Binary Haze Interactiveから2025年1月23日に発売されるNintendo Switch、プレイステーション5/4、Xbox Series X|S、PC(Steam)用ソフト『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist 』(エンダーマグノリア: ブルームインザミスト)。 同作は、全世界累計販売本数150万本を記録した『ENDER LILIES: Quietus of the Knights 』(エンダーリリーズ: クワイタス オブ ザ ナイツ)の続編となる探索型2DアクションRPGだ。人とホムンクルスの救済を目指し、魔法と機械文明が発展した魔法大国を旅する物語が描かれる。 そんな 『エンダーマグノリア』 の発売を記念して、Binary Haze Interactiveの代表・小林宏至氏にインタビューを実施。2025年に設立5周年を迎えるBinary Haze Interactiveのこれまでの活動を振り返っていただきつつ、 『エンダーマグノリア』 の開発秘話や魅力、さらには今後の同社のビジョンについてなどをお聞きした(聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦)。 小林宏至氏(こばやし ひろゆき)
アドグローブ代表取締役CEO兼Binary Haze Interactive 代表。
「自分のゲームが作りたい」との思いから紆余曲折を経てBinary Haze Interactiveを設立 ――まずは、Binary Haze Interactiveのことを伺う前に、小林さんの経歴をお聞かせいただけますか?
小林
以前ファミ通さんのインタビューでも少しだけ触れさせていただきましたが、改めてご説明しますね。僕は、24~25歳のころからネバーランドカンパニー(※)という開発会社で、2Dのコンセプトアーティストとして活動していました。プレイステーション2や、PSPのローンチのタイミングでしたので、ふたつのハードウェアのソフトの開発に携わっていましたね。 ただ、当時は開発費がかなり高騰していて、ソフトもプレイステーションのころほどは売れなかった時代でしたので、ネバーランドカンパニーはもちろん、周りの開発会社さんもきびしい経営状況でした。 そうした状況でしたので、ゲームは好きだったものの、自身の将来のことも考え、別のことをやってみようと考えました。そこで、ITの世界にチャレンジして、Webディレクターのような仕事をしたのですが、やはりゲーム開発の仕事がしたいという思いから、再びゲーム会社に就職しました。
※『エストポリス伝記』シリーズ、『仙窟活龍大戦 カオスシード』、『シャイニングフォース』シリーズ、『ルーンファクトリー』シリーズなどを手掛ける開発会社。2013年に事業停止を発表。 ――ゲーム業界に戻ってきたのですね。
小林
一方で、20歳のころから起業したいという思いもあったので、それを実現すべく、ゲーム開発を行いつつ、IT関連の業務も行う会社としてアドグローブを立ち上げました。31歳のころだったと思います。自分ともうひとりのふたりで、青山のレンタルオフィスを借りて起業しました。 創業したときはリーマンショックの直後くらいでしたので、社会全体の景気はあまりよくなかったのですが、当時はフィーチャーフォンのソーシャルゲームが盛り上がり始めていたころで、ゲーム業界の景気はとてもよかったんです。 つぎつぎと作品が生まれるので、開発のお仕事もたくさんありました。僕はもともとアーティストとして働いていましたので、イラストの仕事が取りやすかったというのもありました。アドグローブを立ち上げて、イラストレーターの仕事を受けながら、Webの案件もこなす、という形で活動していきました。 そこから数年後にスマートフォンが登場して、『パズル&ドラゴンズ 』などもリリースされました。携帯でできるゲームとしてはかなり遊べるなという印象で、スマートフォンのゲームだったら自社でも作りたいと考え始めました。 しかしながら、どうしてもタッチパネルがしっくりとこなくて……。自分が作りたいものは、やはりコントローラーで遊ぶゲームだなと気づいたんです。ただ、家庭用ゲームの開発は開発費なども含め、簡単にチャレンジできるものではないので、しばらくは受託の仕事として、スマートフォンゲームの案件をこなしていました。僕は現場に参加せず、経営者として関わる程度でした。 それで、会社の体力がついてきたのが、いまから約5年くらい前です。そこで、オリジナルゲームを開発する会社として2020年にBinary Haze Interactiveを設立しました。 『エンダーリリーズ』を作り始めたのはそれよりも少し前、6年前くらいだったと思います。 ――満を持してという感じですね。 小林
