『NieR』15周年コンサートは音楽と朗読劇で“過去を振り返りつつ未来を期待させられる”内容に
 今年2025年に15周年を迎えた『NieR』シリーズのオーケストラコンサートとなる“NieR:Orchestra Concert re:12024 [ the end of data ]”を7月25日、26日に大阪国際会議場(グランキューブ大阪)メインホール、8月2日、3日に東京国際フォーラム・ホールAにて開催した。

 本公演は、2024年1月~2025年1月までに15都市19公演で約55,000人を動員した世界ツアー“NieR:Orchestra Concert 12024 [ the end of data ]”の内容を日本国内向けに再調整したオーケストラコンサート。

 指揮は世界ツアーも担当したエリック・ロスさん。演奏は神奈川フィルハーモニー管弦楽団、コーラスはBarzz~鳥の吟遊詩人たち~が務め、そこにエミ・エヴァンスさんとジュニーク・ニコールさんによるヴォーカルも加わる贅沢な編成。

 さらに、2B(CV:石川由依さん)と 9S(CV:花江夏樹さん)による、ヨコオタロウ氏書き下ろしのエピソードが録音朗読で披露された。

 本稿では、その中から、8月2日のコンサートの模様をリポート。
広告
[IMAGE][IMAGE]
ニーアのサントラCDをモチーフにした“ニーアシリーズ ミュージックコレクションキーチェーン”のガチャは大人気。本体にはNFCタグが内蔵され、スマホやNFC対応デバイスとリンクできるという
[IMAGE][IMAGE]

2020年は新型コロナ、2025年は台風直撃!?

 開演時間に神奈川フィルハーモニー管弦楽団、続いて指揮者のエリック・ロスさんがステージに現れると、会場は大きな拍手に包まれた。続いてロスさんが『NieR』シリーズの音楽を手掛けた岡部啓一氏を迎え入れると拍手はさらに大きく。
[IMAGE]
 マイクを握って挨拶した岡部啓一氏は、来場者へ感謝の意を示すとともに、5年前に同会場で開催予定だったコンサートが新型コロナウイルスの拡大により、無観客で開催せざるを得なかった無念を振り返った。しかも今回は台風によって開催が危ぶまれたこともあって、「まさか今回も……!?」と気が気ではなったとのことだが、台風は逸れ、無事に開催できたことに充実感と安堵の表情を浮かべていた。「皆さんの強い思いで台風も逸れてくれたんだと思います」(岡部氏)
[IMAGE]

朗読劇は2Bと9Sのその後の旅を描く

 会場が暗転していよいよコンサートの始まり。演奏の前に『NieR:Automata』の2Bと9Sのその後が描かれる朗読劇が会場に響く。本コンサートでは、曲の合間に石川由依さん(2B)と花江夏樹さん(9S)の録音朗読が入り、演奏中に流れる映像でも物語が語られていく。
[IMAGE]
 朗読劇では、アンドロイドと機械生命体の戦争も終わり、滅び行く世界で2Bと9Sはメンテナンス部品を求めて各地の転送装置を巡る旅の模様が描かれる。

 その旅の中で、9Sは2Bのブラックボックスが破損していることに気づく。このままではやがて彼女の機能は停止してしまう――。

 暗い未来しか見えないふたりがやがてたどり着いたのは、地下に眠る異星人の船。そこでふたりを待っていたものとは……。

 本コンサートでは、もちろん、過去の映像なども使われて、『NieR』シリーズの過去を振り返る内容になっていたのだが、朗読劇の展開に合わせた選曲に感じられ、コンサートを通じて“新たな『NieR』の物語”を体験できる作りになっていた。

5年前のリベンジ。この場に参加できた幸運を噛みしめたい

 そんなコンサートのオープニングを飾ったのは、『崩壊ノ虚妄』。『NieR:Automata』ではバンカー崩落のシーンで流れるアグレッシブな曲で、本コンサートでは終焉のシナリオを感じさせる物語の第一歩が記され、一気に『NieR』の世界に引き込まれる。

