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「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】

「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
 『Ever17』に『極限脱出』シリーズ(『ZERO ESCAPE』シリーズ)、そして、近年では『AI:ソムニウムファイル』シリーズや『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』など、いずれもシナリオで多くのユーザーに衝撃を与えてきたゲームクリエイター・打越鋼太郎氏。そんな打越氏が2026年10月15日、自身が代表を務める新会社“CRASH KEYS”(クラッシュキーズ)の設立を発表した。

 同社は、ゲームの企画、ディレクション、シナリオなどを中心に事業を展開する、まさに打越氏が看板クリエイターとなる新会社。一見、華々しい独立の発表に見える。しかし、今回の発表には思わぬ事情があった。それは、打越氏らが約1年半にわたって制作を進めていた新作ゲームが、突然開発中止になってしまったというもの。打越氏はその出来事を「人生のワースト3に入るくらいの大事件」と振り返る。

 今回、ファミ通.comでは、予期せぬ事態に直面した打越氏にインタビューを実施。“CRASH KEYS”設立の経緯や、開発中止を知らされたときの心境、トゥーキョーゲームスとの今後の関係などを詳しく聞いた。

 さらに、打越ファン必読の新作の構想や、生成AIを活用したゲーム制作への考え方、クラウドファンディングの可能性など、今後の活動についても語っていただいた。
※インタビュアー:林克彦(ファミ通グループ代表)、世界三大三代川(ファミ通.com編集長)
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「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】

打越鋼太郎氏(うちこし こうたろう)

ゲームディレクター、シナリオライター。株式会社CRASH KEYS代表取締役。『Ever17』などの『infinity』シリーズ、『極限脱出』シリーズ、『AI:ソムニウムファイル』シリーズなど、数多くのアドベンチャーゲームを手掛ける。トゥーキョーゲームスの創設メンバーでもあり、2025年発売の『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』ではシナリオディレクションを担当。(文中は打越)

“CRASH KEYS”設立発表の背景にあった、開発中止

――今回、新会社の設立とともに、約1年半かけて制作していた新作が突然開発中止になったことも明かされました。非常に驚きましたが、まずは、何があったのか、打越さんご自身の言葉でお聞かせください。

打越
 まず、あるゲーム制作のプロジェクトを1年半ほど進めていました。それは、僕だけでなく、関わるスタッフみんなで一生懸命、心血を注いで作っていたのですが、そのゲームがとある事情で開発中止になってしまったのです。そうすると、当然ですが、僕らに入ってくるはずだった仕事の報酬、一般的に言うお給料がなくなってしまう。そこで「どうしたものか」、「新しいゲーム制作の仕事をいただかなければ」と考えて、それならば、このタイミングである発表をしようと思ったんです。

 その発表というのが、僕の会社の設立です。じつは去年、2025年3月に“CRASH KEYS”(クラッシュキーズ)という会社を立ち上げました。これは、おもにゲームの企画、ディレクション、シナリオを行う会社で、メンバーは現在、自分を含めて3名です。これまではずっと、先ほどお話をした中止になったプロジェクトでいっしょに仕事をしていました。

 なぜこのタイミングで発表したかというと、やっぱり新しい仕事をいただかなければならず、それならば、会社の設立とプロジェクトの開発中止を同じタイミングで公表したほうが、話題にしてもらえる可能性が上がり、広く皆さんに知っていただけるんじゃないかと思ったんです。

 もともとは、進行していたプロジェクトの発表に合わせて会社についても発表するつもりだったんですけど、それを前倒しした形ですね。

――衝撃の状況ですね……。開発中止の件は後ほど改めておうかがいしますが、“CRASH KEYS”は、もともとそのプロジェクトのために設立されたのでしょうか。それとも、打越さんご自身が中心となる会社を作りたいという思いが、以前からあったのでしょうか?

