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突然ですが、あなたは猫はお好きですか? ここへすでにお越しになって、この記事の冒頭を読んでいるあなたは、以下のカテゴリーのどれかに当てはまるのではないでしょうか。
- (1)偶然Xかなにかでこの記事のポストが流れてきて、なんとなくチェックしてここまで読んだ。猫にはかなり興味ある。
- (2)猫がなくては人生は完成しないと常々思っている、筋金入りの猫好きの方で、猫の記事はなんであろうと読む。
- (3)ホラー作家、背筋氏のファンで『まだ猫は逃げますか?』もプレイ済み。
- (4)『まだ猫は逃げますか?』はまだ未プレイだけれど気になっているゲームファン。
- (5)本作の関係者やメディアの方。
- (6)手が滑って記事のリンクを踏んだ方。
この記事は、(6)の方以外には、興味深い内容を提供できます。とくに(3)の方はぜひ。じつはこの『まだ猫は逃げますか?』というゲームは、背筋氏が初めてゲーム制作にシナリオ担当として携わったホラーゲーム作品です。また、じつは本作のプロデューサーは背筋氏の小説に関わってきた、KADOKAWAファミ通文庫編集部の和田寛正氏と横山憲二郎氏。作家と編集者が開発に深く関わって生まれた作品として、どこか文学の香りのする物語体験を楽しめるゲームでもあるのです。
(4)のゲームは気になっているけど未プレイの方もご安心ください。ネタバレも確信に触れるようなものはありません。むしろ、あなたのプレイの補助線となるような話題がほとんどです。
そして、なによりも(1)や(2)のような猫を愛してやまない方には、上質な怪談掌編のようなプレイ感を与えてくれる『まだ猫は逃げますか?』という作品を強くおすすめしたい。あ、いまちょっと猫のホラーゲームと聞くと、「猫が怖い目に遭うの!?」と心配な顔をされましたね?
しかし、ご安心ください。本作のシナリオを手がけたホラー作家の背筋氏(かの『近畿地方のある場所について』などの作者!)は、公式SNSほかで「このゲームで猫が危害を加えられることはありません」と明言されています。そしてじっさいに最後までプレイして、まさにこの言葉に偽りはありませんでした。それどころか、猫が好きな方ほど、本作で猫の視点から描かれる一夏の奇譚を追体験することで、さまざまな思いを抱かれるはず。
前置きが長くなりましたが、ここからは背筋氏のゲーム作りへのアイデアから物語体験に対する考えまでが語られた、インタビューをお届けします。ゲームはいまも丁寧なアップデートを重ねています。気になったかたは、まずは以下の動画でゲーム内容もチェックしてみてくださいね。
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プレイヤーは猫視点で、田舎の日本家屋を探検。断片的な情報を集めていくことで、この家で暮らしたとある一家の顛末が浮かび上がっていく。ゲームは主観視点で展開するステージクリア型のホラーアクション。各ステージに点在する家族の記憶が感じられる品物を集めてゴールを目指す。だが、サラリーマン姿の異形の存在が、あなたを追う……。
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背筋(せすじ)
小説家。2023年よりWeb小説サイト“カクヨム”で連載を開始した『近畿地方のある場所について』でデビュー。近著に『穢れた聖地巡礼について』『口に関するアンケート』がある。本人もオールタイム・ベストと語るホラーゲーム『SIREN』のシナリオを担当した佐藤直子氏、映像監督の西山将貴氏とともにホラーユニット“バミューダ3”を結成し、体験型展示イベント『1999展 -存在しないあの日の記憶-』を手がける。ゲームファンとしても知られ、好きなホラーゲームは『Bloodborne』や『サイレントヒル2』など。
横山 憲二郎(よこやま けんじろう)
『まだ猫は逃げますか?』プロデューサー。KADOKAWAファミ通文庫編集部に所属。ゲーム開発に携わった経歴を持ち、本作の企画を立ち上げる。
和田寛正(わだ ひろまさ)
『まだ猫は逃げますか?』プロデューサー。KADOKAWAファミ通文庫編集長。『近畿地方のある場所について』をはじめとした、背筋氏作品の担当編集も務める。
猫は近畿地方からやってきた?
