『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』完成記念、キーパーソンが語る作品の見どころとは?

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シリーズが初の3DCG映画となる『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』がついに完成した。ここでは、完成記念としてプロジェクトの中心人物である3人、毛利陽一監督、音楽担当の崎元仁氏、そしてバンダイナムコゲームスの水島能成プロデューサーに映画に対する手応えなどを聞いた。

●シャオユウとアリサの友情物語を観てほしい

 バンダイナムコゲームスの3D対戦格闘ゲームの雄『鉄拳』シリーズが初の3DCG映画化。『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』がついに完成した。ここでは、完成記念としてプロジェクトの中心人物である3人、毛利陽一監督、音楽担当の崎元仁氏、そしてバンダイナムコゲームスの水島能成プロデューサーに映画に対する手応えなどを聞いた。

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監督
毛利陽一氏(デジタル・フロンティア)
鉄拳』シリーズは『5』と『6』のオープニングムービーを担当。
(左)

音楽
崎元仁氏(ベイシスケイプ)
鉄拳6 BLOODLINE REBELLION』のオープニングムービーに参加。
(中央)

プロデューサー
水島能成氏(バンダイナムコゲームス)
鉄拳』シリーズのアートディレクターを努めている。
(右)

――とうとう映画が完成したとのことですが、まずは監督に伺います。映画のお話がきたときはどうでした?

毛利 うれしかったですよ、正直言って。映画自体テンションがあがるわけですが、ましてや『鉄拳』ですからね。脚本は佐藤大さんにお願いしたわけですが、稿を重ねるごとに脚本がおもしろくなっていくわけですよ。そういうところでイメージも膨らんできたりしました。「こんなアクションシーンにしたいな」とか、「こういうシチュエーションがいいな」とか、夢がどんどん膨らみました。

――バンダイナムコゲームスからは、「好きに作っていい」というお話だったと聞いたのですが。

毛利 はい。好きにやらせてもらいました(笑)。ゲームと映画ってやはり作りかたが違うじゃないですか。話の流れもあるし、アクションだけ作ればいいというものでもない。そういうところは任せていただいたので、制作環境としてはとてもやりやすかったです。僕が、『鉄拳5』と『鉄拳6 BLOODLINE REBELLION』のオープニングムービーを担当させてもらったということもあり、ある程度信用していただいていたようです。通常映画は、製作委員会とかが入ったりするのですが、今回はうちとバンダイナムコゲームスさんで、「いいものを作っていきましょう!」という、ある意味シンプルなスタンスでした。

――自由度が高いぶん、逆にやりにくかった部分とかはなかったのですか?

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毛利 それはなかったです。映画版では、デビル一八のデザインを変えたり、シャオユウの性格もちょっぴり変化したりと、いままでとは少し変えている部分もところどころあるのですが、そういうのもバンダイナムコゲームスさんに受け入れてもらえましたし。原作者サイドの方は、やはりキャラに対する思い入れが強いので、“変える”ということに関しては抵抗を感じられるケースも多々あるんですね。その点、バンダイナムコゲームスさんには、やりたいことを汲んでいただいて、「やってみれば?」という感じ好きにやらせてもらいました。原作ものは、制約が多いものと好きにやらせてもらえるものと両方あるのですが、好きにやらせてもらったほうが絶対にいいものができるんですよ。

――なるほど。ちなみにデビル一八のデザインを変えたり、シャオユウの性格を変えたりした理由は何ですか?

毛利 シャオというのは、古くから『鉄拳』を支えているおなじみのキャラだと思うんです。ルーズソックスを履いて、女子高生らしい、キャピキャピした感じ。今回、女性のバディもの(主人公がふたりひと組で活躍する映画のこと)ということで、シャオとアリサが出てくるのですが、両者の対比を考えると、シャオがもうちょっと芯のある大人になったほうがいいのかな……って思ったんです。それでいて、天真爛漫さや“全世界遊園地化計画”という素敵な夢は残したままで、明るく元気な女の子にしたかったんです。

