須田寓話 51FABLES

類を見ないセンスで国内外のファンから熱狂的に支持されるゲームクリエーター、須田剛一氏によるプロット・中短編・メモなどを断片的に掲げる連載。のちの作品に繋がるもの、エッセンスを残すもの、まったくの未完の欠片など、須田ワールドを形づくる珠玉の原石の数々。SUDA51のアタマの中を覗き込め。

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須田剛一による書き下ろし連載!【須田寓話】まっ赤な女の子 #6

2016-03-18 17:00:00

makka05

01.07:スカイブルー2

僕の名前は君鹿守。

インフル治りました。
キツかったっす、辛かったっす。
一週間、寝込みました。
一週間、暇でした。
暇だったので、哲学してました。

今ここで寝込んでいる僕は、
誰からかのウイルスを吸ったわけで、
そこには必然と偶然と自然が三つ巴で相見えて、
朦朧としている事に意味を見出すも、
それがすなわち無意味である事にも意味があり、
意味といえばチョコ。
結局、散子のチョコは
本命チョコだって結論に達したわけなのだ~。
今晩の月が湿っていたのは、
あの日だったせいなのかな。
正しくは、月が泣いていた。
満月よりも僕は半月が好きで、
満月って自信満々で好きになれない。
半月には知性がある。
フォルムが柔らかくて、艶めかしい。
それにミステリアスだよね。
全部見せないのはいい女の条件って、
爺ちゃんが言ってた。
爺ちゃん、助平だからな~。
爺ちゃんの秘密知りたい?
また今度ゆっくり話しま~す。

唐突ですが、魔子の話に戻りま~す。


本城眞子のパンツ……じゃなくて、
後について部屋に入った。

空き部屋って思っていたけど、
ちょっとだけ生活感があった。
最低限の物だけ置いて生活する種族が
最近流行ってるってテレビでやってたけど、
東京って何でも流行にしちゃうよね。
いつか、ウンコはトイレに流さないで
自然に還す種族が流行って、
“本当は誰も知らないウンコ本”みたいなのがベストセラーになって、
そのウンコ使って無農薬栽培で都市生活! とか、
地方移住ブームにも便乗しちゃってビバ、ウンコ!
……ってちょっと暴走しちゃいました。
下品なテキストは女子に嫌われるので、
来週この部分削除しま~す。
今週限定公開で~す。

こじんまりとした団地の一室は、
1人暮らしには適度なサイズに感じた。
狭くもなく広くもなく、三歩で生活に手が届く。
僕が大人になったら、
こんな場所で生きるのも悪くないかも。
感心しながらも、この部屋の違和感の正体を足元に感じた。
靴下に湿った感覚、ドロリとした粘着性は多分アレだ。
何も無いわけではない何も無いような部屋の奥、
赤く染まった畳六畳の部屋の前で本城眞子はそう言った。


「お父さんを殺した」
「ここの部屋で?」
「うん」
「なんで?」
「カレー残したから」
「カレーって、あのカレー?」
「はじめて作ったカレーを食べなかった」
「それで殺したの?」
「そう、たぶん」
「どうやって?」
「憶えてない」
「お父さんはカレーを食べなかったんでしょ? なんで?」
「不味かったから」
「どんな顔してた?」
「誰が?」
「お父さん」
「怖い顔だった。無言で、じっとカレーを睨んでいた」
「どこから憶えてないの?」
「ずっと黙ったままカレー食べないから怒って帰って。
 でもやっぱり気になって部屋に戻ったの。
 そしたら、部屋が血だらけだった」
「あれ、死体は?」
「無かった。血だけ」
「なんで殺したって思うの? 
 だってさ、キミは殺した自覚ないのに」
「ううん、違う。私、死体を隠した場所を憶えていたから」
「誰が?」
「だから私が」
「何処に?」
「死体?」
「そう、何処なの?」
「死体に興味あるの?」
「人並み以上には興味ある」


本城眞子は僕の顔をジッと見て、


「付いてきて」


決意を含んだ言葉で僕を誘った。
付いていくべきではない、でももう遅いんだ。
何故か?
もう一回、スカイブルーのパンツを見たい!
理由なんてない、
スカイブルーが男のロマンを刺激する。
それだけなのさ。



【続く】


■編集部解説

 いくつもの物語を並行して掲載し、須田氏の混沌を楽しんでいただく“須田寓話”。第6回にしてジュブナイル、“まっ赤な女の子”の話が大きく動きました。“いま”を生きる守くんはあなたでもあり、須田氏でもあります。ミニマルライフとウ○コを繋げる須田氏のパンクが垣間見えます。


■須田氏近況

 月刊コミックビームに原作を提供し、作画の竹谷州史氏とタッグを組んで好評連載中のコミック、『暗闇ダンス』の単行本1巻が絶賛発売中!

h1

 時速300kmに挑み生死の境をさまよった男・海道航は、3年間の入院を経て退院。彼が育った街・波道市は大きく様変わりし、航は衝撃を受ける。そんな彼に新たに出来た“王国”から招待状が届き……。この不思議で不可解な旅の物語からも目が離せない!