『サイレントヒルf』レビュー。竜騎士07が描く狂気の世界。プレイするほどに不安感の増す悪夢の連続はまさに“『サイレントヒル』”。障子とふすまに恐怖を植え付けられる【若干のネタバレあり】
 KONAMIのサイコロジカルホラーゲーム『サイレントヒル』シリーズの最新作『サイレントヒルf』が、2025年9月25日(木)にいよいよ発売となる。
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 本作は、シリーズ作としては『
サイレントヒル ブック オブ メモリーズ』からじつに12年ぶりとなる完全新作アクションゲーム(※)。1960年代の日本の田舎町が舞台という、シリーズとしては異例の設定が話題となった作品だ。
※ダウンロード無料の短編作『SILENT HILL : The Short Message』は除く。
 本稿では、本作を1周目クリアーまでプレイしたライターによるレビューをお届け。

 最初の印象こそこれまでの『サイレントヒル』とは異なるものだが、遊べる内容はまさに我々が愛した『サイレントヒル』そのもの。シリーズ恒例の魅力である、真相を暴く周回要素もあり、何度もくり返しプレイしたくなる仕掛けが施されている。

 遊べば遊ぶほど、さらにプレイしたくなる刺激的かつ危険な魅力あふれる『サイレントヒル』シリーズ最新作の魅力を紹介しよう。

 なお、
本稿では記事の後半にゲームクリアー後のネタバレを若干含む。該当する部分にネタバレがあることを明記しているので、ネタバレを知りたくないという人は、ご注意を。
[IMAGE]※本稿は、プレイステーション5版で撮影した画像を使用しています。操作方法はプレイステーション5版の初期設定に準拠しています。
PS5『サイレントヒルf』(ebten)

人間の本能的恐怖を刺激する王道の『サイレントヒル』

 前述のとおり、本作は1960年代の日本の田舎町を舞台とした作品。海外が舞台となっていたこれまでの『サイレントヒル』とは異なる雰囲気のゲームとなっている。
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主人公は、女子高生の深水雛子が務める。成人男性が主人公となることが多かったシリーズ作としては珍しい設定。
 だが、本作は間違いなく『サイレントヒル』シリーズの王道と呼べるゲーム内容になっていて、外伝やスピンオフといった立ち位置にはいないと筆者は断言したい。

 タイトルこそ『f』だが、内容的にはナンバリングタイトルを名乗ってもおかしくないほどに『サイレントヒル』の醍醐味にあふれたゲームだ。

 本作でストーリーを手掛けるのは、『
ひぐらしのなく頃に』などで著名なシナリオライターの竜騎士07氏。『ひぐらしのなく頃に』と同じ、昭和の日本、また岐阜県がモデルになった架空の町が舞台という共通点もあり、氏が得意とするサイコホラーの恐怖、グロテスクな表現、人間の本能的恐怖感に訴えかける物語や演出はしっかりと味わえるので、氏のファンの方も安心してほしい。
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 まず、『サイレントヒル』といえば、町中を覆う霧の存在が欠かせない。退屈だが平和な日常を過ごしていた主人公の雛子とその学友たちだったが、突如としてその平穏は打ち砕かれる。急に霧が立ち込め、正体不明の赤い植物が生え、グロテスクなバケモノに襲われる。

 気がつくと周囲に自分たち以外の人間がいなくなり、濃い霧が立ち込めていく……。

 物語冒頭から理不尽とも思える展開の連続。いったいなぜこんな事態になってしまったのか。この先に何がいるのか。生き残ることはもちろんだが、その謎を解き明かすこともプレイヤーの目的となっている。

 物理的にも精神的にも先が見えない展開の連続で、プレイヤーを未知の恐怖がつぎつぎと襲う。少しプレイするだけで、薄暗い場所や曲がり角に恐怖を覚えるようになるはずだ。

 また、プレイ中には、建物の中を探索する場面も。日本の家屋は閉塞感があり、外を歩いているときよりも恐怖感はマシマシ。イベントシーンではない場面で視覚外からに襲われる展開が必ず発生するのだが、その時は悲鳴を上げるほどのビックリ感を味わえるだろう。
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ちょっとだけ開いたふすまが怖い。
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「わざとびっくりさせるためにここに敵を配置しただろ」というシーンもちらほら。開発者の悪意(善意?)を感じる。
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登場するバケモノのデザインも秀逸。『サイレントヒル』らしい、生理的嫌悪感を覚えるような、グロテスクな姿をしたものが揃って登場する。
 また、本作をプレイするうえで注目してほしいのが、恐怖を演出する音の存在。基本的にはBGMは静かなのだが、バケモノが近くにいるとその足跡や物音が聴こえてくる。この音が本当に怖いのだ。