打越
 経緯を説明しますと、もともと僕はトゥーキョーゲームス(Too Kyo Games。『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』、『超探偵事件簿 レインコード』などの制作会社)に所属していまして、じつはいまも所属しながら、自分が代表を務める別会社を作ったという状況です。トゥーキョーゲームスはとても居心地がよくて、やりたいことをやらせてもらえるし、不満は何もないんですよ。メンバーもすごくいいやつばっかりで。

 ただ、やっぱり小高さん(小高和剛氏。トゥーキョーゲームス代表で、『
ダンガンロンパ』シリーズの生みの親)の会社なんですよね。もちろん小高さん自身は「みんなの会社だ」と思っているし、そう言っているんですけど、対外的にはどうしても「小高さんの会社」になっている。

 たとえば「打越といっしょに仕事がしたい」と思ってくださる方がいても、僕がトゥーキョーゲームスに所属していると声をかけにくいというか、小高さんやトゥーキョーゲームスも踏まえた依頼にしようと気を遣っていただいてしまう。ですので、もし打越らしい新作に出資したいと思ってくださる方や、仕事をいっしょにしてくださる方とやるなら、やっぱり自分の看板となる会社があったほうがいいんじゃないか、という思いがありました。

 あと、理由はもうひとつあって……。トゥーキョーゲームスは、天才ばかりが集まっている集団なので、いっしょにいると僕みたいな何の能力もない人間は……。

――いやいやいや、打越さんこそ代表作も多いですし、そこまでご自身を卑下するような経歴ではないでしょう?

打越
 いや、でも卑屈になってしまうというか、落ち込んでしまうんですよ。とくに小高さんはシナリオの才能もあるし、知識も豊富だし、話もおもしろいし、身長も高いし、ち●こもでかいし(笑)。

――急に!(笑)。

打越
 (笑)。小高さんは、もう、いわばパーフェクト超人なので。そういう人のそばにいると、「僕はなんてダメ人間なんだ」みたいな気持ちになってきてしまって。

 たとえるなら、デキのいいお兄ちゃんがいる弟みたいな。年齢は僕のほうが上なんですけど(笑)。ずっといっしょにいると、どうしても自虐的になってしまうので、それがあんまりよくないなって。

――なるほど。精神状態的に、ということですね。

打越
 そうです。みんな、まぶしすぎるんですよ。僕みたいなモグラ人間は、アングラゲーム界隈で細く生きていくべきなんじゃないかっていうことで(笑)。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】

社名に込めた3つの意味。ひとつは『極限脱出』にも登場したあの組織

――それで、別の場所を作ろうと思った、と。なるほど。でも、そういうふうに言える打越さんだからこその魅力がありますし、グローバルにファンが多くいるんだと思います。もちろん打越さんご自身の才能があるからこそ、会社を作れるわけですし。それも踏まえて、社名の“CRASH KEYS”にはどんな思いを込めたんですか?

打越
 3つの意味がありまして。ひとつは、もともと“CRASH KEYS”は、『極限脱出』シリーズに登場する倉式茜というキャラクターが作った組織の名前なんですね。劇中で、ある組織のテロ計画のようなものを阻止するために結成された組織なんですけど、昔から「物語の中に出てくる組織を、実在の会社にしたいな」という気持ちがあったんです。

――なるほど。詳しい言及は避けますが、『極限脱出』シリーズの重要な場面で出てきた名前ですね。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
紫こと倉式茜。画像は『極限脱出 9時間9人9の扉』より。
打越
 そうなんです。物語の中でも、そこまで大きく取り上げられているわけではないので、知っている方は少ないと思いますけど。

 ふたつ目は、文字どおり鍵を粉砕するというか、常識にとらわれずにゲームを制作する、ふつうの鍵では開かない扉を開く、という意味です。

 最後の3つ目は、昔、ネットミームで「キーボードクラッシャー」というのがあったじゃないですか。ゲームがうまくいかなくて、ものすごい勢いでキーボードを叩きまくる、あれです。あの「クラッシャー」から連想した部分もあるというか、キーボードを叩き割るくらい一生懸命シナリオを書く、という意味もあったりします(笑)。

――キーボードを破壊する勢いでシナリオを作ると(笑)。スタッフの皆さんは、打越さんを含めて3人ということでしたが、ほかのおふたりについてもお聞きできますか?

