『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』のヒミツをプロジェクトディレクターの原田氏に直撃【Level Up Dubai 2011】

インタビュー アニメ ゲーム
先日ドバイで行われた発表会で明らかになった劇場用CGアニメ『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』について、『鉄拳』プロジェクトディレクターの原田勝弘氏に聞いた。サービス精神旺盛な原田氏のこと、初お披露目となるエピソードも飛び出した。

●僕らが提供した『鉄拳』という素材をがっつりと料理してもらう

 2011年5月11日〜13日(現地時間)の3日間、中東の都市ドバイにて行われたバンダイナムコゲームスによるプライベートイベント“Level Up Dubai 2011”で発表された、『鉄拳』シリーズ初のフル3DCGアニメーション『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』。監督・毛利陽一氏、脚本・佐藤大氏、絵コンテ・樋口真嗣氏、制作デジタル・フロンティアという、そうそうたるメンバーが集結しての陣容に期待が集まるが、イベントの最終日に『鉄拳』プロジェクトディレクターの原田勝弘氏にお話をうかがう機会があった。改めて、原田氏に『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』について聞いてみた。

※フル3DCGアニメ『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』は、『鉄拳』世代のそうそうたるクリエイターが制作

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――フル3DCGアニメ『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』の発表を受けてのファンの方の反響はいかがですか?
原田 僕自身ちょっと驚いているというか、予想外でした。というのも、じつはもう少し否定的な声を想定していたんですね。いまFacebookに120万人くらい『鉄拳』の会員さんがいて、僕のTwitterも12000人くらいフォローさんがいます。そのへんが比較的コアな『鉄拳』ファンだと思うのですが、彼らの意見を見てみると、ほぼ99%が狂喜乱舞しているんですよ。あまりにも喜んでいるので、むしろすごいプレッシャーになってしまって(笑)。気質的に、アジアの人間って比較的逆境でこそがんばれるみたいな部分があるじゃないですか。期待されていないほうがパフォーマンスを発揮できる民族。それでこの期待ぶりに僕はびっくりしてしまって(笑)。日本に帰ったら、毛利監督と脚本の佐藤さん、デジタル・フロンティアの皆さんに「期待すごいですよ!」と伝えようと思っています。それでお互いにプレッシャーを分散しようかなと(笑)。

――先日のプレゼンでは、脚本家の佐藤さんや樋口さんとの関わりをお話しいただきましたが、制作会社にデジタル・フロンティアを選んだ経緯は?
原田 いちばん大きいのは、『鉄拳5』と『鉄拳6』でデジタル・フロンティアさんとはお付き合いがあったことですね。業務用のオープニングムービーであったり、シナリオキャンペーンのオープニングムービーをお願いしたりしていて、デジタル・フロンティアさんとは6年くらい前からお付き合いがありました。『鉄拳』のことをよく理解しているんですね。もともと『鉄拳』が好きな人たちが揃っていて、『鉄拳』の仕事もしている。僕らとの交流も積極的に行われていて、僕たちはデジタル・フロンティアを『鉄拳』チームのようなものだと捉えているんです。そこで、デジタル・フロンティアがいちばんやりやすいかな……と判断しました。

――デジタル・フロンティアと言えば、同じくCG映画の『バイオハザード ディジェネレーション』(2008年)も発売されましたが……。
原田 そうなんです。たしか160万本くらいのセールスを記録したそうなのですが、ゲームの延長線上にある作品がそれだけのニーズがあるというのは、勇気づけられる事例だったなと思います。

――では、『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』では、どれくらいを目標に?
原田 じつは考えてないんです。と言いますのも、『ファイナルファンタジー』だったり『バイオハザード』だったりと、過去にCG映画化された作品は、もともとが世界観およびストーリーにスポットライトがあたっているゲームだと僕は思っていて、映像そのものがゲームそのものと言ってもいいくらいのコンテンツです。一方で、『鉄拳』というのはプレイするところにフォーカスのおかれたゲームで、アクション性を求めて対戦を楽しむというところに重点がある。ストーリーや世界観を楽しむ作品と比べると、どうしてもCG映画との親和性が低いんです。そういった意味では『鉄拳』のCG映画というのは僕らにとってチャレンジなので、じつは最初は本数とかはあまり意識せずにスタートしているんです。『鉄拳』のゲーム本編はシリーズで4000万本以上売れていて、毎タイトル400〜500万本が売れる市場が全世界にあるんですが、これが映画となるとまったく読めない。とにかく、そこからスタートして、既存の『鉄拳』ファンがさらに『鉄拳』の世界観に深く触れたり、逆に『鉄拳』を知らなかったユーザーが、少しでも興味を持ってくれるきっかけになってくれれば……と思っています。目標販売本数を設定していないので、いまだに「何本なんだ、これ?」という話をしています(笑)。ただひとつ言えるのは、同じ映像コンテンツにしても少しずつおもしろい仕掛けをしていこうということ。トータルで喜んでもらえるようにしたいと思っています。無理に「とにかく映画を観て!」というよりは、おもしろい形で『鉄拳』ファンやそれ以外の方に楽しんでもらえるようにしたいです。