そうですね。そのころに自社タイトルの開発ができる体力がついてきたなと思いましたし、インディーゲームも盛り上がっていました。Steamというプラットフォームで世界中にリリースできる環境も整っていたりと、あらゆる面でハードルが下がってチャレンジしやすくなっていましたので、 『エンダーリリーズ』の開発を始めました。 ――『エンダーリリーズ』ではプロデュースを担当していましたね。
小林
そうですね。ほかには、絵作りの部分でも関わっていました。もともと本作は、ディレクターの岡部君(岡部佳祐氏)が持ってきた企画書からスタートしたのですが、その企画書に一枚のイラストが載っていまして。そのイラストの雰囲気がすごくよくて、そのイラストから膨らませて、「こういうゲーム画面にしたらいけるのではないか」という確信が持てたんです。 そうしたアーティスト目線で感じたことを岡部君に伝えて、その後にいっしょに、いわゆるファーストルックを制作してできがあがったところで、「これは売れるな」と思いました。完成時のゲーム画面がほぼそのままできがあがっていた状態でした。 ――ゲーム性や手触りの前の段階で、自信があったのですね。
小林
はい。ゲーム作りにあたっては、もちろん手触りなどは重視していますが、まず静止画で見たときに興味が持てるような画面ができていないと遊んでもらえないと思います。我々は小規模の会社ですので、そこに確信が持てないとやるべきではないと考えていました。 『エンダーリリーズ』では、最初の段階で画面からおもしろさが想像できたため、開発をスタートさせることにしました。僕は企画職ではないので、ゲームデザインなどは基本的にあまり口を出さないようにしていました。 ――得意な人に任せる形で進めたということですね。
小林
基本的に開発チームに任せていました。フィードバックは返しますが、僕は絵作りの部分をおもに担当していました。その後、ファーストルックをティザーで出したときにゲームファンの皆さんの反応がかなりよくて、とてもうれしかったですし、開発に対するモチベーションもアップしました。
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――開発チームはどれくらいの規模だったのですか?
小林
コアメンバーは約10人だったと思います。開発費もそこまでかかっていなかったです。岡部君が見つけてきてくれたMiv4tというイラストレーターさんのおかげで、作品の全体像もスムーズに構築できました。Miv4tさんは、続編の 『エンダーマグノリア』でも開発当初から参加してくださっています。 ――IT業界にチャレンジした後、再びゲーム業界に戻って、アドグローブを立ち上げたとのことですが、やはりずっと家庭用ゲームを作りたいという強い気持ちを持っていたのですね。
小林
ネバーランドカンパニーに入ったときから、その思いは抱えていました。ただ、サラリーマンとして入社すると、思っていたのと違うといいますか……。「ゲームを作りたい」というか、「自分のゲームが作りたい」ということに気づいたのです。作業者としてゲーム開発に携わりたいわけでなかったんですね。自身のビジョンなどを具現化するのが楽しかったのです。 時間はかかりましたが、アドグローブを立ち上げて、家庭用ゲームを作れるくらいの体力をつけてBinary Haze Interactiveを立ち上げて、いまに至ります。
Binary Haze Interactive初のオリジナルタイトルとなる『エンダーリリーズ: クワイタス オブ ザ ナイツ』。2021年にリリースされ、全世界累計販売本数150万本を記録した。
自分たちらしいやりかたができる居場所を守るため、安易にチームを大きくすることはしない ――『エンダーリリーズ』では、絵作りからスタートしたということでしたが、中身のゲーム性の部分やターゲットとしているユーザー層などは、その後に決めたのでしょうか?
小林
横スクロールということは決まっていましたので、当然アクション性のあるものになるだろう、というほどの温度感でした。企画当初は、サンドボックス的な要素がけっこう盛り込まれていました。街を作るような。アクション要素がありつつ、紙幣を稼いで街を発展させるといったゲーム性でした。 ですが、開発を進める過程で実現が難しいと判断して、同作では入れることを断念しました。であれば、アクション面により軸足を置いて、ボス戦にフォーカスするようなゲームデザインにしたほうがよいのではと考えたんです。 そのころからフロム・ソフトウェアさんの作品は世界中で人気を博していましたので、同社のスタンスを参考にさせていただきました。 ――お話を聞いている限りでは、アドグローブはアプリゲームの開発をおもに手掛けていて、家庭用ゲームにはあまり携わっていなかったように思うのですが、開発のための体制作りはどのようにして作り上げていったのですか?