打越
 まずひとりは、“峰あきら”です。10年以上前からの付き合いで、もともとはライターつながりというか、友だちだったんですが、『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』でシナリオ制作をお願いして。その縁もあって、僕がひとりで会社を立ち上げたあとに、「いっしょにやりませんか」と最初に声をかけた人物になります。付き合いも長いので、何が得意でどういう才能を持っていて、逆にどういうところが苦手なのかもわかっている。才能はもちろんのこと、仕事がやりやすい、というのがすごく大きいですね。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』
打越
 もうひとりが“ササキムリ”です。ササキには『極限脱出』シリーズ3作目の『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』から脱出パートの設計をしてもらったり、『AI:ソムニウムファイル』シリーズでは、夢の世界を舞台にしたソムニウムパートのゲームデザイン、設計を手伝ってもらったりしていました。峰と同じく、これまでもいっしょに仕事をしてきたのですが、仕事のやりかたとか、完成度の高さとか。感心したことがすごくいっぱいあったんです。ちょうど僕が会社を設立したあとに、ササキも前の会社を辞めようかなと言っていたので、「だったら、うちに来ませんか?」と声をかけたんです。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
『AI:ソムニウムファイル』
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』
――では、昨年3月の設立時は打越さんひとりで、そこから徐々にメンバーが集まったんですね。それと、先ほど小高さんの話もありましたが、“CRASH KEYS”を立ち上げても、打越さんはトゥーキョーゲームスのメンバーでもある。ということは、小高さんや高田さん(高田雅史氏。トゥーキョーゲームス所属。『ダンガンロンパ』シリーズを始め、数多くの楽曲を手掛ける)とケンカ別れをしたような状況ではないんですよね?
打越
 そうです、そうです。ケンカはしていません。いっしょに飲みに行ったりもしますし。何と言えばいいかな。いっしょにサウナに行って、背中を流し合うぐらいの仲です(笑)。

――それは仲が良い(笑)。ちなみに、トゥーキョーゲームスには今後も継続して在籍するということですが、たとえば『HUNDRED LINE』の続編やDLCが出るような場合に、打越さんがトゥーキョーゲームスの一員としてシナリオやシナリオディレクションを担当するといった可能性もある、ということでしょうか?

打越
 はい。もちろん可能性としては十分あると思います。

――ただ、活動の軸足は“CRASH KEYS”のほうに置いていく、と。

打越
 そうですね。X(Twitter)でも、ある種ののれん分けというか、自分の看板で勝負するために独立したと書いたんですが、あえてこの道を選んでいるわけですので、主軸は“CRASH KEYS”になります。

「人生のワースト3」に入る衝撃。開発中止を知らされた日

――わかりました。続いて、どこまでお話しいただけるかわからないですが、開発中止になったプロジェクトのお話をお聞きできればと思います。プロジェクトの開発中止は相当なショックだったと思うんです。知らせを聞いたときの打越さんの心境はいかがでしたか?

打越
 人生のワースト3に入るくらいの大事件でして。聞いた瞬間、目の前が真っ暗になるというか、視界のすべてがモノクロに色あせて見えるような……。

 あまりにもびっくりしすぎて、その日は実感が湧かなかったんですよね。その話を聞いた夜に、うちのスタッフとパブリッシャー側の主要メンバーといっしょに飲みに行って、事情を聞いたり、何があったのかを話したりして。そのときはお酒の席だったので、みんなと話しているうちは、そんなに落ち込まなかったんですけど。でも、翌日から3日間くらいは、本当に何もする気が起きなくて。

――それはそうなりますよね……。

打越
 寝込んでいました。もう本当に、ひたすら寝て、起きて、TikTokを見るみたいな。

――現実逃避するしかない。

打越
 はい。見たくもないんだけど、見る、みたいな感じでしたね。

――なかなか気持ちを切り替えるのは難しいですよね。

打越
 本当に難しかったですね。ただ、運がいいというか、その翌週くらいに東京ゲームショウがあったんですよ。ゲームショウでお会いする約束をしていた方が何人かいて、絶対に行かなきゃいけなかった。そういう外的な強制力みたいなものがあったので、何とか身体を布団からひっぺがして、行った感じです。

 もうひとつ、救いだったのはファンの皆さんの存在ですね。まだ開発中止を発表する前の状況だったんですが、毎日のように「新作を楽しみにしています」とか「あのゲーム、おもしろかったです」といったメッセージが届くので。そういう言葉を見ると、すごく励まされるんですよ。「がんばらなきゃな」という気持ちになれたので。それが救いだったりしましたね。

――ああ、それは確かに救われます。ちなみに、会社のほかのお二方は、開発中止の知らせを聞いたとき、どんな反応だったんですか?

