須田寓話 51FABLES

類を見ないセンスで国内外のファンから熱狂的に支持されるゲームクリエーター、須田剛一氏によるプロット・中短編・メモなどを断片的に掲げる連載。のちの作品に繋がるもの、エッセンスを残すもの、まったくの未完の欠片など、須田ワールドを形づくる珠玉の原石の数々。SUDA51のアタマの中を覗き込め。

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須田剛一による新連載第3回! 【須田寓話】killer is dead ~殺し屋は死んだ~ #3(1/2)

2016-01-15 17:00:00

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#3:kills 5th

●オレは五日後にぬ─。

 カーティス・ブラックバーンの気配は感じない。ひょっとすると、もう悪魔(ダン)が処理(デリート)したのかもしれない。そんならそれで、悪魔(ダン)から接触があるはずだ…。今は落ち着いて待つしかない。静かにそっと。息を潜めて、カーティス・ブラックバーンの殺意を全身で感じるまで、心(オーラ)を極めろ。糞みてェなプライドは、必要ない。しの世界では、されないことが最低限の能力だ。負けを認めることも、実力。そう、俺(クソ)は絶対にカーティス・ブラックバーンをることはできない。認めるしかない、目の前の現実ってヤツを。

 それ以上にだ、悪魔(ダン)にはすでにられたも同然だ。この部屋の扉に立っていた悪魔(ダン)の姿を目視した瞬間、生まれてはじめて失禁した。安打製造機(バットマン)と呼ばれたこの俺様(クソッタレ)が、小便を漏らしたんだぜ? 最悪だ。にてェよ…。だったら、カーティス・ブラックバーンに頼むのが筋だ。残り五日と云わずに、今からカーティス・ブラックバーンに会いに行けばいい。奴のことだ、きっと遠慮なくってくれることだろう。我ながら名案だ。今から支度して、会いにいこう。死装束になるってことだ、一帳羅(タキシード)を着たほうがいいのか?

 

ミルズ:ぬなら 作業着が一番だ
作業中にぬのが し屋稼業の美徳だろ?

バーキン:俺はご免だ
綺麗な衣装(オートクチュール)でにたい性質でな

ミルズ:じゃあ すぐに着替えろ
急げ

バーキン:…で 何なんだ? あ?

ミルズ:いいからよ 俺の忠告を聞くのが賢い奴の選択だ
早くここを出たほうがいい
カーティスにられる前に 眠っちまうぜ!

バーキン:どういう意味だ
適当ブッこいてんじゃねェぞ
情報屋如きが 知った口聞くな ぬぞ…

ミルズ:本当の忠告だ
頼むから聞いてくれ
ヤバイんだよ アンタ
狙ってるのは カーティスだけじゃねぇ

バーキン:売れっ子だな

ミルズ:ああ アントワープの連中が昨日の船でココに降りた

バーキン:週末の予定だろ?

ミルズ:だから ヤバイんだよ

バーキン:何の目的なんだ

ミルズ:例の薬品だ
投与した実験体を 処理してんだよ
残ったのはアンタだけだ
ココも 時間の問題だ

バーキン:無能者(クソ)が! 早くそれを云えよ

ミルズ:だから忠告を云いに来たってこった

バーキン:…ミルズ テメェの車は何だ?

ミルズ:リンカーンさ 当たり前だろ

バーキン:じゃあ 今停ったあの黒塗りの
如何にも今からアナタ方をりに来ましたって
厳つい表情(ルックス)の車は 何?

ミルズ:ビンゴ…かな?

 抜群のタイミングで、銃声が響いた。

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7月3日 7:05 pm
シゲキ・バーキンのアパートメントにて。


●クリストファー・ミルズの計らいで、高級ホテルに案内された。

 奴は、俺をホテルのロータリーまで送ると、もの凄い勢いで去っていった。何の挨拶も無しにだ。普通、一緒に修羅場を潜り抜けた同志ってのは固い友情で結ばれるって聞くが、アイツにはそういった人間としての基本的な性能(スペック)に欠けている節がある。育ちが悪いってのは最悪(クソ)だ。施設の出は、無駄にハングリーで骨が太い。過度な過信を纏い、勝手で勝気だ。眼の奥の、訝しさを隠せないでいる。根の深い恐怖を抱えている奴は、皆、こんな眼をしている。アレだ。アイツに近い。あの郵便配達人(ポストマン)も同じ眼をしていた。そして、あの悪夢(サマヨル)も、だ。この連中には共通する何かがある。無意識には分かっちゃいるが、その“何か”がわからない。何だ? あの眼に、引っ掛かる…。それが無意味なのは、知っている。だが、気になる。

フロントマン:バーキン様ですね? お伺いしております

バーキン:手際がいいな

フロントマン:勿論です
ブラックバーン様の大事なお客様です

バーキン:…誰の 手配だって?

