『学マス』人を、“アイドル”を描くということ――開発初期から現在にいたるまで『学園アイドルマスター』開発陣にいままでの歩みを聞く【インタビュー】

by北埜トゥーン

byオクドス熊田

更新
『学マス』人を、“アイドル”を描くということ――開発初期から現在にいたるまで『学園アイドルマスター』開発陣にいままでの歩みを聞く【インタビュー】
 『学園アイドルマスター』(以下、『学マス』)。2024年5月16日にサービスがスタートして以来、そのゲーム性とシナリオのおもしろさ、そしてライブシーンの完成度などにより、多くのプロデューサー(※『アイドルマスター』シリーズのファンのこと)を魅了している。

 しかし、そんな『学マス』1年間の裏側には、開発陣のさまざまな苦労と尋常じゃない“こだわり”があった。そんなこだわりについて、開発のキーパーソンとなるバンダイナムコエンターテインメントのプロデューサーの小美野日出文氏とアシスタントプロデューサーの山本亮氏、QualiArtsの岩本航輝氏と多田烈氏の4人にインタビューを実施。『学マス』プロジェクト発足から、1周年までの思い出などをたっぷり語っていただいた。
広告
※本インタビューは4月上旬に実施しました。 ※本インタビューは5月8日発売の週刊ファミ通(2025年5月22日号 No. 1897)に掲載した内容に加筆、修正を行ったものです。

小美野 日出文氏コミノ ヒデフミ

本作のメインプロデューサー。過去には『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』で担当代理を務めたことも。『学マス』で制作を担当するアイドルはことね、麻央、リーリヤ、清夏の4人。文中は小美野。

山本 亮氏ヤマモト リョウ

本作のアシスタントプロデューサー。自身も元“プロデューサー”であり、ほかの『アイマス』シリーズの運営に携わった後『学マス』の開発チームへ合流。制作を担当するアイドルは咲季、佑芽、星南の3人。文中は山本。

岩本 航輝氏イワモト コウキ

QualiArts取締役。『学マス』ではディレクターを担当している。初期から携わっており、小美野氏、多田氏とともに本作を作り上げてきた。文中は岩本。

多田 烈氏タダ イサオ

QualiArtsアートディレクター。『学マス』開発の最初期にチームへ合流しており、小美野氏と作品全体のデザインにおける雰囲気や方向性などの議論を重ねていた。(文中は多田)

『学マス』制作秘話。立ち上げから1周年まで

──『学マス』のサービス開始から間もなく1周年を迎えますが、率直な感想を聞かせてください。

小美野 
多田さんと最初にお会いしてからを考えると、すごく長かった気がしますね。

多田 
そうですね。長かったですね……。

小美野 
5年前ぐらいからこの企画が動いていて、多田さんにはそのころからがっつりと入っていただいています。ゲームの中身と並行しながらデザインだったり、設定だったりを作っていって……そう考えると感慨深いものがありますね。

多田 
だからもう、この1年は本当に“最近”という感じがするんですよ。たしか最初は学園のデザインから決めていきましたよね。

小美野 
そうですね。特別教育棟から。

多田 
さまざまなイメージを参考にしながら設計しましたよね。ロケハンにも2回ぐらい行ったのかな?

小美野 
アイドル育成学校ということもあって、一般的な学園というよりはちょっとおしゃれな学園にしたいなと 。
[IMAGE]
多田 
時代感もそうですし、いただいた学園長の年表に書いてある設定からもリンクさせるようにしたり……。

岩本 
年表も、あっさりしたものが来るのかと思っていたら、“十王邦夫という男の半生”みたいなものがきてびっくりしました。

小美野 
学園の制度やデザイン、名前など、いろいろな部分に学園長の思想を反映したいなと思っていて、それなら人物としての輪郭がしっかりしていないとダメだろうと思ったんですよ。「戦後どこで何を~~」みたいな細かいところまで決めていました。

岩本 
ですね。「この年表、戦後から書いてあるじゃん!」と笑ってしまいました(笑)。

多田 
それを見て、学園長はいわゆる“万博世代”だと思ったんですよね。大阪万博に感銘を受けたような。なので、そのときにあったモダンな建築様式というのを基準に作らせていただきました。あと、坂上さんから「何年たっても古びないようにしてほしい」とも言われていたので、いまの建築様式としても受け入れられているようなものの中から、それらしいものを選んだりもしています。

小美野 
そういう作品全体の雰囲気をどうするかも細かく擦り合わせましたよね。いろいろなデザインのイメージを並べたチャートのようなもの作ったりして、「僕たちが目指したい方向性はこの辺だよね」とか。そうして、僕と多田さんのあいだでは認識が共有できたのですが、それを言語化して全体に共有していくのがたいへんで。最初はそのイメージを“スタイリッシュ”と言ってたんですよ。

多田 
“時代性”とかも出ましたよね。

山本 
“フレッシュ”とかもあったような。

小美野 
いろいろあったけど、いちばん揉めたのが“スタイリッシュ”だったはず。坂上(※坂上陽三氏。元『アイドルマスター』シリーズ総合プロデューサー)にめちゃくちゃ怒られたから覚えてる(笑)。

一同 (笑)。

小美野 
「スタイリッシュって言うけど、じゃあその線の太さどれぐらいだ。色は何色なんだ」みたいなことをめちゃくちゃ質問されて……。お前が何をしたいのかをもっと言語化しろと言われましたね。最終的には“みずみずしさ”というキーワードにたどり着いたんですけど、ここに至るまですごく苦労しました。

――『学マス』プロジェクトの本当に最初の部分から難航していたと。

小美野 
そうですね。アイドルとか物語を作り始める前段階の話なので。この学校のイメージ、時代設定的なところ、全体のトンマナ(※トーン&マナー。デザインの方向性、雰囲気など)とかは苦労しましたね。

岩本 
ぜんぜんスタイリッシュに覚えがない……。

多田 
岩本さんが合流する前の話だった気がします。

――そういうことなんですね。それでは改めてになりますが、プロジェクトに加入された順番を教えていただけますか?

