シミュレーションRPG『スーパーロボット大戦』シリーズが、第1作発売から2026年で35周年を迎えた。これを記念し、ファミ通.comでは、『スーパーロボット大戦』シリーズに関わってきたロボット作品を手掛けるクリエイター陣へのスペシャルインタビューを掲載する。 第1弾として、シリーズの立ち上げから現在にいたるまで、看板キャラクターとして活躍する『マジンガーZ』などの作品を手掛けてきたマンガ家・永井 豪氏へのインタビューをお届け。「現実と夢の世界、両方を持つから人生を生きられる」と語る永井氏。エンターテインメントへの愛と信念に加え、『マジンガーZ』の誕生秘話や『スーパーロボット大戦』への参戦当時のエピソードなど、さまざまなテーマで氏に思い出を振り返っていただいた。

永井 豪(ながい ごう)
マンガ家。1967年に『目明しポリ吉』でデビュー。現在に至るまで、さまざまな作品を手掛けてきた日本を代表するマンガ家のひとり。代表作に、『ハレンチ学園』、『あばしり一家』、『デビルマン』、『マジンガーZ』、『キューティーハニー』など。『マジンガーZ』は、パイロットがロボットに乗り込んで戦うという現在のロボット作品の基礎となった作品でもある。(文中は、永井)
「かまわないよ」と快諾したマジンガーZの『スパロボ』参戦
――『スーパーロボット大戦』シリーズには、初期シリーズから現在にいたるまで『マジンガーZ』が看板キャラクターとして活躍しています。第1作が発売されたのは1991年でしたが、当時バンプレスト(現・バンダイナムコエンターテインメント)からオファーがあった際は、どのようなやり取りがあったのでしょうか?
永井
当時僕のマネージャーをしていて、いまはダイナミック企画の社長をしている弟の永井 隆から、「『スーパーロボット大戦』という作品にマジンガーZを出したいという企画が来ているんですけど、どうでしょうか?」という話があったんです。そのときに隆が、「ゲームだとどうしてもキャラクターが小さくかわいくなってしまうだろうし、アニメやマンガの巨大なマジンガーZのイメージとは違ってしまうけど、それでも大丈夫ですか?」と心配していたのを覚えています。「それが嫌だというんだったら、断ってもいいですから」とも言われていました。
――デフォルメされたロボットになることへの懸念があったんですね。ですが、オファーを受けたのには、どういった決め手があったのでしょうか。
永井
ゲームユーザーさんの方は、ゲームにかわいらしい2頭身のマジンガーZが出てきても、「これはマジンガーZなんだ」と想像して遊んでくれると思ったんです。ちゃんと頭の中では、アニメやマンガのかっこいいマジンガーZをイメージしてくれているはずだから。だから、「かわいいグラフィックになっても、それはかまわないよ」と答えたんです。
――プレイヤーも、カッコいいマジンガーZの姿やアクションを想像しながら遊んでくれると考えたんですね。
永井
それと、ゲームになると、マンガやアニメで遊び足りなかった人たちやもっとマジンガーZの活躍が見たいという人たちも満足していただけるでしょうし。それは作者としては本当にうれしいことなので、「どんどんやってください」と言ってお願いしました。

スーパーロボット大戦/マジンガーZ
――ゲームだと、プレイヤー自身がパイロットとしてロボットを操作できますから。
永井
そうですね。そういう遊びがあれば、マジンガーZをより深く愛していただけるいいきっかけになるのではないかと考えたんです。
――『スーパーロボット大戦』シリーズでは、ダイナミックプロからマジンカイザーなどのゲームオリジナルのロボットが多数生み出されています。当時としては非常に珍しい試みだったと思うのですが、これらはどういったやり取りから生まれたものだったのでしょうか?