――なにやら謎めいていますね(笑)。具体的なアナウンスはやはりE3で?
原田 そうですね。そのへんもいま悩んでいる段階ではないのですが(笑)、いっぱいアイデアがあって、どうしようかなと思っているんです。僕らがやるときは、たいがい「仕掛けはひとつじゃ嫌だ」というところがあって、「複数ほしい」という話になってしまう。そういった意味では、たぶん今後いくつか発表するタイミングがあると思うんですよ。E3はそのひとつめになるのかなと想定しています。ちゃんとそこで、ひとつは言えたらいいなと思っています。

――となると、E3、コミコンあたりに注目したほうがいいと?
原田 そうですね。E3、コミコンあたりでなんとかちゃんと言わないと思っています。本当は、E3か、ここ(ドバイ)で言うかしたいくらいなのですが、本当に決まっていないんです。ただ、仕掛けとしては考えています。と……ギリギリトークをしてしまいました(笑)。

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――声優に関してですが、ゲームと同じ声優さんが起用される?
原田 まずは基本的なアナウンスで言うと、『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』には日本語版と英語版を入れようと思っています。パッケージも切り替えています。日本語版の場合は、できるだけ日本語の声優でゲームをやっていらっしゃる方を全部合わせようと思っています。今秋アーケードで稼働予定の『鉄拳 タッグトーナメント2』では、シャオユウの声優さんが冬馬由美さんから坂本真綾さんに変わっているのですが、映画版もそれに合わせています。
 ここもぶっちゃけてお話しますが、『鉄拳』の声優さん事情というのがあるんですね。一例としてはアンナ。ゲームではアンナはもともと海外の声優さんしかいないので、そこは新しく声優さんをあてさせていただくことになります。逆もしかりで、英語版では海外の声優さんを使おうとしているのですが、一八の海外声優さんはいない。そこは似た声優さんをあてるということが発生しますね。
 加えてもう1歩踏み込むと、いままで黙っていたのですが、『鉄拳』ってひとりのキャラにひとりの声優さんというわけじゃないんですね。『鉄拳』って、地域ごとに声優さんを分けているわけではなくて、世界中のファンが同じ声を聞いているのですが、たとえばブライアンの掛け声は日本人の方で、英語でたまたましゃべらないといけないときは海外の声優さんが……という感じでやっているんです。そのため、最大3人の声優さんが混じっているキャラがいるんです。海外の声優さんは掛け声ができなかったりするんですね。いつも『鉄拳』でキャラクターボイスを発表しないのは、じつはそういう事情があったりするんです。違和感なく聞こえているとは思うのですが。

――プレスカンファレンスで、「制作陣の方に自由にお任せした」と発言していましたが、方向性のハンドリングなどもしなかった?
原田 『鉄拳』の世界観として、ファンが望む要素としては「こういうものは入っていたほうがいいだろう」というのはあるじゃないですか。そのへんに関しては私たちも言ったりすることはあるのですが、基本はお任せしていました。我々でも3〜5分の短いトレーラーを作るのはなんとかできるのですが、それと90分の構成でお話を見せるというのはぜんぜん違う。プロの方の話を聞いていると、「あ、そうなんだ!」と僕らが逆に教えてもらうところが多くて、そういった意味では僕たちも映像のプロの方のやりかたやに対してブレーキ役になったり、アイデアをシュリンクさせるようなことがあってはならないと思っています。「自由にやってもらっている」というのはそういう意味においてですね。

――ましてや佐藤さんも樋口さんも『鉄拳』世代なので、まさに『鉄拳』の世界観にフィットしたものができあがってきたと?
原田 そうですね。『鉄拳』の世界観をかなり理解してくださっているであろうという前提のもとにお願いしたのですが、最初の打ち合わせのときにとても情熱的だったので、「これだけのモチベーションを持っていただいているのだったら大丈夫だろう」と安心してお任せしました。僕らは『鉄拳』という素材をきっちりとわかりやすく提供して、彼らにそれをがっつりと料理してもらおうというスタンスでしたね。

――できあがったものは、佐藤さんや樋口さんらしいものだった?
原田 はい! あまり詳しく言っちゃうと内容に触れてしまうのですが(笑)、オフィシャルには絶対にあり得ないようなセリフだったり、シーンというのはけっこうありました。いい意味で『鉄拳』の世界観を広げてくれているんですね。僕らが考えるセリフなんて、「ここで死ね」とか「殺す」くらいしか思い浮かばない(笑)。あるいは、「佐藤さん、ここはなんでこんなシーンが必要なんですか? わからないのですが……」と聞くと、「ここは伏線になってつながっているんです」と言われて、ちゃんと伏線を置く人なんだなっていうのがわかる。どうやら、2回、3回と観ても気づきがあるようなことも考えているみたいなんですね。