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――背筋さんは、ゲームがお好きだとうかがっていたのですが、そのゲームの“制作”にかかわられることになりました。どういった経緯があったのでしょうか。
背筋
KADOKAWAのファミ通文庫編集部さんで、『近畿地方のある場所について』でもチームを組ませていただいていた横山プロデューサーと、担当編集の和田さんから「カジュアルゲームのプロジェクトが立ち上がりつつあるので、できればそこにシナリオっていう形で入っていただけないか」っていうお声がけいただいたのが始まりでしたね。
横山
もともと僕がゲームアプリ制作の会社とご縁がありまして、和田とふたりで、カジュアルよりで、どこかリミナルスペース的な不穏さのあるホラーゲームを制作しようよ、という話になったんです。その時に、シナリオは『近畿地方のある場所について』で、そのテキストの魅力を実感していた背筋さんにぜひお願いするしかないな、と。
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背筋
ゲームのシナリオは初めてなものの、ゲームが好きなのでお話を伺ったときには、ぜひ挑戦してみたかったんです。まあやってみると、想像以上にけっこうなハードルだったのですが(笑)。
横山
背筋さんへのオーダーも、「断片的にシナリオを読んでいき、一周目をクリアーしたときには理解はできないもののおもしろいもの」「クリアー後も、もっと知りたくなるようなテキストを書いてください」……などという、すごい角度の無茶ぶりをさせていただいたので。
背筋
そうですね……全取得がマストではないっていう条件下において、語り方にもかなり制約があったりしたんですよね。順不同で読んでも意味が成立しつつ、歯抜けになっていたとしても成立するものにしないといけない。テキストは長いと読まれないので、ミニマムにしつつ、すっと入るように伝える必要がある。けれども、その中である程度のツイストだったりだとか、展開が欲しいみたいなところも。こんなことって、ふつうに小説として物語を書く上ではあまりない経験だったので、伝えていく順番なども含めて、すごい勉強になりました。
――ハードルは高いだけでなく、いくつもありますね。
背筋
ええ。けっきょくのところ、研究した結果、口語体セリフの応酬が一番頭に入ってきやすいだろうと思ったんですよね。それに、わたしもゲーム実況をよく見るので、実況をするVの人などが、声音を変えてセリフを読んでいるの聴くのが楽しくて。そういうときにも、セリフのやり取りで物語が構成されていれば、いろいろ演じ分ける楽しさがありそうかも、とも思って。
――たしかに!
横山
といった感じで、こんなわたしたちのオーダー対しても、背筋さんから上がってきたものは、「これだ」っていうテキストで。開発側もすごくこのぴったりハマる感覚について深く共感していて、ゲームの表現だけでなく、仕様にいたるまで、このシナリオとリンクするものに変えたりしたほどでした。
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記憶を入手すると、小説の一場面のようなテキストが入手できる。断片的に読むだけでも静かな恐怖を感じる内容だが、これを集めていくことで、次第に物語はさまざまな側面を見せていくことに。
背筋
本当にありがたいです。
横山
でも、実際のところゲームのシナリオって小説とは違うので、プレイしながら横目で見るような方も多いと思うのですが、背筋さんの文章って、なんというか、ちらっと目に入っただけでも、漂ってくる不穏さみたいなものがあって、すごいうまいなと思っていて。なので、きっといろいろな方が自分なりの解釈をして、物語を楽しめるうえに、集めたくなるストーリーになるはずだと。
――たしかにストーリーを集めていくのが、やめられなくなりました。
背筋
わたし個人のゲーム体験の中でも、やはりそういう風に遊んでくださるプレイヤーのがんばりに対して、このゲームから返せるしっかりとした報酬があったほうがいいなと思っていたんです。わたしはプレイステーション世代なのですが、あのころは大作RPGとかで顕著だったように思うのですが、ムービーを見られることが大きな報酬のひとつだったように思います。でも最近はグラフィックの進化で、ムービーの報酬は弱い。じゃあ次の報酬って何なんだろうかと考えた時に、コレクションアイテムを集めることは報酬になりえるなと。それがアーカイブとしてのストーリーだったら、十分にうれしいのではないかと思って。
――なるほど、アーカイブで断片的な情報から物語を見出すといえば『SIREN』をほうふつとしますが……余談ですが、背筋さんや映像監督の西山将貴氏がメンバーとして活動されているホラーユニット“バミューダ3”には、『SIREN』でシナリオを担当した佐藤直子氏もいらっしゃいますよね。
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背筋氏もバミューダ3の一角として、枠にとらわれないホラー表現を追求。※写真は1999展のグッズ売り場にあったもの
