レベルファイブ⽇野晃博⽒が次代を担うゲームクリエイターに必要な心構えを語る。人材育成プログラム“TGCA”スペシャルトークセッションリポート【TGS2025】

byNiSHi

レベルファイブ⽇野晃博⽒が次代を担うゲームクリエイターに必要な心構えを語る。人材育成プログラム“TGCA”スペシャルトークセッションリポート【TGS2025】
 2025年9月25日~9月28日まで、千葉県・幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ2025(TGS2025)。一般公開日となった27日のイベントステージでは、Top Game Creators Academy(TGCA)によるスペシャルトークセッションが行われた。
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次代を担うゲームクリエイターにとって大事な心構えとは

 TGCAは、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会が連携して実施する、次代を担うゲームクリエイターの育成プログラムだ。

 若手クリエイターがアイデアや技術力を最大限に活かしてゲーム制作ができるよう、現役のクリエイターを中心としたアドバイザーの指導・助言とともに、国内外のイベント出展を基軸とした世界デビューを後押し。文化芸術活動基盤強化基金(Japan Creator Support Fund)を活用して活動を行っている。
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 ステージにはTGCAのプリンシパルとしてプログラムの監修に協力している、レベルファイブ 代表取締役社⻑/CEOの⽇野晃博⽒、専任メンターとして参加しているスタジオサザンカ 代表取締役社⻑の⼩澤健司氏に加え、モデレーターとしてファミ通グループ代表の林克彦が登壇。ゲーム開発の原点として大事なこと、インプットの重要性、メンターとして感じている明るい未来の3つをテーマにトークが行われた。
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写真左より、林克彦、⽇野晃博⽒、⼩澤健司氏。

知恵を絞って決断し、その決断を覆す勇気を

 最初のトークテーマは、ゲーム開発の原点として大事なこと。専任メンターとして今年の4月からTGCAに参加している小澤氏は、ゲームの企画のコンセプト作りやシナリオ制作など、ゲームを完成させるまでのあいだに、粘り強く考え続けるためにしっかり向き合う時間を確保する必要があると考える。

 大事な要素を決めるときに、「本当にこれでいいのか」、「よりよい方法があるのではないか」と考える力を身に着け、決断にいたるまでのプロセスに時間をかけることが、作品作りにおいて重要だという。

 日野氏は、後輩クリエイターにはいつも、自分が作りたいものをしっかりと想像しながら書類を作成し、それを人に伝える努力をすることが大切だと伝えているとのこと。書類を作ることを目的とせず、最終的な完成イメージを頭の中に思い描きながら進めていくことが大切だと、小澤氏に同意した。

 ここで、林から日野氏へ、ゲーム開発には生みの苦しみがあるが、それを個人あるいはチームとしてどのように乗り越えているのかと質問が。これについて日野氏は、生みの苦しみはつらく、悩ましい問題と捉えられることが多いが、自身としては楽しいことであると意外な回答。生みの苦しみがさまざまな迷いだとすると、どれが正しい道なのか、ひとつひとつ考えながら確かめていく作業がとても楽しいそうだ。

 成果を出さないといけない、誰かに認めてもらわないといけないと切羽詰まりながら作業をしていては、プレイヤーに届くものができない。それゆえ日野氏は、そうした難局をポジティブに捉え、楽しみながら開発に取り組んでいるとのこと。おもしろいものができるかは完成するまでわからないので、そのプロセスを楽しむことが重要だと語った。

 日野氏がそうしたモチベーション作りができるようになったのは、堀井雄二氏による影響が大きいとのこと。堀井氏がエニックス(現スクウェア・エニックス)主催のゲーム・ホビープログラムコンテストに応募していたエピソードから、ゲーム開発はすべてひとりでやるという認識があった。そのため、プログラム、ゲームの企画、グラフィックの作成など、すべて経験したことがあるが、そのひとつひとつが楽しく、開発自体がまさに“ゲーム”だったそう。それゆえ、ゲーム開発のプロセス自体を楽しめていると振り返った。
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 小澤氏は生みの苦しみという点について、まだ日野氏のような領域にはたどり着けていないとしつつ、それを乗り越えることでクリエイターとして成長できるし、よりよい製品もできあがるので、自分を信じるようにと言い聞かせているとコメント。

 また、小澤氏はゲーム開発以外のプライベートな時間でも開発のことを考えているそう。それはある種生みの苦しみかもしれないが、そうした時間を通じて課題を分解できたりすることもあり、プライベートな時間でも開発のことを考えること自体は苦しくないという。