小美野 
厳密に言えば、坂上がまずストレートエッジさんにご相談させていただいて、その後に僕と伏見さんが同じタイミングで加入。その後、僕がQualiArtsさんにお話を持っていって、最初に多田さん、続いて岩本さんが合流。最後にアシスタントプロデューサーの大地(※『学マス』の音楽関係を担当する佐藤大地氏)、山本が順番に入ってきたという感じですね。

――ありがとうございます。そういうことであれば、本インタビューの中だと少し遅れて合流したという、岩本さんと山本さんにはこのサービス開始からの1年間のお話をお聞きしたいです。

山本 
1年ですか……。本当にあっという間に過ぎていきましたね。

――そうですよね。

山本 
とはいえ、本当にいろいろなことがありましたが、印象に残っているのは、エイプリルフールでやった、アイドルのサンプルボイスがすべて学園長のものに置き換わる施策でしょうか。

岩本 
けっこう直前に決めましたよね。

小美野 
最初は4コマでネタにしようという話をしてたんだけど、4コマの制作スケジュールが間に合わないということになって。「じゃあボイスを先行公開しよう」ということになり、急遽やったんだよね。

山本 
そうですね。そのタイミングでちょうど学園長の収録もあったので、差し込ませていただいて。

小美野 
2週間ぐらいしかなかったよね。

岩本 
3月ぐらいに「エイプリルフールやります」と話をしていたような。

――3月! 直前も直前ですね。

山本 
リーリヤのボイスが初出しになるちょっと前にその企画をやったので、リーリヤのページだけ本人より先に学園長が真似するリーリヤのボイスが公開されましたね(笑)。

小美野 
あまりにも時間がなくて僕が書いたんですよ、エイプリルフールのセリフ(笑)。それを伏見さん(※伏見つかさ氏。シナリオ&キャラクター設定を担当)に確認していただいて、収録したのを覚えていますね。

山本 
……1年前の話なのに、こんなに昔話みたいな感覚になるのがすごいなって思います。

岩本 
そうですよね。感覚としては昔話。

山本 
この1年は「とにかく濃かったな」という印象が強いです。

岩本 
早かったですね……本当に。ちょうど3月ぐらいは開発のデバッグも末期でしたから、「片付けないとリリースできない!」と、チーム一丸になって取り組んでいました。人を集めまくって、最後までブラッシュアップしていましたね。

小美野 
あのころはずっとデバッグの報告をしてましたもんね(笑)。

岩本 
そうですね(笑)。「ただいまこんな感じになっております」と。

小美野 
「じゃあここはこうしてください。これはこれまでにやってください」みたいなことを毎日やっていましたよね。

多田 
あとプロモーションもね、そのとき並行してやってましたよね。

小美野 
いまだから言えるけど、プロモーションもわりとバタバタだったよね(苦笑)。

山本 
僕らやプロモーションの現場担当で方向性を決めようとしていたのですが、なかなか決まらなくて……。年末に小美野さんが整理し直して、いろいろと決めてからは早かったんですが。3月5日のお披露目配信までひたすら駆け抜けて、そこからもずっと走り続けて気付いたらリリース日でした。

小美野 
決めてからは早かったよね……いやでも、そう考えると本当にたいへんだったね。

山本 
毎週配信があって、そのあいだにもいろいろイベントもありましたからね。もともとはリリース前に3回ぐらいで考えていたような。

小美野 
全員を一気に頭の生放送で出すか、3回ぐらいに分けるかで考えていて。毎週やったらいいのではという提案があり、それでやってみようと決めたものの、本当にたいへんで。

山本 
実際にやっている最中は全員顔が死んでましたね(苦笑)。

小美野 
QualiArtsさんも放送に合わせて素材を作るのがめちゃくちゃたいへんだったのでは?

岩本 
いやー、たいへんでしたね。けっこうギリギリだったと思います。

――プロモーションだと、初星学園を探索する360度動画とかもありましたよね。
小美野 
初星学園オープンキャンパスに併せて出したツアー動画ですね。当時思ったより反響があって驚きました。

岩本 
「これだったらいけますよ」と提案したんですけど、結果的にかなりたいへんでした。

――個人的にはかなり好きな企画だったんですが、第2弾のご予定とかは。

小美野 
うーん、どうでしょう。新しい場所が増えていったりすれば、もしかしたらやるかもしれないですね。

――楽しみにしておきます!

岩本 
あとそういうので言えば、リリースまでの10日をカウントダウンする人文字とかもやりましたよね。

小美野 
ですね。人文字でカウントダウンっていま考えるとみんな疲れてたんですかね。

岩本 
人文字を画像検索して、使えそうなポーズを探しまくっていました。

多田 
でも作り出すと楽しくなってきちゃうんですよ。現場もどんどんこだわりだしちゃって……。「もう、もう止めよう。そろそろ上げなきゃ!」みたいな(笑)。

小美野 
すごくクオリティの高いものがあがってきたのでビックリしました。確かあれは、QualiArtsさんからの提案だったと思うのですが、はじめて上がってきたときデスクで笑ってしまったのを覚えています。でも同時に、もう直前なんでこういうのが大事なんだなとも思いました。

──なんというか、リリース前から本当に激動だったんですね……。そこから、サービスを開始して以降の反響はどのように感じられていますか?

小美野 
僕はけっこういろいろなところで話しているので、ぜひQualiArtsさんから。

多田 
反響ですと、やはり『アイドルマスター』シリーズのプロデューサーさんの熱量をあらためて実感しました。プロモーションをしている段階から反応の広さと深さというものをすごく感じていて。我々が仕込んだギミックや伏線、設定などを細かく拾ってくれるんですよ。

岩本 
なんというか、緊張感がありましたよね。「ここまで見るんだ!」というような。

多田 
誰かに喜んでもらえるだろう、という気持ちで仕込んだ細部のこだわりをほぼ全部気付いていただけるので、こちらも気合が入りました。ファンアートも初期の段階からたくさんいただいていたので、それもうれしかったですね。

岩本 
僕としては、けっこう落ち着いてはいたんですよ。でも多田さんと似たような感想は持ちましたね。ここまで大きなIPを取り扱ったことがなかったので。感想がたくさんいただけるのもうれしくて、チームメンバーとたくさん検索していました。細かいところまで気づいてくれたとか、考えていたコンセプトが伝わっている様子を見て、みんなで喜びを分かち合ったり、安心したり。

小美野 
多田さんは、感覚で作るより“考えて作る”タイプのデザイナーさんだと思うんですよ。こちらが理由を聞くと、ちゃんとした答えが返ってくるような。なので、デザインにこめられた理由や意味をプロデューサーさんたちがいろいろと考えたりしてくれたのは、多田さんの仕事ぶりを知っている僕たちからしてもうれしかったですね。

――山本さんはどうでしょう。

山本 
いざ自分が生放送に出て発表をする側になったときに「これはたいへんな仕事だな」と思いました。すごく細かいところまで作りこむクリエイターさんたちと、それに気付くプロデューサーさんたち。そのあいだをつなぐ役割を自分が担わなければいけないというのはすごいことだなと。僕も昔は受け取る側だったので、受け取る側の期待もわかるんです。だからなおさらそれに応えなければいけないと、すごくガチガチになりながら生配信に臨んだのを思い出しました。

