2021年10月14日に発売された、プレイステーション4、PC(Steam)用ソフト『アイドルマスター スターリットシーズン』(以下、『スタマス』)。『アイドルマスター』シリーズの家庭用最新作であり、『アイドルマスター』(765PRO ALLSTARS)、『アイドルマスター シンデレラガールズ』、『アイドルマスター ミリオンライブ!』、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』のアイドルたちの活躍が描かれる。
シリーズ4ブランドのアイドルたちが登場するので、シリーズファンはもちろん、2024年5月にサービスが始まった『学園アイドルマスター』などをキッカケに最近『アイマス』を遊び始めて、ほかのブランドのことも知りたいという人にもおすすめしたいタイトルとなっている。
そんな『スタマス』が3周年を迎えたことを記念して、プロデューサーの久多良木勇人氏にインタビューを実施。改めて作品の魅力や注目のポイントを語ってもらったほか、本作で初めて登場した新アイドル‟奥空心白“と‟亜夜”の誕生秘話、物語後半の展開についてなど、いまだからこそ話せる話題も(※)。
なお、本インタビューの後半には、『スタマス』のストーリーのネタバレが含まれます。ネタバレが含まれる直前には、改めて警告文を記載しているので、それまでの前半部分は未プレイの人でも安心して読み進めてほしい。
さらに本記事では、2024年12月14日、15日に幕張メッセ 国際展示場にて開催予定の‟アイマスエキスポ“こと“THE IDOLM@STER M@STER EXPO”の”EXPO AREA”の入場者特典として配布される、謎解きゲームのプロローグを先行公開。
これは、アイマスエキスポの会場各地を巡りながら謎を解く周遊型謎解きゲームで、エキスポエリアのさまざまなコンテンツとともに楽しめるひとりから遊べるコンテンツとなっている。そんな謎解きゲームのプロローグがこちらだ。
謎解きゲーム‟奥空心白と行く!エキスポプロデュースチャレンジ“プロローグ
“マスターエキスポ”
それは、多くの事務所のアイドルとアイが集結する祭典。
高木社長から呼び出されたあなたは
“マスターエキスポ”当日の奥空心白のプロデュースを
担当することになった。
各事務所のアイドルたちに協力してもらいながら
心白を最高のパフォーマンスへと導くのが今回のお仕事。
プロデューサーノートを手に
心白とともに“マスターエキスポ”をめぐり
プロデュースを成功させよう!
というように、謎解きゲームでは心白をプロデュースすることになるので、『スタマス』を遊んでおくとさらに楽しめること間違いなし。
また、『スタマス』のPS4 ダウンロード版はPlayStation Storeにて2024年10月23日まで、PC版はSteamにて2024年10月15日まで(Steam版は終了日がPS4版より早いので注意)、それぞれセールも実施されているので、インタビューの前半までを読んで興味を持った人は、この機会にプレイしてみてはいかがだろうか?(プレイ後には、ぜひインタビューの後半も読んでほしい)。
なお、Amazonで販売されている、PC(Steam)版のオンラインコードもセール中のため、Amazonで購入したいという人は以下のリンクをチェックしてほしい。
久多良木 勇人氏(くたらぎ はやと)
『アイドルマスター スターリットシーズン』プロデューサー。文中は久多良木。
※インタビュー内では、『アイドルマスター シンデレラガールズ』を『シンデレラガールズ』、『アイドルマスター ミリオンライブ!』を『ミリオンライブ!』、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』を『シャイニーカラーズ』と省略して掲載しています。発売から3周年。海外でも新たなプロデューサーが続々と誕生!
――『スタマス』の発売から3年が経ちます。事前にうかがっているお話しですと、ストアでのセールなどもあり、発売後も売れ続けているとのことでしたが、セールスの実情やファンの反響を教えてください。
久多良木
早いもので発売からもう3年が経ちますが、ダウンロード版がコンスタントに売れ続けていて、ご購入いただいたお客様には本当に感謝しています。本作で初めて、『アイマス』シリーズのタイトルをSteamにも発売させていただきましたが、日本以外のアジア地域でも、多くの方に買っていただいているというデータが実際に出ています。
日本のプロデューサーさん(※『アイマス』シリーズのファンのこと)はもとより、日本以外のプロデューサーさんにも『アイマス』に触れていただき、とてもうれしく思っています。
――日本以外のアジアの地域でも、『アイマス』が予想以上に支持されたと。
久多良木
そうですね。じつは、ここまで伸びるとは予想していなかったというのが正直なところです。前作の『プラチナスターズ』(2016年発売)と『ステラステージ』(2017年発売)はPS4での発売で、いずれもローカライズの対応をさせていただきましたが、『スタマス』をSteamでも発売したことでより多くのお客様に手に取っていただけた印象があります。Steamはとくにアジアのお客様にとって、プレイしやすい環境だったんでしょうね。
――『スタマス』のSteam版を開発すること自体は難しくなかったのですか?
