忍者を題材としたゲームは、“復讐”をテーマとするものが多い。『ニンジャガイデン』シリーズに始まり、2025年にリリースされた『SHINOBI 復讐の斬撃』に至っては、もうすでにタイトルに“復讐”という文字が入っている。
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なぜ忍者はこんなにも復讐誓いがちなのか? いや、身内を殺されて復讐したくなるのは当然の感情。それにしてもなぜ忍者は身内を殺され、里を襲われがちなのか?? というわけで、ゲーム史における忍者のイメージとその変遷を紐解くため、甲賀に住む現代忍者“嵩丸”氏に取材を試みた。
そういえば以前、当ファミ通編集部でも忍者を1匹飼っていたので、そいつを呼び戻してインタビュアーをさせてみたところ、奇しくもふたりは旧知の仲であったとか。貴重なお話がたんまり聞けたので、ゲーマーも忍者マニアも必読! ガチの忍者研究家は、忍者ゲームにも精通していた!
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嵩丸 氏(たかまる)
現代忍者。忍者研究家。三重大学リサーチフェロー。忍者が好きすぎて、大手IT企業を退職してまで日本忍者協議会に転職し、東京から新幹線で三重大学まで通ってまで忍者について学び、あげく甲賀に引っ越してしまった。2025年、株式会社Ninjackを設立。現在、忍者に関するあらゆる事業を手掛け、その活動は幅広い。忍者増田氏とは旧知の仲で、彼を弄る忍術もお手のもの。
忍者増田(にんじゃ ますだ)
元週刊ファミ通編集者で、現フリーライター。自分のことを忍者だと信じ込んでいるかわいそうな人。ただのコスプレ忍者と思いきや、2008年に甲賀で行われた第1回忍者検定で6位に入賞したり、甲賀忍術研究会や伊賀流忍者サークル伊賀之忍砦に所属していたりと、そこそこの忍者知識と忍者愛を持つ。嵩丸氏は、忍者団体・武蔵一族所属時代の同僚。(文中は増田)
ヒゲメガネ長谷部(ひげめがね はせべ)
本記事を企画した忍者初心者。忍者に関する知識は「本当は火を吹かない」、「大蝦蟇の口寄せはできない」くらいしかない。ただ、本気を出せば水の上くらいは走れたのではないか、巻物を口にくわえて印を結んだりはしていたのではないかと夢は捨てきれないでいる。くノ一は無条件に好き。(文中は長谷部)
忍者と武士の狭間で揺れ動く、ナンバーワン忍者ゲームとは?
増田
まず、現代忍者であり忍者研究家の嵩丸さんのゲーム歴を聞かせてください。
嵩丸
小さいころからずっとゲームは嗜んでいますね。忍者ゲームは、幼少期にスーパーファミコンで『忍たま乱太郎』(1995年・カルチャーブレーン)を遊んだのを皮切りに、『立体忍者活劇 天誅』や『NINJA GAIDEN』もプレイしました。忍者ゲームと言っていいのかわからないけど、最近では『Ghost of Tsushima』も遊びましたね。Nintendo Switchのアーケードアーカイブスで『忍者龍剣伝』や『忍者くん』などもプレイしているので、忍者が題材のゲームはけっこう遊んできたと自負しています。
増田
さすがにゲームでも忍者への熱がすごいですね。『忍者龍剣伝』なんて、嵩丸さん、年齢的にリアルタイムではやってないはず。それを後からでも遊ぼうっていうのは、やっぱり忍者をゲームでも追求したい気持ちが強いんですね?
嵩丸
はい。ゲームにおける忍者というのは、やっぱり追求するとおもしろいんですよ。研究としても、趣味としても。
増田
プレイした忍者ゲームの中で、印象に残っている作品は?
嵩丸
やっぱりステルスゲームの金字塔『天誅』シリーズですね。それまでの忍者ゲームといえば忍者刀で切ったり手裏剣を投げたりという横スクロールアクションばかりだったので、忍者の本質である“隠れる”というところにフォーカスした『天誅』にはかなりの衝撃を受けました。
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アクワイア開発の忍者アクションシリーズ『天誅』。画像は『天誅 4』(2008年)。 ※公式サイトより引用
増田
僕は、『天誅 忍凱旋』(1999年)のマニュアル(説明書)に解説文を書かせていただいたんですけど、嵩丸さんと同じような気持ちを記していました。確かに『天誅』は、忍者好きにとっては衝撃でしたよね。僕としては当時、「忍者の地味な世界をリアルにゲームにしても、おもしろくないかもな」っていう思いがあったんですよ。でも『天誅』は、それをちゃんとおもしろく昇華している。
嵩丸
忍術書に載っているリアルな道具がちゃんと出てくるのもいいですよね。
増田
チョイスがすばらしいです。「五色米なんか出すかなぁ?(喜)」と(笑)。
嵩丸
そうそう!(笑) 最高ですよね。がっつりハマったのは『天誅 弐』からだったと思うんですけど、その後、続編はすべてプレイしました。
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増田
『天誅』の忍者的世界観って、嵩丸さんから見てもけっこう正しいんですか?