小美野 
プレッシャー、重いよね。

山本 
最初に出たのが“初星学園オープンキャンパス@ニコニコ超会議2024”だったと思うんですが、そのときは佐藤くんにめちゃくちゃ助けられましたね。

小美野 
大地(佐藤氏)は淡々として堂々としてるからなあ。

山本 
そうですね。安心感すごかったです。

――最後に作品を届ける立場ですもんね。その心労も納得というか。

小美野 
この作品のプロデューサーである以上、この世の中に出る『学マス』のすべての責任を、僕らは背負わざるを得ないというか、背負うべきだと思っています。そういう意味で言うと、それを当時5年目の若手に背負わせるのもたいへんだろうなとは思ったのですが、獅子に倣って谷に突き落とす気持ちで。

多田 
底までね(笑)。

小美野 
正直不安も大きかったですけどね……。

山本 
表に出していくとは聞いていましたけど、まさかあんな最初から出されるとは思っていなかったので驚きました。

小美野 
できるだけ早いほうがいいと思ったんですよ。僕が全部の生放送に出て、イメージが先行した後に出始めちゃうとどうしても印象が薄くなってしまうと思って。みんなバラバラで、それぞれの担当を持っていて、自分の考えで動いているほうが『学マス』らしいかなと。実際にQualiArtsさんを始めとしたさまざまなクリエイターの方々とぶつかりあいながら作っているので、そういった『学マス』らしさは早いうちからプロデューサーさんたちにも見えたほうがいいと思ったんです。

――それこそ初星コミュのRe;IRISみたいな。

小美野 
そうですね。まあRe;IRISほど喧嘩はしていませんが(笑)。

今年のエイプリルフールにあった幻“あさり先生プロデュース”について

――さきほどエイプリルフールのお話などもありましたが、今年のあさり先生が歌って踊る姿にはかなり驚かれた方も多かったのではないかと。あれはどういう経緯で実現されたのでしょう。

小美野 
年末くらいですかね……QualiArtsさんに「やりたいです!」と言われて……。

一同 (笑)。

小美野 
僕は古賀さん(※根緒亜紗里役の古賀葵さん)に「(あさり先生は)基本的には歌ったり踊ったりしません」と言ってしまっていたので、僕からは口が裂けても「やりたい!」とは言えなかったんです。でも、なんとかご相談のうえで調整をしていただけたので、実現できたんですけど……ねっ!(岩本さんのほうを見ながら)

岩本 
そのやり取りを知らなかったので、ちょっと心苦しい気持ちになりました。「ありがとう……ごめんね……」って(笑)。

小美野 
でも事務所さんからもOKが出たときは急いで「岩本さん、OKもらえました。スケジュールはいつまでですか?」とガンガン話を進めていきました(笑)。

山本 
あれも急ピッチでしたね。

小美野 
いっしょに販売する衣装も最初は別の案だったんですけど、僕から「いやここはチャイルドスモックと水着にしよう」と。ほら、楽曲に紐づいてない衣装のほうがいいと思って! いや本当に。

――(笑)。
[IMAGE]

ライブシーンは社内での武器? 印象深い演出を聞く

――折角QualiArtsさんもいらっしゃいますので、ライブシーンのお話も伺えればと。制作したうえで印象深いライブなどはありますか?

岩本 
印象深い楽曲か……いや、全部ですね(笑)。

多田 
そうなっちゃいますよね(笑)。

山本 
ギミック的な話だとどうですか?

岩本 
ギミックか……でも毎回なにかしら挑戦しているんですよ。『キミとセミブルー』だったら水をカメラにかける演出をやってみたり。

多田 
『冠菊』では花火を上げたり。

岩本 
あれ、花火が見えるように講堂の屋根が開いてるんですよ。こういう演出を想定したうえで作っていたギミックですね。
[IMAGE]
多田 
あと、初期のころには「この曲ではこれに挑戦する」というのを決めていました。それこそプロデューサーの皆さんに驚いてほしくて。

――莉波の『clumsy trick』のマネキンとかですか?

多田 
ああ、そうですね。

岩本 
あれはすごいですよね。僕も感動しました。

小美野 
……あれズルいよね。

山本 
ずっと言っていますよね、それ。

岩本 
『光景』でも言ってましたもんね。光を掴む演出を見て「超かっこいい! ずるい!」って。
[IMAGE]
――山本さん的には何かありますか?
山本 
おもしろかったので言うと、『古今東西ちょちょいのちょい』ですかね。アイドルごとの差分を学園長がモニターに映る演出で表現するんだって思って。

岩本 
あれもたいへんだったな……。

多田 
(笑)。たいへんだったね。

岩本 
あいだを取り持たなきゃいけないので、全部ちゃんとコンテを切って作ったんですよ。

小美野 
最初、そもそも掛け合いができるのかという話もありましたもんね。

岩本 
そうですね。……個人的な事情で言うと、いちばん印象に残っているのがこの曲かもしれない。

――あの演出の裏にそんな苦労が……。小美野さんはどうでしょう。

小美野 
ふたつになってしまうんですけど、『Fighting My Way』と『世界一可愛い私』はとても印象に残っていますね。これはもう単純に、いちばん最初に映像が出来上がったのがこのふたつだったからです。それをPCに入れて、社内の人間に「どう? いいでしょ!」と見せて回っていました。

――たしかに、あのふたつを見せられたら納得せざるをえないと言いますか。

小美野 
そういう、いわゆる仲間作りをずっとしていたんですよ。やっぱり会社に応援してもらわないとプロジェクトはうまくいかないので、いかにして味方を作るかというのをすごく大事にしていたんです。ずっと口頭で言っているだけだと説得力がないので、このふたつを武器にして見せて回っていて……それがやっぱり、すごく記憶に残っています。

多田 
『Fighting My Way』は間違いないですよね。

小美野 
度肝を抜かれましたもん。技術的なクオリティもそうなんですが、なにより演出面がすごくて。カメラが揺れたり、キックしたり、炎が上がったり、まるで本当にライブを見ているようで。「誰がここまでやれと言った」という感じでした。
[IMAGE]
岩本 
やるなら徹底的にやらないと、と思いまして。

