本作は過去と現在を行き来しながら、30年前の未解決事件を調査していくミステリーアドベンチャー。『Fit Boxing』などで知られるイマジニアが開発会社トイボックスと組み作り上げる新機軸のタイトルで、プロローグ+全10話+αで構成された連続ドラマ仕立てで物語が進んでいく。
現代パートは、美麗なイラストで描かれた世界を舞台に人気声優によるフルボイスで展開。過去パートは少し変わったドット絵で表現されており、昔ながらのコマンド選択式アドベンチャーとなっている。
本稿では、イマジニア澄岡和憲社長へのインタビューをお届け。本作の開発経緯や現状の完成度、今後のゲーム事業などについて訊いた。
(聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦)
澄岡和憲 氏(すみおか かずのり)
イマジニア代表取締役社長兼CEO。大学卒業後、新卒でイマジニアに入社。2003年に役員になり、2006年には社長に就任。2016年、子会社であるロケットカンパニーを吸収合併し、コンシューマーゲーム事業を管轄。文中は澄岡。
開発のきっかけは『Fit Boxing』が大ヒットしたこと。澄岡社長が自ら60000字のシナリオを執筆
そして、久しぶりの家庭用ゲーム機向けタイトルとなった、初代『Fit Boxing』(2018年/Nintendo Switch)が販売本数100万本を超えるヒットとなりました。
――久しぶりに出したゲームがミリオンセールというのはすごいですよね。『Fit Boxing』はいまどれぐらい広まっているんでしょうか?
海外では『Fitness Boxing』という名前で発売しているんですけど、北米、ヨーロッパ、それからアジア圏でも比較的プレイしていただいてる方が多いなっていう印象を持っています。トータルの販売本数では海外のほうが高いかなと思います。
――ちゃんとグローバルで評価されてるんですね。
――では、話を『ミステリーの歩き方』に戻しまして、改めて本作の企画経緯を教えてください。
そこで、私自身はちょっと業界から少し離れてしまっていたのですけど、子会社で長くゲーム事業を続けてくれていたメンバーを中心に、外部からも新しい仲間も入れてイマジニアとして創業時の事業である家庭用ゲーム機向けのタイトルでもう一度本腰を入れて勝負してみたいという気持ちになりました。これが最初のきっかけです。
――澄岡さんの気持ちが強かったんですね。
最近、イマジニアで仕事をしている人には「家庭用ゲームは子会社が担当する事業なんじゃないの?」みたいな空気感があったんです。ですから「いや、イマジニアにとってゲーム事業は大事だぞ」と改めて認識してもらうためにも、自分が先頭に立って進めることに決めたんです。
Nintendo Switchで『Fit Boxing』をこんなに評価していただいたのはチャンスだな、もう一回戦ってみたいなという風に思えましたね。
ただ、そうは言ってもこの業界で戦っていくためには、やはりいいゲームを作れる体制がなければダメなんです。たとえば、大手企業はヒット作をちゃんと持っていてその続編を出しつつ、そのうえで新しい作品に挑戦するという体制づくりをしています。うちも『Fit Boxing』はいいんですけど、それ以外の新しい企画でヒット作を作らないとやっぱダメだよね、と考えています。
そこで、会社としてもう一回家庭用ゲーム機向けタイトルを強くしていくために、全社員を対象に、企画の募集を行ったんです。もちろん強制ではないですよ(笑)。すると、(開発ではない)管理部門の方が企画をいろいろ出してくれたりとか、多くの方から企画が出てきたんです。やっぱり社内にゲーム好きな人がたくさんいるんだなと実感できて、とてもうれしかったですね。
社員数が少ないので、「この仕事やらされるのかな、社長に直で命令されて仕事させられるのかな」ってビビっていた人もたぶんいたと思うんですけどね(笑)。
――社内公募、社内コンペで企画を募集されたんですね。
――その結果はどうだったのですか?
――つまりこの『ミステリーの歩き方』は……。
でも、「アドベンチャー作品ってシナリオが大事だし、作るとなるとたいへんだと思いますけどね」とかいろいろ言われたので、私もシナリオ制作の経験はありませんから、誰かといっしょにやらないと完成できないなと思い、そこから協力してくれる方を探し始めました。
ただ、イマジニアは家庭用ゲーム機向け作品の開発からしばらく離れていたので、いろいろなパートナー会社も開拓中という時期だったんですよ。
自分に経験はない、だけどすぐに協力会社は見つからない、という状況でしばらくいたのですが、じゃあわかったと、いまできることは何だと思い、「書いたことないけど、自分で書いちゃおう」という心境にいたりまして、まずはシナリオを12000文字ぐらい書いてみました。
――試しに書いてみたにしてはなかなかの文字数ですね。(※この原稿は約10000字)
最初は舞台を東京メインで書いてたんですけど、「東京ではあまり盛り上がらないと思うんですよね。たとえばリゾート地……軽井沢とかどうですか?」という意見が出てきて、そこでもう1回ゼロから60000文字ぐらいまで書きました。
――急に増えましたね!