久多良木
『アイマス』シリーズをSteamで出すのは、開発スタッフにとって初の試みでした。Steam独自の規定に対応したり、当然ながらバグにも対応したり……。ストアに配信するにも、ノウハウが足りずに苦労した記憶はありますが、さまざまな知見や皆さんの力を借りながら何とか出すことができました。
――発売から3年が経ってもなお、『スタマス』が注目されている状況について、感想を教えてください。
久多良木
率直にありがたいと思っています。過去作はセールス面で言うと、発売初動以降の継続的な販売というのはなかなか見込めませんでした。『スタマス』はPS4版もSteam版も、発売から少し時間が経ってからも、新たなお客様に手に取ってもらえているという実感があり、これについては市場のいい変化だと捉えています。
『スタマス』は、セールを交えながら継続的な販売をしていますが、それ以外にも、じつは社内の関係者が発売後も何とかよりたくさんのお客様へ『スタマス』を届けようと知恵を絞って考えてくれています。
たとえば昨年には、『ラブライブ!』シリーズとの合同ライブ“異次元フェス アイドルマスター ラブライブ!歌合戦”が開催されました。が、これをきっかけに『ラブライブ!』チームにご協力をいただき、『幻日のヨハネ -BLAZE in the DEEPBLUE-』(2023年発売)と『スタマス』のSteam版の期間限定コラボレーションバンドルを発売することができました。
また、アイラブ歌合戦の物販会場で『スタマス』のPS4版を購入していただいた方に、私がサインを書かせていただくという機会があり、おかげさまで、現地の在庫分が完売となりました。これについては、正直、驚きましたが、感謝の気持ちでいっぱいです。
そのときにも、多くのプロデューサーさんとお話することができまして、イベントを機に気になって買いました、という方もいれば、購入してくださった方の中には、すでにゲームをクリアーしているのに記念にもう1本買っていただいた方や、わざわざ海外からお越しいただいた方もいらっしゃいました。多くのプロデューサーから熱い感想を直接聞くことができたのも、すごくうれしかったですね。
『スタマス』でデビューした心白と‟アイマスエキスポ“で謎解きに挑む!
――2024年12月14日、15日に幕張メッセで開催される‟アイマスエキスポ“で、心白が登場する謎解きゲームが楽しめるとうかがいました。謎解きゲームを実施することになった経緯や、見どころを教えてください。
久多良木
この謎解きゲームは、‟アイマスエキスポ“の”EXPO AREA”入場者特典として配布し、来場者全員がお楽しみいただけるものになっています。弊社の若手に謎解きに精通した社員がいまして、イベントチームの若手社員とタッグを組み、ふたりで企画を提案してくれました。入社1年目の社員がアイデアを出し合って形にしてくれた企画でしたし、これまで『スタマス』以外では心白の活躍の場を公式であまり用意できなかった歯がゆさも感じていたので、前向きに検討したところ、実現することができました。
謎解きゲームの見どころはいくつかありまして、今回はLINEと専用キットを使い、心白の新たなプロデュースが楽しめるようになっています。心白のほかに、『アイマス』シリーズの6つのブランドからアイドルがひとりずつ登場しますので、こちらもご期待いただけるとうれしいです。
――謎解きに精通した社員が企画したということは、謎解きも本格的なものになっているのでしょうか。
久多良木
ご想像の通り、謎解きが大好きな社員が制作していますので、謎解きが好きな方はもちろん、ふだんこのようなエンタメに触れる機会がない方にも、やりごたえのある内容になっているのではないかと手応えを感じています。
――多くのアイドルがいる中で、新入社員の方が心白を抜擢した理由は?
