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『Mind Diver / マインドダイバー』レビュー&インタビュー。複雑な恋愛関係や感情と向き合い、没入していくミステリーアドベンチャー

byタワラ

『Mind Diver / マインドダイバー』レビュー&インタビュー。複雑な恋愛関係や感情と向き合い、没入していくミステリーアドベンチャー
 Indoor Sunglassesが開発する『Mind Diver / マインドダイバー』が、PLAYISMより2025年9月28日にPC(Steam)でリリースされた。

 本作は、人の記憶に入る“マインドダイビング”という技術を使い、女性の記憶を修復しながら行方不明事件の真相に迫るミステリーアドベンチャー。記憶に潜るというSF風の要素を取り入れながら、複雑な人間関係にフォーカスを当てた悲恋の物語が展開されるのが特徴だ。

 今回、本作のプレイと併せて開発を手掛けたIndoor SunglassesのCEO、Victor Breum氏(ビクター・ブレーム)へのインタビューを実施した。以下、『Mind Diver / マインドダイバー』の魅力をお届けしていこう。
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※この記事はPLAYISMの提供でお届けします。

謎解きが物語への没入感を高め、複雑な余韻に浸れる作品

 記憶障害を治療する新技術“マインドダイビング”。人の記憶に潜るこのSF風の技術を用いて、過去の出来事を読み解いていくというのが本作のストーリーだ。

 プレイヤーがダイブすることになるのは、リナという女性。彼女は行方不明になった恋人、セバスチャンの捜索を警察に依頼していたのだが、不思議なことにリナは記憶が急速に崩壊しつつあった。

 セバスチャンはどこに消えたのか、なぜリナの記憶は崩壊しつつあるのか。ふたりの身に起こったことを、記憶を辿る形で紐解いていくというのが物語の流れだ。
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 記憶に潜ると、思い出に残っている一場面が再現されたようなフィールドに辿り着く。ここで記憶に残された会話を聞きながら、謎解きにチャレンジすることになる。
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フィールド内は時間が停止したように、人や物もすべて静止している。
 プレイヤーがやることは、この場に残された会話(エコー)をすべて聞き、何が起こったのかを把握すること。

 たとえば自転車や、リナ、セバスチャンなどを調べてエコーを聞くことで、当時ここでどんな会話をしていたのかを知ることができる。フィールドに辿り着いたらまずは周囲を散策してエコーで情報収集をし、その後の謎解きに活かしていくというのが基本の流れだ。
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序盤はふたりでパーティー会場に向かっていたことが、エコーから読み取れる。
 肝心の謎解きは前後の文脈から空欄に入るものを推察する、読解力を試す穴埋め問題のような形式。

 リナの記憶には穴があり一部の情報が欠落しているのだが、この穴に入るものを見つけ出し、修復して正しい記憶を読み解いていく。
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何かに対して腕を伸ばすセバスチャン。会話だけでなく、所作もヒントになっている。
 一例として最序盤の謎解きだけ解説すると、セバスチャンが何かに対して手を伸ばしている部分の記憶が穴になっている。

 エコーを聞くと誰かと会話をしていたことがわかるので、フィールド内から該当する人物を見つけ出すことで正解に近づいていく……といった風に空欄に入る部分を推察していく。国語のテストを思い出すような謎解きだ。
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フィールド内にあるオブジェクトは、人も物も自由に回収できる。
 謎解きは失敗してもペナルティなどはないが、回収できるオブジェクトの数が多いので、総当たりをせずにしっかりと考える必要がある。そもそも謎解きで総当たりは退屈になるだけだが……。

 「これが正解だ」と思ったものを回収し、記憶の穴に入れると修復が完了。新たな会話が聞けるようになり、すべてのエコーを回収するとつぎのフィールドへの道が開かれる。
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 基本的にはこの謎解きの方法が最後まで続くのだが、中盤以降は難易度も上がっていく。先に進めると辿る記憶の数が増えていき、複数のフィールドを行き来して記憶の穴に入るものを探すことになるのだ。

