2024年8月21日(水)から23日(金)にかけて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2024(Computer Entertainment Developers Conference 2024)。 その3日目に、モーションキャプチャーに関するセッション“モーションアクターによる、より魅力的なキャラクター創りをお手伝いするためのノウハウ共有”が実施された。

登壇したのは、株式会社モーションアクターの代表取締役・杉口秀樹氏と、ダンス事業部部長・Mao氏のふたり。どちらもすでに有名な映像作品のみならず、有名ゲームタイトルのモーションを担当している実力派だ。そんなふたりから、株式会社モーションアクターでは、どのようにゲーム制作へ協力をしているのかが語られた。

杉口秀樹氏。『仮面ライダーウィザード』のスーツアクターとして知られ、特撮作品などに多く関わる。ゲームでは『真・三國無双』シリーズや、『ドラゴンクエストXI』など、数多くの有名作品のモーションを担当。

Mao氏。数々の賞を受賞した、ダンサー出身。『Rise of Ronin』や『鉄拳8』などにモーションアクターとして参加している。

モーションキャプチャースーツで登壇。
こんなに登壇者が動くCEDEC見たことない!
“CEDEC”と言えば技術系のカンファレンスであるため、基本は登壇者がスライドなどを使用してトークベースで講演するのが一般的だ。しかし、本講演はゲームのモーション、キャラクターの動きに関するものなので、登壇者たちが実際にアクションを交えてのカンファレンスが実施。ステージを飛び越えてのド派手な実技を披露することもあり、会場からは拍手が巻き起こるなど、“CEDEC”では珍しい形で盛り上がりを見せていた。

さて、ゲームのモーションアクターといえば、おもにキャラクターの動きの演技を担当するお仕事。実際の演技をモーションキャプチャーし、それをもとにゲーム内でキャラクターたちを動かしていくのは、3Dグラフィックのゲームで主流の手法である。
株式会社モーションアクターによるセッションは過去にモーションをキャプチャーすることに関するノウハウが説明された。基本の流れはモーションやプランが決まったあとに、実際にスタジオやアクターに依頼を受けて、収録に臨むという内容だったが、そこで「プロジェクトの始まり段階から相談できないか?」といった声をもらっており、今回は“アイデア出しの段階からモーションアクターを活用しませんか?”といった講義にいたった。
企画段階からアクターの演技を見よう!
実際にどのようにアイデアを生み出すのか、いくつかのケースが紹介された。たとえば、キャラクターならではの動きを作りたい、いままでになかったようなモーションを取り入れたい場合などに、プロだからこその動きを目の前で実演することで、目的のモーションが作りやすくなる狙いだ。また、すでに作成されたモーションについて「こういった動きが足りないです」といった助言もできるとのこと。

壇上では実際に“回し蹴り”と、“ビンタされたときのやられモーション”を、実演を交えながら披露。“回し蹴り”は主人公らしいものや、奇抜なキャラクターなどを例に披露され、“やられモーション”は気丈な女性、ぶりっ子な女性などを例に実演し、ちょっとした動きからキャラクター性を表現していた。

主人公らしい回し蹴りならば……。

カッとポーズを取ってから

大きく回し蹴り!

そのまま振り抜いて……。

ビシッと決めポーズ。とても主人公らしい回し蹴りだ。
それぞれ3例ずつではあるが、企画段階でも依頼されれば、キャラクターそれぞれに合ったモーションなのか、いろいろなモーションの実演を参考として披露してくれるそうだ。想定していないような動き、絵コンテ段階では想像しにくい動きなども、相談を受けながらアクター自身が実演するとのこと。

気丈な女性は、ビンタされても気丈に振舞うようなイメージ

ぶりっ子な女性(正確なイメージは“サークルクラッシャー”)は……。

バチーンと叩かれ……。

グルーンと1回転。

そのまま尻餅を付いて……。

プンプンと激オコ。モーションだけでも多彩なキャラクター性を出せることがわかる。
実際にこういった相談とアイデア出しを経て、収録に臨む機会も増えてきたのだとか。それまでは“今日1日ここまでのモーションを撮影しないといけない”といった状況のとき、アクターたちはキャラクターがどんな人物なのかを把握する時間が取れず、とりあえずのモーションになってしまうケース、担当者に確認できずにいったん持ち帰った場合、実際に現場に来ていないスタッフとのイメージがぜんぜん違うケースなどが起きていたそうだ。


