同社は、ゲームの企画、ディレクション、シナリオなどを中心に事業を展開する、まさに打越氏が看板クリエイターとなる新会社。一見、華々しい独立の発表に見える。しかし、今回の発表には思わぬ事情があった。それは、打越氏らが約1年半にわたって制作を進めていた新作ゲームが、突然開発中止になってしまったというもの。打越氏はその出来事を「人生のワースト3に入るくらいの大事件」と振り返る。
今回、ファミ通.comでは、予期せぬ事態に直面した打越氏にインタビューを実施。“CRASH KEYS”設立の経緯や、開発中止を知らされたときの心境、トゥーキョーゲームスとの今後の関係などを詳しく聞いた。
さらに、打越ファン必読の新作の構想や、生成AIを活用したゲーム制作への考え方、クラウドファンディングの可能性など、今後の活動についても語っていただいた。
※インタビュアー:林克彦(ファミ通グループ代表)、世界三大三代川(ファミ通.com編集長)
打越鋼太郎氏(うちこし こうたろう)
ゲームディレクター、シナリオライター。株式会社CRASH KEYS代表取締役。『Ever17』などの『infinity』シリーズ、『極限脱出』シリーズ、『AI:ソムニウムファイル』シリーズなど、数多くのアドベンチャーゲームを手掛ける。トゥーキョーゲームスの創設メンバーでもあり、2025年発売の『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』ではシナリオディレクションを担当。(文中は打越)
“CRASH KEYS”設立発表の背景にあった、開発中止
その発表というのが、僕の会社の設立です。じつは去年、2025年3月に“CRASH KEYS”(クラッシュキーズ)という会社を立ち上げました。これは、おもにゲームの企画、ディレクション、シナリオを行う会社で、メンバーは現在、自分を含めて3名です。これまではずっと、先ほどお話をした中止になったプロジェクトでいっしょに仕事をしていました。
なぜこのタイミングで発表したかというと、やっぱり新しい仕事をいただかなければならず、それならば、会社の設立とプロジェクトの開発中止を同じタイミングで公表したほうが、話題にしてもらえる可能性が上がり、広く皆さんに知っていただけるんじゃないかと思ったんです。
もともとは、進行していたプロジェクトの発表に合わせて会社についても発表するつもりだったんですけど、それを前倒しした形ですね。
――衝撃の状況ですね……。開発中止の件は後ほど改めておうかがいしますが、“CRASH KEYS”は、もともとそのプロジェクトのために設立されたのでしょうか。それとも、打越さんご自身が中心となる会社を作りたいという思いが、以前からあったのでしょうか?
ただ、やっぱり小高さん(小高和剛氏。トゥーキョーゲームス代表で、『ダンガンロンパ』シリーズの生みの親)の会社なんですよね。もちろん小高さん自身は「みんなの会社だ」と思っているし、そう言っているんですけど、対外的にはどうしても「小高さんの会社」になっている。
たとえば「打越といっしょに仕事がしたい」と思ってくださる方がいても、僕がトゥーキョーゲームスに所属していると声をかけにくいというか、小高さんやトゥーキョーゲームスも踏まえた依頼にしようと気を遣っていただいてしまう。ですので、もし打越らしい新作に出資したいと思ってくださる方や、仕事をいっしょにしてくださる方とやるなら、やっぱり自分の看板となる会社があったほうがいいんじゃないか、という思いがありました。
あと、理由はもうひとつあって……。トゥーキョーゲームスは、天才ばかりが集まっている集団なので、いっしょにいると僕みたいな何の能力もない人間は……。
――いやいやいや、打越さんこそ代表作も多いですし、そこまでご自身を卑下するような経歴ではないでしょう?