小林
これは振り返るとかなりラッキーだったと思うのですが、アプリゲームの開発をしていたメンバーの中に、家庭用ゲームの開発経験のあるメンバーが何人かいたんですよ。ですので、そのメンバーたちが大いに活躍してくれました。アニメーションやグラフィックについては、自分が品質管理を出来る自信があったので、そこはあまり不安はありませんでした。 ゲームデザインに関しては、Live Wireという会社に協力していただきました。元ネバーランドカンパニーの社員さんたちが中心となって2018年に設立された会社ですね。そういう意味では、開発チームには経験豊富な人材を揃えることができたんです。 ――なるほど、初めての家庭用ゲームの開発ながら、開発チームには腕利きのスタッフが揃っていたのですね。
小林
そうですね。ちなみに、Binary Haze Interactiveはいわばレーベルのような立ち位置で社員はいません。 ゲームを開発しているのは、アドグローブとその傘下のグループのチームメンバーです。グループ全体の規模としては、社員は500人くらい在籍していまして、そのうちゲーム開発に従事しているメンバーは半分の250人ほどです。そのメンバーで受託もやっています。 ――250人はなかなかの人数ですね。
小林
気が付いたらこれくらいの規模になっていました。でも、本当に人が足りていないんです。 ――スタッフを増やす予定はあるのですか?
小林
メンバーをどんどん増やすというイメージはなくて、いい人材がいれば増やす、というスタンスです。無理に増員するということでないです。 Binary Haze Interactiveの3本目となる 『エンダーマグノリア』はもうすぐ世に出ますが、なんというか、気心の知れたスタッフと作るのが、やはり楽しいんですよ。彼らとまた新しい作品を作りたいと思っていますので、そこに混ざってくれる人は探しますが、開発ラインが足りないからといって大量に採用することは考えていないです。 ――強引にラインを増やしてゲームを作って、とにかく売り上げを増やすというやりかたは取らずに、そうではなくて自分たちらしいやりかたを貫くということですね。
小林
その通りです。売上を増やすという方向に舵を切るのは危険だと思います。基準がお金になってしまうと、いろいろな判断を誤ってしまいがちです。うちは上場もしていないので、自分たちらしいやりかたができる居場所を守りたいです。
『エンダーリリーズ』では、アクション面により軸足を置いて、ボス戦にフォーカスするゲームデザインにしたとのこと。
『エンダーリリーズ』は、モーションを含めたルックのかっこよさを追求した結果、絶妙な難易度に ――2020年にBinary Haze Interactiveを立ち上げたとのことですが、ここまでの歩みを振り返ってみて印象に残っていることはありますか? 久しぶりに家庭用ゲームを作ってみて感じたことなどがあればお聞かせください。
小林
1作目となる 『エンダーリリーズ』は順調に開発が進みました。開発当初は作り直しも発生していましたが、基本的には過去に経験したプロジェクトと比べても苦労した印象はないです。結果的にユーザーさんにも受け入れていただけて、こんなにうまくいって大丈夫かなと思ったほどです(笑)。 ――(笑)。順調すぎて、逆に心配になったのですね。
小林
2作目の『リデンプションリーパーズ 』は、うちとしては初動の売り上げ的にはきびしい結果になりました。本作では、シミュレーションRPGというジャンル的になかなか難しいところにチャレンジしたのと、いま思うと価格が高すぎたり、アーリーアクセスを行わなかったりと、さまざまな要因によって、期待していた売り上げを記録することができませんでした。 『リデンプションリーパーズ』では、ほかのゲームメーカーとは違うチャレンジをしたくて、さまざまな試みを行ったのですが、ユーザーさんが潜在的に抱いている期待値などを掴み切れなくて。そういった意味ではとても印象深いタイトルでした。 改めて、1作目と2作目でまったく異なる経験ができたのは貴重な経験でした。2023年2月23日にリリースされた、Binary Haze Interactiveの2作めとなる『リデンプションリーパーズ』。前作とはジャンルが変わって、シミュレーションRPGタイトルとなった。
――『エンダーリリーズ』については、キャッチーな絵作りやいまのゲームファンに受け入れられるゲーム性がヒットの要因だったと思いますが、ワールドワイドでさまざまなゲームファンに愛される要因となったのは、どの点にあると分析していますか?
