今井
2024年5月30日に発売された『東京サイコデミック 公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿』(『東京サイコデミック』)。
発売を記念し、本作のディレクターであり、脚本を担当した今井秋芳氏と、オカルト雑誌『月刊ムー』の編集者・望月哲史氏、そしてファミ通随一の超常現象や神話伝承知識を持つ編集者・藤川Q、3人による座談会が行われた。
『東京魔人學園伝奇』シリーズや『九龍妖魔學園紀』を手がけたゲームクリエイター・今井秋芳氏のルーツをはじめ、『東京サイコデミック』に盛り込んだ設定などが、オカルト要素満載で語られた。
※本稿には『東京サイコデミック』本編のネタバレが含まれます。※本稿はグラビティゲームアライズの提供でお送りします。今井秋芳(いまい しゅうほう)
ゲームクリエイター。『東京サイコデミック』ディレクターであり、シナリオ・脚本を担当。(文中は今井)。
望月哲史(もちづき さとし)
オカルト雑誌『月刊ムー』所属の編集者、“webムー”編集長。(文中は望月)。
藤川Q(ふじかわ きゅー)
超常現象や世界各地の伝承に造詣の深いファミ通編集者。『月刊ムー』や『webムー』で、超常的なテーマのゲーム作品を厳選して紹介するコラム“藤川Qの月刊ムー通”を連載中。(文中は藤川Q)。
今井氏がオカルトに興味を持つキッカケになった1冊の本
今井
今日は1冊、本を持ってきました。『世界不思議物語』という本で、いろいろなミステリーや怪奇現象、オカルトなどについて詳しく載っているんですけど。小学生のころにこの本と出会ってよく読んでいました。
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(『世界不思議物語』リーダース・ダイジェスト刊/1979年)
今井
『東京サイコデミック』のCase.1でも取り扱った“人体自然発火現象”もここに載っているんですよ。だから、以前からこの現象については知っていたんですよね。昔の本なので、当然いまとは学説の違う部分もありますが。
藤川Q
これは……どえらくすてきな本ですね。装丁も存在感も。これを子どものころから読んでいたら、そりゃあ筋金入りのオカルトマニアができあがりますね。
望月
ストーリーや事象が淡々とまとまっているのがいいですね。児童向けのこういう系統の本って、「驚かそう」というわざとらしい意図が見えがちなものが多いじゃないですか。
今井
河童のイラストがやたら怖いやつとかね(笑)。この本、逆引き索引も付いているから助かるんですよ。1970年代にこの内容のものをこれだけの厚さで発刊した心意気もすごい。
藤川Q
でも、ちょうどオカルトブームだったんじゃないですか? 『月刊ムー』の創刊もそのぐらいですよね。
望月
そうですね。1979年に創刊してます。ユリ・ゲラーのブームもそのくらいですし。
今井
じつはこれ、同じ本を2冊買って、その2冊目なんですよ。読み込みすぎてボロボロになっちゃったから。
藤川Q
なんと。しかし、いや……この本、すでに欲しいです。
望月
僕も欲しい。
藤川Q
今日、2冊売れるかもしれませんね(笑)。
『東京サイコデミック』は科学捜査との相性を考えSF寄りに
今井
自分が関わってきた過去の作品では、血筋で特別な力や技が子孫に受け継がれていく……みたいなオカルト寄りの話を作ったりしていましたけど、今回の『東京サイコデミック』はどちらかといえばSF寄りだと思っています。<br /><br /> ほかのジャンルで言うと『ストレンジャー・シングス』や『AKIRA』、『X-MEN』とかが近いかもしれません。異能力というSF的要素にパンデミック、テロ、国防など現代の問題を取り入れて話を作っています。あと、超常現象を科学捜査するという以外に、科学捜査とSFも相性がいいと思っています。
望月
プロデューサーの神崎(喜多)さんとも話したんですけど、かなり挑戦したテーマですよね。超常現象を解明するために科学捜査をするんだけど、解明してしまったらそれは超常現象ではなくなるのではないか、という。
今井
超常現象にせよそうでないにせよ、事象は必ず理由があって発生していると思うんです。たとえば何か呪いがあって、それを霊や幽霊が引き起こしていたとしても、そこには何かしら理由がある。
望月
幽霊にも意図はある、と。そこに捜査、解明の目的を持っていくのはおもしろいですね。わけがわからないものを、わけのわからないものとして終わらせないというか。
今井
事象の理由はいろいろあると思うんですけどね。Case.1の人体自然発火現象だけ切り取っても、いろんな説があるじゃないですか。ただゲーム的にも話の作り的にも答えを用意する必要があるので、本作では、その可能性のひとつとされている説をゲームなりにアレンジして描いています。
望月
あの事件だけでも、相当調べて作り込まれていますよね。ゲーム内でいろいろな説が出てくるし、それもかなり理詰めというか、ハッタリやポップな感じで超常現象を取り扱っているわけではないんだなと感じました。
今井
そうですね。超常現象を詳しく調べて仮説を羅列して、本作ではこれで行こう、とひとつに絞る。『東京サイコデミック』で描きたかったのは、プレイヤー自身の手でオカルトや超常現象の謎を解明するというプレイ体験なんです。
望月
でも、ゲーム内の資料もそうですけど、内容がかなりマニアックですよね。プレイヤーに伝わるかな、という不安はなかったんですか?
