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『Cairn』過去に類を見ないロッククライミングゲームを作るため、開発チーム全員でモンブラン登山。5年の歳月をかけたゲーム制作という長い山登りへの想いを訊く【gamescom 2025】

byロマンシング★嵯峨

更新
『Cairn』過去に類を見ないロッククライミングゲームを作るため、開発チーム全員でモンブラン登山。5年の歳月をかけたゲーム制作という長い山登りへの想いを訊く【gamescom 2025】
 2025年8月20日~24日の期間、ドイツ・ケルンで開催されているヨーロッパ最大級のゲームイベント“gamescom2025”。同イベントにて、フランス・モンペリエに拠点を置くゲームスタジオ“The Game Bakers”のPS5/Steam用新作ゲーム『Cairn』(ケルン)について、インタビューする機会を得た。

 『Cairn』は、険しい山“カミ”の登頂を目指すサバイバルクライミングゲーム。山の様子を観察し、登れそうな岩肌を探して、手足を地道に動かしながら頂上を目指すという、ストイックなゲームだ。登っているあいだの緊張感はすさまじいが、ひとつの山場を超えたときの達成感は、音楽ともあいまって格別。山登りの緊張感と達成感、自由、厳しさなどが表現されているゲームだ。本作は2025年11月5日に発売予定だが、6月にデモ版が配信されており、デモ版は50万ダウンロードを突破しているという。
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 今回、インタビューに答えてくれたのは、The Game Bakersのクリエイティブディレクター、エメリック・ソア氏。“アルピニズム”をテーマにした作品を作った理由や、開発における困難、日本のマンガやゲームから受けた影響などについてお話をうかがった。

エメリック・ソア

The Game Bakers クリエイティブディレクター

――初めに、皆さんがアルピニズムをテーマにしたゲームを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

エメリック
 理由はいくつかあります。ひとつは、私自身はアルピニストではないのですが、アルピニズムというものには魅了されていました。命をとして、痛みに耐えて山を登っていくというそのさまが、インスパイアリングだとつねに思っていたんです。ふたつ目の理由となったのは、谷口ジローさんの『神々の山嶺』です。

――『神々の山嶺』は、日本でも非常に有名な作品です。

エメリック
 このマンガを読んで、とてもインスパイアされました。『神々の山嶺』は、フランス人の監督によってアニメーションが制作されたりもしているんですよ。それから、オードリー(The Game Bakersの共同創業者であるオードリー・ルプランス氏)の父がアルピニストであるということも理由です。彼は非常に大きな遠征に行くほどのアルピニストで、遠征で同行メンバーを亡くしたこともあります。それだけ、オードリーと家族にとって、登山というのは大きな存在なのです。

――オードリーさんにとって、登山がそれだけ身近な存在だったことも大きいのですね。

エメリック
 また、登山のゲームをデザインするというのは、非常に新しくおもしろいものなので、挑戦したいという思いもありました。そういった理由から、『Cairn』を作ることを決めたんです。

――広大な山をゲームで再現するのは難しいと思うのですが、登山というものを、どのように研究していったのですか?

エメリック
 まず、2種類のリサーチを行いました。ひとつは、キャラクターの動き。もうひとつが、山についてのリサーチです。私たちはプロトタイプを作るのに3年を費やしました。このゲームに登場する岩は、すべてデザイナーが手作業で作っています。生成AIで作ったものではないんです。リアルな山のように感じられるということが重要ですし、難易度を調整する観点からも、どこでも登れるようにするわけにはいかないので、そのバランスを細かく調整しました。
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――開発スタッフの皆さんで、実際に山に行く事もあったのですか?

エメリック
 プロジェクトのスタート時に、チーム全員で山登りに行きました。アルプスの非常に有名な場所であるシャモニーに行き、モンブランに登ったんです。ガイドの方にもリサーチにご協力いただき、多くのことを学びました。いまではスタッフの多くが山登りを愛するようになり、チームの半数は、もう毎週山登りに行くほどです。
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The Game Bakerのプレスキットサイトには、チームメンバーがシャモニーに行った際の写真が掲載されている。
――それはすごいですね!

エメリック
 その過程で、フランスの著名な登山家であるエリザベート・レボルさんにも出会いました。彼女はヒマラヤにも登ったことがある方で、パートナーを山で亡くしてもいます。彼女に、どうしていまも山に登るのかということを伺ったりもしました。

――そうして研究したものを、ゲームで再現するうえで苦労したこと、こだわったことは?

エメリック
 山を登る際の動きのシステムですね。岩の隙間に手をかけて登っていく仕組みであったり、状況がきびしいときに手足がプルプルと震える際のアニメーションだったり。過去に、このような登山のゲームは存在していないので、参考資料がなく、新たに生み出していくことに非常に時間がかかりました。

――グラフィックに関しては、日本のマンガ的な表現が取り入れられているように思いますが、なぜこのような表現にしたのですか?

エメリック
 グラフィックに関しては、フランスのコミックアーティストであるマチュー・バブレが担当しています。彼のアートのスタイルは、日本のマンガとフランスのマンガの中間くらいのものだと思います。フランスにはマンガやアニメのファンが多く、世界において2番目にマンガを読む国だと言われているんです。だから、マンガ・アニメを見ながら大人になった世代は、みんな日本の作品に影響されていると思います。

――『Cairn』のアートを、マチューさんにお願いした理由は?