小林
やはり見た目、ルックだと思います。おもしろいメトロイドヴァニアのゲームがたくさんリリースされている中で、本作のルックでまず興味を持っていただけて、その後実際に遊んでみた際に、切ない雰囲気が重視された作りなどを魅力的に感じていただけたのかなと。僕たちもその点は狙っていましたので、そこを存分に楽しんでくださったのかなと思います。 ゲームとしておもしろい、雰囲気がいい、曲がいい、主人公のリリーがかわいい。そういったさまざまな要素がいろいろな人に刺さった結果なのかなと分析しています。 また、 『エンダーリリーズ』は高難度の“死にゲー”と言われがちですが、本当の“死にゲー”ではないと思っています。むしろ、メトロイドヴァニアとしては入門編に近いのではないでしょうか。 遊びやすくて、高難易度が苦手な人でも、くり返し挑んだらボスも倒せるようになっているので、そのゲームデザインもよかったのかなと。ハードなメトロイドヴァニアではないので、初めてこのジャンルを遊ぶ、あるいは久しぶりに遊んでおもしろかったから改めて同ジャンルの魅力に取りつかれた、という人もいらっしゃったと思います。――たしかに、すごく絶妙なレベルデザインだと思います。初心者でも遊びやすく、かつ初心者でも熟練者でもメトロイドヴァニアの魅力に気づくことできるこのラインは、最初から狙っていたものなのでしょうか? 開発者の方のさじ加減によるところが大いにあると思うのですが。
小林
最初は、もっと難しくしようとしていたと思います。開発中に外部の仲のよい開発者数名にテストプレイで触ってもらったのですが、そのときのバージョンは製品版よりも簡単で、「もっと難しいほうがいいのでは?」と言われたんです。 ですので、より難しくしようと思ったのですが、2Dアクションゲームを難しくするのはたいへんでして。やりすぎると、昔のゲームのような理不尽な難易度になってしまうんです。そこまではいかずに、これ以上やったらダメというラインを決めました。それが結果的に、難しそうに見えて、何度もチャレンジすればクリアーできるような絶妙なバランスになったのかなと思います。 ――開発の皆さんがテストプレイをくり返した結果難しくなりすぎてしまって、後で下げるという話はよく耳にするのですが、『エンダーリリーズ』はそうではなかったのですね。
小林
そうですね。途中のバージョンでも、「これは強すぎる」、「これは難しすぎる」ということはなかったです。これにはさまざまな要因があると思いますが、大きなところとしては、Spineという2Dのアニメーションツールを使っていた結果かなと考えています。このツールを使用して、モーションを含めたルック、かっこよさを重視して開発していました。 ――言ってみれば、2Dのアニメーションツールが、ほどよい難度にしたのですね。
小林
はい。あまりに攻撃モーションが速すぎたりすると、ゲームとしては難しくなりますが、見た目はよくないからイマイチ。そういったバイアスがつねにかかっていたとは言えるかも。ルックを重視するからこそ、難しくなりすぎなかったというのは理由としてあるのかもしれません。 本当に難しいゲームを作ろうと思えば作れますが、それよりも見た目の美しさを大事にして、「このモーションにはもう少し余韻があったほうがいいのでは」とこだわった結果が 『エンダーリリーズ』の難易度につながっているかと思います。 ――相当ルックを重視されたのですね。とても興味深いですね。そこはユーザーさんに受け入れられるために、というところもあるとは思いますが、小林さん、引いては会社として大事にしたい点でもあるのですね。
小林
その通りです。ユーザーさんに受け入れられたらいいなと思いますが、そこが目的ではなく、自分たちの信念として大事にしている点です。
ルックを重視したことが世界で好評を博することにつながったという『エンダーリリーズ』。
『エンダーマグノリア』では、「何でも死にゲーにするのはやめませんか」というプログラマーのひと言で考えかたが変わる ――少しうかがいたいのですが、ゲーム開発においての小林さんの立ち位置、肩書きはどのようになっているのでしょうか?
小林
明確な肩書きは名乗らないようにしてはいますが、実態で言うとアートディレクターとプロデューサーを基準にしている形です。ですので、見た目に関する部分は細かく見つつ、全体のゲームバランスやストーリーなどにはあんまり口は出さないようにしています。ただ、「絶対にこうしてほしい」ということは伝えますので、そういった意味ではプロデューサー的な関わりかたはしています。 ――キャラクターのデザインや背景設定などには関わっているのですか?