 なぜ生みの苦しみが存在するのか、という問いかけには日野氏が、誰かに認められないといけないという使命感、納期を守らないといけないという焦燥感が原因ではないのかと分析する。

 現代では、何か問題が発生するとすぐにネット上で批判される。それゆえ、ゲーム作りも細かい部分まで配慮が必要になっていると日野氏。

 小澤氏も、ユーザービリティの水準が上がっているとしつつ、外部の意見を取り入れ過ぎないことが大事だと語る。自身の中で、これでいい、これが自身のよい未来につながっているという信念を持って進めることで、苦しみにとらわれず、落ち着いてがんばり続けることができるはずだと語る。

 一方で、日野氏は開発途中で信念がブレることがあるという。ディレクターやプロデューサー陣との話し合いで自信満々に語ったことが、つぎの日になると自身の中で「やっぱり違うかも」となることがあり、そんな感じで信念がブレるクリエイターも多いとのこと。

 その中で、責任のある立場として決断しても、よりよいゲームのために、必要であれば大きく方向転換をすることも重要だという。意地を張って、当初の方針を守り続けることがよくないとのことだ。

 小澤氏は、コンセプトはブレないようにしたいが、手触り感などの部分は柔軟に変えても問題ないと考えを示す。そして、知恵を絞って考え抜いて決断し、勇気を持って決断を覆してほしいと結論づけた。
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 つぎのテーマに移る前に、小澤氏のTGCAでの活動についての紹介があった。TGCAには小澤氏のほかにも複数の専属メンターが在籍しており、10組のチームに対して、ひとりのメンターがマンツーマンで指導するのではなく、複数人のメンターが各チームを指導している。

 このシステムには、日野氏の意見が参考になっている。マンツーマンでの指導だと、ときにプレッシャーを感じることがあるため、複数人で見守るほうが、お互いにリラックスできて、よい物作りができるだろうという意図があるそうだ。

 その中で、専任メンターとして小澤氏は、開発に行き詰まった際にはたくさんの選択肢を提示するようにしているとのこと。そして、どのような決断をしようとも、クリエイターの意見を尊重して、その後もサポートし続けることをポリシーにしているそうだ。

 そうして指導する立場の小澤氏だが、若いクリエイターから学ぶこともたくさんあるという。感性の豊かさなど、魅力的なゲームがリリースされ続けている中で、そうした若手クリエイターとの交流は非常によいインプットとなっているそうだ。
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情報のインプットは物作りに欠かせない

 インプットの話が出たところで、つぎのテーマであるインプットの重要性についてトークが展開。小澤氏は、たくさんの作品に触れてほしいとコメント。現代では、ゲーム実況・配信など、直接遊ばなくてもゲームの知識を得ることのできる機会が増えてきたものの、やはり実際に遊んでみないとわからないことは多々あるため、直接プレイして、ゲームの知識はもちろん、遊んだ際の感情の変化も知ってほしいとのこと。加えて、ゲームに留まらず、アニメ、映画、小説など、積極的にエンタメに触れることも重要だと語った。

 日野氏は、大前提として、自分が作ろうとしているものに関する情報は持ち合わせておくべきだと力強く語る。レベルファイブでも、自社作品や関連する技術、業界に関する知識を持っていることを非常に重要視。実際にテストも行われ、その成績によって、社員の給料も大きく変わるという。

 レベルファイブの代表作として『
イナズマイレブン』シリーズがあるが、過去作を含め、シリーズに造詣が深い、半分ファンのような知識を持っていると、ファンの目線でゲーム作りが可能となる。そのため、大胆な取り組みを行ってでも、知識を取り入れるように促しているそう。

 ゲームの知識はもちろん、技術に関する知識も欠かさない。たとえば、AIやゲームエンジンの知識がない場合だと、取り入れるとなった際に行き詰まる可能性も出てくる。それゆえ、さまざまな知識をインプットしておくことが重要であると力説した。
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 たくさん情報を得て、あらゆる視点から物事を見ることができたほうが開発もスムーズだし、クリエイターとしても成長するはずだと小澤氏。実際、スタッフから世紀の大発見のようにアイデアを持ち込まれるが、そのアイデアは既存のゲームと同じだったという状況も存在するそう。知識を持っていれば、そんな状況も生まれなかっただろう。