久多良木
心白のほかにも、候補のアイドルはいたと聞いています。ただ、6つのブランドからアイドルが登場し、ストーリーの中心となってブランドをつなぐ存在は誰がいいかを考えたときに、“アイを集める”というコンセプトにどう合致させるかを踏まえ、プロジェクトルミナスでほかのブランドのアイドルと共演した心白が適任なのではないかと思って提案してくれたようでした。
――『スタマス』未プレイでも遊べると思いますが、やはり心白が登場する『スタマス』をプレイしていると、より楽しむことができそうですね。
久多良木
そうですね。心白とプロデューサーには面識があって、謎解きが始まるという導入にしていますので、ゲームをプレイしてから謎解きに挑んだほうが、より楽しめると思います。もちろん、心白を知らない方でも楽しめる内容にはなっていますので、ご安心ください。
――この機会にぜひ『スタマス』を遊んでもらいたいですね(笑)。
久多良木
ぜひ! 4つのブランドからアイドルが登場する『スタマス』は、これまで『アイマス』シリーズを応援してくださっていたプロデューサーはもちろん、初めて『アイマス』のゲームに触れていただく方にも楽しんでいただけるように制作したタイトルになります。
3年前のゲームですが、家庭用『アイマス』の最新タイトルとして、シリーズ最高峰のビジュアルや、感動的な長編のストーリー、事務所の垣根を超えた29人のアイドルのプロデュースが楽しめる作品になっています。
それに、しっかりとした終わりのある物語が体験できるのも、家庭用ゲームならではの魅力です。20周年を迎える『アイマス』の入門タイトルとしてピッタリな作品ですので、『スタマス』を通してアイドルたちの魅力を体感していただけたらうれしいです。
“エモーショナルトゥーン”や選抜メンバー、収録楽曲の開発秘話
――せっかくの機会なので、いまだから話せる『スタマス』の開発秘話もうかがいたいと思います。まずは、新規のレンダリング技術“エモーショナルトゥーン”について、プロデューサーの反響はいかがでしたか?
久多良木
グラフィックに関しては、多くのプロデューサーさんに評価をいただいております。発売後のユーザーアンケートでグラフィックは非常に好評でした。
“エモーショナルトゥーン”は、当時、開発スタッフの田澤さん(太陽氏。キャラクターモデルディレクター)が命名してくれました。アイドルの躍動する汗や頬の紅潮、あとはライブの空気感ですね。そういった情緒的なものも、最高峰のグラフィックで表現できるように目指したレンダリング技術になります。
坂上さん(陽三氏。元『アイドルマスター』総合プロデューサー)は、「アイドルの一生懸命さが伝わるようなグラフィック」と表現していましたが、その言葉通りのグラフィックになったと思います。
『スタマス』の発売から約3年が経過し、昨今ではスマホのゲームでもハイクオリティーなものが続々と登場していますが、『スタマス』のグラフィックは、いまでもほかのコンテンツに負けていないという自信はありますね。
――『スタマス』が発売した当時は、4K対応のモニターを持っていなかったのですが、今回取材を行うにあたって4K対応のモニターで改めてプレイしたところ、グラフィックの美麗さに驚かされました。当時は気づいていなかったのですが、ステージの装飾まで作り込まれていて、これはすごい……と。
久多良木
ありがとうございます。当時のメンバーが、細部までがんばって作り込んでくれました。開発に使ったUnreal Engineは、リアルな背景の表現が得意だったこともあり、開発スタッフがリアリティーを追求してくれた結果、『スタマス』のライブシーンが生まれました。1曲1曲、カメラワークもこだわりの調整をしてくれています。
――ちなみに、もし家庭用『アイマス』の新作を作るとしたら、こういった表現にチャレンジしたいという考えは……。
久多良木
それについてはなんとも言えないのですが(苦笑)、私は、ゲームはもちろん、アニメはよく見ているほうで、その時代時代の表現には注目しています。いまは『スタマス』発売からまたハードのスペックも上がっていますので、表現としてはさらなる高みを目指せるんだろうな……というところは、確信に近いものがあります。
――楽しみにしています! 続いてゲームシステムの話題ですが、いろいろなアイドルを育てられる楽しさがある一方で、月ごとに育成可能なアイドルが限られる関係で育成が難しかった印象も……。難易度に関してプロデューサーの反響はいかがでしたか?