水島 ゲームのほうでもシャオは古くからいるキャラで、当初から「遊園地を作りたい」みたいな性格でここまで引っ張ってきました。で、今後シャオをどうしたいのか、ということで、僕らサイドでも行き詰まり感があったんです。なので、佐藤大さんが映画の主人公としてシャオを起用したことで、「もう1回新しいシャオを作っていきたい!」という思いが僕らの中でも沸き上がってきたんですね。シャオの性格付けに関しては、ゲームのほうの要請とすんなり合致したところはあります。それで、声優さんも切り替えて、今回坂本真綾さんにお願いしたというわけです。シャオに関しては、ゲームのほうでも映画の方向性を踏襲したいと思っています。以前のインタビューで、原田が「映画の世界観の影響を、ゲームも必ず受ける」といった主旨の発言をしていたのですが、まさにそれは起こり始めています。

――お互いがうまい具合に高め合う感じですね。

水島 ちなみに、シャオに関しては制服のデザインも変わっているんですよ。いままではセーラー服タイプだったのですが、「さすがに少し古いかな?」という話になりまして。いまの若い子たちが共感できる感じにリニューアルしています。制服も含めたコスチュームに関しては、うちのデザイナーが担当しているのですが、そういう意味でも、すべてお任せというわけではなくて、うまく両者がクロスオーバーしながら制作を進めた感じです。

――ストーリーは佐藤さんとデジタル・フロンティアさん、そしてバンダイナムコゲームスさんの三者で作り上げていったとのことですが、心がけた点は?

毛利 本作は、基本女子のバディものなので、その軸がブレるとよくないとは思っていました。彼女たちの行動を追っていくことで、ドラマが展開し、アクション要素も入ってくる感じです。『鉄拳』はそれぞれのキャラクターに設定がいくつかあります。生い立ちから血縁関係までさまざまです。一度でそれをすべて把握するのはとても困難です。かと言って映画でそれを説明してしまうと、話が取っ散らかってしまう。設定を観てほしいわけではないですからね。もちろん『鉄拳』の設定を活かした作りにしていますが、『鉄拳』を初めて観た人も、「女子高生ふたりが走り回って、最後にはすごいことになってたよ」みたいな印象をもって楽しんでもらえるのがいちばんなので。そういうところを整理して、いかにお話としてまとめるかに気を配りました。

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――このキャラは本当は入れたかった……というのはありますか?

毛利 せっかくなので、「本当は、もうちょっと入れたいんだけど……」というのはありましたね、正直。でも、ひとりのキャラクターを作って動かして、話を成立させるというのはけっこうカロリーが必要で、なかなか手が出せない。本筋では関係ないところで、ほんのちょっと出してあげる……という遊びを入れるのもおもしろいというのはあったんですけどね。けっこう細かいですけど、作品の厚みにもつながるので。この点に関しては、今後があれば、できるといいなと思っています。

――泣く泣く諦めたキャラなんています?

毛利 実際のところ、レイ・ウーロンはもともと入っていたのですが、泣く泣く落としました。まさに、カロリーオーバーですね。

水島 デジタル・フロンティアに豊嶋さんというすごく怖いプロデューサーさんがいて、僕と毛利さんがどれだけ「入れたい!」と言っても、ばっさりと切ってしまうんです(笑)。

毛利 違いますよ(笑)。レイを落としたのも僕ですからね。当初制作的な事情から、90分に収めないといけないという縛りがあったんですね。まあ、もともとのシナリオ通りにアクションシーンを入れていくと、到底90分にはならなくて、118分あったんです。「ここから28分も落とせないよ」という話になって、悩んだあげくに。これ以外にもいくつか……。

水島 それだけの時間をオーバーすると、どれだけ細かく削っても到底減らない。大きなブロックを1個削らないといけなくて。レイに泣いてもらいました。

――ちなみに、レイ・ウーロンはどういう役どころだったのですか?

毛利 オリジナルと同じく警察官の役で出ているのですが、国際刑事として今回はシャオとアリサを見守るという役どころでしたね。子どもたちに対して大人という立ち位置でした。

――もしかして、ディレクターズカット版でいずれ復活したりして?

水島 それは、映画がヒットすれば(笑)。

――それにしても、コンテの段階から118分のボリュームだったのですか?