打越
 ササキなんかは、ぽかんとして。「え、どういうことですか?」みたいな。僕もその瞬間はむちゃくちゃショックだったんですけど、ふたりがいるから、あんまりそのショックを表に出せない。だから、とりあえず「会社は大丈夫だよ」と伝えて、先ほどお話をしたように飲みに行きました。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
――その開発中止になったプロジェクト自体は、もういかんともしがたいというか。ペンディングではなく、完全に止まってしまった、なくなってしまったということですか?
打越
 そうなんです。だから「ペンディング」という言葉は使っていなくて。完全にキャンセル、中止なんです。いまのところはどうにもならない感じなんですけど、とはいえ1年半やっていたので、素材もいっぱい作っているし、シナリオもほとんど終わりかけていたので、もったいないですね。

――え! シナリオはそんなに進んでいたんですか。

打越
 なので、いつか何かのタイミングで世の中に出せたらな、とは思っています。

――ちなみに、その中止になったタイトルというのは、これまで打越さんが手がけてきた既存IPに関係する作品なのかどうなのか、そこはお話しいただけますか?

打越
 ここは伏せておきます。いつか言えるときが来たら。ただ、X(Twitter)にも書いた通り、打越ファンがそのタイトルを聞いたら鼻血を出して3日3晩踊り狂ったかもしれないようなものでした。

開発中止の背景と、生成AIが変えつつあるゲーム制作の環境

――本来は、その中止になったプロジェクトが“CRASH KEYS”の当面の柱としてあって、向こう何年かわかりませんけど、それを中心にいろいろやっていこうと思っていた。でも、それがなくなってしまったので、ほかの仕事があっても、事業の柱を失ってしまった状態ということですよね。

打越
 まさにそういう状況です。

――それは何というか、危機の度合いで言うと、どれぐらいなんですか?

打越
 そうですね……。会社員の家庭でたとえると、いちばん稼いでいた大黒柱の親が突然クビになっちゃったのと同じレベルじゃないですかね。一応、失業保険は何ヵ月か出るけど、つぎのことはまったく決まっていない。それとたぶん、状況は同じかな、と。喪失感で言うと、みんなで1年半かけて作ったトランプタワーが突如吹き飛ばされた感じです。まあ、僕の力不足のせいでもあるんですけど……。なので、スタッフのみんなには本当に申し訳なく思っています。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
――打越さんのファンの方々にしてみれば、やはりなぜ中止になってしまったのか、という点を少しでも知りたいところだと思うんです。プロジェクトが中止になった理由については、どこまでお話しいただけるでしょうか?
打越
 詳しくは言えないのですが、端的に言うと、パブリッシャーの方針転換と言えると思います。この規模のゲームで、どれくらい売って、どれくらいの利益を見込むのか。昨今のゲーム業界の厳しさもある中で、そういった方向転換があったのかもしれません。

 ちょっと婉曲にX(Twitter)でも書きましたけど、ゲーム業界全体の環境という意味で言うと、やっぱりAIがすごく絡んできているなと思っていて。

 我々のような中規模のゲーム開発チーム、とくにアドベンチャーゲームだと、個人で作っているインディーゲームもライバルの範囲に入ってくる状況になっています。

 そういった個人のクリエイターの方々の中には本当に少人数でAIを活用して、ものすごく短期間に、安い値段で、しかもすごくリッチなものを作ってきたりするので、そういったタイトルの期間や予算と比較されてしまうと、中規模チームが対抗するのは非常にきびしい。