嵩丸
当時は研究者じゃなかったので、ただの忍者ファンとして楽しかったんですけど、いま忍者の知識を身に付けてから見ても、すごくいいゲームだと思います。とはいえもう20年以上前の作品です。その後も忍者の研究って進んでいるので、最新の知識を持った研究者として、そしてゲームファンとしてもおもしろかったのは、『Ghost of Tsushima』でした。
増田
なるほどぉ、あの作品ですか……。
嵩丸
いま自分は甲賀に住んでいて、甲賀忍者の研究もしているわけですけど、リアルな忍びって、もともと武士だったんですよね。
増田
地侍ってやつですね。
嵩丸
そうそう、忍者は地侍だったんですよ。身分としては高貴な侍でありつつも、「汚い」と言われるような仕事もする……。『Ghost of Tsushima』は、まさにこの狭間で揺れ動いた主人公の描きかたが秀逸だった。「武士なのか? 忍びなのか?」と葛藤しながら遊ぶのはめちゃめちゃ楽しかったですね(笑)。
増田
さすが、嵩丸さんならでの視点ですねぇ(笑)。忍者研究家のツボを押しまくりだったと。でもこの作品、主人公は“忍者”とは謳ってはいない……?
嵩丸
そうですね、最初は誉れ高き侍ですが、だんだん目的達成のために非道な手段を選ばなきゃいけなくなってくる……。その中で、武士としての誇りを守るのか、目的達成のため忍びとしての汚さを取るのか、どっちか選択する感じになってるんですよ。
増田
“忍び”という単語は出てくるんですね?
嵩丸
出てきます。続編『Ghost of Yotei』には、1作目の主人公の墓が出てくるのですが、“伝説の忍び、ここに眠る”って書いてありましたね。
増田
ではもう、忍者ゲームって言っちゃっていいですね?(笑)
嵩丸
ですかね……わかんないですけど(笑)。
増田
では、嵩丸さんとしては現在、その2作がいちばん印象に残っている忍者ゲーム?
嵩丸
はい。それらのように、リアルな忍びの心情を描いたり、リアルな忍びの行動を追体験できたりするような作品が、忍者ゲームとして魅力があると思いますね。ただ1シーンだけを切り取って見てみると、『Rise of the Ronin』で沢村甚三郎と黒船に潜入するミッションが熱かったですね。
増田
ああ、“最後の忍び”なんて言われてる人ですね。渋すぎる!(笑)
嵩丸
そうです! たぶん、ほとんどの人は沢村甚三郎という男を知らないと思うので簡単に説明をしますと、沢村甚三郎は実在した人物で幕末最後の忍者と呼ばれている存在です。
増田
で、実際に黒船に忍び込んだという記録も残っているんですよね。それがゲームで実際に体験できるというのは、忍者ファンとしては熱いですね!
嵩丸
めっちゃ感激しましたね!
増田
「わかってるな」って感じですよね。僕らみたいな連中からすると(笑)。
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僕らみたいな連中。
フィクション忍者なくして、リアル忍者の繁栄なし
長谷部
忍者研究家としてゲームをプレイしていると、「俺の解釈と違う」みたいところも出てくると思うんですけど、そういうときってどんな感情になりますか?
嵩丸
忍者のリアルな部分が描かれてるとすばらしいなと思いますし、それがちょっと違う感じで表現されてたとしても、「これはあの忍者作品の影響だろうな」と思って飲み込めます。実際とぜんぜん違うような奇想天外な要素があっても、そういうところが忍者人気の要因だったりもしますからね。忍者って江戸時代からいろんなフィクションで描かれて、それで人気を得ていまに至るので、「こんな表現が出てきて、これでまた忍者のファンが増えたらいいな」と、もう全部肯定的に捉えています。
増田
僕、嵩丸さんの好きなところはまさにそこで。忍者のガチ研究家でありながら、昔からフィクション忍者をまったく無下にしないですよね。それが“正しい忍者”として伝えられたら問題だけど、それはそれで楽しむにはアリだし、廃れてほしくないなと僕は思っているので。
嵩丸
おっしゃるとおりです。僕もフィクションから入って忍者が好きになった人間だし。ご存知ですか? 忍者って世界中で99パーセントもの知名度を誇っているんですよ。つまり、世界中のほぼ全員が忍者を知ってる。
長谷部
そんなにですか?