毛利 アクションシーンがけっこう盛り上がってしまったんです。『鉄拳』なので、アクションは外せないですからね。今回5つのバトルがあるのですが、アクションもけっこう尺を使うんですね。戦闘シーンもある程度整理して短くはしているんですけど。

――なるほど。この人とこの人がここで戦って……という組み合わせもファンには納得のいくものに?

水島 佐藤さん的には、そこはすべて意味のあるものになっているようです。バラエティーに富んだ戦いになるように、シチュエーションとかも少しずつ変えています。佐藤さん的には、ここのこのキャラクターが戦って、これくらのところでこのキャラクターが戦って、最後にはこのキャラクターが戦って……というイメージができていたようです。

――アクションシーンはどんなふうにしてできあがったのですか?

水島 アクションシーンは、じつは絵コンテは作っていないんです。アクション監督を立てて、実際に役者さんに動いてもらったものを毛利さんが撮影して動画でコンテを作りました。その動画のコンテがムチャクチャ評判がよくて!

毛利 時代劇の殺陣ってあるじゃないですか。あんな感じでここをこういうふうにして切り替えて……というのをアクション監督に考えてもらって、ある程度のバトルの流れを作るんですね。それで、映像化を前提にして撮影しました。いわゆるVコンテですね。その動画のコンテに即して、CGを作るんです。

――アクションはゲーム中の『鉄拳』の動きに即したものになっているのですか?

毛利 さすがに全部は無理なのですが、要所々々に『鉄拳』の技を挟み込んでもらって、流れを構築していきました。

水島 アクション監督さんも『鉄拳』キャラの技の動きとかをよく研究されたようなんです。そのうえで、たとえば、アリサはロボットなので、感情を殺したアクションになるように気をつけるなど、キャラごとにどういうアクションにするかを考えて、モーションキャプチャーを撮っているんです。そういう意味でも、ゲームを遊んでいらっしゃる方にも、キャラクターの動きはあまり違和感のないものに実現できていると思います。

――ちなみに、動画のコンテはどれくらい撮影して、最終的にどれくらいカットしたのですか?

毛利 最初のニーナ対アンナ戦は3分の2くらいは落ちていますね。そのほかの戦いも3分の1ずつくらいは削ったかなあ。

――とはいえ、アクションにもストーリー性があるわけで、途中で切るのはたいへんなのではないですか?

毛利 その通りです。すごく難しいですよ。技のつながりもあるし、どちらか一方がやられっぱなしにしないようにしないといけない。そのへんは、最初にVコンテを作るときもすごく気にして、誰かが活躍しすぎないようにというバランスを取っていたんです。それをカットしないといけないのはたいへんです。

――映画では、そのへんの試行錯誤ぶりも楽しみどころかもしれないですね。会心のバトルは?

毛利 みんないいですよ。どれも目指しているバトル感が違うので。

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水島 しかも、それをぜひ3Dで楽しんでいただきたいです。僕はこの前初めて3Dの試写を観させていただいたのですが、想像以上にアクションパートがよかったです。アクションだと、キャラクターがカメラに対してすごく大きく映ってくるんですよ。3Dって、引きの絵だとあまりおもしろくなくて、目の前に対象があったほうが、より立体感が強くなりますよね。そういった意味では、格闘アクションは3D向きで、すごく実在感がある。すぐそこでキャラクターが戦っているという臨場感があるんです。

――3Dの演出でこだわったのはどのような点になりますか?

毛利 3Dの表現方法って、だいたい2種類あるんです。奥行き感を持たせるのと、オブジェクト感を出すのと。当初『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』では、オブジェクト感を出す方向をメインで考えていたのですが、それだと目に負担がかかるんですね。なおかつ、3Dは縦、手前奥の動きに関してはとくに問題ないのですが、横の早い水平移動は苦手だったりするんです。それと、3D眼鏡をかけると輝度が下がるため、暗くし過ぎると、何をしているかよくわからないことになってしまう。そのへんには気を使いました。あとは、カットとカットのつなぎです。たとえば、前のカットでは奥行きがものすごかったのに、つぎのカットだとキャラが飛び出るような感じになると、映画を観ている人が一気に視点を変えないといけなくて、目が疲れてしまう。それは3D酔いにもつながります。