多田 
あれは今回の『学マス』でやりたい方向性を全部詰め込んだんです。とにかくリアルなライブを作りたいというような。だから機材も作りこみましたし、観客席を映す演出を入れたりもしました。ライブは“観客も含めて作っている”というのがあるじゃないですか。だから、ふだんは見せたくないようなところとかも、あえて作って見せるということにチャレンジをしていて。

山本 
プロンプター(※舞台上の人に向けて歌詞を表示するモニター)もありますもんね。

小美野 
後ろにあるシルエットが動くモニタ―とか、見せる小物もすごいですよね。

多田 
みんながライブに行った時のような感覚を持ってくれれば、より広がりが感じられるだろうと思ったんですよ。だから空気感が伝わるように、すごくこだわって作りました。

岩本 
生っぽいライブを作るために、いろいろなライブ映像を見て、切り取って、考察して……。

小美野 
『世界一可愛い私』も、カメラをいじりにいくシーンをみて「こんなのできるの!?」と社内でも盛り上がっていました。

山本 
見ているだけで会場の熱気を感じられるような、そんな映像ですよね。
[IMAGE]

初星コミュの始まりは3年前。長きにわたる挑戦は最終章へ

──ここからは初星コミュに関してもお伺いできればと。いよいよ完結を迎える、いまのお気持ちを聞かせください。

多田 
じつはこのインタビュー時点では、制作の真っただ中なのですが、「終わるんだな……」という気持ちがあるというか。ラストシーンもすごくよくて、ディレクションしながら泣けてくるんですよ。なので「ああ、綺麗に終わるなあ」という、なんだか複雑な気持ちの中で作っています。

――それぐらい思い入れが強いと。

多田 
初星コミュはテキストの段階からシナリオが本当におもしろくて。僕らもチェックという名目で毎回シナリオが上がるのを楽しみに待っていました。それこそ連載を追っているような気持ちでしたね。

岩本 
最終章とかは、小美野さんも「オフィスで読んで泣いた」と言っていましたよね。

小美野 
そうですね。じつを言うと、初星コミュは最初に作ったシナリオなんですよ。なので、相当前で、それこそ3章までは3年前ぐらいにできていたかなと思います。

――3年前となると、親愛度コミュよりも前だったり……?

小美野 
はい。最初に原稿を読んだときも本当におもしろくて。これがちゃんと形になるなら、間違いなくいい作品になると思いました。QualiArtsさんが1発目にあげてくれた映像もすばらしくて、「いいものになるぞ」という予感はより強くなりましたね。

岩本 
あれは作っていて緊張感がありました。ストーリーの期待度も高かったので、「ちゃんと作らないと伏見先生に怒られるんじゃないか」と。

一同 (笑)。

岩本 
好評ですごく安心しました(笑)。

小美野 
でも大幅に作り直しましたよね。初星コミュはかなり初期段階に上がってきたシナリオだったので、ゲームのアセットができていく中で「こういうシーンはできる。このシーンはできない」という話がけっこう出てきて。その度にシナリオを手直ししていただきながらの作業だったので……本当にめちゃくちゃ手間をかけて製作しました。

岩本 
製作期間的な意味でもいちばん手間がかかっているコンテンツですね。

多田 
そうですね……それもあって、涙がこぼれたのかもしれないです。自分のストーリー的にも、「ああ、やっとひと区切りだ」という感じがあったのかも。

岩本 
なんなら最初の計画だと、リリース時には3章分を出している予定だったんです。でも気合が入りすぎちゃったもんだから無理だなって(笑)。「最初は1章分までで大丈夫でしょうか?」と確認して、それに合わせて区切りかたとかも変えましたよね。

小美野 
そうそう。最初は2章構成だったんですよ。3章までと、そこから最終章の終わりまでの。言ってしまえば2クールアニメのような見せかたを考えていたんです。

――いまの構成とはけっこう切りかたが違いますね。

岩本 
そうですね。この区切りかたにするために、伏見さんに直していただいたところもいくつかありまして……申し訳なかったです。

――いまの形になるまでは本当にいろいろとあったんですね……。ではシナリオ以外のたとえば収録の様子とかはいかがでしたか?

山本 
収録で言うと、やっぱりキャストさんたちの成長が印象に残ってますね。初星コミュが後半に近づくにつれて、どんどん一発目に録ったときのクオリティがあがっていくんですよ。それに対してこうしたい、ああしたいという要望もたくさん出てくるようになりましたし。QualiArtsさんからお渡しされていた収録用のムービーもすごくよくて。喧嘩のシーンでバチバチにやりあってるのに、画面のアイドルたちがかわいいせいでキャストさんの演技がそっちに引っ張られるみたいなこともありました。「もっと仲悪くていいから!」とか(笑)。

――(笑)。初星コミュは収録段階から映像があったんですね。

岩本 
アニメみたいなテンポ感で作りたかったんです。なので、映像を使って録らせてほしいとお願いしていました。

山本 
実際、ゲームではなかなか見ない会話のテンポですよね。

岩本 
ボイスの終わりを被らせたりもしているんですよ。ふつう、タップ送りだとセリフは被せられないじゃないですか。

――ああ、たしかに! 初星コミュはタップして進んでいくわけではないでもからね。それこそアニメみたいな手法じゃないと実現しないと。

岩本 
伏見先生が書くRe;IRISのコミカルな感じを表現したいと思って、あの方法でやり切りました。

小美野 
収録しているとき、エンジニアさんがすごくたいへんそうでしたよね。掛け合いでセリフが被るシーンとかでは、極力相手のマイクに音が入りすぎないようオンオフを切り替えていたり……。

岩本 
いやもう本当に、申し訳ない……。

小美野 
いやいや。おかげですばらしいものになったと思います。

――それは間違いないかと。というかいまさらな質問で恐縮なのですが、そもそも初星コミュが生まれたきっかけはなんだったんですか?