 こうなると回収できるオブジェクトの数も倍になっていくため、しっかりと会話を聞きながら読み解かないといけない。また、会話だけでなく記憶内にある書類などの文章にヒントが隠されていることもあった。
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記憶の中を泳ぐシーン。ドームの中にそれぞれフィールドが用意されており、自由に行き来できる。
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記憶の海の中の独特な描写も見どころ。
 たとえば、リナがとある男性の家で記憶の崩壊について聞いているフィールドでは、エコーから彼女がノートパソコンを使っていたことが読み取れる。

 そのため、どこかからパソコンを回収して記憶の穴に入れればいいのだが、肝心のパソコンがこのフィールド内には見当たらない。そんなときはべつのフィールド(記憶)に移動して、警察署にあったパソコンを回収したりと、複数の記憶を辿って補完していくことになる。
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 さらに難しいのが、このパソコンが複数設置されていること。パソコンなら何でもいいというわけではなく、画面に映っているものもちゃんと確認しなくてはならない。

 リナが開いていたパソコンには、どんな画面が映っていたか。それを会話から読み解くことで、ようやく正解が見えてくるという仕組みだ。
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「パソコン見つけた!」と適当に回収したら記憶の穴に適合せず、最初は混乱した。
 この謎解きのやりかたは、ストーリーへの没入感を高めるのにひと役買ってくれる。

 先に進むためには彼女たちの会話をしっかりと、くり返し聞く必要があるため、必然的にリナやセバスチャンの心情を深く理解することになるのだ。ゲームを進めるほどにふたりに感情移入をしていく仕組みは、小説や映画とはまた異なる味わいがあった。

 物語は事件を追うだけでなく、リナとセバスチャンが恋人になるまでの出会いのシーンなども描かれるため、終盤の展開がより一層心に響く。
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記憶の穴に入る自転車を探すシーン。正解を知るために何度も会話を聞くことになった。
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自転車が10台ほど並ぶ中から、正解を見つけ出す。
 本作で印象的なのは、物語の主軸がリナとセバスチャンの悲恋の物語であること。

 記憶に潜るというSFな要素や、記憶の崩壊といった設定から壮大な陰謀に挑むような内容になるかと思いきや、物語自体は現実的な内容になっている。
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不気味なパーティー会場の秘密にも迫るが、メインはセバスチャンとの物語になる。
 先に進めていくほどリナとセバスチャンの関係が順風満帆ではなく、多くの感情が渦巻いていたことがわかっていく。ここで明かされる出来事がとてもリアルな、現実にも起こりうるような内容で、彼らの物語がより身近なものへと感じられるようになる。
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 リナとセバスチャンどちらの気持ちも理解できるが、明確な正解は思いつかないような、白黒つけられない感情との向き合いかたを突きつけられた気分だった。

 このストーリーは、大切な人を失った経験がある人にはとくに込み上げるものがある。ゲームクリアー後も、しばらく「気持ちはわかるけどなぁ……」と複雑な余韻に浸ってしまった。
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 謎解きゲームの性質上プレイ時間に多少差は出ると思うが、筆者がクリアーまでにかかった時間はおおよそ3時間30分ほど。平均クリアー時間は平均クリア時間は4~6時間ほどとなるようだ。

 できれば最初から最後まで、中断せず通しでプレイしたほうがより深い体験を得られると思うので、じっくりプレイできるタイミングで遊んでみてほしいゲームだった。

【インタビュー】独特なアートスタイルはどのように誕生したのか

 ここからは、本作の開発を手掛けたIndoor SunglassesのCEOであるビクター・ブレーム氏へのインタビューの内容をお届けしていく。
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――まずは、Indoor Sunglassesがどのような会社なのか教えてください。

ビクター
 Indoor Sunglassesは、コペンハーゲンにある5人の小さなチームです。4年前に学生プロジェクトを通じて出会いました。『Mind Diver / マインドダイバー』は私たちが初めて作ったゲームとなります。
 
 私たちは、プレイヤーの人生を豊かにする、意味のあるゲームを作ることを目指しています。プレイヤーがたくさんの満足感と没入感を得られて、かついつまでも印象に残るゲームであるべきだと考えています。プレイヤーに自身の人生や、周囲の世界について考えさせることができればとも思っています。エンターテインメントの枠を超えたゲームを作りたいのです!