水島 人間って、視点を合わせる位置が変わらないほうが目は疲れないんですよね。前のシーンでは遠くにピントを合わせていたのに、つぎのカットではものすごく近くにピントを合わせないといけないとなると、目にものすごく負担がかかる。ちゃんと3Dのことをわかっている人だったら、いきなり最奥から最前にピントを飛ばすのではなくて、中間にピントを合わせるカットを、一旦あいだに挟むんです。そうすると段階的にピントを合わせていけるので、脳の負担が減る。そういう、目が疲れないための3D独特の演出というのがあるんです。まあ、どうしたって3Dだと目に負担はかかるんですけどね。

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●キャラクターに生命を吹き込んだ

――さて、では音楽のお話を伺います。崎元さんが本作の映画を担当されたきっかけは?

水島 『鉄拳6』にシナリオキャンペーンモードというのがあるのですが、そのオープニングムービーの音楽を崎元さんにお願いしていたんですね。『鉄拳6』のシナリオキャンペーンモードのオープニングムービーは、それまでの『鉄拳』シリーズのように、キャラがたくさん出てきて、音楽でテンポよく見せて……というプロモーションムービー的なものではなくて、映画のワンシーンを4分間切り抜いたような内容になっているんですね。『鉄拳』では初めてそういうムービーを作ったのですが、それが社内的にもユーザーの皆さんにも評判がよかったんです。「このメンバーなら劇場用映画を作れるんじゃないか?」というのが、本作の企画の大きな発端になっているわけですが、なら音楽も崎元さんにお願いするしかないと思いました。

――崎元さんというと、どうしてもRPGという印象が強いのですが……。

水島 そうですね。『鉄拳』のステージ音楽って、デジタルロックで激しいものが多いんです。当時シナリオキャンペーンモードのオープニングムービーを制作するにあたり、崎元さんに音楽をつけてもらえれば、スケール感のある、物語性が際立つような映像が実現できるのでは……ということでお願いしたんです。で、いざできあがったものを観たときに、音楽の力による『鉄拳』の新しい見えかたに僕たちが驚かされた。映画も崎元さんで……というのは必然の流れでしたね。

――崎元さんは、どのような感じで『鉄拳』の音楽を作り上げたのですか?

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崎元 僕はそもそもゲームのすごいファンで、相当やり込んでいるのですが、自分がすごく好きな作品に仕事で関わるというのは、なかなか微妙な気分でした(笑)。うれしいけれど、非常にプレッシャーもある。ほかの人が作ったすばらしい作品に自分が関わることで汚すことにならないだろうか……という気分になることもあります。もちろん、お話をいただいたときは、とてもうれしかったです。

――さらに今回映画版の話が来て、プレッシャーも相当だった?

崎元 はい。私は、映画音楽を担当するのは今回が初めてなんです。大好きな『鉄拳』ということもあり、初めての映画音楽ということもあり、まさに二重苦、三重苦でした(笑)。

――映画音楽のノウハウ自体もいちから作り上げないといけなかった?

崎元 そうなんです。音楽の果たすべき役割として、どこまで補佐をして、どこまで出っ張っていっていいのか……というのは、アニメや実写によってそれぞれ違う。CGの作品に関してはゲームでも経験していたのである程度は自信があるつもりでしたが、じつはかなり監督に助けていただきまして(笑)。

――あら! それはどういうことですか?

崎元 基本的にCGの作品というのは、粗い感じではありますが、ある程度シーンを組み上げてから、それに対して「このシーンに音楽を入れてください」という形で音楽を発注するらしいんですね。どのシーンにどんな音をあてるかは、秒単位で決まっている。それに対して私たちは、0.1秒単位以下くらいで音を合わせて作るんです。そこであるシーンに音付けをしていたら、監督さんが「5秒くらいずらしてみようか」っておっしゃるんです。で、ずらしてみると、そっちのほうが断然いいんですよ。

毛利 僕は単純に感覚で言っているだけなんです。

崎元 それを見て、正直僕はショックを受けつつ監督の判断は正しいなと思ったんです。とは言うものの、そのあとで一生懸命考えて、「ここはこうなんだろうな」と試行錯誤して学びながらやっていったところはあります。「これがもっとも重要なんだろう」ということを、監督さんの指示から一生懸命学びながら作り上げていった感じですね。

――音楽を作るにあたって、監督さんからどのような要望があったのですか?