スーパーロボット大戦Y/マジンカイザー
永井
マジンカイザーたちが企画された年代にはもう『スーパーロボット大戦』も人気シリーズになっていると聞いていましたから、「あとはもう本当にどんどん進めてください」と言っていて、「つぎの機体はこうして、ああして」とお願いしたことはありませんでした。
――先生からリクエスト・指示のようなものは出さなかったんですね。
永井
そうなんです。あとは、バンプレストの人たちが作品と向き合ってくれればいいですよ、と。あとは成り行きで「つぎは何が出ました」と聞いて、「そうなんだ、よかったよかった」と言っていただけで(笑)。僕自身はあまり当時からゲームをやる人間ではなかったんですけど、ゲームという文化やそれで遊ぶユーザーさんがどんどん増えているというのは感じていましたから、そういうのも時代の流れなんだろうと思っていましたし、いいことだなとも感じていました。
――そんな永井先生にとって、『スーパーロボット大戦』というのはどういった立ち位置の商品、あるいは作品として捉えられているのでしょうか?
永井
マンガだったら読んでおしまい、アニメでもその時間映像を観ておしまいですけど、ゲームだったらユーザーさんは、もっと自由に、もっと自分の感情を込めて好きなだけ遊べるコンテンツになるんじゃないかなというのは感じていました。いろいろな“遊びかた”ができるのがゲームなんですよね。マンガやアニメよりもずっと長時間遊べるものになると思っていて、そういうものをユーザーさんに提供できることは、うれしいことだなと思っていました。

スーパーロボット大戦V/マジンガーZERO
――『スーパーロボット大戦』をプレイして、初めて『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』という作品を知り、そこから原作マンガやアニメをさかのぼって観たというファンもたくさんいます。原作者としてそういった現象はどう思われますか?
永井
ゲームから入っても、そのキャラクターやロボットに魅力を感じていただいて、ユーザーさんが原作のマンガを探してくれたり、アニメを……当時はビデオでしたね。そういうのを探して楽しんでくれるというのは、本当にうれしいなと思います。それで、より深くキャラクターや作品のファンになっていただけることもあるので、たいへんありがたいことです。

スーパーロボット大戦F/マジンガーZ

誰しも持つ夢と憧れを具現化した『マジンガーZ』
――永井先生が作品を作るうえで、念頭に置いているこだわりや信念、キーワードのようなものを教えていただけますでしょうか。
永井
僕自身、マンガがあったから少年時代を無事に過ごすことができた人間なんです。もう本当に、どちらかというと「現実なんかつまらない」と思っていたくらいでしたから(笑)。
――マンガの世界に夢中になっていた少年時代だったんですね。
永井
僕の子ども時代は手塚治虫先生のマンガにどっぷりだったんですけど、そのマンガの世界に入っているときだけが、なんか本当に自分の心が自由になっているような気がしたんです。そこに住んでいるとき、マンガの中に入っているときが本当の自分で、現実の日常の生活っていうのは、もう「仮の姿」みたいなふうに考えていました。
――永井先生にとっては、現実よりもマンガの世界のほうがリアルだったと。
永井
ですから、僕自身もマンガ家という立場になったとき、読者の人が完全にマンガの中に心を入れ込んでいただけるような作品を作ろうという想いでした。日常の嫌なこととかを忘れてほしいなと。日常には嫌なこと、たくさんありますよね。「つまんないことはやるな」とか、「こんなこともやんなきゃいけないのか」とか、たくさんあると思うんですけど、そういうことを一時的にでも忘れることができるように、夢中になれるようなマンガを作りたい。そういうつもりで作品を作っていました。
――先生のエンターテインメントに救われている読者は本当に多いと思います。
永井
そういった背景があるので、マンガの中では“どんな嫌なことがあってもはねのけられる強い主人公”を描きたいと、いつも思っているんです。
――そういった想いから、兜甲児のような強くてカッコいい主人公が生まれたのですね。『スーパーロボット大戦』にはそんな先生の作品が多数登場しますが、印象深いロボットはどの機体になりますでしょうか。
永井
やっぱりマジンガーZですね。マジンガーZを作ったときに「いちばん画期的なものを思いついた」という自負がありますので、そのマジンガーZに対する思い入れがいちばん強いです。また、『スーパーロボット大戦』に参加するきっかけであったり、スタート地点に立ってくれたこともうれしいので、やはりマジンガーZですね。