 難しいですが、『Mind Diver / マインドダイバー』に対するこれまでの反響を見ると、すべてが報われたように感じます。私たちはオーナーシップと平等性をとても大切にしています。『Mind Diver / マインドダイバー』で得られるすべての利益は、5人で平等に分けることを決めました。また、開発中に資金的困難な時は、全員でいっしょに給与を減額し、互いに助け合って解決策を見出しました。チームの中で安心感を得ることが、すばらしいものをいっしょに作り上げる鍵だと信じているからです。

――『Mind Diver / マインドダイバー』を開発するにいたったきっかけをお教えください。

ビクター
 失恋と推理ゲームのふたつがきっかけです。私は失恋を経験し、その関係についてたくさん振り返っていました。同時期に、『Return of the Obra Dinn』や『Her Story』のようなゲームをプレイしていました。

 そして、その関係のパズルのピース(何がうまくいけなかったか? 誰のせいだったのか?)をはめようとする自分の試みが、まるで推理ミステリーを解いているように感じました。感情的要素いっぱいのミステリー! 『Return of the Obra Dinn』のような満足感と同時に感情的に力強い物語も届けられる何かを作る機会を見出しました。それが『Mind Diver / マインドダイバー』へと発展したのです。

――本作はアートスタイルが独特ですが、このアートスタイルを採用した経緯を教えてください。

ビクター
 ビデオゲームで記憶をどのように表現すべきか模索していた最中に、生のフォトグラメトリースキャン(photogrammetry scans)を偶然見つけました。その見た目の不完全さと写実の組み合わせが、記憶を表現するのに完璧だと感じました。フォトグラメトリースキャンは現実のように感じると同時に、何だかつかめないどころが、まるで遠い記憶のようです。

 これ以前にもいくつか奇妙な試みはしました。たとえば、初代アートディレクターは肉の塊を凍らせ、そこに模様を彫っていたこともありました! スキャンを採用して本当によかったと思います(笑)。
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――このようなアートスタイルを確立するにあたって、こだわったポイントをお教えください。刺激を受けたクリエイティブなどはありますか?

ビクター
 このスタイルを一貫性がありかつ意図的なものに感じさせるには、すごく努力しました。さまざまな制作パイプライン、シェーダー、ライティングを試しました。けっきょく、いちばん大事な要素は異なるもの“移行(トランジション/transitions)“でした。スキャンされたデータから海への移行を滑らかにすることは、世界観の一貫性を感じさせるのに大いに役立ちました。色合いを柔らかく変化させるように調整したことも、本当に効果的でしたね。

 『Mind Diver / マインドダイバー』は『
Scanner Sombre』、『Harold Halibut』、『Dujanah』、『Hylics』など風変わりなゲームビジュアルから大きな刺激を受けています。それらのゲームはひとつひとつが、クリエイターが自身のツールと世界観を深く理解することを求められた作品です。

 記憶の中の静止したシーンのレイアウトについては、演劇だけでなく、浅野いにお先生のマンガからもインスピレーションを得ました。先生の作品は、一枚の静止画で力強い日常の感情を伝えることにしばしば驚きましたので、私たちはその構図を研究し、ヒントを見つけました。
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――“意識に潜る”というテーマをゲームシステムに落とし込む際、どのような試行錯誤がありましたか?

ビクター
 このテーマはそもそもが抽象的ですので、最初は焦点を絞り込み、ゲームの仕組みを明確に定義することが難しかったです。不可能な幾何学的空間、心を分析するツール、さまざまな象徴など、たくさんのアイデアがありました。しかし、記憶と恋愛物語という二点をつねに焦点として置けば、残りはこの焦点のためにならないものをすべて削ぎ落とすだけでした。

 初期段階では、セバスチャンとリナの両方の意識に潜り、出来事の異なるバージョンを見るという内容でした。ふたつの意識は、泳いで通り抜けられる水面で結ばれました。しかし、これは複雑すぎることが判明しました。とくに、現実の異なるバージョンが存在するという概念は、私たちの推理パズルの仕組みと衝突となりました。これを実現する方法はあるとは思いますが、それは別のゲームにとっておきましょう(笑)。

――本作は意識に潜るという近未来的な技術が登場する一方で、ゲーム内の時代設定は現実世界とさほど差がありません。現代に近い設定にしているのには何か理由があるのでしょうか?

