このふたりがタッグを組んだ王道のファンタジーRPG、それが『FANTASIAN Neo Dimension』だ。プロデューサーを務めた坂口氏のロングインタビューでは、本作の開発秘話を語っていただいた。
中村拓人(なかむら・たくと)
『FANTASIAN』、『FANTASIAN Neo Dimension』ディレクター。ジオラマによるフィールド作りから、ボス戦をメインとしたバトルシステムの構築など、メインプログラマーとしても大きな役割を果たす。『ブルードラゴン』、『ラストストーリー』、『テラバトル』など、坂口博信作品に多数参加している。
さらに、当初はそこまで手を加える予定はなかったのですが、吉田さん(吉田直樹氏。スクウェア・エニックス 取締役/執行役員/クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド)はもちろん、スクウェア・エニックスさんと打ち合わせをしていく中で、いくつか要素を追加したいという話になりました。単なる移植と思っていたところもあって、「これはなかなかたいへんになりそうだぞ」と思いましたね(笑)。
――その追加要素の中には、本作の目玉のひとつであるボイス対応も含まれていたかと思います。そもそもボイスはなかったゲームですから、苦労もあったのではないでしょうか。
「はっ」、「わっ」みたいなセリフも、ひとりのキャラクターが発している場合もあれば、複数のキャラクターがしゃべっている場合もありますよね。そのあたりを明確にしていなかったので、すべてのセリフを誰が発しているのか、逐一チェックする必要が出てきました。
それが、声優陣の皆さんの台本ができてから発覚したこともあり……。ですので、セリフの収録を進めながら細かく修正を加えていきました。
――つまり、ボイスの収録には中村さんも参加されていたんですね。
――驚いたことを示す「はっ!」というセリフがあったとして、それを誰が言っているのかを確認して……。
――となると、セリフをその場で区別しながら収録するのはたいへんそうです。後でミスに気づいても、対応が難しいというか……。
また、セリフ自体もオリジナル版から変更している部分があります。収録している最中に感じたのですが、テキストの文字を読むだけならば違和感がなくとも、ボイスになると違和感が生まれるセリフもあるな、と。そこも直していきました。
――中村さんのクリエイター人生で、そういった体験は初めてのことだったのでしょうか?
イメージに合わないようなことはほぼなかったので、収録はスムーズに進みました。むしろ、テキストをその場で直さないといけないときにお待たせするのが申し訳なくて。なかなかない機会だったので楽しかったのですが、もしつぎがあるのならば、ボイスが入る前提で最初からテキストを作るべきだと思いました(笑)。
――実際、ボイスが入ったことによってゲームの印象が変わりました。
そもそもオリジナル版の『FANTASIAN』が、iOSのスマートフォンでのプレイを中心としたタイトルだったので、スペックが低い端末でも動かせるように調整していました。なので、各ハードのスペックに合わせることでも問題はありませんでした。
ただ、ロード時間についてはとても注力しました。プレイするハードによってロード時間にどうしても差が出てしまうのですが、どのハードでもなるべく早くロードができるように、それぞれのハードごとに調節しています。結果、改善はできたと思っています。
――オリジナル版の開発時から「家庭用ゲーム機でも展開したい」と考えていたとおっしゃっていましたが、その時点から何か見据えて用意していた部分もあるのでしょうか?
フィールドをジオラマで作成していることは、本作の大きな特徴のひとつです。当時はデータを圧縮して低い解像度で表現するという選択もありましたが、ジオラマを少しでもキレイなグラフィックで見ていただきたいという思いもあって、高めの解像度を保持していました。これが結果としてよかったですね。
『#FANTASIAN Neo Dimension』のジオラマの制作現場をご紹介!
— FANTASIAN Neo Dimension(ファンタジアン ネオディメンジョン) (@Fantasian_JP) November 29, 2024
このジオラマでできたフィールドを、ゲーム内で駆けめぐることができます!