『マジンガーZ』はクルマの渋滞を見て思いついた
――『マジンガーZ』は、コックピットに人間が乗り込んで戦う、巨大ロボット作品の礎となったエポックメイキングな作品です。この「ロボットに乗り込んで戦う」という発想は、どういったところから生まれたのでしょうか?
永井
子ども時代、手塚治虫先生の『鉄腕アトム』や、横山光輝先生の『鉄人28号』で育ってきたので、「自分も違うロボット作品を作りたい」とずっと考えていました。ですが、自分の中でロボットのイメージができるまでは、ロボット作品を描くのはやめようと思って封印していたんです。「ロボットは描きたいけど、それは思いついたときに描こう」と思っていて。
――よく「クルマの渋滞を見ていて思いついた」というお話をされていますね。
永井
そうですね。それにいたるには、ひとつは「ああいう巨大なものに自分が乗ってみたい」という願望がありました。自分の力をもっと拡大したいという、少年時代の夢ですね。どうしても子どものころというのはまだ幼いので、「早く大人になって大人を見返してやりたい」とか、「でっかい悪いやつをやっつけたい」とか、そういうシンプルな願望を持つと思うんですけど、それをどういう風に誘導すれば読者を惹きつけられるんだろうという疑問が、いつも自分の中にありました。その原型として最初にやったのが、『魔王ダンテ』という作品なんです。
――主人公が悪魔に取り込まれてしまう、衝撃的な作品です。
永井
『魔王ダンテ』では主人公が悪魔に食べられてしまうんですけど、その悪魔の額に主人公の顔が出てきて、巨大な魔獣となって暴れ回るという作品です。その『魔王ダンテ』の要素のひとつが『デビルマン』になって、もうひとつが『マジンガーZ』になって出てきたんじゃないかなと思っています。デビルマンの悪魔的なところはそのまま『魔王ダンテ』からそのまま来ていますが、“乗り込む”という要素の原型も『魔王ダンテ』だったと。
――自分の力を拡張したいという想いが、ロボットにつながったわけですね。
永井
クルマみたいに運転するとなったら、どんな子でも「自分もそこに乗れば動かせるんだ」と思ってもらえるし、入りやすいなと。魔王ダンテに食われちゃうのは嫌だけど(笑)、操縦するのは誰もがしたいことですよね。“ちょっと巨人になれる”というのは、それはもう誰もが、少年の心を持ったみんなが夢見ることじゃないかと思ったので、「これならいける」と。
――ふとした瞬間にアイデアが思い浮かんだとのことですが、そんなにすぐにアイデアからデザインが見えてしまうものなのでしょうか。
永井
見えてしまったんです。クルマの渋滞を見て「クルマを運転するように動かせるロボットがいいな」と思って。その15メートル先くらいにダイナミックプロがあったんですけど、歩いて戻って机に着くまでにもう頭の中にマジンガーZの絵が見えていて、机に着いてスケッチブックを開けたら、頭に思い浮かんだマジンガーZを描くだけでした。それを東映動画の方にお見せしたら固まっちゃって、「これ、持って行って(検討して)いいですか」って言ってくれたのが、『マジンガーZ』の企画の始まりでした。

――そうやって生み出された『マジンガーZ』を礎に、『マジンガーZ』の新しいシリーズや新たなロボット作品が、現在も熱意あるクリエイターの方々によって作られ続けています。後続のクリエイターの活躍を見られて、どういった感想を持たれていますか?