ビクター
 ゲームストーリーのコアはつねに現実的なラブストーリーを語ることでした。ゲームの世界がふつうの生活から離れすぎると、ストーリーが現実味や共感を感じにくくなるかもしれないと考えてました。SF要素は、むしろごくふつうのストーリーを新鮮な視点から見せ、中心的なテーマをより力強く強調するために使用されています。

 私たちは、「現在の世界とほとんど同じだが、この一点だけが違う」という設定の物語が大好きです。すばらしい例としては、『
エターナル・サンシャイン』(本作への多大なインスピレーション源です)や、浅野いにお先生の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』です。

――謎解きをするメインステージ以外の、ダイブ中の風景も作り込まれているのが印象的でした。この移動はプレイヤーにどのような体験を与えたいという狙いがあったのでしょうか?

ビクター
 記憶の中の日常的なシーンが提供できない、より壮大な雰囲気を作り出そうと意図しました。風景から受ける感情がプレイヤーの中に残り、記憶の中へと持ち込んで、ストーリーの繊細な感情にさらに一層を加えてくれることを願っています。

 また、この記憶間の移動時間を激しいパズルゲームからの短い休憩にもなればいいと思ってました。
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――ダイブする際の風景(意識の海)はキャラクターの心情を表しているのでしょうか?

ビクター
 その通りです、気づいていただきありがとうございます! キャラクターの感情は、象徴、ムード、雰囲気を通じて間接的に反映されていることが目的でした。内部的には、各エリアには実は“心配”、“希望”、“罪悪感”など、感情にちなんだ名前がつけられており、エリアと音楽のアイデアはすべてそれらのタイトルから流れ出たものです。

 それらのタイトルのうち、ひとつだけはゲーム内に残っています……“愛と恐怖”。あまりに気に入りすぎて変えられなかったです。サウンドトラックのファイル名は、じつはいまも当初の感情のタイトルがついたままです!

――意識の海は自由に動ける中で、自然と目的地に辿り着ける導線になっていますが、意識の海についてこだわりや工夫した点があれば教えてください。

ビクター
 これはゲームの中でもっとも革新的な部分ではないが、ほかの一人称視点ゲームから確立された技術を活用する練習のようなものだったかもしれません! ライティングや視覚的なコントラストといった技術は、プレイヤーをさりげなく導くのに非常に有効です。海の中の巨大な根っこ、私たちが“連想の根”と呼ぶものも、もちろん大きな助けとなっています!
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――ゲームを最後までプレイすると、プレイヤー(操作キャラ)=自分自身だと突きつけられた感覚がありました。本作を通じて、プレイヤーにどんな体験や感情を届けたいと考えましたか?

ビクター
 そうおっしゃっていただけて、とてもうれしいです。プレイヤーに、リナとセバスチャンの関係における痛みと喜びを感じてほしいと願っています。登場キャラクターを大切にし、彼らの行動を深く考えてほしいのです。似たような状況にいるだれかが、ひとりじゃないよと感じてくれるとうれしいです。

 あるいは、自身の人間関係について新たな考えかたを見つけられることを願います。同時にもうひとつ感じてほしい感情は、この事件とゲーム内のすべての謎を解いたことによる、誇りと達成感です!

――続編やスピンオフ作品の構想はありますか?

ビクター
 いまのところは予定していません! 『Mind Diver / マインドダイバー』に4年以上開発しており、非常に挑戦的な旅でしたので、しばらくは離れて休憩が必要です。でも、将来のいつかは誰にもわかりませんね (笑)。もちろん、すべてはこのゲームがどのよう受け入れられるか次第です!

――最後に、ファミ通.comの読者にメッセージをお願いします。

ビクター
 デンマークからこんにちは! 皆様が『Mind Diver / マインドダイバー』を楽しんでくださること、謎解きを堪能していただけること、そしてこのストーリーが心に響くことを願っております。読んでいただき、そしてプレイしてくれて、本当にありがとうございます!

『Mind Diver / マインドダイバー』

  • 対応プラットフォーム:PC
  • 発売日:2025年9月28日発売
  • 発売元:PLAYISM
  • 開発元:Indoor Sunglasses
  • ジャンル:アドベンチャー
  • 価格:1840円[税込]
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