嵩丸
驚きですよね! ここまでの知名度を獲得した理由は、やはりフィクションのおかげだと考えています。リアルな忍者ばかりが描かれていたら、ここまでの広がりはなかったと思っています。
増田
実際の忍者って、勉強してても地味ですもんね(笑)。
長谷部
ただフィクションの中で作られるイメージってやっぱり強いですよね? 日本人の中でもフィクションのイメージに引っ張られているところは多いと思います。たとえばゲームやマンガでしか忍者を知らない私からしてみたら、“忍者=復讐”というイメージがとにかく強い。この“忍者=復讐”のイメージって、ほかのエンタメコンテンツにおいても同じなのでしょうか?
嵩丸
忍者と復讐の話を進める前に、まず日本における“復讐”コンテンツについてお話をしますね。じつは日本人って昔から“復讐モノ”が好きなんですよね。
増田
そうなんですか?
嵩丸
多くの日本人が知っている、 “復讐”を題材に一世風靡した作品がありますよ。江戸時代中期に広まった『忠臣蔵』です。『忠臣蔵』は当時から歌舞伎や演劇、人形劇、浄瑠璃の題材にもなっていて、いわば当時のマルチメディア展開を果たしています。
その人気ぶりからも、日本人の仇討ちの美学は江戸時代から相当根付いていることがわかります。
増田
復讐や仇討ちは、もともと日本人好みのテーマであったと。
嵩丸
そうそう。その後に、忍者作品で仇打ち要素を採り入れて出てきたのが『児雷也豪傑譚』という小説で、これも江戸時代中期の作品です。
増田
児雷也というと、カエルに乗っているイメージの……。
嵩丸
そうです。主人公の児雷也が、大蛇丸という敵のせいでお家取り潰しの目にあって、お家再興と、大蛇丸への復讐を誓って戦うっていう作品なんですけど。このように、江戸時代から、忍者の復讐話は存在してます。しかし忍者の復讐要素の入った作品で有名なのは、昭和30年代に登場した『甲賀忍法帖』(著:山田風太郎)という小説ですね。
増田
マンガ『バジリスク 甲賀忍法帖』(作:せがわまさき)の原作ですね。
嵩丸
はい。この小説『甲賀忍法帖』が一大ブームを起こしました。伊賀と甲賀が10人ずつに分かれて殺し合いをするんです。誰かが殺されると、仲間が復讐的な意味合いも込めながら戦い続けていくというストーリーなので、広義的には復讐ものとジャンルわけしてもいいのかなと。
増田
昔の作品にしては現代的というか、エンタメ性がありますよね。伊賀と甲賀で10対10の戦いなんて、なんかワクワクしてくる展開。
嵩丸
そうなんですよ。いまって『僕のヒーローアカデミア』なんかもそうですけど、異能力バトルみたいな作品がめっちゃ多いじゃないですか。その走りだったのが、『甲賀忍法帖』なんですよね。
増田
いつも湿っていて塩をかけると縮むっていう、ほとんどナメクジみたいな雨夜陣五郎とか、気持ち悪い忍者がいっぱい出てきておもしろいんですよね(笑)。お前ら忍者っていうよりミュータントだろ! みたいな。
嵩丸
そうそう(笑)。ちなみに、“伊賀”と“甲賀”が仲悪いって思われてしまったのも、この作品がきっかけですし。
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増田
『忍者ハットリくん』が始まりだと思っている人は多いと聞きます。ここで一応、読者の皆さんに補足しておきますと、伊賀と甲賀が仲が悪かったというのはデマです。むしろ仲がよかったんですよね。
嵩丸
そういう流れのあと、完全に復讐をメインテーマにして出てきた忍者作品が、多分映画だと思うんですよ。1962年に、『忍びの者』という映画が市川雷蔵主演で作られています。主役の石川五右衛門が、復讐のために組織に立ち向かう……。
増田
正統派忍者映画として評価の高い名作ですよね。まだ白黒の作品だけど、いま見てもおもしろい。忍術書に登場する地味な実在忍者も登場するし(笑)。
嵩丸
“忍者が単独で大きな組織に復讐する”っていう要素が出てきたのは、多分この作品からだと思います。しかも映像作品なので印象に残りやすい。もうひとつが、その数年後に出てきたマンガ『カムイ外伝』(作・白土三平)。あれも、受け身的な復讐かなと。
増田
なるほど。主人公カムイは忍者組織を追われた抜け忍だから、組織から放たれた刺客を蹴散らすという……。
嵩丸
はい。この2作品が出てからですね、 “大きな組織対ひとり”っていうシチュエーションが如実に増えたのは。これが後のゲームに非常に影響を与えていると思うんです。フィクション忍者の法則があるんですけど、忍者はひとりだとめちゃめちゃ強い。だけど、大勢だと弱くなる(笑)。
増田
確かに(笑)。
嵩丸
うじゃ~っていっぱい出てくる忍者って、だいたい主人公にメタメタに切られるじゃないですか。でもひとりの忍者って絶対に強い。
増田
孤高の強さというか、まさにカムイはそうですね。あんなひとりの抜け忍のために、どれだけ多くのモブ忍者が命を落としたか(笑)。
嵩丸
そうなんですよ(笑)。この“1対多”っていう構造が、復讐ものの忍者ゲームにけっこう影響を与えているというか、大事な要素だと思うんですよね。
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ショー・コスギの映画が、復讐忍者ゲームブームの火付け役?