――急に!(笑)。
たとえるなら、デキのいいお兄ちゃんがいる弟みたいな。年齢は僕のほうが上なんですけど(笑)。ずっといっしょにいると、どうしても自虐的になってしまうので、それがあんまりよくないなって。
――なるほど。精神状態的に、ということですね。
社名に込めた3つの意味。ひとつは『極限脱出』にも登場したあの組織
――なるほど。詳しい言及は避けますが、『極限脱出』シリーズの重要な場面で出てきた名前ですね。


ふたつ目は、文字どおり鍵を粉砕するというか、常識にとらわれずにゲームを制作する、ふつうの鍵では開かない扉を開く、という意味です。
最後の3つ目は、昔、ネットミームで「キーボードクラッシャー」というのがあったじゃないですか。ゲームがうまくいかなくて、ものすごい勢いでキーボードを叩きまくる、あれです。あの「クラッシャー」から連想した部分もあるというか、キーボードを叩き割るくらい一生懸命シナリオを書く、という意味もあったりします(笑)。
――キーボードを破壊する勢いでシナリオを作ると(笑)。スタッフの皆さんは、打越さんを含めて3人ということでしたが、ほかのおふたりについてもお聞きできますか?



――それは仲が良い(笑)。ちなみに、トゥーキョーゲームスには今後も継続して在籍するということですが、たとえば『HUNDRED LINE』の続編やDLCが出るような場合に、打越さんがトゥーキョーゲームスの一員としてシナリオやシナリオディレクションを担当するといった可能性もある、ということでしょうか?
――ただ、活動の軸足は“CRASH KEYS”のほうに置いていく、と。
「人生のワースト3」に入る衝撃。開発中止を知らされた日
あまりにもびっくりしすぎて、その日は実感が湧かなかったんですよね。その話を聞いた夜に、うちのスタッフとパブリッシャー側の主要メンバーといっしょに飲みに行って、事情を聞いたり、何があったのかを話したりして。そのときはお酒の席だったので、みんなと話しているうちは、そんなに落ち込まなかったんですけど。でも、翌日から3日間くらいは、本当に何もする気が起きなくて。
――それはそうなりますよね……。
――現実逃避するしかない。
――なかなか気持ちを切り替えるのは難しいですよね。
もうひとつ、救いだったのはファンの皆さんの存在ですね。まだ開発中止を発表する前の状況だったんですが、毎日のように「新作を楽しみにしています」とか「あのゲーム、おもしろかったです」といったメッセージが届くので。そういう言葉を見ると、すごく励まされるんですよ。「がんばらなきゃな」という気持ちになれたので。それが救いだったりしましたね。
――ああ、それは確かに救われます。ちなみに、会社のほかのお二方は、開発中止の知らせを聞いたとき、どんな反応だったんですか?
――え! シナリオはそんなに進んでいたんですか。
――ちなみに、その中止になったタイトルというのは、これまで打越さんが手がけてきた既存IPに関係する作品なのかどうなのか、そこはお話しいただけますか?
開発中止の背景と、生成AIが変えつつあるゲーム制作の環境
――それは何というか、危機の度合いで言うと、どれぐらいなんですか?