エメリック
 理由はたくさんあります。非常にアイコニックで強いアートスタイルを持っていること、印象的な広大な風景を描けるということ、フランス人どうしでコミュニケーションが取りやすいこと、お仕事のクオリティーが高いこと、そして、彼自身がアルプスに住む登山家であること。すべてのチェックリストが満たされて、彼にお願いすることになりました。それから、私たちは『Cairn』を時代を超えて残るタイプのゲームにしたかったんです。それであれば、フォトリアルではないほうが、長く残っていくのではないかと思いました。

――先ほど、フランスの方は多くが日本のアニメ・マンガに影響を受けているというお話がありましたが、日本からの影響についてもう少しお聞かせください。以前、オードリーさんがVilla Albertineというアーティスト支援のプログラムのインタビューにて、「日本的なものにヒントを得ている」といったことを語っていました。具体的には、どんな日本のエッセンスが取り入れられているのでしょうか。

エメリック
 そうですね、たとえば『Cairn』の回復アイテムは“ペンキラ”というのですが、これは“painkiller”をカタカナ読みにしたようなアイテム名です。でも、そのことがわかるのはおそらく日本の方だけですね。そういった細かい要素がいくつか入っていますが、いちばん大きいのは、日本のゲームデザインの哲学です。

――それは具体的にどのようなものでしょうか。

エメリック
 西洋のゲームデザインは、すべてをリアルにしてしまおうとする傾向があります。でも、たとえば任天堂のゲームや、小島秀夫さんのゲームは、“ゲームにとっておもしろいことを発明する”ということが行われています。たとえば『メタルギア ソリッド』にあるような、バルーンで人を吊り上げて飛ばすなんていうことは、アメリカやフランスのゲームクリエイターはなかなか思いつかないんですね。すごくリアルにこだわってしまうから。その、ふつうに想像できる範囲を超えて、ゲームが楽しくなるためのおもしろいことを発明していくというゲームデザインの哲学に、すごく影響を受けています。以前、私たちが作ったゲームに『Furi』というものがありますが、これはカタカナ読みをすると“フリ”です。このタイトルにはフリーダム、自由に通じるような意味を込めていて、そしてまた『Cairn』も、自由がテーマになっています。

――『Cairn』の主人公アーヴァが、厳しい環境の中を自由に進むさまと、皆さんがインディーゲームを作るさまには、重なるところがあるのではないかと思います。皆さんの生きざまを、アーヴァに反映していたりするのでしょうか。

エメリック
 そうですね。前のゲームを作っていたとき、私はひとつの絵を描きました。人が山を登っていて、もう少しで頂上に近づくのですが、でもその山の後ろにはさらに大きな山があって、その背後にはさらにさらに大きな山があるという。ゲームを作るということは、その大きな山登りのようなもので、長い時間がかかります。このゲームにも5年の歳月を費やしていますが、そのぶん、登頂したときの喜びも格別です。ですので、彼女の達成感には、非常に近い、自分に通じるものを感じます。どのアーティストも、同じような思いを抱くのではないでしょうか。それがアルピニズムのゲームを作りたいと思った理由でもあります。山を登るということは、アートを作ることに非常に似ている。痛みを乗り越えて、最後に自由を、解放を味わうというそのプロセスは、自分自身に通じるものを感じます。
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なお、gamescom 2025に合わせ、“フリーソロ”モードが公開された。ロープやピトン(ハーケン)は一切使用できず、落ちたら終わりという超ハードモード。アーヴァが背負うリュックのサイズも通常より小さい。
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こちらが通常サイズのリュック。いかにフリーソロモードが過酷かがわかるだろう。
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筆者はフリーソロモードを体験させてもらったが、残念ながら登り切ることはかなわず……。しかし開発スタッフの中には、フリーソロで3時間でクリアーする猛者もいるとか。なお、本作のゲームプレイは、初見では15時間程度だとエメリック氏。
――皆さんにとっての頂上であるゲーム発売が11月に迫っていますが、開発状況はいかがでしょうか。

エメリック
 終盤に近づいています。いまはデバッグや、ゲームを磨くための調整をしているところです。私は20年ゲームを作っていますが、『Cairn』はいちばん仕上げが難しいゲームです。ユニークでオリジナルな技術を使っていますから、バグをどうすれば解決できるのか、それを解決しても別のバグが出るんじゃないかとか、そういったことがなかなか見えない状態で作ってきたので、非常に困難がありましたが、完成はまもなくだという感覚はあります。

――11月の発売が楽しみです。

エメリック
 最後に申し上げたいのは、私たちが『Cairn』の仕上がりに非常に誇りを持っているということです。とてもユニークでオリジナルなゲームができあがっているという自負があります。ゲームの進行に必須ではない要素やシーンもありますが、そういったところにチームメンバーの魂、芸術性が反映されていると感じますので、ぜひ見ていただきたいです。
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アーヴァが登る山の名前は“kami(カミ)”という。この山の名前は、日本語の“神”に由来するものでもあり、エベレストの著名な山岳ガイドであるカミ・リタ・シェルパからも来ているという。ちなみにこちらはノベルティとしていただいたポストカード。
[2025年8月24日20時29分修正] 一部リンクを修正いたしました。
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      集計期間: 2025年08月25日11時〜2025年08月25日12時