演技を見ながらプランを練ろう!
続いての提案は、実際に映像作りを考える前から実演によってイメージを擦り合わせること。実際にクリエイターがモーションキャプチャーのスタジオに来て、アクターが動いたのを見てから「あ、こういう風にキャラクターは動くのか」と気づかれる場合も多いのだとか。また、複数のクリエイターが関わった場合に「こうじゃないか」、「ああなのでは?」といった、擦り合わせにも活用できるそうだ。

よくある例として、ゲームのエモートアクションに関する実演が披露された。実際には「腰に手を当てて、怒りのポーズをお願いします」といったオーダーを受けやすいが、実際のところは腰に手を当てているだけでは、怒りでも、困っているポーズでも、どうとでも取れる動きになりやすいという。重要なのは“前後の演技”で目標はポーズではない。そこの擦り合わせを事前にしていないと「それは〇〇のポーズに見えます」といったことになりがちで、いいモーション作りになりにくいのだとか。

片手を掲げるポーズを取るとしても、多彩な表現が可能。

その前に嘆くようなモーション挟んだだけで……。

悲しいようなポーズにもなる。
モーションだけだと通常の芝居とは感情の表現が異なるので、そういった部分の擦り合わせが重要だと杉口氏は語る。事前に相談を交えることで、よりよいモーションづくりができると考えているそうだ。また、感情表現について動きだけで表現するのは難しいものの、基本的な考えかたのレクチャーも行われた。

テンションの表現は、腕を上にあげればあげるほど、記号的に感情の昂ぶりを表しやすいという。


さらに、アクションモーションの実演も披露された。キャラクターのアクションについて“飛び蹴り回転してザザーッ!”のような、具体的なプラン的なものはなく超ざっくりとアクターに丸投げするような場合も少なくないのだとか。
杉口氏が、例として要望に応じながら実際に飛び蹴りを多数披露。華麗かつ多彩な飛び蹴りの数々に、思わず観客からも拍手が巻き起こった。ディスカッションをしながらモーションを披露することもできるので、アイデアがない状態でもモーションの提案ができるということだろう。


壇上を飛び出し、ステージ下で多彩な飛び蹴りを披露。
仕上げも実演でクオリティを向上
最後は、実演によってモーションをブラッシュアップする提案。モーションを磨き上げる方法は膨大に存在するが、実際に経験した例をもとに、その手法が語られた。
キャプチャーしたモーションを使用したはいいが、実際のキャラクターの衣装が考慮されていなく、ゲームに反映してみると思ったようなアクションにならないこともあるのだとか。そうなる前に、アクター側がキャラクターの衣装に近い服装で演技をしてみることで、衣装の動きなども参考にできるという。

また、よくあるのがマンガの動きを再現・参考にする際に、コマとコマのあいだの動きがわからないといったパターン。カットシーンの絵コンテのあいだを埋めるような場合も含めて、その隙間の動きも補間する。
それを某鬼と戦うような衣装でチャンバラアクションで説明。ドラマティックな演技を経て、最後は勢いあまってCEDEC会場を走り抜けるという、ヒーロショーさながらの実演をくり広げた。


衣装の動きやめくれ具合によっては、キャラクターに衣装がかぶってしまうこともある。どこを動かないようにすればキャラクターに衣装が掛からないようにできるか、そのチェックも実演で確かめることが可能だ。アクターの動きによって衣装制作のクオリティアップも図れるようだ。



※ものすごいシーンですが、あくまでアクションの実演です。
さらにアクションシーンのクオリティを高める際、アクションのカメラ割りなども確認しやすいことをアピール。ひとつのアクションの流れを、静止画で見ることによって、どの角度で映せばいちばん魅力的になるのかなど、細かいシーン作りのプランが練りやすいそうだ。


また、再現したいシーンが「すごい剣戟で戦っているが、エフェクトがいっぱいで何をしているのかわからない」といった場合には、アクター自身がそのシーンのアクションの流れを考えることもあるそうだ。


といった具合に、モーションアクターはただ“お願いされたアクションを身体で表現する”だけではなく、“モーションを作るモーションメーカー”でもあることを、杉口氏はアピール。


最後は、クリエイター向けに“モーションはどう動いて作られているのか?”を経験できる、モーションアクター体験会を実施していることや、YouTubeにてモーションに関するリファレンス動画を多数アップしていることが紹介され、本セッションは終了となった。


全体的には株式会社モーションアクターのPRになっていると思うが、ゲームファンの目線からはモーションアクターたちの印象が、多少ながらに変わったのではないだろうか。筆者としては、モーションアクターたちは俳優・表現者としてただ動きを演じているのではなく、ゲーム制作にしっかりと関わる、いちクリエイターたちなのだと改めて感じられた。