背筋
佐藤さんとお仕事をごいっしょさせていただいているから、というわけではないのですが、まさにわたしの中で『SIREN』はジャンルを超えたオールタイム・ベストではありますし、報酬として断片的なストーリーを集めていくスタイルも、『SIREN』で確立されたのではないかと思うほどに衝撃を受けました。なので、ゲームのクリアーとは別のところで報酬としてのテキストが手に入ると設定すれば、カジュアルゲームにぴったりではないかという発想の源泉にもなっています。
――そうだったのですね。そういえば、背筋さんの作品には“テキストの報酬”をたくさんいただいている気がします。つい最近も『近畿地方のある場所について』の映画や『ミッシングチャイルド・ビデオテープ』などでも、書き下ろしの小説が特典になっていましたよね。
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左は白石晃士監督の映画版『近畿地方のある場所について』入場特典の御札。裏面にQRコードがあり、ショートストーリーが読める仕掛けに。右は映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の特典用に背筋氏が描き下ろした短編『未必の故意』。
背筋
ありがとうございます(笑)。でも、報酬になりえるストーリーを書かないといけないっていうのは、めちゃくちゃプレッシャーでもあるんですよね。さきほど横山さんのオーダーの話にもありましたが、小説は元からストーリーをすべて読むのが前提の方に向けて書いていけばいいのですが、ゲームはテキストは横目で見るだけだったり、そもそも一切ストーリーなんて読まないぞ、というプレイヤーもおそらく一定数はいるはずで。だからこそ、もっと集めないとと感じてもらえるような強度を持った物語を書かなくてはいけないのが悩ましかったです。
――しかし、まさに遊ばせていただいて、クリアー後も知りたくなって記憶を探してしまいました。そういうプレイヤーも多いようなので、まさに横山さんの狙い通りの、背筋さんのテキストの力のなせる業だったのですね。しかし和田さんも背筋さんの小説の担当編集をされていらっしゃるとなると、これはもう気心の知れたチームで作り上げていったという感じとは驚きました。
和田
わたしも、背筋さんはすごく器用な方だなとは思っていたので、今回のようなゲームという別ジャンルの作品でも、うまく合わせていただけるんだろうなっていう信頼感はありました。あとはやっぱり、開発サイドと直でやりとりをしながら調整していくようなシチュエーションでもバランスを取ってやりとりに入ってもらえて、とてもスムーズにできたところも助かって。
背筋
「はじめまして」の会社さんとかだと、なかなか難しかったりすると思うんですけど。すでに意見交換ができる場を整えてくださっていた環境でゲーム制作に携われたというのは、すごく得難い体験をさせていただけたと思います。
――座組みとして、小説のチームがゲームを世に送り出すというのはめずらしく、『まだ猫』の手触りや佇まいも、ユニークな短編小説かのような印象が強いです。
背筋
それはうれしいです。さらに和田さんも元ゲーム開発に関わられた経験があったりするので、このチームでゲーム開発初心者なのはわたしだけだったんですよね。
――なんと、ファミ通文庫編集部のお二方はゲーム開発にもすでにご縁があったからこそ、ゲームの企画を立ち上げられたのですか。
和田
じつは、そうだったりします。ゲーム畑で。
背筋
なので小説でもお世話になっているおふたりと、開発会社のみなさんたちといっしょにゲーム開発に携わらせていただけるというのは、光栄だなって思う反面……シナリオ担当として、きっといろいろゲームならではの仕様や制約で悩むのだろうな、と思ったりもしていました。でも、これまでいろいろなゲームをかなり遊んできた、プレイヤーとしての経験値には自信があったので、プレイヤーとしての視点での意見などは積極的に出そうと思って臨みましたね。
猫と暮らしたことのある人たちが作ったホラー
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――それにしても、“猫”が主人公のホラーゲームというのは、これまでありそうでなかったアイデアですよね。
背筋
猫が主役のゲームといえば、『Stray』も大好きだったのですが、ホラーはまだなかったと思い、猫の視点というコンセプトは、わりと初期の段階でご提案させていただいていたような気がします。
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横山
そうですね。背筋さんから、「猫から見た物語はどうでしょう」というアイデアをいただきましたよね。
背筋
猫、というテーマがあると、システムでも“視点が低くなること”だったり、あとは“独特な動き”みたいなものがかけ合わさって、プレイヤーの目線の見え方がふだんと違ったものになると思ったんです。それがホラーというジャンルと相性がいいのではないかなって。
――……もしや背筋さんは猫と暮らしたことはありますか?