小林
デザインには意見はします。ただ、背景設定はディレクターの個性でやったほうがよくなると思っているので、あまり意見はしませんね。 ――ディレクターに対しても、あまりよほど難度が高くならない限りは、口をさし挟まないようにしている?
小林
一応意見は言いますが、自分の言う通りにはしなくていいよという前提で伝えます。あくまで意見として伝えるだけで、押し付けることはしないです。 ただ、 『エンダーマグノリア』の難易度はかなり議論を重ねました。個人的には、より難しくしたほうがいいのではないかと思ったんですね。前作を遊んだ方が本作をプレイしたときに、「物足りない」、「前作より簡単だ」と感じることがあってはならないという考えがあったんですね。 ですが、メインプログラマーに「何でも死にゲーにするのはやめませんか」と言われまして、それが僕に刺さりました。彼が言うには「ユーザーとしては、死にゲーは年に1本でいい。それはフロム・ソフトウェアのゲームでいいんです」と言うんです。――なかなかはっきりと言いますね(笑)。
小林
はい(笑)。「なるほど、たしかに」と思い、議論を重ねるなかで、そういった意見も参考にして、“難しくすることが正義”という価値観は捨てることにしました。 その結果、アーリーアクセス版では前作よりも遊びやすくなったとご意見をいただいている一方で、「前作よりもぬるくない?」というレビューも届いています。ですが、個人的にはこれでよかったのかなと思っています。難易度選択もありますので、ユーザーさんが求める難易度で遊んでいただければなと思っています。
――『エンダーリリーズ』のリリース後にユーザーさんから寄せられた声の中で、その後の『エンダーマグノリア』の開発に参考になったものはありますか?
小林
僕がいちばん参考になったのは、見た目に関するレビューの部分です。 『エンダーリリーズ』は背景が四角いところが多くなっています。それは、2Dのゲームですので、キャラクターの制御の都合上、歩ける部分を平らにする必要があったからです。歩く部分、アクションする部分を平らにして、段差を作ってもその段差の先も平らなので、全体的に四角い印象になります。 開発中にずっとそれは感じていたのですが、海外の方のレビューで指摘されまして。「ああ、バレているな」と思いました(笑)。ですので、『エンダーマグノリア』では改めてしっかり変える必要があると考えました。 ――『エンダーリリーズ』開発時はそうするしかなかった?
小林
そうですね。なかなかそこまで手が回らなくて、こだわりきれなかった部分ではあります。ただ悔しさもあり、周りの人にも言われたので、 『エンダーマグノリア』ではまずキャラクターの制御として、斜めに歩いたり、下ったりできるようにしました。背景を四角にしないように(笑)。 ――そこは、ルックの部分にもつながっているかもしれませんね。
小林
たしかにそうですね。結果的にそれがゲーム性も生みますので、細かな部分はスタッフに任せようと思いつつ、見た目の四角い印象はとにかく払拭したかったです。 前作のレビューでいちばん引っかかっていた部分でもありますし、雰囲気や没入感を大事にしているのに、四角い印象を持たれて冷められたくなかったので、最初に取り組みました。
『エンダーマグノリア』では、背景を四角にしないように、キャラクターを斜めに歩いたり、下ったりできるようにしたという。
――四角い感じはない印象ですね。
小林
それと、前作で不評だった点も改善しました。後半のステージに登場する敵のホーミング攻撃がすごく多くて、そこで難しさを担保していたのですが、あれは明確によくなかったので、本作では直しています。 ほかには、レビューと自分たちの反省を踏まえて、仲間キャラクターの数も調整しました。前作は仲間になるキャラクターが25、6人ほどいました。ですが、ストーリーの中でひとりひとりの掘り下げはできていませんでした。スキルの性能にもそれぞれ差をつけたつもりだったのですが、よく使われるキャラクターも偏ってしまっていました。 その点は反省点としてありましたので、本作では仲間になるキャラクターは前作の3分の1ほどになっています。その代わり、ひとりのキャラクターにつき武器を3種類変えることができ、結果的にスキルバリエーションは前作と同じか、それ以上になっています。キャラクターの数を絞っていますので、ストーリーでもひとりひとりにフォーカスしていまして、そこはご期待いただけるかと思います。
『エンダーマグノリア』のキャラクター数は、『エンダーリリーズ』から3分の1に。その代わり、ひとりのキャラクターにつき武器を3種類変えることができるようになった。
――ユーザーからのレビューも参考にしながら、よりキャラクターを際立たせるように開発しているのですね。開発体制は変わっているのですか?