スーパーロボット大戦T/マジンガーZ
永井
文化というのは“積み重ね”だと思っています。僕は手塚先生の作品でロボットを好きになり、横山先生の『鉄人28号』もすごいなと思って、そのつぎに自分が『マジンガーZ』を作ったという、そういう形ですから。どんどんどんどん、文化が重なっていって、『マジンガーZ』で育った人たちが、また新たなロボットを作ってくれたりしています。また、僕とは違う世界観で『マジンガー』シリーズの作品を作ってもらえたら、それはそれで文化の発展形としていくらでもオーケーだし、そういうのを楽しみにしています。さらに、僕自身もそれを見て、「こういうことやるんだったら、僕もさらに違うことできるかな」といった刺激をもらうことも多いので、喜んで見ていますよ。

スーパーロボット大戦DD/マジンカイザー
――『スーパーロボット大戦』に登場するほかのロボット作品も、多くのクリエイターの方々が、さまざまなテーマのもと作品を作られていて、現在にいたります。当時におけるロボット像やヒーロー像と、現代におけるロボット像やアニメの立ち位置の変化を感じることはありますでしょうか?
永井
『機動戦士ガンダム』ですと、量産型だったりとかね、敵にもガンダムが出てきたりと、ロボットに人格があるというより兵器的な扱いで登場するというのは一貫していると思いますが、それはそれでありだなと思っています。と言うのも、僕の場合は最初『魔王ダンテ』的なイメージから、巨大ロボットは人間がキャラクター性を増幅させる存在だという風に考えていました。
――兵器というよりは、いち個人のようにパーソナリティーがあるようなイメージでしょうか。
永井
そうです。マジンガーZはロボットなんだけど、人間としてのいろいろな人格、パーソナリティーみたいなものを備えさせたいという気持ちがありました。ですがどこかのタイミングからは、「機械は機械として人格とは分離して考える」というのも、それもありだなと思うようにはなりました。
――これからの時代、AIの発達によってロボット像がさらに変わる可能性も考えられますでしょうか。
永井
現実世界でAIが発達して人格を持ったロボットがもし出てきたら、また変わってくるかもしれないですね。いまの段階では、本当に「機械としてのロボット」みたいなことで作られていますから。それがどんなふうに発展していくのか。やっぱりロボットに乗り込みたいという考えもあるだろうし、アトムのようにAIを備えたロボットが登場することもあり得るかもしれないですね。ただ、その一方でただの機械であるロボットみたいなものは、当然続いていくと思います。

スーパーロボット大戦30/マジンカイザー
――現実世界でも作品の世界でも、今後どんなロボットが出てくるのかを想像するのも楽しいですね。最後に、この記事を読んでいる『スーパーロボット大戦』ファン、そして永井豪先生の作品を愛する読者の方々へ、メッセージをお願いいたします。
永井
ゲームにしても、マンガにしても、アニメにしても、“夢の世界”ではあるんですけども、こういう世界を大事にして心を遊ばせていってほしいです。現実というのはあまりにきびしかったり苦しかったりしますから、そういうたいへんなことで人生が行き詰まって、生きていけないと思ってしまう子どももいます。そういうときは、一時的にでも現実を忘れて、夢の世界で心を休めたり、楽しんでいってほしいです。そうすることができれば、人間は生きていくことができるので。
――エンターテインメントが、生きるためのシェルターになるのですね。
永井
マンガ、アニメ、ゲームなどのエンターテインメントって、けっこう悪く言われることが多いですが、エンターテインメントをバカにすることなく、ぜひこの世界で思う存分遊んでほしいです。それが自分たち人間の“生きるための糧”になるんです。きびしい現実と夢の世界、この両方を持っていることで、人間は人生を過ごすことができるんじゃないかと思ってます。ぜひ皆さん、いつまでもマンガやアニメやゲームを楽しんでください。


『スーパーロボット大戦』シリーズ35周年をお祝いする永井先生の描き下ろし色紙も到着!