本記事では、本作のレビューをお届けしよう。
『ペルソナ』とは違う、“アトラスらしい”RPG
けれど、主人公たちと旅をともにし、その行く末を見守ったあとに感じたことはそれとは非なるもの。
少年少女たちの成長物語? 否。
数多くの選択肢から正解となる戦術を見出し、ぶつけていく思考力が問われるバトル? 半分は否。
きっちりとスケジュールを管理した先にようやく完全制覇の道筋が生まれる、奥深いやり込み要素? ほぼ否。
“『ペルソナ』っぽい”のではなく、緻密に練り込まれた世界観とストーリー展開、そしてわかりやすく誰でも楽しめるシステム、という“JRPG”の原点によりフォーカスした内容になっているのだ。そしてこの“JRPGらしさ”はすなわち、“アトラスのRPGらしさ”とも言い換えられる。本作は“アトラス35周年記念作品”という、その肩書きにふさわしいゲームなのである。
ここからは、その“アトラスのRPGらしさ”について触れていこう。
ファンタジーだからこそ容赦なく描かれるダークなストーリー
そもそもファンタジーというジャンルが、“発展する中で忘れられていく、古き時代のよさ”だとか“他人への不寛容”といった空気感から生まれたものだと言われているが、まさにそういった要素がふんだんに盛り込まれた内容になっているのだ。
たとえばユークロニア連合王国の社会構造。人数が少ない、経済力が弱い、見た目が違う、宗教を異とする……など、社会的弱者が虐げられる構図ができ上がっている。それにともなう悲しい出来事を、プレイヤーはいくつも目にすることになる。
またドロドロとした権力争いや、その裏で起こっていたさまざまな悲劇なども容赦なくストーリーに盛り込まれている。
ただそれは現代社会にも通じるテーマでもあり、ストーリーを読み進めていって近年の社会問題との共通点を考えさせられることも多い。その点は“アトラスのRPGらしさ”でもあると言えよう。
一方で、これまでになかった世界観ということは、現代劇ではおなじみのギミックが通用しないということでもある。そのため、先の展開が読みにくくなっており、緊張感、期待感を高める効果を生んでいる。これもファンタジー世界を採用したメリットのひとつだろう。
より遊びやすくなったバトル
敵シンボルも1体だけではなく、複数体を同時に相手にするような状況もあり、アクションの爽快感と、瞬時に判断を求められるスリルがプレイヤーの脳を刺激してくれる。
またコマンドバトルは、プレイヤー側の選択肢が“あえて”絞られている印象。『真・女神転生』シリーズにおける仲魔、『ペルソナ』シリーズにおけるペルソナにあたる“アーキタイプ”は、それらのシリーズと比べると種類が少なく、そのこともあって使用可能なスキルも多くない。
選択肢が少なければ悩まずに済むため、自然とテンポも上がる。加えてダンジョン内に出現する敵の種類もそれほど多くなく、敵の傾向に合わせていちいち装備やアーキタイプを変更する必要がない(正確に言うと、変更しなくても十分に戦える)ので、いちいち立ち止まって考えなくてもいい。
もちろん、随所で待ち受ける強敵との戦いでは、アトラスのRPGらしい緻密な戦術が求められることになる。メインテーマは物理攻撃(斬、突、壊)と魔法攻撃(炎、氷、風、雷、光、闇)の各属性の相性を考慮し、敵の弱点をいかにして突き続けるか、である。また本作では状態異常の効果がかなり強めで、その対策も求められる。
これまでのアトラス作品と異なるのは、主人公を含む“全員”が、その個性=アーキタイプを変更できるということ。たとえれば、全員が悪魔やペルソナをチェンジでき、しかも同じ悪魔、ペルソナにもできる……というようなものか。
そのうえ、戦闘メンバーのアーキタイプの顔ぶれによって“ジンテーゼ”という連携技のラインアップも変わる、という要素も盛り込まれている。ジンテーゼにはとんでもない威力を誇るものもあり、1ターンに1回それを発動させるためだけに、それ以外では何の役にも立たないアーキタイプを入れるなんて戦術も出てくる。
組み合わせによって無限の可能性がありそうだが、アーキタイプの種類は手に余るほど多すぎるということはなく、さらに“旅人の声”という、ネットワークを介してほかのプレイヤーの傾向を教えてくれる機能もあるので、じつは作戦は立てやすい。どこまでも遊びやすさが追求されているのだ。
やさしさと計算が紡ぐ“アトラスのRPGらしさ”と“遊びやすさ”
しかしゲームを進めていくうちに、じつは主人公たちの期限には毎回かなりの余裕があることがわかってきた。むしろ数日余ってしまって、「期限まで何をしようか」と迷ってしまったくらい。
その空いた時間で街の人と“王の資質”を伸ばす目的の交流もできるようになり、より作品世界を楽しめた。時間があると、いままで目を向ける余裕がなかった場所や人にまで気を配れるようになるんだなぁ、と、現実の自分を省みて、少々反省したものである。
本作では、クエストやフォロワーの数、ダンジョンの広さ・難易度などが、遊びやすさを意識した絶妙な設定になっている。誰もが忙しい昨今、ゲームを遊ぶなら一発で完璧なプレイを心掛けたいという人も多いだろう。一方で、完璧なプレイをするためにはガチガチにスケジュールを組んだりしなければならず、不自由を強いられることも多い。日常から離れストレスから解放されるためにプレイしているはずのゲームが、反対にストレスをもたらしてしまうのだ。
そんな中、本作はちょっとだけやさしめのスケジュールを可能にしている。その少しのやさしさが、うれしかった。
2016年12月に『PROJECT Re FANTASY』として制作が発表された本作だが、8年もかけて作り込んだだけあって本当に緻密に構成されている。本文ではあえて触れなかったが、ユーザーインターフェースはカッコよさと機能性を両立した“芸術作品”であるし、BGMはオーケストラと民族音楽、コーラスと“経”をミックスした、これまでにない音楽で物語を盛り上げてくれている。ゲーム序盤~中盤はそれほど意識することはないかもしれないが、終盤になるとBGMの存在感が一気に大きくなってくるので、期待していてほしい。
“アトラスのRPGらしさ”と“目新しさ”を両立させながら、随所で“遊びやすさ”を配慮したバランスには、正直感動を覚えた。過去作との比較ばかりしてしまったが、衝撃的なストーリー展開だとか、きちんと戦術を立てないと低難易度に設定していてもアッサリやられてしまうような難度になっているなどパンチの効いた要素も多く、アトラス作品をまったく知らなくても楽しめる人は多いだろう。
個人的にはグライアスやハイザメ、ニューラスなど、いい味を出しているおじさんたちの姿に目を細めつつ、改めて仕事を意識せず自由に冒険を楽しみたいなと思っている。