小林
大きく変わっていないです。コアメンバーは基本的に同じです。 ――開発期間はどれくらいですか?
小林
『エンダーリリーズ』の追加コンテンツのようなものを作り終えた直後からですので、3年強ですね。 ――『エンダーリリーズ』から『エンダーマグノリア』を作るのは自然な流れだったのですか?
小林
そうですね。じつは 『エンダーリリーズ』を出す前から続編を制作することは決めていました。このルックを作ることができたので、「1本で終わらせるのはもったいないな」と感じ、続編と謳うかは置いておいて、「次作もすぐに作ろう」と考えていました。 一方で、「『エンダーリリーズ』の有料DLCはやらないのか」と、いろいろな人に言われたのですが、けっきょくはそうしませんでした。僕としては、DLCをやるよりも続編として新作を作るほうがユーザーさんにとってうれしいのではないかと思いましたし、僕たちもつぎの新しい作品をすぐに作りたいという思いがありました。 ――そんな『エンダーマグノリア』は、2024年3月のアーリーアクセス版がたくさんのユーザーさんから高い評価を受けて、今回満を持してフルリリースを迎えますが、現状の手応えはいかがですか?
小林
いまはSteamで97.8%の方から“圧倒的に好評”というレビューをいただいていますので、率直にうれしいです。 それと、先ほどのお話のくり返しにはなりますが、「前作よりも簡単かも」という意見を頂戴していることについて、アーリーアクセス版は冒頭の3時間のみですので、全体のボリュームで見ると、まだまだ序盤です。本作はユーザーさんにもよりますが、25~30時間は遊べる内容となっています。アーリーアクセス版以降、しっかりとした歯応えを味わえるようになっていますので、楽しみにしていてください。 ――意図的に前作より難しくしようとはしておらず、でも最終的にプレイしたときの満足度は前作以上、ということでしょうか?
小林
おっしゃる通りです。「物足りない」というようなことはないと思います。
『エンダーマグノリア』は、しっかりとした歯応えを味わえる作品になっているとのこと。
欧米の絵作りのスタイルをベースに、わざと違和感を抱かせる絵作りを大事に ――小林さんが絵作りで大事にしている点についてもお聞かせいただけますか? 小林さんの絵作りでは、煌びやかにしようとか、今風のキャッチーでカラフルな絵にしようというところはあまり重視されていないように感じるのですが。
小林
キャッチーでカラフル、という絵にはあまり向いていないですね(笑)。 ――かなりシックと言いますか、色数を抑えて暗めのトーンで……という感じですね。そのトーンをベースに、キャラクターを立たせて……という絵作りをしている印象があるのですが、そこがBinary Haze Interactiveならでは、とも言えるのでしょうか?
小林
細部にこだわることは、僕が大事にしている点です。「神は細部に宿る」という言葉があるように、質感からライティング、そして最後の調整まで……。簡単に言うと、洋ゲーっぽい魅力と言えるかもしれませんが、それとも何か違う“よさ”を目指しています。 ――何か違う“よさ”ですか?
小林
はい。何か違う“よさ”というのは、洋ゲーっぽさの中に、日本のアニメ的な絵作りの要素を入れることだと考えています。実際のところ、そこを狙って表現しています。 端的に表現できませんが、欧米の絵作りのスタイルをベースに、わざと違和感を抱かせる形にしています。それはとくに、キャラクターに表れていると思います。ですので、僕が見ている限りは、それがBinary Haze Interactiveらしさにもなっていると思います。 ――それは、もともと小林さんが好きだったものが影響しているのですか?
小林
そうですね。好きだったのですが、サラリーマンとして働いていたときはできなかったんです。全体をアニメっぽい質感にするしかなかったので……。 ――小林さんの絵作りに影響を与えた作品は、どういったものになるのですか?