 この
『崩壊ノ虚妄』は5年前の無観客コンサートでも1曲目に演奏されており、今回のコンサートではそのリベンジという意図もあるのかも……と感じさせる1曲目だった。

 2曲目は、
『遺サレタ場所』。廃墟都市を思い出すこの曲は、ゲームではもっとも長く聴いた人も多いだろう。コンサートでは穏やかな中にもコーラスなども加わって重厚なアレンジになっていた。 

 この曲に合わせた映像では、ゲーム後の世界で機械生命体とアンドロイドは互いに戦う理由もなくなり、“ただ生きているだけ”という切ない情景が語られていた。
[IMAGE][IMAGE]

『NieR:Automata』のその後を描く朗読劇は過去のオマージュのようでもあり、新たな未来のようでもある


 3曲目は出だしのコーラスが印象的な
『夏ノ雪』。コーラスの途中からオーケストラが加わり、重厚な……重くシリアスな空気感が漂う。朗読劇ではここで2Bのブラックボックスの不調が判明する。『NieR Replicant/Gestalt』でヨナに黒文病が発症したように……。

 4曲目は朗読劇を挟まずエミ・エヴァンスさんとジュニーク・ニコールさんがボーカルを務める
『イニシエノウタ』。最初はエミさんとハープのソロ伴奏という静かな滑り出しだが、オーケストラが加わりジュニークさんとのデュエットになると疾走感も感じられ、デボル&ポポル戦が思い出され、一気に盛り上がっていく。
[IMAGE]
 朗読劇では2Bと9Sが古びた洋館へと誘われ、その後に続く5曲目の『遊園施設』はピッタリの選曲。『遊園施設』は他の『NieR』楽曲とは趣きが異なり、メロディアスかつ華やかだがどこかもの悲しい雰囲気が漂う曲だ。重厚感あるコーラスはコンサートならではのアレンジ。

 続く6曲目はハープと打楽器の存在感が印象的な
『深紅ノ敵』。洋館の地下で2Bと9Sは人類を滅ぼした白塩化症候群など、歴史に触れることになり、来場者は『NieR Replicant/Gestalt』を振り返ることになる。
[IMAGE]
『深紅ノ敵』の後の朗読劇では、旧世界の歴史の断片に“エデン”という施設の情報が隠されていたことが判明。そこはヨルハ部隊が生み出した最新技術と機密情報を保管するために地下に隠された施設らしい。罠かもしれないと知りつつも、2Bのブラックボックスを修復できる何かがあるかもしれない。ふたりはそこへ向かうことにする……。

 7曲目は冒頭の壮大なコーラスからリズムのいい流れが気分を高めてくれる
『掟ニ囚ワレシ神』。そこから続く第一部を締め括る曲は『魔王』。今回のオーケストラアレンジではこの『魔王』ではコーラスもボーカルもなく、オーケストラだけという構成。魔王とのバトル曲だけあって、後半の盛り上がりは思わず手に汗握るほどの迫力だった。

“エデン”でふたりを待ち受けていたものとは!?

 第2部の始まりも朗読から。“エデン”という施設の地下深くに辿りついた2Bと9S。そこでふたりが見たものは異星人の船だった。その内部は複雑なパターンで構成された金属質の壁の風景がくり返される異質な造り……。そんな怪しい雰囲気にふさわしい『複製サレタ街』が第二部のオープニング(9曲目)。冒頭と終盤のピアノが力強い。

 10曲目は美しいメロディーが特徴の
『エミール』。『NieR』のコンサートでは定番の名曲だが、少しずつテンポが早くなりコーラスとも相まってバトル曲のようになっていくドラマチックな流れは何度聴いても鳥肌モノ。
[IMAGE]
 そして異星人の船の最下層に降り立ったふたりが見たのは、真っ白な素材で組み上げられた人類都市の廃墟。そこに待ち受けていたのは殺意に満ちた機械生命体だった。

 そんな物々しい展開から演奏されたのは
『美シキ歌』(11曲目)。この曲ではエミさんとジュニークさんが『イニシエノウタ』とはまた違う、力強い歌声を披露。

 機械生命体を退け、さらに奥へと進むふたりが目にしたのはバンカーの指令室――を模したもの。そしてそのバンカーに残されていたのは、過去に存在したマモノの記憶。

 そんな物語展開からここで演奏されたのは
『森ノ王国~取リ憑イタ業病』(12曲目)。そしてオーケストラ演奏は初となる『泡沫ノ言葉』(13曲目)。この曲も後半から一気にスピード感が上がり、エミさんのボーカルにコーラスも加わってクライマックスを予感させる。
[IMAGE]
 以降はネタバレに配慮して朗読劇の内容は伏せるので、楽曲で内容をうっすら感じていただけると幸い。