久多良木
『スタマス』は、プロジェクトルミナスのメンバー全員が関わる、ひとつの大きな物語にしたかったので、従来のプロデューサーがひとりのアイドルを選んで育成するスタイルではなく、アイドルプロジェクト全体をプロデュースするゲームとして、必然的に大人数を管理する形になりました。
アイドル全員ときっちりコミュニケーションを取っていただくべく、なるべく多くのアイドルに触れて欲しかった、というのは大前提としてありますが、ご指摘の通り難易度に対しては、難しかったという声を実際にいただきました。
特定のスキルを入手していないと攻略が難しいとか、ゲームオーバーになったときの救済が乏しいとか、そういった声は多かったです。それぞれ理由があって対応できなかったものも当然ありましたが、当時、よりよい解決策が見いだせなかったのは、自分の未熟さでもあったと反省しています。
――難易度は高めなぶん、29人のアイドルをプロデュースできるのは圧巻でした。デイリーでプロデュースできるのも新鮮だったと記憶しています。
久多良木
従来の『アイマス』シリーズでは、1週間ずつプロデュースしてもらっていましたので、ユニット全体をデイリーでプロデュースしてもらうのは、システム面での挑戦でした。開発段階では、どの曜日でもレッスンや営業をできるという、いまよりも自由度の高いシステムも試してみたのですが、月末に関門を設けているので、プロデュースできる人数が多いと、ゲーム的に詰んでしまうこともあって。
そのため、曜日ごとにできる活動を定めて、プロジェクタータスクというゲーム内の指針をもとに進めてもらう現在の形になりました。初心者の方は、そちらのタスクを参考にしていただければと思います。
――発売から3年も経つので、ネット上にも攻略情報は充実していますしね。
久多良木
あとは、月ごとに育成可能なアイドルが異なる“歌唱メンバー制”は、自由度が低いと思われた方も少なくないかもしれません。家庭用ゲームならではの歌い分けを『スタマス』でも当然実現するべきという思いと、それには全アイドルの全楽曲の歌唱データが必要になるというジレンマでした。
どうしてもリソースとコストの限界があり、いろいろな制約がある中で没入感をどう担保するべきかも悩みました。この問題の解決策に関しては、当時の開発スタッフが知恵を絞ってくれて、メインストーリーの展開に合わせて、現在の歌唱メンバーを限定しての歌い分けを担保することで没入感を高めよう、という形になりました。
家庭用ゲームの『アイマス』としては、ここまで大人数のアイドルたちを同時にプロデュースできるのは初の試みでしたので、ゲームシステムでも最善を尽くすべく、当時の開発スタッフはなにかとがんばってくれました。設定が特別でしたので、前提となるこの設定をゲームとして活かし完成させるなら、当時を思い返してみても、あの形しかなかったと改めて感じます。
――各事務所から選抜されたアイドルや楽曲は、どのように選定したのでしょうか?
久多良木
各事務所から誰を選んで何人登場させるかは本当に悩みました。発売当時も、たくさんご質問をいただいて回答に悩んだのを覚えています。今回は、ひとつの大きな物語を描きたいが、当然登場人数は決めなくてはならないということで、人数を29名のアイドルユニットをプロデュースするという形に決めました。
そこから各事務所から登場させる人数やアイドルを考えていきましたが、本作は家庭用ゲームの最新作ということで、まず765プロのメンバーは全員登場させることは決めていました。
――765プロのメンバーで、29人中、13枠が埋まったと。
久多良木
はい。残りの枠は16人ですが、『シンデレラガールズ』、『ミリオンライブ!』、『シャイニーカラーズ』からは、5人ずつ登場させることになります。まず『ミリオンライブ!』ですが、所属は765プロと同じということで、春日未来、最上静香、伊吹翼の3人が決まり、検討した結果、残りふたりは白石紬と桜守歌織のふたりに出てもらうことにしました。
『シンデレラガールズ』と『シャイニーカラーズ』のアイドルも非常に悩みましたが、ユニットとしてさまざまな個性のアイドルが参加したほうが、ストーリーの展開に幅が出るため、『シンデレラガールズ』からは、190人ものアイドルがいる中で、苦渋の決断で安部菜々、神崎蘭子、城ヶ崎美嘉、双葉杏、諸星きらりの5人となりました。
――なるほど。
久多良木
『シャイニーカラーズ』に関しては、『スタマス』の開発を始めるときに、世に出てくるかどうかというタイミングでしたが、プロデューサーの高山(祐介氏。テレビアニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』においても、制作陣のひとりとして名を連ねる)にも意見をもらいまして、白瀬咲耶、小宮果穂、杜野凛世、大崎甘奈、大崎 甜花の5人となっています。
――当時のプロデューサーの反響はいかがでしたか?