結果、「この60000字は全部ボツにされてリライトになってもかまいませんから作ってください」と言いながら、実際にトイボックスさんと作ることになりました。
――じゃあ、シナリオ原案は澄岡さんの名前がちゃんと入っているんですか?
――残念(笑)。でも、その60000文字がベースになって、今回の『ミステリーの歩き方』の舞台設定とかに活かされているんですよね。
――今回のゲームに対する澄岡さんの立ち位置はプロデューサーということになりますか?
――昨今、ご自分でそこまでゲーム制作にどっぷり関わることって、なかなかないですよね。
過去と現在を行き来するドラマ形式のミステリーアドベンチャー
大学で心理学専攻のゼミに所属している主人公たちが、30年前の未解決事件を調査していくという入りになります。ですが、じつは主人公たちがそれぞれ秘密を抱えていて、事件を調査していく中で次第にそれが明らかになっていく……という作りになってます。
ゲームとして、事件の真相を調査していくのが主軸ですが、連続ドラマ仕立てで話が進むにつれ、何気ない会話の中で登場人物たちの胸の内が少しずつわかっていくようになっていきます。
事件の謎がだんだん深まっていって、彼らの抱える秘密や考えかたの違いがプレイしていると気になってくると思います。それが、どう展開して明らかになってくのかという点も、主軸の事件解決とは異なる魅力になるように作ってみました。
なので、ゲームとして参加していながら、一部ドラマを見ているような感覚も楽しめるんじゃないかなと思います。臨場感を出すためにも、メインとなる現代パートはフルボイスで用意していますので。
――なるほど。ゲームとしては基本一話完結型で進んでいくけど一方で中盤、後半になってくるとまた別の大きい謎だったり、登場人物の秘密が明らかになっていく感じなんですね。
まずはアバンタイトルがあって、オープニングがあって、本編が始まって、その章をクリアーしたらエンディングがあって、最後に次回予告もある…といった風に展開します。
それから、これも謎のひとつなのですが、主人公がなぜか過去視の能力を持っています。自由に過去を見られるわけではないのですが、限られた時間、過去を見られるんですね。
現代のパートでは、美しい色彩の背景で、物語を中心に、物を探したり会話の中で選択肢を選んで話が進みます。ですが、ある時点で視点は過去へ戻り、主人公だけが30年前に起きた事件の真実を知ります。
ただし、現在に戻ってきた主人公は過去視の能力を隠しているので、それをそのまま言うわけにはいかないんです。そこでじょうずに選択肢を選びながら事件関係者の関心を真実に向けさせていくという流れです。
過去のパートでは、30年前の雰囲気を出すために画面がドット絵テイストに変わります。昔のアドベンチャーゲームに多かった、コマンド選択式で物語を進める仕組みにしているんですよ。現代ではすごく綺麗な画面でフルボイスなんですが、過去に飛ぶとドット絵にコマンド選択という、昔ながらの雰囲気を組み合わせて作っています。
最初は、私もコマンド選択式アドベンチャーが好きなので、それでいいんじゃないかなと言ったのですが、「いまの時代っぽくないんじゃないか」という意見が出ました。
そこから、一生懸命考えてくれた末、コマンド選択式アドベンチャーのよさもありつつ、現代パートでは現代風なゲーム体験が味わえるという、ひと粒で二度おいしいアイデアを出してくれたのかなと思っています。
――過去と現代を行き来しながら謎を解いていくということですね。アドベンチャーゲーム制作では悩みどころかなと思いますが、プレイヤーの行き詰まり対策についてはどのようにしてるんでしょうか。
現代のゲームとしてそのあたりをどうするかについてはすごく悩みました。今回はドラマ仕立てにしていることもあり、比較的進行に行き詰まることなく物語が進められるようにしています。いろいろ推理するシーンはありますが、間違っていてもストーリーは進むんですよ。
また、主人公たちは研究課題として現地に来ているので、大学生らしく各話ごとに採点表が出ます。SとかAのような評価が出るようになっていて、それらがすべていい結果になれば後でいいことあるかもみたいな構造で後からやり直すこともできます。
――なるほど。推理が100%正しくなくても進むけど、後で「あの推理は間違ってたんだな」ということもプレイヤーはわかるようになっているんですね。1話あたりのプレイ時間はどれくらいになるんですか?