嵩丸
ただ、そういった歴史を積み重ねていって、復讐ものの忍者ゲームにいちばん影響を与えた直接的な作品は、たぶん海外の作品だと思っています。
増田
なんと。その作品とは?
嵩丸
『Revenge of the Ninja』という、1980年代に海外で大ヒットしたショー・コスギ主演の映画です。邦題は『ニンジャII 修羅ノ章』っていうんですけど、家族が惨殺されてしまった忍者が、生き残った息子を連れて渡米するんですね。そこで平和に暮らしていたら、その子供がさらわれてしまう。で、息子を助けに行きつつ、家族の復讐のためにその組織を全滅させるという内容なんですが、これが相当ヒットしまして、海外での忍者ブームが生まれるんですよね。ここからゲームの流れに行くんじゃないかなと。
増田
うーん、勉強になりますねえ。忍者ゲームのテーマに復讐が多くなったきっかけが海外映画だったとは、考えもしてなかったです。たしかにショー・コスギの忍者映画は一時期ブームでしたけど。
嵩丸
現地で当時を生きていたわけでもなく、もちろん開発メンバーでもなかったので、あくまでも推測ですが。ただそれ以前の忍者ゲームを見てみると、お姫様などの救出が目的となっているものばかりなんです。たとえば1985年に出たアーケードゲーム『影の伝説』(タイトー)の主人公は、さらわれた雪姫を救出するために戦っているんですよね。その後に出た『妖魔忍法帖』(日本物産)も、捕らわれた姫を救い出すのが目的。さらに、セガの『忍 SHINOBI』も、主人公が敵の組織に立ち向かうのは、子どもを救出するためなんですよね。
増田
最初の忍者ゲームのテーマは“復讐”ではなく“救出”が主だったと。
嵩丸
はい。“救出”が忍者ゲームの主人公が動く大義だったんですよね。その後、前述の映画『ニンジャII 修羅ノ章』が流行ったあと、1988年に出てきた忍者ゲームが『忍者龍剣伝』。最初に出たアーケード版『忍者龍剣伝』にはストーリーがないのですが、同年に出たファミリーコンピュータ版では、父を殺された主人公が、父の手紙を頼りに渡米して復讐をするというストーリーが加えられています。
増田
はいはい。
嵩丸
で、ファミコン版では各章のあいだにシネマディスプレイという、当時としては斬新な演出が入るんですけど、その中で、なぜ主人公は戦わなきゃいけないのかなどが語られる。これが、非常にプレイヤーの心に染み渡ったっていうところが、おそらく忍者ゲームの強い復讐イメージの最初なんじゃないかなと。
増田
感心しながらも、ちと別のツッコミを入れますが(笑)、嵩丸さん、最初にも言ったようにリアルタイムで『忍者龍剣伝』とか遊んでないのに、後から研究して、そういう説を導き出しているということですよね。すごいなあ。歳ごまかしたりしてないですよね?(笑)
嵩丸
してないですしてないです(笑)。後から研究した方がわかるということもあるんですよ。俯瞰で見られるので。まとめると、ゲームとしての、“忍者=復讐”の発祥というか、世間にそういうイメージを大きく広めたのは、たぶんこのファミコン版『忍者龍剣伝』なんじゃないかなと、個人的には思っています。
増田
きちんとそこまで解答が導き出されているのがすばらしいです!
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今回のインタビューのために嵩丸氏が用意してくれた研究資料。時系列にあわせて、さまざまなエンタメコンテンツが分析されている。君が知っている忍者作品はあるかな?