背筋
はい。猫と暮らしています。まあわたしがそもそも猫好きというのも大いにあるのですけど(笑)。
――遊ばせていただいて、もう冒頭の場面での猫のしぐさや描写の細部からすでに、これは猫を飼ってる人じゃないと描けないような濃い“猫感”を感じさせられる演出でした(笑)。『STRAY』も開発チームには実際に猫と暮らしているスタッフが大勢いらしたようなのですが、やはり猫に関する描写に説得力があるように思えます。
背筋
開発会社さんにも猫と暮らしている方がたくさんいらしたようで、とくに猫の動きなどは、本当に猫と暮らしているからこその描写も追求していただいたんだろうなって感じました。なんだろう……“作られた猫感”じゃないというか。
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――たしかに、自分自身が主観視点で猫になって逃げるからなのか、とくに追われてピンチのとき、狭いところに潜り込んでやりすごしているときなどに、ふと「猫ってこうなんだな」、としみじみ感じいるような……いままで味わったことのないゲーム体験がありました。
背筋
あはは。でも、まさに目指していた“猫の視点”になるからこその感覚を体験していただけているみたいで、うれしいです。いま言われたことは、とてもそうだなって思うところでもあって。
――作られた猫感ではない、というお話ですが、操作しながら感じる家屋の雰囲気もまた、妙に不思議なリアリティを感じさせられて。
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背筋
コンロの壁に、壁が焼けないように花柄のガードが貼ってあったりとか(笑)。
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――リアルだなあと(笑)。そういうところも、『近畿地方のある場所について』が現実そっくりな情報の断片を読むうちに、頭の中でひとつの物語が湧き上がってきて怖くなるという構造なので、情報の本物っぽさが大切だと思うのですが……開発チームもそうした背筋さん作品へのリスペクトから、家の中の小物などのテクスチャーひとつとっても凝ってデザインされたのかなと思ってしまったほどで。チラシや雑誌の表紙なども、とてもリアルですよね。
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背筋
テクスチャーや記憶のアイテムなどについては、開発会社さんが非常に力を入れて凝ってくださったのがわかります。そのせいかなんだろう……実家感がありますよね(笑)。そして細かく描かれているからこそ、猫の視点であまり作り物っぽくないふつうの日本家屋を歩くのって楽しいなとも感じられて。こういうのって、グラフィックの品質ががどう、とかではなくて、“そこにそれを置こう”と思う、“執念”だったりしませんか。
――執念、すごくわかります。
背筋
そういったリアルさを体感できるような日本家屋の描写が入り口だからこそ、それがやがて反転して、だんだんと世界が壊れていく様を目撃するのがおもしろいんですよね。なので、ストーリーを作るうえでも、こうしていい形に再現できている夏の田舎の日本家屋っぽいムードにありがちな設定にはしたくなくて。わたしは、割とひねくれ者なので、既定路線には乗りたくなかったんです。
――だから、あんな田舎の家なのに、背広のサラリーマンが追っかけてくるんですか。
背筋
ええ(笑)。日本家屋の中で追ってくるのなんですか? って考えたときに、“着物姿の女性”とか、“日本刀を持った武者の亡霊”といったものではなくて、最も意味がわからなくておもしろいのはなんだろうと考えた結果です。でも、そういった逆張りをするからこそ、いまや田舎の家にしかないような“仏壇”などの舞台装置は、かなり存在感が大きいなと感じてあえて使ったりもしています。僕らの中にも残っている、精神風土としての“あの世”に行ったとか、戻ってきた、っていう雰囲気が、仏壇のある田舎の雰囲気とマッチするなと。
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――しかも、プレイヤーは猫の視点でそうした風景や怪異を見ることになるというのは、何重にもひねりが効いているかのようですね。
背筋
そういう意味では、このゲームの猫、画面にあんまり映らないところもポイントですよね。
――ああ……プレイヤーのFPS(主観)視点が、そのまま猫の視線の高さになるような。
背筋
そうなんです。プレイヤーキャラクターが人間のFPSは、プレイヤー自身の視点とキャラクターの視点を同期させることで、感情移入してもらおうとする構造だと思うんですね。それはきっと、プレイヤーキャラクターが猫の視点のFPSになったとしてもたぶん同じで、プレイヤーは、視点がいっしょになったキャラクターへは感情移入したくなってしまう。
猫に感情移入できるのか
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――主観の力ですね。
背筋
はい。ですけど、現実の猫って……別にわたしたちが感情移入しようがしまいが、人間とは違う思考回路で生きているかのようですよね?
