案してくれて、それを採用するといった形でした。ですから明確なビジョンや計画をもとに作ったというよりは、その都度その都度、どうするかを相談しながら作っていった感じです。
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――つぎに、前廣さんにとってオリジナル版『FFT』がどのような作品かをお聞かせください。

前廣
 オリジナル版を作っていたときは、あこがれのスクウェアに入ったばかりの完全な新人状態でした。そして、当時第4開発と呼ばれていた松野チームに合流したのですが……当時は自分の仕事をこなすだけで精一杯で、『FFT』を振り返ることすらできないほどでした。

 ですから今回『FFT - イヴァリース クロニクルズ』を作るにあたり、改めて自分で「『FFT』とはなんだろう?」と分析したのですが、そのときに思ったのが、『FFT』はシナリオも、ゲームデザインも、崎元仁さん(※)の楽曲も、ひとつひとつの要素がすごく尖りまくっている。そしてすごく尖っているのに、『ファイナルファンタジー』という枠の中でうまく昇華されて、ひとつの作品としてパッケージ化されている。それこそが一番の魅力だと感じました。そしてそれが『FFT』という作品の唯一無二性であり、プレイした人たちの心に残っている理由なのではないかと思います。
※:ベイシスケイプ代表取締役社長。『FFT』のコンポーザーとして作中の楽曲を手掛ける。『伝説のオウガバトル』、『タクティクスオウガ』など、数多くの名作シミュレーションRPGのゲーム音楽を担当。
――たしかに、思い入れある作品として『FFT』を挙げるゲームファンは多いです。

前廣
 あと改めて本作を制作して感じたのは、BGMのスゴさです。崎元さんが作るBGMは本当に脳に刻まれていて、聴くだけでその曲が流れたシーンを全部思い出せる。「音楽の力ってすごいな……」と改めて気づかされました。

――ということは、本作ではBGMに関してもオリジナル版の楽曲を使用しているのでしょうか?

前廣
 はい。下手にいじることなく、基本はオリジナル版の楽曲を使用しています。理由は先ほどお話しした通り、プレイヤーにとって曲が一番記憶に刻まれているモノだからです。僕もゲーマーなので古いゲームをプレイすることがあるのですが、プレイするときの曲を変えてしまうと、その瞬間に違うものになってしまう。ですので“決定版”として発売当時の雰囲気を再現するためにも、BGMはそのまま使っています。

――プロデューサーの松澤さんにとっての『FFT』とは、どのような作品でしょうか。

松澤
 私は3人と異なり、お仕事として『FFT』関連作に関われたのは、『FFXIV』の“リターン・トゥ・イヴァリース”のみですね。オリジナル版『FFT』が発売されたときは、まだゲーム業界に入っておらず、ひとりのプレイヤーでした。いまだに覚えているのですが、『FFT』が発売された1997年6月20日は、台風(※)の影響で大雨だったんです。
※:当時は台風7号により東京で最大瞬間風速29.5メートルを記録。渋谷・センター街の入り口にあるアーチ型の看板の柱が折れ、看板が落下する事故などが発生した。
松野
 そうそう、あの日は台風が直撃して、みんなで「これ、初日は売れないかも……」と話していた記憶があります。

松澤
 私はその台風の中、傘をさしてワクワクしながらコンビニエンスストアに行って、デジキューブで見て予約した『FFT』を購入しました。その発売日の記憶がいまだに刻まれているほど、『FFT』は私にとって印象深く、インパクトある作品です。私がいまこの会社にいる理由の何割かを占めているほど、自分のなかでウェイトが大きい作品でもあります。

――では本作のプロデュースを手掛けられることになり、かなり感慨深かったのでは?

松澤
 じつは、前廣が『FFT』の実況プレイ後に、「いまのコンソールで『FFT』を触れられるようにしたい」と言っていたと聞きつけて、「面倒くさいことは自分がすべてやるので、作りましょう!」と提案したのが自分になります。

――ということは、本作の実現に至るまでのきっかけは、松澤さんが作られたのですね。

松澤
 「いま『FFT』を作るには、もうこのチャンスしかない!」と考えて動いた結果、実現させることができたのがうれしいですね。
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“クラシック”と“エンハンスド”の違いと、タイトルの『クロニクルズ』に込められた意味

――『FFT』の決定版として作られた本作のタイトルに『イヴァリース クロニクルズ』と付けた理由をお聞かせください。

松澤
 もともと副題を付けることを考えていて、松野さんからは“イヴァリース戦記”を始め、いくつか案をいただきました。その中で、やはり物語の舞台である“イヴァリース”ははずせないキーワードだなと。そして、グローバルで共通のタイトル名にしたかったのもあり、最終的に“クロニクルズ”となりました。

――ちなみに年代記の意味も持つ“クロニクルズ”ということは、その他の“イヴァリースアライアンス”作品の要素も、本作に取り入れられているのでしょうか?