嵩丸
この『忍者龍剣伝』が流行ってから、横スクロールの忍者ゲームは、復讐ものがどんどん増えてくるんですよ。『忍 SHINOBI』の続編『ザ・スーパー忍』も復讐もので、海外版のタイトルは『The Revenge of Shinobi』。
増田
もう、名前にも“リベンジ(復讐)”と記されている。
嵩丸
このへんから、忍者の復讐ブームが始まってくるんですよね。「めっちゃ復讐するやん」と。だんだん病み始めるんです(笑)。このあたりの復讐もの忍者ゲームの隆盛が、いまの世まで続いてるんじゃないかなと思うんですね。基本的に忍者ゲームって、横スクロールが多いじゃないですか。ですけど、プレイステーションやサターン、ニンテンドウ64が出たところで3Dになっていきます。そんな時代に出たのが『天誅』なんですけど、この作品はそんなに復讐って感じでもないんですよ。どっちかというと任務遂行。主人公は、上から得た依頼をしっかりとこなす陰の存在。ここから、忍者特有のステルス要素がメインになっていったと思うんです。たぶん、このあたりから融合されていって『忍者龍剣伝』が『NINJA GAIDEN』になったように、めちゃめちゃ“復讐×3D”みたいな時代に突入していくことになる。
増田
すばらしい考察です。さっきから感心しすぎて聞き入って、何聞こうか飛んじゃいそうなくらいです(笑)。
嵩丸
分類すると、“復讐”、“救出”、“暗殺”、“1対多”が、大きく忍者ゲームを構成する4要素だと思っています。なんか、忍者ってかわいそうですよね(笑)。
増田
自分の親が殺されて復讐するハメになったり、大勢に立ち向かわなきゃいけなかったり(笑)。
嵩丸
でもこれって、ゲームの背景として考えると、めちゃめちゃ合理的なのかなと。たとえばプレイヤーがひとりの忍者を操作しなきゃいけないっていうときに、「なぜこいつは戦っているのか?」って考えると、歴史的な忍者の話でいくと、ひとりで大勢の敵と戦うっていう史実はほぼない。
増田
まあ無茶ですよね。
嵩丸
ですよね。だからそこに持っていこうとしたときに、とても複雑な背景が必要になるので、たどり着きづらい。でも、忍者が自分の里を焼かれたり、一族が滅ぼされたりしたから、復讐のためにひとりで立ち向かうってのは、非常にわかりやすいんですよ。プレイヤーにややこしい説明もいらないし。
増田
スッと入ってきますよね。仲間を失った奴が復讐するからひとりで戦っているんだ、と。
嵩丸
その復讐を1対多数にすると、ステージの難易度をだんだん上げていくというゲームらしい構成にもマッチします。また、体制側と非体制側じゃないですけど、忍者がきちっとした体制を壊す側の立場っていうのも遊ぶ側は入りやすいんじゃないかなと。僕も組織への怒りやストレスなどを、ゲームで発散した記憶がありますから(笑)。
増田
その、庶民の共感というか……?
嵩丸
だって増田さんもアレですもんね、「こいつ絶対殺してやる」っていう人、いっぱいいるじゃないですか。
増田
ひ、人聞きの悪い! そんなことはないです!
そもそも忍者とは? 歴史に名を残す忍者はダメ忍者?
増田
実際の忍者にも、復讐っていうものはあったんでしょうか?
嵩丸
正直言うと、おそらくそんなになかったと思います。やっぱり復讐の文化っていうのは侍というか……。まあ忍者も侍の一部ではあるんですけど、侍のプライドとか、そういった世界だと思うんですよね、史実上で言うと。忍者というのはどっちかっていうと非常に合理的な感じで、私情にとらわれてではなく、主君のために動く。完全に割り切れるほどドライだったわけではないとは思うんですが、あんまり忍者が復讐したという話は聞かないんですよね。
増田
では、そこは僕の認識とも合っていました。僕もそういうもんだと思っていて。侍だと仇討ちってありそうだけど、忍者はないだろうな、と。
嵩丸
そうですね。フィクションだと忍者がめっちゃ復讐しますけど、史実ではそうではない。やっぱり思いはあると思いますよ。たとえば、天正伊賀の乱で織田信長の焼き討ちにあった伊賀衆たちは散り散りに伊賀から離れたんですが、本能寺の変で信長が死んだあとに、信長の息子の信雄に対抗するために、もう1回戦ったりとかするんですよ。
増田
あ、それが史実としてあるんですね。
嵩丸
はい。そこにはもしかしたらね、自分の家族が殺されたという義憤とかもあったと思います。
増田
人間ですもんね、忍者も。
嵩丸
そうですね。そこは復讐っていうよりかは、自分の土地を取り戻すっていうとこだと思うので、個人的な復讐としてやるってことは、なかったんじゃないかな。
長谷部
ここまでお話を聞いていて、忍者初心者からしてみると、「忍者も侍(武士)ですから」っていう話が、ちょっと違和感があって。そういうことも含めて、「そもそも忍者ってどういうもの?」というお話を聞かせてください。
嵩丸
確かに、その話が抜けていましたね。
忍者で有名な地域として、伊賀と甲賀のふたつがあると思います。ふつうだったら、そこに住んでいる人たちの生活を守る大名がいるんですけど、伊賀・甲賀にはそれがいなかったんですね。住人はみんなで話し合いをしながら、リーダーを決めずに民主的な政治を行っていた。敵が攻めてきたら、みんなでいっしょになって戦う……っていうところから発祥しているのが伊賀と甲賀なんです。
彼らは一応、帯刀をして、まげを結ぶ武士として、その領地を治めていた武士でもありました。そのせいもあって、ほかの大名から依頼を受け、戦いに駆り出されることもありました。ただほかの侍と違うのは、彼らはいつも山の中で修行しているから、奇襲が得意なんですね。そこで戦いの中でも、夜に放火をしたり、暗殺をしたり、偵察をしたりという非正規部隊としての活動が主となり、“忍び”と呼ばれるようになったんです。
同じ武士なんですけど、役割が違うというイメージですね。
長谷部
じゃあ、僕たちが思っている、市井に紛れて諜報活動をしたりとか、そういったことはあまりしていなかったと……?