――はい、猫と暮らした方なら、きっとそう感じたことはあると思います(笑)。
背筋
どちらかというと、猫が何も考えていないというより、猫はわたしたちとは違う視点で物事を考えているような……理解できないところで考えているんだろうと。だからこそ、人間であるプレイヤーとは、感情の同期がぜんぜんできないはずなんです。唯一わたしたちと同期できるのは、“捕まえようとするものから逃げなければいけない”という点のみで。猫もプレイヤーも、そこは利害=感情が一致するポイントなんですよね。それ以外には一切感情はリンクしない。
――いまお話を伺っていて、『まだ猫』をプレイしているときの、自分ごとのようで他人事のようでもある奇妙な感覚は、猫と感情が一致するポイントの差異にあるからかと思えました。
背筋
まさにストーリーについても、猫とプレイヤーの感情が一致しない、ということを念頭に置きながら物語の軸に置いて書かせていただいたんですよね。それを反映していったので、この物語で、とくに猫は最後まで悲しむことはない。わたしは悲しむけれども猫はまったく悲しんでいないし、気にしている様子もないんです。
猫はなにも語らない
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――『近畿地方のある場所について』ともどこか通じるような、『まだ猫』も少しずつ会話テキストが集まっていくことで、物語の輪郭が見えてくる仕掛けですよね。ここはプレイヤーが考察して楽しめるところなので詳しくは言えないのですが、家族がそれぞれで見ているものが違うというような。
背筋
猫とわたしたちの感情が同期しないというのは、ストーリーの根底にある部分なのですが、そこからさらに一歩考えを広げてみると、「人間だっていっしょだよね」とは思っていて。わたしたち人間も、“誰かの気持ちになって考える”ようなことをするけれども、本来であればそんなことは誰にもできないこと……でも、それでわかった気になってしまう。
――確かにそうかもしれません。
背筋
人間が思い悩んだりとか喜んだりとかするものというのは、一体なんなのだろう、ということをいろいろと考えまして。だから、その結果このゲームの物語に於いては、“全員が方向性を間違えている”んですよ。
――ああ、なるほど……! あの人はきっとこうだったんだろう、という考えの方向性が、みんな間違えているんですね。
背筋
はい。で、幽霊もものを言わないので、さらに勝手に皆が解釈をしてしまって、どんどん不幸な方向へ滑り落ちていくんです。そしてそれはもちろん、猫がものを言わないことともリンクさせています。
――よく考えると、幽霊も猫も何も語っていませんでした。
背筋
わたしたちはものを言わない猫に勝手に感情を同期させていくことで、最後は……まるで裏切られたかのように感じてしまうわけですね。そもそも、猫の考えは理解を超えたものであったかもしれないというのに。登場人物たちも、ものを言わない幽霊にまで自分の感情を重ね合わせてしまうという。
――幽霊の目的も、それぞれで勝手に解釈してしまっています。
背筋
そうですね。「あの人は誰かを連れていこうとしてるんだ」と考える人もいるけれど、けっきょく別にそんなことはない、みたいな。
――なるほど。
背筋
なので、個人的にはこの物語において、誰かの感情をおもんぱかるだったりだとか、誰かの視座に立って想像を巡らせるみたいなところには……いい面と悪い面の両方があるということを言いたかった、っていうのはありますね。
――まさにものを言わない対象に対して、勝手に想像を巡らせてしまうことが悲劇にも喜劇にもなりえるという。最後まで遊ぶと、『まだ猫は逃げますか?』というタイトルの意味も考えさせられたりと、本当に不思議な猫の奇譚を読み終えたような気持ちになれましたから。
背筋
よかったです。猫の視点、というところから一歩広げて話を書いたら、こういうテーマになりました。だからとくにハッピーエンドにするかどうか、といったところはまったく考えずに書いていたのですが、結果的に……なんだか、わりと後味の悪いエンドになったかな、とは思いますけど(笑)。もちろん、それがハッピーになる場合もきっとあるんだろうなとは思います。ただわたしの場合は、こうなってしまったなというだけなんですよね。
――お話を伺えて、ぜひこれを読んでいる方にも実際にこのゲームで猫になって、ある家族の結末と真相を見届けてもらいたい気持ちになりました。あと、猫好きな方なら、「猫さえ幸せならば、すべてが幸せだ」と考えてしまう結末かもしれないと思います(笑)。
背筋
そこはとても大事にしていましたから。なのでこのゲームでは、最初からSNSなどに「猫には危害は加えられません」と大きく掲げていて。その点については、安心してプレイしていただけますので、猫好きな方にも遊んでもらいたいです。ただ……猫は最後まで危害は加えられないのですが、プレイヤーや登場人物たちは、“その限りではない”かもしれませんが(笑)。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/58193/ad580b1f7425a791e0315bfd42764f53e.jpg?x=767)
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