 14曲目は
『全テヲ破壊スル黒キ巨人』、15曲目は『終ワリノ音』、16曲目は『双極ノ悪夢~追悼』と、朗読劇の内容に応じた静と動が織り成す激しいながらも終末を感じさせる曲が続く。とくに『双極ノ悪夢~追悼』ではオルガンとコーラスの最後の盛り上がりが白眉。
[IMAGE]
 コンサートのクライマックスは『NieR Replicant/Gestalt』から『Ashes of Dreams』、『NieR:Automata』から『Weight of the World』というそれぞれのエンドロール曲。ともにエミさん、ジュニークさんのWボーカルで力強くも切なく歌い上げられ、朗読劇のエンディングとも相まって、感動や達成感などですごく心地よい気持ちに。

 
『Weight of the World』の余韻が冷めやらぬ中、演奏が終わると客席からは割れんばかりの拍手。その拍手はアンコールまで鳴り止まず、アンコールが始まる直前にはさらなる大きな拍手が会場に響いた。

 そんな盛り上がりなか、アンコールの1曲目に演奏されたのはこの日始めて演奏される『
NieR Re[in]carnation』の曲の中から『祈リ』。その繊細なメロディーに会場は大きな拍手から一転、シーンと水を打ったような静けさに。個人的にはオーケストラで聴きたいと思っていた曲のひとつなので、ここでようやく! と密かに興奮してしまった。
[IMAGE][IMAGE]
 そしてアンコールの最後、本ツアーのオーラスは『カイネ』。ストリングスでドラマチックに盛り上げてからのからエミさんの歌。さらに映像では、ゲームの名シーンの数々が映し出され、ファンには15年の思い出がぶわっと蘇ってくる瞬間。ところどこで鼻をすする音が聞こえてきたので、次第に盛り上がっていくアレンジに涙腺が崩壊した人も多かったようだ。

 ここまでの演奏、映像すべてが『NieR』らしく何度もくり返し感動させられたが、最後にそれを超えてくる
『カイネ』の破壊力。もう何も言うことはないです。『NieR』シリーズ15周年、本当に本当に、おめでとうございます!
[IMAGE]

これからの『NieR』の世界は続いていく――齊藤プロデューサーが太鼓判

『カイネ』が終わり、会場が大きな拍手で包まれるなか、再び岡部氏が登壇。会場の様子を感慨深げに見つめたあと、エミさんとジュニークさんにひと言ずつ挨拶を促した。

 「5年前はここで無観客のコンサートで寂しく感じましたが、今回は皆様の顔を見ながら歌うことができてすごくうれしかったです。感謝と幸せで心があふれています。本当にありがとうございました」(エミ・エヴァンス)

「1年半かけて世界各国を巡ってきたツアーをここで締めくくれてとてもうれしく思っています。5年前は無観客でしたが、今回は皆さんからたくさんのエネルギーをいただきながら歌うことができました」(ジュニーク・ニコール) なお、この日、会場にはジュニークさんの母親も駆け付けており、「特別な日」とジュニークさんが満面の笑みを見せていたのが印象的だった。

 そしてここで岡部氏が客席で演奏を聴いていたシリーズのエグゼクティブプロデューサー・齊藤陽介氏とクリエイティブディレクターのヨコオタロウ氏をステージに招き寄せ、ふたりからも来場者へ向けて感謝の意が述べられた。

 「5年前は桜が咲いていたのにまさかの雪。今日は台風が直撃しそうでしたが、皆さんの力が台風の進路をねじ曲げたんだと思います。ただ、
『NieR』ファンは呪いの力しか持っていませんから(会場笑い)、台風を遠ざけたのは皆さんの呪いの力のお陰です。引き続き、皆さんの呪いの力で『NieR』シリーズを盛り上げていただければと思います。よろしくお願いいたします」(齊藤陽介氏)