 バケモノに近づかれる前には基本的に音が聴こえるため、少しプレイしていくと音が聴こえるたびにビクっとするようになるはず。家屋内を探索しているときに聴こえる物音の怖さは格別。これは戦闘の予兆ではなくプレイヤーをびっくりさせるための演出なのだと思うが、本当にやめてほしい(やめないでほしいという矛盾めいた感情も)。「誰もいないはずなのに、誰かがいるような気がする」というシーンの連続は、まさにジャパニーズホラーの真髄だと言えるだろう。
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「いま何か音した!」みたいなシーンは、プレイヤーが油断したときに訪れる。
 『サイレントヒル』といえば、表世界と裏世界(明言はされないが、異世界や精神世界のような場所。オフィシャルな呼び名ではない)を行き来するのもおなじみだが、本作にも裏世界は存在する。

 過去作だと、プレイヤーの深層心理を具現化したような場所が多く、わりとグロテスクな雰囲気の場所が多かったが、本作の裏世界は日本の社殿のような形をしており、荘厳な雰囲気漂う場所になっている。
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本作での裏世界は、怪しくも神々しさを感じる。
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むしろ、表世界のほうがグロい。
 本作の雛子も、表世界と裏世界を行き来しながら、この惨状からの脱出を目指すことになる。裏世界では狐のお面をかぶった正体不明の人物に導かれ、さまざまな謎解きを行いながら進んでいく。

 彼はいったい誰なのか。その目的はなんなのか。そもそも雛子はなぜここにいるのか。多くの謎を抱えながら、プレイヤーは危険なバケモノがあふれる場所を探索することになる。自分はいったい何をしているのか、先に進んでいくと戻ってこられなくなるのではないか。プレイすればするほど、そんな不安感が膨らんでいき、言いようのない恐怖感を味わえるはずだ。
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足りない物資に終始焦りと不安が増す

 『サイレントヒル』はアクション性もある。主人公はバケモノと戦いながらゲームを進めていくのも恒例だ。本作でもバケモノへの対抗策はあり、雛子は非常に活発(というか好戦的といったほうがいいか?)な性格で、鉄パイプや包丁、バットなどを武器にして殴りまくれる。
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女子高生の戦いかたじゃない……。
 こちらもシリーズではおなじみな要素だが、本作での武器や回復アイテムは基本的にマップを探索して拾い集める必要だある。回復アイテムを使うと消費するのは当然のこととして、武器にも耐久度があり、ゼロになると壊れてしまうのが特徴。耐久度はアイテムで回復できるがこのアイテムも無限に拾えるわけではないので、戦い続けていくと武器がなくなり、バケモノへ対抗できなくなってしまうことも。そのため、ときには戦うのではなく逃げ回ることも重要となっているだろう。
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バケモノを倒しても経験値のようなポイントは獲得できない。戦わずに逃げたほうがいい場面もある。
 先々に進めば最低限の物資は整うようなゲームバランスにはなっているとはいえ、本作にはお店のような施設は存在しない。同じ場所に留まっていると、すぐに物資不足になってしまうのだ。

 だが、マップ中には本作の世界観を記したメモや、後述する“お守り”などの隠しアイテムが存在している。そのため、プレイヤーは隅々まで探索したくなる欲求にかられるだろう。
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 あの場所に行きたいが、アイテムが心もとない。いまはバケモノと戦いたくないので迂回しよう。あの場所に行きたいのに、バケモノがジャマだ。本作をプレイすると、そういったシチュエーションが多々ある。

 探索をしたいが、すればするほど物資は目減りしていく。先に進んだほうがいい気持ちと、まだまだ探索したい気持ち。そのバランスをどのように取るのかも、本作をプレイするうえで重要となっている。単純に、探索するだけでも怖いし。

意外と強い女子高生。育成するとフィジカル強者に

 正体不明のバケモノに追われる女子高生という図式で展開する本作。バケモノとはなるべく戦いたくないのだが、戦うなら戦うで、雛子はけっこう強い。なんなら、1対1ならほぼ負けない。

 本作の戦闘システムとして、敵の攻撃直前の瞬間など、特定のタイミングで強攻撃ボタンを押すと強力な一撃を見舞う“見切り反撃”が存在する。また、“集中(L2ボタン)”でゲージを溜め満タンになると、こちらも強力な“渾身の一撃”が使用できる。
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基本的には、この見切り反撃と渾身の一撃でダメージを与えていくことになる。集中を行うと見切り反撃がやりやすくなる。
 回避と見切り反撃は、慣れればけっこうやりやすい。ホラーゲームは敵への対抗手段があるかないかで恐怖度は変わってくる。本作ではバケモノへの対抗手段が豊富なので、アクションに慣れればバケモノに対する恐怖度は若干下がってしまうかもしれない。
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昭和の女子高生は薙刀も振るう。
 また、本作のセーブポイントである“祠”では、セーブのほかに雛子を成長させることができる。
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 回復アイテムには、“あられ”、“ラムネ”、“チョコレート”など、祠にお供えできるものが存在する。お供えをすると雛子は"功徳"を得られ、この功徳を消費することで、体力、精神力、持久力、装備できるお守りの数の上限をアップが可能。また、"おみくじ"を引くと、雛子に特殊能力を付与できる"お守り"を入手できるようになっている。
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 前述のとおり、本作では回復アイテムの数が限られている。しかも、“包帯”や“救急箱”と異なり、“あられ”などは体力を回復するだけでなく、特殊な効果を得られるものが多い。そのため、強敵との戦闘で使っていきたいが、使ってしまうと雛子の成長が遅くなってしまうことに。