 じゃあどうすればいいかというと、こちら側もAIを使わざるを得ないと思っています。AIを使ったゲーム作りに反発があることは理解しています。でも、僕自身はAI推進派というか、もっと率先して使っていったほうがいいと思っている立場なんです。というのも、AIを使っても人間のクリエイティブはまったく失われないと思っていて。

 イラストやグラフィックなどの絵としてのデザインも、ゲームを設計するゲームデザインも、もちろん物語も、そういうものの発端、きっかけはすべて人間が頭で考える必要があります。ただその先の、きれいに整えるような部分ならAIにある程度任せてもいいんじゃないかと思っています。

 こういうAI活用をすることによって、むしろクリエイターが「こういったものを作りたい」と思っていることの実現に近づく気がするんですよ。

 たとえばスタッフにグラフィックの修正を依頼するときに、「ここを何ドットずらして」と注文するとします。最初に「10ドットずらして」と言って修正版を見るとどうも違う。そこで「いや、ちょっと違うな。5ドット右かな」と言って直してもらった直後に、「いや、やっぱり3ドットかな」となったりして、3往復、4往復すると、さすがにその人もキレますし、モチベーションが下がっちゃいますよね。

 そうなっても不思議じゃないですし、ゲームづくりはチームワークなので、人間関係にも気を遣う必要があります。そうすると、理想に70~80%ぐらいまで近づいた状態なら「これで進めようか」と思うこともあるわけです。妥協とは言いませんが、制作期間や工数、そして、スタッフのモチベーションを考えると、そこが最適なバランスになるわけです。

 だけどAIなら、それを一切文句を言わずに無限に対応してくれる。配置はもちろん、色の調整だってそうです。だから最終的な成果物が70~80%で留まりそうだったものを、100%に限りなく近いところまで、クリエイターが考えている理想に近づけられる。

 そういう意味では、お客さんにも、クリエイターが本当に求めていたものを見てもらえるし、なおかつ制作期間も短くできるんです。いままで新作を作るのに5年間かかっていたクリエイターさんがいたとして、ファンの方々は、次回作が出るまでの5年間を待ち焦がれている。最近は、5年でも早いほうになっていますけど。

 それが、AIを活用することで、もしかしたら2年半でできるようになるかもしれない。ファンとしては、絶対にそのほうがうれしいはずなんですよね。

 だからといって、必ずしもスタッフを減らす必要はない。本来5年間かかっていたものを2年半で作れるなら、残りの2年半で別の作品を作ることだってできます。人員削減や解雇をしなくても、プレイヤーもうれしいし、クリエイターもうれしい。だから、僕はあんまりAIを悲観的には捉えていないかもしれないですね。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
――クリエイティブそのもの、つまり企画や発想、「何をやりたいか」をAIに任せるわけではない。そこは打越さんや、制作の主体となる人間が考える。そのうえで、実現するまでの効率を上げるためにAIを使うべきだということですね。
打越
 はい、そのとおりです。だから、手を抜くためにAIを使うんじゃないんですよ。むしろ、こだわるために使う、ということです。

――AIにキャラクターデザインそのものを丸投げしたい、といったことではないんですよね。打越さんは、たとえばコザキユースケさんなど、いろいろなその人ならではの才能を持ったアーティストやクリエイターの方といっしょに仕事をされてきたわけですし。

打越
 そうなんですよ。コザキさんなんて、めちゃくちゃ才能がありますし、AIには絶対できないデザインですから。ああいったものを見てしまうと、「この人とまたいっしょにゲームを作りたいな」と思います。

オリジナル作品の実現に向けたパートナーと人材の募集。公式サイトのARGは……?