――何回でも観られるように?
原田 まあ、観る回数もある程度限界はあるとは思うのですが(笑)、「このセリフにはこういう意味があるんだ」ということが、ある程度観ているとわかる。伏線にしても、伏線になっていなくて投げっぱなしになっているじゃないですか。だいたいわかると思うのですが……(笑)。彼らはそれをしない。「ちゃんとここのセリフの伏線はここにあるんですよ」、というのをしっかりとやっているので、正直そこは勉強になります。まあ、勉強したところで、僕は映画監督にはなれないと思いますけど(笑)。

――プレスカンファレンスでは、「自分だったら、40人全員出しかねない」みたいなこともおっしゃっていましたものね。
原田 ファンの方も「おまえバカじゃないのか?」と思われるかもしれないのですが、作り手ってそういう発想なんですよ。ふだんからファンの方に「いっぱいキャラを入れろ」、「とにかく入れろ」と言われているので、なんとかしなくっちゃって思ってしまうんです。「これを入れないとファンが怒るんですよ!」という発想ですね。

――となると、『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』では、「このキャラが出なくてさびしい」という思いはなかったのですか?
原田 もちろん、ありますよね。それはありますよ。「これは出して欲しかった」というのはおそらくファンといっしょの心境です。けど、「原田さん、それを言い出したらなんだか、わからないですよ」って言われました(笑)。僕だったら、最後に何だかわけわからないけど、記念撮影で全員並んで「どうですかね?」とかやりかねない(笑)。「それをやりたいのであれば、それはゲームのほうでやるべきじゃないですか?」という話になりました。その通りです。打ち合わせの初期はそんな話ばかりでしたね。「そうか、俺わかってないな」と思いました。そういう意味だと、たとえばKONAMIの小島監督さんとか他社さんで物語性を重視した長編ゲームを作っている方は凄いことをやっているなあ、と改めて思いますね。ふだん僕はゲームの人体制御だとか駆け引きのコアシステムだとかアクション操作ばかりにフォーカスしている人間なので余計そう感じるんですよね。

――でも、今後は『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』で勉強して、物語性のあるゲームを作れる?
原田 これは言い切りますけど、僕が作ったらとんでもないことになりますよ。『鉄拳』のストーリーを見ても、「なんだこれ、頭がおかしいんじゃない?」と、みんな言っているじゃないですか(笑)。でも、なんでそんな設定になったかというと、ファミ通さんとかいろいろなメディアのせいでもあるんですよ。

――ええ、ほんとですか!?
原田 これは皆さんのせいにするわけではないのですが、『鉄拳』ってまずアーケードでゲームを出すじゃないですか。アーケードって、まずはプレイの部分や格闘としてもおもしろさを仕組みとして突き詰めていくので、ストーリーはそのあとの段階になるんです。で、取材に臨むと、たとえばブライアンだと「このキャラってどういうキャラですか? 何か顔色が悪いですが……」と聞かれると、設定なんて考えてないから、「やべえ」と思って、「じつは1回死んでいるんです。ゾンビみたいなものです」って、その場で言ってしまう。

――あはは。その場の思いつきですか?
原田 メディアの人に「おもしろそうですね」って言われて、引き下がれなくなってしまい、開発現場に戻って「ゾンビとか言っちゃったから、背中に手術のあとをテクスチャーで付けて!」ってお願いしたり(笑)。そんな感じでできあがった設定っていっぱいあるんです。取材などで苦し紛れに適当に話したことを公式化したというのは、じつは7割くらいのキャラでありますね。

――あら。お時間が来たようなので、最後に『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』を楽しみにしている日本のファンの方にひと言お願いします。
原田 今回、初の試みということで、どうなるかということは、僕たちもドキドキしながらやっています。監督の毛利さんを筆頭に、脚本の佐藤さんや絵コンテの樋口さんなど、『鉄拳』ファン以外でも楽しめるように……というところを目標にして映画を制作しています。ちょっとでも興味を持っていただいた方は、これからも情報をいろいろと出していきます。映画以外のことも仕掛けようと思っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。

 サービス精神旺盛な原田さんのこと、インタビューでは現時点でお話しいただける『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』に関するいろいろなことを聞くことができた。さまざまな仕掛けを考えているとのことで、どのような展開を見せるか楽しみだ。『鉄拳 BLOOD VENGEANCE』は、2011年夏に北米にてプレミア公開され、日本国内では2011年9月3日(土)より新宿バルト9ほか全国主要都市の映画館にて公開予定だ。

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