 所持アイテムをどのように運用するのかも悩ましいところだが、アクションゲームが得意な人なら慣れれば被ダメージを抑えられるゲームバランスなので、どんどんお供えしていってオーケー。序盤からがんがん功徳を積んで、雛子を育成していくべし。

 アクションに不慣れな人は、得られる功徳が少ない回復アイテムは緊急時用にストックして進むといいだろう。
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成長要素を最大限に活用しなくとも難易度を“物語重視”にすればアクションが得意でない人でもクリアーできるゲームバランスになっているので、体力がピンチになったときには躊躇せず回復に使ってしまっていい。
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“赤いカプセル”は回復量は少ないが比較的楽に入手できる回復アイテム。気軽に使ってしまっていいだろう。
 なお、育成では、最初はお守りの装備枠を増やすのがおすすめ。そのあとは体力を優先して上げるといい。精神力は物語重視の難易度では回復が容易なので、優先度は低い。持久力はお好みで。
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お守りは探索で見つけられるもののなかに高性能のものがあるので、序盤のおみくじは優先度は低め。
 戦闘のバランスは、最初は“物語重視”と“難関”の2種類から選択可能。難関はバケモノの強さがアップするため、慣れているプレイヤーでも非常に手強く感じるはず。初回プレイはまず“物語重視”でプレイすることをおすすめしたい。

 また、謎解き要素の難易度も変更可能。本作の謎解きはけっこう難しいので、こちらも初回プレイは難易度を物語重視にするのがいいだろう。数回同じ場所でゲームオーバーになると、アクションの難度は下げる方向にのみ変更可能。しかし、謎解きの難易度はゲーム開始時にしか変更できないので要注意。

ちょっとだけネタバレ注意なレビューのまとめ

ネタバレを少しでもしたくない人は、ここでブラウザバック!!
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 ゲーム本編をクリアーまでプレイして感じた本作の最大の魅力は、読み進めれば進めるほどに謎が増すストーリーの存在だ。正直なところ、本作を1周クリアーするだけでは、本作の謎をすべて解明することはできない仕組みになっている。

 『サイレントヒル』シリーズといえば、マルチエンディングを採用してさまざまな結末を楽しめるのが恒例だが、それは本作でも踏襲されている。クリアー後には、別のエンディングを目指してのプレイが楽しめる。1周目のエンディングは、まさに衝撃のひと言。だが、1周目をクリアーしただけでは、正直消化不良は否めない。そのため、クリアー後すぐにプレイヤーは2周目をプレイしたくなるはずだ。

 1周目で探索がしきれなかった人は、2周目もアクションと謎解きの難易度は物語重視にするのがおすすめ。高難易度でのプレイは、3周目以降にするといいだろう。
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シリーズ最新作としてもジャパニーズホラーとしても随一の魅力を持つ傑作

 日本を舞台とし、女子高生の主人公を採用するという、シリーズとしてはかなり挑戦的な見た目の本作。しかし、先に進みたいけど進みたくない恐怖感、グロテスクで意味不明な姿をしたバケモノの存在、いま立っているのが現実なのか悪夢なのかわからなくなってくる不安感、謎を秘めたストーリー。『サイレントヒル』だから味わえるそれらの魅力は、本作でもしっかりと楽しめる。

 ストーリー面については、過去シリーズと比べてもトップクラスの出来栄えだと感じる。これは筆者が竜騎士07氏のファンだからというのもあるが、それを差し引いたとしても、ゲーム中盤から終盤の展開やエンディングの“あの”シーンには、かなりの衝撃を受けたはず。これを読んでいるホラーゲームファンの人にも、ぜひ筆者と同じ感覚を味わっていただきたいと考えている。

 だが、本作はけっこうスプラッターで衝撃的なシーンが多いため、血が苦手という人にはおすすめできないかもしれない。その恐怖を超える衝撃が待っているのは間違いないが、ある程度の覚悟を持ってプレイするとよいかも。CERO Z(18歳以上のみ対象)のゲームだし、どんな内容なのかはお察しください。
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 シリーズファンにとっても、竜騎士07氏のファンにとっても、ホラーゲームファンにとっても最高の恐怖体験が味わえるであろう『サイレントヒルf』。ビックリさせるホラー演出はそれほど強くなく、ジャパニーズホラーならではのじわじわと迫るような恐怖が味わえるゲームなので、そういったテイストが好きな人にもかなりおすすめ。

 美しくも醜い、神々しくも禍々しい、現実なのか悪夢なのかも定かではない恐怖の霧の世界に、ぜひ足を踏み入れていただきたい。
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カットシーンのキャラクターの表情も見どころのひとつ。凛子がこえーんだ。
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