今井
私の作品では、必ず用語についての解説を入れるようにしているんですよ。たとえば過去の作品でも“鬼”という用語が出てきたら“鬼とは?”という解説をストーリー内でするか、システムとして用語解説に載せる。
そうすることで、プレイヤーが知らない言葉であっても、知識として与えることができ、ゲームを終えるころには詳しくなっているだろうと思っています。
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望月
ちゃんとついてこられるようにしてある、と。
藤川Q
長年超常現象や神話伝承をモチーフにしたゲームを見続けてきたのですが、そういう路線が好きなゲームファンもいるのだと思います。ゲームを通じて知識が身につくことに喜びを感じてしまうような。
望月
そうですよね、それに資料性も高い。
藤川Q
そう、そこが楽しいんですよ。ゲームのストーリーテリングは、散らばった膨大な資料や情報の断片を自分の頭の中で組み合わせて、推理を構築するのが。
今井
人体自然発火現象の説明でも、「蝋燭化現象というのがあって」、「体内のアセトンが影響している可能性があり」とかの記述はあっても、「じゃあ蝋燭化現象にいたるまでの詳しい過程は?」、「アセトンはどういう物質でどういう風に発生するの?」ということまでは書かれていなかったりする。
本作ではプレイヤーのわからないことがないように、防犯カメラの映像や通院履歴、診断書など、ありとあらゆるデータを閲覧できるようになっています。
たとえばカルテも細かく作りこんでいて、アセトン値が高いのであればこういう数値でこういう異常が出ているんじゃないかとか、エタノールを過剰摂取したらどういう症状が出るかなど……資料からプレイヤーが読み取れるようにしてあります。
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望月
そこまで現実的にリアルに作り込んでおいて、超常現象も取り扱うというのがすごいですよね。
今井
科学的な側面と、超常現象的な側面、両方を取り扱いたかったんです。Case.1で、「彼は科学的根拠があって燃えた」と結論づけた一方で、「もし彼が“パイロキネシス”(※)を持っていたら?」という側面が持ち上がってきたらどうなるか、というのを描きたかった。
※パイロキネシス……超能力のひとつで、火を発生させる能力。藤川Q
ふつう、人体自然発火現象が解明できたら満足してしまいがちです。
望月
それこそ「はい論破」の状態ですよ(笑)。そこに超常現象を付け足していくのがすごいなぁと思います。
藤川Q
作中での超常現象の実在については、それこそ情報の断片を集めたプレイヤーの頭の中で組み上がることなので言及はしないでおきたいものの……現実的な情報が集まれば集まるほど、超常現象は実在しないのではないかと思えてきそうですよね。
今井
異能力に関しては、結構いろんなところに伏線を散りばめてあります。最初のパンデミックのムービーだったりとか。
望月
え、そうなんですか? あの冒頭のニュースですよね。まったく気づかなかった。
今井
とある機密ファイルだったり、防犯カメラの映像だったり……なので、一見すると関係ないような資料でも、読み込んでみると「おっ?」となる部分があるので探してみてほしいですね。本当は、事件に関係する資料、物証だけユーザーに渡して誘導もヒントもいっさいなく、「はい、よろしく」っていうシステムにもしてみたかったんですよね。
望月
リアル脱出ゲームみたいなやりかたですね。でも恐ろしく難しそうな(笑)。
今井
ただ、「それをやると何をやっていいかわからなくて、クリアーできなくなってしまう」ってスタッフからも言われて断念しました(笑)。プレイヤーに丸投げで、という尖ったシステムでも許されるかもしれませんが、せっかくシナリオを書きましたし、尋常じゃないボリュームの設定や超常現象の事例について調べたりと骨をおりましたので、やはりまずはクリアーしてもらいたいし、エンディングまで見てもらいたい。だから、いまのような作りになりました。
オカルト今昔話
藤川Q
今井さんが『ムー』望月さんに聞いてみたいことってあります?