小美野 
コンテンツに入りやすい入口が必要だと思ったんです。いきなり自分視点で「この子たちをプロデュースします」と言われても、『アイマス』に深く触れてこなかった人にとってはピンとこないだろうなと。それよりもまず、「こういう子たちがいて、こういう世界観なんですよ」ということをある程度説明してから入ってもらったほうがいいなと。なので、アニメやマンガっぽい物語を入れたいと伏見さんに相談させていただきました。

――ちなみに全体的なシナリオの流れは、発案から決まるまでどれぐらいかかったのでしょう。

小美野 
流れ自体はそんなにかからなかった気がしますね。アイドルをデザインしていく中で、伏見さんと話しながら「この子とこの子はこういう関係値だよね」という感じで作っていったので。

――物語より先にアイドルたちの関係性があったと。

小美野 
そうですね。アイドルたちが先です。そこから「この子とこの子はこういう関係性があって、縦の関係はこうだから……」というように関係性を整理して、ストーリーを広げていきました。リーダーがことねなのもその影響ですね。

――なるほど……。そのリーダーの話もそうですが、初星コミュはそれぞれの役割とか動きにすごく納得感がありますよね。1章の仲間になるまでの流れも「この子ならこう言われたら認めるだろうな」という気持ちになるというか。
[IMAGE]
山本 
とくに1章は、初期に決めた関係値がちゃんと現れているので、そういう意味でもわかりやすくなっているんだと思います。

小美野 
「プロデューサーの活躍度合いをどうするのか?」というのもかなり議論しました。プロデューサーである以上、彼がちゃんと説得するべきなんじゃないかと。ただ、初星コミュは“自分がプロデュースしている感覚”よりも“彼女たちを知ってほしい”というのがメインのコンテンツなので、ことねが咲季を、咲季が手毬を……という形に落ち着きましたね。

――実際、1章で彼女たちの関係性をしっかりと掴めたような気がします。それと初星コミュでは、“咲季の挫折”というかなり重いテーマにも手を出していますよね。先に親愛度コミュから読んでいた身としては「あ、そうなるんだ!」と驚きました。

小美野 
開発の順序としては初星コミュのほうが先なので、結果的にそういう見せかたになったといいますか。

山本 
最終的には咲季の親愛度→佑芽の親愛度→初星コミュという感じで、わりといい順番で展開を見せられたのかなと思います。

小美野 
逆に親愛度コミュをどう描くのかをかなり議論した覚えがありますね。佑芽に負けるのか、負けないのか。最後のほうまで議論していた気がします。エンディングを分岐させる案とかもありましたよね。

岩本 
ありましたね。

――佑芽に負けたルートみたいな?

小美野 
そうですね。

岩本 
それこそ麻央の衣装配布みたいな感じで、アイドルのことをより魅力的に表現するためなら、仕様を平等にする必要はないんじゃないかという話はしていて。そのときに出た仕様ですね。結果的に分岐は消えてしまったんですが、もしかしたらそういう世界もあったのかもしれません。

――ルート分岐がある『学マス』も見てみたかった気がします。話を初星コミュへ戻しますが、コミュを作っていくうえで、カメラワークや表情の見せかたなど、意識した部分などがあればお聞かせいただければ。

多田 
ユーザーさんが想像を膨らませられるような、行間みたいなものを残す演出とかは意識して入れています。表情から予兆を感じてもらったり。

岩本 
いろいろな素材を使いまわしながら作っているので、あるものの中でどう表現するかというのはありますね。

小美野 
あと初星コミュだと、第3者視点ではないプロデューサーの視点で表現するパートとかもあるじゃないですか。あれはやりにくくはなかったんでしょうか。

多田 
そうですね……たしかにやりにくいところはありました。でも、そこの行間の表現というか。アイドルたちの目線とかを意識して、「こちらを見ている」というように感じてもらえるようにしたり、逆にそうじゃないシーンは違う目線にしたり。

――「この映像はプロデューサーの視点ですよ」というのを明確にしていると。

多田 
演出的にはこうしたいんだけど、プロデューサー視点だと隅から覗いているみたいになるのでやりにくい、みたいな部分があったりして、苦しいときも多かったですね。

――そういう演出でたいへんだった部分はほかになにかありますか? シナリオを再現するのが難しい部分とか。

岩本 
いろいろありますね、これは(笑)。

小美野 
表にしてまとめてありますよね。

多田 
シナリオと演出の想定みたいなものをいただくんですけど「これどうやるんだ……?」みたいなことは多かったですね。たとえば初星コミュ2章第4話とかの布団で寝ているシーンとかがそうでした。

小美野 
あったなあ、それ。
[IMAGE]
多田 
あのシーンとかもじつは寝てないんですよ。みんな立っているんです。そこにうまく布団をつけて、寝ているようにみせているというか。

岩本 
“布団で寝る”というシーンを作るのは初めてだったのでどうしようかかなり悩みました。でも、そこでやる気のあるクリエイターが「僕、作って来たんで見てくれませんか」と言ってくれて。それがちゃんと、布団が動いているんですよ。

――布団が動く?

岩本 
体じゃなくて布団を動かすことで、アイドルたちの寝息を表現しているんです。寝ている時も体は動くので、ぴったり止まったままだと違和感がでちゃうんですよね。

山本 
ふつうにアイドルたちのうえに布団を置いてもあんな感じにはなりませんよね。初めていただいた映像を見たとき「すごいな」と思ったことを覚えてます。

小美野 
あのシーンは「本当にやれるのか?」という話もありましたよね。

多田 
でも寝ているだけだとふつうの立ち芝居になってしまうので、それだと伝えたいことが伝わらないなと。

岩本 
結果的にいいクオリティになりましたよね。

多田 
あれはすごくよかったと思います。

岩本 
あと細かいところで言えば……話題にもなりましたが、やっぱりトンカツの衣ですかね(笑)。あれは衣がないと表現できないので。

小美野 
そういう小物の作りがすごく丁寧でしたよね。カメラとかでひとつの小物がアップになるシーンとかも多いじゃないですか。ちゃんと作ってないとああいう演出はできないですし。

――それこそ咲季のペースト飯とか、作りこみにびっくりした覚えがあります。

岩本 
SSDとかは、物理シミュレーションでちゃんと動きますからね。

――えっ!?

岩本 
こう(手を傾け、飲むような仕草)すればちゃんと液面が傾くんですよ。量も自在に減らせるような仕組みになっています。
[IMAGE]
多田 
SSDはもう、担当者が誇らしげに報告している姿が忘れられないですね。

岩本 
5分ぐらい話していましたよね(笑)。「ここがこうなっていまして……」って。おかげでいつSSDが出てきても、自由に演出ができるようになったという。

山本 
あれ、リリース時まですごく作り込んでいませんでした? 親愛度コミュの映像を確認するたびに、どんどんアップデートされているなと思っていて。

多田 
なんかもう、絶対に話題になってほしいと思ったんですよ。だからどの絵で見ても、絶対に異質なものとして映るようにしたくて。「あ、あれはSSDだ」とパッと見たらすぐわかるような。咲季の場合、ことあるごとにSSDを飲んでいると思うんですけど、そういうときに世の理と関係なく光っていてほしいなって。