崎元 まずは、「ハリウッドっぽくしてほしい」というのがありました。そのつぎは、これがいちばん重要だと思うのですが、「ドタバタしたアクションがふんだんにあって、スケールの大きな映画ですが、基本はシャオとアリサの友情物語です。それを軸にしたい」っておっしゃたんです。それがいちばん大きなオーダーだったんじゃないかな。そこでシャオとアリサのテーマは最初に作りました。ふたりのテーマ曲は、最初は少しずつ出てくるのですが、最後にちゃんと合わさって1曲になる感じにしているんです。ふたりのテーマ曲は、いろいろなところにちょこちょこ出てきますよ。

――今回は何曲くらい担当されたのですか?

崎元 43曲です。分数にすると60分くらいかな。

水島 90分の映画で60分って、ほとんど音楽をつけているってことですね(笑)。

――なかでも、「この曲は会心のデキだ!」というのは?

崎元 どうでしょう。でも、やっぱり絵を見ていちばんうれしかったのは、アリサの攻撃シーンかなあ。

水島 ああ! 僕は試写を観るたびに、毎回あそこで泣きますから(笑)。

崎元 あそこですよね、いちばん重要なポイントは。

――アリサ攻撃の何たるかは、映画をきちんと観てのお楽しみということで(笑)。ちなみに、ご自身の音楽にあわせて映画をご覧になったときはどうでした?

崎元 映像に関しては、音楽を作っている過程で最初から最後まで全部観ているようなものなのですが、これがすごく不思議なもので、通しで観ると「こういうことだったのか」という発見がありました。割と僕は新鮮に観られましたね(笑)。

――この音楽いいじゃん!とか?

崎元 そうありたいですね。僕は作り手なので、意識して音楽を聴いてしまうのですが、やっぱりいい作品というのは、音楽をあまり意識させないものなのかもしれないです。話にのめり込めるような。「シャオは本当にいいやつだな」と思えてもらえれば、本望かも。

――では、自分の音楽は映像によって活かされているなと思います?

崎元 もちろんです。

水島 それは確実にそうだと思います。僕はずっと制作に関わっていて、いろいろな段階で映像を観ているんですね。プロの声優さんの声が乗ったときもかなり印象がよくなったのですが、いちばんかわったのが、崎元さんの音楽が乗ったとき。崎元さんの音楽が乗ったのを観たら、いままでの映像とぜんぜん違って観えたんです。

崎元 音楽をすごく丁寧に扱っていただけましたし、制作者の皆様の愛に支えていただいたような感じです。

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――では、皆さんに『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』の見どころを教えてください。

毛利 もちろん、『鉄拳』なのでアクションになると思いますが、それ以外のドラマの部分も観てほしいです。シナリオがいいので、映画としての骨格がしっかりしているんです。そのうえで、キャラクターの魅力です。この手の映画って、キャラに魅力がないとダメなわけですが、いかにキャラに生命を吹きこむか、いかにキャラの感情の揺らぎが観ている人に伝わるか……というのをメインに考えていました。どんなに絵がかっこよくても、「このキャラはどんなことを思っているんだろう?」という感情線的なつながりがないと、作品としてダメになってしまうと思うんですね。そういった意味でも、なるべくキャラの生命が伝わるような作品にしたかった。

――表情に力を入れた……みたいなこともありますか?