――先ほど、今回のプロジェクト中止の知らせがあったのは東京ゲームショウの前の週くらいだとおっしゃっていましたよね。そうすると、10月15日の発表まで約1ヵ月。その期間で発表の準備をして、公式サイトを作って、といったスピード感はすごいですね。

打越
 ありがとうございます。自分ではそんなにスピード感がある動きだとは思っていなかったんですけど。というのも、もっと早く発表しなきゃ、という焦りはあったんですよ。ただ、今回の自社サイトは自分たちで作ったので、ちょっと時間がかかってしまって。本当は、もう1週間前に発表しようと思っていました。

――突然の通達からの動きとしては、とても迅速だったと思います。そういえば、公式サイトを自分たちで作られたとおっしゃいましたけど、ARG(代替現実ゲーム)が仕込まれていますよね。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
“CRASH KEYS”公式サイトのスクリーンショット。MEMBERSのEnglishのページには謎の暗号が……。
打越
 あー、あれは……。ハッキングされたというか、なんというか……。

――えっ? 海外ファンを中心に謎解きが盛り上がっていますよね。兄妹とか、あのシリーズのキャラクターらしいワードも出てきて……。

打越
 そうなんですか? 僕は全然知らないんです。直しかたがちょっとわからなくて……(笑)。

――あー、なるほど……? PHPのアップデートのこともありましたしね……(笑)。

打越
 それも関係しているのかもしれませんね(笑)。

――それは困りましたね(笑)。個人的に楽しむだけで、深く突っ込まないようにします! ところで、改めて今回の発表後にはいろいろな反響があったと思うんです。ユーザーの皆さんからも、業界の方からも。励ましの言葉も多かったと思いますが、いまはどんなお気持ちですか?

打越
 正直、こんなに反響があるとは思っていなくて。思っていた倍以上ある、という印象です。本当にありがたいとしか言いようがないというか、感謝でいっぱいです。公式サイトにも、ファンの方から激励のメッセージをめちゃくちゃたくさんいただいていますし、X(Twitter)のリプライにも「応援しています」という声がたくさん届いていて。同じことばっかり言っていますけど、本当にありがたいです。その言葉が励みになって、「これからもゲームを作り続けていこう」という気持ちになっています。

――これまで打越さんが作ってきたゲームが、それだけ多くの人に受け入れられていて、ファンがいるということですもんね。改めてわかると、うれしいですよね。

打越
 そうですね。何と言えばいいか難しいのですが、こういう事態にならなければ、ここまで多くのファンの皆さんからそういった言葉を一度にいただくこともなかったと思いますし、順風満帆にいっていたら聞けなかった言葉かもしれない。そういう意味では、不幸中の幸いではないけれど、いいこともあったのかな、とは思います。

――先日の発表の中に、「オリジナルのプロジェクトを進めていく」という言葉がありました。冒頭にも「企画、ディレクション、シナリオを行う会社」というお話がありましたが、“CRASH KEYS”は、シナリオだけを作る会社ではない、ということでいいでしょうか?

打越
 そのつもりです。僕はずっとディレクションをやってきたというのもあるので、ゲームデザインもやるつもりですし、企画、ディレクション、シナリオを中心とした会社にする予定です。あと、ササキはアニメの脚本などもやっていますし。ゲームに限らず、とにかくシナリオが関わるものならば、何でもやっていこうかなと思っています。

――現状、開発中止になったプロジェクトを除いて、“CRASH KEYS”で請け負っている仕事は、すでにいくつかある状況なんですか?

打越
 今回の発表の反響もあって、お仕事の依頼やお問い合わせはいただいていますが、現時点で具体的に公表できるものはまだなく……。

――なるほど。ただ、いろいろお話が来ているのは希望が見える状況ですね。現状、いっしょに事業を進めるためのパートナーを募っている、探しているということだと思うんですけれども、それはたとえば資金協力がメインなのか、それだけではないのか。どういったパートナーを想定されているんですか?

打越
 まず、会社を作ったからには、自分たちのIPを作って、オリジナル作品を作るというのが、最初のゴールだと思っていて。そのためには資金が必要で、まずは出資してくださる方、パートナーを探しています。

 ただもちろん、たとえばパブリッシャーさんから「打越さんと仕事がしたい」と言っていただけるなら、我々のオリジナルIPにこだわらず、別の形でのパートナーシップもあり得ると思います。それは、パブリッシャーさんから「こういうものを作ってください」という依頼になるかもしれないし、僕のほうから「これをやりたいです」と提案するのかもしれないですけど。

 それから、パートナー募集というのは事業に限った話だけでなく、文字どおりの意味でもあって。うちの会社の人数を増やす、スタッフ募集という意味合いもあります。

――当面、現状の3名のまま会社を維持するということではないんですね。

打越
 はい。ですので、もしゲーム開発の経験をお持ちで、我々に興味を持ってくださった方も、公式サイトからメッセージを送っていただけるとうれしいですね。

――ちなみに、求めている人材は、やっぱりシナリオを書ける方なんでしょうか。どういった方を仲間に迎えたいと思っていますか?