久多良木
『スタマス』を機に、遊んだことのなかったブランドやアイドルのことを知って好きになったという感想はありました。本作には『アイマス』シリーズの入り口の役割もあると考えていたので、目的をひとつ果たせた印象があり、うれしかったです。
本作に登場させることができなかったほかのアイドルも非常に魅力的でしたが、結果的に、29人のうち、誰が欠けてもプロジェクトルミナスにはならなかったと思っていますので、私としては選出したメンバーに後悔はありません。
――ダウンロードコンテンツで、『シンデレラガールズ』から高垣楓、『ミリオンライブ!』から田中琴葉、『シャイニーカラーズ』から田中摩美々の3人が追加で実装されました。彼女たちが主役となるような追加ストーリーや楽曲も配信されましたが、彼女たちを実装することになった経緯を教えてください。
久多良木
DLCで新たなアイドルを配信したいという思いは、開発当初から持っていました。『ワンフォーオール』(2014年発売)のときにもDLCでアイドルを追加するという試みを行っています。そのときはライバル(対戦相手)という形だったので、今回はプロデュースできるようにしたいと考えて、2周目の本編でプロデュースできるようにしていますし、追加ストーリーも楽しめるようにしています。
ダジャレと歌っている姿のギャップが魅力的な楓さん、実直で真面目な琴葉さん、独特な空気感を持つ摩美々さん、追加アイドルに関しては、どのアイドルも追加ストーリーや新曲で存在感を見せてくれました。ただ、『シャイニーカラーズ』は立ち上がってすぐのブランドだったこともあって、誰にすべきかいちばん難しかったですね。もちろん、ほかのふたりも難しい判断でしたが、新曲に紐づく形でも発表できたので、よかったなと思います。
――収録楽曲の反響もお聞きしたいです。本作には、『THE IDOLM@STER』や『お願い!シンデレラ』、『Thank You!』といった各ブランドを代表する楽曲に加えて、各シーズンをテーマにした新曲なども収録されていました。リソースやコストの制約がある中でも、かなりバラエティー豊かだと感じました。
久多良木
ありがとうございます。既存の楽曲は、各ブランドの代表曲といいますか、ベストアルバムにも入るであろう楽曲を3曲ずつ選んで収録しました。歌唱や開発工数の問題もあってすべての曲では難しかったのですが、4つのブランドのアイドルが一堂に会するせっかくの機会だったので、コラボ歌唱を入れています。『お願い!シンデレラ』であれば『シンデレラガールズ』と『ミリオンライブ!』のメンバーが、『Spread the Wings!!』なら『シャイニーカラーズ』と『アイドルマスター』のメンバーが、といったようにです。また、楽曲でのコラボを物語の展開にも絡めたいということで、『スタマス』のストーリーが生まれました。
新曲に関しては、当然あるべきだと考えていましたが、どういう形の新曲にしようかというのは悩みました……。当時のスタッフも交えて何度も相談したのを覚えています。『アイマス』にはいろいろなタイプのアイドルがいますし、本作にも登場しています。どう割ろうかと考えた時に、新曲では完全にコラボさせたほうが楽しいだろうなと考えて、『SESSION!』や『夏のBang!!』といった、季節に合わせた事務所混在の新曲を作ることになりました。どの楽曲も季節が感じられますし、いい感じに仕上げていただいたなと自分でも手応えを感じています。
――新曲は、どのように作曲を進めたのでしょうか?