小林
映画やマンガなど、いろいろな作品を見て影響を受けていますが、特定の何かではない気がします。ただ、いま質問していただいて、『ワンダと巨像 』のことが頭に浮かびました(笑)。 ――『ワンダと巨像』は、まさにシンプルで色数が少ないけど、しっかりとインパクトがあって印象に残りますよね。 小林
色のほうに意識がいきがちですが、意外とシルエットが大事で、色数が少ないからこそシルエットが際立っていないと魅力的に映らないですよね。 『ワンダと巨像』は、巨像のデザインやシルエットも含めてすばらしいなと思いました。 ダークでシリアスだけれど、洋ゲーすぎない。うちのゲームは自然とそうなっていくと思います。
――ちなみにですが、『エンダーマグノリア』のリリース後の展開は現時点で決まっているのですか? 追加でコンテンツを開発する予定などはありますか?
小林
いまのところは、とくに考えていません。DLCの予定もありません。クリアー後の新要素を追加する大型アップデートは予定していますが、無料で行いますので、有料のコンテンツなどはないです。じつは、 『エンダーマグノリア』の後に、すぐ別のタイトルを作ろうという話をすでにしていて、大型アップデートの準備が終わったら、そちらの作品作りに移行すると思います。どういったタイトルになるかは、ぜひ情報公開をお待ちいただければと思います。
海外ゲームっぽさの中に、日本のアニメ的な絵作りの要素を入れることで、何か違う“よさ”を表現。
絵作りと同じくらい、キャラクターを動かして気持ちいいと感じる手触りのよさを追求 ――なるほど、期待が高まりますね。Binary Haze Interactiveはコンスタントにゲームをリリースされている印象ですが、なるべくユーザーを待たせずに、一定のサイクルでゲームをリリースする、ということを大事にしているのですか?
小林
あまり長く間が空き過ぎてしまうと忘れられてしまうと思いますので、そこまでお待たせせずに作品をリリースしたいとは考えています。そのためにスケジュールを早めて、ということはないですが、1年半に1本というペースでお届けできたらという思いで開発しています。 ――ちなみに、小林さんはいまどのような時間の使いかたをしているのでしょうか? アドグローブの代表取締役として、経営の仕事のほかに、他社のゲームの業務もあると思いますが。
小林
ありがたいことに、ほぼゲームの業務のみを担当しています。もちろん、経営会議には参加していますが、ゲーム以外の事業、それとゲームの受託の事業などは、それぞれ見てくれている人がいます。それらの領域は、報告を受ける程度になっています。ですので、自分が主体的に動いて、何かを作ったり決めたりするのは、すべて自分たちのゲームに関することになっています。 ――適材適所で、さまざまな方が活躍しているという、会社としてもよい状況なのですね。Binary Haze Interactiveがブランドとして立ち上がって2020年で5年を迎えようとしていますが、これから先ブランドとしての将来像はどのように考えていますか?
小林
名前を聞いただけで、ユーザーさんがブランドの特色を認識してくれるような、そんなブランド、スタジオになりたいです。フロム・ソフトウェアさんやヴァニラウェアさんのような、世界中で認知されるようなスタジオになりたいです。 ――言ってみれば、フロム・ソフトウェアやヴァニラウェアが目標ということですね。
小林
あと、これは会社としての課題ですが、いまのところはひとり用のゲームしか作れていないので、マルチプレイのゲームにもチャレンジしたいです。直接マルチプレイで遊ばなくても、マルチの要素だけでも味わえる作品を作ってみたいですね。 ハクスラやRPGなど、キャラクターを強くすることにモチベーションが必要なゲームは、マルチプレイと相性がいいと思っています。マルチプレイで遊ばなくても、自分以外にもゲームの世界に人がいるということがモチベーションとなって強くなる。そういった魅力のあるゲームを開発できたらいいなと考えています。 ――これまでBinary Haze Interactiveが開発した作品は、アクションやシミュレーションRPGというジャンルですが、ジャンルへのこだわりはありますか? たとえば、現場の皆さんからアドベンチャーやRPGが作りたいという意見が挙がったら、どう判断しますか?
小林
明確に決めているわけではないですが、何となくやりたいジャンルと、そうではないジャンルはあります。アクションやRPGはまったく問題ないですが、アドベンチャーを作りたいと言われたら、おそらく却下します。 ――却下ですか?