 林は、いまは流行っているエンタメ作品に触れて、なぜ流行っているのかを知ることがゲーム業界で大事だとよく耳にするそう。日野氏は、いまの若い人たちがどのようなシチュエーションで心が動かされるのか、ゲーム以外のエンタメ作品から大いに学べるため、インプットの手段として重宝されていると解説。

 小澤氏は、限られた時間の中でお客さんを満足させる作品作りについては、アニメや映画のほうが一歩先をいっているケースもあるため、大いに参考しているそうだ。
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 得た情報のアーカイブ方法についても、おふたりから紹介。小澤氏は、テキストはマイクロソフトのOneNoteに書き、画像や映像などはメディア管理アプリ・Eagleに記録。SNSでお気に入りにしたイラストなどをひとまとめにして、時間のあるときに整理をするとのこと。

 日野氏は、メモなどはあまり行わないものの、YouTubeに参考になりそうな動画がアップされていたらブックマークをして、いつでもアクセスできるようにしている。

 その際、AIは活用しているのかと聞かれると、小澤氏は課題があるときに、思い浮かんだ解決策をメモとして記録して、後で自分でまとめて参考にしているそう。日野氏は、ゲーム開発に直接は関係ないが、PCがエラーで動かないときはChatGPTに解決策を聞いたりしているという。

たくさん意見することが新しい挑戦につながる

 その後は、最後のテーマ、メンターとして感じている明るい未来について。小澤氏は、知識欲に溢れるクリエイターが多い点を挙げる。見たことのないツールなどに触れたときに、慣れなくてもそこから逃げずにしっかりと吸収していく、バイタリティ溢れるクリエイターばかりなので、自身も彼らの姿勢に学んでいるそうだ。

 日野氏も、吸収力のある若手クリエイターに学ぶことが多々あるため、チームのいろんな世代と意見を交換することが開発にとても有効に働いていると実感しているそう。

 レベルファイブは、同社の作品に影響されて入社するメンバーが多く、自身が感じた感動を新しい世代に伝えたいという究極のお客さんのような人が多いため、開発チームも若い世代から大いに刺激を受けているそうだ。

 日野氏自身も、同社で『
ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』を開発した際、大好きだった『ドラゴンクエスト』の開発に携われるということで、憧れだった堀井氏にとにかくいろんな提案をしたと回想。ファン目線でもあった自身の提案が、決定権のある人たちにさまざまな情報を与えて、それが作品にもつながったと振り返る。

 そして、若気の至りで、たくさん意見をして、言い負かされたことも多々あったが、それこそがゲーム作りの醍醐味でもあるし、だからこそ新しい挑戦ができると熱く語った。

 TGCAでは面談も行っているが、小澤氏は、生徒のクリエイターが物怖じしない人ばかりなので、その点においても、情熱的で活発な作品作りが行われていると取り組みの感想を語る。

 プログラムとしては、若手のころに持っていたかったゲーム開発の知識のほか、ビジネスの進めかた、マーケティング方法など、作るだけでなく、売りかたや届けかたも指導しているそう。講義で取り扱う情報については、ビジネスアドバイザーを中心に、現役のプロや専門家によって最新の情報が届けられる。その中には、国が行っている助成事業や補助金の情報など、すぐに活用できる知識も含まれており、抜かりのない講義だと小澤氏は驚いたという。

 日野氏は後方支援という形で意見や提案を行っていたが、今回の小澤氏の話を聞いて、情熱と楽しさに溢れたプログラムになっていると安堵。引き続きこの意義深いプログラムを通じて、世界に羽ばたいていくクリエイターを育てていけたらと展望を語った。

 その後はトークセッションも終了。小澤氏は、ゲーム作りに近道はないが、自分たちメンターは生徒ともに走り続けるので、ともにゲーム作りの大海原を航海できたらとコメント。

 日野氏は、TGCAは選ばれたクリエイターが参加しているが、エンタメ業界も会社に選ばれ、上司に選ばれ、お客さんに選ばれてチャンスをもらう世界なので、自分をどのようにアピールするか、どのように自己プロデュースをするのかを考え続ける必要があると語る。

 そして、作品をプレゼンするとき、そのひとつひとつに勝負どころが存在するので、TGCAに参加しているクリエイター、そしてステージを観覧しているクリエイターに、しっかりと準備をしてぜひチャンスをものにしてほしいとメッセージを送り、トークセッションを締めくくった。
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