嵩丸
そういった働きもしていましたよ。忍術は大きく“陰忍”と“陽忍”というふたつに分かれます。陰忍は、皆さんがイメージするような、夜に紛れて潜入して物を取って来たり、夜討ちをしたり、ある種特殊部隊みたいな働きをする忍者。陽忍は、姿を表しながらスパイのように情報を収集する忍者。この両方を使い分けながらやっていくのが忍術。だから、変装して市中に溶け込んでいる忍者もいたはずです。
増田
要は、伊賀と甲賀には強力な侍がいなかったから、自衛団として発展していったと考えればいいんでしょうかね。
嵩丸
そうです。一応“守護”っていう、そこを守るべき人はいたんですけど。甲賀は六角氏。伊賀は仁木氏。伊賀は、仁木氏が治めようとして入ってきても追い払っちゃったんですよね。六角氏に関しては、甲賀衆と軍事同盟員みたいなものを結んで共存していた感じですね。
増田
忍者の中でも伊賀と甲賀の連中はちょっと特殊なんですね。
嵩丸
特殊だと思います、はい。伊賀と甲賀以外の地域の忍者に関しては、基本的には野党上がりとか、盗賊上がりのやつらが、忍者として雇われていた感じなので、武士ではないんですよ。武士だったのは、伊賀と甲賀だけだったんですね。
増田
“忍者”って言葉自体が、じつは造語だったりしますもんね。
長谷部
は? え? 造語?
増田
時代や地域によって、忍者的働きをした連中というのは呼び名(乱波、透波、草、軒猿など)が違っていて、それらの総称として、昭和に入ってから“忍者”という呼び名が作られた。だから、どういった人たちを忍者と解釈するかは、人それぞれ。そういうところもおもしろい。
嵩丸
そうですね。昭和30年代ぐらいに忍者っていう造語ができたんですよね。
長谷部
けっこう新しい言葉だったんですね。
嵩丸
新しいんですよ。でも、それまでにも“忍びの者”っていう呼称はありました。
増田
そういうところが好きなんですよね。解釈次第でどうにでもなるというのが。服部半蔵を、「初代以外は忍者じゃない」っていう人もいますが、立派な上忍だったっていう捉えかたもできる。まぁ、“上忍”というのも造語ですけど(笑)。
長谷部
服部半蔵って何人もいるんですか?
増田
服部半蔵の名前は世襲制なんですよ。風魔小太郎もそうです。
長谷部
なんか元も子もないことを言ってしまいますけど、忍ぶ者なのに名前が残っちゃってるって矛盾してますよね。
嵩丸
すばらしい観点ですね。まあ、服部半蔵は、どっちかというと忍者っていうよりかは武将でもあったので、名前が残って然るべきなんですけど、風魔小太郎は、江戸時代の書物に、悪さをしている記載が残ったりしています。忍術書の中にも名前が残っている忍者がいます。けど、本当によき忍びというのは、「音もなく、臭いもなく、知名もなく、勇名もなし、その功天地造化の如し」って忍術書に書かれているぐらい、とにかく有名になっちゃいけないと。それが最上の忍びであるということにはなってますね。
長谷部
じゃあ、本当にいい忍びの名を僕たちは……。
嵩丸
知らないんですよねえ……。
増田
ロマンがありますよね。
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このように暗殺シーンをばっちり写真に収められるのはダメ忍者。現代も知ることがない、本当の忍びを知りたい……!