打越
 理想は企画、ディレクション、シナリオを全部できる人ですけど(笑)。どれかひとつでも大丈夫です。

――なるほど。これから“CRASH KEYS”でいろいろな仕事をやっていくにあたって、もう少し人手がないと難しい、ということでもあるんですね。

打越
 そうです。おかげさまで、仕事のご相談は本当にめちゃくちゃいただいているので。逆に、このままだと回らなくなってしまう可能性がある。だから人を増やしていければな、と。

――やはり今回の反響にともなって、引き合いがあるというか。新規の依頼や相談が来ているんですね。

打越
 そうですね。はい、ありがたいです。もともと今回の中止になったプロジェクトとは別に、まだ本格的に動いていない企画もあるのですが、そういった以前からのお話とは別に、今回の大きな反響を受けていろいろなご相談をいただいている状態ですので、それに合わせてスタッフ募集も考えているという状態です。

『極限脱出』の精神的続編となるか。新たなゲーム構想

――ここまでは今回の発表の経緯をうかがってきましたが、打越さんのファンとして、いちばんお聞きしたいのは今後のゲームづくりについてです。非常に難しいのは承知のうえで言いますが、やはり『極限脱出』シリーズのような新作を遊びたいという気持ちがあるんです。打越さんご自身も、ああいうゲームを作りたいと思っているのでしょうか。

打越
 ああ、それはすごく作りたいと思っています。自分の得意分野でもありますし、世間的にも、いままで僕が作ってきたタイトルの中ではいちばん評価されているのかなと思うので。そういう意味では、続編とは言えないまでも、いわゆる精神的続編や、近いフォーマットのものはできないか、と考えています。

 もう少し言うと、『極限脱出』のような脱出ゲームと物語が組み合わさった構成のものは、僕らがフォーマットを作ってきた自負がありますし、それで広まったと思っていますので、ほかの人は手を出しにくいというか、作ったとしてもユーザーさんから「これって『極限脱出』じゃない?」と言われてしまうと思うんですよね。

 でも、脱出ゲームと物語の相性ってめちゃくちゃいいので、この形式のコンテンツってもっともっと使えるフォーマットだと思うんです。だから、それなら「僕が作らずに誰が作るんだ」という気持ちもありますし。ぜひやりたいなと思っています。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】
『極限脱出 善人シボウデス』と『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』。
――『極限脱出』の新作をスパイク・チュンソフト出すという選択肢はないのでしょうか?
打越
 それは自分からはお答えできません。スパイク・チュンソフトさんのご判断次第なので。でも、できたら最高ですね。

――ぜひ遊びたいです。それは、何らかの企画書というか、具体的な構想はもうあるんですか?

打越
 まだ構想段階ではありますが、練り上げている途中のものはあります。ですので、いま考えている企画書ができあがったら、各方面へ売り込んでいこうと思っています。

――楽しみにしています。脱出ゲーム×物語のフォーマット以外のもので、打越さんが主体的にゲームを作るにあたって、これからチャレンジしたいこと、やりたいことはありますか?