 続いてヨコオ氏。「5年前はク○コロナのせいで、ここでは無観客のコンサートになったんですけど……」とちょっと感慨深そうな面持ち(マスクごしなので想像)。

 だが、すぐに話題を変え、「田浦さん(田浦貴久氏。『NieR:Automata』のシニアゲームデザイナー)と伊藤さん(伊藤佐樹氏。『
NieR Replicant ver.1.22474487139...』ディレクター)も客席にいるんですけど、皆さんの拍手が大きければ、ふたりは立ってくれるかもしれない。事前に何も言ってなかったんですけど、拍手が大きければ、彼らは立って手を振ってくれるかもしれない」と田浦氏と伊藤氏に突然のムチャ振り。すると当然ながら会場からは大きな拍手が。田浦氏と伊藤氏はその拍手に応えるように立ち上がり、手を振って歓声に応えていた。

 そしてその大きな拍手に負けないくらいの声でヨコオ氏は「今日は来てくれてありがとうございました!」と大きな声でお礼を述べた。また、ヨコオ氏からは2024年の年末に開催された“ニーア:ディナーショーみたいな何か 12024”のグッズの在庫がまだある(なので買ってね)、というプチ情報も。

 最後は岡部氏が挨拶。「15年の長いあいだ、皆さんが応援し続けてくださったおかげで、今日、5年前のリベンジとして、皆さんの前で素敵なオーケストラの演奏をお届けすることができて本当にうれしく思っています。支えてくださってありがとうございました」

 その後、記念撮影が行われ、8月2日の東京公演は終了。スタッフやファンの皆さんも5年前の無念も晴れたであろう、すばらしいコンサートだった。
[IMAGE]
 なお、8月3日はスタンディングオベーションが発生。さらに齊藤プロデューサーからは「私が責任を持って“『NieR』の世界を続けていきます”と、ここに宣言しますので、これからもよろしくお願いします」との挨拶もあるなどツアー最終日も大いに盛り上がった。

 15周年で改めて感じた『NieR』の魅力。8月9日からは東京・池袋で15周年記念の展覧会も予定されている。この夏、『NieR』シリーズのさらなる魅力に触れてみよう。

<セットリスト>


【第一部】
朗読1:終局。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M1.崩壊ノ虚妄
編曲:山下康介

朗読2:旅へ。
9S(CV:花江夏樹)

M2.遺サレタ場所
編曲:宮野幸子

朗読3:旧世界の遺跡。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M3.夏ノ雪
編曲:篠田大介

M4.イニシエノウタ
編曲:山下康介 歌:エミ・エヴァンス / ジュニーク・ニコール

朗読4:旧世界の記憶。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M5.遊園施設
編曲:篠田大介

M6.深紅ノ敵
編曲:山下康介

朗読5:『
エデン』。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M7.掟ニ囚ワレシ神
編曲:マリアム・アボンナサー

M8.魔王
編曲:宮野幸子

【第二部】
朗読6:異星人の舟。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M9.複製サレタ街
編曲:宮野幸子

朗読7:扉。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M10.エミール
編曲:宮野幸子

朗読8:繰り返される都市。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M11.美シキ歌
編曲:山下康介 歌:エミ・エヴァンス / ジュニーク・ニコール

朗読9:バンカー。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M12.森ノ王国~取リ憑イタ業病
編曲:宮野幸子

M13.泡沫ノ言葉
編曲:宮野幸子 歌:エミ・エヴァンス

朗読10:巨人。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M14.全テヲ破壊スル黒キ巨人
編曲:山下康介

M15.終ワリノ音
編曲:山下康介

M16.双極ノ悪夢~追悼
編曲:宮野幸子

朗読11:眠り。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)
M17.Ashes of Dreams
編曲:山下康介 歌:エミ・エヴァンス / ジュニーク・ニコール

朗読12:目覚め。もしくは新たなる未来。
2B(CV:石川由依)/ 9S(CV:花江夏樹)

M18.Weight of the world
編曲:山下康介 歌:エミ・エヴァンス / ジュニーク・ニコール

Enc1.祈リ
編曲:宮野幸子

Enc2.カイネ
編曲:宮野幸子 歌:エミ・エヴァンス

写真:HOSHINO ASAMI