一同 (笑)。

――光源とかなくても光っていますもんね、SSD……。

岩本 
怪しいですよね。体にはいいらしいんですけど(笑)。

――咲季の特殊なご飯の話ばかりになってしまいましたが、初星コミュはほかにもおいしそうなご飯がいろいろと出てきますよね。再現する方もけっこういらっしゃいますし。

多田 
思いのほかそういう方が多かったので、僕らとしてもより「ちゃんとやらなきゃ」という気持ちになりました。ちゃんとおいしく見えないと、「作りたい!」とか「真似したい!」と思えてもらえないですから。

小美野 
ふつうは避けたいはずだと思うんですよ、食事シーンとかって。小物を作ったり増減を考えたりしなきゃいけない分、制作にかかる負担も大きいでしょうし。伏見さんのシナリオにそういうシーンが多かったのもあるとは思うんですけど、QualiArtsさん的にも切ろうと思えば切れたはずじゃないですか。でもどんどんチャレンジしてくれていて。

岩本 
そうですね……。でもその食事のシーンは大事だと感じたんです。シナリオを読んでいて、これはちゃんと描かないといけないと思いました。

――まるまる食べ物の話をしている章とかもありますもんね。あとそういう制作物でいうと、マップの話も気になっていて。講堂みたいな初星コミュの序盤ぐらいでしか見ない場所などもありますが、実際どれぐらい種類があるのでしょう。

岩本 
だいたい20種類ぐらいですかね?

多田 
ひとつのマップをけっこう広めに作っていて、シーンにあわせていろいろなスポットを使っています。なので、たくさんマップがあるように感じていらっしゃる方も多いかもしれないですね。

岩本 
河川敷のマップとか、じつはすごく長いんですよ。

小美野 
河川敷いいですよね。あそこで走っている1章11話が咲季と手毬の関係性みたいなものが出ていて、すごく好きなんです。映像が上がってきたとき10回ぐらい見返しました。

――あそこはいいシーンですよね……。ちょっとお話が出たので聞きたいのですが、皆さんにとってお気に入りな場面とかはありますか?

岩本 
咲季が負けた後、強がるところ(4章第7話)ですね……。

小美野 
ずっとその話していますよね(笑)。

岩本 
一生咲季の話しかしてないかもしれない(笑)。

――佑芽としゃべって、プロデューサーに「ちゃんと……強がれてた?」と聞くところですよね。
[IMAGE]
岩本 
そこですね。……いやー、もう、多くは語らないです。あれこそが咲季の神髄だと思います。

――恐らく多くの方が無言で頷いていると思います。

小美野 
多田さんと山本はどう?

山本 
……いちばんを取られたんでどうしようかなって。

一同 (笑)。

小美野 
もはやただの咲季担当じゃん(笑)。

山本 
そりゃ担当(※山本氏は『学マス』チーム内で咲季の制作を担当)ですから! あえて咲季ではないところから選んでいくと……佑芽が星南に「スカウトしてください!」と直談判しに行くところでしょうか。

小美野 
あれもいいシーンだね。

山本 
佑芽はいわゆる『アイマス』の“真ん中”らしい、元気で溌剌としたいい子のように描かれることが多いですが、それだけじゃなくすごく頑固な面も持ち合わせているんですよね。あのシーンも言っていることはめちゃくちゃじゃないですか。「お姉ちゃんはあなたに勝つぐらい強い。そんなお姉ちゃんを超えるために仲間を探している」みたいな。でもそんな無茶苦茶を、頑固な意思で押し通す。佑芽の強さが垣間見えるシーンになっているかなと。

――ダンストレーナーさんにも止められていましたよね。

山本 
あれが正論だと思いますよ。それを押し通せる佑芽の意思と潜在能力がすごいだけで。

小美野 
そう考えると、めちゃめちゃ王道主人公感あるよね。

山本 
そんな佑芽の申し出を受ける星南のほうもかっこよくて。当時はまだ“ことねのストーカーお姉さん”みたいなおもしろアイドルな面しか見せられていなかったので。

小美野 
……そんなつもりなかったんだけどね(笑)。

山本 
そうですね(笑)。そこで星南自身のかっこよさをリリース前にお見せできたのもあって、すごく好きなシーンのひとつです。多田さんはどうですか?

多田 
僕は、そうですね……でもやっぱり作っている側としては布団のシーンがすごく好きなんですよ。「演出的によくできたなあ」みたいな。

小美野 
デザイナーとしてはこだわりのポイントがやっぱりいちばん印象に残っているんですね。

多田 
そうですね。あとは……やっぱり序盤でしょうか。本当に最初の佑芽が桜の中で走っているシーンですね。

山本 
あそこは確かに、めちゃくちゃ綺麗でしたよね。

小美野 
あのシーンは僕も相当印象に残っていますね。『学マス』の初出になる映像でも、見たとき「おぉっ!?」ってなったもん。
岩本 
かなり急ピッチで作りましたよね。たしか最初は桜のクオリティが低くて、「どうしよう」と言っていたら3Dディレクターの杉村さんが「やります」と名乗り出てくれて。

多田 
杉村と僕とで、夜な夜なクラブ活動みたいな感じで作っていました。仕事が全部終わってから「よし、やるか!」みたいな感じで(笑)。

小美野 
最初見せてもらったときはちょっとクオリティが心配だったんですけど、それを伝えたら、「大丈夫です。治ります!」と岩本さんに力強く言われたんですよ。じゃあもうすごいのが来るだろうと思って待っていたら……仕上がった映像がもう別物になっていて。画角から演出から、まったく違うものでした。

多田 
そうです。あのティザー用に作ったシーンがいっぱいあるんですよ。

岩本 
社内でも事前に「ここは直さないと」とみんなで話していたんです。だから信じて「治ります!」と言っていました。

多田 
だから、月並みかとは思うのですが1章第1話の冒頭シーンは印象に残っていますね。プレイヤーの心をどう掴めるかもすごく考えていましたし。

岩本 
ツカミは意識していましたよね。

小美野 
咲季と佑芽は主人公とライバルのポジションをひっくり返したというのもあったので、最初に佑芽から入る構想は割と初期からずっとありましたね。

――「お断りします」の選択肢はまだずっと印象に残っています。では小美野さんにも改めて好きなシーンをお伺いしてもよろしいですか?

小美野 
咲季が手毬を引き込むシーン、そして手毬が折れた咲季を説得するシーンですね。前者が印象に残っていたので、後者では「手毬が自分に言われたことをそのまま突き返してほしい」ってお願いしたんですよね。なので思い入れという意味ではこのシーンですかね。

――あれは本当に、熱くて素晴らしいシーンでした。改めて制作時の貴重なお話ありがとうございました。
[IMAGE]

Re;IRISとBegrazia。それぞれが描く“関係性”とは

──Re;IRIS、Begraziaにフォーカスしたお話も伺いたいです。まず、ライバルユニット同士の対決というのは、最初からあったテーマなんですか?

