須田寓話 51FABLES

類を見ないセンスで国内外のファンから熱狂的に支持されるゲームクリエーター、須田剛一氏によるプロット・中短編・メモなどを断片的に掲げる連載。のちの作品に繋がるもの、エッセンスを残すもの、まったくの未完の欠片など、須田ワールドを形づくる珠玉の原石の数々。SUDA51のアタマの中を覗き込め。

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須田剛一による連載新展開!【須田寓話】まっ赤な女の子 #1(1/2)

2016-02-05 17:00:00

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makka05

00.00:転校生

僕は君鹿守(きみしかまもる)。

早速だけど聞いてほしい。
馬鹿げた話だけど、聞いてほしいんだ。
たとえ誰も聞いていなくても。

今日転校生が来た。
都会から来た転校生は、透明人間のように透けていた。
クラスの男子は、ざわめく。
理由は僕のとは違っていて、彼女が美少女だったこと。
転校生が誰に似ているか、それぞれ好きな芸能人の名前を囁きあっている。

だけど僕の目には、
透けた先の肌に真っ赤な血が流れている空気人形のように見えた。
ドクドクと、生々しく。
透明が解除されると、生身の転校生の姿をやっと認識できた。
血みどろの美少女が教壇の前に立っている。
どうやら、僕にしか見えていないらしい。
血が。

先生が何を話しているかも、
転校生の挨拶の言葉すらも耳に入ってこなかった。
ただただ、空気の重く震えるような音が耳を支配する。
ズズズズ。ズズズズ。
スコットランドのバンドでこんな音を聴いたことがあった。
あの変な感じの音楽に似ている。

あっ、しまった。
転校生と目が合った。
音が無音になった。
僕をジッとみている。
凄い血。
うわ~ダラダラ流れてるし。
怖い怖い、勘弁してよ。
無理無理無理、僕は霊感ないよ。

嫌な予感がした。
先生がこっちを見ている。
「じゃあ席は…、君鹿の横に座って」
マジかよ…。

僕は無視を決め込んで、窓の外の田舎町を眺める。
赤い女には気をつけろ、死んだ爺ちゃんの口癖だ。
今のは嘘、そんな口癖聞いたことない。
僕の動揺がそんな嘘をつかせるのかどうかはわからないけど、
爺ちゃんの本当の口癖は、

“守、いいかい?
おまえは大切な人を守るために生まれてきたから
守という名前なんだよ。
大切な人を守る男になるんだ”

たぶんこんな感じだったと思うけど、
だから約束は守っている。
女一人で僕を育ててくれた母さんの事を、
僕が守ってるつもりだ。
守れているかどうかは別としてね。

「私を守って」
「え?」
「守って、お願い」

まっ赤な女の子が(あっ、転校生のね)、僕を見つめていた。
結構近い距離。
近くでみると、すっごく可愛い。
血だらけでまっ赤だけど。

僕に3センチの勇気と根性があれば、
この子とファーストキスできる。
教室でそんな事したら、僕の人生は大きく変わるだろうな。
学校で噂の男になって、注目を浴びて、
4組の輩連中に呼び出されて、いじめの日々がスタートだ。
そうされたら、小坂の事闇討ちしよう。
あいつ嫌いなんだよね。
細い目で睨んで、いじめのターゲットをマンスリーで変えてさ。
もっぴんがやられた復讐してやるんだ。
あ、もっぴんは友達の望月くん。
学校の帰りに、4組の輩に狙われた。
小坂に前歯を折られちゃって、可哀想でさ。
結構大変なんだよ、中学生もさ。
敵は多いし、常にトラブルの火種が転がっている。
育ちも価値観もバラバラのガキ共が集団化されれば、
何やったってうまく行きっこない。
あっ、ガキって僕も含めてね。

圧倒的な人間力でガキを統率する教師なんて、実際には存在しない。
するかもしれないけど、少なくともこの中学にはいないって断言できる。
時間を早く流すだけの為に、授業を片付けている。
クラスのみんな、いやもっとかな、
学校中の生徒全員が理想の教師はアニメかマンガかラノベに求めている。
現実世界に期待なんてしてない。

あ~あ、なんか憂鬱になってきちゃったな。

この転校生、まだこっち見てるよ。
東京でアイドルとか読モとかやってたのかな?
誰かに似てる。あの芸能人だ。
あのドラマに出てた…、何だっけ。

「聞いてる? 私を守ってください」
「はい、守ります」

条件反射で即答してしまった。
これが、悪夢のはじまりだった。


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