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いずれのハードもそうなのですが、モニターの大きな画面でプレイすることを考えて、画面のカラーバランスを細かく調整しています。これは坂口さんからのオーダーで、ちょっとした違いかもしれませんが、よりクッキリとした画面になりつつも『FANTASIAN』らしさを損なわないように調整しています。
――各プラットフォームへの最適化は、どのように進めていったのでしょうか。
そこで、今回はさらに細かく手を入れています。また、コントローラーの余っているボタンにショートカットキーを割り当てられるようにするなど、遊びやすさも拡充しました。なお、PC版は当初、コントローラー対応のみでしたが、やはりキーボードとマウスでの操作もほしいということで、そちらでも遊びやすくなるよう対応しています。
――移動速度が少しだけ速くなっていますよね。
でも、スティック操作の場合は人それぞれの動きになるので、ちょっと横にずれたり、最短ではないコースを走ったりする場合があります。そこで移動速度を少し速くしたのですが、それだけでもスティック操作での移動にストレスがなくなりました。
小回りが利くようになったこともあり、キビキビと思うがままにレオアたちを動かせます。ここは探索も魅力のひとつである本作にとって重要なポイントでした。
ですから、今回は難易度が“ノーマル”の場合、攻略方法を多少知らなくても敵を倒せると感じてもらえる方向性でバランスを調整しました。
――具体的にはどのような調整を加えたのでしょうか?
今回の“ノーマル”では、戦闘中にもし崩れてしまったとしても立て直せるようにしつつ、戦闘を続けていく中で攻略方法を見出していけるようなバランスを目指しました。ゲームオーバーになってはまた再チャレンジ……というものではなく、バトルの最中に試行錯誤ができるイメージです。
また、体力も調整しています。攻略方法がわからずとも、なんとかギリギリで倒し切れるかも、くらいの体力になっていると思います。とはいえ、ただ単に攻撃を重ねていけば攻略できるようなものにはなっていません。ある程度の歯応えは残しつつ、遊びやすくなっているかと。
――「さすがにコイツの強さは変えないほうがいいだろう」と思ったボスもいるのでしょうか。
坂口さんもオリジナル版のときに「少し難しくしすぎたかも」と言っていましたが、僕たちもそこは気になっていて。やはりゲームを作っているときは開発側がプレイに慣れてしまって、難度が高くなることがあるんですね。
今回は開発までに時間が空いたこともあり、改めて見つめ直すことでオリジナル版の難度がどのように受け入れられたのかを知れたんです。
それに、坂口さんは本当にゲームを何度も遊んでくれます。坂口さんは開発者としての視点と、プレイヤーとしての視点を併せ持っているので、そこから生まれる意見は、僕たちプログラマーがすぐにゲームに反映します。
そして、つぎの日に修正版を坂口さんに渡して、また意見をもらって……。この流れはオリジナル版の開発時と同じで、本作も日々を重ねてバランスを調整していきました。
――ディレクターとプログラマーの兼業はたいへんですよね。
オリジナル版の開発時期に、本作にとってよさそうな新技術に巡り会えることが多かったという、運のよさもあると思います。ときどき悩むこともありましたが、突破口さえ見つかればかなり速いスピードで開発を進められました。
――吉田直樹さんも、本作での中村さんの開発のスピードを賞賛されていました。
また、制作がスムーズに進んだのは、僕だけの力ではありません。『FANTASIAN』ではディレクターになったこともあり、僕がこれまでの仕事を通して優秀と思った方々に、片っ端から声を掛けてチームをつくり上げました。
開発スタッフそれぞれが、プロジェクトでチームリーダーを務めたことがあるような、第一線で活躍しているの力量を持っています。そんな少数精鋭で挑めたからこそのスピード感もあると思います。
僕はディレクターと言っていますが、じつはディレクション的なことにそこまで注力しなくとも、お任せできるスタッフに恵まれました。なので、プログラムにより注力できたという面もあります。
――『FANTASIAN』ではさまざまな要素が中村さんの発想で実現した、とうかがいました。本作の目玉であるジオラマのフィールドをゲーム内に表現する方法もそうなんですよね?
