2024年9月26日~29日に開催される“東京ゲームショウ2024”(26日、27日はビジネスデイ)。ゲーミングブランド“ZENAIM”は、新製品として『ZENAIM KEYBORAD 60』(2025年発売予定、価格未定)と『ZENAIM ARCADE CONTROLLER』(発売時期、価格ともに未定)を発表した。
『ZENAIM ARCADE CONTROLLER』はいわゆるレバーレスアケコン。ボタン部分に同ブランドのキーボードと同じ技術“ZENAIM KEY SWITCH”を用いた無接点磁気検知方式という点に注目が集まる。
アケコンボタンではサンワ製やセイミツ製などの機械式ボタンが定番だが、このボタンは他アケコンへの装着も可能とのこと。無接点による劣化知らずの耐久性や精密性により、アケコンの常識が一変するかもしれない。
発表会後に、気になるところを伺える機会を設けていただいた。ZENAIMプロジェクトマネージャー橋本侑季氏への、メディア合同囲み取材の模様を以下にお伝えしていく。
橋本侑季
東海理化でZENAIMプロジェクトマネージャーを務めている。文中では橋本。
高度な技術進歩と、その必要性の検討
――まず基礎的なところからで恐縮です。自動車製品からフィードバックを得て製品を開発されているとのことですが、どういった部分が反映されているのでしょうか。
橋本
磁気センシング、磁気検知機能のところは自動車のスイッチで使用している技術です。たとえば弊社で作っているシフトレバーは、位置と磁気でRやBを認識しています。そうした技術を転用する形で、ゲーミングデバイス向けのスイッチを開発しています。
――60%キーボード『ZENAIM KEYBORAD 60』は1モデルのみ発表されましたが、複数モデルの展開予定はありますか。
橋本
今回のリリースタイミングでは可能かどうかわからなかったので発表はありませんでしたが、二色成形などにもトライはしております。発売後にキーキャップのみ二色成形のものを出す、などといった可能性もあります。
――キー部分のカスタマイズに対応予定はありますか。
橋本
そこまで対応できるかはまだわかりませんが、本来であればそういった部分もフルカスタマイズできるのがユーザーの皆さんにとってはいちばんうれしいと理解しております。幅広くなりすぎて生産側が対応が追い付かない、といった事態は避けられるように調整していきます。
――発表会では大会に本製品を持って行ったというお話も出ていました。いつ頃から開発をされていたのでしょうか。
橋本
2023年11月、12月くらいにキーボードを再販して、規模が落ち着いてきたころにつぎに何をやるかということになりまして、そのころからになりますね。
――60%キーボードの省スペース化を図るために、技術的に困難な部分はありましたか。
橋本
当初は右側にUSB端子があったんですが、それを左側に移すとなったときにスペースがどうしてもないので、回路パターンを引き直しました。ほかにも部品の搭載位置などもっと細かい工夫が目に見えないところにありまして、基板サイズももちろん小さくしているので、左右の余白を縮められました。
――60%というサイズを選択された理由についても伺えますか。
橋本
ゲーム特化のデバイスがラインナップに必要と考えていました。現状、60%のロープロファイルキーボードは世界中を見ればあるのかも知れませんが、ラピッドトリガー(※)搭載のロープロファイルキーボードというのはほぼ世界初かと思います。そこは狙ったところですね。
※ラピッドトリガー:キーボードのキーを押したときの移動量(ストローク)を検知し、それによってキーが押されたり、指を離したりしたことを検知するシステム。検出量をソフトウェアで調整することで、ほんの少し触っただけでも反応するようにしたり、ある程度押し込まないと反応しなくしたりと、細かなカスタマイズが可能。――60%キーボード発売に合わせて、ソフトウェア周りにもアップデートは入るのでしょうか。
橋本
現状では機能と性能はそのままというイメージです。他社さんでもポーリングレート(※)やスキャンレートがどんどんアップデートされていますが、僕らとしましては数値を追うだけの競争は避けたい。とはいえ、機能面が向上するならやっていきたいとも考えています。やるべきか否か、いろいろな要素を分解、検証しているところです。
※ポーリングレート:デバイスが1秒間にPCに対してデータを送信する回数を、Hz(ヘルツ)で表した数値。数値が高いほど滑らかな映像や、優れた応答速度などを実現できる。
――4000や8000といった違いがあっても、知覚できないだろうという側面もありますからね。
橋本
我々としては、結局はUSBの通信速度に依存するので、どれだけ上げようが変わらない部分があるという考えです。ただ、8000まで上げることで少しでも機能面が変わるなら、挑戦する意味はあるだろうとも思います。
――今回、キーボードとアケコンというふたつの新製品発表がありました。アケコンで使用するスイッチは従来のキーボードのものをそのまま流用していますか。それとも新設計を加えた新スイッチになるのでしょうか。
橋本
スイッチ部分はいまのキーボードに使用しているものを踏襲していますが、それをモジュール構造として組み込むことで、取り外してほかのアケコンにも付けられるような、そういったキットとして開発しています。
――スイッチをそのまま使用して、周りのモジュールでアケコンという新形態に対応したと。発売時期は未定ということでしたが。
橋本
開発にはプロ選手などにも多く関わっていただきたいという思いがありまして、その展開によってスケジュール感もかなり変わってしまうと思います。いまのペースでいけば2025年には製品化も可能と思われますが、あくまで僕らだけの構想ですので、それをプロの選手といいものを作っていく運びになると、どこまでスケジュールが伸びるのか。正直なところ、それはわかりません。