ちょっと婉曲にX(Twitter)でも書きましたけど、ゲーム業界全体の環境という意味で言うと、やっぱりAIがすごく絡んできているなと思っていて。
我々のような中規模のゲーム開発チーム、とくにアドベンチャーゲームだと、個人で作っているインディーゲームもライバルの範囲に入ってくる状況になっています。
そういった個人のクリエイターの方々の中には本当に少人数でAIを活用して、ものすごく短期間に、安い値段で、しかもすごくリッチなものを作ってきたりするので、そういったタイトルの期間や予算と比較されてしまうと、中規模チームが対抗するのは非常にきびしい。
じゃあどうすればいいかというと、こちら側もAIを使わざるを得ないと思っています。AIを使ったゲーム作りに反発があることは理解しています。でも、僕自身はAI推進派というか、もっと率先して使っていったほうがいいと思っている立場なんです。というのも、AIを使っても人間のクリエイティブはまったく失われないと思っていて。
イラストやグラフィックなどの絵としてのデザインも、ゲームを設計するゲームデザインも、もちろん物語も、そういうものの発端、きっかけはすべて人間が頭で考える必要があります。ただその先の、きれいに整えるような部分ならAIにある程度任せてもいいんじゃないかと思っています。
こういうAI活用をすることによって、むしろクリエイターが「こういったものを作りたい」と思っていることの実現に近づく気がするんですよ。
たとえばスタッフにグラフィックの修正を依頼するときに、「ここを何ドットずらして」と注文するとします。最初に「10ドットずらして」と言って修正版を見るとどうも違う。そこで「いや、ちょっと違うな。5ドット右かな」と言って直してもらった直後に、「いや、やっぱり3ドットかな」となったりして、3往復、4往復すると、さすがにその人もキレますし、モチベーションが下がっちゃいますよね。
そうなっても不思議じゃないですし、ゲームづくりはチームワークなので、人間関係にも気を遣う必要があります。そうすると、理想に70~80%ぐらいまで近づいた状態なら「これで進めようか」と思うこともあるわけです。妥協とは言いませんが、制作期間や工数、そして、スタッフのモチベーションを考えると、そこが最適なバランスになるわけです。
だけどAIなら、それを一切文句を言わずに無限に対応してくれる。配置はもちろん、色の調整だってそうです。だから最終的な成果物が70~80%で留まりそうだったものを、100%に限りなく近いところまで、クリエイターが考えている理想に近づけられる。
そういう意味では、お客さんにも、クリエイターが本当に求めていたものを見てもらえるし、なおかつ制作期間も短くできるんです。いままで新作を作るのに5年間かかっていたクリエイターさんがいたとして、ファンの方々は、次回作が出るまでの5年間を待ち焦がれている。最近は、5年でも早いほうになっていますけど。
それが、AIを活用することで、もしかしたら2年半でできるようになるかもしれない。ファンとしては、絶対にそのほうがうれしいはずなんですよね。
だからといって、必ずしもスタッフを減らす必要はない。本来5年間かかっていたものを2年半で作れるなら、残りの2年半で別の作品を作ることだってできます。人員削減や解雇をしなくても、プレイヤーもうれしいし、クリエイターもうれしい。だから、僕はあんまりAIを悲観的には捉えていないかもしれないですね。
――AIにキャラクターデザインそのものを丸投げしたい、といったことではないんですよね。打越さんは、たとえばコザキユースケさんなど、いろいろなその人ならではの才能を持ったアーティストやクリエイターの方といっしょに仕事をされてきたわけですし。
オリジナル作品の実現に向けたパートナーと人材の募集。公式サイトのARGは……?
――突然の通達からの動きとしては、とても迅速だったと思います。そういえば、公式サイトを自分たちで作られたとおっしゃいましたけど、ARG(代替現実ゲーム)が仕込まれていますよね。

――えっ? 海外ファンを中心に謎解きが盛り上がっていますよね。兄妹とか、あのシリーズのキャラクターらしいワードも出てきて……。
――あー、なるほど……? PHPのアップデートのこともありましたしね……(笑)。
――それは困りましたね(笑)。個人的に楽しむだけで、深く突っ込まないようにします! ところで、改めて今回の発表後にはいろいろな反響があったと思うんです。ユーザーの皆さんからも、業界の方からも。励ましの言葉も多かったと思いますが、いまはどんなお気持ちですか?
――これまで打越さんが作ってきたゲームが、それだけ多くの人に受け入れられていて、ファンがいるということですもんね。改めてわかると、うれしいですよね。
――先日の発表の中に、「オリジナルのプロジェクトを進めていく」という言葉がありました。冒頭にも「企画、ディレクション、シナリオを行う会社」というお話がありましたが、“CRASH KEYS”は、シナリオだけを作る会社ではない、ということでいいでしょうか?
――現状、開発中止になったプロジェクトを除いて、“CRASH KEYS”で請け負っている仕事は、すでにいくつかある状況なんですか?
――なるほど。ただ、いろいろお話が来ているのは希望が見える状況ですね。現状、いっしょに事業を進めるためのパートナーを募っている、探しているということだと思うんですけれども、それはたとえば資金協力がメインなのか、それだけではないのか。どういったパートナーを想定されているんですか?