久多良木
新曲は日本コロムビアさんと、バンダイナムコミュージックライブさん(※当時はランティス)のタッグで作曲したのですが、こちらからテーマだけは事前に資料でお渡しして、そこからイメージに合うものを作詞/作曲家さんに仕上げていただきました。
ネタバレ注意! 『スタマス』メインストーリーの核心部分を聞く
――エンディングテーマのような冬のシーズン曲『GR@TITUDE』について、発売前はお話ができないことが多かったと思いますので、制作秘話がありましたら改めてお聞きしたいです。
久多良木
『GR@TITUDE』は、『スタマス』のテーマソングにしようと最初から決めていました。そのため、29人のアイドル全員が歌える楽曲になっています。ただ、『GR@TITUDE』はメインストーリーの最後で披露される楽曲ということもあり、最初に歌う『SESSION!』がテーマソングだと思っている方が多いのかなと(笑)。もちろん、人それぞれが感じていただいたもので間違ってはいません。『GR@TITUDE』の作詞は森由里子さん、作曲は神前暁さんにお願いしました。おふたりのタッグの曲を聴きたいということで日本コロムビアさんにご調整いただき、実現したという経緯があります。
『GR@TITUDE』の歌詞は、プロジェクトルミナスの歩みを思わせるような内容になっていて、私たち開発スタッフも感銘を受けたところがありました。そのフレーズが、「届けたい さよならじゃなくて Yes! ありがとう」になります。このニュアンスをメンバーどうしの会話に入れるなどしていて、メインストーリーの構成にも大きく影響しています。
――『GR@TITUDE』は、2024年3月31日に開催された“PROJECT IM@S vα-liv LIVE -THE LAST STATEMENT!!!-”でも披露されましたよね。『スタマス』の楽曲は、あまりライブで披露されることがなかったので驚きました。
久多良木
『GR@TITUDE』は、『スタマス』の発売直前に開催した“スペシャルトーク&ステージ”や、“バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd”で披露する機会がありましたが、4つの事務所のアイドルが歌う楽曲でもあり、純粋にキャストさんが稼働するライブとなると、プロジェクトルミナスのライブの実現はどうしてもハードルが高くなってしまって……。
ただ、『スタマス』の一部の楽曲は特定のブランドのライブで披露されています。ライブを通して、各ブランドのプロデューサーに知っていただく機会があるのはありがたいなと思いますし、どういう形になるかはわかりませんが、プロジェクトルミナスのライブもいつかは実現させたいなというのは叶えたいことのひとつです。
――ライブといえば、心白と亜夜の出演を心待ちにしているプロデューサーも多いと思います。
久多良木
じつは、この記事を皆さんが読まれているころには発表されていますが(※取材時は未発表だった)“961 PRODUCTION presents 『Re:FLAME』”追加公演に、心白と亜夜がゲスト出演することが決まりました。まずはライブという形で、心白と亜夜がステージに立ちますので、ご期待いただければと思います。
――ふたりのユニット“アルバノクト”は、もともと961プロ所属ですからゲスト出演するのはピッタリだと思います(笑)。
久多良木
そうなんですよ(笑)。
新アイドルの心白と亜夜の誕生秘話にも迫る
――ここからは、メインストーリーの核心的な話題である、新アイドルの心白と亜夜についていろいろうかがいたいと思います。そもそも、心白と亜夜はどのような経緯で登場することになったのでしょうか?
久多良木
『ワンフォーオール』の玲音、『ステラステージ』の詩花のように、『アイマス』シリーズではライバル側に新アイドルが登場することが多かったです。『スタマス』でもプロジェクトルミナスに相応しいライバルとして、961プロに所属する玲音と詩花、そして新アイドルの亜夜を組ませたユニット(後のライバルユニット“ディアマント”)を登場させる構想がありました。
ただ、坂上に進捗を報告したところ、「ライバル側にだけ新アイドルが登場するのは前作の『ステラステージ』と同じだから、合同ユニット側にも新アイドルがいたほうがいいのではないか」とアドバイスをいただきまして。それはそうだなと思い、検討した結果、心白を登場させることになりました。
亜夜の開発資料
――坂上さんのアドバイスがなければ、心白は誕生していない可能性もあったかもしれないと。
久多良木
そうかもしれません。それで自然と、メインストーリーでは心白と亜夜を対比させることになり、ふたりのキャラクターの設定を作っていきました。イメージカラーは、心白がうすい黄色系の白で亜夜が黒になっていて、月と太陽のイメージの対比になっています。これはあとで知ったのですが、開発チーム内で心白はムーンライト色と呼ばれていたみたいです。
――複数のブランドのアイドルが登場する『スタマス』で、プロデュース可能な新アイドルを登場させることへのプレッシャーや迷いはありましたか?