小美野 
初星コミュをユニットで展開することは決めていたんですけど、物語としては星南に立ちはだかってほしかったんです。では、どうやって関わらせるかを考えた結果、ユニットで戦うのがいいんじゃないかと。そのあたりはすったもんだ話した記憶がありますね。とりあえず、アイドルの設定を作った最初期の段階から、ユニットどうしで戦わせる構想があったわけではないです。

──それぞれのユニットにコンセプトなどはあったりしたのでしょうか。

小美野 
それこそ最初期に決めた設定の中にある関係性そのものでしょうか。Re;IRISで言うと、あの3人は「仲よくしてほしくない」とオーダーをしたんですよ。仲よくいっしょにではなく、“強敵”と書いて“とも”と読むみたいな。お互いを高め合う、ライバルであり仲間でもあるような、そんな関係性です。

──なるほど、すごくしっくりきました。ではBegraziaはいかがでしょう。

小美野 
Begraziaは…… けっこう難しくて、こちらはコンセプトというより変遷を意識した感じでしょうか。星南と、彼女が引き連れる仲間。星南が中心の関係性から、ちゃんと3人が対等な形になっていくというような。そういうフェーズや段階を意識した形ですね。

──どちらもコンセプトがあったわけではなく、関係性をそのまま落とし込んだと。

小美野 
そうですね。今後もし『学マス』でユニットを作るとしても、コンセプトありきのユニットにはしないと思います。

──ああ、「この子とこの子なら絶対にここで軋轢が生まれるよね」というような。

小美野 
「その関係がおもしろいじゃん」とう感じですね。個を大事にしてきた『学マス』だからこそ、そういうのは無視してはいけない。アイドルの関係性が、ユニットを作っていくことが大事だと思っています。

──初星コミュでは『学マス』初のユニット曲も披露されましたが、これはいつごろから準備されていたんでしょう。

岩本 
一応初期の段階から、ライブシーンは3人で動けることを想定して作っていました。

小美野 
初星コミュがユニットで展開していく以上、いつかはやると決めていたんです。とはいえ、実際に実現するまでにはいろいろとありましたが。

──フォーメーションダンスなどは、ソロにはない要素ですし、制作はたいへんだったのではないですか?

岩本 
むしろそこはお家芸と言いますか。もともと弊社が制作していたほかの作品ではフォーメーションのライブを作ることが多かったので、ちゃんとノウハウがありました。とはいえ今回は個を重視するタイトルなので、ユニットでのステージでありながら個性が活きるようなカメラワークや動きなどを意識して作っています。

小美野 
こちらからもややこしいことをいっぱい言いましたよね。

山本 
『雨上がりのアイリス』だと、「このユニット曲はこの歌い分けで、この子とこの子の関係を表現していて」、「ここはダンスを見せたいからことねを軸にしよう」など、歌い分を設計するときにそういうことを決めていて「……で、そんな構成のライブを作ってください」とお願いした覚えがあります(笑)。

岩本 
そうでしたね(笑)。

山本 
本当にお伝えした通りで驚きました。

岩本 
基本的には歌から汲み取って作るんですけど、今回は関係性やシナリオの要件が多かったですね。それらを叶える形を目指して作っていきました。
[IMAGE]
小美野 
シナリオ要件で言うと、先に『Star-mine』の楽曲ができていたので、確認しながら「これにどうやって勝つのか?」というのは相談させていただきましたね。それこそさっき山本が説明したような、なぜRe;IRISがこの曲に立ち向かえるのかという理由付けが必要だと。『雨上がりのアイリス』はすごくいい曲なんですが、ただ踊るだけじゃなく、彼女たちがどう成長をしたうえで踊っているのか……この3人だからこそできる『雨上がりのアイリス』を作ろうとしたんです。

岩本 
『Star-mine』もシナリオに沿った曲にしましたよね。1番と2番での違いとか。

小美野 
さっき話した変遷とかフェーズの話ですね。星南がふたりを引き連れているときと、3人がマリアージュしてひとつのユニットになるときを表現してもらいました。

――なるほど。曲自体を発注した際も、ライブシーンのようにシナリオ要件を入れたりしたんですか?

小美野 
『Star-mine』はかなり先に発注させていただいていたんですが、そのときには「とにかく強い曲を!」という感じでお願いしていました。じんさんにも「星南が中心になって……」というお話を軽くはしていたので、星空とかそういうものをイメージしていただきながら作っていただいたんじゃないかと思います。
[IMAGE]
――『Star-mine』を先に作ったうえで『雨上がりのアイリス』を作ったのは意図的にそういう順番にしたのでしょうか? 倒すべき相手を先に定めてというか。
小美野 
いや、厳密に言えばRe;IRISの曲をどうするかは決まっていなかったんですよ。Begraziaのイメージでどんな曲を作りたいかは先に決まっていたんですが、Re;IRISは難航して。最終的に、この曲と真正面から打ち合えるのは神前暁さんとこだまさおりさんしかいないだろうということで、おふたりにお願いしました。

――『Star-mine』は「とにかく強く」というお話がありましたが、『雨上がりのアイリス』はどういう感じで発注したのでしょうか。

山本 
テーマとしては“王道感”とか、あるいは“みんなを巻き込んで盛り上がれる”とか。既存の楽曲で言うなら『READY!!』とかと佐藤くんは言っていましたね。『アイマス』の集大成で出てるような、盛り上がれるけど泣ける曲というか。「ストーリーの最終盤で、彼女たちじゃないと歌えないような曲を作りましょう」と言って作った覚えがあります。

小美野 
Re;IRISの3人のソロ曲は、いわゆる『アイマス』的なところから外している曲だったりするので、この場面では『アイマス』を背負って歌う曲にしたいというのを話していましたね。

――劇中に“Re;IRISは曲によってセンターを変える”という話があったと思うのですが、この曲のセンターは咲季なのでしょうか。

小美野 
そうですね。咲季が中心にいて、手毬とことねがそれぞれの長所を活かしていくって形にしたかったので、センターには咲季が入る曲になっています。そもそも、初星コミュ自体も咲季を中心とした話なんです。もちろんユニットがテーマではあるんですけど、主人公は誰かと言えば咲季になる。だからこそ彼女を中心とした『雨上がりのアイリス』でBegraziaに勝って、彼女が一番星に選ばれるという展開になっています。