ミス研の大学生が事件を調査
研究会のメンバー4名を中心にお話が進んでいき、途中でなぜか主人公のことを心配した妹が合宿まで追い掛けてきたり、なぜか付きまとってくる刑事がいたり、なぜか独自に事件を調査している人がいたり、当時起きた未解決事件に関わった家族の皆さんだったりさまざまな方々が登場します。
キャラクターについては、いまの段階では3名ぐらいしか発表していませんが、主人公は米内佑希さんに担当していただいています。それから非常にクレバーで推理をリードしていくようなヒロインは石川由依さんです。
――本作はいわゆるアドベンチャーゲームになると思いますが、どういった方に遊んでほしいか、アプローチしたいユーザー層というのはどのような方を想定されていますか?
合わせて、最近はゲームしてないけど昔の人気アドベンチャーゲームを遊んでいた方にも楽しんでもらえるんじゃないかなと思いますので、その辺の皆様に遊んでいただきたいです。
――開発はトイボックス、ディレクターは金沢十三男氏がやられるということで。
――ちなみに、さきほどのお話の社内で企画コンペを行い、実際に開発が始まったのはどれぐらい前の話なんですか?
――では、開発は予定通りに進んでいる感じなんですね。
でも、いいものができたときが発売日だと思いますので、楽しく作らせていただいています。
追加コンテンツは検討中。海外展開はまだ考えていない
――では、改めて現状のゲーム完成度と発売日について教えてください。
発売日は2024年12月12日を予定していますので、そこにしっかり間に合うように準備したいなと。合わせて、シンプルなものですがキャラクター設定資料を予約特典として用意しようと思っています。
――昨今、発表から発売ってどんどん短いスパンになってますけど、10月頭にタイトル発表ってけっこう垂直立ち上げで突っ走るみたいな感じですよね。
――なるほど。プラットフォームのハードはNintendo Switchのみですか?
――海外展開の予定は?
――まずは、日本のSwitchユーザーしか遊べないゲームになるということですね。
最初から3部作構想で作成。2作目、3作目では登場人物のその後を描く
もちろん、1本目が売れたから続編作ろうかっていう考えかたもあると思いますが、ある程度構想があって最初の初期設定から作っていったほうがお話として完成度が高くなるんじゃないかなと思っていまして。
最初は1本で作ろうと思っていたんですけど、いろいろ話し合っているうちに、これ3本ぐらいで作ったほうがおもしろくなるんじゃないのかなっていう話がだんだん出てきて、せっかく力を入れてやるのであればそうしようという話になりました。
ただ、3部作だとこの1本がおもしろくないとつぎはないから、この1本できっちりいいもの作ろうと。作ったうえで2部、3部は構想ができているので、早めに皆さんにお届けできるようにしたいです。また、1作目が終わったときに何かしら皆さんからのご意見があればそれも2作目、3作目に反映していきたいですね。
――もちろん、今回の1作目『ミステリーの歩き方』もしっかりと事件解決はするということですね。そのうえで、2作目を遊んだときに1作目を遊んでるからこその楽しさがあると。
――じゃあ、第1作目が世に出た後で継続してつぎのタイトルにも着手していくことになるのですね。
とはいえ、やっぱりお客様に楽しんでいただくことがいちばんなので、いい企画をまとめてから追加ダウンロードをやったほうがいいのかなって現状は思ってますね。
ただ、「これぐらいの期間、予算で作ったらこのくらい売れて、これぐらい儲かるだろう」みたいなことが先行しちゃうとなかなかゲームっておもしろくならなんですよ。
もちろん私も予算や会社には責任を持っていますけど、まずはきちんとおもしいろものを作るということが大切。社長が道楽でやってるんじゃないぞ、ちゃんとやるんだぞって空気を、私自身から出しながらやっていきたいなと思ってます。
――『ミステリーの歩き方』がうまくいって、また新しい柱になったら違うジャンルだったり、新しいタイトルにもチャレンジできるかもしれないですね。
当社は『Fit Boxing』とか教育系、あとキャラクタービジネスを得意としているのでその辺はもちろんやるんですけど、いわゆるゲームらしいところで他社とは違う切り口で新しいものに挑戦していきたいなと思ってますね。
――ちなみに、スマホ事業はこの後どういう風に展開していくんですか?
ただ、みんなから新しいアイデアが出てきたら、それはそれでまた考えていきたいです。スマホのほうも新作を準備していますので早く発表したいですね。
――最後に、今回の『ミステリーの歩き方』を中心に今後のゲーム事業についての目標や、ゲームファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
昭和の時代にファミコンソフトから起業した会社、そのイマジニアが新しい形でゲーム作りに挑戦していきますので、その辺をぜひ注目していただけたらうれしいです。これからも張り切ってやっていきますので、ぜひともよろしくお願いします!