――アケコンにおけるラピッドトリガーに利点があるのかについてまだ実感がないのですが、使用した選手の反応はいかがですか。
橋本
アケコンはそもそもストロークが短いので、そこまでラピッドトリガーの効果は大きくないと思われるかもしれません。ただ、完全に押し込まなくても途中で止めて、ボタンが戻ってくるところでさらに押し込む、といった一瞬の操作においては効果的に働きます。
“MOTION HACK(※)”では、ボタンを押し込む際の荷重とボタンが戻ってくる際の荷重が実質同じになっています。通常のボタンでは戻りが遅いので、つぎの入力に影響してしまいますよね。ここが本製品の強みになると考えています。
※MOTION HACK:ZENAIM KEY SWITCHに搭載されているラピッドトリガー機能。――キーボードはグラつかない“安定性”が発表会ステージの登壇者さんにも評価されていました。アケコンでもそのコンセプトは受け継がれるのでしょうか。
橋本
そのコンセプトも受け継がれています。触っていただければわかるかと思いますが、『ZENAIM ARCADE CONTROLLER』のボタンは開発中の現段階でもまったくグラつきません。ほかの製品でグラつきを感じたという方に触っていただくと、よりわかりやすいかと思います。
――アケコンの重量はどれくらいになる予定でしょうか。
橋本
ブースに置いてある試作品は樹脂製品なので、400グラムか500グラムくらいでそれほど重くはないかと思います。大きめなのでもうちょっと重いかもですが、同じくらいを想定しています。
ユーザーがどう喜び、どう捉えるかが第一
――アケコンですと、思い切り叩いたり連打したりといった場面もあるかと思いますが、従来品と比べて耐久面はどうなるのでしょうか。
橋本
ハード的な部分は(耐久的を)問題なく作り込めるかと。スイッチは非接触式で磁気でセンシングするため接点不良や劣化がそもそも起きません。メンテナンスの手間も省けますし、頻繁な買い替えも不要にできるかと思います。
――ボタンについて質問が。ボタンのキャップやその周辺についても設計されたのでしょうか。
橋本
そうですね。これから材質や塗装のほか、単色なのか二色がいいのかなど、いろいろと考えていくところですが、基本的な構成はブースに置いてあるものから変更はない予定です。
――アケコンのほうでも異なるモデルの展開はお考えですか。
橋本
もしやるのであれば、配列違いなどを最初に用意させていただくかもしれませんが、アケコン本体としては、まずは1バージョンから3バリエーションくらいの展開になると思います。
高さがもっとほしいなどのご要望もあるかもしれませんが、その場合はほかのお気に入りのアケコンにボタンモジュールを組み込んでもらったほうが好みに合わせやすいと思います。そのため、僕らとしてはそこまで本体のバリエーションを増やす必要はないと現状は考えています。
発表会の檀上でも、ラピッドトリガーなどの調整についての話題は多く出ていた。アケコンでは好みに合わせるカスタマイズ性がかなり重要。
――“温度補正機能”は温度で変化する磁気を調整するということでした。ソフトウェアとハードウェアのどちら側で行なっているのでしょうか。
橋本
どちらもですね。ハード側にも温度を検知する電子部品を搭載していまして、キーボード内基板にいくつか入っています。調整についてはユーザー側でしていただく必要はなく、自動調整が行なわれます。
――今回アケコンを発表したことで、サンワさんやセイミツさんの老舗のアケコンボタン市場に飛び込む形にもなるかと思います。やはり、挑戦したい、(現状を)変えたいと考えられたのでしょうか。
橋本
世の中には、無接触磁気検知式のアケコンボタンモジュールはまだないと思います。ほかのメーカーさんのボタンは接点がある機械式ですので、そこに対して僕らが接点不良を起こさないボタンをユーザーの皆さんに提供できるという点が、大きな変化になるのではと考えています。耐久性が格段に高いですからね。
既存のアケコンをすでにお持ちの方の中には、カスタマイズして使い続けたいという人も多いですよね。本体だけでなく、ボタンモジュールのキット販売は喜んでいただけるのではと思っております。まずはボタンメーカーがどうといったことは考えずに、ユーザーの皆さんにどう思っていただけるかを第一に開発を進めていきたいです。
――温度センサーやアプリでのカスタマイズに応じる機能といった部分はボタンモジュールそのものに内包され、ほかのアケコンへの搭載時にも使用可能になるものなのでしょうか。
橋本
手持ちのアケコンにボタンを換装し、同時に制御用の基板も組み込んでもらうことで制御可能となります。一般的なアケコンの構造やサイズを考慮し、基板も含めて簡単に取り外し/取り付けできるように考えています。
――そうなると、ガワだけ手持ちのアケコンのものを流用して、中身はすべてZENAIMボタンというレバーレスアケコンを作ることも可能なわけですね。
橋本
そうですね。「中身はより高性能のものを使いたいけど、外見はこれがとても気に入っている」というユーザーさんの、かゆいところにも手が届く仕様になっています。
この新製品によって、ゲーマー間でのレバーレスアケコンへの興味もより増すかもしれない。どんな波紋を呼ぶのか、じつに楽しみなところ。
――現段階ではどれくらいの価格帯を想定されていますか。
橋本
使う材質にもよりますし、まだこれから海外の需要などによっても販売チャンスが増やせますので、そういったところから調査、総合して価格も決定していきます。
――今後の製品展開について、さまざまなニーズが出ていると思います。ゲームパッドなどへの挑戦もお考えでしょうか。
橋本
マウスなど昨年のローンチイベントで発表させていただいた製品から、適宜挑戦していきたいと考えております。