毛利 はい。やっぱりちょっとリアルめのキャラって扱うのが難しいんですよ。ある程度デフォルメされたキャラだと、デフォルメされた表情で、感情を表現できる。ピクサーの映画を観ていただければ、それはわかると思います。リアルなCGは、そこがいちばん苦手なところです。実写は情報量が膨大にあるので、ちょっとした目の動きや表情の揺らめきで感情が伝わる。でも、リアルなCGだとちょっと遠慮してぼかしてしまうと、「これは怒っているのかな? それとも泣いているのかな?」ということになってしまう。そういうところがストレートに伝わらなくなってしまうので、なるべく伝わるような絵の作りかたをしています。表情だけできびしかったら、体全体の芝居で補うし、それでもきびしかったら、シーン全体の雰囲気で補うし……と、感情を伝えるための絵の作りかたはとても気にしていました。とはいえ、僕が思うに、絵の情報量と動きの情報量が同等か、あるいは動きの情報量がちょっと勝っていないとキャラクターは活き活きと見えないと思うんです。そんなことを考えながら作っているので、「この手のフルCG作品にしてはよく動いているよね」とか、「キャラに感情移入できた」みたいなことを感じてもらえるのがいちばんうれしいです。

崎元 たしかに、シャオとアリサのかわいさは、本作の見どころのひとつですね。通常リアルめのCG映画だと、そこまで感情移入して観られないので、ちょっと冷たい感じがあったりするのですが、この作品ではそれが本当にふつうの人として観られる。仕草や表情が自然で、そこがすごくいいです。そのへんはすごく好きですね。

毛利 フルCGというのは、どうしてもそういうところを避ける傾向がありますね。ツンとした女の子は絵になるのですが、いざ表情をつけるとなると一気に崩れてしまう。なかなかやりづらいところではあるのですが、そのへんは取り組みかた次第のところはあります。今回「表情はごまかさない!」という強い意志のもとに取り組んでいます。

水島 日本で作られる長編のフルCG映画ってそんなにないと思うんです。なおかつ『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』は、リアルな絵作りで、しかも3D。僕ら的にもチャレンジングなタイトルです。毛利さんや崎元さんを始め、すごい才能を持った日本のクリエイターが参加して、ものすごく高い目標を持って、しっかりとやり切れたというのが見えている。そういった作品を、皆さんにぜひ観ていただきたいと思っています。

――最後に伺いますが、みなさんにとって、ずばり『鉄拳』とは?

毛利 思い出深い作品です。僕らも『鉄拳5』から『鉄拳』シリーズに関わるようになって6、7年経ちます。僕が手がけた3DCGの中でも自慢できる作品です。『鉄拳』=格闘のイメージですけど、じつはギャグやドラマの要素もたくさんあって、それがよかったりするんですよね。ちょっとおかしなことをやっても許されるとういうか、スカしてない感じは『鉄拳』の魅力のひとつだと思います。だから、今回みんなと劇場版が作れるのはうれしいことですね。

崎元 もっとも『鉄拳』で遊んでいた時期は、それこそマニピュレート(※)の方針を『鉄拳』の勝負で決めたことがあるくらい私の中では大きな存在でしたので、そのぶんプレッシャーも大きかったですが、今回そんな思い入れ深い作品の映画に関われて幸せです。

※マニピュレート:シンセサイザーやPCを駆使して、音を打ち込んでいく作業のこと。

水島 僕にとって『鉄拳』とは“汗”です(笑)。僕はバンダイナムコゲームスに入社してから、必ず何らかの形で『鉄拳』シリーズに関わってきたんですよ。もちろん、ほかのタイトルもやっていますが。『鉄拳』に関して言えば、とにかく汗をかかずにはいられない仕事です。楽をしてやってこられたという印象がない。毎回、つねに新しいチャレンジに取り組んでいるからたいへんなんだと思うんです。楽をして作ろうと思っていない。そういう意味では、じつは今回いままでの中でマックスにしんどいんですけどね(笑)。

――あら、そんなに?

水島 だって、プロデューサー業も初めてなら、長編の映画を作るのも初めて。かつそれを全世界に向けて上映することも初めてですから。さらに言えば、『鉄拳 ハイブリッド』という形で、ゲームと映像のパッケージを展開するのも初めて。3Dもそうですね。とにかく初めて尽くしで、しんどいです。自分で道を引いて行かないといけないから。まあ、それがおもしろくもあるんですけどね。『鉄拳』はそんな作品です。

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[参考記事]
※フル3DCGアニメ『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』は、『鉄拳』世代のそうそうたるクリエイターが制作
※『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』のヒミツをプロジェクトディレクターの原田氏に直撃
※『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』サウンドトラックが発売決定

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