久多良木
(しばらく考えて)難しいですね……。プレッシャーはあったかもしれませんが、新アイドルをプロデュースできるようにするなら、“天才の挫折と復活”をテーマに描きたいという考えがありました。その点は、迷いはなかったと思います。そのテーマで、メインストーリーを進めていくにあたって、心白は最終的にどうなるのがいいのかを考えました。
心白についてはさまざまな可能性を検討しましたが、最終的にはこの物語にとってもっとも自然、かつベストな結末であるべきだと考えました。それは“アイドルをやりたい”、“亜夜といっしょに”です。どうすれば心白の未来が明るくなるのかと思考を巡らせたときに、亜夜とふたりで“アルバノクト”(かつて961プロに所属していたころの心白が亜夜と組んでいたユニット)として活動していくのがいちばんいいのではないかと思いました。それでシナリオスタッフの知恵を借りて、『スタマス』のメインストーリーが完成しました。
――4つのブランドから個性豊かなアイドルが登場する中で、心白の個性はどのように考えていったのでしょうか?
久多良木
心白はプロジェクトルミナスの29人目のアイドルということで、ほかのアイドルたちの魅力に埋もれない個性として、透明感を感じてもらえるような女の子を目指しましたが、自然と描きたい物語に合わせてキャラクターもできあがっていきました。プロデューサーに投げかけられる心白の謎が、物語に引き込んでくれるいいストーリーになったのではないかなと思います。メインストーリーの8月で、心白の問題が解決する山場になっているのですが、そのエピソードはとくに力を入れて描きました。
心白の開発資料
――そんな心白ですが、もともとは961プロに所属していましたよね。961プロで活動する心白の姿はあまり想像できないのですが、心白が961プロに所属することになった経緯や理由は……。
久多良木
メインストーリー中で描かれている通り、心白の母、眞弓が961プロに預けました。これ以上はゲームでは語られていませんが、恐らく目利きの黒井社長が、いち早く心白の才能に気づいたのだろうと考えています。また、眞弓としても、歌っているときにいちばん素直で楽しそうにしていた子どものころの心白に、自分らしく、自分に素直に生きてほしいと願い、黒井社長に託したのだと思います。
――なるほど。先ほど、心白は亜夜とふたりで“アルバノクト”として活動していく未来を考えたとお話しされていましたが、心白と亜夜を組ませることは、最初から考えていたのでしょうか?
久多良木
メインストーリーは、心白は亜夜のユニットが解散しているところから描こうと考えていたので、ふたりを過去に961プロでユニットを組んでいたということは最初から決まっていました。
――“アルバノクト”の持ち歌『EVER RISING』は、どのような思いを込めて作ったのか教えてください。
久多良木
我々としては、心白と亜夜がふたりの特別なライブで歌う特別な曲として、ふたりの対比やいっしょにいたいという気持ちを入れていただけるように、開発チームからテーマをお渡ししています。
楽曲自体は、ゲームシナリオの完成よりもかなり前にいただいたのですが、心白と亜夜のふたりが歌うイメージに本当に合っていて、多くの方の心に残る1曲になりました。仮歌を聴いたある開発スタッフから、「すごくいい曲で、もうエンディングに流せばいいんじゃないか」という連絡がきたのはいまでも強く印象に残っています(笑)。
とてもステキな楽曲に仕上げていただいたので、シナリオ中では、かつて黒井社長が捨てた可能性として、強いコントラストの輝きである白と黒のユニットのアルバノクトの楽曲として描かせていただきました。ステキな曲にしていただきました作詞・作曲家の方々、楽曲の制作に携わっていただいた関係者の皆さまには、本当に感謝しています。
――“アルバノクト”は、2周目に登場する展開にも驚きました。当時、メインストーリーを1周だけ遊んで気づかなかったプロデューサーも多いと思います。
久多良木
今回はひとつの大きな物語を描く作品を目指していましたので、プレイ時間が過去作のように短くはならない想定でした。とはいえ、長くなりすぎてしまったのですが(笑)。『スタマス』もRPGと同じように、2周目まではやりこみ要素として遊んでほしいという思いがありました。それで2周目も楽しめる要素はあったほうがいいだろうと考えて、エンディングの分岐や、961プロの“ディアマント”の3人が一部プロデュース可能にしたり、歌い分けの制限を外して自由にメンバーを編成できたりするようにしました。
シナリオの変化も2周目の要素のひとつとして実装していますが、プロットを考える段階で、961プロの“ディアマント”といっしょに合同ライブをするというアイデア自体はあって。そのアイデアをもとに、マルチエンドのような形でシナリオを作っていきました。1周のプレイが長いゲームなので、そちらのエンディングを観られていない方もいらっしゃるかもしれません。
2周目に心白と亜夜の顛末を観られるようにしたのは、いまでも正しかったのかどうか自信はありませんが、最初に見るエンディングは、心白がこの先はわからないが一歩を踏み出す、という結末であることに意味はあると考えていました。アルバノクトの件は、気づいてくれたプロデューサーの方は楽しんでくれていたようなので、実装してよかったなと思います。
――2周目をプレイしたときに驚いたのを覚えています(笑)。ちなみに本作はゲーム実況などを行う際にプレイできる範囲に制限が設けられています。発売から約3年が経過しましたが、範囲などを変更する予定はありますか?