小林
それは、自分がアドベンチャーゲームをそこまで遊んでいなくて深い知識がないから、というのもありますが、やはりキャラクターを動かすゲームがいいです。ルックと同じくらい手触りを重視していますので、アクションとまではいかなくても、キャラクターを動かして気持ちいいと感じる手触りのよさは、どのジャンルや作品でも追求すると思います。
キャラクターを動かして気持ちいいと感じる手触りのよさは、今後も追求していくとのこと。
――自分たちがやるべきことを見定めているのですね。Binary Haze Interactiveの作品は、外部の開発会社にお願いしている部分はありつつ、基本的には自分たちで完成させていますが、今後、ほかの会社や、有名なクリエイターといっしょに制作したいという考えはありますか?
小林
クリエイティブで協業することは難しいと思います。うちはうちで明確にポリシーがあります。協業すると、必ずとちらかが妥協することになってしまうと思いますので、協業はおそらくしないです。 ただ、別のアプローチで棲み分けができるなら協業の余地はあるかもしれません。世界観や背景設定ですばらしいものがあり、これをベースに自由に制作していい、というようなことでしたら、うちは得意かもしれませんね。 ――ちなみに、Binary Haze Interactiveでは、企画書はどれくらい作り込むのですか?
小林
まったく作り込まないです。僕自身は企画書は作らなくて、ディレクターが作成するのですが、その場合でもゲームの内容を説明する簡単な説明書きと、あとはリファレンスのアートばかりです。一般的な企画書とそんなに変わらないと思います。とくにビジュアルに関しては、僕が細かく意見するので、ビジュアル面ではあまり書いてもしょうがないと思っているのか、ふわっと書かれていますね。 ――ふわっとですか(笑)。
小林
そこから、毎回設定を聞いてイメージが湧いたり、ビジョンが湧いたものをプロジェクト化してラインにしています。 僕は、企画は大事だとは思いつつ、どう作るかのほうが重要だと考えています。企画の時点でつまらないものはダメですが、企画の段階でおもしろいものというのは意外と苦労せずにできるんです。 手触りや細部にどれくらいこだわりを詰め込めるのか。そういったところを見て、それができそうなタイトルを開発しています。 ――では、ロードマップがあって、ステージ構成はこうで……というように最初から固めた上で開発を始めるわけでないのですね。
小林
ぜんぜんないです。あるのはビジュアルのイメージだけですね。ゲーム画面が作れるかどうか、イメージできたらいけそうだね、という風に判断しています。それがある種、Binary Haze Interactiveらしさとも言えるかもしれません。それが浸透して、うちの絵作りっぽいなと感じてもらえたらうれしいなと思います。 ――たとえば、フロム・ソフトウェアだと、象徴するクリエイターとして宮崎英高さんの名前が挙がると思いますが、それは最初から名前が出ていたわけではなくて、タイトルを積み重ねてきた結果だと思います。小林さんもそういった風になってもいいと思っている?
小林
そうですね。あとは、会社の認知度を上げるためには、メディアに露出することも大事なのかなと最近思っています。以前はメディアに出ることは少なく、過去にインタビューを受けたときも、写真はNGでした。 ですが、それではダメだなと思ったんです。まずは立場のある人間が認知されることで、Binary Haze Interactiveやゲームもイメージしやすくなると考えましたので、いまは積極的にフロントに立つことを意識しています。 ――さらなるステップアップのタイミングとも言えそうですね。そんなBinary Haze Interactiveの認知度をさらに上げることが期待されている新作『エンダーマグノリア』がリリースされます。最後に、同作に期待しているユーザーにメッセージをお願いします。
小林
『エンダーマグノリア』は、前作を遊んでいただいた方にも、そうでない方にも満足していただける内容になっていますし、お話も直接つながっているわけではないので、本作を触ってみて、おもしろく感じたら前作も、という楽しみかたもできると思います。 前作のリリース時は、メトロイドヴァニアに詳しくない方にも手に取っていただけているのですが、本作はさらに遊びやすくなっていますので、興味があるすべての方に触れていただけたらうれしいです。
エンダーマグノリア: ブルームインザミスト 対応機種:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、PC 発売日:2025年1月23日発売 発売元:Binary Haze Interactive 開発元:アドグローブ、Live Wire ジャンル :アクションRPG 価格:通常版/各4378円[税込]、限定版/各10230円[税込]、ダウンロード版/各3278円[税込] 対象年齢:CERO 15歳以上対象 備考:Xbox Series X|S版とPC版はダウンロード専売