リアル忍者の真実! 忍者刀、くノ一は存在したか?
長谷部
ゲームの忍者っていろんな術を使うじゃないですか。壁を蹴って跳んだりとか、姿を消したりとか、火を吹いたりとか。ゲームで出てくるそういう派手な忍術って、実際にあったものもあるんですか?
嵩丸
忍術書を見ると、意外とゲームっぽい忍術も出てくるんですよ。たとえば、よく忍者が刀に炎をまとわせて戦ったりするじゃないですか。じつはある忍術書に、オナモミの油を刀に塗って火をつけると刀が燃えるっていう記載があったりするんですね。ただそれは攻撃力を増すわけではなく、相手を驚かすためのものなんです。
増田
ハッタリかますわけですね。忍術って、心理戦だったりしますもんね。
嵩丸
そうそう。おっしゃる通り、忍者って、いかにハッタリかますかっていうところが大事だったりするので。
増田
その流れで僕も1個聞きたいのが、『ファイナルファンタジー』シリーズの忍者のコマンドで、“投げる”ってあるじゃないですか。実在の忍者も、手裏剣のように、頻繁にものを投げたりしていたのでしょうか?
嵩丸
投げることはありますよ。手裏剣以外にも、刀を投げたりとか、近くにある石を投げたりとか、いかに相手を怯ませて、そのうちに逃げるかっていうのが忍者としては大事になってくるんです。
増田
じゃあ、『ファイナルファンタジー』の忍者の“投げる”って能力は、あながちズレてはいないと?
嵩丸
そうですね。本当は、忍者としては投げたあとに逃げなきゃいけないんですけど。がっつり戦っちゃいけないというね。戦うのはあくまで逃げるためなので。
増田
僕は、ゲームとして忍者に“投げる”っていうアビリティを持たせるのは、うまいアイデアだなと思っていて。ゲームであれば、それが攻撃オンリーになっていてもいいですよね。
嵩丸
はい、忍者のそういう部分を採り入れて、攻撃コマンドとして昇華されているのはおもしろいと思います。増田さんもアレですもんね、人生を投げたりしてますもんね。
増田
うるさいな(笑)。
長谷部
忍者が使う武器というと、忍者刀っていうのもゲームでは出てきますよね。侍が持つ日本刀のように反りがあるものじゃなくて、まっすぐの刀。あれは実在したんですか?
嵩丸
忍者刀は後世の創作だと思います。そんなものはいままでどの家からも、どの土からも出てきたことがないんですね。あれば絶対出てくるじゃないですか(笑)。おそらくですけど、壁を登るために唾を四角く大きくして、立てかけやすいようにまっすぐにして……。そういったことをやるために最適な忍者刀というものを、後世の方が考えられたんだろうなと。だから、忍術書に出てくる刀はちゃんと反っています。
増田
たしかに忍者刀に関する話は聞いたことがあります。1回も見つかったことがないと。
嵩丸
そうなんです。いや、見つかってほしいですけどね(笑)。
増田
逆にね(笑)。だいたい、忍者刀ってわかるものを、忍者が持っちゃいけないだろうっていう(笑)。
嵩丸
ですよね。
長谷部
忍者というところでもうひとつ気になるのが、“くノ一”ってなんなんだろうと。実在していたのでしょうか? さきほどのお話ですと忍者は侍、武士だったということですが、あの時代は女性の侍、武士というのはあんまりいなかったイメージです。
嵩丸
くノ一という単語自体はありましたが、それは女忍者を指すものではなくて、女性そのものを指す言葉だったようです。“く”と“ノ”と“一”で、“女”という字ができますけども、これは決して女の忍者ということではありません。おっしゃっていただいた通り、基本的に女性の侍はいませんでした。それと同じように、忍者の中にも、女性はいないんですよね。
ただ、『万川集海』という忍術書には“くノ一”という言葉が出てきます。より具体的には、“くノ一の術”という術として紹介されています。これは、男が忍び込めないようなところに、女性をあらかじめ女中として差し向けておくという術です。忍者として体術的にシュッと忍び込むっていうよりは、ふつうの女中として潜入する感じの人ですね。「それも忍者じゃね?」と言ってしまえば、「忍者かもな」って思ったりはするので、そこは皆さんの解釈に……ということですかね(笑)。
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長谷部
いわゆるハニトラみたいなものはあったんですか?
嵩丸
忍者が気を付けなきゃいけないものとして“性欲”っていうのは忍術書にも出てくるんですね。“酒”と“金”と“色”と。だからそれは逆に考えると、忍者がそういったものにほだされてしまって、情報を話してしまうってことはあったんだろうと。なので、ハニトラもあったんじゃないですかね(笑)。
長谷部
なんか現代にも通ずるところが(笑)。
嵩丸
そうですね(笑)。増田さんもアレですもんね、女性にだらしないので。
増田
人聞きの悪い! こんな人畜無害な男をつかまえて!