今井
いろいろありますよ。『月刊ムー』を読んでましたからね。昔は“ペンフレンド募集”の欄とかありましたよね? 「私は金星人なんです」というような自己紹介があって。
望月
ありました、ありました。あれが載っていたのは1990年代前半までですかね。やっぱり、住所を公開すると悪用される恐れもありますから、いまはもうないんですけど。
もともとは子どもが「○○県のお友達と文通したい」とか、そういう要望を叶える場所だったんですけど、雑誌の内容が大人向けになり、読者の年齢層が高くなるにつれて、ちょっと牧歌的な時代とは変わってしまったタイミングでなくなった感じですかね。
藤川Q
『月刊ムー』最新号(鼎談実施当時の2024年6月号)でも超能力特集が掲載されていましたね。脳波を計測する特集が。
望月
1970年代に超常現象系のテレビ番組をやっていたプロデューサーの方が、超能力者の脳波を計測した話にまつわる記事ですね。
今井
その号にも、しっかり超能力を科学的に解明しようとする特集が掲載されているなんて、さすがムーさんですよ。
望月
たしかに、奇しくも『東京サイコデミック』での異能力への科学的なアプローチというと、同じ構造ですね。超能力は脳と関係していて……というお話でしたけど、この記事を書かれた元プロデューサーさんも「俺は番組で散々脳波をとらされた」って言ってますからね。
藤川Q
科学が発展しても“わけがわからないこと”へのアプローチは変わらない部分はありますよね。インドでもクンダリーニ(※)があって、そこからいいものが上ってきて額に第3の目があって……なんて古代から言われてますが、一方で現代では腸活が大事だなんて言われてますし。ちょっと違うか(笑)。
※クンダリーニ……根源的な生命エネルギーを意味する言葉。今井
あはは。いやでも「チャクラは1本の真っ直ぐな線が大事で」という話も、現代科学に置き換えた言いかたをすると「体幹がしっかりしていると腰痛になりにくい」という風にも言えますよ。たぶん(笑)。
望月
最終的に、「人体って不思議」という結論に落ち着く(笑)。
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藤川Q
現代科学で解明できそうなオカルト現象もありますよね。たとえば“悪魔憑き”の症状のひとつに「夜、光を怖がる」というものがありますけど、これは狂犬病の症状じゃないか? と考えられたりとか。
今井
“ファラオの呪い”(※)もそうじゃないですか? 昔はひと口に「呪いだ!」と言ってましたけど、いまは放射性物質説とか細菌説とか、いろいろと科学的根拠に基づいた説が出てきてますからね。
※ファラオの呪い……ツタンカーメン王の墓の発掘に関わった人物たちが病死し、「王の呪いだ」と噂された事象。藤川Q
幽霊が出るときは一定の周波数が観測される、なんてデータもありましたよね。ニューヨークの地下鉄で、その周波数が観測されるとみんな気分が気持ち悪くなるという。
望月
たしか、16~7ヘルツくらいだった。
今井
おもしろい! 悪魔が出るときは気温が下がって、硫黄臭がする、という定説と似てますね。
望月
キリスト教では、硫黄臭というのは地獄のにおいだと考えられていたような。
藤川Q
日本だと硫黄臭は温泉のイメージですけど。でも、温泉地を“地獄めぐり”を言ったり、湧出口のある場所を“地獄谷”と呼んだりするから、やっぱり世界の共通認識として硫黄臭=よくないもの、というのはあるのかも。
オカルト好きにとっていまいちばんホットな超常現象は?
藤川Q
ところで、みなさんがいちばん好きな超常現象って何ですか?
今井
ありすぎて難しいな(笑)。
藤川Q
いま! いまいちばんホットだなと思っているやつでいいです!
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望月
それで言うと僕は“未来人”ですかね。未来人はね、これは不思議なのですけど、なぜか流行っているSNSに現れるんですよ、絶対に。
一同 (笑)。
望月
X(旧Twitter)にも現れるし、TikTokにも現れるし、YouTubeにも現れる。ジョン・タイター(※)がネット掲示板に現れたように。
※2000年のインターネット上に出現した、「2036年からやってきた」と自称する存在。藤川Q
なるほど。そうか、未来人だからつぎに流行するプラットフォームをすでに知っているのか(笑)。
今井
確かに。あと、そういう“定説系”だったら僕もひとつ思っているのがありますよ。
藤川Q
何ですか?
今井
宇宙人に会える人はみんな絵がヘタ。
一同 (笑)。
今井
「こういう宇宙人がいたんだ!」って説明する似顔絵って、だいたいへたじゃないですか。だから、マンガ家とかイラストレーターは宇宙人に会えないと思っているんですよね。
望月
じゃあ僕はついに会えるかもしれない(笑)。
今井
ぜひとも立証してください(笑)。