『紅の砂漠』難しくて、操作は複雑で、だから引き込まれる。スタイリッシュさより泥くささを選んだ大作オープンワールドアドベンチャーの表現方法【TGS2025】
 東京ゲームショウ2025の『紅の砂漠』はストイックだった。物語の舞台であるファイウェル大陸を模したブースには重厚感があり、入口のゲートをくぐると、そこには100台ほどの試遊機が並んでいる。
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圧巻。
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 僕らメディアは過去に取材させてもらったことがあり、8月にはドイツのgamescomで試遊展示されているものの、日本での一般公開は今回が初めて。満を持してのお披露目だ。華々しく飾ってもよさそうなのに、開発元Pearl Abyssの意思はまっすぐだった。

 4日間の会期中、試遊に(ほぼ)一点突破。有名人を招いたステージイベントなし。楽しいバラエティー企画なし。“ほぼ”と書いたのはコスプレモデルの撮影タイムはあったからだ。とはいえ、水着でもレオタードでもかわいさ全振り衣装でもなく、メインの被写体はごりごりの鎧とトゲトゲ付きメイスを装備した男性である。

 おもしろさを伝えるために奇をてらう必要はない。そう判断したのだろう。ゲーマーのみなさん、私たちの自信作をどうぞ。『紅の砂漠』はじっとこちらの目を見つめてくる。
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 オープンワールドで生きるアクションアドベンチャー『紅の砂漠』。はっきり言って難しいゲームだ。動作の種類は多く操作が複雑。ゲームパッドのあらゆるボタンを使うので指が忙しい。

 通常攻撃に強攻撃、回転切り、旋風斬、掴み、突き、防御、ダッシュからのラリアット、矢を弓につがえて敵を狙う、剣に光を反射させて目くらまし、巨大な柱を持ち上げてぶん殴る……。「初心者にも気軽に遊んでほしいから」と使うボタンを絞るゲームとは真逆の方向に舵を切っている。

 難しいということはソウルライクか。それもまた違う。ひりひりとした緊張感はそこまで感じない気がする。開発元Pearl Abyssの代表作『
黒い砂漠』は流れるような戦闘が特徴のMMORPGだ。ここで培ったアクションの造詣を下敷きに、ほんの少しだけ足した現実感が隠し味。ゲームキャラの動きは得てして軽快なものだが、『紅の砂漠』の戦闘にはどこか“重さ”があり、いつしかないはずのリアルを生み出す。
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僕はアクションゲームが苦手なのに複雑な操作はけっこう好き。忙しく指を動かすとうまくなったようで気分がいいから。
 ゲームは“やりたいことをやれる”のがいいとされる。世界を救いたい。現実の自分とは違うスーパーヒーローになりたい。必殺技でド派手に敵を倒したい。たしかに気持ちいいだろう。そういうゲームが人気なのもわかる。

 でも『紅の砂漠』は違う(僕の主観とはいえ断言していいか迷うけど)。そうじゃない部分に鈍色の輝きがあるように思う。

 必死に戦う自分が主人公クリフに重なる。彼には剣のひと振りで敵を一掃する力はない。常識外れの魔法でピンチを打開することもできない。数人の雑兵に囲まれるだけで死がちらつく。それでも命を諦めずに泥くさく戦い抜く。

 たとえるなら
『ゴールデンカムイ』の杉元佐一だろうか。強いけど絶対的ではなく、傷を負いながらも鬼神のような気迫で死地を切り抜ける。そういう生命力に憧れる僕にとって、『紅の砂漠』は間違いなく“やりたいことをやれるゲーム”だった。
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爽快感よりも窮地を脱したときの達成感。そういう意味ではソウルライクとも共通点がある。
 ゲームの本質はストレスのかけ方にあるという。ちょうどいい障害を乗り越えたときのカタルシスがおもしろさの正体だ。『紅の砂漠』はぎりぎりを攻めている。戦闘の難度もそうだが、ちょっとした動作ですら簡単にはやらせない。

 たとえば、味方の士気を上げるために旗を掲げるシーン。倒れている旗と土台の順にインタラクトすれば済む話である。それなのに、わざわざ“力を溜める(旗はすごく重いので)→旗を持ち上げる→慎重に土台に近づく→土台の穴に照準を合わせる→旗を下ろす”と、何段階も手順を踏ませる。

 何でも楽にできるわけではない演出で没入感は飛躍的に高まる(実際、取材時に一度失敗している)。あなたがクリフを操作しているのだから、適当に流さずにしっかりとゲームパッドを握ってください。そんなメッセージを感じ取ってしまった。
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ここで敵に邪魔されるような設計だったらストレスだけど、そんなことはないので大丈夫。
 僕はアクションゲームが苦手。全体的なレビューはゲームのうまいライターにお願いしたが、少し時間がかかるとのことなので、つなぎとしてこのエッセイを書いた。

 東京ゲームショウ2025では『紅の砂漠』を50分も遊べる。こんなにがっつり遊べる試遊版を用意したのも自信の表れだろう。場所はホール6の06-S01。その自信を受け止めに行こう。
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取材用の別室にて。

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