――……盛大なネタバレを食らった気がします(※インタビューは4月上旬に実施)が、同時にその姿がとても楽しみになりました。あと『Star-mine』も『雨上がりのアイリス』も、歌いわけにこだわりがあると聞いていますが、こちらも詳しく伺ってもよろしいでしょうか。

小美野 
それもさっき言ったシナリオ要件を盛り込んだ部分ですね。この3人が紙一重でもBegraziaに勝つには、完璧で最強のハーモニーが必要なんです。仲間であり、ライバルでもある、彼女たちらしい関係性を打ち出すような。Begraziaの3人がマリアージュしていくのに対して、この3人は個を活かして、長所を伸ばして短所を補っていく。そういうものを描ける歌割りにしようと。かなりシナリオの要素も取り込んだよね。

山本 
そうですね。それこそ4章を作っているのとほぼ併行でやっていましたし。曲が上がってきたときも、佐藤貴文さんにも入っていただきながら歌割りを話し合いましたよね。

小美野 
あのとき3、4時間ぐらい話したよね。

山本 
長かったですね……。「ここはハーモニーが綺麗に見せられるから手毬が軸で」、「ここは咲季が接着剤として入る形にしよう」とか、もうひとつひとつを設計しながら決めていきました。

小美野 
『Star-mine』にも言えることですが歌い分けは、『学マス』全体としてこだわっている部分なので。『初』も『Campus mode!!』もそうですね。

――確かに、そのこだわりはどの楽曲を聞いていても伝わってきます。ちなみに今後も、そういったユニット曲の展開はあるのでしょうか。

山本 
現段階で確定するようなことはなにも言えませんが、やっていくことは間違いないと思います。とはいえ『学マス』を見せる方法のひとつとしてやっていくべきだとは思いますので、ユニット展開がメインになるようなことはないでしょうね。

──ユニット曲があるとなると、初星コミュのような形式で物語を作ることも……?

山本 
いや、僕の答えとしては“ない”ですね。QualiArtsさんとしてはどうでしょう。

岩本 
いやー、展開次第ですね。やりたいストーリーがあるなら検討しましょう(笑)。

山本 
先ほど小美野さんからもありましたが、初星コミュは3年以上前から作っていただいたシナリオなんですよ。それをずっとがんばって仕上げていって、いまようやく最終章というスケジュールなわけでして。なので、仮にいまからすぐに作るしても、つぎに出せるのは早くても3年後かもしれないという(笑)。

──オリンピックみたいな話ですね。

山本 
このインタビューがとっくのとうに忘れ去られたころに、もしかしたらポロっと出てきたりするかもしれないです。

──なるほど。またこうして取り扱える日を楽しみに待っておきます(笑)。

小美野 
あ、ただですね。完結を契機に、初星コミュをまとめなおしたいとは思っていて。

──もう少し具体的にお話いただけますか?

小美野 
それこそ「アニメを作りたいです」とお願いして作ってきたので、できれば放送できるような形に再編集するようなことができればと思っています。いまそういうことを、軽くですが相談し始めている段階です。

岩本 
アニメとして見ても違和感がないようなものにするために、いまの制限の中でやれることがないか、研究している最中になります。

──いちプロデューサーとしてもすごく楽しみになる情報、ありがとうございます。続報を心待ちにしています!

2年目はより“深く”、ひとりひとりにフォーカスする体験を

──少し先の話もしていただきましたが、改めてこの先に待つ、2年目のテーマなどをお伺いできれば。

山本 
2年目は、これまでやってきたことをより深めていくような方向性になるかと思っています。1年目はアイドルについて知ってもらった後、季節曲の展開だったり、N.I.A編で他校の生徒が登場したりと、いろいろな要素を増やしていきました。

──確かに、つぎつぎと新たな要素が展開されていった記憶があります。

山本 
それに対してつぎの親愛度コミュ、STEP3では、改めてまたひとりひとりのアイドルについてフォーカスしていくものになる予定です。リリースに関しても全アイドル同時にではなく、月にひとりずつ出していって、ストーリーに合う楽曲も制作する予定です。そうやっていままでの20話の中で作った絆をよりいっそう深めていただけるような、アイドルたちのことをもっと好きになっていただける発信ができればと思っています。

岩本 
1年目はかなり人が入ってきてくださったので、いろいろな方に遊んでもらえたと思っています。2年目からはそういう方々がもう少し安定して遊べるような仕組みや、先ほど話してもらったようなものを展開できればと思っていますので、楽しみにしていてください。

──これからの『学マス』がより楽しみになりました。最後に読者の方々へ向けてメッセージをお願いいたします。

小美野 
1年間本当にがむしゃらになって走り抜けてきましたが、先ほど山本がお伝えした通り、この先も歩みを止めることなく進んでいこうと思っています。キャストさんだったり、いっしょにやっているスタッフだったり、QualiArtsさんだったり、そういう皆で『学マス』のテーマでもある“成長”をしていきながら、がんばっていきたいと思います。これからもぜひ、アイドルたちのプロデュースをお願いいたします。

山本 
このインタビューでいろいろな昔話をしましたが、これだけたくさんのことをして、そのすべてに大きな反響をいただけて、そして多くの方に遊んでいただいて……改めてすごい1年だったなと思います。これに留まらず、まずは1周年と1stライブと、そして、その先の2年目の運営も含めて、これからも楽しんでいただければと思います。引き続きプロデュースのほど、よろしくお願いいたします。

多田 
最初に小美野さんから「人を描きたい」と言われて、僕もずっとそういうことを考えて作ってきました。『学マス』は“この子”だから“こう”であるというのが、たくさん詰まっている作品だと思っているので、2年目はよりそういう部分にフォーカスして、1年目より深く、本作のアイドルたちを好きになっていただけるような体験を届けられればと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。

岩本 
1年間を思い出しながら話していて、いろいろなことがありましたし、いろいろな方に遊んでいただいたなと、改めて感じていました。2年目に限らず、今後も遊んでいただいている方々へより快適に、より新しい体験を提供できるようにがんばっていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

週刊ファミ通2025年5月22日号では『学マス』1周年記念特集を掲載

 週刊ファミ通2025年5月22日号(NO.1897/2025年5月8日発売)では、『学園アイドルマスター』1周年を記念した特集記事を掲載。ファミ通.comで募集したアンケートの結果発表なども行っているので、こちらもチェックしてほしい。
■週刊ファミ通(紙版)のご購入はこちら

■電子版のご購入はこちら

『学マス』関連記事

この記事を共有

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります