2026年10月22日にPC(Steam)向けに発売予定の『つみみじかん 狂オシイホド愛シテル』。元アイドルの配信者・つみみの配信に視聴者として介入し、いわくつきの廃村を調査していくサイコホラーアドベンチャーだ。プレイヤーは投げ銭を利用してつみみの行動を誘導し、その選択や推理によって物語の結末が変化していく。 本作は、ゲームの内容を明かす前に主題歌PVを先行公開するというプロモーションを行った。インパクト抜群の主題歌『推推推推推推推推金金金金金金金金』は公開されるやいなや話題を呼び、『つみみじかん』の名を一気に印象づけた。
ファミ通はそんな『推金』を手掛けたボカロPのきくおさんにインタビューを実施。きくおさんが起用された経緯や、曲作りのディープな話までうかがったので、その内容をお届けする。
きくお
2003年に音楽制作を開始し、2010年にボーカロイド楽曲を初投稿。楽曲『愛して愛して愛して』はYouTubeにて1.2億回再生、Spotifyにおけるボーカロイド楽曲再生数世界1位を達成。2024年から2025年にかけて、ボカロP史上初となる19ヵ国53ヵ所を巡るワールドツアーを完遂するなど、国内のみならず海外からも大きな注目を集めるアーティスト。
「きくおさんしか考えられない」という熱烈なラブコールから始まった
――まず、『つみみじかん』に携わることになった経緯からお聞かせください。
きくお
ある日、灯白社の小木曽さんからとてつもなく丁寧なメールが届きまして。
――どのようなメールだったのでしょうか。
きくお
ご依頼の文面には、不自然な形のコピー&ペーストであったり、名前が違っていることもけっこうあって。そういう場合はお断りすることが多いんですね。
でも今回は、最初からきちんとした文章で、企画の内容もたくさん提示してくださっていました。「自分たちのゲームはこういう作品だから、きくおさんしか考えられない」と書かれていて。そこまで言ってくれるなら、ぜひいっしょにお仕事したいなと思いました。


後日共有していただいたメール(一部)。まさにラブコールとでもいうべき熱い思いが伝わる文面。
――『つみみじかん』の企画は制作中に形を変えていったとうかがいました。最初に受けた印象と、現在の作品に違いはありましたか?
きくお
自分の目から見ると、軸やコンセプトはそのままに、どんどんブラッシュアップされていった印象です。企画書を見たときから「自分の作風とマッチする」と感じていましたが、そこがブレなかったのはうれしかったです。
――音楽以外の部分にも、きくおさんが関わっているとお聞きしました。
きくお
きっといいものになると思っていたので、ゲームの内容には余計な口を挟まないように気をつけていました。もし関連性があるとするなら、収録中などにした会話を小木曽さんたちが受け取って、そこからインスピレーションを得てくださったかも、ぐらいの感覚です。

完成直前にいちから作り直し。究極まで削ぎ落してパワフルな主題歌に
――主題歌『推推推推推推推推金金金金金金金金』は、聴いた瞬間に強烈なインパクトがあります。どのようなオーダーからこの曲になったのでしょうか。
きくお
ありがたいことに、かなり好きにやらせてもらったという感じです。どうやったらおもしろくなるのかを考えていました。和ホラーのテイストがあり、配信者を題材にしていて、メンタルに関わる部分がある、というのは企画書の段階から深掘りされていたので、それをどう主題歌へ落とし込むか、いろいろ試行錯誤しました。
――完成直前に、大きく作り直したそうですね。
きくお
最初は、人の心の動きを細かく描写しようとしていました。つらい気持ちや楽しい気持ちなど、人の心がどう動き、どんな物語になっていくのかを、小説のように曲の中で表現しようとしていたんです。もっと複雑な曲で、内容の詰まった歌詞で……という方向で練っていきました。
でも、それではゲームの主題歌として少しパワーに欠けると思いまして。そこでいままでのものを全部破棄して、もっとそぎ落としてパワフルなものにできないかと考えました。究極までそぎ落とした結果、現在の形になっています。
――そぎ落とす方向へ切り替えた決め手はなんでしょう。
きくお
推し活に入れ込んでいる方々と話しているうちに、「もっとシンプルにしていいんじゃないか」と思ったんです。ゲームの中では、人の心理や物語が細かく、大事に描かれている。だから主題歌では、もっと表面的な部分に注力する形で描いて、その先はゲーム本編に任せようという方向で固まりました。取材先の方々の人生を語るような描きかたではなく、この人たちが歌いたくなる、叫びたくなるような強い言葉はなんだろう、というベクトルに切り替えたわけです。それが、歌というものの役割ということで、今回は考えました。
依頼を受けて曲を作るときも、つねに新しいこと、おもしろいこと、個性的なことをしたいという気持ちが強くて。ご迷惑をかけてはいけないと思いつつ、こだわりが出すぎて、お待たせしてしまうこともあるんです。それもあって、ホームページではしばらく依頼をお断りしますと書いていました。でも、こういうすばらしいお話が来ると思いきりやりたくなるし、好きなんです。そこはずっと悩んでいますね。
――妥協したものは出せないですよね。
きくお
折り合いをつけておくべきなんですけどね(笑)。

鐘の音をベースに作曲。間奏では鐘を108回鳴らして煩悩を表現
――この曲の音作りについて、詳しく教えてください。
きくお
この曲は、ほとんどの音を、鐘とドラムのふたつだけで構成しています。鐘とは、ここではお寺の梵鐘のような音です。そこにボーカルが乗る形ですね。それによって“煩悩”を表現すると同時に、ホラーや怖さも表現しようとしました。
――実際の鐘の音をサンプリングして使ったのでしょうか。
きくお
簡単に言えば、いろいろなお寺の鐘を、パソコン上で自由自在に鳴らせるシステムを構築しました。少し詳しく説明すると、鐘の音の倍音成分を一音一音分解し、それをシンセサイザー上で再現することで、鐘の音一打のなかに、自在な和音を内包できるようにしたんです。
たとえば、ひとつの「ゴーン」という鐘の音の中に、ド・ミ・ソの音階がすべて入るよう、倍音を構成するのです。それを鳴らし終わったら、つぎにレ・ファ・ラの音階が倍音内にすべて入った鐘の音を作り、また鳴らす。そのようにして、鐘の音が鳴るだけでコード進行が完成するという、まあ伝わりにくい、マニアックなことをやっています(笑)。コンセプトを強調するため、鐘以外の余計な音を極力入れたくなかったんです。
――それはすごいですね。曲の中で、とくにわかりやすく表れている部分はありますか?
きくお
少し質問とは逸れるかもしれませんが、ギミック的な部分で言えば、中盤では鐘が108回鳴っています。短い時間に108回連打することで、煩悩を表現しています。鐘の音、ホラー、怖さ、シンプルさ、力強さを全部入れようとした結果、少々お待たせしてしまうという……。
――鐘というひとつのモチーフに、和ホラーの空気、推す側と推される側の関係や煩悩が集約されていて美しいと感じました。
きくお
ありがとうございます。鐘を使うこと自体は、企画書をいただいた段階からふんわり考えていました。アイドルポップのような路線もあり得ましたが、こういうマニアックなことをしないと、自分のテンションが上がってこないんです(笑)。今回は「いろいろなアイデアを何でもぶつけていい」と言っていただけたので、大いにマニアックなことをやらせていただきました。

主題歌は“広告”であり“作品の顔”。一発でインパクトを残すタイトルに
――『推推推推推推推推金金金金金金金金』というすさまじいインパクトのタイトルは、きくおさんの発案ですか?
きくお
僕からです。タイトルをつけたのはけっこう最後のほうでしたね。理屈を積み上げて決めたというより、ノリに近いです。
主題歌は広告、言ってみれば作品の顔なので。どうすれば一発でインパクトを残せるか、自分なりに考えた結果がこのタイトルでした。
――曲の長さは約2分20秒。最近は短い楽曲も増えていますが、そうした流行を意識したのでしょうか。
きくお
そこはあまり意識していません。この曲は短いのがいいだろうと判断しただけです。いまの世の中で短い曲ばかりが流行っている、という印象も個人的にはそこまでなくて。単純に、その曲にとってベストな形があると思っています。この曲は、そぎ落としていった結果として2分20秒になりました。
――同じ言葉を何度もくり返す構成も耳に残ります。個人的にはきくおさんの『塵々呪詛』を想起したのですが、そういった要素はありますか。
きくお
過去曲へのセルフオマージュなどは、自分はあまり考えないほうですね。シンプルに「おもしろい」と思ってやっています。

とくべつな衣装で登場したきくおさん。
“かわいい声”と“マジモンのシャウト”を両立できるのは神楽めあしかいなかった
――歌唱はVTuberの神楽めあさんが担当しています。どの段階でお願いしようと決めたのでしょうか。
きくお
一応曲ができた後ですが、制作の最初のあたりからもう、これは神楽めあさんしかいないだろうな、とイメージしながら作っていました。
――決め手はどこにありましたか?
きくお
まず声質です。かわいく、アイドルやアニメの文脈に合う声で歌える。それでいて、しっかり叫べる。そのふたつを完全に両立できる人は、なかなかいません。
僕は、かわいい声なのにめちゃくちゃに叫ぶ表現がもともと好きなんです。以前にじさんじに所属していた御伽原江良さんとかもそうですね。歌として成立させながら、“芸としてのシャウト”ではなく“マジモンのシャウト”が出せる人は本当に少ない。神楽めあさんには、それができると思いました。
また、VTuberであることがゲームのコンセプトに合っていますし、普段から配信や切り抜きを楽しませていただくなかで、さまざまな声色が出せて、喉の強い方なのだろうという、音屋目線での勝手な信頼感もありました。それまで公開されていた神楽めあさんの楽曲には、シャウトを大きく打ち出したものが見当たらなかったので、ファンの方にも、叫ぶ神楽めあさんの歌を届けたい。何より僕自身が聴きたかったんです。「この方しかいない」と思いました。
――“推される側”であるVTuberが、“推す側”の感情を歌う構図もおもしろいです。
きくお
推している側の気持ちを、推される側から発信する。その倒錯した魅力はありますよね。ただ、いまはそういう表現自体にはみんな慣れているとも思うので、そこだけで驚かせようとは考えていませんでした。
――レコーディングでは細かなディレクションをしましたか?
きくお
オーダー自体は小木曽さんにお任せしつつ、僕からも「この曲なら神楽めあさんしか考えられない」とお伝えしました。歌いかたは、聞けばやりたいことをわかってくれるだろうと思っていたので、そこまで細かく指定していません。最初から信頼していました。
――完成した歌を初めて聴いたときはどんな気持ちでしたか?
きくお
「頼んでよかった」のひと言です。「もうこれは間違いない!」と、みんなでテンションが上がりまくっていました。

音割れはさせず、初音ミクそのものをバグらせて作り出した叫び
――きくおさんのチャンネルでは、初音ミクが歌うボーカロイドバージョンも公開されています。神楽めあさん版とは、どのようにアプローチを変えましたか?
きくお
歌は初音ミクも得意な分野ですが、苦手とするシャウトをどうするか、違う魅力をどう出すか、かなり試行錯誤しました。神楽めあさん版が良すぎたわけです。
ボカロ版では、叫ばせるというより“バグらせる”という発想です。ソフトウェア自体を無茶な動かしかたにして、音声をバグらせました。それが、初音ミクのシャウトとしての正解ではないかと考えたんです。
――声に歪みのエフェクトを加えたわけではない?
きくお
人間ではなく、ボーカロイドというソフトウェアが我を忘れたように叫ぶとはどういうことだろう、と考えました。そこで、ソフトウェアがバグるところに“デジタルシンセサイザーの叫び”があるのではないかと考えたんです。初音ミクのシャウトには、音を歪ませるエフェクトをまったく使っていませんし、音割れもさせていない。極力、初音ミクというソフトウェア自身の叫びを、生のまま伝えたかった。その結果、独特の叫びが出せたと思っています。
――ボーカロイドバージョンのイラストと映像は、ホストが題材の漫画『星屑の王子様』などで知られる茅原クレセさんが手掛けています。どのようなつながりから実現したのでしょうか。
きくお
それまで交流があったわけではなく、メールで直接お願いしました。「なぜ茅原さんなのか」、「なぜこの曲には茅原さんしかいないのか」を、あらゆる角度から、すごいテンションで連射するように送りまして。無理やりご快諾いただいたような形です(笑)。
――きくおさん自身が受け取ったオファーと同じく、今度は熱烈なメールを送ったのですね(笑)。
きくお
そうですね。僕は「この作品にはこの人だ」と思ったら、基本的には熱のあるメールを送ります。ラブコールの連射です。
――茅原さんから最初にイラストが届いたときの印象はいかがでしたか?
きくお
まず、こちらのラフの中から選んでください、という形で何種類か案を提示していただけました。どれもこれも本当に良くて、とても迷いました。褒め散らかしたうえで、こちらのチョイスは茅原さんにもご納得いただけて、そこから仕上げていただきました。
何より、ディテールが本物なんですよね。“推し活に狂う人”をよく知っている方だからこそ描ける細部が、随所に散りばめられている。わかっている人に刺さるものにしたかった。だから茅原さんにお願いしましたし、実際にぴったりでした。