嵩丸
そうか。増田さん、遠くで鼻を伸ばしているだけですもんね。
増田
そうそう。そういうこと。
嵩丸
まあ、それなら誰にも害はないですね。
長谷部
うーん(笑)。
忍者研究家嵩丸氏のジレンマと夢
増田
嵩丸さんが考える、忍者の魅力というのはどういう部分ですか?
嵩丸
多分、増田さんの思う忍者も、僕が思う忍者も、その他の方々が思う忍者も、ちょっとずつ違うじゃないですか。人の数だけ忍者の形があるんですよね。それは、いろんなフィクション作品で、いろんな人に、いろんな時代の人に届けられたからだと思うんですけど。みんなが納得する、カチッとした忍者の定型ってないわけですよ。研究でその形を特定しようと追いかけても追いかけても、まだまだわからないことがある……。
増田
忍者って、歴史の裏ですもんね。だから嵩丸さんが調べても、やっぱりすごい調べにくいジャンルではある……?
嵩丸
そうですね。この、定まった形のない、追っかけても追っかけても形が掴めないロマンみたいなところが魅力かなと思います。
増田
……いやあ、同意見です。決して合わせたわけじゃなくて。
嵩丸
合わせましたよね、絶対。
増田
いや、合わせてない合わせてない!(笑) 昔から思ってた! 僕、ゲームでいえば『ウィザードリィ』のような、自分の想像力が活かせる作品が好きなんですよ。やっぱり忍者も、はっきり解明されていないところがロマンじゃないですか。「じつはこんなすごいことできたんじゃないかな」とか思うことができる。歴史の裏だから調べるにも限界もあるだろうし、伝わっていることのどこまでが本当かもよくわからない。いろいろな部分が想像力で補える、ミステリアスなところが魅力じゃないかなと。
だから僕、嵩丸さんに一度聞きたかったんだけど、忍者を研究していて、ジレンマってないですか? いろんな事実がきちんとわかっちゃって、特定されて、ロマンがなくなるみたいな。
嵩丸
はい。やっばりありますよ。実在したと思っていた忍者がいないと知った日なんかは、もうショックでしたね。そういったときには、ご飯が喉を通らない日も……(笑)。とくに大学に入って忍者を研究し始めて最初の1年間は、もういままで思っていた忍者ロマンが一気に崩れ去ったので。
増田
やはり忍者を研究していてそういう弊害もあるんですね。だけど追求したいっていう、相反する思いとの葛藤というか。
嵩丸
そうですねえ。はい。
長谷部
最後に、ゲームメディアとしてお聞きしておきたいのですが、ゲームもお好きで、忍者も研究もされている方として、今後どんな忍者のゲームを遊んでみたいですか?
嵩丸
それで言うと、僕がいまでも忘れられない、いちばん楽しかった夢っていうのがあって。夢の中で、満月の夜に、めっちゃでっかいお城に潜入したんですよ、僕がひとりで。見つかるか見つからないか、すっごいドキドキしながら実際に飛び込んでいく。いわゆる『天誅』みたいなシチュエーションですね。あれをやっぱ3Dと言いますか、AR(拡張現実)だったりVRだったり、もっと臨場感溢れる感じでやってみたいですね。
長谷部
めちゃめちゃリアルで一人称で、暗いところに潜入していく……。
嵩丸
そうです。それをやってみたいですね。いま僕は、自分の会社も立ち上げて、甲賀でいろいろ忍者の観光方面等をがんばってはいるんですけど、そのリアル版はテーマパークとして死ぬまでに作りたいなと思ってます。テーマパークとして、城に忍び込む体験ができるものを。でも、それってどうしても作り物になっちゃう。見つかったら殺されるという緊張感の中で忍び込むのがいちばん楽しいと思っているので。俳優とか使ってそれを疑似体験させることはできるんですけど、多分それだと限界もあるし、自分の体が動かないじゃないですか、忍者ほど。だからそこはゲームで補うことができたらもう絶対楽しいだろうと。
長谷部
もしそういうゲーム制作のオーダーがあったら、喜んで監修しますっていう感じですか?
嵩丸
ぜひ、やらせてほしいです!
増田
そうかあ。嵩丸さん、ゆくゆくはテーマパークを作りたいと。もしできたら、僕を会場のスタッフとして使ってくださいよ。
嵩丸
わかりました。アゴでこき使います! しかも薄給で!
増田
くそーっ! 復讐してやる!
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