ただもちろん、たとえばパブリッシャーさんから「打越さんと仕事がしたい」と言っていただけるなら、我々のオリジナルIPにこだわらず、別の形でのパートナーシップもあり得ると思います。それは、パブリッシャーさんから「こういうものを作ってください」という依頼になるかもしれないし、僕のほうから「これをやりたいです」と提案するのかもしれないですけど。
それから、パートナー募集というのは事業に限った話だけでなく、文字どおりの意味でもあって。うちの会社の人数を増やす、スタッフ募集という意味合いもあります。
――当面、現状の3名のまま会社を維持するということではないんですね。
――ちなみに、求めている人材は、やっぱりシナリオを書ける方なんでしょうか。どういった方を仲間に迎えたいと思っていますか?
――なるほど。これから“CRASH KEYS”でいろいろな仕事をやっていくにあたって、もう少し人手がないと難しい、ということでもあるんですね。
――やはり今回の反響にともなって、引き合いがあるというか。新規の依頼や相談が来ているんですね。
『極限脱出』の精神的続編となるか。新たなゲーム構想
もう少し言うと、『極限脱出』のような脱出ゲームと物語が組み合わさった構成のものは、僕らがフォーマットを作ってきた自負がありますし、それで広まったと思っていますので、ほかの人は手を出しにくいというか、作ったとしてもユーザーさんから「これって『極限脱出』じゃない?」と言われてしまうと思うんですよね。
でも、脱出ゲームと物語の相性ってめちゃくちゃいいので、この形式のコンテンツってもっともっと使えるフォーマットだと思うんです。だから、それなら「僕が作らずに誰が作るんだ」という気持ちもありますし。ぜひやりたいなと思っています。


――ぜひ遊びたいです。それは、何らかの企画書というか、具体的な構想はもうあるんですか?
――楽しみにしています。脱出ゲーム×物語のフォーマット以外のもので、打越さんが主体的にゲームを作るにあたって、これからチャレンジしたいこと、やりたいことはありますか?
2Dの横スクロールでも何でもいいんですけど、たとえば、目の前の一定範囲の空間を切り取って、遠くにある同じ範囲の別空間と入れ替えるようなシステムだとして、目の前にいる敵ごと空間を切り取って入れ替えると、その敵も移動しますよね。そういうイメージで、プレイヤー自身ももちろん空間といっしょに入れ替わるし、「切り取る」という仕組みなので、あえて敵の身体を中途半端に切り取ることでダメージを与えて倒すこともできる、そういったパズルゲームを企画しています。
ただ、その仕組みがじつは物語にも関わっていて……。そんな仕掛けで驚かせることをやりたいなと。
――すでにおもしろそうですね! システム面から想像するのはアクションゲームみたいにも思えますが、アクション要素も入ったパズルゲームというイメージでしょうか。
ファンへの感謝と、クラウドファンディングの可能性
仕事に関しては、僕自身、いろいろなアイデアがありますし、これまでの経験からすると、ほかの方のアイデアを実現するのもわりと得意なほうだと思っているんです。ですので、「打越といっしょに仕事がしたい」という方がいらっしゃったら、まずは声をかけていただいて、いっしょにゲームを作っていければと思っています。
あと、最後にもうひとつ。まだ確定ではないんですが、クラウドファンディングをやろうかなと思っています。そうすれば、ファンの皆さんや、賛同してくださるプレイヤーの皆さんの意見をもっと密接に聞くこともできますし。
まだ企画段階で、実現は少し先になるかもしれませんが、クラウドファンディングを実施した場合は、ぜひご協力いただけると非常に助かります!
――なるほど。クラウドファンディングは、特定のゲームを作るために支援者を募るイメージになるんでしょうか?
――実現するといいですね。
――また、そんなことを。打越さんは、戦略的にそういうことを言いますよね(笑)。
でも、これを読んでいる皆さんにご協力いただきたいのは本当です。ぜひよろしくお願いします。

