打越
 いまお話したものが第一で、いちばんメインに考えているのはそれです。ただ、ほかにもいくつか企画は考えていて。たとえば、空間自体を切り取って、別の空間と入れ替えるパズルゲームみたいなものをやりたいんです。

 2Dの横スクロールでも何でもいいんですけど、たとえば、目の前の一定範囲の空間を切り取って、遠くにある同じ範囲の別空間と入れ替えるようなシステムだとして、目の前にいる敵ごと空間を切り取って入れ替えると、その敵も移動しますよね。そういうイメージで、プレイヤー自身ももちろん空間といっしょに入れ替わるし、「切り取る」という仕組みなので、あえて敵の身体を中途半端に切り取ることでダメージを与えて倒すこともできる、そういったパズルゲームを企画しています。

 ただ、その仕組みがじつは物語にも関わっていて……。そんな仕掛けで驚かせることをやりたいなと。

――すでにおもしろそうですね! システム面から想像するのはアクションゲームみたいにも思えますが、アクション要素も入ったパズルゲームというイメージでしょうか。

打越
 はい。僕のファンの方は、どちらかというとテキストアドベンチャーが好きな人が多いので、反射神経を使うものではなく、考えるときも時間を止めて、「どこをどう入れ替えたらうまくいくかな」とじっくり考えるようなゲームにしたいと思っています。強引にたとえるならば、『ゴースト トリック』みたいなものが近いかもしれません。あとは、ほかにもいろいろ考えていますが、ナイショです(笑)。最近、アイデアを話すと、すぐに誰かがAIでパクって作ってしまう、という話がありましたし。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】

ファンへの感謝と、クラウドファンディングの可能性

――でも、その話を聞いて「じゃあ、いっしょにやりましょう」という会社も出てくるかもしれませんよね。では最後に、まずファンの皆さんへのメッセージと、それから、これからいっしょに仕事をするかもしれない業界の皆さんへのメッセージをお願いします。

打越
 そうですね。先ほども言いましたが、本当に逆境の中で、人生のどん底のような状態にいたときに、ファンの皆さんの温かい言葉があったからこそ、「がんばろう」という気持ちになれましたし、とても前向きになれました。心から感謝していますし、これからもぜひ応援していただきたいなと思っています。

 仕事に関しては、僕自身、いろいろなアイデアがありますし、これまでの経験からすると、ほかの方のアイデアを実現するのもわりと得意なほうだと思っているんです。ですので、「打越といっしょに仕事がしたい」という方がいらっしゃったら、まずは声をかけていただいて、いっしょにゲームを作っていければと思っています。

 あと、最後にもうひとつ。まだ確定ではないんですが、クラウドファンディングをやろうかなと思っています。そうすれば、ファンの皆さんや、賛同してくださるプレイヤーの皆さんの意見をもっと密接に聞くこともできますし。

 まだ企画段階で、実現は少し先になるかもしれませんが、クラウドファンディングを実施した場合は、ぜひご協力いただけると非常に助かります!

――なるほど。クラウドファンディングは、特定のゲームを作るために支援者を募るイメージになるんでしょうか?

打越
 まだ決まっていないのですが、実施するとしたら、制作するゲームのイメージを皆さんにお見せして、「遊びたい」と思っていただいた方に支援をお願いする、といったことになると思います。ただ、すべての資金をクラウドファンディングでまかなうのは難しいと思いますので、ベースはパートナー会社を見つけたり、別の資金を用意して、そのうえで、一部をクラウドファンディングでまかなう、ファンの方の声を集めるといったイメージになると思います。

――実現するといいですね。

打越
 そうですね。でも、僕みたいな無名のクリエイターがやっても、たぶん30万円くらいしか集まらないので(苦笑)。

――また、そんなことを。打越さんは、戦略的にそういうことを言いますよね(笑)。

打越
 でも、半分くらい本当にそう思っているんですよ? 半分くらいは冗談かもしれませんが(笑)。

 でも、これを読んでいる皆さんにご協力いただきたいのは本当です。ぜひよろしくお願いします。
「『極限脱出』の精神的続編を作りたい」。打越鋼太郎氏が新会社“CRASH KEYS”設立の経緯と新作開発中止の衝撃を語る【インタビュー】

担当者プロフィール

  • 世界三大三代川

    世界三大三代川

    ファミ通.com編集長。『ゼルダの伝説』、『ファイナルファンタジー』、『ダンガンロンパ』、『スプラトゥーン』などの記事を担当。記事のほか、動画番組などのプロデュース、“スプラトゥーン甲子園”の解説なども。

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