実際にフィールドを作り始めたとき、これならフィールドがジオラマであるという魅力をより表現できると思いましたね。
当時、ジオラマ会社さんから「さらに大きいスケールにしたほうがよりゲームの背景らしくなりますよ」という提案を受けたこともありましたが、そこはあえて小さいサイズで作っていただくことにしました。
ジオラマ職人の皆さんの職人芸は本当にすごくて、まるで本物のように見えるジオラマを制作していただけるのですが、本物みたいに見えるジオラマは本作が目指すところとは違ったんです。
むしろ、ジオラマであることがわかる風景こそ目指していた部分です。ですから、あえて小さいサイズで作っていただいて少し粗さを際立たせることで、アナログの模型が持つ味を強調しました。
その調整は本当に難しく、開発の最後まで試行錯誤していただきました。最終的にものすごい細部まで作り込んでいただけたので、ジオラマ職人の皆さんには感謝しています。
テキストを読むだけでは流してしまいがちだったサブクエストなども、かなり個性が強くなったと思うので、オリジナル版を遊んだ人にも新鮮な気持ちで楽しんでいただけるはずです。
――戦闘の楽しさはオリジナル版と同様になっていますが、初めて『FANTASIAN』に触れるプレイヤーに向けて、バトルのコツを教えていただけますか?
仲間が増えたらメンバーの攻撃順を入れ換える“チェンジ”も重要となります。キャラクターそれぞれに個性があるので、最適な運用方法も異なります。
ゲージを溜めると発動できる“テンション技”(専用ゲージを消費して使用できる強力な技)も、それぞれ性能は異なりますが、どこで使えばいいのかを考えながら戦えば、重要な場面で活躍してくれると思います。
単なる攻撃技として火力を出すのもいいですが、とくにピンチになってしまった場合、立て直す手段としてテンション技を使うよう意識すると扱いやすくなるでしょう。
とはいえ、自由な冒険も本作の魅力です。推奨レベルに合わせて攻略するのがおすすめですが 、もし勝てないのであれば、別のルートや場所を探してみるのもいいでしょう。
――わかりました。また、コラボコンテンツとしてバトルのBGMを『ファイナルファンタジー』シリーズの楽曲に変更できるようになっていますね。
『 #FANTASIAN Neo Dimension』発売おめでとうございます🎉
— FFVII REMAKE (@FFVIIR_CLOUD) December 5, 2024
ゲーム内でバトルのBGMを #ファイナルファンタジー シリーズとのコラボレーションBGMに変更することが可能!
『 #FF7リバース 』の楽曲にも変更可能です♪ https://t.co/1wS7NGdoOF
植松さん(植松伸夫氏。作曲家として『ファイナルファンタジー』シリーズの楽曲など、多数のゲーム音楽を担当。本作の音楽はすべて植松氏が手掛けている)によるオリジナルの楽曲もすばらしいのですが、気分を変えて遊びたくなったら試してください。ランダム再生にも対応していますし、何よりすごく雰囲気が変わりますので。
今日は「FANTASIAN Neo Dimension」の発売日です。
— 植松伸夫 (Nobuo Uematsu) -con TIKI- (@UematsuNobuo) December 5, 2024
ゲームの音楽を最初から最後まで1人で担当させていただくのはこれが最後の作品となりました。
やれるだけのことはやりました。
全部出し切った感じ。
悔いはありません。
さて今夜は打ち上げだ!#FANTASIAN #FANTASIAN_ND #ファンタジアン… pic.twitter.com/bWS2LvS028
それらのアイデアがありつつも、どのようにゲームを作るかは、我々開発チームに任せてくれました。アイデアを落とし込む方法をチーム全員で話し合って決めていくという、昔ながらの作りかたと言いますか、チーム全員が初めてゲームを制作するような感覚で開発しました。
当初はもっとシリアスなゲームになる予定だったのですが、坂口さんの「もっと楽しいゲームにしよう」という思いと、僕らの「もっとおもしろいことを詰め込もう」という思いが合わさって、不思議とあたたかみのある作風に仕上がりました。
結果、坂口さんのアイデアから生まれたシステム、あたたかみのある世界観などをゲームとしてまとめたものが、『FANTASIAN』となりました。僕としても坂口さん、そしてミストウォーカーの代表作のひとつにしたいと思って取り組んでいましたし、実際にとても楽しいRPGができたと自負していますので、ぜひ『FANTASIAN Neo Dimension』をよろしくお願いいたします。
ちなみに『FANTASIAN Neo Dimension』では、ある条件を満たすことで現れる未発表の隠し要素があります。 ぜひ探し出してみてください(笑)。