松澤
 いえ、そういう意図はなく、アライアンス名の元にもなったイヴァリースという国が最初に描かれた作品が『FFT』でしたので、シンプルにイヴィリース国における年代記という意味で使っています。

――あくまでストーリーも、オリジナル版『FFT』準拠なのですね。なお本作では“クラシック”と“エンハンスド”というふたつのバージョンをプレイできますが、なかでも現在のプレイヤーに向けて“エンハンスド”を作るにあたり、一番力を入れたことを教えてください。

前廣
 フルボイス化や、それに対してのシナリオの調整、現行のプラットフォームに合わせたUIへの刷新など、いろいろな要素を“エンハンスド”に盛り込みましたが、正直“どれが一番”というものはありません。どちらかと言うと、全部の新要素を綺麗なバランスで収めることにより、“いま『FFT』をプレイするときの最適解”を目指しました。

――いっぽうで“クラシック”は、どこまで原作のままなのでしょうか?

前廣
 基本的にオリジナル版のままです。『獅子戦争』の際はゲームバランスに一部調整が入りましたが、それも元に戻してオリジナル基準で作っています。そのうえで、現行のプラットフォームへの対応やオートセーブ機能など、ないと困るであろう機能を付けたり、オリジナル版に残っていたあからさまなバグを取り除いたりして、快適にプレイできるようにしています。

 また『獅子戦争』では、当時のデータ保全に問題があったり、オリジナル版の開発スタッフが別業務のために関わっていなかったこともあって、フレームレートやVFX、SEなどで不安定な挙動が見受けられました。そこで本作の制作にあたって、それらはオリジナル基準で再調整し、すべて解消してあります。とくにSEについては、オリジナル版を復元するところからサウンドチームに協力してもらいました。

松野
 また、当時は画面が4:3でしたが、今回はワイド画面に対応しています。

――“クラシック”も画面比率は16:9になっているのですね。

前廣
 いえ、厳密には16:9ではありません。

皆川
 4:3から少しだけ画面を広げつつ、画面の雰囲気が当時のままになるようにしています。
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“クラシック”バージョンの画面。画面の左右を見ると、画面比率が16:9ではないのがわかる。
前廣
 皆川とも話し合って、「ブラウン管で見たときの画を、いま表現するとしたら……」という画作りになっています。

皆川
 細かいことを言いますと、当時のプレイステーションで我々が使っていた画面では、ドットが正方形ではなく、少しだけ横長でした。ですから単純に画面を引き伸ばしただけですと、画面が眠くなるというか、プレイステーションが持っていたドット感が消えてしまうのです。そこはプログラマーと相談して、描画に特殊な調整を加え、ピクセルが当時と同じような横長になるようにしました。

前廣
 当時ブラウン管テレビでプレイしたときのような、画面のつぶれ具合がそのまま味わえるかと思います。

――つまり、ブラウン管でプレイしている感覚を再現するために、“クラシック”もかなり改良を施したバージョンになっている、と。

前廣
 はい。単にオリジナル版をそのまま収録したわけではありません。

松野
 ちなみに昔のブラウン管は操作線の関係で、とくにファミコンなどの画面は赤色が若干滲むんです。ですからその滲みを逆に利用して絵を作るドッターも業界にはたくさんいました。

皆川
 ただ、さすがに今回はそこまでは再現していません。開発中はブラウン管の操作線、微妙なゆがみも再現しようという案もありましたが、さすがに往年のゲーマーしか喜ばないだろう、となって止めました。

――当時ブラウン管でプレイした自分としては、どのようなグラフィックになっているか楽しみです。

前廣
 “クラシック”は、『獅子戦争』をプレイした時の印象とも、また違うグラフィックになっていると思います。

フルボイスにより物語はさらにドラマチックに

――“エンハンスド”バージョンでは、フルボイス対応によりシナリオの調整もされているとのことですが、どのくらい変更されているのでしょうか。

松野
 “エンハンスド”の制作は、あくまでもオリジナルのPS版のよさをストレートに表現しつつ、UIなどに力を入れてアップデートする、そのため“余計なものを足さない”ことが前提でした。ですから、サブイベントや新キャラクターの追加などは、いっさい行っていません。
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――では、具体的に調整を加えたのはどういった部分になるでしょうか。

松野
 オリジナル版開発当時は作業期間の都合上、どうしてもカットしなければならない部分がありました。たとえばオリジナル版では、アグリアスやシドが仲間になったあと、ほとんど喋りませんでしたが、今回はバトル中の会話などを追加しています。ムスタディオなども、仲間になったあと、かなり喋るようになっています。

――それはバトルの新たな楽しみになりそうです。

松野
 またオリジナル版では使用できる文字数が少なかったのですが、今回はふんだんに使えますし、何よりもキャラクターが喋るので、その喋るセリフに合わせて、脚本を書き直す必要がありました。そういう意味では、シナリオは全面書き直しを行っています。とくに声優陣のキャスティングは、開発側から希望を出してお願いをしたので、演じる声優さんに合わせて当て書きもしています。

 とくに主人公ラムザを演じる立花慎之介さんに対しては、「立花さんだったこう喋るだろう」ということを前提にして、かなりセリフを書き直しました。また、ガフガリオンも高木渉さんが演じられることを前提に、当て書きをしています。

――ラムザのボイスは、『ディシディア FF』からすでに立花さんが担当されていますからね。

松野
 立花さんは麻雀仲間ですし、かつてスクウェアでデバッグを担当されていた経歴もあるので、もう身内みたいな方ですね(笑)。かねてからラムザに対する思い入れを聞いたりもしていたので、そこの部分をかなりセリフに反映させ、いかに立花さんがラムザを演じやすいようにするかを念頭に書き直ししています。

 ほかにも、声優さんの中には当時『FFT』をプレイしていた人がけっこういて、演じるキャラクターへの解像度が高い方も多く、収録現場で声優さんから逆に「これはこう喋ったほうがいいのでは?」などと提案されて、その場で書き直しを行うこともありました。そういう意味では、僕たちだけではなく、声優さんたちの想いも入ったセリフになっているかと思います。
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――ほかにも発表された声優陣については、シドを大塚明夫さんが演じるなど、豪華キャストに驚きました。
松野
 キャスティングの際、とくにシドの大塚明夫さんは絶対にはずしてほしくないと念を押しました(笑)。フルボイスにするなら大塚さんと決めていましたので(笑)。

――“リターン・トゥ・イヴァリース”でアグリアスを演じられた佐藤利奈さんも、引き続きアグリアスを演じられています。

松野
 そこは『FFXIV』からの延長線上でお願いをしています。あとは最上嗣生さんも、『FFT』の実況プレイ配信時にゲスト出演していただいた際、バリンテン大公を演じていただいたことから、今回もお願いしました。最上さんも『FFT』をプレイされているので、キャラクターに対する解像度が非常に高かったですね。

前廣
 本当にイメージ通りになったかと思います。

松野
 いや、イメージ以上に仕上がっていると思いますよ(笑)。

――となると、アルガスのあのセリフ(※)が楽しみですね。
※:Chapter1で騎士見習いのアルガスが、骸旅団所属の剣士ミルウーダに対して言い放ったパワーワード。未プレイの人は衝撃を受けてほしいので、詳細はあえて伏せさせていただく。本作におけるアルガスの声は吉野裕行さんが担当。
松野
 あのセリフは何パターンも録りましたね。担当された吉野裕行さんには、静かに語る喋りかたなど、いろいろ演じていただきました。最終的に収録されたものは、キャラクターと声が非常に噛み合ったものになったと思います。
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左から、シドルファス・オルランドゥ(雷神シド)、アグリアス・オークス、アルガス・サダルファス。
――ほかにもボイス収録で印象的だったエピソードはありますか?

松野
 本当にすべてが印象的でした。我々開発者がゲームを作るときは、当初頭に描いていたものを、メモリや作業工数などの都合上、制作過程でどんどんカットして作っていきます。でもボイスに関しては声優さんが演じることで、僕たちが書いたシナリオを、100から150へ、200へと上げてくれる。そういう意味では本当にプラスしかない作業ですし、今回も非常にいい現場だったと思います。

 そのなかでも印象深かったのは、前野智昭さんの収録でしたね。前野さんには『タクティクスオウガ リボーン』で主人公のデニムを演じていただいたのですが、そのときから「『FFT』がリメイクされることがあったら参加させてください」と言われていて、今回オーランをお願いしました。
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オーラン・デュライ。シドの養子でもある。
――“デュライ白書”の執筆者であるオーランですね! かなり重要なキャラクターです。

松野
 とはいえ『タクティクスオウガ リボーン』と比較すると圧倒的にセリフ数が少なく、しかも今回は詠唱セリフをキャラクターごとに全部収録しているのですが、オーランは仲間にならないゆえに、詠唱セリフも少ないんです。そうしたら、詠唱セリフの収録時に、前野さんがほかのジョブの詠唱文をスラスラと喋りはじめて、「もっとやらせてくれ」と(笑)。そのように前野さんをはじめ、『FFT』に思い入れのある声優さんが本当に多かったので、収録は本当に楽しかったですね。

――いま、さらっとおっしゃっていましたが、呪文と技の詠唱セリフも、フルボイスに対応しているのですね!

前廣
 詠唱セリフに関しては、数が膨大でしたので、全キャラ全パターンを録るかどうか、正直迷ったところでした。ただ、『FFT』を象徴する要素でもあるので、今回ボイスを入れる方向に舵を切って収録したのですが……これがもう想像以上に素晴らしくて! 「ヤァ!」という通常のバトルボイスが入るところに、たまに詠唱セリフが流れると、バトルがすごく締まるんです。入れた甲斐がありました。

――『FFXIV』の“リターン・トゥ・イヴァリース”でも、アグリアスやシドの詠唱ボイスにシビれたので、今回もぜひ入れてほしいと思っていました。ファンとしてはうれしいです。

前廣
 ちなみに詠唱ゼリフに関しては、収録にあたり松野さんがルールを作っており、たとえばトードの詠唱の歌いかたは各声優さんにまかせています。(シド役の)大塚さんも「カ~エ~ル~の~ き~も~ち~!」と歌います。

――おぉッ!! それは、ぜひ聴いてみたいです!

松野
 収録の話で思い出したのですが、皆さんが魔法の“プロテス”を発音する際、アクセントを“プ”、“ロ”、“テ”のどこに持っていきますか? 今回収録にあたり、開発者はもちろん声優の皆さんにうかがったのですが、見事に認識が違っていたんです。

 なので、坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親)など、いろいろな人たちにメールして聞いたら、坂口さんは“ロ”に、渋谷さん(渋谷員子氏。『FF』シリーズのドット絵などを手掛けるCGデザイナー)は“プ”にアクセント、そして時田さん(時田貴司氏。『半熟英雄』シリーズや『ライブアライブ』のプロデューサー)は最初の“プ”だけが低い平板な発音と、みんなバラバラで(笑)。

 それなら『FF』シリーズの過去作の映像を調べようとなったのですが、プロテスを発音している場面が見当たらず……。何気に『FF』公式のイントネーションが存在しないことが判明しました(笑)。
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前廣
 「やぁ!」とか、「食らえっ!」はあるのですが、魔法名はあまり叫ばないんですよ。

松野
 前例に従うつもりが、前例がなくてどうしようか悩んだ結果、“プロテス”については結局我々『FFT』開発陣の中で多数派だった“平板な発音”をチョイスしました。同様にすべての魔法名のイントネーションは我々が決めました。

――詠唱以外にも、バトル中の会話が追加されたということですが、ストーリーに沿った掛け合いなのでしょうか。それとも出撃するキャラクターの組み合せで発生するものもあるのでしょうか。

松野
 キャラクターの組み合せで発生するものもあります。バトルの掛け合いは、出撃するキャラクターに誰を選ぶかで変わります。敵はほぼ固定ですから、“その敵に合わせて誰を出撃させるとどう喋るか”のか、というのが見どころですね。

――組み合わせをいろいろ試したりすると、思いがけないセリフが聞けたり?

松野
 はい。物語的に大きく変えているわけではないですが、いっぽうでオリジナル版ではほぼ喋っていないエルムドア侯爵などは、今回かなり喋っています(声は小西克幸さん)。いろいろな相手に対して台詞がありますので、楽しみにしてください。あと物語後半では敵のヴォルマルフも喋りますので、いろいろなキャラクターをアタックチームに入れてみてください。

あの神動画も観られる! ブレイブストーリーの新要素

――ブレイブストーリーなども機能が強化されるとのことですが、こちらの詳細をお聞かせください。

前廣
 基本的には“エンハンスド”のUI全般を刷新したときに、オリジナル版にあったものを使いやすく改良しています。その中でブレイブストーリーについても、ベースの内容はオリジナル版準拠ですが、せっかく『獅子戦争』で神風動画(※)さんに作っていただいたムービーがありますので、物語を追憶、回想するためのコンテンツとして収録し、観られるようにしました。もちろん、全編フルHDの解像度で、しかもボイス入りで楽しめます。
※:アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのオープニングや、GLAYの『BRIGHTEN UP』のMV、劇場アニメ『SAND LAND』などを手がけるアニメ制作スタジオ。
――おおっ、それは楽しみです!

松野
 今回、オリジナル版準拠ということだったのですが、神風動画さんのムービーがすごくよい出来で、個人的にも好きだったので、ぜひとも入れられないかと相談していました。ただ、あのムービーにセリフを当てようとすると、どうしても情報量が本来のイベントシーンより少なくなってしまうのです。ですから扱う場所に悩んだ結果、ブレイブストーリーの中でオマケとして観られる形にしました。

――なるほど。ムービーの尺に対し、イベントのセリフをすべて入れるのが難しかったのですね。

松野
 そうですね、ムービー専用のセリフを新たに書き下ろした形になりました。同じイベントでもムービーでは印象が異なるかもしれませんね。とにかく尺合わせがたいへんでしたが、前廣さんが「喋るタイミングはここですよ」という印を事前にムービーに入れてくれまして、収録当日はそれを目安に進めました。その意味では、彼のこだわりが詰まったムービーになっていると思います。
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カジュアルからタクティカルまで、3つの難度を用意

――“クラシック”バージョンは基本的にオリジナル版に忠実とのことですが、自軍の最大ユニット数やゲームバランスなども当時のままでしょうか。

前廣
 はい、そうです。『獅子戦争』の際は、調整した部分が何カ所かありましたが、“クラシック”と“エンハンスド”のふたつのバージョンを入れる意味としても、“クラシック”のベースはオリジナル版に合わせています。

――となると、“エンハンスド”ではどのくらい調整を加えているのでしょうか?

前廣
 ゲームバランス的なところでは、“エンハンスド”も基本はオリジナル基準です。今回は、いわば“クラシック”がある意味リマスタータイプのバージョンで、いっぽうの“エンハンスド”が、リマスターでもリメイクでもない、「令和の時代にいまの世代のプレイヤーに向けて、もう1回我々が『FFT』をイチから作るとしたら」という位置づけのバージョンになります。そのうえで、いまの世代のプレイヤーが一番遊びやすい形は……と考えて、ゲームバランスを設定しています。

 たとえば、オリジナル版では部隊のユニットの最大数が限られていましたが、“エンハンスド”ではより遊びやすいように最大50人に増えていますね。

 難易度についても、シミュレーションRPGはハードルが高い部分があるので、物語を純粋に楽しみたい方向けの“カジュアル”、オリジナル版基準の難度となる“スタンダード”、上級者向けの“タクティカル”の3つのモードを用意しており、それぞれの難度をかなり変えています。
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――となると、“タクティカル”はオリジナル版よりも難しい?

前廣
 かなり難しいです(笑)。例えば、いくつかのアビリティに関しては、“タクティカル”のみリミッターが掛かります。“算術ホーリー連打”(※)ではクリアできません。そのうえで、持っているジョブやアビリティでいかに戦うかを考える必要があり、まさにタクティカルRPGの醍醐味が味わえる難度になっていると思います。
※:MPとCT(チャージタイム)を必要とせずに魔法を発動できる、算術士の“算術”と、魔法“ホーリー”を組み合わせたテクニック。味方ユニットに聖属性を吸収する装備をさせることで、非常に簡単かつ強力な攻撃手段となる。
――「レベルを上げてこの戦術で行けば大丈夫」といったことには……。

前廣
 うちのスタッフのこだわりもあり、簡単には攻略できないようになっていますね。逆に“カジュアル”の場合は、力押しができる難度というか、意識的にレベル上げをしなくてもストーリーが楽しめるようなバランスになっています。

――ちなみに、難易度はゲーム中に切り替えられますか?

前廣
 できます。トップ画面で選択できるほか、ゲーム中にいつでも切り替えられるようになっています。

――ちなみに『獅子戦争』で難度調整が行われたウィーグラフ戦は、今回も調整が入っているのでしょうか。

前廣
 “クラシック”は先ほどお話ししたように、オリジナル版の難度に戻しています。“エンハンスド”のほうは難易度ごとに調整を入れているので、ウィーグラフもそれぞれ全然違う強さになっています。たぶん“タクティカル”のウィーグラフは、わりと涙目になりますよ(笑)。

――オリジナル版でも自分は涙目だったのですが……。

前廣
 “カジュアル”だと、『獅子戦争』よりもやさしい難度になっていますし、“タクティカル”は「これ本当に大丈夫なの?」というくらいに強いです(笑)。

――オススメはどの難易度になりますか?

前廣
 “スタンダード”ですね。『FFT』をプレイしたことがない人にも、オリジナル版のファンだった人にも、いい具合のバランスになるように作っています。たとえば、チャージ+7など、オリジナル版では正直使いものにならなかったアビリティも使えるようにしていますし、多くの箇所の細かい部分にも手を入れています。

 またクラウドが仲間になるタイミングも、オリジナル版は遅くてなかなか使い勝手が悪かったと思いますが、今回は『獅子戦争』と同じく早めに仲間になるようにして、育成しやすくしています。ゲームバランス自体をかなり調整しているので、そういう意味でも“スタンダード”が一番オススメになります。

――オリジナル版をやり込んだ方なら、最初から“タクティカル”を選ぶ人もいそうです。

前廣
 もちろん“タクティカル”は猛者の人にオススメの難度なので、腕に自信あるプレイヤーはぜひ挑戦してもらいたいですね。
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――なお、ゲーム内容の調整に関連して、ファミ通としてはこれを聞かなければなりません。今回、源氏シリーズは盗めますか?(※)
※:かつて攻略本『ファイナルファンタジータクティクス大全』にて、盗めないはずの源氏シリーズ装備品が低確率で盗めると書いてあったが、実際は盗むことはできなかった。
前廣
 盗めないです!

――それは“エンハンスド”でも?

前廣
 “エンハンスド”でも盗めないです! 小数点以下はないです!

――ちなみに『獅子戦争』では、追加キャラを倒して入手することや、共同戦線で入手することができましたが……存在自体がない形でしょうか。

前廣
 そうですね。基本オリジナル版が前提なので、“クラシック”も“エンハンスド”も源氏シリーズに関しては同様です。

――「ついに盗めるようになった!」と、書きたかったところですが(苦笑)。

前廣
 「“エンハンスド”ならありかな?」と一瞬思ったのですが、物語を楽しみながらキャラクターを育てていくシミュレーションRPGの場合、成功確率数%の盗みをくり返すことは、その瞬間だけすごくメタな行為を延々繰り返すことになってしまいます。バトルの過程で手に入れたり、壊したりというのは全然ありだと思うのですが、それひとつの目的のためだけに特定のアクションを何回もくり返すのは、演出する側として耐えられなかったのでやめました。

オリジナルのビジュアルを活かしつつ高解像度化を追求したグラフィック

――グラフィックについてもさらにうかがいます。『FFT』はオリジナル時点ですでにUIやフィールドマップの完成度が非常に高い作品でしたが、“エンハンスド”でとくに力を入れた部分はありますか?