フロントマン:カーティス・ブラックバーン様が最上階でお待ちです

バーキン:ミルズか
嵌めたな

フロントマン:どうぞ ご案内します

バーキン:悪いが 急用が…

フロントマン:ブラックバーン様は とても気が短い方です
どうぞ

 全身の毛穴が殺気を感じた。この感覚を磨いてきたんだ。カーティス・ブラックバーンは間違いなくこの中にいる。だが、ここは敵の網の中だったんだ。このホテルは奴(カーティス)に支配されている。違うな…。奴(カーティス)の所有物か、簡単な話だ。完全に、アウェーってことだ。目の前に立っているホテルマン(グッドルッキングガイ)は最高の笑顔(グッドスマイル)でこっちを見てるが、でっかいガバメントで狙ってやがる。あの笑顔は、見下した笑顔だ。いつかこいつに天国の笑顔(ヘブンスマイル)を、喰らわしてやる。

 一頻り無念を吐き出したところで、俺は観念という決断をした。このエレベーターの中で、ホテルマン(グッドルッキングガイ)をるのは簡単だが、まあそんなには続かない。カーティス・ブラックバーンに会うことなく朽ち果てる映像(ビジョン)が見える。その選択も悪くないが、心が折れたという言葉がしっくりくる。まあ、奴(カーティス)の殺意のデカさに、気力という気力をごっそり奪われちまった。無気力なダメ人間誕生! 今の俺の現状報告だ。そんな馬鹿野郎(バッドマン)には、従うしか残ってねぇし、それが楽だった。

 ちょっと前の武勇伝を思い出して、少しばかりのカンフル剤にとも思ったが、どうにも荒治療(ドーピング)には適さない。昨日のレアの処理、さっきのアントワープ撃退は、見事な業だったんだ、それだけは認めてくれ、誰でもいいからさ…。

 最上階に到着した。

 

フロントマン:中でブラックバーン様がお待ちです

バーキン:いい笑顔だな

フロントマン:日頃の心がけです

バーキン:素晴らしい(クソだな)

フロントマン:ブラックバーン様、バーキン様をご案内致しました

 部屋は、澄んでいた。カーティス・ブラックバーンの気配は、途端に消えた。この部屋には誰もいない。その程度の嗅覚(ニュータイプの資質)は、俺にもあった。

 

フロントマン:失礼いたします

バーキン:待て どういうことだ?

 ホテルマン(グッドルッキングガイ)は、無言で退室する。グッドな野郎だ。今度、絶対にってやる。絶対に…。絶対に……。

 ありゃ? ヤベェ、下痢(クソ)だ。朝食のシリアルが腐ってやがった、やっぱり賞味期限5ヶ月オーバーは危険だ。心に刻もう、3ヶ月オーバーに留めよう。その決意も一緒に、便器にブチ撒けよう…と、扉を開けたら感動の再会だ。

 

サマヨル:やあ バーキンさん
奇遇ですね

バーキン:サマヨルくんじゃないか!
本当だね
こんな偶然ってさ キミとは運命で結ばれてんだよ きっと
…な 訳がねェだろ?

サマヨル:お元気そうですね
まだ無事に生きてらっしゃる

バーキン:今度は何だ?

サマヨル:基本的にはかわりませんよ
楽園(グリーンランド)に案内してください
んでもに切れませんから…

バーキン:イカれてる…

サマヨル:バットマンには云われたくないですよ
昨晩の打法(スウィング)も最高にキレてましたよ

バーキン:本気で質問していいか?

サマヨル:契約違反ですよ

バーキン:その契約も込みで 質問だ
どこまでれば 許してくれるんだ?
もう俺の負けだ
勘弁してくれ

サマヨル:云ってる意味がわかりません
身元抹消(ノック)をお願いしているだけです

バーキン:消せないから聞いてるんだ
どうすりゃ オマエをれるんだ?

サマヨル:練習が足りないということではないでしょうか?
安打製造機(バットマン)と云えども
日々の素振り(スウィング)が結果に直結します
真の強打者(スラッガー)は 隠れた鍛錬をしているのです
バーキンさんの練習量は いかがですか?

バーキン:…ダメだ
話になりゃしねェ
また 来いよ
俺がられるまで 毎日でも会いに来い!
その度に カっ飛ばしてやるよ

サマヨル:では 楽園(グリーンランド)で待っています

バーキン:また会おう サマヨル

サマヨル:バーキンさん 笑顔が素敵ですよ

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7月3日 1:30 pm
ホテル・ドントムーブ

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