じつはホラーは苦手。興味があるのは、人知を超えたものへの“畏怖”
――ここからは、きくおさんの創作の原点についてうかがいます。ものづくりには子どものころから興味があったのでしょうか。
きくお
小学生のころ、いじめられていた時期があって、ひとり遊びでものを作っていたんです。それを見た人から「おもしろいじゃん」と言ってもらえて、僕が作ったものでみんなが喜び、その間だけ僕自身から作品へと注意が逸れるような形で、いじめが止む。そういう経験がいくつかあって、「自分は創作で社会に身を立てていくんだ」と決意しました。楽しいし、たぶん向いている。これを極めて、社会の荒波を何とかやっていこうと思ったんです。
――楽曲の印象から、ホラー作品がお好きなのかと思っていました。
きくお
じつはホラーは苦手なんですよ。怖いものは無理で、かわいいものが好きです(笑)。自分の作品をなぜホラーだと言われるのか、いまひとつよくわかっていないところもあります。
僕が興味を持っているのは、ホラーというより“オカルティシズム”です。一般的な幽霊やお化けという意味ではなく、人知を超えたものを見たり、味わってしまったりしたときに、自分の中に生まれる“畏れ”のような感情。自分は“神性”と表現したりもするんですけど。そういう“畏怖”のようなものに興味がありますね。
――ホラー的な恐怖ではなく、理解を超えたものを前にした“畏れ”なのですね。
きくお
そうですね。僕の作品から怖さを感じるとしたら、ホラーの恐怖というより、畏怖のほうでありたい。まあでも、ふつうに怖がられるのもそれはそれでおもしろいですが(笑)。
――きくおさんは『ゆめにっき』が好きだとおうかがいしていたのですが、いまの話を聞いて納得しました。
きくお
そういった作品はすごく好きですね。源流をたどると、ゲームで言えば『MOTHER2』とかになってきますね。
『ゆめにっき』には当然ホラー要素もあるんですが、ただ自分は畏怖とか畏れとか、その方面で感動しました。
あと、似たような括りで言うと『タオルケットをもう一度』という作品もあったりして。その中でも“ちゅん”の話が、そういった意味で本当に本当に好きで。ああいうかわいさと畏怖の共存を目指したいとつねづね願っています。
――推し活にも、推す相手を神のように感じる“信仰”の側面があります。
きくお
まあそれだとゲームの方向性とズレるかもしれない。でも、そういう方向で作ってもおもしろかったかもしれませんね。『DEATH NOTE(デスノート)』の魅上照みたいな。
人間の闇はセンシティブなもの
――少し作品から離れた質問になるのですが、かつてはカウンターカルチャーと捉えられていた、シニカルで毒のある、ダークな世界観が、現在はより広く受け入れられているように感じます。表現者として、この変化をどのように見ていますか?
きくお
僕自身は、ダークな世界観みたいなものが、そこまで受け容れられているとは感じていませんでした。なんというか、売れていることと、受け容れられていることとは、創作表現上は、あまり干渉がない気がします。
言いかたが難しいのですが、たとえばこう、誰しもがデジタル裸婦絵画が好きなものだとして、それを衆人環視のお茶の間に堂々とお出しするのは違うわけです。それが現代では手広く売れているからといって、おれたちはメジャーな表現なのだ、という面をして露骨に前に出ていくのは違う、といった類の表現があるということです。人間の闇についても同様に、密かで、人前では暴かれたくないような、センシティブなものとして扱い続けるのが望ましいだろうと思います。ですから創作者としては、あまり気にしないという態度でいます。

『つみみ』はかわいくて、楽しくて、怖くて、おもしろい。まずはシンプルに遊んでほしい
――楽曲以外で、きくおさんが考える『つみみじかん』の注目ポイントを教えてください。
きくお
シンプルに、キャラクターがみんなかわいい。楽しいし、怖いし、おもしろいので、まずは素直に楽しんでもらえればいいと思っています。
――今後もゲームに関わる仕事を続けたいですか?
きくお
もちろん楽しいですし、好きなのでやっていきたいです。ただ、自分の持っている資質と、依頼を受ける活動が合っているのか、悩むところはありますね。とはいえ、うじうじしていないで、これからもやっていきたいと思います。
――最後に、読者へメッセージをお願いします。
きくお
楽しいゲームなので、いっぱい遊んでください!

製品概要
- 作品名:つみみじかん 狂オシイホド愛シテル
- ジャンル:配信介入×調査推理サイコホラーADV
- プレイ人数:1人
- 価格:1,980円(税込)
- 発売日:2026年10月22日(木)
- プラットフォーム:PC(Steam)
- 公式X
週刊ファミ通2026年11月5日号(No.1968/2026年10月22日発売)では『つみみじかん』の発売記念特集として、今回のインタビューに加えてつみみの表情豊かなスチルイラストをご紹介。詳細は誌面でチェック!
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