皆川
 冒頭の話とも多少かぶりますが、オリジナル版はさまざまな人と協力して作り上げたものだったので、今回そのデータはなるべく活かしたいという思いがベースにありました。そのうえで、「なるべく個人の好き嫌いが影響せず、多くの人が納得する高解像度化をするには?」と考え、その検証を細く長く続けることで、現在の形になりました。

――たしかに高解像度化の方向性によっては、すごくエッジの効いた画になったり、マイルドなタッチになったりと、差がどうしても出ますね。

皆川
 そうなんです。そこで今回参考にしたのが、『獅子戦争』の後で2011年に発売された、スマートフォン版の『FFT』でした。あの作品もハードウェアに合わせた高解像度化が施されていたのですが、小さい画面で遊ぶことが前提になっており、家庭用ゲーム機の大きな画面に移して遊べるようにしたときに、マップのルックと、キャラクターのルックの整合性のなじみがあまりよくなかったのです。

 そこで前廣とも「今回は“ドットゲームのニュアンス”を残したい」と話していたので、当時のドッターが手で1個1個作ったような息づかいを感じられるような雰囲気を残しつつ高解像度化するために、かなり試行錯誤を重ねました。
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―― “クラシック”も“エンハンスド”も、ドット絵らしさを活かすグラフィックコンセプトは共通しているのでしょうか。

皆川
 そこは共通しています。僕らは開発中、録画したオリジナル版と比較しながら制作しており、「画面を重ね合わせるとほぼ同じになるけれど、ピクセルだけが高解像度になって見える」ように、かなり注意して調整しました。結果、「ドット特有のジャギジャギ感はないけれど、画面を引いて見るとドット絵に見える」ルックにすることには成功したかと思います。

前廣
 実際に画面を見てもらえればわかると思いますが、一般的なリマスターやリメイク作品にはない、“古くもなく、新しいスタイルとして尖ってもいない、柔らかみがあるビジュアル”が構築できたかなと。

――“エンハンスド”はUIについても、ユニットの順番を表すアイコンが追加されたりと、かなり変わった印象を受けました。

皆川
 UIは、『FFXVI』のUIのリードを担当していたデザイナーが『FFT』チームに合流して作っています。操作感も含めて、前廣とかなり細かいやり取りを行いながら決めていきました。ですから当時の自分のテイストというよりは、「新たなデザイナーといっしょに改めて『FFT』のUIを作るなら?」という方向で作りました。
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――本作はさまざまな機種で発売されるのもひとつのポイントですが、とくにSteamではキーボード&マウス操作にも対応しているのでしょうか。

前廣
 はい。“クラシック”ではキーボード操作、“エンハンスド“は双方に対応しています。

皆川
 ただ、キーボード&マウス操作はなかなか苦戦しましたね。やはり、もともとコントローラー操作メインで作られたインターフェースでしたので、最初からマウス、キーボード、コントローラーのすべてで操作できる設計をしているゲームと比べると、どうしてもUIの後乗せ感が強くなってしまう。そこは、かなり調整をしながら作っていきました。

皆川
 PCに関しては「シミュレーションRPGならマウス&キーボードで遊びたい」という人もいると思いますので、そこはがんばって対応しました。

――ほかに、複数機種に対応することで苦労したことは?

皆川
 文字の大きさですね。PCモニターとNintendo Switchの携帯モードでは画面のサイズがまったく違うので、ひとつの画面にいろいろな情報出したい、と思って気を抜くと、すぐに文字が小さくなってしまうんです(苦笑)。ブレイブストーリーで現在の世界情勢をチェックする画面などは、とくにそうですね。
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――ブレイブストーリーにはそんな新要素もあるのですね!

皆川
 はい。そういった画面では情報量を詰め込んだほうが俯瞰してわかりやすいのですが、テレビ画面ではなくNintendo Switchの携帯モードで見てみると……。

前廣
 「全然見えない!」となって、微調整を繰り返しました。

吉田明彦氏描き下ろしビジュアルや特別装丁コレクターズBOXの見どころ

――本作は吉田明彦さん(※)が新たに描き下ろしたパッケージビジュアルも印象的です。こちらはどのようなコンセプトを伝えて依頼したのでしょうか。
※:デザイナー。CyDesignation取締役。オリジナル版『FFT』のほか、『伝説のオウガバトル』、『タクティクスオウガ』、『FFXII』、『ニーア オートマタ』などでもキャラクターデザインを担当している。
前廣
 オリジナル版『FFT』が発売されて以降、『獅子戦争』や、“リターン・トゥ・イヴァリース”などで、吉田さんにはかなりの数の『FFT』のイラストを描いていただきました。ですのでいままでのイラストとの差別化を考えながらやり取りを重ねて制作しています。