久多良木
ちょうど3周年にあわせて制限をなくすことにしました(※)
※10月7日にゲーム実況ポリシーが改定され、すべての範囲の実況プレイ、配信が可能に。ただし、特定の場面においては、‟ネタバレ注意“の記載が必要になるので、詳細はゲーム実況ポリシーをチェックしてほしい。
――これまでは、8月以降の展開やDLCなどについて、ゲーム実況に限らず、SNSなどでも少し触れ辛い空気もあったので、これを機にまた盛り上がるといいですね。
久多良木
これまでご協力いただきありがとうございました。ぜひ、これを機会に改めて遊んでいただけるとうれしいです。
――話を戻しまして、心白関連では、母親の眞弓も個性が強くて印象に残りました。眞弓は高木社長や黒井社長と同じく、シルエットの姿で登場しますが、設定上はイラストなどが存在したりするのでしょうか?
久多良木
眞弓のイラストはなく、シルエットのみになります。
――眞弓は作中では大女優として語られています。高木社長や黒井社長とは旧知の仲のような雰囲気もありましたが、本編で語られていない過去の設定などはあったりするのでしょうか?
久多良木
ゲームで描かれている通り、眞弓と高木社長はお互い業界が長く知った仲であり、眞弓と黒井社長は心白や亜夜を中心とした過去があります。じつはこの3人の昔の設定は関係性については深くは決めていませんでした。高木社長と黒井社長が現役世代のときに、眞弓も若く現役であり、そのときに3者の交流があった。シンプルにいえば、同世代の業界人と考えています。
――眞弓といえば、2周目の物語で “0936(おくぞら)プロ”を設立します。事務所の名前は、765プロや283プロなどと同じように考えられたと思いますが、数字を3ケタにそろえなかったのには、なにか理由があるのでしょうか?
久多良木
意味のある名前にしたかったので、心白と眞弓の名字の奥空(おくぞら)から事務所名は決めました。『アイマス』の事務所は基本的に数字をあてがうので、どんな数字にしようか考えたときに、正直、4ケタになることに迷いはあったのですが。ただ、この先がどうなるかわからないものの、『アイドルマスター』として新しい展開になるといいなと考えたときに、アイデアのひとつになればいいなと思い切って“0936”という4ケタの事務所名にしてみました。
――最後にこの先の展開に少し関わることではありますが、ほかの作品で心白や亜夜の活躍を見たいと考えているプロデューサーも多いと思います。なにか決まっていることはありますか?
久多良木
期待してくださっているプロデューサーの皆さんには申し訳ありません。何がしかいい形でアイドルとして活躍の場を広げられないかということは考えているのですが……。
ひとまず、ふたりがゲスト出演する『Re:FLAME』の追加公演をお楽しみいただければと思います。このライブが好評で、今後もステージに立つ機会があれば、その先も……という展開も考えられるのかなと。そういった展開を続けながら、虎視眈々と機会を狙っていきたいなと考えています。
改めてとなりますが、“アイマスエキスポ”での心白との謎解きなども含めて、ゲーム以外のところでも展開を広げつつ、家庭用の『アイマス』も盛り上げて機運を高めていきたいです。