 まずは物語の本質というところで、ラムザとディリータのふたりの英雄は外せませんから、彼らを中央に配置。そしてふたりの心の支えとなるキャラクターとして、アルマとオヴェリアを入れました。そして、4人の思惑、目的がそれぞれ違うことを、4人全員の視線が違うことで表しています。
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――つぎに、さまざまなグッズがセットとなった『特別装丁コレクターズBOX』の見どころを教えてください。

松澤
 全部見どころですよ! そのなかでもあえて挙げるなら、皆川にも監修してもらった限定フィギュア、“ラムザ・ベオルブ<王立士官アカデミーモデル>”でしょうか。たぶん歴代のフィギュアの中でも、とくにイラストイメージに近い出来になっていると思います。あとはBOXアートに関しても、吉田明彦さんの描き下ろしアートを使わせていただきました。
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――作中のキーアイテムでもある、ゾディアックストーンのアクリルマグネットもありますね。

松澤
 ゾディアックストーンは星座マークを表面に入れると表面の凹凸感がなくなってしまうので、内部にプリントしてもらうなど細かい部分にこだわって制作しています。

――なお、デラックスエディションに含まれるインゲームアイテム“ジョブリング”はどのようなものでしょうか。

松澤
 ジョブリングは装備アクセサリーで、身に付けるとジョブポイントが貯まりやすくなります。がんばって多くのジョブを育成したいという人にこそ、必須なアイテムだと思います。

松野
 これは高難度の“タクティカル”でも使える?

松澤
 もちろん使えます。もうデラックスエディション一択ですね!

前廣
 ジョブポイントを稼ぐときだけ難度を変更する、といったことをしなくてすむよう、難度に関係なくポイントを稼ぐことができます。

ひとりでの多くのプレイヤーにイヴァリースを堪能してほしい

――最後に『FFT』ファンと、これから『FFT』を初めてプレイする人に向けて、メッセージをお願いします。

松澤
 『FFT』未プレイの人には、ぜひ僕が初めて『FFT』をプレイしたときと同じ感動を味わっていただきたいなと思います。ひとりでも多くの人に触っていただけるとありがたいですね。いっぽうで当時プレイしていた人はもう30年近く経ちますし、意外に細かい部分を忘れている方も多いと思います。今回、松野さんがシナリオをリライトし、ボイスが入ることで、本当に没入感ある形に仕上がっていますので、ぜひもう一度自分自身の手でプレイして、あの時の感動を思い出してください。

前廣
 オリジナル版準拠で、当時の雰囲気そのままに遊べる“クラシック”、いまプレイしても新しいゲームとして遜色ない体験ができる“エンハンスド”のふたつを用意しましたので、オリジナルのファンの方も、今回初めて触れる方も、ふたつのバージョンをプレイして、イヴァリースという世界を十分に堪能していただければ、と思います。

皆川
 自分がいままで作ってきたゲームの中でも非常に思い出深いプロジェクトを、ふたたび新たな形で皆さんに届けることができて、すごく感慨深いです。いまこのタイトルを世に出したらどんな反応があるのか、ということも含めて楽しみにしています。“クラシック”と“エンハンスド”というふたつのバージョンを比べてプレイする遊びかたもできますし、初めてプレイされる方にもとても楽しめる内容に仕上がっていますので、ぜひプレイしていただきたいなと思います。

松野
 言いたいことはみんなに言われてしまったので、「みんなと同じです」としか言えないのですが……(笑)。強いて言うなら『FFT』は30年前、坂口さんに「とにかく売れなきゃいけないんだ」、「売って、(シミュレーションRPGの)新しい市場を作ろう」と言われたことから始まっているゲームです。

 今回もそのコンセプトは同じで、4言語、ワールドワイド展開をしていくことを考えたときに、当時の売上本数はもちろん、もっと多くの方にプレイしていただきたいですし、『FFT』はそれが実現できるタイトルだと信じています。『タクティクスオウガ リボーン』も歴代バージョンの中でもっとも多くの人にプレイいただいていますし、タクティカルRPGは、まだまだ市場として可能性があると考えています。

 ベースは古いゲームではありますが、いまプレイしても新しい気持ちで遊べると思いますので、ぜひ手に取っていただけたら幸いです。
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